転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 四十話です。


四十話 暗殺組織・サイファー (掌握

 

 地下アジトにある三十畳程の大広間に、男八人、女六人が、大きな黒曜石で出来た長方形のテーブルに座り、険しい顔をして密談をしていた。

 

「お(かしら)、どうするんですかい? 〝三賢酔(リエガ)〟の奴ら血眼になって捜してますぜ」

 

 痩せ型の男が上座に座る、髪を短く刈り上げた、俗にいうミリタリーカット風の髪型をした、見た目は三十代半ば位で、筋肉質というより、引き締まった、無駄のない体格をした男に、言葉を投げた。

 

「ああ、その件はこの間も言った通り、探りを入れて来た者は誰であろうと消せ」

 

 その声は淡々と言うも、配下の者には有無を言わせない圧があり、そこに居る皆が黙って頷く。

 

「それでじゃ。そろそろ、簡易転移陣を別の場所に移そうと思うておる。しばし、登録を解除するでな。皆も逃走経路は、旧経路を使うようにな」

 

 お頭の右列先頭に座る、ローブに付いたフードを目深に被った、初老の老婆がしゃがれた声で告げた。

 

「ザーバ、何かあったのかしら?」

 

 老婆の真向かいに座る、茶髪でショートカットにした髪型で歳は二十二になる若い女性、ディーナが口を開く。

 

「いや、なにね。ここのとこ見慣れぬ女の二人組が、いつもの酒場に出入りしてるんでね。用心のためだよ。フエッフエッフエッ」

「ああー。何かしつこく絡んできた男を、一撃で昏倒させた女ね」

「お前、見たのかい?」

「たまたま、その酒場に居合わせててね、男二人と店を出たから後つけて見たら、路地裏に入って向き合った瞬間に、二人の男は地面に崩れ落ちたんだよ。何をしたか見えなかったんだけど。あれは、パンチで男の顎を掠めたんだろうね。女の手が男の顔付近に上げられた時には既に、昏倒してたからね二人の男。そう言えば変な丸っこいグローブを手に着けてたわね」

「ザーバ、簡易転移陣の移設をすぐにやれ」

「ああ、すぐに取り掛かるよ」

 

 (かしら)のベゼットがザーバに転移陣の移設を命令すると、ガチャリと大広間のドアが開きカヤとモモカが悠然と入ってきた。

 

 見た目十代にし見えない亜人娘が入ってきたので、ベゼット以下配下達は一瞬驚くもすぐに席を立ち、戦闘態勢を取る。

 

 それを意に介せず二人は余った椅子を下座に持っていき、腰掛けるとカヤがニヤリとしながら、言葉を投げた。

 

「まあまあ、そう慌てなさんな。相手は後でしてやるからさ。とりあえず座れよ、一応話し合いに来たんだからさぁ。ウヒヒ」

 

 煽るように言い放ち、ブルゾンのポケットに両手を入れたまま、その場にいる者をゆっくりと見回した。

 

「ガキが、どうやって来た? もう生きては、ここから帰れんぞ」

 

 カヤの近くにいる二十代位のがっしりとした体格の男が、光の消えたような瞳で睨みながら刃渡り四十センチ程のショートソードを抜き、ジリジリと間合いを詰めてきた。

 

「慌てるなって言ったじゃん。大人しく座ってなって。もう、せっかちさんなんだからぁ。キキッ(バカがひとーり)」

「たかが亜人如きのガキのくせに、その舌を切って魔獣の餌にしてやろう!」

 

 ブンッ、残像を残し一気にカヤに詰め寄り、ショートソードを振り降ろす。カヤは男が動いた瞬間床を蹴り、椅子ごと後ろに飛び椅子の足が床の石畳と擦れて、ガアァーッと嫌な音を響かせた。

 

 カヤは、すかさず自分を追って来た男に向かって椅子を蹴り飛ばす。

 

