転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 四十二話です。


四十二話 Sisters Memory World(姉妹の記憶世界)

 

 

 テンペスト飲食街の一角に出来た、焼き鳥屋ネコマンマ。

 

 

 通りに面した側に焼き鳥など焼く炭焼き台があり、店内とテイクアウト、どちらも対応できるようにしてあり、その左側が入り口で中に入ると左側がカウンターになっていて、カウンターの後ろに四人掛けテーブルが三つ置いてあり、入り口に掛けてある赤提灯(あかちょうちん)が特徴的な、こじんまりとした焼き鳥屋である。

 

 店と赤提灯のデザインはリムルで、赤提灯には〝焼き鳥ねこまんま〟と日本語で書かれていた。

 

 因みに提灯に書かれた文字は奇抜なデザインだとこの世界の住人には好評で、日本から召喚された〝召喚者〟、ヒナタ、マサユキ、シンジ達には懐かしい文字であった。

 

 店主のディーナに、勘定担当兼接客のザーバに、接客皿洗い等はイリア、メイム、トリアス達で、店は夕方からの営業なのだ。

  

 ディーナの設定は、魔物との戦闘で命を落とした冒険者の夫の連れ子と夫の母、ザーバを連れて、新しい生活をする為に夫の残した財産でここテンペストに店を構えたと言う事になっていた。

 

 この設定を考えたのはモモカで、メイムとトリアスは同じ年だが、メイムがディーナと一緒になる前に別れた奥さんとの間に出来た、子供と言う設定を演じていた。

 

 イングラシア王国の店とテンペストの店には、入り口の無い地下室が造られており、モモカの作った転移陣でしか入れなく、そこで交互にお互いの定例報告の会合を定期的に開くことになっていた。

 

 実質モモカの作った転移陣は、イングラシア王国の店とテンペストの店を行き来出来るもので、ベゼットなどはちょくちょく、こちらに来ていたのである。

 

「あれから目立った動きはありませんね、カヤ姉さん」

「そう。まぁ、油断しない様にね。でさ、あっちの飯屋はどう?」

「はい、皆慣れないながらも頑張ってますよ! ギョウザが中々好評でして、お昼時などは結構繁盛してますぜ」

「おお! 頑張ってるね~ 依頼とかは来たかい?」

「ええ。二三来ましたので、裏を取って今夜組がその依頼をやってます」

「じゃあ、今昼組が店担当か。いいか、しっかり一般の民を演じつつ、依頼をこなしな」

「はい! そこは姉さん方の教えを守り、配下一同抜かりなくやってます!」

 

 イングラシア王国の店に配属した、十四人を半分に分け七人で一組、単純に昼組、夜組として名付けただけで、テンペストにいるディーナ達は夕組、カヤが適当に付けた組名なのだ。

 

「あ、それとこれは、金に成りそうな情報です」

 

 地下室会合部屋にあるテーブルに、色々な情報が書かれた紙の束と映像と声を記録した水晶球を三つ置く。

 

 紙はテンペスト制でまだまだ高価なのだが、カヤ達は惜しげもなく使用していた。

 

 一通り目を通したカヤは、情報を提供してくれた配下の者に分配する報酬ねと、金貨の入った皮袋をベゼットに渡した。

 

「じゃあ、カヤ。これを諜報部へ売りに行ってくるわね」

「ほいほい。高く売りつけて来てねー」

「モモカ姉さん、お気をつけて!」

 

 テーブルにある水晶球、情報が書かれた紙の束を大きめの皮袋に入れ、モモカは空間転移して行った。

 

 その後ベゼットが、恐る恐るカヤに問うてくる。

 

「えーと、カヤ姉さん。なんでこの魔国の諜報部など知ってるんですかい? 特に〝藍闇衆(クラヤミ)〟とか実体の全くわからない諜報集団がいると、裏社会の極一部の間で噂されてるのですが」

「そりゃー 蛇の道は蛇だよ。ベゼット、聞きたい?」

「え!? ああー……いや、やめときます。すいません、余計な事でした」

 

 ポヤポヤした顔を消して、ベゼットに聞きたいかと問うと、ゴクリと唾を飲み込みベゼットは一筋の汗を額から垂らし、カヤに言葉を返した。

 

「知らないでいい情報には――」

「――絶対に首を突っ込まない」

「そう、知らなくていい事を無理に知ろうとするな。そう言う情報は、知れば確実に殺されるぞ。あんただけでなく周りの者全てを巻き込んでね」

「はい……。迂闊でした、カヤ姉さん」

「いいよ。過ぎた情報は身を亡ぼす。それを肝に命じておいてね。ベゼット」

 

