転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 三話です。


三話 妹(夏夜)2

 

 吐く息が白くなる、黒く染まった闇の中。

 

 

 野外の稽古場で、小さい火花が散りその中に浮かぶ大きい影と小さな影が、近づいたり離れたりを繰り返していた。

 

「夏夜よ 闇夜影千流(やみよえいせんりゅう)に武の境地などないのだぞ。ひたすら人を殺めることのみ追及した修羅の剣よ。 それでもお主は、強さを求めるか……」

「はい。強くなりたい、ただそれだけです」

 夜稽古中に、玄斎は夏夜に問いかけながら剣を振るう。

 

 真っ暗闇でお互いは見えない中、気配と放たれる殺気を感じ取り太刀筋を読みいなす、そしてお互いに間合いを詰めたり離したりしながら刃を振るう。

 

 一つ間違うと命を落としかねない、奥伝を与えられた者のみできる稽古であり、夏夜は十三歳の時、既に皆伝前の奥伝に昇り詰めていた。

 

 

「ならば、血山を築きそこを歩く覚悟があると言うか」

 

 時折、いなす刀身がぶつかり軽く火花を散らし、ぽうっぽうっと二人の顔を薄く照らす。

 

「はい。その覚悟は六歳のときに既に、できてます」

 

 ざりざり、ざざっざっと時にゆっくり、時にすばやく()り足の音が暗闇に響く。

 

「我らは皆、修羅の道を歩んでいるが、お主は誠の修羅になるかも知れぬぞ?」

「いいんだ。それをあたしが、望むから――」

 ――夏夜がそう言葉を発した瞬間、凄まじい金属音と花火のように火花が散り、夏夜の切っ先は玄斎の首筋皮一枚で止まっており、その切っ先を止めたのは玄斎の刃であった。

 

 夏夜が一瞬で間合いを詰め、斬撃を放ったのである。

 

「殺気無くして、その凄まじき速さの太刀筋か……ワシでなければ首が落ちておったわ。

まっことお前は、剣の天賦の才に恵まれておるのう。武家の娘に育っておればこの戦国の世に名――」

「――いえ、お師様、あたしはこれで満足なんです。あたしは修羅になろうとも、守りたい人がいるんです」

 

 言葉を遮りそう答えると、チンッと鍔鳴りを響かせ刀身を鞘に納めた。

 玄斎の気配がする方に向き一礼をし、その場を去った。

 

「守るか……あの強き意思は、どこからくるものなのかのう。それに最後のあの太刀筋は」

 

 夏夜の言葉に思案気に呟き、自身の師が残した口伝を思い出す。

 

 〝殺気を纏わずして殺気を持ち斬る〟。その殺気は無いが殺気を持ち斬るという問答のような、謎かけにも似た口伝。

 

 開祖のみが成しえた極意。 

 己が辿り着けなかった道。

 その口伝の姿が、先の夏夜が放った最後の斬撃に、朧げに見えた気がした。

 

(夏夜はあの一瞬、一切の気配を消していた。 斬る瞬間のみ切っ先にだけ殺気を乗せあの斬撃を放った。あの一瞬だけ切っ先に感じた殺気に反応できねば、確実にワシの首は落ちてたであろうな)

 

 斬撃事態に、夏夜の気配を感じたことがありえんと、一抹の疑問を浮かべる。

 

(己の気、気合、殺気など持ち、それで人を斬る。それなくば腑抜けた太刀筋となり人は斬れぬ、が。夏夜は己ではなく、間違いなく切っ先にだけ殺気を、乗せたの、か?)

 

 腰に手を当て、ポリポリと顎を搔き思案を続ける。

 

(う――む、もし切っ先より先に殺気を乗せ放てば……いや殺気そのものを偽り隠せば。

そもそも、そんなことができるのか? できるも何も今、身をもって知ったからのう。もしや、殺気とは違う別の気を纏うのか……わからぬな。多分あの技はまだまだ未完成であろう。口伝を教えておらぬのに、自力でその淵に手を掛けるとはな。げに恐ろしき娘よ)

 

「しかし、今までそんな面妖な太刀筋は見たことないわ! ふははははは」

 

 思案中に不意に突いて出た言葉と笑い。

 

