良く晴れた日のテンペスト。
その中央都市リムルにて――
「うまいなー トンコツラーメン。そしてこの餃子というものが、皮がカリカリの中はジュワジュワって肉汁が出て、実にうまい!」
コテコテのトンコツラーメンと餃子を食べてるカヤが感嘆の声を上げ、モモカはあっさり系のトンコツラーメンを食べていた。
「ほんとね。こってりしてるかと思えばあっさり系のスープもあるなんて、これもリムルのいた日本の食べ物らしいわよ」
「へぇー ほんとリムルのいた時代は食べ物に恵まれてるね~」
中央都市リムルにあるラーメン屋で二人は、昼食を取ってる最中であった。
餃子を食べ尽くしたカヤは、もう一人前頼むことにするが同時にもう一人餃子を頼む声が上がった。
「「お姉さん。餃子、もう一人前追加ね」」
「あ~ すみません、お客さん。あと一人前で終わりなんですよ」
「「え!」」
声がした方にカヤは目を向けると、斜め向かいのテーブルに座る女性騎士がいた。
「あなた、私の方が早かったから遠慮しなさいな」
「あぁ!? あたしの方が早かったぞ。そっちこそ遠慮しろよ」
「えーと、どちらが頼むのでしょうか?」
「「ちょっと待って!!」」
「はいぃーーーー」
何やら険悪な様子に恐る恐るウェイターのお姉さんが尋ねるも、迫力ある返答に気圧され慌てて店の奥に引っ込んでいった。
カヤと言い合ってる女性騎士は――
周りの者が口々に、「おい、あれ西方聖教会の聖騎士じゃないか?」、「聖騎士のヒナタ様に喧嘩売るなんて、なんて命知らずな」などコソコソと言い合っていた。
「目付き悪いぞ、騎士のお姉さん」
「いや、あなたほどではないわ」
「あ、自覚あるんだ目付き悪いの。ニャフフッ」
「チッ……」
軽く舌打ちし、席を立ち音もなくカヤの前に動くと――
瞬きもする暇もなく、何時抜いたかわからぬ
「あなた、喧嘩売ってるのかしら?」
「う~ん、八十点かな。殺気がないから、脅しにならないにゃ~」
カヤが言い放つと同時に、ヒナタが殺気をカヤに向けて放った。
「八十五点」
更にカヤが点数を言うと、剣を持つ手にグッと力を入れようとするより早く、モモカがカヤの頭を軽く叩き口を挟んだ。
「やめなさい。あんた、また怒られるわよ。そちらの騎士さんも、ごめんなさいね。餃子はあなたが頼んで結構ですよ」
にこやかに微笑みながらヒナタに言い、代金はここに置くわねと奥から顔を覗かせてるウェイターに言いながらモモカは、カヤの後ろ襟首を掴み「ほら、行くわよ」と店を出ていく。
もとより素性の知れぬ亜人であるカヤの言動に腹を立てたのでもなく、腹前に差してるナイフの前に左手を当てたのを感知し、牽制の為に抜いたのであり、ヒナタはそのままモモカが店を出る時に「あなた達は、ユーラザニアの者か」と尋ねモモカは「只の流れ者ですよ」そう返した。
「おかしな二人組ね」
苦笑い気味に呟き、席に戻ると最後の餃子を注文した。
「あの女、あたしがカランビットナイフに手を掛けたのを、感知しやがりましたよ」
「あんたね、追加の餃子を食べ損ねたからって不機嫌になるのは分かるけども、言葉使いおかしいわよ?」
「え? あっ。テーブルで隠れてて見えなかったし、一切の気配を感じさせずにいたのに感知されたのはなぁ。今度会ったら、コツンしてやるわ!」
「はいはい、しかも人だったから尚更だったと。いい加減にしときなさいな、またシオンの手料理を食べたいの?」
「いや、いい……あれは二度とゴメンなのよ」
二人はあーだこーだ話しながら大通りを歩いてると、クロベエの工房で働いてる鍛冶職人見習いが、カヤとモモカの姿を見つけ駆け寄ってきた。
息を切らしててしばし息を整えるまで待つと、頼んでいた打ち直しが出来たと伝えてきた。
