転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 二十九話です。


 カヤの好きだったあいつ、中編になります。

 ※〝打刀〟
【挿絵表示】





二十九話 Assassin (刺客

 

 外は、雨が降り続ける中カヤ達は昼食を食べ終え、食後のお茶を楽しんでいた。

 

 お茶をしながら一息つくとカヤは、じゃあそろそろ続き話すねーと皆を『思念伝達』でリンクしていった。

 

 町中を歩く、夏夜と百佳の姿が映る。夏夜は両手を袂に入れたまま胸の前に持って来て合わせて、(こす)るようにゴシゴシしていた。

 

「寒くなってきたね~ ぅぅーっ」

「少し冷えてきたわね。初雪が降るまでは、かなり近そうね」

「雪が積もるまでには、里に帰らないとだね」

「十日後時宗の屋敷に、お館様の書状を持って行くことになったわ」

「……そう。じゃあ、いつも通り皆斬れば、いいんだね」

「えぇ。一人も残さずに、だけど。 夏夜、あんた時政を斬れる?」

「斬るよ。あいつを斬れるのは、あたしだけだ。あたしが……斬る」

 

 そう答える夏夜の横顔は、百佳にはいつもと違って見え、お役目とはいえ時政と必要以上に接触させたのを少し後悔していた。時政と話す夏夜はとても楽しそうな顔をしていて、百佳は、夏夜が気付かない内に時政に惹かれていくのに、気付いていた。

 

(因果なものね。好きになった男を、斬らなければいけないなんて。闇を愛し、闇に生きる。お師様の言葉だったわね。呪符術の根源は闇、そして闇夜影千流も殺意と闇を糧にする、か……。いまさらだわね)

 

 心の内でついた言葉に軽く首を振り、夏夜が、ん? というような顔で見るのをなんでもないわと返し、肌を刺す冷たい木枯らしに思わず背を丸める。

 

 カタッ、カタカタ、カタッ、カタタッ。

 

 風に格子窓が揺らされ、乾いた音をリズミカルに鳴らしていた。

 

 真っ暗な部屋で眠れずに夏夜はずっと天井を眺め、何気に横を向くと。

 百佳と小梅が、静かな寝息を立て寝ていた。

 

(十日後か。 一颯一刀流、数ある一刀流を名乗る流派の中で、群を抜く強さを誇る流派。全てを尽くさないと、時政には勝てないだろうな)

 

 頭の中で、ぐるぐる巡る考えに天井に向けて掌を開いたまま突き出し、ぐっと軽く握りしめた。

 

(なんだろう、このモヤモヤした胸の感じは……。だめだ、これじゃあたしが斬られてしまう。お姉ちゃんを守れなくなってしまう。あたしは、乱破の刺客だ! いつも通り斬ってお終い。そう、いつも通りなんだ……)

 

 訳の分からない気持ちに苛立ちながらも布団を頭から被り、そのまま何時しか寝息を立てて寝てしまう。

 

 そこで一度記憶映像が途切れ、おもむろにシオンが口を開く。

 

「カヤはこの時も、自分の気持ちに気付かなったのですか?」

「うん。なんとなくは、分かってたんだけどもね……。うん、そうだね。多分認めたくなかったんだと思う。好きになったことを。処分対象を好きになったなんて、暗殺者として失格だから、さ」

「そうですか……カヤが人間だった頃の人生は、とてつもなく重かったのですね」

「重いか。 そうなのかな。人間だった頃はもう何百年も前だし、そう考えたことはなかったなぁ」

 

 シオンに問われたことに対して、人間なら可哀そうだとか、大変でしたねとか同情めいたことが返って来そうなことに対して、魔物であり、〝闘霊鬼〟であるシオンが言った重いと言う言葉が、カヤの心に深く突き刺さった。

 

「そんなこと言われたの、初めてだな」

「どうしました? カヤ」

 

 フッとついた呟きにシオンが心配そうに聞くが、何でもないよとニコリと笑い、次の記憶映像を見せていく。

 

 城下町外れにある川に架かる橋に、夏夜と時政がいて何やら話し込んでいる様子だった。

 

「この町は、死んだ母が好きだったんだ。特にこの橋から見る、夕日が好きでな」

「そうなんだ……いつ死んだの? 時政の母上は」

「ちょうど一年前だ。胸を患ってしまってな。 本当ならもっと早くに死んでいたのだが、治らなくても、一、二年は持つ薬をあるすじから父が手に入れて、二年は持ったが三年目は持たなかった。 父上は(こと)(ほか)母上を大事にしていてな、やっていけない事に手を出していたんだ。その薬を、手にいるためにな」