「できるものであれば、一度、まっことの死合いをしてみたいものよのう……」

 

 折しも小雪がちらつき始める中、夜空を見上げ腕を組みその場にしばし立ち尽くしていた。

 

 夜稽古を終え家に向かう途中、ちらつく小雪を手のひらに乗せふわ~っと溶ける様を、ぼーっと見ていると、百佳が声をかけてきた。

 

「おつかれさま そんな所にぼーっとしてると風邪ひくわよ」

「ん? うん」

 

 夏夜はそれに少し気の抜けた返事で返した。

 

 夜稽古をする時は百佳はいつも離れたとこで、待っている。命すら落としかねない危険な稽古を、ただ静かに見守り待つ。

 

 そこには稽古中に何があっても、受け入れる姉の覚悟があった。

 

「岩風呂にでも、いきましょうか? 少し冷えてきたしね」

「うん、いいよぉ」

 

 そう言葉を交わし、百佳は手拭を一枚手渡し二人で里の裏山にある人が十人位入れる、天然の湯溜まり温泉に向かって歩き出した。

 

 二人は岩風呂に着くと手頃な高さの木の枝に脱いだ着物をかけ、それぞれ打刀、小太刀を温泉の淵をぐるりと囲んでる、人の頭より一回り大きい岩の後ろに置くと温泉に入って行った。

 

 夏夜が、あぁぁぁぁと、どこぞのオヤジみたいに声を出し温泉に浸かり、温泉には男三人に女一人、それと猿数匹が先にいた。

 百佳は両手で飾り紐を使い髪を上に結わえながら、夏夜の隣に入る。 

 

 女衆は訓練を受ける年頃になると、まず羞恥心をなくすために、男衆は女の裸に慣れるために、着替え、風呂等を一緒にする。羞恥心があると風呂、着替え等裸の時に襲われたら確実に死ぬので、そのための訓練でもある。

 

「よお、久しぶり~」

 

 風呂の真ん中にいた少し長めの髪を頭の上辺りで一括りにし垂らし、きりっとした美人顔の女が夏夜達の前に来て話しかけてきた。

 

 お役目から二十五日ぶりに里に帰ってきた小梅(コウメ)である。

 

「あら、帰ってきてたのね。 おかえりなさい」

「小梅か、おかえり」

 

 二人が返事を返した。

 

「相変わらず、ぶっきらぼうだな、夏夜」

「ん~ 気にするな小梅。これが普通だ」

「ってかさ、お前いい加減に、姉さんを付けろよな。あたいは一つ上のお姉さんだぞ!」

「あたしのお姉ちゃんは百佳だけだ。小梅は只の友達だ」

「うぁっ! それちと酷くないか? ふん、それはそうと相変わらずの微妙な胸だのう」

「でかけりゃいいってもんじゃない。斬り合う時邪魔だ」

「お前なぁ。色香の術教える姉さん達泣いてたぞ。お前がいくら教えても色気が出ないってな。ククククッ」

 

 ぷよん、ぷよん、と良く育った胸を揺らしながら笑う小梅を見て夏夜は。

 

(くそっ! どうやれば、あんなになるんだ、あそこには何が詰まってるんだ!)

 

 と、夏夜は心の中で毒づいた。

 

「風呂上がれ小梅。その無駄にでかい暴れ乳、刀で少し削いでやるよ!」

「ああぁ? 毒殺すんぞ!かやああああああ」

 

 この二人は小さい時からこんな感じである。仲はいいが顔を合わせると、すぐに口喧嘩を始める。

 

 この里で唯一夏夜に暴言を吐ける女、小梅である。

 

「あなた達、うるさい。燃やすわよ」

 

 手で肩にお湯をパシャッパシャッとかけながら、爽やかに言い放つ。

 

「「はい。ごめんなさい」」

 

 二人は即座に口喧嘩をやめた。

 もし無視して続けると、マジに爆炎符を放り投げて来るので怖いのだ。

 

 先に来てた男三人は、相変わらずやばい奴らだなと端のほうで談笑してたが、夏夜と小梅のじとーっと男たちを見る視線に気づき、静かになった。

 

「お前ら二人顔を合わせるといつも口喧嘩してるなあ。仲いいのか悪いのか分からんぞ」

「「あ゛あ?」」

 

