イングラシア王国より、南西に馬車で十日程掛かる位置にある、独立した自治を行う領民千五百程の小さな自治領、アレリカ公国があった。
街の中心に位置する小さな城の来賓室に、黒色の生地に桜の花を模した柄が入っている着物を着た肩甲骨辺りまでの薄茶色の長い髪で、顔付はやや鋭い目付きをした妖艶なる美女が、化粧台の前で優雅に髪を櫛で
そこへ、音もなく一つの影が現れる。
「ジラか?」
「はい。オトワ様」
返事をした人物は、グレーの七分袖チュニックに紐ベルトを腰に巻き黒のロングパンツに革のブーツを履いた目が細めで髪は黒色のショートカットにした、綺麗な顔付だが表情の無い人形を思わせる女性、ジラがいた。
「テンペストの状況は、どうじゃ?」
「はい。何度か街へ行ったのですが、やはり戦争中なのか、かなり警戒は厳しいですね」
「ふむ。ドラール公爵が言っていた、東の帝国との戦争じゃな」
「はい。街外周は常に魔物の警備隊が巡回しており、街中も強力な魔物……おそらく悪魔族がいるかと。それもかなり強大な魔素量を幾つか感知しました」
「なるほど、なるほど。一筋縄ではいきそうにないのう。クカカカ」
状況を聞いたオトワは、四角いテーブルの所へ移動し椅子に座ると、ジラがテーブルに置かれた
「オトワ様。例の物の進展は如何なものですか?」
「そうじゃな、ほぼ完成したと言うところかのう。『養殖ノ者』が進化で〝
「では、後は人か魔物で試すだけですね」
「うむ。とりあえずは、テンペストにやや近いブルムンド王国でよいかの。次にあのテンペストに住む住人に、試すとするかのう。クカカカ」
「はい。それで、いかような能力なのでしょうか?」
「精霊獣界で捕獲した眷属の魂、約二千をこちらの理に適合させ、尚且つこちらの人や魔物の魂に憑依し、負の感情と生命力を糧に成長していく〝
ニヤリと微笑みながら両掌を開き胸の前に出し、下から大きなボールを持つような形にすると、透き通った水球のような物が現れ、そこには無数の青白く光る小さな光球が泳ぐように動き回っていた。
「元は精霊獣の魂じゃ。成長すればこの世界で言う、
「オトワ様。十二眷属はいかように?」
「あれか……要らぬな。十二も作るなら、その作る魂で五匹程作ればよかろう。さすれば強力な眷属ができるであろうな」
「確かに。その方が効率は、良さそうですね」
「うむ。その暁には、お主に五眷属の指揮と影獣の管理は任せる。よきにはからえ」
「仰せのままに」
テーブルに右肘を置き頬杖を付いたままジラに告げながら、これからどのようにして蹂躙しようかと凍り付くような笑みを浮かべ、宙に浮かべた繁殖球を見詰めていると不意に『思考加速』が掛かり、まるで夢を見るような感覚に引き摺り込まれてゆく。
進化しこの世界に来てから、オトワは先代鈴音の魂を喰らった影響か、先代鈴音がネコマタとして、この世界で猛威を振るってた頃の記憶を頻繁に垣間見ていた。そしてヴェルダナーヴァにより封印されフェイリュアワールドに送られた記憶。
(ふむ。フェイリュアワールド……それが、精霊獣界と呼ばれることに……違うな。己が幽閉された所を、失敗した世界と呼ぶことなど許容できなかったのか、先代は……んん?)
