転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 三十五話です。


三十五話 モモカが、唯一苦手とするもの

 

 とあるジュラの大森林の昼下がり。

 

 その森を二人の少女が歩きながら、何やら言い合いをしていた。

 

 

「ねぇ~ モ・モ・カ~ 街から離れた所に家探すってさぁ、どこにあるんだよ!」

「ジュラの大森林に家があるわけないじゃない。小さくていいから寝泊まりできる小屋でもいいから、造れるような場所を探すってことよ」

「ええぇーーーー! めんどい! やっぱり宿でいいじゃない。もしくは野宿」

「やーよ! 野宿なんて絶対、いや!」

「モモカの贅沢者! 人間だった頃は野宿してたじゃない」

「あ゛ぁ゛!」

「――よし! 探そうね、お姉ちゃん!」

 

 カヤが文句ブチ巻けながら、モモカと一緒にテンペスト近郊のジュラの大森林を探索している事情は、三日前に(さかのぼ)る。

 

 

 

 日が沈み、泊っている宿の一階酒場で二人は食事をしていた。酒場はちょうど客が集中するピークの時間帯で、そこで働く給仕達は客の対応で大忙しであった。

 

 魔物、人間と入り混じる喧騒の中、一人の屈強な冒険者の男が酒場にいる給仕の女性に絡んでいた。

 

「おい! おれの酒はどうなった!? 何故俺の酒がそこの魔物より遅いんだ!!」

「い、いえ。こちらのお方はそちらより先に頼んでいたので――キャッ」

「なんだとー! 魔物風情が人様に、口答えするんじゃねぇぞ!」

 

 男の問いに答えていた兎人族女性の腕を掴み強引に引き寄せ、その反動で手に持つ丸いトレイに乗せたビールジョッキが、床に落ち派手な音を響かせた。

 

「あーあ、どこのバカだろね。ここで魔物風情とか、どこの田舎冒険者だよ」

「おバカが、ひと~り。フフ、これはウルティマ、カレラ案件かしらね」

「警察とか言うので、いいんじゃないの? つまみ出そうか? いいとこC+(プラス)クラスだよ」

「駄目よカヤ。あんたがやると、あの男死んでしまうわよ」

 

 鶏鴨(ケガモ)の塩焼きもも肉をパクつきながら、少し怠そうに言いビール大ジョッキを飲み干していく。モモカが手を出したら駄目だからね、そう念を押していた。

 

「あざとそうな耳しやがって、その耳、斬り落としてやろうか!? ああぁ!」

「や、やめてくださいーーーー!」

 

 左手で女性のウサ耳を掴み、右手でテーブルナイフを掴みウサ耳に押し当てると同時に、カヤが動いた。

 

 カランと食べていたもも肉の骨が、皿の上で小気味よい音を立てて跳ね、「あーもうっ」と額に手をやりモモカは唸った。

 

 メキッと嫌な音が男の右腕の骨から響き、右手からこぼれ落ちたテーブルナイフをカヤは足で後ろに蹴りやり、男の右腕を左手で捻じり上げる。

 

 その激痛で左手で右手を庇い兎人族女性は解放され、カヤが右手で早く向こうへと行けと振り、兎人族女性は軽く会釈をし、小走りでカウンターの奥へ走り去る。

 

「ッ! あだだだだっ! てめえ! 何しやがるクソガキがぁあああ!」

「ねぇ、オッサン。もう、この辺でやめときな。今ならまだ、この国に来たばかりのバカですむよ? これ以上は流石に只の酔っぱらいでしたじゃ、すまないかもよ?」

「あぁ!! 俺はまだ三十前だ! 離せメスガキ!!」

 

 酒場に来ている常連客達は、冒険者男のカヤに放つ暴言に一瞬で顔が青ざめ、「し、知らねぇぞ、カヤ姉さん怒らしたら死ぬぞ」、「あー あいつテンペストで魔物風情とか、どこの田舎もんだ」、「たまにいるんだよな、ああいう馬鹿が……」など口々に言い、入り口近くの客は巻き添えを喰わないように退避すべく、ジリジリと入り口に向けて動いて行く……。