 蹴り飛ばされた椅子を左腕を振り抜いて折り砕き、カヤの首筋を狙って刃を真横に振る。

 

 それを難なく(かわ)し、次々と振るわれる斬撃をヒョイヒョイ躱して、心臓を狙って突き出されたショートソードを、柄を握る手ごと真下から真上に蹴り上げた。

 

 カツーン! 乾いた音を立て天井に突き刺さったショートソードを、えっ?と見上げカヤに視線を戻すと、身体を右横にして膝を上げたカヤが映る。

 

 放たれる右横蹴り足刀の三連蹴り――

 

 ――刹那、パパパン! 空気が肉を叩くような音がし、男の左膝が曲がってはいけない方向に曲がり、胸の真ん中がへこみ、鼻がグシャリと潰れ、そのままうつ伏せに倒れた。

 

 闇夜影千流(やみよえいせんりゅう)・柔術 蹴技・〝死蝶三段蹴り〟

 

 あまりの速さの蹴りに暗殺者達は驚愕し、ようやく目の前にいる二人が只の小娘ではないと悟り、皆ベゼットの方へ視線を投げる。 

 

「うーん、死んだかな? お、生きてる生きてる」

 

 ポケットから手を出し、倒れた男の後頭部をニクキュウグローブをはめたまま、ポンポンと叩いていた。

 

「あ!? お前、あの時の女!」

「ん? おぉー 酔っぱらい男ぶっ飛ばした時、覗きに来ていた奴じゃん」

「なに! バレてたのか……」

 

 ディーナがカヤのニクキュウグローブを見て声を上げるや。

 

「下がれ」

 

 ベゼットが低い声で手を横に振ると、配下の者達は後ろに下がっていく。

 

 皆が下がった後、テーブルの縁に手を掛け横倒しにして、テーブルの真ん中を軽くコンと叩く。

 

 すると、大きなテーブルは軽々と壁際に押しやられ、引き摺るような音を立て壁に激突して壁に掛かった絵や剣などが振動で軒並み床に落ち、テーブルに弾かれた椅子が散らばっていく。

 

「あらあら、やる気なのね。フフ」

 

 モモカが椅子に座ったまま、コロコロと笑いながら言う。

 

 カヤが「そいつ、任せるよ」そう言うと、椅子の背もたれを前にして座り、背もたれに両腕を置き顎を乗せて見学体勢になる。

 

「仕方ないわねぇ。じゃあ、来なさいな」

「女、お前達二人は何者だ?」

「うーん。この組織を貰いに来た者かしらねぇ。フフフ」

「そうか。ならば、死ね」

 

 腰の後ろに差した刃渡り三十センチのナックルガード付きの大型ナイフを抜き、眼前に構えると影が薄くなるように、ベゼットの姿が消えていく。

 

「あらま、見事な隠形術ね。やれやれ、ちょっとだけ、本気でお相手しましょうか。あ、そうそう、間違って死んだらごめんなさいねぇ」

 

 椅子から立ち、笑みを絶やさないモモカに、ザーバだけは何かヤバいものを相手にしてるのではと一抹の不安を覚える。

 

 そして、万が一の時の為に逃走用転移陣の準備を始め、密かに暗殺用の魔法詠唱を始めていく。

 

 他の配下達は、お頭のユニークスキル〝忍び歩く者(サイレント・ウォーク)〟が発動したのに、モモカが為す術もなく斬り刻まれる様を思い浮かべ、冷たい笑いを浮かべてモモカを見る。

 

 手をだらりとしたまま立ち、モモカの猫耳だけがピクピク動いていた。

 

 不意にモモカの延髄にナイフの切っ先が迫るも、クルリと身体をその場で回転させてナイフを交わしていく。

 

 消えては現れるナイフ、一切の音も気配も姿も消し去るベゼットの〝忍び歩く者〟の権能に今まで生き残った者はいなかった。

 

 首、心臓、肝臓、いきなり虚空から現れる急所攻撃を、モモカはクルリ、クルリ、まるで舞を舞う様に動き全ての攻撃を受け流していく。

 

(何故だ、何故奴には俺の攻撃が見える……まさか、奴もユニークスキルを持っているのか!)

