転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 三十七話です。





三十七話 ラコルの願い

 

 

 地下迷宮訓練場で、いつものようにハクロウの指南を受ける訓練生たちの掛け声が辺りに響いていた。

 

 十二歳から六歳までの魔物達が綺麗に並び、列の前にいるゴブリンの先輩兵士達の掛け声に合わせ、右横薙ぎ斬りからの上段斬り、そして左片手の逆袈裟斬りの型を繰り返し続けていた。

 

 これは、ファルムス王国の手の者によりテンペストが襲撃を受けた時に、多数の死者が出たことにより、自衛目的の護身武術を希望すれば誰でも、朧流・剣術、体術を習うことが出来るようにリムルがハクロウに命じていた。

 

 そして、兵士の訓練の傍らハクロウや、第一軍団から第四までの小隊長クラスが交代で、護身武術を習いに来てる幼年組の面倒を見ていたのだ。

 

 但し、習うことが出来るものはテンペストに住み、生活の基盤を築いてる者の家族や魔国連邦に連なる種族、同盟国関係者のみとなっており、その概要は一切の秘密となっていて、地下迷宮訓練場も関係者以外立ち入り禁止の結界が常時張られていた。

 

「よ~し、幼年組はここらで休憩だ。各自、しっかり水分を補給するように!」

「「「「「はい!」」」」」

 

 先輩ゴブリンの号令の元、百名近くの幼年組訓練生の元気な声が響き、その中にいるラコルも友達の獣人達と休憩に入る。

 

「ねぇねぇ、ラコルちゃん。何か凄く上手くなってない?」

 

 同じ歳の狼種獣人の女の子がラコルに、不思議そうに聞いてきて、周りの子供達も口々に上手くなったねと言葉を掛けてきた。

 

「え? いつも通りだよ」

「ええ~ 嘘だぁー なんか前より全然上手くなってるよ」 

「アタし、なにもしてないんだけどなぁ。へへっ」

 

 謙遜しながらも、カヤの鍛錬を毎朝見続けて真似て練習した剣術の型が、少なからずもラコルの剣の腕を底上げしており、それを実感できて内心とても嬉しい気持ちで一杯になり、顔を綻ばせる。

 

「へぇー ラコルお前、あの余所者の亜人に教えてもらったのか?」

 

 十二歳になる豹種獣人の男の子が、ラコルに(いぶか)し気に話しかけてきた。

 

「教えてもらってないよ。自分で練習したんだよ」

「ああ? お前なぁ、嘘つくならもっとましな嘘つけよ。大方お金でも渡して教えてもらったんだろ? お前の父ちゃんお金持ってるもんな!」

「教えてもらってない! だって教えてくれないんだもん!」

「ハハハッ。こりゃいい、嫌われてんじゃねぇのお前。少しばかり上手くなったからって、いい気になるんじゃねーよ!」

 

 幼年組の中で一番に上手い自分に、日に日に近づいてくるラコルが鼻に付き、影でカヤに教えてもらってるんだと決めつけ、ラコルの友達や周りが褒めるものだからつい出た暴言だったのだ。

 

「ふんっ。六歳も年下のお前に俺が負けるはずないんだよ! 少し腕前をみてやるよ。掛かって来な!」

 

 そう言いながらビッと木刀の剣先をラコルに向け、鼻で笑いながら挑発をしそれを見た子供達がワラワラと集まってきて、ラコルは戸惑ってしまう。

 

「やらないよ。勝手にそんなことしたら、叱られるもん」

「いいんだよ、これは稽古だから。構えろよラコル」

「やらない」

「ハンッ! 余所者の剣術じゃ朧流には勝てないもんな~ だっさ」

「……取り消せ」

「ああ? 聞こえないよー? 何か言ったのかな。ププッ」

「アタしのことはいいけど……カヤお姉ちゃんの闇夜影千流をバカにしないで! 取り消せ! 朧流も凄いけど、闇夜影千流も凄いんだよ!」

「そこまで言うなら、掛かって来いよ。ほぉら、掛かってこいよ。小さいくせに、口だけ達者なラ・コ・ル。ププーッ」

 

 バカにしたように嗤い、正眼の構えを取り、更にラコルを挑発していく。

 