 

 そこへ、派手にグラスの割れる音が酒場内にいる者達の耳を突く。

 

 右腕の痛さに耐えかね、男が左手でビールジョッキを掴み、カヤの頭に叩きつけ残っていたビールが頭に降り注ぎ、(しずく)が頬から顎を伝い、ポタリ、ポタリ、床に落ちていく。

 

 酒場に来ていた客は「やりやがった!」皆一斉に口に出し、もう巻き添えは確実と、カヤの動向を見据え、いつでも防御態勢を取れるよう身構える。

 

 しかし、男は更なる凶行に及んだ。強引に右腕を振りほどき、テーブルに立掛けていたグレートソード(大剣)を握り、「死ねや! メスネコがッ!!」叫び、カヤの頭に剣をを振り降ろし、それを見て常連客達は「あっ。俺たち死ぬんじゃね?」と、死を覚悟した。

 

 カヤは一瞬でテーブルの上にあるフォークを左手で掴み、フォークの爪枝の間で剣を受けフォークを持つ左手をクリッと捻り、魔力を少し込めて受けた剣をロックし、口端を少し上げニヤリと(わら)う。

 

「なっ! う、うごかねぇーー くそぉおお! どうなってやがる」

 

 フォークで受け止められたグレートソードを両手で握り、ありったけの力で押したり引いたりしてもビクともせず、薄い笑みを浮かべたままのカヤに今更ながら「こいつもしかして、ヤバい奴?」そう感じ始めると一気に酔いが冷め、改めて周りを伺うと男を見る周りの目が、「おまえ、死んだぞ」そう訴えていた。

 

「ちょっ、ま――」

 

 男が口を開くと同時に底冷えのする笑みを浮かべたまま、右足を優しくトンと踏み鳴らした。

 

 ちょいコツンのつもりで放った、只の震脚。

 

「――やりすぎ!!」モモカが叫びパンと短拍手が響き、一瞬で酒場全体を呪符結界で包み、酒場にいる従業員、客もそれぞれ呪符結界で包む。只一人だけ死なない程度の結界で包まれたと同時に激しい轟音と振動が響き、砕けた床が飛び散り割れたテーブルが宙に舞い、砕けた食器やグラスなどが散弾銃の弾みたいに拡散し降り注ぎ、その場にいる者達の悲鳴や叫び声が響き渡った。

 

「「「ウァアアアアアア!!」」」

「「「キャァアアアアア!!」」」

「グエッェェェッ!!!……」

 

 酒場半壊……。 

 

 左足にほんの僅か魔力を込めて床に向けて解放、そして軽く振動波を放っただけでこれである。

 

 冒険者男はもろに震脚の解放魔力を喰らい、うつ伏せで倒れ白目を剥きピクピク身体を震わせていた。死なない程度の結界しか張られなかったので、とりあえず死なずにすんだ冒険者の男であった。

 

 その横を無傷の常連客達や、酒場の従業員、そして酒場のマスター兼宿屋の主人が瓦礫と散乱した食器などを踏みしめ、酒場前の通りに出てきた。

 

「あ~ 派手にやったすね~」

 

 外回りの警備を終えたゴブタが騒ぎを聞き付け、警察三人を連れてやってきた。

 

「お~。ゴブタくん。おつかれ~」

 

 冒険者男の後ろ襟首を掴み、ズルズル引きずりながら通りに出てきて、ゴブタの前にペイッと投げ捨て、カヤの後ろを額に手を当てたまま、呆れ顔のモモカが出てくる。

 

「カヤさん。これ、何がどうしたっすか?」

 

 ゴブタの問いにカヤは腕組みをしたまま、人差し指でピッと被害にあった兎人族女性を指し、「あの()に聞くといいよ」そう答えた。

 

