激しい金属がぶつかり弾け合う音が、地下迷宮にあるヴェルドラの居室から離れた所に造られた、ヴェルドラとカヤの秘密地下闘技場から響いていた。
「
「
凄まじい速度で繰り出されたシオンの上段振り降ろし斬撃を、カヤは右逆手握りで抜き刀身の峰に左腕を当て刀身を加速させた斬り上げで弾いた。
弾け合った刀身の火花が大きな花を咲かせ一瞬で消えていく。
シオンは下段右下構えのままカヤを見据え、カヤは両足を肩より大きく開き腰を落とし刀身の峰に腕を当てたまま頭上に上げ、左半身で切っ先はシオンに向けたまま同じくシオンを見据え、〝真・剛力丸〟と〝千鳥〟は弾け合った時に刀身が振動で低い唸りを上げていた。
「じゃあ、今日はここまでね。シオン」
「ええ、そうですね。お疲れさまです。カヤ」
二人は刀身を納め互いに一礼をし、地下闘技場の一角にある休憩室の椅子に座り水筒に似たボトルを手に取り、よく冷えたシュナ特製の程よく魔素を含んだ魔物専用レモネードと言う飲み物を一気に呷る。
因みに人間用レモネードもあり、テンペスト内では両方とも販売されている。
「くあぁーー うまいなこのレモネド」
「レモネードですよ、カヤ。ところでさっきの技、八葉天影は……えと、その、時政殿の〝轟龍〟なのでは?」
「ん? よく覚えていたねぇ。あたり~ 時政の奥義だよ」
言いにくそうに聞いてみて、それにホワホワと笑みを浮かべながら答えてきたので少しホッとしながらシオンは、一口レモネードを口にする。
「では何故、轟龍でなく八葉天影と名付けてるのです?」
「あぁ、それね。一颯一刀流には八つの奥義があってね、〝八つの奥義を極めし者は天の光が映し出した影さえも、斬り伏せてしまう〟と言う口伝があったから、それをもじってあたしが付けたんだよ。さすがに他流派の技名をそのまま使うのはねぇ、いくらあたしでもできないよ。フヒヒッ」
「なるほど。カヤほどの傍若無人でも、気を使うのですね。ふふっ」
「あっ! そゆこと言う!? シオン、あんたもうここ出禁ね! クヒッ」
からかい気味に出たシオンの言葉に、わざと秘密地下闘技場への出入りを禁止と笑いながら返し。
「それはあまりにもヒドイです!」
いきなり出禁を言い渡されたシオンは半分涙目で猛抗議するも。
「だめー! 永久出禁だ! あんたちゃんと料理作れるのに、あんな料理喰わせたよね!?」
と、いつぞやの仕返しとばかりに言い出す夏夜。
「あれはリムル様がいつも通りでいいと……」
「いつも通りがあれなんか!?」
と、しばらくカヤがシオンをからかっていたが、あまりにもシオンが真剣に抗議するものだから。
「うそうそ、だからいつ来てもいいよ」
そう答えると、シオンも。
「カヤは人が悪いです!」
その言葉に「いや、あたし魔物だし」頬をポリポリ搔きながら、苦笑い気味に言葉を返した。
「まぁ……この技は、あいつの形見みたいなものだしねぇ」
一瞬ふっと憂いた表情を浮かべすぐに元の表情に戻り、椅子の上でうーんと伸びをして残ったレモネードを一気に飲み干していく。
元々秘密地下闘技場は、ヴェルドラとカヤの手合わせ場としてラミリスに頼み込んで秘密裏に造ったもので、しばらくは二人で技量を磨く場として楽しんでいたが、どこから聞き付けたのか最初にウルティマが何か面白い事やってるよね? そうカヤに詰め寄りボクも参加ね! そう強引に宣言して次にカレラとテスタロッサが混ざり、ディアブロも「ククッ。何やら楽しそうな事を、してますね」そう言いながら、見学に来るようになる。
