転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 十一話です。

 


十一話 ニャンコロとワンコロ

 

 

 モモカとカヤが転生して、五百年が過ぎていた。

 

 

 

 草原を駆ける一匹の……いや一人の猫神族の娘がいる。

 

 風を裂き砂塵を巻き上げる、そのスピードは音速を超えており、駆け抜けたあとには盛大な重い音と共に、衝撃波を残していく。

 

 駆けていくのはカヤであり、その目指す先には犬神の兵集団三百程がおり、その集団を見つけるや否や、ポンと百メートルほどジャンプして、重力操作で足に重力の力場を作り蹴ると、そのまま集団の真ん中に高速で落下していった。

 

 凄まじい衝撃音と共に、隕石が落ちたような浅いクレーターを作り、土小石が降り注ぐ中にカヤが降り立つ。

 

「くそが! ニャンコロ風情が、来やがったか!」

 

 犬神の隊長が叫ぶ。

 

「よお~ ワンコロ共、喧嘩売りに来たの?」

 

 にか~っと笑いながらカヤが答える。

 

「防御ーー!」

 

 隊長は部下達に、防御結界を張るように命令を出す。

 

「遅い、鳴れ! (つば)鳴り・剣紋紅月(ケンモン コウゲツ)

 

 ヒュンと一回抜刀し、少し腰を落とし気味でスーっと鞘を前に出しつつ刃を滑らせ鞘に納める時に、甲高い鍔鳴りの音を響かせた。

 

 カヤを中心に円形状に斬撃の波紋が広がり、防御結界ごと斬り裂いていき、斬り裂かれた兵達の悲鳴が辺りに響き渡り、のた打ち回る犬神の兵、百数十人。

 

「おのれー! 魔法隊! 雷撃、及び炎撃、放てい!」

 

 隊長の命令に、魔法攻撃がカヤを襲い荒れ狂う激しい稲妻の光の束が、カヤに直撃し超高温の火球がカヤを包む。

 

 辺りの土は溶けガラス状になり、空気中の水分は蒸発し、水蒸気の煙を形成した。

 

「ふふん。流石にこれだけの魔法攻撃を喰らえば、只では済むまい! うはははは」

 

 犬神兵達の隊長は、にまーっと笑みを浮かべる。

 

 辺りを覆っていた水蒸気の煙が晴れると、その中にポリポリと右人差し指で頬を搔いてるカヤが、何事もなく立っていた。

 

 

「な! ばかな……あれだけの魔法攻撃でも、傷一つ付かないのか……」

 

 無傷のカヤに犬神の隊長は、絶句する。

 

 カヤの周りには、四方を囲むように呪符(じゅふ)が展開しており、その一枚一枚が多重結界を発動させていた。

 

「くそ、怪しい札使いが来ていたか……どこだ!」

 

 隊長は声を荒げ魔力感知で辺りを探ったが、どこにも気配すら感知できずにいて、忙しなく首をキョロキョロと動かしていた。

 

 不意に後ろから、気配を感じ慌てて振り向くと、空間が揺らぎながらその姿を現す。

 

「フフフ、お犬さん達お元気?」

 

 〝認識阻害〟の呪符を解除し、スーっと右人差し指と中指に挟んだ呪符を、犬神兵隊長の首筋に当て、少し威圧感を含めた笑みを浮かべる。

 

 

「どうします? 兵を引きますか? それとも徹底抗戦なさいます、か?」

 

 優しく言葉を投げかけているが、そこには微塵もの情けは感じない。

 やるなら皆殺しになりますよと、暗にその意味を匂わせていた。

 

「隊長から離れろ!」部下の一人が叫び その様子を見ていた部下数人が、モモカに飛び掛かっていく。

 

 モモカは左手で呪符を三枚自分の後ろに飛ばし、指をパチンと鳴らし言霊(ことだま)を呟く。

 

「爆ぜろ。爆・黒炎花(こくえんか)」ゴウッと音立て三つの黒い花咲くような火球が、向かってきていた数人を飲み込み、瞬時に燃やし尽くした。

 

 

「このバケモンが…… 破滅の炎(ニュークリアフレイム)を範囲限定で使うか……」

 

 犬神の隊長は、苦々しくモモカに言葉を吐く。

 

「あら。同じバケモノのあなたから、その言葉を頂くなんて、ありがとうというべきかしら? フフッ」

 