 白目を剥いてピクピクしてる冒険者男を監視するよう警察三人告げ、兎人族女性の所へ行きゴブタは事情を聴き始め、そこへ酒場にいた常連客達も集まり口々に事の成り行きをゴブタに説明した。

 

「概ね事情はわかたっす。じゃあこの男は一旦詰め所に連行して、ウルティマさんの指示待ちっすね」

 

 カヤにも軽く事情を聴くとゴブタは、冒険者男を捕縛し詰め所に向かっていった。 

 

 泊るところが無くなり、また宿を探そうとするカヤにモモカが、宿に居続けるのもあれだし、もしオトワの手の者とか来たら大惨事になるからどこか街から外れた所に住める所を探そうと提案し、カヤもそれに頷き街近辺のジュラの大森林に住める場所を探すことにした。

 

 探す間の宿はヴェルドラの所に二人で頼みに行き「ずっといても、よいのだぞ」と快く了承して貰ったのだが、カヤに至っては大体ヴェルドラの所に入り浸っているので、あまり変わらないのである。

 

 次の日リムルに呼び出された二人は執務室に来ていて、カヤの目は泳ぎ前に組んだ両手の親指を忙しなく動かし、尻尾もブンブン左右に勢いよく振っていた。

 

「ええぇー と、また何か罰がありますので、あらせられるかですか?」

「カヤ。言葉があからさまにおかしいぞ」

「あ、いや、なんだ、そう、にゃううぅ」

「今回はありがとうな、よく兎人族女性を守ってくれた」

「ほえっ?」

 

 いきなりリムルから礼を言われ、呆けた顔でカヤは首を傾げる。

 

「まぁ、やりすぎた感もあるが、兎人族女性がお前に凄く感謝しててな、それに宿屋の主人もお前に責は無いと言ってたぞ。それでな宿屋兼酒場の修繕費は、騒ぎを起こした男の労働で返してもらう事にした。足りない分はテンペストで補填するがな」

「へぇー 死ぬまで、金山か銀山にでも放り込むの?」

「放り込まんわ!」

 

 カヤの死ぬまで扱き使うの? 発言に即否定し全く此奴はと言った顔で一応の説明をする。

 

「あのな、ゲルド達がやってる建設工事に、半年間従事してもらうんだよ。強制労働と言っても、酔っぱらいの世間知らずがやらかした事だからな。まっとうな労働で今回は返してもらう。因みに暴行傷害など起こした奴には、それ相応の処罰が下るぞ」

「なるほどねぇ。リムルはさぁ、転生前は国を治める勉強でもしてたの?」

「ゼネコンに勤務する、只のサラリーマンだったよ。フフッ」

 

 ゼネ? サラリマン? 首を傾げなんだそれと聞くカヤに、お前達で言うお役目みたいなものだよと言い、おぉ! お役目かー わかったと一応の理解を示す。

 

「カヤ、転生前にした色々な勉強の賜物なのよ。少しは見習いなさいな」

「いや、いい。そんなのは出来るものに、任せればいいよ!」

「「まったく、カヤは。プッ」」

 

 即拒否のカヤにモモカとリムルは、顔を見合わせ軽く笑い合う。

 

 それからモモカはカヤに目配せすると、懐から道中財布を取り出しお互いに金貨十枚を執務机の上に置いた。

 

「リムル、これを宿屋の御主人に渡してもらえるかしら。騒ぎを起こしたお詫びなのだけど」

「いいのか? 今回はお前たちに責任はないし、むしろモモカのお陰で周りの建物、人や魔物に怪我人は出なかったしな、一名を除いては」

「いいんだよ、リムル。あそこには一応お世話にはなってたからね」

「カヤの言う通りよ、リムル。だからお願い」

「お前達で渡せばいいんじゃないか?」

 