モモカは今からお邪魔していいのかしら? そう聞くと、いつ来ても構わないと申し使ってるので大丈夫ですと鍛冶見習いは答える。
「わざわざありがとう、ご苦労様」
微笑みながらお礼を告げると、鍛冶見習いは少し顔を赤らめてペコリと頭を下げ足早にその場を立ち去っていった。
「あの若い見習いのお兄ちゃん、モモカに恋をしたのかもよ? フヒッ」
「なにバカいってんのよ。くだらないこと言ってると、その顎砕くわよ」
「や、やめ。ほんの軽い〝ジューク〟じゃない。だから、顎掴むのやめて!」
「〝ジョーク〟ね。バカ丸出しね相変わらず……はぁっ」
「なに? その物凄く可哀そうな目であたしを見るのは、やめろ! その目はやめろー!」
カヤが周りの目も気にせずモモカに、その目で見るのはやめろと騒ぎ立てるもモモカは気にせずに歩いてると、「もっ――」カヤから暴言が飛んでくるより先に――激しい打撃音が響き、カヤが頭を押さえたまま蹲っていた。
一瞬道行く人々がギョッとカヤを見るも、頭を押さえウ―ッと唸ってるだけなので、何事も無かったかのように過ぎ去っていく。
「殺すわよ」
「だから……いつも言ってるじゃん。ゲンコツする前に言えと……」
「なにかしら?」
「なんでもないです」
流石にモモカが激オコしたらヤバい、そんな事を聞こえないようにブツブツ言い モモカの後ろを歩きながら、あっかんべーなどしたりしてると、モモカがスッと右手を上げると指に呪符を挟んでおり、慌てて口を押え大人しく後を付いてゆく。程なくしてクロベエの工房に着き、奥からクロベエが一振りの小脇差と千鳥を持って出てきた。
「お二人共、わざわざご足労願って申し訳ないだよ」
「いえ、こちらが頼んだことだから気にしないでね」
「そうそう、どうせ暇してたしね。あいたッ」
カヤの軽口を窘めるようにパシっとモモカが頭を軽く
「先に千鳥の手入れが終わったので、カヤ様にお返ししますだ」
「おぉ! ありがとう、クロベエ」
「最近、刀身が曇って来てたんだよねぇ。ほんと助かるよ」
「それは、おそらく雑多な魔素が混じってたからだよ。かなり古い魔素が溜まって
たので、丁寧に砥いで古い魔素を出して、完全にカヤ様の魔素に馴染ませておいただよ」
「流石、リムルお抱えの名刀匠だね!」
「いや~ そったらこと……」
受け取った千鳥を抜き刀身を眺めて、満足そうに頷きクロベエをべた褒めすると俯き加減で、はにかみながらクロベエは顔を赤らめて頭の後ろをポリポリと掻く。
ひとしきりカヤとの問答を終え、クロベエは打ち直した鈴蘭をモモカに渡す。
「モモカ様。これが打ち直した鈴蘭だよ」
鈴蘭を受け取ったモモカは、刀身を横にして目の前に持ってきてグッと少し力を入れ鞘から刀身を抜き、刀身を立てしばらく眺めて顔をほころばせると薄羽織の右裾を上げ、柄を右斜め上にして角帯の後ろに小脇差を差す。
「最高の出来だわ。ありがとうクロベエ」
「よかっただよ、満足してくれて。それと……ちょっと言いにくいだが、千鳥も鈴蘭も霊刀と言うより、妖刀に近い、いや間違いなく妖刀だで」
「そう、クロベエはわかってしまったのね。千鳥も鈴蘭も霊刀とか呼ばれてたけど、本質は妖刀だもの。精霊獣界では、神格化したかったかのかしらね。フフッ」
「だよね~ あそこじゃ霊刀とか言ってたけど、禍々しい妖気を放つ霊刀なんて、あるわけないじゃない。フヒヒッ」
霊刀と言っていたので、てっきり驚くかと思っていたクロベエは拍子抜けしたが、すぐにあれほどの力を持つ二人が気付かないはずないと考え、さっきより更に顔を赤くしている所へカヤが来て、ちょっと後ろに下がってね~ そう言いモモカの前に行くや否や、無造作にモモカの首目掛け千鳥を抜き打った。