「あやまれ。カヤお姉ちゃんの剣術をバカにしたのは、あやまれ!」

 

 自分の事なら我慢できたけど、大好きなカヤの事をバカにされたことで怒りが爆発し、目に涙を一杯溜めながら挑発する男の子を睨み、腰に巻いた紐状のベルトに木刀を差し男の子前に立つ。

 

 豹種獣人の男の子は涙目のラコルが前に立ち、やる構えをみせると口端をニィッと上げ、綺麗な正眼の構えを取り、ジリジリラコルの方へ詰めて行った。

 

 一方ラコルはスッと腰を落とし、右足を前に出し膝を折り左足を後ろに引き。左手は木刀の柄下辺りを握り、右手を柄に軽く添え全身に力を溜めていく。

 

 これは、カヤの得意とする技の一つ〝紅斬り牙〟の模倣でありラコルが朝の鍛錬で見て以来、気に入った技でずっと反復練習してきた技である。

 

 新兵の訓練を見ていたハクロウは、小さいけれどピリッとした殺気にも似た物を感じ、「誰じゃ、この殺気にも似た気を放つ者は」ポソリと呟きその気配を探る……。 

 

 それは、幼年組の方から微かに漂う殺気の持ち主、ラコルだった。 

 

「いかん!」

 

 ハクロウは声を上げ、瞬動法で幼年組の方へ一気に飛んだ。

 

「なんだ? その変な構えは。やっぱり教えてもらってたじゃないか! いくぞ!」

 

 フルポーションがあるので、怪我をしても問題ないだろうと思い切り、ラコル目掛け木刀を振り降ろしたが。

 

「やあぁっ!」

「うぎゃ!」

 

 それは振り降ろされることはなく宙をクルクルと舞い、カランと乾いた音を立て地面に落ちていた。

 

 木刀が振り上げられた瞬間に、ラコルは全身に溜めた力を一気に解放し、小さな体が蹴られた(まり)のように弾け飛び、男の子の懐に飛び込み木刀を逆袈裟に振り抜いた。

 

 振り抜いた木刀は、男の子の木刀を弾き両腕を折り、そのまま胴を薙ぎ肋骨を数本折っていた。

 

 男の子はその衝撃に気を失い、その場に崩れ落ちて行った。

 

 そこへ、ハクロウが飛び込んできて倒れる男の子を抱き抱えると、懐からフルポーションの瓶を取り出し、すぐさま男の子に振りかけた。

 

「間に合わなんだか」

 

 男の子を抱き抱えたままラコルを見ると、自分の放った技がこんな事になるとは思ってなく、ハクロウの腕の中でぐったりしている男の子を見て、木刀を両手で抱え微かに震えていた。

 

 獣人の男の子を救護班のゴブリナに預け、ハクロウはゆっくりと近づき、ラコルの前に腰を落とすと静かに語り掛ける。

 

「ラコル。その技は、カヤ殿の技じゃな」

「……はい。そうです」 

「そうか。では、二度と訓練では使ってはならぬぞ。よいな」

「はい。ごめんなさい……」

 

 好々爺とした顔で優しく言い聞かせ、休憩所までラコルを連れて行く。

 

 それから程なくして、訓練場へ呼ばれやってきたカヤは、ハクロウから事の成り行きの説明を聞く。

 

「と、言った状況ですじゃ」

「そう。迷惑かけたね、ハクロウさん」

「いえいえ。こう言ったトラブルは訓練には付き物ですじゃ、お気にめさるな」

 

 深々と頭を下げ、ラコルの前に来るとしゃがんで目線を同じにしながら、優しく頭を撫で、言葉をふわりと投げ掛ける。

 

「ラコル、よくあれを出来るようになったね。頑張って練習したんだね」

「うん……いっぱい、いっぱい練習したの」

「うんうん。でも、もう訓練では使っちゃだめだよ。あれは本当に危ないんだ」

「ごめんなさい……。あんなことになるなんて、思わなかったの」

「闇夜影千流の技はね、えげつない位、殺すことに特化した技なんだ。護身用とかそんな優しい剣術じゃないんだよ。朧流の理念とは、多分真逆の位置にあると思う。守る為でも、戦う為でもないんだ。只、ひたすら相手を確実に殺すだけの、技なんだよ。ねえ、ラコルは強くなりたいんでしょ?」