 カヤの言葉に、普段はポヤポヤしてるか酒飲んで肉食ってるかなのに、暗殺者の顔を覗かせると一気に纏う気が変わる。

 あれは暗殺者の域を超えた何者かだと思う所もあるが、何故かこの御方なら付いて行こうと、悪党なのに不思議な御方だと、ベゼットは思う。

 

「わかってます。他の者にもしっかり言っておきます!」

「うん。あたしとモモカがいない時は、あんたがリーダーなんだから、しっかり頼むよ」

「了解です! ではこれで、失礼します」

 

 話も終わり、ベゼットは金貨が入った皮袋を掴むと深々と一礼して、転移陣に乗りイングラシア王国の店へと帰って行き、カヤも空間転移で店の裏口へと出る。

 

「ディーナ~ アツカンくれー あとスナギモとトリカワ十本づつね~」

 

 ネコマンマ亭とここでは、テンペスト産の本醸造酒とビールをメインで扱っており、本醸造酒だけはまだ他国への流通はあまり出回っておらず、ミョルマイルを通じて、酒、備品関係はダコラから仕入れていた。

 肉を焼く炭と食材関係はコボルトの商人、コビーから仕入れていた。

 

 もちろんダコラもコビーも、ネコマンマが裏の組織だとは知らない。

 

「はいはい、カヤ姉さん。少し待っておくれよ。テイクアウト分焼いたらすぐ焼くから」

「フエッフエッ。まーた、えらくごきげんだねぇ」

「聞きたい? ザーバ」

「よしとくれよ、聞きたかないね。姉さんの秘密話など聞いたら、命がいくつあっても足りゃしないよ。フエッフエッ」

「よくわかってるじゃん、ザーバ。キキッ」

 

 日が暮れかけてきてポツポツ客が来出して、店が慌ただしくなりカヤはカウンターに座り顔見知りの冒険者と雑談をしていた。

 

 カヤがこの店に来てディーナやザーバと親し気に話してても、店に来てる客たちは誰も不思議には思わなかった。

 

 何故なら酒や肉がある所にはどこにでも出没し、すぐにそこの店の馴染みになってしまうからで、焼き鳥屋ネコマンマが出来た時は、冒険者やテンペストに住む住人達で、いつカヤがこの店に来るか賭けをしていたくらいなのだ。

 

 それに、カヤとモモカが永き時を生きてる亜神だとは、テンペスト内にとっくに知れ渡っており、ザーバが姉さんと呼んでも誰も不思議がらないのである。

 

 客が増え小さい店内は、賑やかになりイリアとメイムは慣れない接客に戸惑いながらも、てきぱきと酒や焼けた焼き鳥を客達に運んでいた。

 トリアスは奥で一心不乱に皿洗いに励んでいた。

 

「しかし、繁盛してるね~。ザーバ、そろそろ二人程従業員雇った方が、いいんじゃない?」

 

 お猪口(ちょこ)に酒を注ぎながらカヤが、ザーバに話しかける。

 

「そうだねぇ、嫁と相談してみるかね」

「そうだぜ、婆さん。子供達に夜遅くまで手伝いさせてちゃダメだぜ」

「ハハッ、違げえねぇ。こんなかわいい子達をこき使っちゃ可哀そうだろ」

「ハッ、抜かしな! 小僧どもが! こちとら開店したばかりで、色々大変なんだよ!」

「「だな! ウアッハハハ」」

 

 開店してから入り浸り常連になった客達が、ザーバと軽口を叩き合い笑い声が店内に響き渡る。

 

 客も引け、閉店したした店内にはカウンターに座るカヤと、ザーバ、それにカウンター内に座るディーナの三人だけで、子供達は片付けはディーナとザーバがするからと言われ二階の寝室に上がって行った。

 

 三人でグラスを傾けながら、最後の枷を外す日を話していた。

 

「カヤ姉さん、いつやるのかい?」

「ん~ 二日後かなぁ」

「メイムとトリアスは大丈夫じゃろうが、イリアは手遅れじゃろうて。カヤ姉さん、何か手はあるのかい?」

「荒療治になるけど、無くはないよ。どのみち後二三人殺ったら、あっちに引っ張られて血を欲する殺人鬼になるだけだしねぇ」

「ふーむ。そこまで見抜いておったか……。ほんとに恐ろしきは、カヤ姉さんよのう」

 

 カウンターに左腕で頬杖をつき、右手に持った林檎のブランデーが入ったグラスを魔法ランプの明かりに透かし、グラスの大半を占める氷の間に揺らめく透明の液体をカヤはボンヤリ眺める。