 夏夜と小梅がイラっと来たような声を吐き、声を掛けてきた来た男の方を見ると、三太郎、三十二歳今だ独身が、温泉に入って来た。

 

 三太郎はそんなことも気にせずザブザブと音を立て二人の前に来ると、腕を組み仁王立ちで喋り始めた。

 

  ぷらぷらしてる物を見せつけるように。

 

「お前らな、せっかく良い顔してるのに色気のない会話するでないぞ。そんなことでは男を(たらし)し込んで情報を聞き出すなどできんぞ」

 

 二人は相変わらず、うざいなぁと思いつつ適当に返答をする。

 

「それは小梅にまかせる。あたしはいい」

「夏夜には荷が重いわな。うん、むりだな」

「あ゛ぁ?」

「お前らも少しは女らしさを持たないと、誰も嫁に貰ってくれんぞ? まぁ貰い手がなければ俺が貰ってやってもいいがな。ハハハハハ」

 

 ぷらぷらぷらぷら。

 

 二人の額にピキッキキと、青筋が浮き出始めた。

 

((あ゛ぁ゛……殺すか?))

 

「猿がクシャミしたような顔の男はいらん」

「あたいはイイ男確保してるしあんたなんか、お呼びじゃないわ」

「お前らほんといつも辛辣だなあ ハハハハハ」

 

 夏夜と小梅の細やかな堪忍袋の緒が切れ――いきなり三太郎が両手に松明(たいまつ)を持ち火薬庫に笑いながら突っ込んでいくような言葉を百佳に吐いた。

 

「百佳を見ろ。この〝見た目は〟慎ましく清楚な感じを見習わないとな。ハハハハ」

 

((やめろ、アホ!!))

((こっちにとばっちりくるだろうが!!!))

 

「見た目は?」

 

 コロコロと微笑みながら百佳が問うてきたが、目は全く笑ってはいなかった。

 

((……どうするよ、これ))

 

 小梅は流石にこれ以上はマジにやばいと、もうこの大馬鹿を黙らせようと夏夜に目配せし、夏夜は無言で軽く頷き手拭を右手にくるくると巻くと、小梅を見る。

 

 小梅が〝やれ〟と言うと「あいよ」と言うや否や凄まじい速度で、まだベラベラと喋ってる三太郎の股間目掛け右正拳突きを見舞った。

 

「大体な、おま!!えおおおおおおおおおおぅぅぅぐぅ……」

 

 目にも止まらぬ正拳突きを股間に喰らい、変な声を上げ股間を押さえ仰向けに盛大に倒れ水しぶきを上げた。小梅が足で三太郎を向かい側に押し蹴り、向かい側の岩にゴチっと頭をぶつけ止まった瞬間、ぽぐっと股間の辺りで音がした。

 

「――とどめ」 

 

 夏夜が手拭を丸め(まり)状にして軽く水を切り、手首のスナップだけで股間に投げつけたのだった。

 

「あの手拭は、もう駄目ね。〝()ぜろ〟」

 

 符を飛ばしパンと一回短拍手が響き言霊を発すと、夏夜が投げた手拭だけがボウっと音を立て燃え、ジュジュっと泡を立てながら炭化し、そして燃えてはいけない毛がパチパチと軽やかな音を立て燃えていた。 

 

それを見ていた男三人は股間を押さえそそくさと温泉を上がり、着替えも足早に岩風呂を後にする。

 

 ぺちぺちぺち。

 

「う~ん。いつ見ても鮮やかな、呪符術だな百佳」

「あら、なにもでないわよ。ふふ」

「その腕あれば、お役目一人でいいんじゃないか?」

 

 小梅の問いに、百佳はそうでもないと答える。

 

 ぺちぺちぺちぺち。

 

「色々制約あるし、爆炎符は殺傷力上げると、念の封入で術者に負担かかるのよ。あなたも、知ってるでしょ?」

「そうなんだけど、改めて見ると便利だな~と。まぁ適正ないと扱えないというねぇ」

 

 小梅はう~んと伸びをしながら答えた。

 