「うん。アタしは強くなりたい。パパとママを守れるくらいに、強くなりたい!」

「じゃあ、尚更ラコルは、朧流をやらなければ駄目だ」 

「なんで? なんでなの? どうして闇夜影千流はダメなの!?」

「ラコル。あんたは、暗殺者になりたいの?」

「え? アタシは強くなりたいだけだもん! 暗殺者なんてなりたくない……」

「そう。なら闇夜影千流は習っても、只の剣術以下にしかならないよ。言ってる事わかるよね?」

 

 暗殺者になりたい? そう問い掛けるカヤの顔は笑みを浮かべてるものの、その表情は色々な感情が入り混じってるようにも見え、それでいて何も無い無感情のようにも見え、ラコルはカヤの心情を読み取ることが出来なかった。

 

 只、カヤが言ってることはなんとなく怖い事だとは察していたが、その怖い事が初めてこの技を使って朧気ながら分かり、黙ってカヤの言葉を聞くだけでいた。

 

 意識を取り戻した獣人の男の子が休憩所に来てラコルを見ると、いの一番に口を開きラコルを罵倒し騒ぎ立てる。

 

「ラコル! おまえ、お父さんに言い付けるからな! 俺のお父さんは第四軍の遊撃隊分隊長なんだからな!」

 

 俯いたままうな垂れるラコルに、容赦なく罵声を浴びせる男の子に、横からカヤが口を挟む。

 

「ごめんね。あたしがちゃんと教えてなかったからさ、悪かったね」

「ああ! おまえ余所者の亜人だな。ラコルの師匠なら、ちゃんと教えろよな!」

「ラコルには教えてないけど、もしちゃんと教えてたら――」

「――おしえてたら、なんだよ!」

「君の胴は、木刀でも真っ二つになっていたよ。あたしの剣術は木刀でも、確実に相手を殺すことができるんだ。魔物も人もそれ以外も区別なく、あたしの剣術は殺すだけの剣術なんだよ。そんな狂った剣術は、ラコルに教えられない。だから君も、ラコルにあまりきつく当たるのはやめてね。同じテンペストの、リムルの愛する住人同士、仲良くしないとダメだぞ」

「ええ……真っ二つなんて……」

 

 ポヤポヤした笑みで言い放つカヤの言葉に、言い知れぬ恐怖とも付かないものに襲われ男の子は口を(つぐ)んでいく。それを見たハクロウが「まあまあカヤ殿もそこまでにしてくだされ。この子もまだまだ世間知れずゆえ」そう言い、男の子を優しく(いさ)める。

 

 一段落した所でカヤは、ラコルを家に送っていくとハクロウに告げ訓練場を後にし二人で歩く中ラコルが口を開き、今日はカヤお姉ちゃんの家にお泊りしたい。そう言い一旦家に送り届け、ラコルは母のラナにお泊りの許可をもらい、カヤの『空間転移』でカヤの家へと飛んだ。

 

「あら、いらっしゃい。ラコル」

「お邪魔します。モモカお姉ちゃん」

「モモカ、ラコルは今日お泊りだから。よろしくね」

「よろしくって、あんたもここの家主じゃない。フフ」

「いいじゃん、べつに。そういや、初めてのお泊りだね、ラコル」

「うん。中々言い出せなくて……」 

「別に遠慮しなくてもいいのよ。好きな時に遊びにいらっしゃいな」

「そうそう。遊びに来るならいつでも来な」

「いいの?」

「「もちろん」」

「えへへ、ありがと。カヤお姉ちゃん! モモカお姉ちゃん!」

 

 ここ最近全然遊んでくれない、というか累犯にテンペストを出てどこかへ行ってるらしく二人共テンペストにいない時があり、カヤとお話できない、遊べない、そんな悶々とした日々がラコルの気持を暗くしていた。

 

 もうここには帰ってこないんじゃないか、そんな考えが頭を過り、いつか黙って居なくなるんじゃないかと、小さな胸に黒い嫌な気持ちが沸き上がるが……。

 

 しかし、朝の鍛錬にはいつもの場所へ来るので、いつしかラコルも早起きしてカヤの鍛錬を見に来るようになっていたのだ。

 