 

 ディーナとザーバは半ばイリアの事は仕方ないと諦め、空になったグラスに酒を注いでいく。

 

「ねぇ。イリアさぁ、最初に()ったのは、依頼でなの?」

 

 何気なく問うカヤの言葉に、ディーナが口を開く。

 

「あの子はね、裕福な家庭に生まれたんだけど九才の時に実母が病で死んでね。その後に来た父親の再婚相手の十二才になる、双子の連れ子の兄の方を殺したんだよ。」

「へー。()った理由は、なんなの?」

「まあ。人買いの商人に聞いた話だから、どこまで本当か判らないんだけども。ありふれた話しさ。継母が実の子を可愛がり、イリアを旦那にバレないよう虐待。その虐待に双子も加担。それは酷かったらしいよ。で、ある日お使いに行かされて帰る途中に双子がやってきて、イリアが大事にしてる実母の形見の指輪を取り上げて、捨てようとしたら激昂したイリアに突き飛ばされてね。そこが、ちょうど高台にある道で階段があってね、下までドーン。で、首の骨を折って即死だったらしい。で、激怒した継母に殺されそうな所を、これはいかんと父親が孤児院に入れたんだとさ。そこの孤児院はね、人身売買組織の営んでる孤児院でさ、お決まりの売られちゃったコースってわけ。あたしもさ、そこの出なんだよ」

「ふーん。ディーナは、後悔してるか? 暗殺者になったこと」

「いいや、微塵もしてないよ、カヤ姉さん。どの道娼館に売られるか、貴族どもの玩具にされるか、こんな組織に売られるかしかないからね。あたしは暗殺者組織に売られて感謝してるよ。なんせ、あたしに何かしようとしたら、返り討ちにできるからね。ハハッ」

「確かにそうだね~ 世界は変わっても、結局は同じだなぁ」

 

 ディーナの話にポツリ呟いて出た言葉に、ディーナが「世界が変わっても?」と聞くも「なんでもない」と返し、じゃあ二日後にやるからと店を後にし、ディーナとザーバはその後姿を見送る。

 

 

 二日後の朝。

 

 モモカはメイムとトリアスを連れて店の地下室へ、カヤはイリアを連れてイングラシア王国のネコマンマ亭地下室へと空間転移した。

 

 二人はサイファーを掌握してから、イリア、メイム、トリアスに誰もが持つ闇の部分を教え、光の部分を否定せず尚且つ闇も否定しない事と言い聞かせる。

 

 人はその闇を忌み嫌うがそれは己の半身であり、また光もその半身であり、どちらかを否定してもそれは己を否定することになり、己ではない何者かになると、告げていた。

 

 これは、乱破(らっぱ)ノ里に伝わる手法であり、人は普通光の部分で闇を抑え込み良心のバランスを取っているが、そのバランスを反転させ闇の部分で光を抑え込み、たとえ自分が闇の者だとしても、それが自分だと認識させ何者を(あや)めようとも、自我を保つ事が出来る強固な精神を作る手法で、〝陰陽反心之法〟と呼んでいた

  

 本来この精神強化鍛錬法は、闇夜影千流を修行する過程で並行して納めるのだが。

 

 今回は、モモカが〝陰陽反心之法〟のみ適用改変した呪符術を考案し、自分達の記憶を利用し三人の枷外しを行うつもりである。

 

 地下室のテーブルなどを端に寄せ、地下室の真ん中に空いたスペースにメイムとトリアスは立ち、足元には大きな柔らかで厚めのマットが敷いてあり、目の前にはモモカが立つ。

 

「いい、メイム、トリアス。これからあなた達はある世界の戦いを体験してもらうわ。あなた達は暗殺者として仕込まれ、その体には殺人技が刻み込まれた。そして低ランクの魔物などは()ってきたけども、まだ人は()っていない。あなた達の心の枷はもう最後の枷を外すだけなの、もう後戻りは出来ない。この枷を外さないと、遠からずあなた達の心は壊れてしまう。でも、一切合切の記憶を消し別の誰かとして生きる選択もあるわ。これが、最後よ。暗殺者として生きるか、別の自分になり新しい人生を送るか、選択しなさい」

 

 まるで、母親が自分の子供に優しく言い聞かせるように語りながらも、幼くとも自分の生きる道は自分で決めなさいと、十才の子供にこんな選択ができるかと普通の者であれば言う事を、モモカは――容赦なく告げる。

 