 軽い笑みで、優しく言葉を返す。

 

「ふん、油断しすぎだ! 死ねくそ猫!」

 

 言うと同時にモモカの周りを積層型魔法陣が、囲い込み隊長は呪文を完成させる。

 

「我が犬神に捧げ給う。我が祈りに答えたまえ。神霊の神通力を解放せしめせ。――消え失せよ! 〝霊子崩壊〟(ディスインテグレ―ション)

 

 光の粒子の嵐が、モモカを包み込む。

 

「フフフ」微笑みを崩さないモモカを、無数の呪符が囲み中心を大呪符そして中呪符、更に普段使う呪符があたかも魚の群れのように、モモカの周りを回りながら展開されていく。

 

 光の嵐が吹き荒れる中、次々と呪符がガラスの割れる音に似た音を響かせ、掻き消えていく――最後に中呪符を砕き割り、大呪符に光の嵐がぶつかり、クォーーンと大きい陶器の壺を、ぶつけ合わせたような音を鳴り響かせた。

 

 犬神兵達は隊長の最強の術に、モモカが消し飛ぶと確信し拳を握り、その様を見ていた。

 

 光の嵐が収まると四枚の大呪符に囲まれたモモカが、相変わらず微笑みながらそこに傷一つなく佇んでいる。

 

「あらあら、中呪符まで砕くなんて、流石ですね犬神兵隊長、ガズンダ殿」

 

 手を前に組み立つその姿に、隊長ガズンダは自分の持つ最強の術が破られ言葉も出ず、部下共々、只々立ち尽くしていた。

 

 それをずっとつまらなさそうに、しゃがんで尻尾をパッサパッサ左右に振りながら見ていたカヤが、思念伝達でモモカに『ねぇ、もう斬っていい?』と聞いてきて、モモカはもう少し我慢ねといい、ガズンダにもう一度問うた。

 

「どうします? まだ、おやりになりますか?」

「お前、その魔法は一体何なんだ? その超高精度な魔力操作は、非常識にも程があるわ!」

「う~ん、そうですね…… 生前使ってた呪符術と言う物を、こちらの(ことわり)に変換して術を行使したということ、でしょうかしらね。フフッ」

 

 事投げにコロコロと、笑みを浮かべながら言う。

 

「とんだ、バケモンだな。お前はよ、この精霊獣界で今までそんなデタラメな術は、見た事も聞いた事もないわ!」

 

 そう言い放つガズンダの前に、一枚の黒い呪符に赤い梵字(ぼんじ)のような文字が書かれた呪符が現れた。

 

 その内包された強大な魔力に目を見開き、指一本さえ動かせなくなり「これは……」と言い押し黙る。

 

 

「そう、それは範囲限定の重力崩壊(グラビティコラプス)ですよ。それと発動は、詠唱などいらないですのでご注意を、息をするように扱うだけですもの」

 

 少し小首を傾げ、事投げに言葉を投げる。 

 

「あなたも、さっさっと面倒な詠唱など破棄しておれば、わたしを殺せたかもよ? まぁ、わたしもさっき言霊を使ったから、あなたのこと言えませんけどねぇ」

 

 ガズンダは歯ぎしりしながら、モモカを睨み拳を握りしめた。

 

「お前ら……この狂乱猫姉妹が!」

「あら? 狂乱猫は主に、カヤの事を言うのですよ?」

「モモカそれ言う? ワンコロ死にたいか? しばらく死んで、また復活再生してくるか?」

「カヤ、もう少し大人しくしててね? これいる?」

「――いらない。わかった、待つから、いい? それ投げないでね!」

 

 ガズンダとのやり取りに割り込んだカヤは、ガズンダの前で明滅してる黒呪符を指して言うモモカに、あんなもの投げられたら敵わんと、すぐ大人しくなる。

 

「わかった……今日の所は兵を引く。お前ら撤退だ!」

 

 その言葉を聞き、モモカは右手をサッと真横に払うと、黒呪符が掻き消えるように消えた。

 