 大好きなカヤお姉ちゃんにできたらずっとテンペストに居て欲しい、口には出さないけどカヤと遊ぶ内にそう思う様になり、少しでも長く、一緒にいたい。

 

 それはラコルの胸に秘めた、小さな願い。

 

 だからカヤの弟子になればいつも一緒にいられるし、もし離れたとしても師弟ならば関係が途切れることもないと、幼いながらもそう考えカヤに剣術の手解きを頼んでいたが、いつも返ってくる言葉は「ごめん。教えられない」それを聞くたび落ち込み「なんで? どうして?」何度もカヤに問うた言葉。

 

 でもカヤは笑みを浮かべるだけで、それ以上は何も答えてくれなかった。

 

 朝の鍛錬を盗み見して何か一つでも覚えれば、少しは手解きをしてくれるんじゃないか、そう思いカヤがいつも鍛錬中に見せる技〝紅斬り牙〟をひたすら練習してきた。

 

 だけど、結果は……相手に大怪我をさせてしまい、自分で使った技に僅かながら恐を抱き、カヤが言ってた〝恐い剣術〟というのが少しわかったのである。

 

 しかし、カヤとモモカに「いつでも遊びに来てもいい」その言葉を聞いただけでラコルの黒く渦巻く不安な気持ちは、霧が晴れ朝日が差し込むように薄らいでいく。

 

「それじゃカヤ。わたしは夕飯の買い出しに行くから、ラコルと先にお風呂でも入ってなさいな」

「だね。ラコル、お風呂はいろっか?」

「うん! お風呂はいる~」

 

 モモカが買い出しに出た後。

 

「お風呂の準備手伝うね」

 

 ラコルはカヤに言う。

 

「じゃあ、湯船をちょっと洗おうか」

 

 それにカヤが答え、ラコルと一緒にお風呂場に来る。

 

 そこには、木の湯船があり足を延ばしても十分な大きさでありラコルが「ここのお風呂いいな~。木の香りがいいね」と褒めるのを、カヤは「いいだろう~。特注湯船なんだぞー」と、湯船を洗いながら嬉しそうに言う。 

 

 湯垢を落とし綺麗になった所で、ラコルが湯船に水を張ろうとすると、ああ違う違うこっちの蛇口だよー 二つある蛇口の片方を捻ると湯気を立ててお湯が出てくる。

 

 その湯気に混じってどこかで嗅いだ匂いが漂ってきて、ラコルは鼻をスンスンと鳴らす。

 

「カヤお姉ちゃん、これ温泉だよね?」

「そだよー いいだろ~」

「ここ温泉出ないよね。どうしたの?」

「え? 小さい事を気にしちゃダメだぞラコル」

「カヤお姉ちゃん。なんで温泉出てるの?」

 

 じーっとラコルに見つめられ、カヤはグリっと視線を外し「さあ、何ででるのかなー」明らかに何か隠してるのが丸わかりで、ラコルはカヤの前に来て「カヤお姉ちゃん、何したの白状しなさい」左手を腰に当て右人差し指をビッとカヤに指し、キリリと言う。

 

 ラコルに問い詰められ、渋々カヤはゴブタに何度か〝エルフのお店〟でお酒を奢ってやり、そこで影移動が出来るゴブタに、迎賓館大浴場の温泉パイプからこっちの家に温泉を引くパイプを繋げてもらうことを頼み、ゴブタも酔いに任せてOKを出しこの家に温泉が出るようになったのよと話す。

 

「知らないよ。またリムル様に怒られても」

「大丈夫! この家で使うだけだから、問題なしよ?」

「なんで最後の方は首を(かし)げるの。全くカヤお姉ちゃんは、ゴブタお兄ちゃんを巻き込んだらダメでしょ。もう、仕方ないから秘密にしてあげるけども」

「おおぉ! ラコルいい子!」

 

 ラコルを抱きしめ頭を撫で、いい子いい子するカヤに嫌がる素振りも見せず、されるがままにホワリと顔を(ほころ)ばせる。

 

 お湯も準備でき二人はお風呂に入り、ラコルは頭を洗ってもらいお返しにカヤの背中を流し二人して湯船に浸かるとカヤがいつものように「ニ゛ャアアアァ」と言いながら、お湯に浸かる。

 

「カヤお姉ちゃん。それオジサンくさいよ」

 