「呪符術は、念という体内の気を操り、それを呪文で符に練り綴り様々な効果を、符に付与しその力を使うのよ。そしてね、呪符発動の鍵は言霊を鍵として刻み、例えば〝爆ぜろ〟と言う言葉と短拍手一回が発動の鍵であるの。この鍵言霊は術者によって好きな鍵言霊を使うので、術者によって違いがあるけども、大体短い鍵言霊が使われるのは分かるわよね?」

「わかんねぇよ! そもそも仕組みが、理解できねぇし」

「あら、そう。ふふ」

 

 小梅の反応をみて、何か可笑しくてクスリと笑う。

 

 ぺちぺちぺちぺち。

 

 ウキキキ キキッ キィッ

 

 夏夜はうつらうつらし始め、百佳が頬を突いて起こしてるが、またすぐうつらうつらし始める。

 

 百佳は呪符術の話を続けた。

 

「五歳になると、呪符術のお師匠様が簡単な符を渡して鍵言霊(かぎことだま)教えて発動するか見て適正を見極めるけども、中々扱える子はいないわねぇ。そもそも、その念と言う概念が漠然としてるもの。わたしも念というものを全て理解してる分けではないしね。」

「それ! その念と言うものが、さっぱりわからん。ところで夏夜はどうだったんだ?

あいつに扱えるとは思わないけどね。クククク」

「この子は微妙、お師匠様いわく微妙すぎて判断しかねるで、本人がやる気あればと聞いたら即答で〝やらん〟だったらしいわよ。ふふふ」

「流石、抜刀術馬鹿。胸も微妙なら呪符術も微妙か。ハハハ おごっ!」

 

 百佳はその時のこと思い出し笑いし、小梅が胸のことを絡めて笑ったら、寝こけてる夏夜が指弾で湯に浮いてるドングリを弾き小梅のこめかみに当てたのだった。

 

 更に百佳は話を続けた。

 

「幻惑、認識阻害、結界、精神誘導、注視隠蔽等あるけど、幻惑、認識阻害、注視隠蔽は数え百五十から二百で効果が切れるし、人除け結界は数え六百が限界だしで精神誘導に至っては、精神を鍛えてる武の達人には効かないのよねぇ」

「ふ~ん、やっぱりそうそう便利なものはないか~」

「万能な物は、そうそうないわよ。あなたの、毒術も大概なのだけどねぇ」と話を続ける。

 

 ぺちぺちぺちぺち。

 

 キキィー

 

「そうねぇ、爆炎符は奥の手見たいなものだしね。普通一回の戦いで使うなら一般術者で七枚、熟練者で十五枚でお師匠様は三十枚いけるらしいけど。」

「そいつは、すげぇな。で、そんなに負担きついのか?」

「人を(あや)める、行動不能にする威力は一枚毎に精神力を削られるし、十枚越したらかなりきついわねぇ」

 

 ちらつく小雪に夜空を見上げながら眺め、モモカはしみじみと言葉を続ける。

 

「因みに、百佳、あんた何枚いけるんだ?」

「ん~ 二十……三、無理すれば、五十?」

「え?…… それあんた、化け物じゃね?」

「あら、ありがとう。十枚位連続でいっとく?ふふっ」

「――いや、いい。ほんと、ごめんなさい」

 

 目が笑ってなかったので即詫びを入れた小梅。

 

「まぁでも、使いすぎると意識が飛ぶから、正直連続使用はむりなのよ」

 

 そういいながら、寝こけている夏夜を起こし小梅にもう上がりましょうと言い、岩風呂を後にした。

 

 一人残る三太郎は未だに白目を剥いたまま気絶しており、集まった猿達に額をひたすら叩かれ続けられていた。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「ぁぁ……」

「ん?……変な夢見てた? あれだ小さい時や、色々な記憶?」

「ん~。星はほとんど動いてない? よくわからないなぁ……まぁいっか。」

 

 記憶の奔流から戻ってきた来た夏夜は月と星を見てほとんど動いてないのを確認し、時がほとんど経ってないのは分かったが、難しい事を考えるのは面倒なので考えるのをやめた。

 

 

「いくか」と声を出すと城のある城下町に向かって走り出す。

 

 折しも百佳が里の宗見(そうけん)(りく)を伴って夏夜を追うために里を出た頃だった。

 

 




次は、ガチの姉妹喧嘩のお話になります。


 読んで頂いた皆様、本当にありがとうございます!
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