「う~ん、モモカずるい。一人で事を終わらせるなんて、あたしは暇だよ? 暴れ足りないよ? 欲求不満爆発するよ?」

「もう、やりすぎるとこの間の、猪神族みたいに、粘着されるわよ」

「いいじゃん。皆殺しにすれば片が付くよ? どうせしばらくすると、復活再生するんだし」

「だからー! やりすぎは面倒なのよと何回言えばいい? おバカ?」

「バカじゃないよ! 面倒なら一度皆殺しでいいじゃん」

「だから、必要以上に恨みを買うと、後々面倒なのと何回言えば……もう!」

 

 モモカがカヤとのいつものやり取りに切れて、ゲンコツを見舞いウゴ~っと変な声を出し、しゃがみ込むカヤに等々と言い聞かせるモモカである。

 

 モモカが、おはなしをしてる前で腰に下げてる、ひょうたん型の酒蔵君を腰から外しおもむろにクピクピと飲み始める。

 

 ひょうたん型の酒蔵君は五つの酒が貯蔵でき、コンと一つ叩くと一つ目の貯蔵された酒が飲めて、二つ叩くと二つ目が飲め、叩く数で貯蔵された酒が切り替わる。

 

 中は五つの極小の亜空間が固定されており、極小でもかなりの量が貯蔵でき、温度調節もできる優れものであった。

 

 モモカがピキピキと青筋を浮かべながら、カヤに静かに問う。

 

「ねぇ? おいしい? まだおはなし、終わってないのだけども、喧嘩売ってるのかな?」

「うん、おいしい。仕事のあとの一杯は、おいしいよ~」

 

 カヤはもう知らんとばかりに、クピクピ飲んでいた。

 

 見た目は十六歳のままだが、既に五百年以上生きてるカヤであり、モモカも見た目は十七歳で同じである。

 

「んん? この匂い……ちょっとカヤ! 今飲んでるの、わたしのお酒よね? こんガキゃああああああ」

「――え? あぎゃぁぁぁぁ」

 

 モモカが、自分のキープしていた酒を飲まれて、ゲンコツ制裁を放つ、ズゴンと凄まじい音がし、カヤは酒蔵君を右手に掴んだまま地面にめり込んだ。

 

 ぴくぴくと痙攣していた所を、モモカに酒蔵君を取られて、がえせ~と呻いていた。

 

「返せも何も、これ一つしかないから、二人で使うと決めたわよね? 忘れたのかな?」

 

 そう言いながらモモカも、クピクピと飲み始めた。

 

「ああぁ、今度のお酒はおいしいわね。よく仕込んでるわねぇ。う~ん上々」

「モモカ、返せ。あたしの酒蔵君!」

「あたしの? 何かな? これはわたしのでもあるよね? まだ言う? フフフ」

「いや、ごめん二人のです。飲み終わったら、あたしも飲むから返してね?」

 

 微妙に怒気を含んだ笑いの言葉を聞くや否や、即座に謝り態度を変える。

 

 しょうがないわねぇと言いながら、いつものやり取りに笑いながら酒蔵君をカヤに渡し、優しく帰るわよと言い、二人並んで猫神の里に向かって歩き始めた。

 

 転生してから、五百年以上過ぎても二人の姉妹としての関係は変わらず、時には姉妹として、時には友達見たいな関係を楽しみつつ、二人は長き時を過ごしスキルと言う力も、使いこなしていた。

 

 姉としてのモモカ(百佳)

 妹としてのカヤ(夏夜)

 

 相も変わらず二人の姉妹は、同じ時を過ごせるだけで満足し、戦いは生前もしていたので気にもしてはいなく、毎回こんな調子であった。

 

 歩きながら、クピクピと酒を飲みつつ、懐からウサギもどきの干し肉を出して(かじ)りつきながら、モモカにも干し肉を渡す。

 

「ねぇ、モモカ。ここ四百年ドウザンとアタラの奴、何かあると絡んでこない?」

「う~ん……ただ、わたし達が気に入らないだけじゃない? 気の回し過ぎではないの?」

「そうかなぁ……何かやたらあたしらに、突っかかってくるじゃない? まぁ、鈴音様守護隊の隊長と副隊長だから、大丈夫とは思うけども。何かねぇ……あいつら嫌いだ」

 

 嫌悪感も露わにカヤは、言葉を吐いた。

 

 ドウザン、短髪ガチムチでいつも険しい顔をしており、アタラはショートであっさりとした髪型で顔は目が少し吊り上がった、少し怖い美人のお姉さんタイプの、猫亜人であった。

 