「そんなこと、一介の町人娘に話していいの?」

「あぁ。お前になら、話してもいいよ」

「なんで、あたしなの?」

「さぁな。なんでだろうな。ククッ」

 

 そこまで話すと軽く笑い、橋の欄干に背中からもたれ掛かった体をくるりと回し、両腕を欄干に置き、川面に映る自分の姿を見つめる。夏夜は欄干に背中からもたれ掛かかりながら空を飛ぶトンビを眺め、胸の内から来る言い知れぬ想いに一瞬だけ眉を(ひそ)める。

 

「夏夜。二日後の夕刻に水車小屋で待つ」

 

 それだけ言うと、返事も聞かずにその場を立ち去っていった。

 

 時政の姿が見えなくなると、『幻隠』の呪符術で姿を消してた百佳が夏夜の側に来て並ぶように、背中から欄干にもたれ掛かかる。

 

「どうするの?」

「……いく」

「そう。わかってるわよね、もしこちらに気づいていたら」

「……そのときは、殺す。どのみち七日後には、そうなるし」

「用心はしなさい。わたしも近くで見張るから――」

「――だめ! あたし一人でいい」

「夏夜! あんた……。わかったわ、その代わりこの呪符を持ってなさい。不意を付かれてもこの呪符が気を反らしてくれるから、袂に入れておきなさい。いいわね」

「うん、わかった。ありがと、百佳」

 

 ポンと夏夜の肩に手を置き「じゃあ、先に帰ってるから」そう言い百佳は隠れ家の宿屋に帰って行く。

 

 この場面を見て、モモカは昨日のことのように記憶を呼び覚まされ、嫌な記憶程忘れることは出来ないのねと、心の中で呟き横に置いてあるお茶を一口飲んだ。

 

 約束の日。宿屋に帰ってきた夏夜は、竹の皮で包んだ魚を広げた。

 

「おぉ! 鮎じゃねぇか! 釣ってきたのか?」

「いや、魚売りが売ってたから買ってきた。小梅好きだろ、鮎の塩焼き」

「いや~ すまねぇな~ こりゃ一杯やりたくなるね!」

 

 嬉しそうな声で言う小梅を他所に、壁際にいる次郎丸に一升入りの酒徳利(とっくり)を投げて寄越した。

 

 「酒だ!」と声を出しおもむろに栓を抜いて飲もうとするも、夏夜から全部飲むなよと釘を刺され、名残惜しそうに抜いた栓を戻した。

 

 夏夜は二十匹程ある鮎を五匹取り、別の竹の皮に包んだ。

 

 出かけるのかと問われ、ちょっと外で食べてくる、それだけ告げ足早に部屋を出て行った。

 

 百佳は七輪に火を入れながら、黙ってそれを見送った。

 

 少し早めに水車小屋に来た夏夜は、小屋の中にある囲炉裏に火を(おこ)し、大きめの竹串に鮎を刺し焼いていく。

 

 パチッ、パチッ、薪の弾ける音に鮎が焼ける香ばしい匂いが、水車小屋から漂う。

 

 しばらくして、時政が水車小屋へやってきた。

 

「早いな、夏夜」

「うん。お腹すいたから鮎焼いてた」

「鮎か、いい匂いだな」

「食べる?」

「いいのか? 貰おう」

 

 焼けた鮎を時政にやり、自分も鮎にかぶりつく。脂がのって美味いな。でしょ! 今が食べごろだからね~ など軽く会話を交わしつつ五匹の鮎を平らげていく。

 

 食べ終わり真向かいの時政に水の入った竹筒を差し出し、しばらく沈黙の時が過ぎていくが、おもむろに時政が口を開いた。

 

「夏夜。お前は、乱破(らっぱ)か?」

 

 表情を変えずに時政を真っすぐ見たまま短い溜息を一つ吐き、何でわかった? と問うた。

 

「お前の手だ。普通に装いながらも決して掌をみせなかったからな。一度だけ団子を手に取る時にちらりと見えた掌は、町人娘の手じゃない。それは剣術使いの手だ。それに……。父上のやってることで、いずれ刺客が来ると思ってたからな」