後にゼギオン、アピト、クマラまで来るようになっていた。
ディアブロ以外皆カヤとの手合わせを望み、最初は相手にしていたが流石にテンペスト最強の一角を成す者ばかりで、「あんたら全員の相手は、めっちゃ面倒だわ!!」そう怒り出し。
一度全員出禁にしたものの、ウルティマ達が裏から手を回しミョルマイルを巻き込みリムルの承諾を得て、カヤに手合わせ一人に付き金貨一枚出るよとウルティマ達がカヤに交渉し、カヤがあっさり「いいよ。そのかわり手合わせは一日三人までね」と条件を付けてきたので、ウルティマ達はその条件を吞み契約が成立したのである。
一応ヴェルドラとカヤの承諾がないと、手合わせ参加は出来ないのも付け加えられる。
因みにモモカはゴイザ達の所でたまにコップ回しを受け持ち、更にダイスでコップを壺に見立て丁半博打をやり、ゴイザ達の開く賭場で人気のディーラーとなっており、このおかげで二人はわりと小金持ちになっていたのであった。
その稼ぎでカヤは最近知った〝エルフの店〟によく行っており、いつの間にかVIP会員証も手に入れていて、酒がある所へはどこにでも出没するネコムスメと噂される程になっていたが、カヤはそんな噂もどこ吹く風であった。
「そう言えば、ルベリオスに行かれるのですよね?」
「そうなんだよ~ めんどくさい! シオンが代わりに行ってよ!」
「いや、それは無理です! 私がリムル様から怒られます!」
行って! 無理です! そんな攻防を繰り広げていると、そこに仕事を終えたカレラが来て「さあさあ、今日は私の番だ」カヤの右手を掴み地下闘技場の真ん中に引きずっていき、ささやかなシオンとカヤの攻防は幕を閉じた。
ルベリオスに行く当日の午後。
「じゃあ、しっかりと林檎のブランデー酒の納品頼むな!」
「へぇへぇ。イニャッ!」
「ええ。任されたわ、リムル」
酒樽百個を『重力支配』で纏めて抱えるカヤがいかにも憂鬱そうに答え、モモカが左手でパシリとカヤの尻を
ルベリオスに到着後、持ってきた酒樽百個を食糧庫に納めるとカヤは「終わった終わったー じゃあ、あたしは帰るね!」そそくさと帰ろうとすると、そこへヒナタが来て二人に声を掛けてきた。
「二人共ごくろうさま。ルミナス様がお呼びだから、ついてきて」
「ヒナタ。あたしゃ帰るぞ! 酒樽運びは終わったんだよ。だからこれでお
「駄目よカヤ。ルミナス様が、あなたは必ず来るようにとのことよ」
「チッ……老獪
「ハァッ。今のは聞かなかったことにしてあげるから、大人しく来なさい」
観念したようにヒナタの後ろを渋々ついていくカヤ。この二人、最初の頃の険悪さが無くなったのは、ヒナタがルベリオスに帰る前に一度カヤの剣術を拝見したいわねと言い、カヤは断るも「あら、私のいた日本の古流剣術だもの、その生き証人の腕前を、ぜひ手合わせで堪能したいものだわね」その言葉にルミナスが反応し「ほぉー 興味深いぜひ見てみたいものじゃな」この一言でヒナタとカヤの手合わせが決まってしまい。
秘密地下闘技場での激闘が繰り広げられ、最後に〝
カヤはヒナタの剣術の腕前に感嘆し、ヒナタは古流剣術の恐さを感じ、そして同じくカヤの剣の技量の高さに感嘆した。
口調はあまり変わらないが、お互いに剣の腕を認め最初に出会った険悪さは無くなっていた。
「ねぇ、モモカ。うちの団員にあなた達の闇夜影千流を、少し手ほどきしてくれないかしら?」
「ごめんなさいね、ヒナタ。それはダメなの、わたし達はこの技を誰にも教える気はないのよ」