澄んだ金属のぶつかる音がクロベエの工房に響き渡る。
抜き打たれたカヤの刃を、いつ抜いたかもわからぬ速度で右逆手抜きで受け止めていた。跳ね上げられた薄羽織の裾がフワリと降りてきた。
「うん。腕は鈍ってないね。ウヒッ」
「当たり前でしょ。フフッ」
お互いに顔を見合わせて、緩く笑い刃を納める。一瞬何が起こったのか分からず、ポカーンとしている所へモモカが来て「ごめんなさいね。びっくりさせて」謝罪するも「いや、大丈夫だよ。いきなりで少し驚いただけだで」二人してあれこれ言ってるとカヤが「あれ~ なんか二人仲よくない? あやしいなぁ」茶々を入れニヤニヤしていたら、重く鈍い鈍器を殴ったような音と共にカヤの頭にゲンコツが落ち、パタリと地面に倒れ伏した。
「だから、ゲンコツ落とす目に言えって……」
「おだまり」
「あ、はい」
クロベエが目を丸くする中、カヤは頭を擦りながら立ち上がり何かを言おうとしたがモモカの顔を見るや口をつぐんだ。そこへシュナが来てリムル様がちょっと用があるので、執務室に来てくれとの伝言を二人に告げる。
そそくさとカヤが逃亡を図ろうとするも、シュナが笑顔でお二人とのことなのでカヤもですよ。そう言って逃げ道を塞ぎモモカに「ではカヤと一緒に、お願いしますね」そう言い残しその場から立ち去っていった。
カヤがブチブチ文句を言い、なんであたしもよ、モモカだけでいいじゃん、あたしなんもやってないぞ! そんなカヤを宥め、いいから早く行けとモモカは急かし立てていく。
二人が執務室に着くとそこには、先程の女騎士と豪華な漆黒のゴシックドレスを着た美少女がいた。
「あぁ、来たか。すまなかったな二人共――」
「――あぁぁ! さっきの餃子女!」
「チッ」
執務室に入るなりカヤは、先程ラーメン屋で餃子を取り合った女騎士がいるのを見た瞬間、大声を上げ指差し敵意を露わにした。
「あぁ、もうヒナタとは会ってたのか。ってか何したんだヒナタ?」
「何もしてないわよ。餃子を頼んだらそれが最後の餃子で、そこの猫女と注文が重なっただけよ」
「ゆずってやったんだから、礼くらい言えよ。こ・む・す・め」
「喧嘩売ってるの? 買うわよ」
カヤが腰に差した千鳥の柄に手を掛けると、ヒナタも腰に差した
「カヤ。俺の許可なく、力は使わない約束だよな」
「やめよ、ヒナタ」
リムルとゴシックドレスの美少女が同時に言い放ち、カヤは慌てて柄から手を離しプイッと横を向き、ヒナタはやれやれといった顔でゴシックドレスの美少女の後ろに着く。
「紹介が遅れたが、こちらは神聖法皇国ルベリオスを納める
リムルが先に執務室にいた二人を紹介をし、モモカは微笑みながら二人に会釈をするが、カヤはそっぽを向いたまま会釈をする。
それを見たリムルは苦笑いをしつつ「この二人がさっき話してた〝覚醒魔王級〟の猫亜神カヤとモモカだ」そう紹介するとルミナスが二人を一瞥し、特にカヤに注視した。
ずっと自分を見る視線に気づきカヤもルミナスを逆に見返し、何かを思い出すようにぶつぶつと口を動かす。
しばらくぶつぶつ言ってるのを、モモカが失礼だからやめなさいと注意するが途端にぽんと手を打ち、いきなり核地雷を踏み抜いていった。
「あぁぁ! 思い出した! ヴェルドラが言ってた老獪吸血鬼魔王のミルスかー! ルミナスと言うからわからなかったよ~ ウヒャヒャヒャッ」
モモカはバカがと言う顔でカヤを見て、リムルは、あ~ 俺もうしらねぇぞと言う顔をし、ヒナタは静かに腰の
ルミナスは顔にも出さずにスッと動くや、瞬時にカヤの後ろを取りそのまま後ろから腰を抱き抱えた。
「おい。女に抱きつかれて喜ぶ趣味は、ないぞ?」
「フンッ。