 リムルの返しに二人は無言で首を横に振り、それを見たリムルは「わかった」と言うとリグルドを呼び、昨日騒ぎのあった宿屋兼酒場の主人に、この金貨二十枚をカヤとモモカからのお詫びと言って渡してくれと命じ、「わかりました!リムル様、それでは」一礼し金貨を小さめの皮袋に入れ、足早に執務室を後にした。

 

「そうだ、これを。カヤ、お前にやるよ」

 

 リムルは執務机の上に、パーティで使うようなパーティグッズに似た猫の肉球を模したグローブを出した。

 

「なに、これ?」

「これはな、お前の力を十分の一にするグローブだ」

「え?……やっぱり罰じゃん!」

 

 リムルは「違うわ!」と叫び、不貞腐れるカヤに肉球グローブの説明を始める。

 

「これはな、手加減が苦手なお前が、間違って力を使った時に被害が最小限になるようにだな、とにかく、またこのような事が起こったら、このニクキュウグローブを着ける様に、いいな。でも無闇に力は使うなよ、それは今まで通りだぞ」

「なに!! じゃあコツンしていいんだよね!? ニャフー」

「違う! 話は最後まで聞け!」

 

 ウキウキしてニクキュウグローブを着けると、グーパーグーパーし「これ何か可愛いけど、マヌケだな。フヒヒヒッ」笑いながら、ヒュンヒュンと枝がしなるような動作でパンチを宙に放つ。

 

 モモカにちょっと手を貸してー と言い「仕方ないわね」そう言い右手を開いて前に突き出し、それを目掛けてカヤが右肩をモモカに向けた右半身から、右手を軽く開き枝がしなるような動きで拳を繰り出し、当たった瞬間に拳を握るパンチを見舞う。

 

 パンと音速を突破した音を執務室に響かせたが、あからさまに威力が落ちていた。

 

「おおぉ! いいな、これ! コツンやり放題だな!」

「あぁ、カヤ。それを着けたからって力を使っていいわけじゃないからな。今まで通りだ! やむを得ない時を除いてはな、いいな!」

「えぇ…… わかった、よ」

 

 リムからの念押しに渋々返事をしてニクキュウグローブを外し、(たもと)の収納空間にニクキュウグローブを仕舞った。

 

 リムルの要件も済み執務室を出た二人は、住む場所を探しにジュラの大森林へ向かう。

 

 

 そして、探し始めて三日目。

 

 

「あ~ もう、ヴェルドラの所に居候でもいいじゃん! 大森林とか魔虫はいるわ、鬱蒼(うっそう)としてるわ、やっぱり嫌だぞ、あたしは!」

「あー うるさい! 駄々っ子バカは黙れ!」

「バカだとー!? この、盛り乳(モリチチ)女がぁあああ!」

「はぁっ? それ、わたしのこと、か・し・ら? ねぇ、カヤ」

 

 完全に目が座ったモモカに、カヤの尻尾の毛が一気にボワワッと逆立ち、即座に逃げの態勢を取る。

 

「いっぺん、死ね!」

 

 両袂から呪符の束を出し、両腕をクロスさせ呪符を撒き、無数の呪符がモモカの周りを高速で回り、両腕を左右に開き次にパンと手を合わせ短拍手を鳴らすと、呪符が一斉にカヤに襲い掛かる。

 

「おわぁっ!!」

 

 カヤに向かって高速飛来した呪符が、次々に爆発し凄まじい爆炎を上げる。

 

「まじで投げるか、あんた!」

「し・ね」

 

 〝爆炎呪符・連鎖黒数珠(れんさくろじゅず)〟 

 

 つい先日完成した、呪符術、魔法、次元振動波の複合爆炎呪符を惜しみなくカヤに、放つモモカ。

 

 近接で爆発する呪符が、『多次元結界』を揺らし一部の爆発運動エネルギーが、カヤの結界を貫通して精神体(スピリチュアボディ)にダメージを与えていく。

 