 

 静かに言い切ると竹筒の水を一口飲み、夏夜に竹筒を返す。

 

「風魔ノ者が薬問屋と、繋がってたみたいだね。それで、時政の父上に接触してきたんだろうね。それに、もう間者は始末したよ」

「ふっ。そこまで調べがついてるのか。父上は最初は乱破に胸の病に効く薬はないかと尋ねたくて、坂上殿に頼んだのだ。しかしお館様の手駒故、そんな些末な事に使う事まかりならんと、却下されたのだ。それから方々手を尽くして、病に効く薬を探したが良い薬は見つからなかったんだ」

 

 胡坐をかいた膝の上に置いた拳をきつく握りしめ、(うつむ)き唇をきつく噛み締めた。

 

「日に日に衰えていく母上を見ながら、父上は苦悩された……。そんな時に、敵国の間者でも、少しでも生き永らえる薬があると言われれば、裏切りと分かってても手を取るだろう。私も母上に少しでも、長く生きて欲しかった……。だから後悔はしておらぬよ。六日後に、一部門下生を連れてこの国を出る」

「時政、それはむりだ。五日後に刺客が来る。それに、もう城下町からは一歩も出られないよ」

「そうか、刺客はお前なのか」

「……そう」

「最近、裏で噂になってる乱破の刺客姉妹は、お前と姉なんだな」

「……そう」

 

 夏夜の答えを聞いても、時政は右脇に置いた刀を手に取ろともしなかった。

 

「夏夜、私は」

 

 そう言うと時政は夏夜の側に来て、後ろから柔らかく抱きしめてきた。

 

 夏夜は身動(みじろ)ぎもせずそのまま受け入れ、自分の前にある時政の腕に手を静かに重ねた。

 

「夏夜。私は、お前が好きだ」

「……」

 

 何も言わずに身体を回し時政に向き直る。そのまま背中に手を回しギュッと時政を抱きしめ、胸に顏を埋めながら囁くように告げる。

 

「あたしも……すきだ」

 

 顔を上げるとそこには時政の顔があり、夏夜はそっと自分の唇を重ねていく……。

 

 燃える薪が乾いた音を立て弾けながら火の粉を舞い上げ、揺らめく囲炉裏の火が二人を淡く映し出していた。

 

 静寂な空間の中、緩やかな時の流れが二人を包んでいく。

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「時政、一緒に逃げることはできない。でも、あんた一人なら逃がすことが出来る」

 

 時政の胸にもたれ掛かったままで、袂から一枚の呪符を取り出し親指と人差し指で挟み、少しずらすように動かすと剥がれるような音と共に、もう一枚の呪符が現れた。

 

 『幻隠』と呪符を発動させ、人差し指で呪符の真ん中を指し〝止め〟と言霊を言い呪符の発動を止めて、時政に呪符を渡した。

 

「これで、呪符を使えない時政でも使えるよ。もう一度使う時は『幻隠』と言えば時政の姿を隠してくれる。効果は数え二百だから、気を付けてね。あと、他人に触れたりしたら術が解除されるから、注意だよ」

 

 それとこれ、と言いもう一枚の小さい呪符に似たお札を渡す。

 

「駿河の国に、あたしと百佳と小梅しか知らない、隠れ家があるの。町に小さい酒問屋があるから、そこの若旦那にこのお札を見せれば、(かくま)ってくれるよ」

「そこに、いけと?」

「そう。あたしも後から必ず行くから、そこで待ってて」

「夏夜は、大丈夫なのか?」

「呪符を渡してこの話をしたときから、あたしの覚悟は決まってる。時政のことは好きだ。でも百佳は一人にしておけない……。時間かかるけども、必ず行くから信じて欲しい。今は一緒にいけないけど、必ず、あたしが時政を守ってあげる」 

「守るか……。そうだな、お前にとって姉も大事なのだな。わかった、そこで待とう」

「うん。色々片付けたら絶対に行くから、待っててね」

 

 その言葉を聞き、時政は夏夜を強く抱きしめ、夏夜も強く時政を抱きしめた。

 

 そこで、カヤが記憶映像を切り、おもむろに横に置いた酒蔵君を取り一気に酒を喉に流し込み、胡坐座りのまま両手を膝に置き、はぁあぁぁっと長い息を吐いた。

 

 シュナが、「話すのが辛いなら、もうやめてもいいのですよ」そう告げるも。

 

