転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 四十八話です。


四十八話 Silent Gray(静かなる 灰色)

 

 

 夜も更け、月の明かりがテンペストの街並みを、淡く照らす。

 

 大勢の客で賑わう焼き鳥屋ネコマンマに、カヤは来ていた。

 

 次から次へと運ばれてくるビールを飲み干し、最後には瓶で醸造酒を頼み、既に数本の瓶が足元に転がり、デロデロに酔っぱらったカヤの姿に、店の客は戦々恐々としていた。   

 その中でディーナ達は、いつものカヤではないことを察し心配をして、声を掛けようとするも、ザーバがそれに首を横に振り、「そっとしときな」と言う。

 

「ディ~~~ナ~~~ 魔国米のゾウスイくれーー 大盛でなーー」

「あいよ! カヤ姉さん、ちょっと待っておくれ」

 

 熱々の大盛り魔国米ゾウスイをイリアが運んできて、カヤが座ってるカウンター席に置くと。

 

「これこれ~ 熱々が、うま――」

 

 バジャッ! いきなり、置かれたゾウスイに顏から倒れ突っ込み、ゴボボボと泡を立てながら寝ていた。

 

「えっ!! カヤ姉さん!」

 

 目の前で見たイリアが慌ててタオルを取りに行き、隣に座ってる冒険者の男が起こし上げ、「どうしたんだよ! カヤの姐御は!」とイリアが持ってきたタオルで顔を拭いてると、カヤが目を覚まし。

 

「ああ~ ごめん、ごめん。勘定、ここに置いとくよ」

 

 金貨数枚をカウンターに置く。

 

「ちょっと、多過ぎ! ちょっとカヤ姉さん!」

 

 カウンターの中からディーナが呼び止めるも、イリアに支えられフラフラしながら、店を出て行った。

 

 店を出ていくカヤを店の常連達は口々に、「あの風体で酔い潰れるとか、何かシュールじゃね?」とか「大酒飲みのカヤ姐さんが酔い潰れるとか、何か不吉な事起こるんじゃないか?」など好き勝手に言い合ってると。

 

「酔ってても耳いいから聞かれていても、あたしゃ知らないよ。その時は、店に来ないでおくれ。巻き添えはゴメンだよ」

 

 ディーナが焼き鳥を焼きながら淡々と言うと、好き勝手に言っていた常連達の顔付が見る見るうちに青くなり、それに混ざらなかった者達が、わざわざ見える罠を踏みに行くとか、お前らバカだろなど、大笑いしながら言い放つ。

 

「ザーバ。どうしちゃったのかな、カヤ姉さん」

「そうさね、長く生きてれば、こんな時もあるさ。さあ、まだ客がいるんだから、店にお戻り」

 

 店の外でカヤを見送っていたイリアは店から出てきたザーバに話し掛け、ザーバは心配しなくても大丈夫と言う様に返す。

 

 夜の雑踏に消えていくカヤをぼんやりと見ながら、ふと、自分の数十年の人生とカヤの数百年を越す人生を重ねてみるも、「フェフェッ。私などカヤ姉さんに比べたら、乳飲み子にも等しいか……推し量るのも口幅ったいね」ついた言葉に苦笑いを浮かべ、腰を軽くトントンと叩き、喧騒が響く店に戻って行く。

 

 

 ここ数日家に帰ってなく、ずっとヴェルドラの所に転がり込んでいて、思い切り二日酔いの顔で朝食を食べていた。ヴェルドラがヤレヤレと言った顔でカヤに言葉を投げ、ラミリスはカヤの隣でキャアキャア文句を叫ぶ。

 

「カヤ、毒耐性切っているのか?」

「んーー ギリギリまで、下げてるだけ~」

「ってかさ、物凄く酒臭いワケ! せっかくの美味しい朝ご飯が、不味くなるでしょうが!」

「家にも帰ってないみたいだが、モモカと喧嘩でもしたのか?」

「いや。してないよ、うん、喧嘩はしてない」

「ふーむ。そうか――まあ、何かあれば我に言うが良いぞ」

「あーうん。わかった」

 

 最初の二、三日はいつもの事とヴェルドラは思っていたが、数日経っても帰る気配が無いので、それとなく聞いてみるも。カヤの返答がいつもと違うのに気付くが、それ以上聞くのをあえてやめておいた。

 

「まーた大方、盛ってるとか言って、怒られたんでしょ。ほんと学習しないわね、カヤは」

「――それもらい」

「ちょ!! カヤ、なにしてくれるワケ!」

 

 ラミリスが最後に食べようと残しておいた、タコサンウインナーを、フォークで刺してカヤは食べてしまう。

 

「カヤぁあーーーー! あんたね、四十八の必殺技をお見舞いするわよ!!」

 

 激怒したラミリスがカヤの眼前をブンブンと飛び回り、空中飛び蹴りを放つ。

 