 そう、もうイリア達は普通の子供ではなく、暗殺者として育てられた人間なのだ。

 

 子供は武器を持って戦わない。

 

 だがしかし、イリアは既に七人も殺し、トリアスとメイムは武器を持って戦う事が出来る。

 

 子供であって子供ではない、そういう立場にいる事をモモカは教えていたのだ。

 

「僕の……僕の家は、農家で貧しくて、六人兄弟の末っ子と言う事で、口減らしに人買いに売られたんだ……僕は、小さいから逆らう事もできないし……でもここでは、抗う術を教えてくれたんだ。それが暗殺者にするためでも、何もできない僕に……力を与えてくれたんだ。訓練はとても厳しかった……怖かった、寂しかった、そんな時いつもイリアが励ましてくれた、メイムが慰めてくれたんだ。僕は……ここにいたい! イリアとメイムと離れたくない! もういやだ、一人になりたくない!」

 

 トリアスの思い、自分のやってる事は悪だとしても、今ここにいるメイム、そして

イリアと離れたくない、何物にも代えられないトリアスの思い。

 

 モモカはそっとトリアスの頭を撫で、メイムの方へ視線を移す。

 

「ワ、たしは、いい。ここで、いいの。ワたしは、拾われてきたから、いくところはどこ、にもないの。ひと、りはいやな、の。トリアスと、いっしょが、いいの。イリアが、いっしょじゃないと、いやなの。どこにも、いきたくないの。みんなと……いっしょにいたいの! ここに、いたいの! メイムは、メイムは、あんさつしゃでもいいの!」

 

 たどたどしくも、はっきりと自分の気持ちをモモカに伝える。

 

 モモカはメイムと視線を同じにすると、優しくメイムを抱きしめ「じゃあ、始めるわよ」とマットに寝かせ、トリアスにも寝るように促し、二人の額と胸に呪符を置いていく。

 

 呪符を置かれたメイムとトリアスは、次第に微睡むように目を閉じ軽い寝息を立て始めた。

 

「もう出て来てもいいわよ、テスタロッサ」

 

 モモカの呼びかけに、何もない空間からテスタロッサが姿を現す。

 

「この子供達ね、可愛い顔してるわね、フフフ。それで、あなたが術を行使してる間、護衛をすればいいのね?」

「ええ。この術は即席で、わたし達の過去を追体験させる術なのよ。この子達の安全の為に全演算力を使うから無防備になるの。疑似的だけど魂の回廊にこの子達の精神を繋げて、一時的にわたし達の心核とリンクさせて、最後の枷を外すわ」

「ふ~ん。あなたから具体的に教えて貰っただけだけど、ようするに早すぎた枷外しを、あなた達の人間だった頃の記憶を追体験させることによって、最後の枷を外していくということかしら? そして、カヤと離れてるのはお互いに記憶が共鳴しない様に、こことイングラシア王国へ分けたと、言う事かしらね」

「流石テスタロッサね、その通りよ。ただし……リスクは伴うけどね」

「枷を外し損ねた時の反動での、精神融合ね。〝魔界〟の住人たる私達でも、こんな馬鹿げた事考えつかないわよ。あなた達がここまでして、やる価値はあるのかしら」

「ないわね。でもリムルに頼まれたしね。それにミョルマイルさんとエル姉さんにも、ね」

「リムル様の頼まれ事、羨ましいわね。フフフ。いいわ、いってらっしゃいな。その変わり、ちゃんと帰ってくるのよ。リムル様は誰一人の犠牲も、お許しにはならないわよ」

 

 優雅な笑みから、突きさす氷の微笑を浮かべモモカに告げる言葉。

 

 どんなに親しい者でも、敬愛するリムルに哀しみの感情を与えるのは、毛ほどさえも許さない。

 

 それは、テスタロッサの意思の表れ、原初と呼ばれる所以(ゆえん)である。

 

「ええ。わかってるわ、テスタロッサ。それじゃ、いってくるわね」

 

 テスタロッサの言葉に凍てつくような微笑で返し、右手の人差し指と薬指の間に具現化し現れた、一枚の呪符。

 

 テスタロッサが地下室に結界を張り、完全に外界から遮断した。

 

 モモカは、メイムとトリアスの間に正座し『思念伝達』でカヤに術を起動する旨を伝える。

 

『いくわよ。準備はいい?』

『うん。いつでもいいよ』

 

 カヤの返事を聞くと、言霊を呪文の詠唱に乗せて行く。

 

 

 フルベ ユラユラト フルベ 昇れ (くぐ)れ 古の記憶

 