「いや、ここまで来たら話すよ。よければ、聞いて欲しい」

 

 と返す。

 

 それにシュナは、「はい」と一言だけ言って優しく頷き、シオンは目を伏せて頷く。

 

 ゴブリナ達に至っては、目をウルウルさせて、うんうんと頷いていた。

 

 次に流れた記憶映像は、刺客として夏夜が伊吹家屋敷に来る五日後の映像だった。

 

「お館様からの書状を、持ってまいりました」

 

 表門の門番にそう告げると、しばし待てと言われその場に待たされ、書状を持ってる夏夜だけ来るようにと言われ、角帯から打刀を抜き右手に持つと、百佳達三人を残して中庭の方へと案内されてゆく。

 

 中庭に案内されながら、屋敷に居る者達の気配を探っていった。

 

(時政の気配はない、な。門下生と言ってたけど……。これ、手練れだな。まぁ、これくらいなら、なんとかなるかな)

 

 時政の気配が無い事にホッとしながら、中庭へ着いた。

 

 屋敷の縁側に時宗が座っており、時宗の手前、九尺九寸<三メートル>で止まれと言われ地面に正座し、打刀をそのまま刃を自分の方へ向けて、拳三個分空けて右側に置いた。

 

 それを見て時宗が頷くと、夏夜の真後ろに一人、左右に一人づつある程度の間隔を空けて付き、別の門下生が書状を受け取り時宗へ持って行く。

 

「ふんっ。乱破(らっぱ)風情が、お館様の書状を持ってくるとはな」

 

 見下すように言葉を吐き、書状に目を通していく。

 

 丹念に書状を見ている時宗がある場所でかっと目を向き、書状を持つ手がぷるぷると震えた瞬間、夏夜が動いた。

 

 右側に置いた打刀の下緒(さげお)を掴むと、手首のスナップを効かせ、パンと音立てるように後ろに引き、鞘だけを後ろの者に目掛け打ち放ち、鞘の先端、(こじり)で鼻頭を砕いた。

 

 鞘を飛ばしたと同時に、右逆手で柄を握り一気に時宗の懐へと飛び込んだ。

 

 それを見た時宗が刀を抜こうと左側に置いた鞘を握り、柄へ右手を持ってきた。

 

 その刹那――

 

 時宗は、柄を握ることなく右手首が宙に舞い、左脇腹から右肩に向けて逆袈裟に斬り上げられ、激しい血飛沫を撒き前のめりに中庭へと倒れ、絶命した。

 

 『闇夜影千流 座ノ一刀 絶葉・月華(ぜつよう げっか)

 

 一瞬の出来事に唖然としていた左右にいる門下生が動いた時には、左の門下生の前に夏夜はいた。

 

 両腕を小さくたたみ刃を左横にし、そのままとんと身体を捻るように飛び真横に高速回転しながら斬りつけ後ろへと着地する

 

 防御した刀ごと右肩からへそ迄斬り裂き、身体が口を開けた様に開き真上に血を吹き上げその場に崩れ落ちた。

 

 『闇夜影千流 抜刀術 旋風・羅閃(つむじ らせん)

 

 右にいた門下生が上段斬りで、夏夜に襲い掛かるが股関節回避で体を回し、紙一重の見切りで切っ先が夏夜の鼻を(かす)めていく。

 

 (かわ)すと同時に夏夜の刃は門下生の喉を貫き、喉を刺したまま門下生に背を向け、喉から脳天に向けて刃を振り抜き頭を断ち割った。

 

 『闇夜影千流 抜刀術 弧月・楓影(こげつ ふうえい)

 

 鼻を押さえて(うずくま)り呻いてる男の所へ行き、落ちてる鞘を拾い腰に差し、剣閃が一つ光り男の首がごろりと地面に落ちる。

 

 噴き出た血飛沫が地面を真っ赤に染め上げていく。

 

 四人の男達は、ほとんど声を上げることもなく夏夜に斬り殺された。

 

 時間にして数秒の出来事に、「人の身で、この速さですか……」シオンが驚愕の声で呟く。 

 

 時宗が斬り殺された事態に、中庭にいた門下生の一人が屋敷の中にいる仲間に知らせた。

 

 屋敷の中には二十人の門下生がいて、半分が夏夜に、もう半分が百佳達の方へ駆けて行った。

 