 

 どんなに虚を突いても、全ての攻撃が(かわ)されていくのにベゼットは次第に焦り始める。

 

 モモカの喉元に突き出されたナイフの切っ先が刺さる寸前で、ナイフの動きに合わせて動き、そのまま空を切ったナイフを握る右手の手首を掴み、左手で肘関節を極め投げた。

 

 ベゼットは関節を極められた瞬間に、投げられる方向に逆らわずに飛び、腕を折られるのを辛うじて防ぐ。 

 

「へえ~ 反応いいじゃん。お頭やってるだけあって伊達じゃないね~」

 

 観戦してたカヤが感嘆の声を上げ、パチパチと手を叩く。 

 

(何なんだい、こいつ等は? 只の亜人とは思えない……。クソッ!) 

 

 手を叩くカヤを見て、ディーナは暗殺者である自分が底知れぬ恐怖を覚え始めるのに、何か決定的な間違いを犯したのではと思わずにはいられなかった。

 

「小細工は、やめだ」

 

 姿を現したベゼットは重々しく告げると、右手の大型ナイフを逆手に握り、パンチ、蹴りと激しい猛攻を仕掛ける。

 

 ナイフのナックルガード部分でパンチを見舞い、そこから抉るようにナイフの刃を振るっていく。

 

 相対する者には厄介極まりない攻撃だが、モモカは優雅に受け流し、見る者にまるでスローモーションで動いてるかのような、錯覚を覚えさせていた。

 

(ゆらり、ゆらり、厄介だな。まず、その足から潰す!)

 

 フェイントを織り交ぜた、左右のストレートから上段蹴りを放ち、すかさず豪速の左カーフキックを叩き込んだ。

 

 大木すらも砕き折るベゼットのカーフキックは吸い込まれるように、モモカの左脛に当たった――

 

 ――はずなのにベゼットはバランスを崩し、完全に身体が前のめりになっていて「なにっ!?」声を上げた瞬間に、右頬をモモカの左廻し蹴りで蹴り抜かれた。

 

 グルリ白目を剥き、頭をガクガク揺らしながら両膝を床に付き、そのまま横倒しに倒れ、意識が切れた。

 

 モモカの闇夜影千流・柔術、返し技・口伝奥義 〝影足〟でカーフキックをいなされ、蹴る目標が無くなった左足ごと体のバランスを崩されたのである。

 

「終わったか。さてと、どうする? 皆で掛かって来る?」

「フエッフエッ、油断大敵じゃ、死ね!」

 

 カヤが椅子から立ちモモカの横に立ち言うと、ザーバが両手を突き出し何かを握りつぶすような動作を取った。

 

 〝心臓圧殺(ハートクラッシュ)〟、ザーバの暗殺魔法。

 離れた対象の心臓を空間圧縮で握りつぶす魔法が放たれた。

 

 グシャリ、確かに心臓を握りつぶした感触が両手に伝わってきた―― 

 

 が、カヤは大きな欠伸をして頬をポリポリ搔き、モモカは冷たく斬り裂くような眼光でザーバを見る。

 

 信じられないといった顔をするザーバに、モモカはゆっくりと口を開く。

 

「残念ね。わたし達に臓器などないのよ、おバカさん。もっと相手を見極める目を養わないと生き残れないわよ。フフ」

「なっ……精神生命体なのか、あんたら?」

「ご明察。物質体(マテリアルボディ)を有した精神生命体なのよ、わたし達」

 

 おっとり口調で語り、モモカはおもむろに指をパチンと鳴らした。

 

「……魔王!? 無理じゃ…… わしらなど、到底及ぶものではないわ。なんじゃと! 信じられん、逃走用転移魔法陣もたった今、無効化されてしもうたわ……」

「魔王ではないけど、どうも〝覚醒魔王級〟らしいわ、わたし達。フフフフ」

 