(やばっ!! これ『多次元結界』を一部貫通してね!? なに迷惑なもん、開発してんだあの姉は!! 大森林荒らしたらまたリムルに怒られるし、空に逃げるか)

 

 大森林の中を逃げ回ってたカヤは無造作にジャンプし、五百メートル付近で止まると、どこに逃げるか『思考加速』をかけ、逃げる場所を探す。

 

(どこに逃げよう、ヴェルドラの所……駄目だ、すぐばれる。ラミリスの研究所……無理、ラミリスはすぐ顔に出る。ルミナス姉さまの所……いかん、あそこは一緒になってあたしにお仕置きしそうだ。くぅうーー 逃げ場無し! とりあえず、適当に飛んで逃げよう!)

 

 飛行体勢を取ると、一気に加速を掛け音速を突破し、不規則高速蛇行を取りモモカの追撃を躱し、必死に逃げるカヤ。一方空に上がってきたモモカは飛行体勢のまま、呪符を展開しカヤに向かってミサイルのように呪符を飛ばしていく。

 

(ふ、振りきれないーーーー! あの呪符ヤバすぎる!)

 

 ピタリと後ろに付け追撃するモモカに、カヤは更に加速を掛けるも、モモカが更にスピードを上げカヤに迫ってくる。

 

「お、お、お、お姉ちゃん! ごめんなさい! もう言わないからゆるしてー!!」

「フフフフフ。これ、精神体(スピリチュアボディ)の魔物用に作ったのよ。中々に効くでしょ~ あんたみたいなおバカな子を殺す為の呪符術よ。ス・テ・キ・で・しょう~フフフフ、アハハハッ」

「ウキャアアアアアアアアッ!! 超マジに激オコじゃないかぁーーーー!!」

 

 涙目で叫び逃飛行をするカヤの進行方向に、いきなり網の目のように広がった呪符がカヤの目に飛び込んできた。

 

「なにゃー!」

 

 慌てて身体を起こし、急制動を掛ける為両手を前に突き出し、同じように両足も前に突き出していく――しかし間に合わず網の目に広がった呪符の網に、激突した。

 

「あぎゃぎゃーーーーーーッ!!」

 

 激しく空間を歪ませる電撃がカヤを包み、暴れ狂う。

 

 〝次元雷撃呪符・破天雷光(はてんらいこう)

 

 空間を歪ませ対象に襲い来る雷撃は、精神体ごとカヤにダメージを与え、黒焦げになったカヤが「フ、フニャニャ~~ッ」か細い声を上げ大森林の地上へ黒煙を引きながら落ちてゆく。

 

 空中で仁王立ちしたモモカは、満足そうに頷きカヤの落ちた地点へと向かい降下する。

 

 頭から大地に激突し、穴をあけ足首だけ見えてるカヤの足を無造作に掴み、引き抜くとモモカが笑みを浮かべながらカヤに告げる。

 

「まだ、やる? フフフフッ」

「い゛、や゛、もう、かんべ、ん、じでぐ、だざい」

「いいわよ。次言ったら、秘密地下闘技場で十回位死んで貰おうかしらね。フフッ」

「あい……(くそー 〝熱波咆哮(ヒートロア)〟で逆に消し炭にしてくれるわ!)」

 

 そんなやり取りをするモモカの猫耳に、水の流れる音が微かに聞こえてくる。 

 

 カヤの足首を掴んだまま引き摺りながら、水の音がする方へ歩を進めていく。引き摺られながら「もう、足を離してもいいのよ? ねぇ、離してくれるとありがたいかなーと」言うもようやく怒りが収まりつつあるモモカを、刺激しないようやんわり言葉を掛けるカヤだが、それを無視してズンズン歩を進めるモモカであった。

 

 しばらく歩くと、ドワルゴン方面街道に面する農場近くに来て、そこで立ち止まる。

 