「そう。でも人斬りに特化した技と言っても、剣術は皆そうでしょ? この世界も中々に殺伐としてるし、あなたのいた戦国時代とそう変わらないわよ」
「たしかにねぇ。国が国民の多くを生贄にする術を仕掛けをしたり、異世界の者を召喚して従属させて兵器にしたり、亜人、獣人、エルフ、人間など拉致して奴隷売買したりで、この世界も中々に外道だわね。フフッ」
「外道は言い過ぎだと思うけど、まぁ、そうかもね。フフ」
ヒナタとモモカは顔を合わせクスリと笑い、その後を両手を後ろに組んでその手には少し小さめのケーキ箱を下げ周りを見渡しながら付いて行くカヤは、ここも人間と魔物が共存してるのか、まぁ利害の一致で共存は分かりやすいな、そんな事を考えつつすれ違う
「それに闇夜影千流は、ただ習うだけでは駄目なの。凄まじい殺意と己の中にある闇を飼い慣らさないと、只のちょっと変わった技位でしかないのよ」
「それはあれなの? よく言われる己の中の闇に、喰われるとかなのかしら?」
「違うわね。誰でも光と闇の部分はあるでしょ? わたし達は幼い頃からその闇の部分を光と同じように当たり前にするの、訓練でね。そして抱く殺意も当たり前に己の感情の一部とするの。有り体に言えば闇と殺意を愛すのよ」
「なるほどね。初めて聞くわね、そんなやり方。確かに聖騎士とは真逆の真理ね」
ヒナタはふむふむと頷きながら、少し歩みを緩くし腰の
「そうそう。更に簡単に言えば善と悪があるけど、でも普通は善というより悪に偏るなんてそんなにないよね人間はさ、良心が歯止めをかけてるから。でもねあたしとモモカはその良心じゃなく、闇が良心みたいなものなんだよねぇ」
「そう……それゆえの暗殺者なのね。慎重に心の枷を外し、如何なる者を殺しても精神が壊れなくするか。私達もそう言う訓練はしたけど、本質は全く違うわね」
「そゆこと~ 感情の無い只の殺戮者など、迷惑でしかないもの。だからって感情が邪魔してもダメなんだけどね。フヒヒッ」
「そうねぇ、軽く見せるだけなら構わないわよ」
「じゃあ、それでお願いするわ」
ヒナタはモモカとカヤの話を聞きながら、二人に感じた違和感に納得した。
初めて会った時に感じた違和感はこれだったんだと確信し、手合わせの時にちらっと見せたカヤのとてつもなく底冷えのする殺気は、今までどの敵からも感じた事は無かった、そうあのルミナスさえ。
そう考え、(闇と殺意を愛すものね……ほんととんでもないわね、この二人は)と心の中で苦笑いをせずにはいられなかった。
程なくしてルミナスの居室に着き従者が扉を開けると、そこには丸い豪華なテーブルがあり椅子に座るルミナスと横に立つ法皇ルイがいた。
「ようこそおいで下さいました。モモカ殿、カヤ殿。どうぞこちらへ」
法皇ルイの丁寧な挨拶にモモカがこれはご丁寧な挨拶をと返し、法皇ルイは一礼すると居室を出ていき、ルミナスが三人に椅子を勧め各々椅子に着く。
座るや否やテーブルに突っ伏して顔を右に向けたまま、めっちゃ怠そうに言葉を吐くカヤ。
「ル・ミ・ナ・ス・おねえさま~ 用があるなら、早くおすませください~」
「カヤ。言葉と態度が一致しておらぬぞ。この後美味い酒と料理を、馳走しようかと思ったが。そうか、いらぬか、なら帰ってよいぞ。モモカは食べていくであろう?」
「ええ、ルミナス。御馳走になるわ」
酒、料理と聞いた瞬間猫耳がピクピク動き、尻尾がピーンと立つといきなり跳ね置きピシっと背筋を整える。
「ルミナスお姉さま、頂きますわよ! ご用は何でございましょう!?」
「用という程ではない。今日は少し話しに付き合え、お前達の事も色々聞きたいしのう」