「なんだ? 裏投げでもするのかな? フヒッ……え!? ちょっと、ギャッ! ウキャァアアアアアアアアアアッ!!」
〝生と死の抱擁〟
精神生命体のカヤにも効くお仕置き、
「やめ、ウギャァァアアッ! ごめ、やめて! アギャァァアアア!!」
「あの邪竜と友達らしいな、類は類を呼ぶか。あ奴にも、後で挨拶をせねばな」
苦悶の表情で叫ぶカヤにモモカは、中々いい技だわねと言い更に自業自得と助けを求めるカヤに、無情な言葉を投げつける。
「さて。誰が老獪な吸血鬼なのだ? そう言えばお主、我が国に納める酒を掠めたそうだな」
「い、な、アギャキャキャキャーー! ごめ、ごめ! お姉さまーーーー!」
ひとしきり生気吸収を終えたルミナスは、ペイッと床にカヤを投げ捨てた。
「よいな。これに懲りたら、これからは口の利き方に気を付けるがよい」
「あ……い。ルミナス……お姉さま」
床に丸まり尻尾の毛は盛大に逆立てたまま、力なく答えるカヤであった。
ルミナスはリムルに、〝覚醒魔王級〟で、あのトカゲとも渡り合ったというのは確かに事実ではあったなと生気吸収で吸った
「お主ら、この世界で魔王を名乗る気はあるのか?」
「いえ、そのような気は微塵もありませんよ」
モモカは淡々とルミナスの問いに答える。
「そうか……まぁ、よい。リムルよ、こ奴らの事はお前に任せるとしよう。精霊獣か、お伽話かと思ったが本当に居たのだな」
「あぁ、わかってるよルミナス。任せてくれ二人の事は、それと林檎のブランデーなんだが、三日後には納品できるよ」
「そうか。ミカエルの動向も気にはなるが、こちらも引き続き警戒態勢を続けるとしよう」
「あぁ、頼む。こちらも詳しい事分かり次第報告をするよ、ルミナス」
とりあえずの近況報告をルミナスに一通りすませると、ルミナスがモモカに話しかけて来る。
「モモカと言ったか、今度我が国に来るがよい、そこのバカ者と一緒にな」
「ええ、ルミナス様。ぜひお邪魔させてもらいますわ」
「よい、妾のことはルミナスと呼ぶことを許す、モモカ。それに畏まった物言いもいらぬ」
「わかりましたわ、ルミナス」
微笑みながら返すモモカに、カヤがあたしもルミナスでいいんだよね? そう言うも即却下され「お主は駄目だ! 妾の事は
それを見たヒナタは思わずクスリと笑い、気付いたカヤがヒナタを睨むもヒナタは意に介せずにいた。
「じゃあ、林檎のブランデーの納品は二人に行ってもらおう」
「お使い? 報酬でるの?」
「「「ない!!」」」
リムル、ルミナス、モモカの三人に即却下され、ウヒッと声を上げカヤはモモカの背に隠れる。
そんなカヤの本質を見抜いていたルミナスは「難儀なやつじゃのう」ポソリ呟きヒナタが不思議そうにルミナスを見るが、「なんでもない」その一言で済ませた。
執務室を後にして、二人は宿屋に向かう道すがらカヤは頭の中でルミナスの事を
考えて難しい顔をしており、モモカはそれを見てハァッと短い溜息を吐いていた。
(なんなんだ、この世界の魔物は! とんでもない奴ばかりじゃん! あ、後でヴェルドラには文句の代わりに、ヴェルドラのオヤツを頂こう、全部! 何が老獪ミルスだよ! ヤバい奴じゃん! はっきり教えてくれってっのー しかしヴェルドラも絶対にルミナスの、あの技喰らってるよねぇ……こんど問い詰めよう、オヤツを頂きながら)
『あんたね、またろくでもない事企んでると、手料理食べることになるわよ?』
いきなり『思念伝達』で話しかけてきたモモカにギクリとしつつ、なんも企んで無いから大丈夫なのよー そう言い訳しアハハハと笑って誤魔化すカヤであった。
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