 そこには朽ちかけた小さい小屋があり、周りを見渡すも川も小川もなく、『万能感知』で探ると地下水の流れる音で、『解析鑑定』を試みると中々に上質の水質で、更に適度の魔素をも含んでいた。

 

 更に『万能感知』でその水源を辿ると、封印の洞窟から伸びてる地下水であった。

 

「ここは……街道を造り始めた時の休憩小屋なのかしら。適度に広いし二人で住む家を建てるにはちょうどいいわね。魔素を含んだ井戸も造れるし」 

 

 腕組みをした左腕の手で顎を触りながら、モモカはあれこれ思案を始めた。

 

 引き摺りから解放されたカヤは地べたに胡坐座りで、酒蔵君を取り出し中に入れていた〝シュナ特製レモネード・魔素たっぷり〟を飲んでいた。

 

 さっそくモモカはリムルの所へ行き、見つけた場所に二人で住む家を建てる許可をもらい、家を建てる職人にゴブキュウが来てくれることになり、翌日から家を建てる作業が始まった。

 

「わかりました。リムル様の離れにある家みたいな感じで、いいんですね?」

「ええ。入り口正面は土間でそこには台所、入り口左手に囲炉裏端で床は板の間でお願いね。囲炉裏の隣には六畳間位の寝室を、それから寝室、囲炉裏端の入り口方面に向けて縁側を頼めるかしら? あ! お風呂は木の湯船で足が伸ばせる大きさで、お願いね」

「できますぜ。それよりトイレは要らないのですかい?」

「わたし達、物質体(マテリアルボディ)を有する精神体(スピリチュアボディ)だもの、いらないわよ。フフッ」

「いや、来客が生身の方とか来たら困りやせんですかい?」

「そうね……じゃあ、とりあず(かわや)もお願いね」

「厠? ああ、トイレですかい。じゃあ、作業に取り掛かりますんで」

 

 家を建てる作業が始まり、数日で竹に似た竹垣のフェンスで囲われた、こじんまりとした木造平屋が完成した。

 

「おおぉ! 家だ。小さいけど庭もあるし、井戸もある、そして魔力コンロの台所に、あれ!? 薪で焚ける釜戸もあるじゃん。中々いいね~」 

「フフッ。そうね、中々いい家だわね」

 

 カヤとモモカは満足気に話しながら、食器や日用品などを買うため街に繰り出して行った。

 

 家が完成して二日目の午後、カヤはヴェルドラの所でマンガを読んでいて、そこへシュナが試作のお菓子を作ったのでどうぞと持ってきて、しばらくカヤはシュナと雑談をしていた。

 

「そうなのですね。それは大変でしたね。ふふ」

「そうなんだよー ちょっと文句に文句返したら、あんな呪符投げるんだよ!」

「まあ。完成したのですね、複合爆炎呪符」

「えぇ?」

「度々モモカとこちらの世界の元素魔法や、神聖魔法、物理攻撃などについて談義してたのですけど。流石ですね、モモカ」

「へ、へぇ~ (あんたかー あの如何わしい呪符を作る、手伝いしたのは!!)」

「ほんとカヤはモモカに、頭が上がりませんね。ふふ」

「こっちに都乃牟之(ツノムシ)でもいれば、少しはモモカを怖がらせること、できるんだけどねぇ」

都乃牟之?」(ツノムシ)

 

 ちょうど読んでたマンガに書いてある〝G〟と言う虫をシュナに見せて、唯一モモカが苦手で大嫌いな虫なんだよー もし居たら見た瞬間、辺り一面灰燼に帰すかもねと笑いながら話しをしていたら、シュナがこの世界にも居ますよと、カヤに言う。

 

「まじ? いるの? 街で見かけた事なかったんだけど」

「街には『防虫結界』を張ってあるので、虫は入ってこないのですよ。ふふふ」 

 

 それを聞いたカヤは、嫌な予感が尻尾に走りゾワゾワと波打った。

 