 それにラコルがツッコミ、カヤは「いいんだよ~ これが温泉に浸かる儀式みたいなものなんだよ~」と返し「そんなものないよ。クスス」笑いながら更にラコルは言葉を返した。

 

 程なくしてモモカが帰って来て。

 

「今日はお鍋にするわね。いい牛鹿(ウジカ)の肉があったので買ってきたわよ。それとシュナからすき焼きの割り下を貰ってきたから。フフ」

 

 それを聞いたカヤは「すき焼きか! あれ美味しいんだよね~」と、嬉しそうに言う。

 

 二人がお風呂から上がってきたので、入れ替わりにモモカがお風呂に入っていく。

 

 ラコルにご飯の準備しようかと声を掛け、囲炉裏に火を(おこ)し台所へ行き野菜を手際よく切り始め、その光景を不思議そうにラコルは見ていた。

 

「カヤお姉ちゃん、お料理できたの?」

「そだよー ラコルの歳位からモモカとあたしは、お料理出来るように教えられたんだよねぇ」

「どうしてなの?」

「うーん、あたし達が人間だった頃住んでた里はさ、親がお務めで家を長く空けることが多かったから、里の子供達は家事全般をできるように教えられるの。そうしないと、もし親がお務めの途中で死んだりしたら、生きていけないからね。親が死んだら里の大人達は最低限の面倒は見るけども、基本自分の事は自分で出来なきゃ、一人前として見てもらえない。成人しても、半人前としか里の者は見てくれないんだよ」

「パパとママが死んじゃうなんて……。そんなに危険なお仕事なんだ」

「そう、いつも死と隣り合わせだったからね、あたしとモモカが人間だった頃は」

 

 遠い昔の事を少し懐かしむ様に話すカヤの顔を見て、カヤお姉ちゃんはアタシの知らない世界でとても大変な生活をしてたんだと思うと、ラコルはカヤの本当の姿はどれ何だろうと考える。

 

 怒るとちょっと怖いカヤお姉ちゃん、ポヤポヤしてるカヤお姉ちゃん、お酒とお肉が大好きなカヤお姉ちゃん、多分どれも本当のアタシの大好きなカヤお姉ちゃんだ、そう結論付けると大きなお皿に切った野菜を乗せながら、カヤの顔を覗き込む。

 

 それに気付いたカヤはラコルの頭にポンと手を乗せ、ごめんちょっと暗い話だったね、気付かいながら言うのをラコルは笑顔で「ううん、カヤお姉ちゃんの昔の事聞けたからいいの」そう答え、カヤは「そっか。じゃあ、これを囲炉裏に持っていこうか」ニカーッと笑みを浮かべ、すき焼き用の鍋を囲炉裏の鍋掛に掛け、モモカがお風呂から上がるのを二人で待つ。

 

 モモカがお風呂から上がってきたら、ちょうどいい位に鍋が煮えており、毒抜きした鶏鴨(ケガモ)の卵を小さな皿に溶きラコルに渡し、さあ食べようと三人は鍋に箸をのばしてゆく。

 

 相変わらず肉ばかり食べるカヤに、モモカとラコルが苦笑いをするのも気にせず小皿に山盛りの肉を盛り、酒蔵君に入れてるビールをクピクピ飲み肉をパクつき、ラコルも負けじと野菜、お肉と満遍なく小皿に盛り、林檎ジュースを同じくクピクピと飲む姿に、モモカは「あんたら、何か似てるわね。フフフ」と笑みを浮かべる。

 

 色々な話に花を咲かせながらの夕餉(ゆうげ)は、ラコルにとって両親との食事とはまた違った楽しさがあり、いつも以上に食が進み少し食べ過ぎたお腹を擦り、ふーっと小さく息を吐く。

 

 食事が終わり、カヤとモモカが後片付けをするのを囲炉裏端から眺めていると、昼間の疲れからかいつしか船をこぎ始め、囲炉裏端に敷いてる座布団の上で丸まって寝てしまい後片付けが終わったカヤに抱き抱えられ、寝室の布団に寝かされる。

 

 ラコルが寝たので魔力ランプの明かりを落とし、囲炉裏の火と蝋燭だけの明かりにし囲炉裏の前に二人して座っていた。

 