それは、フェイリュアワールドに送られる瞬間にネコマタが、己の半身と一つの力を切り離し「我は必ずここへ戻って来るぞ! 必ずやお前達に復讐してくれる!」そう言い残し時空間の狭間に消えた記憶。
(突然変異種か……ものは言い様じゃな。元は異世界の魔物であったか、ネコマタは。しかし、この断片的に見る鈴音……いやネコマタの記憶。あの古めかしい、あれは都、なのか? 街? ネコマタが生まれた世界は……どこなのだ……しかし、フェイリュアワールドに送られる寸前に切り離した、失われた半身? 力? 何故にそのような事をしたのだ。切り離した力とは、なんぞ? 解せぬな。まあよいか、いずれ分かるであろう。クカッ)
『思考加速』が切れ、微笑を浮かべたままのオトワを、物言わぬ顔でこちらをみるジラに、「何でもない」とだけ告げる。
コンコン。
柔らかくドアをノックする音が、耳に届く。
「どうぞ」優雅な物言いで返事をすると、五十代位で髪の色は金髪、身長は高めで体躯は意外にがっしりとし、綺麗に整えられた鼻髭と顎髭を蓄えており、服は貴族が好んで着る艶やかな装飾が施された服で、執事を従えたドラール・ソル・アレリカ公爵が入ってきた。
「オトワ殿。ご機嫌の程は、いかがかな?」入ってくるなり、優しそうな声でオトワに語り掛ける。
「これはこれは、ドラール公爵。お気遣いありがとうございます」
公爵の挨拶に優し気な微笑みで返し、空いてる椅子を勧め「それでは」と勧められた椅子に座ると、ジラが新しいワイングラスを持って来て
注がれた
「私の領内にあのような凶悪な魔物が出たのは久方ぶりで、討伐戦士団すら敵わなかったのに、あんなにあっさり退治されたのは、見事でしたぞ!」
「いえいえ。たまたま旅の途中で魔物の気配を感知したゆえ、手助けをしたまで。魔物は人間の敵ですからのう」
「その通りですぞ! オトワ殿。我ら人間の永遠の敵なのです、奴らは。昨今は魔物の国がジュラの大森林にできて、人類と共存など甘い言葉で惑わし、それに惑わされる愚かな国が、次々と出る始末。なんとも嘆かわしいでは、ありませぬか!」
少し昂った気持ちを落ち着かせるため、公爵はワイングラスに入った
「ジュラテンペスト……中々厄介な国で、ありますな。あそこには様々な魔物が集まっていると聞き及びましたゆえ、ドラール公爵も頭の痛い処じゃのう」
「全くです。しかし我が領地は他国に頼らずともやってきたのですが、奴らが領内に踏み込まれでもしたら……私はそれだけが心配で……」
「ドラール公爵。たとえ奴らが来ても、我の従者ジラにおまかせ下されば、そこの魔物が来ても、退けて見せましょうぞ」
「おおぉ!! 何とも心強いお言葉。私は歓喜に打ち震えましたぞ!」
「我ら二人、冒険者崩れの根無し草を、このような待遇で滞在を許してくれてるのです。恩を返すのは当然でしょう? ドラール公爵。クフッ」
「何をおっしゃいます。お二人こそ戦士団を救ってくれた、恩人ではありませぬか! 心行くまで、いて下さって結構なのですぞ!」
オトワの言葉にドラール公爵は、半ば興奮気味に答える。しかし、『
確保した魂を改変、繁殖させる力に、少しでも心を許したものを己に隷属させる精神操作能力、これが『
程なくしてドラール公爵は客室を後にし、オトワは吐き捨てるように呟いた。
「ふんっ。いつの世も人間どもは、度し難いな」
「! オトワ様、いつの世とは?」
「んん。何か言ったかえ?」
「いえ、何も(先代の魂の影響がでたのか……まあ、いいでしょう)」
一瞬だけ怪訝そうな顔を浮かべジラの顔を見るも、再び繁殖球を具現化させ目の前に浮かべると、そこへゆっくり手を入れそっと握り、手を引き抜き開くと五つの青白くうねるように光る光球が掌の上に現れた。
「クク。二千五百の繁殖魂を合成し五つに分け、新たな眷属……いや、こ奴らは殺戮と破壊のみに特化させようか、それとも……クカカ、今しばらく繁殖球で眠るが良い。来たる時が来れば起こしてやろうぞ。あの魔王の魂は、さぞかし美味いのであろうなぁ。楽しみじゃな、クカカカカカ」
甲高い笑いを客室に響かせ、繁殖球の中を蠢く無数の憑依核とそれらより大きい五つの光球を眺め舌なめずりをし、ジラに一つの憑依核を渡す。
「任せるぞえ、ジラ」
「はい。お任せを」
オトワから青白く鈍い光を発する豆粒大の憑依核を受け取り、空間転移でブルムンド方面へと転移して行った。
数日後のテンペスト。
夜明け前にいつもの場所へ、カヤは剣の鍛錬に来ていた。
ベニマルが来る前のまだ暗い内から来て、日が昇る前に来るベニマルと入れ替わりに鍛錬を終えるという事を、テンペストに来てから日々やっていた。
少し離れた大きな木の影からカヤの鍛錬を見て、真似る様に木刀を振る小さな影が見え隠れしていた。ここ最近ずっとカヤがここに鍛錬に来ると、必ず来ていた者。
そう、ラコルであった。カヤはすぐに気が付いたけども、見るだけならと知らない振りをしていたが、ラコルの木刀の振りが日に日に様になっていくのに、やっぱり剣の才能があるなぁと、あの時感じたラコルの天賦の才を再認識していた。