 フルベ ユラユラト フルベ 繋げ 結べ 古の記憶 

 

 フルベ ユラユラト フルベ 重ね 送れ 五つの心

 

 フルベ ユラユラト フルベ ここは幻想へとつづく道

 

 フルベ ユラユラト フルベ (いざな)われる幻想の世界 

 

 フルベ ユラユラト フルベ いざ参ろう、記憶の淵へ 

 

 〝呪符心想(じゅふしんそう)幻灯篭(げんとうろう)

 

 パンッ! 一際甲高い短拍手の音が響き、宙に浮いた呪符は霧散するように掻き消え、モモカ、メイム、トリアスは淡く光る青白い光球で覆われていく。

 

 細く揺らめく光の糸が、三人を繋いでいき、カヤとイリアにも同じ現象が起きていた。

 

 メイムとトリアスは、無数の光が流れる光景を目にしていた。それは時に凄まじく早く時には遅く、複雑に絡み合う光の束、その光は暖くもあり肌を突きさすような冷たさもあり、そして全身を焼き焦がすような熱さも放ち、モモカが百佳であった記憶の奔流。

 

 でも、不思議と苦痛は感じられず二人は光の奔流に身を任せ泳ぐ感覚に、心地よさみたいなものを感じ、永劫とも思われる記憶の海へと流されていく。

 

 そこへ、モモカの声が響いてくる。

 

『いい、二人とも、よく聞きなさい。これは、わたしの記憶、わたしの乱破ノ者だった頃の記憶。これをあなた達に追体験してもらうわ。暗殺者として育てられたわたしの記憶を媒介に、あなた達が現実と変わらぬ体験をするの。ここは幻、記憶が作り出した幻想世界。でも、この世界で死ぬと、現実のあなた達も死んでしまうの。生き残りなさい。そして全てを受け入れ、自分が自分である為に闇を愛しなさい。決して自分を否定してはダメ!光も闇もあなた達なのだから、殺意さえもあなた達の一部としなさい。さあ、いきなさい、闇を喰らい飼い慣らしに』

 

 モモカの言葉が終わると二人は激しい閃光に包まれ、視界が真っ白になり――意識が混濁した。

 

「きゃっ!」

 

 メイムは浮遊感からいきなり大地に叩きつけられた感覚に、驚き声を上げた。

 足が、地面に当たってる感覚、次第に体の感覚が戻って来て、ゆっくりと目を開けて見た。

 

 そこは見知らぬ土地で、周りを見渡すと明らかに自分のいた世界とは違う風景が広がっていた。

 

 自分の恰好を見てみると、出で立ちもモモカが来ている着物などと一緒で、履き慣れぬ旅草鞋に足をトントンして感触を確かめて、両手を後ろに回し三つ編みに編んだおさげがあるのを確認し三つ編みの先端を目の前に持って来て、髪の色が地毛の黒だと確認する。  

 

 視線を横にして見ると少し離れた所にトリアスが居て、同じ服装で、メイムと同じように全身を確かめたりしていた。

 

「〇Δ■▼◆◎!」

 

 不意に飛び込んでくる、聞き慣れない言葉。ボンヤリとした意識から完全に覚醒し、落ち着いて周りを見ると、自分達より同じか、少し上位の男の子と女の子が合わせて十四人いて、五人の屈強な男が子供達を前に何かをしきりに言っていた。

 

 その聞き慣れない言葉が徐々に理解出来るようになってくる。

 

「い◎▼、お■☆たち。次の◆し◎△、十三になる。成人したらお役目に付く事となる。今から、最後の試練を行う! これを見事に乗り越えれば、お前達は真の乱破(らっぱ)ノ者として、里に向かえ入れられることだろう。さあ、ゆけ最後の試練へ!」

 

 

 (おさ)と呼ばれる男が、最後の試練へ向かう子供達に激を飛ばす。

 

 

 イリヤは……燃え盛る家々の真っただ中にいた。

 

 飛び交う怒号、悲鳴、絶叫。

 

「ここは、どこ? この格好は……カヤ姉さん達の着てる、服?」

 

 イリアもまた、夏夜の記憶世界にいた。

 

 乱破ノ里、最後の日の……夏夜の記憶世界。

 

 

 

 




 ここまでのご愛読、本当に感謝です!

 次回で依頼の件も決着が着きます。では次の更新も、何卒よろしくお願いします!

※作中でテスタロッサが〝魔界〟と呼んでいますが、Web版では魔界と呼んでいて書籍版第五巻・252Pには〝悪魔界〟と呼称されていたので、略して〝魔界〟と呼ぶことにしています。
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