「ラコル、今日あんなことあったから、疲れていたのね」 

「うん。流石に不完全ながら〝紅斬り牙〟を使うなんて、びっくりしたよ」

「そう……あの子が〝紅斬り牙〟を見よう見まねで、使えるなんてねぇ」

 

 酒蔵君のにごり酒をゴクリと飲み、しみじみとモモカは答え、カヤも「どうしたもんかねぇ」と呟きながら寝室の方へ目を向ける。

 

「ラコルの名前って、ダコラが名付けしたんだって」

「え? あれかなり魔素(エネルギー)を持っていかれるから、とても危険と聞いたわよ、シュナから」

「下手すると命を失うらしいね。リムルの場合はヴェルドラが魔素を貸してたらしいけど、クヒヒ。ダコラはさ、ユーラザニアでカリオンって元魔王に使えてた頃、物資調達係の傍ら戦士もしてたらしいんだよ。かなりの剣の達人だったらしい。でさ、テンペストの住人になると決めた時に、最愛の娘に名を送ると言って、周りの者が止めるのを聞かずに名付けして、ごっそり魔素を取られて弱体化してしまったらしいよ。今じゃ一介の商人としてカリオンが配下になった、ミリムと言う魔王の領地を行き来する、行商人になったということらしい」

「なるほどねぇ。誰に聞いたの?」

「シオン。ベニマルの奥方の一人がユーラザニアの元幹部だったらしくて、その奥方から聞いたと言ってたよシオン」

 

 そこまで言いカヤは、酒蔵君を掴みグイっと一口飲み、モモカに差し出すとモモカもコクコク喉を鳴らしながら酒を流し込む。

 

 囲炉裏の火が二人の瞳に映し出され、ゆーらゆーら揺れ舞い、パキッ、パキッ、薪の弾ける音が軽やかに響く。

 

「ラコルさ、異様に物覚えがいいよね」

「……確かに、そうね。ダコラの剣の才を受け継いだのかもね」

「お風呂入ってる時に、何となく気になったから『一隻眼』で見たらさ、ラコル、ユニークスキル一つ持ってたのよ。ユニークスキル『見取る者(ミトリゲイコ)』って言うね」

「それって……」

「そう。まさしく見取り稽古成るものだよ」

「それでか。納得だわね、あの子の覚える感が良すぎるのも」

「まあ、ユニークスキルの力もあるけども、剣術の才は確かにあるよラコル。多分ダコラも相当の使い手だったと思う、話を聞いた限りではね」

 

 カヤは静かに言い、火箸で囲炉裏の薪を突きフワッと火の粉が舞い、カラリと音立て薪が動く。

 

「ねぇ、カヤ。もしラコルに闇夜影千流を教えたら、どの位いけるかしら?」

「うーん、そうねぇ。多分だけど、あたしに匹敵する使い手にはなるかもねぇ」

「あんたに、そこまで言わせるなんて、本当に剣術の才があるのね。ユニークスキル抜きで」

「だから、朧流剣術を極めて欲しいんだけども……。ラコルってさ、意外に頑固だからなぁ」

 

 困ったような言い方をして、モモカにあんたも小さい頃相当頑固だったじゃない、クスクス笑いながら言われ、カヤがあたしはあそこまで頑固じゃないと返しお互いに顔を見合わせ思わず吹き出し笑いだすも、ラコルが起きない様に慌てて二人は口を押える。

 

 ラコルは夢を見ていた。

 

 カヤと並び立ち、剣術の稽古を付けてもらう自分。

 

 大好きなカヤとモモカに挟まれて笑い合う、自分の姿。

 

 いつまでも二人と一緒にいたい、ラコルの小さな願い。

 

 強くなって、パパとママを守りたい、ラコルの思い。

 

 ラコルは夢の中で、強く、思い、願っていた。

 

 大好きなお姉ちゃん達と、いつまでも、ずっと、一緒にいたい。

 

 

 静かに闇が深まり、テンペストの夜が、ゆっくりと更けていく。

 

 

 

 

===========================================

 

ラコル

 

EP:???          種族:猫種獣人

 

加護:加護無し        称号:無し

 

能力:ユニークスキル 『見取る者(ミトリゲイコ)

   

 

 




 ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます!

 次回の更新も読んで頂けたら幸いです。






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