(見取り稽古ができるなんて、まあ、真似るだけならいいけども、中途半端に覚えてもどうにか成るものでもないしなぁ。う~ん……鍛えたらかなりの使い手にはなるけども……だから、尚更教えたくないんだよね~ 朧流の使い手になって欲しいんだけど……流石に闇を受け入れて、殺意を己の一部とせよとかラコルに教えたら、ダコラとラナは怒るだろうな。いや、それよりもリムルが怒るよねぇ。ほんと、どうしたもんかねぇ~)
様々な思いがグルグルと頭の中を駆け巡る……正当な武術とは違う殺人武術をあの小さなラコルに教えたくはないし、テンペストの武術たる朧流剣術を学ぶのが、ラコルにとって一番いい事だと、カヤは考えた。
「やっぱり、無理だわ」
微かに聞こえる声で呟き、ヒュヒュッと千鳥を振りチンッと軽やかな音を立て鞘に納め、朝の鍛錬を終え帰ろうとする所へ、ベニマルが入れ替わりに朝の鍛錬にやってきた。
「おはよう。いつも精が出るな」
「おはよ~ そっちもね」
軽く挨拶を交わし立ち去るカヤに、ベニマルが『思念伝達』で『思考加速』を掛けつつ話しかけてくる。
『カヤ、また来てるなラコル。いいのか、このままで』
『う~ん。良いも悪いもないし、見るだけなら構わないよ』
『なぁ、いい加減教えてもいいんじゃないか? お前が使う殺人武術位で俺達の見方が、変わる訳でもないし、別に強くなれればいいと思うぞ』
『あ~ うん、そうだね。でも闇夜影千流の本質を教えると、ラコルがもう今までのラコルでいられなくなる……。あたしは今のラコルが好きだし、あたしとモモカみたいな、暗殺者にする気はないんだよ』
『暗殺者ではなく、普通の剣術使いに育てればいいんじゃないかと思うぞ』
『まあ、それはそうなんだけど。それを抜くと只のそこらにある、有り触れた剣術にしかならないよ。そしてその剣術は多分、弱い』
大木の影から二人の様子を伺うラコルは、背を向け合ったまま立ち竦むカヤとベニマルを不思議そうに見て「なんで……教えてくれないのかな。なんで……」と、そう小さく呟く。
『そういうものなのか? 闇夜影千流は』
『うん。誰しもが持ってる心の闇を受け入れ愛し、殺意を当たり前の感情の一部とし、それらを
『……そうか。だがな、その真意の一部は魔物である俺達には、肯定できる部分があるぞ。お前も今は魔物だ、それにリムル様に連なるテンペストの住人は、そんなにやわじゃないぞ! 少しはラコルの事も、信じてやってみたらどうだ』
『……もし、できたとしてもあたしは……多分、最後まで闇夜影千流の全てを伝授できない。あたしは、師としてラコルの成長を、見守れないんだよ』
『!? 精神生命体のお前に寿命があるわけないし、オトワの事が片付いたらここを去るのか?』
『……うん。多分そうなるかな』
『カヤ、俺からの提案だ。お前達ここの住人にならないか? 来たる決戦の時はお互いの総力戦になる。今の俺達の戦力でも十分なんだが、それを更に盤石なものとしたい。カヤとモモカの力を、貸してはくれないか?』
『ベニマル。それは、軍師としての言葉かな?』
『そうだ。しかしリムル様、ヴェルドラ様の友人として、絶対の信頼を置いてる』
『……そう。でも、できないよ。ごめん』
『いや、こちらこそ唐突にすまなかったな。お前達にも、色々な事情があるものな。もし、気が変わったらいつでも言ってくれ』
そこでベニマルは『思念伝達』を解除し、去り際にカヤが振り向いて「ありがとうね」そう微笑みながら言う、その顔を見てベニマルは何か仄かに漂う哀しみみたいなものを感じ、微笑んでるのに何故そのように感じたんだと考えるも、何か誰にも言えない秘密でもあるのかと思考を巡らせてみたが、余計な詮索は駄目だなとその考えを頭の中から消し去った。
カヤが去ると同時にラコルも遅れてその場を去り、ベニマルは昇り始めた朝日に目を一瞬
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※能力の細かい修正はあるかもです。
<ステータス>
オトワ
種族: 真猫神(物理体を有した、精神生命体)
庇護:オトワの狂愛
称号:無し
魔法:元素魔法 暗黒魔法
固有スキル: 万能感知 思念伝達 擬態 神速再生 魔王覇気 多次元結界
思考加速
アルティメットスキル:
因果律操作??? 空間支配 重力支配 時空間操作
解析鑑定 並列演算
アルティメットスキル:
捕獲した魂を繁殖、改変する(自分を超える魂の作り替えは不可)
精神支配
耐性: 物理攻撃無効 状態異常無効 精神攻撃耐性 自然影響無効
聖魔攻撃耐性 痛覚無効
ジラ
種族: 猫神眷属(物理体を有した、精神生命体)
加護: オトワの加護
称号: 無し
魔法: 元素魔法 暗黒魔法
固有スキル: 万能感知 思念伝達 擬態 神速再生 魔王覇気 多次元結界
思考加速
アルティメットスキル:
絶対刺突 森羅万象 詠唱破棄 時空間操作 重力支配
耐性: 物理攻撃無効 状態異常無効 精神攻撃耐性 自然影響無効
聖魔攻撃耐性 痛覚無効
ここまで読んで頂いた読者の皆様、本当に感謝です!!
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