「そう、嫌悪感を露わにすると、逆手に取られて相手の思うつぼに(はま)るわよ。それに、わたし達二人は独立した遊撃隊だから、守護隊ではないし大丈夫よ」

 

 カヤから酒蔵君を渡され、クピクピと飲みながら言う。

 

「だねぇ、気の回し過ぎか……ほんと霊刀・千鳥(ちどり)を取られたのが、そんなに、気に入らなかったのかなぁ」

「それは、仕方ないわね。あの二人には抜けなかったんだもの。フフフ」

 

 四百年前、鈴音に四人は呼び出されて、里に古くから伝わる霊刀・千鳥を抜いてみよと言われ、先にドウザンとアタラが抜こうとしたが抜けず、カヤだけがあっさり抜いた。

 

 鈴音がお主を使い手に選んだかと歓喜の声を上げ、久しく使い手が現れなんだが、これからお主がその千鳥の(あるじ)となるがいいと、千鳥をカヤに与えた。

 

 その時の、ドウザンとアタラの嫉妬と憎悪の眼は、今でも思い出すたびにモモカですら、あれは敵意剥き出しの眼だわと思わせていた……。

 

 

 猫神の里に帰ってきた早々、カヤは趣味で酒造りをしてる、トク爺のとこへ酒の補充しに行くと走って行き、モモカが報告は? と言うとまかせると言い、そのまま逃げるようにいなくなった。

 

「あんのバカたれがー! 毎度毎度、面倒な報告は逃げおってからにー!」

 

 ピキピキと浮かぶ青筋と引きつった笑いに、近くを歩く里の者達が御子様がお怒りになっておると言い、モモカを避けて通っている。

 

 鈴音に犬神の兵達を、とりあえず撤退させた報告をし、隊長ガズンダが来てたと、付け加えた。

 

「おお、そうかそうか、ご苦労であった! お主らに大事がなくて良かったな。もう今日はゆっくりと休むがよいぞ」

「はい、鈴音様。そうさせてもらいます」

「して、カヤはどこに? またあそこか?」

「はい、あそこです。フフフ」

「そうか、そうか、クカカカカ。カヤもめっきり酒好きになったものよのう」

 

 鈴音の問いに、モモカも笑みを浮かべながら答える。

 

 里の端にある小さな、木造平屋建ての土間と囲炉裏、その隣に寝室と風呂場だけのシンプルな我が家。

 

 その我が家に帰ってきたモモカは、囲炉裏の薪に小さな爆炎呪符を投げて火をつけ、囲炉裏の前に座って、うーっと伸びをして、(またカヤはトク爺と酒盛りをしてるな)と考え、ホッと溜息を一つ吐いた。

 

「息をする必要がなくなって、もうどれくらいかしらね……」

 

 人だった頃と比べてあまりにも、勝手が違う体? に最初はかなり戸惑ったのも、もう遠い昔だわねと思いつつ、座ったまま後ろ気味みに両手をついて、天井を見上げ「もう、五百年以上たったのか……」とポソリと独りごちる。

 

「そろそろ、六百年になるのかなぁ。お酒はあの一件以来飲めなかったけども、まさか飲めるようになるとはねぇ……ほんと人生は、わからないものねぇ」

 

 ここ何百年かの事を、しみじみと思い出していた。

 

 いやいやまてまて、なにお婆ちゃん思考に、なってんだわたしは! と独り突っ込みを入れながら、この寿命がないなんてあの当時の権力者が、聞いたらきっと、歓喜ものねと独り笑いを浮かべる。

 

 ふとお風呂にでも、入ろうかしらと思いたつ……。

 

「お風呂も入る必要ないんだけども、何故か入りたくなるのよねぇ」

 

 やっぱり魔法で何でもできるは、味気ないのよねと言いつつ腰を上げると外の井戸から、重力操作で湯船に入れる分の水を力場で囲み、右人差し指の上にふよふよと浮かべながら、檜木に似た湯船に入れ、また小さな爆炎呪符を指に挟んで湯船に入れると、水が即お湯になり湯気を上げ始めた。

 

 四十三度位にして、魔素の着物をサッと手で払い消し、ゆっくりと身体を湯船に沈める。

 

 あぁ、やっぱりお風呂は良いわねぇ~と手足を伸ばし、目を(つむ)り猫耳をピコピコと動かした。

 