「なんだ、そんなことでいいのか~ いいよルミナス姉さま」
コロッと態度を変え、またテーブルに突っ伏するカヤを気に留めるでもなく、ルミナスは軽く頷く。
「そうだ、ルミナスこれを。リムルからのお土産で、吉田さんのカフェで人気のスイートポテトよ」
テーブルに置いていた、厚紙のケーキ箱をモモカがルミナスに差し出すや、一瞬カヤの尻尾がピクピクッと波打った。
「なに! 大儀である! モモカ」
開店と同時に売り切れる、人気の商品の一つで一度ヒナタが買ってきたのを食べて、いたく気に入ったスイーツの一つであった。
香ばしく甘いバターの香りが漂うケーキ箱をルミナスが開けると、そこにはスイートポテトが三個あったが、どうみても箱の大きさから六個は入っていたと容易に察しがつき、ルミナスの片眉がピクリと跳ね、モモカとヒナタは目を細めてカヤを睨んでいた。
「カヤ。あんた食べたわよね」
「いんや、食べてないよ」
「食べたわよね」
「食べてないよ~」
「た・べ・た・わ・よ・ね!」
「タ・ベ・テ・ナ・イ・ヨ」
冷ややかに尋ねるモモカに対してカヤは、突っ伏したまま顔を伏せ平静を装って答えていたが、尻尾だけは忙しなく左右にパッサパッサ振られていた。
そうつまみ食いしたのはカヤであり、酒樽納品したらさっさと帰るつもりでつまみ食いしたケーキも、食糧庫の係にでも渡していくつもりであったのだが、ヒナタに捕まり逃げきれずにいた事はカヤにとって想定外のことであった。
ようするに、カヤの大誤算である。
「吉田さんの所で、スイートポテト受け取って一度宿屋に帰った時に、あんたつまみ食いしたわね!」
「いえ、しらないです……」
あくまで白を切るカヤの右手をモモカはガッと掴むと、自分の鼻先にカヤの指先を持って来て、プルプル震えるカヤの指先をスンスンと嗅いだ。
するとほんの微かに漂う、甘いスイートポテトの匂い。
モモカは口端を二ッと上げるや掴んだ右手をルミナスの前に来るように置き、そこへすかさずルミナスの手が伸びてきて、カヤの右手を掴む。
〝
「オ゛ワ゛ァギャッアアアアアアアア!!!」
カヤの叫び声が居室に響き渡り、モモカがすぐ判るうそを付くおバカはしっかりお説教されて反省しなさいと、言葉をカヤに投げ捨てる。
「お、お、おせっき、ょう? これ、は、ぎゃくた、いと、いうのよ」
「ほう。邪竜と一緒で、まだ余裕がありそうじゃな」
「ちがっ!!! ちょっ! フギャァァアアア!!!」
全くあなたは一言多いのだから……ハァッ~ と短い溜息を付きながら額に手をやり、ヒナタは呆れ気味にカヤに言う。
カヤへのお仕置きが済み、ルミナス達はちょうど三個あるスイートポテトを一個づつ分けティータイムの時間にし、スイートポテトを満喫していた。
そして、床に正座するカヤの前にはテーブルの代わりの木箱が置いてあり、その上には水だけ入った粗末な木のコップが一つ置かれていた。
「ねぇ。これは、ちと酷くないかな?」
「黙れ! 悪さする
有無を言わさぬ迫力あるルミナスの一言に、グヌヌッと唸りながら押し黙り頭の中で報復の手段を幾つも巡らせるも、そのどれもが倍になって返ってくるので、実質ルミナスに対して打つ手なしのカヤであった。
「くっそぉおおおお。この世界の魔物は理不尽魔物しか、いないんかぁああああっ!!」
そんなカヤの叫びを気にもせず、ルミナス達は和やかに談笑していた。
ここまで読んで頂き、いつもありがとうございます!
それでは次回の更新も、ぜひよろしくお願いします!