 〝覚醒魔王級〟、その言葉を聞いた瞬間、ザーバは力なく床に崩れ落ち、己の死を覚悟した。

 

 他の者も静かに床に座り込んだり、壁に体を預けたり、頭を抱えるもの、天井を見上げるもの、モモカ達を睨む者様々だった。

 

 カヤは腰に下げたポーチから、完全回復薬(フルポーション)を取り出しベゼットと最初に倒した男に振りかけ、更に二つ取り出すと、ディーナに入り口に倒れてる二人にも完全回復薬を掛けて来いと命じ、ディーナは大人しくそれに従った。

 

 意識を取り戻した者達も揃い、黒曜石のテーブルを元に戻し上座にカヤ、モモカが座り下座にベゼット、後はそのままの席順で、二人は今後の組織の在り方を簡単に説明していく。

 

「って、ところかな。〝三賢酔(リエガ)〟には属さず、今まで通りだけど。無作為な暗殺依頼は今後厳禁とするよ、わかった!? しかし、男十人、女六人子供三人か、意外に少ないねぇ」

「ああ、それは理解した。別に暗殺稼業を廃業しないなら俺達には異存はない。今後はあんたら、いや、すまない。お二人をボスとして俺を含め、配下共々従おう。それと無駄に大所帯は、組織が疲弊するからな」

 

 ベゼットはカヤの説明に素直に従い、他の者もベゼット同様従う証に黙って頷く。

 

「子供達に関しては、わたし達が最後の仕上げをするわ。暗殺者育成はお世辞にも良いとはいえないわね。そもそも、早すぎるわよ枷の外し方が」

「確かに……それは承知している。しかし、この稼業後継者を育てるのは中々上手くいかないもので、手っ取り早くというか、その、なんだ――」

「――わかってるわよ、それくらい。それでも子供の内から仕込むなら、段階を踏んでやりなさいと言ってるのよ。何人只の殺人鬼になったの? まだいたでしょ子供達」

「……十人いた内、四人が精神をやられ、三人は訓練中に死んだ」

「精神をやられた子は、やったのね?」

「……ああ」

「ベゼット、咎めてるわけではないのよ。まあ、これからはきちんと育てる事、いいわね! バカはいらないわよ。バカは魂すら残さず私が燃やしてやるから、肝に命じなさい!」

 

 モモカの凛とした通る声に、一同はしっかりと首を縦に振る。

 

「でさ、この中で料理が得意な者いるかな?」

 

 カヤの問いに三人の男と二人の女が手を上げた。

 

 それにカヤが、「お! 意外に居た」そう声を上げ、もう一つの案件を配下の者達に話していく。

 

 それは、この地下アジトは捨てて新たに、アジトを二つ作る事。

 一つはそのままイングラシア王国に、もう一つはテンペストに。

 

「えと、ボス。一つはわかりやすが、何故にあの魔国に作るんでさ?」

 

 配下の一人痩せ男が、恐る恐るカヤに聞く。

 

「ボス言わない! うーん、そうだねぇ、姉さんと呼ぶこと。いいね」

 

 カヤの言葉に全員がコクリと頷いていった。

 

「テンペストに作るのはね、一番情報が集まるとこだしブルムンドも近いからね。これからは、色々やっていくから、皆もしっかりやるように。イングラシア王国のアジトは飯屋ね、テンペストの隠れ家は焼き鳥屋だよ。いいかい、暗殺者は殺すだけではなく普段は一般の民に溶け込み演じきれ! その位できなきゃ、只の三流殺し屋だぞ。小石隠すにゃ砂利の中、暗闇ばかりに隠れているとすぐに見つかるよん。ウキキッ」

 

 カヤの反論を許さない言葉に、配下一同不安を覚えるが、力の差は歴然なので是非も無いのであった。

 