「小娘! 生きて帰れると思うなよ!」

 

 師範代の男が怒号を上げ、他の者も師を殺された怒りに、凄まじい形相で夏夜を睨み取り囲んでいく。師範代が「時政様はどこにおられる!?」と聞くも、誰もが朝から姿が見えませぬ! そう答えるだけであった。

 

 夏夜は刃を右にヒュッと振り、左肘の内側で刃を挟みゆっくり引いていき、着物の生地で血振りをすると、刃を鞘に納め左手で鞘を掴んだまま帯の中で軽く動かし、少し鞘を前に出した形で、柄に右手を添えたままの構えを取った。

 

 自分を取り囲む者達をじろりと見渡すように視線を動かし、目を伏せブツブツと何かを呟く。

 

 その光景に今が好機なのに、取り囲んだ者達は誰も動けずに、嫌な汗をたらり、たらりと流していく。

 

 夏夜から湧き出てくる異様な殺気に当てられ、皆、足が固まったように動かせなかったのだ。

 

 

 夏夜が囁くように何かを呟いていく。

 

 

 〝闇は、光に

 

 光は、闇に

 

 光さえも喰らう、闇

 

 我は、その闇さえも、喰らうもの

 

 闇を愛し、闇に生き、暴れ狂う殺意さえ愛すもの

 

 我は、無情なるもの

 

 我は、闇夜影千流の、使い手

 

 我は、乱破のもの、夏夜〟

 

 

 言い終えた瞬間、屋敷を包む空気が震えた。

 

 夏夜がカッと目を見開き――

 

 姿勢を低くした左足が地面を蹴り飛ばし、師範代の男の懐に飛び込んだ。

 

 刃を抜く暇もなく逆袈裟に斬られ血を吹き上げ、鳴りの軽い金属音だけがその場に響いた。

 

 『闇夜影千流 抜刀術 神閃・紅斬り牙(べにきりが)

 

 自分達が戦場(いくさば)でさえ感じたことの無い、異質な殺気。

 

 それに気圧(けお)されながらも、気合の声を上げ斬りかかる門下生達。

 

 だがしかし、ゆらりゆらりと舞う影を相手にしてるような感覚に襲われた門下生達は、鍔鳴りの音と共に一人、また一人と、斬られ倒れてゆく。

 

「なんなんだ、こいつは!」

「乱破風情が! 我ら一颯一刀流の者を、圧倒するなどあるはずがない!」

「駄目だ……。奴の太刀筋がわからぬ……」

 

 残る三人の門下生が、口々に絶望の言葉を吐きながら倒れてゆく。

 

 そして、最後の一人が上段に振り上げた瞬間、握る刀の柄頭目掛け、夏夜の右足が真上に蹴り出され、弾き飛ばされた刀が宙をくるくると舞う。

 

 え!? というような顔をするや、トンと夏夜の右拳が胸の鳩尾の辺りに添えられたと同時に、夏夜の身体が限界まで巻かれたゴムが弾けるように震え、肉を抉るような鈍い音がして、男の鳩尾(みぞおち)が拳大に陥没した。

 

「う、そ、だろ……」最後の言葉と共に口から大量の血を吐き、男はそのまま仰向けに倒れ絶命した。

 

 『闇夜影千流 柔術殺技・鼓打ち(つづみう)

 

 戦いの音が止み、辺りに静けさが漂う中、モモカ達も門下生十人を始末し終え、夏夜の所へやってきた。

 

「終わったみたいね。夏夜」

「うん。皆、始末したよ」

「相変わらず抜刀術使わせたら、凄まじいなぁ。お? 間違いなく時宗だな」

 

 百佳は声を掛けながら辺りを見回し、小梅は中庭に倒れてる時宗の死体を確認していた。

 

 そこへ夏夜が、次郎丸は? と尋ねると、表門に残してきたと小梅が答えると、その本人が中庭へゆっくりと歩いてきた。

 

 

 三人は訝し気に次郎丸を見て、誰もいない後ろの空間を凝視していた。

 

 

 低く垂れこめた雲が空に広がり始め、冷たく乾いた空気が辺りを包んでいく。

 

 シュナ、シオン、ゴブリナ達は、誰一人として口を挟むものなどいず、カヤの話の決着が訪れるのを静かに待っていた。

 

 




 
 ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます!!



 次回 好きだったあいつ〝決着編〟も、読んで頂けると幸いです!



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