「耐性を緩めないと、お風呂もお酒も楽しめないのは、不便なのか便利なのかわからないわねぇ」

 

 人だった頃を少し懐かしんで顔をほころばせる。

 長方形の湯船は足をゆっくり伸ばせて、二人のお気に入りだった。

 

 しばらくすると、ニャニャッニャン、ニャニャッニャンと、上機嫌なカヤが帰ってきた。

 

「ただいま~ あれ? モモカお風呂かな?」

『そうよ』と『思念伝達』で返事が返ってくる。

『例のお酒、仕込み大樽に入ってたの、全部貰ってきたよ~』

『あらま! それ良く貰えたわね? なにしたの?』

『猫聞き?の悪い事を何で言うかな? モモカの分のん――』

『――わかってるわよね?』

『五番目に入れてるからね!』

『よろしい』

 

『思念伝達』で会話しながら、モモカがお風呂から上がってきて、入れ替わりにカヤがお風呂に入っていく。

 

 相変わらず、に゛ゃ゛ぁぁぁぁとオヤジみたいな声で、湯船に身体を沈める。

 

「ねぇ~ 報告どうだった?」

『思念伝達』をやめ、大きめの声でカヤが問う。

 

「いつもどうり。変わりないわよってか、いつも逃げるのはやめないかしらね?」

「え? そんな面倒なことはモモカのお仕事だよ。うんうん」

 

 頭を使うのはモモカの得意だし、おバカなあたしは邪魔しちゃ悪いものと勝手理論をぶちまけ、湯船で伸ばした足をパシャパシャと上下に振る。

 

「都合のいい時だけ、おバカになるのやめないかしらね?」

「ええ~ モモカいつも言ってるよね? おバカは大人しくしなさいと。

だから、あたしはえらい子だよ?」

「どこがよ……はぁぁぁ、あんたって何百年たとうとも変わらないわね。少しは精神的成長しなさいな、全くもう……」

「やだ! 寿命ないし別に不都合ないし、これでいい!」

「あんたねぇ…… 駄々っ子婆なんて、一番たちが悪いわよ!」

「なっ!! それいうかモモカお・ば・あ・ち・ゃ・ん」

「あ゛? 」

「――ごめん。モモカお姉ちゃん」

 

 モモカは他愛もないこのやり取りに、生前の小梅とカヤの口喧嘩を思い出してぷっと吹き出す。

 

「どしたの?」

「いや、フフフッ、なんでもないわよ。アハッハハハ」

 

 モモカの笑い声にカヤも釣られて笑いだし、しばらく二人の笑い声が家に響き渡っていた。

 

 風呂場の格子の窓から、湯気が夜空にほわほわと立ち上っていく、姉妹のやんわりとした時間の流れ……。

 

 この、少しのんびりとした、それでいて時折来る戦いの日々も二人は嫌いではなかった。

 

 カヤは思う、あたし達には無限の時間がある。

 モモカは思う、わたし達には永遠の命がある。

 カヤは思う、いつまでも大好きなお姉ちゃんと、この時を過ごしたい。 

 モモカは思う、いつまでも大好きな妹と、この時を過ごしたい。

 

 姉妹は願う、ずっと、ずっと、ずっと、続いてほしい、この時が。

 姉妹は願う、もう壊さないでほしい、この場所を。

 

 わたしは――

 あたしは――

 

 ここにいたい。

 

 カヤと。 

 モモカと。 

 

 ずっと、一緒にいたい。

 

 

 

 

 鈴音は世話係のジラに、しばし瞑想に入るから、誰もここには近づけないように言いつけると、瞑想室に入っていく。

 

 

「モモカにカヤ……あの二人は、ほんにいい子に育ったのう。ほんにいい子達じゃ」

 

 瞑想室に作られた、半径十メートルの人工の泉に素裸になり、ゆっくりと足から入っていき真ん中まで行くと仰向けになり、浮かびながらモモカとカヤの事を思い囁くように言い、顔を(ほころ)ばせる。

 

 

「今宵も泉はいい塩梅じゃのぅ……上々じゃ」

 

 うっとりと目を細め、長い髪が扇状に広がり、ゆらゆらと揺れ動く。

 

 

 




次回、蟲型魔獣さんとのバトルです。

ここまで、読んで頂いた皆様、ありがとうございます!
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