 それから、イングラシア王国の新アジトに残る者、テンペストの焼き鳥屋に来る者の人選を終えた。

 

 イングラシア王国に残る者、ベゼットを合わせて男十人、女四人。テンペストの焼き鳥屋に行く者、ザーバ、ディーナと子供達三人に決まった。

 

「ベゼット、この金であの簡易転移陣がある飯屋を建物ごと買い取れ、そして料理が出来る奴は料理人ね。残った男と女は給仕を覚えること! あと、雇ったアドバウザーが」

「――アドバイザーね、カヤ」

 

 微妙に間違った単語にモモカがすかさずツッコミを入れるも、誰も笑う者はいなかった。

 

 笑いたくとも笑えず、何人かは必死に笑いを堪えていたのである。

 

 カヤは気にもせず、買い取り代金に必要な物を揃える準備金だと、金貨二百枚入った皮袋をテーブルに置く。

 

「で、経営アドバイザーや料理の講師、接客の講師、など雇うからその者からしっかり学び取るように。ああ、そうだ、気に要らないからって殺そうとしたり、脅したりするのは無しだぞ。したものは問答無用で冥界に送ってあげるから、やるならどうぞ。キキッ」

 

 口元が緩み薄ら笑いを浮かべ言う言葉に、皆が首を激しくブンブンと横に振る。

 

「そうだそうだ、組織名はサイファーからネコマンマ商会に変更ね。表向きはサイファーを名乗るけども、実質はネコマンマ商会にするよん」 

「「「「「「「ハアッ!?」」」」」」」

 

 流石にネコマンマ商会と聞いて、皆が変な声を上げモモカの方へ視線を移し暗に助けてと言わんばかりに目で訴える。

 

「いいじゃない、ネコマンマ商会。まさか、こんなふざけた名前の暗殺組織があるなんて、誰も思わないわよ。フフッ」

「いや、モモカ姉さん、それはあまりにも奇を(てら)い過ぎじゃ?」

「あ゛あ゛ー 文句あんのかベゼット~」

「え!? あ、いや、あー 、でも、そのー あれだ、いいですねネコマンマ商会! ウハ、ウハッ、ウハハハハハ」

「だろ~ 決まりだ! 今日からネコマンマ商会とする!」

 

 ベゼットが気力を振り絞り細やかな抵抗を試みるも、カヤの地の底から響くような声に即イモを引き、了承してしまう。

 

 諦め顔の組織員達は、仕方なしに組織名の改名を受け入れた。

 

「あっ、ベゼット。その金貨あたしのお小遣いから出してるんだから、収支報告はちゃんとやれよ! ガメた奴は両腕斬り飛ばして、木に吊るして三日放置するからね」

 

 カヤの冗談めいた言葉に誰もが、そんな怖い事誰がやるかといった顔をしていた。

 

 それもそのはずで、カヤとモモカの圧倒的な強さを見せつけられたばかりである。

 ベゼットが倒された時点で、二人に対抗出来る者は誰一人いないのだ。

 

「じゃあ、ベゼット、こちらの引越し諸々の件はお願いね。わたしとカヤはテンペストに焼き鳥屋を作るいい物件がないか探して来るから。それと〝三賢酔(リエガ)〟の手の者は始末して置いたから、しばらくは安全よ」

「わかりました、モモカ姉さん、カヤ姉さん。お気を付けて」

 

 ここで言う始末は、組織を探っていた者の意識を飛ばしグレンダの所へ送り返していただけで《拠点の入り口に投げ捨てていた》、ベゼット達は勝手に殺したと解釈していたのである。

 

 そうして二人はテンペストに向けて、空間転移した。

 

 翌日のテンペストにある一室で、〝三賢酔(リエガ)〟であるリムル達と会合をしていた。

 