(まさか、ね。あの家に出たらとか……これは、あれか、フラグが立つとかじゃないだろな……いやいや、大丈夫よね、うん、多分)

 

 

 一方モモカは魔黒米を米びつに入れ、久しぶりに晩御飯でも作ろうかしらと、米を炊く準備を始める。

 

 

 カサカサ。

 

 

 モモカの猫耳がピクピクと激しく動く。

 

 

 カサ、カサササ。

 

 

 何かの気配を察知し、尻尾の毛がブワッと逆立つ。

 

 米びつの蓋の上に、小さく黒い物体が這い出てきた。

 

 モモカの右眉が跳ね、次第に顔が引きつって来る。

 

 

 そして。

 

 

 それは……。 

 

 

 飛んだ。

 

 

 ブーン。羽音を立てモモカの顔目掛け飛んできて、鼻の上に――止まった。

 

「………………」

「…………」

「………」

「……」

「…」

 

「キ、キャァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 〝範囲限定・破滅の炎(ニュークリアフレイム)

 

 凄まじい火球が家を包み、そこにいた黒い虫ごと見事に灰燼に帰した。

 

 カヤとモモカの新居は、二日で全壊した……。

 

 爆発音を聞き付けたカヤが灰燼と化した我が家に付いた時には、乾いた笑いを口にし、あいつら滅ぼす、巣ごと滅ぼす、ブツブツ呟いていて、カヤが「あんた、何してんの?」ジト目で言うも「やつらよ! やつらがでたのよ! この大森林を巣ごと燃やしてくれるわー!」いきなり呪符の束を出し燃やそうとするモモカを、後ろから羽交い絞めで必死に止めるカヤ。

 

「お、落ち着け、モモカ! もういないよ、 都乃牟之(ツノムシ)

「あいつらはね、一匹見たら、百匹はいるのよ!! 根絶やしよー!!!」

 

 モモカが落ちつくまでかなり時間が掛かり、ようやく落ち着きを取り戻したモモカを街に連れて行く。次の日、更地になったカヤとモモカの家跡地に来たゴブキュウが「姐さん方。どうしたら、こうなるんですかい……」呆然とした顔で言い、そこにひたすらペコペコして、謝るモモカがいた。

 

 

 数日後にはカヤとモモカの家は、綺麗に建て直され、今度は『防虫結界』も、忘れずにモモカ特製の結界が張られた。

 

 

 モモカが唯一、この世で一番嫌いな物、それはG。

 

 モモカすら恐れる、最強のG!!

 

 




 ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます!!

 次回の更新も、よろしくお願いします!


 ※よくカヤが警戒してる時や、何かやらかした時に〝尻尾をブンブン振る〟しぐさの
表現をいれてるのですが、猫は機嫌が悪い時、落ち着かない時など尻尾を振ります。

 面白いのは寝てる時に名前を呼ぶと、尻尾をピクピクさせて返事をするんですよ。
 全部とは言わないですけど猫の尻尾振るしぐさは大体こんな感じですね。
 尻尾の毛が逆立つのは恐れを抱くときや、怒ってる時、興奮、最大限に警戒してる時
などです。

 機嫌がいい時や甘えたいときは猫は尻尾をピーンと立てます。
 嬉しい時など尻尾をブンブン振る犬とは真逆ですね。
 猫を飼ってる方は分かると思いますが、猫を飼ってない方、犬派の方になんで機嫌が
悪いのに尻尾振るの? と疑問に思う読者もいると思い小ネタとして書いてみました。

 作者は猫を飼っています♪

 あと、Gの呼称ですが平安時代は都乃牟之(ツノムシ)とか阿久多牟之(アクタムシ)とか呼ばれてたそうです。江戸時代に入っては油虫、御器噛(ゴキカブリ)と呼ばれ、戦国時代に何て読んでいたか調べたのですが判らず、作中では都乃牟之(ツノムシ)と呼称しました。


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