「とりあえずは、見つけて掌握してきたよ。もうあたし達の配下だよん」

「意外に早かったな二人共」

「まあ、こんなものですよ。まだ、最後の仕上げが残ってますけども」

「それで、子供達は見つかりましたかな?」

「三人いたよ。一人は十一才女の子だけど、もう七人殺していたよ。残る二人は共に十才男の子と女の子。まだ、(・・・)は殺してなかったよ」

「「「……」」」

「そう。それで、何とかなりそうなのかしら?」

 

 見つかった子供達の一人が既に七人も暗殺していたのに、予想はしていてもミョルマイルは出された報告に沸き上がる怒りを抑えつつ、自分に出来る事はないかなど頭の中で模索し、エルさんの問い掛けに答えていく二人を見る。

 

 リムルは腕を組み、カヤとモモカの報告に静かに目を伏せていた。

 

「結論から言うと、三人とも最後の枷を外すだけだよ。でも、七人殺してる子は……上手く外れるかは五分五分かな。失敗したらあたしがやる。その業はあたしとモモカが全て受けるよ」

 

 失敗したら、あたしがやる、その言葉にミョルマイルが口を開きかけたが、何を口にしていいのか判らず、言いかけた言葉を飲み込む。

 

(カヤ殿が言ったやるとは……精神が壊れ、殺人鬼と化した者を殺すこと。そして、心核だけ取り出し〝疑似魂〟に移植してリムル様が蘇生させる。記憶を完全に抹消し新しい命として。リムル様とカヤ殿はそう話をされていた……その業をカヤ殿、モモカ殿に背負わせてしまうとは……)

 

 自分に出来る事はないか? 二人に業を背負わせずに済む方法はないか? そんな考えがミョルマイルの頭の中を駆け巡っていく。

 

 そこへ、モモカが柔らかく口を挟む。

 

「ミョルマイルさん。もっとも業深きわたし達がやるのよ。心配しないでとは、無理でしょうけども。それにカヤはああ言ったけど、カヤならあの子の心をこっちに引き止めたまま、最後の枷を外せるわ。カヤは最初に人を斬った時も、泣きも震えもせずにいたのですもの。修羅にもっとも愛された子供……幼少の頃呼ばれた、カヤの二つ名です」

 

 モモカの言葉にミョルマイルは、子供達の事もさることながら、カヤとモモカをここまで完璧な暗殺者に作り上げた大人達に、純然たる怒りが沸き、憤りの無い思いに左拳をきつく握りしめ、唇を噛み締める。

 

 それをモモカに見抜かれ、「大丈夫ですよ」優しく微笑むモモカから言葉をほわりと投げ掛けられ、ミョルマイルの表情がゆっくりと和らいだ。

 

 静かに聞いていたリムルは、もし三上悟のままでいたら看過出来ない話しだなと思い、今一度魔物に転生し精神面が強化されてるなと、思いを噛み締める。

 

「ガドちゃん。彼女達に一任したのだから、ここは信じて結果を待ちましょう。暗殺者を知る者は、暗殺者を制す。そうでしょう? カヤちゃん、モモカちゃん」

 

 エルさんの言葉に二人は柔らかな笑みで返し、ミョルマイルも深く頷き、二人に向き直ると、しっかりとカヤとモモカの目を見据え言葉を送った。

 

「ええ、そうですな、姉御。モモカ殿、カヤ殿、その子達をよろしく頼みましたぞ! この、不肖ガルド・ミョルマイル、何かあれば全力で力をお貸しします故、何かあれば遠慮なく言って下され!」

「うん。ありがとう、ミョルマイルさん。必ずちゃんと最後の枷を外してみせるよ」

「ありがとう。その時は遠慮無く頼らせてもらいますわね、ミョルマイルさん」

 

 ミョルマイルに真剣な眼差しで、言葉を返すカヤとモモカであった。

 

 

 最後に残す大仕事、〝三賢酔(リエガ)〟拠点への乗り込みと。

 

 子供達の最後の枷外しを、残すのみ……。

 

 

 




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