「タアアアアァッ! へっ!?」

 

 いつもならあっさり躱されることで定評のある、ラミリスの飛び蹴りがカヤの鼻頭にペシリと当たり、ラミリスは驚きの声を上げる。

 

「ア、アンタ、どうしたのよさ?」

「ん……なんでもない。ごちそうさま」

 

 カヤは気怠そうに答えると、そのまま空間転移しその場から去っていった。

 

「ねえねえ、師匠。なにかあったのよさ?」

「わからぬ。しかし、今はそっとしておく他なかろう」

 

 そう答えたヴェルドラは、肩に止まったラミリスに目をやり、軽く溜息を付いた。

 

 モモカはカヤが家を出て行った後も、ブルムンドへは定期的に足を運んで影魔獣についての情報を集めていたが、これと言った情報は見つからず家に帰って、囲炉裏の前に座っていた。

 

 テンペストの雑貨店で見つけたつげ櫛を懐から取り出すと、尻尾を前に出し、つげ櫛を使い毛づくろいを始める。

 

モモカもまた、あの夢を見て以来頭に過る転生する前の桃華のことを思い浮かべ、消えてしまった記憶の事を考えていた。 

 

(不完全な転生術、か。何考えてんだか――桃華だった頃の、あたしは……。今となっては、知るすべも無し……ほんと、きついわ、自分の事ながら。悪魔族のグリ……ナハト……わたしの最初の父親で、闇夜影千流の創始者。そして、平安時代の呪符士だった、母親)

 

 櫛を持つ手を止め、考え込んでいくモモカ。

 

(わたしが使った黒炎招来は、こっちの世界の理に干渉した術式だった? 半分悪魔族の血?、魂?、を受け継いでいるからできた、のかなあの時。 精霊獣界は様々な時間軸の交差した捻じれた世界だから、この世界の魔法も使えたという事から……。禁呪――か。だから、書物には残さず口伝奥義にして限られた者にしか、伝えなかったのね)

 

 櫛を持つ手に力が入り、ピシッと乾いた音が鳴る。

 

(黒炎招来は魔界に繋がる次元の扉を開ける、術式だったのかな……。多分、桃華が考案した術式なんだろうか……。あの子を守る……桃華はどう思ってたのかしらね、カヤのことを。夢見の力……闇夜一族の血、どうりでリムルと出会う夢を、見たわけだ。彌恵も桃華も、この世界に転生して来る未来を見たんだ……でも……。それから、どうなるかは――わかってない、か。沙羅(かあ)様が言ってた。わたし達がどの道を選ぶかまでは、わからないと、言ってたわね。わたし次第、カヤ次第……どの未来かは、多分近い内にわかるんでしょうね)

 

 モモカは気付かない内に、考えている事が口に出始めていく。

 

(猫又……奴は人の怨念、憎しみから生まれた(あやかし)。もし、人間の負の感情を糧に出来るなら、この世界に来た猫又は、精霊獣界にいた時よりも、強大な力をつける事になる?駄目だわ。考えても、全く予測がつかないわね……)

 

 モモカは、キッと宙を睨むと。

 

「大体、猫又が最初の両親の仇だなんて今更知って、何をさせたいのよ! 桃華は!」

 

 不意についた言葉に、尻尾の毛をすく手を止め、つげ櫛を握りしめる。

 

 そこへ、入り口の戸がカラッと音を立て開き、カヤが帰ってきた。

 

「あ……いたんだ」

「いたわよ……」

 

 魔素で作った脚絆と草鞋(わらじ)をサッと消し、板の間に上がり囲炉裏の前に座ると、腰に下げた酒蔵君を取り、酒を喉に流し込む。 

 

 言い様の無い喪失感が二人を包み、音の無い時間がゆっくりと、過ぎて行く。

 そこへ、カヤが先に口を開いた。

 

「なあ。モモカ、本当に桃華の頃の記憶ないの?」

「……ないわよ」

 

 不意に聞かれた言葉にモモカはつっけんどんに返し、握りしめたつげ櫛に目を落とす。

 

「本当は記憶があって、あたしを騙してるとかしてないよね?」

「はあ? なんで、わたしがそこまでやらないといけないの。そんなことして、なんになるのよ。くだらない」

「あるじゃん! 親の仇討ちさせるためとかさ!」

 

 右手に掴んだ酒蔵君を、ガンと床に叩きつけカヤは声を荒げた。

 

 その言葉に、モモカも声を荒げ返す。

 

「わたしも桃華の頃の記憶がないのよ! それを、どうやってあんたを仇討ちに誘導するのよ! 冗談じゃないわ! わたしも記憶が失われてて、なにこれ? 状態なのに、好き勝手言ってんじゃないわよ!」

「ふんっ! そうやってさ、記憶がない振りしてるんじゃないの?」

 

 ガバッと乱暴に立ち、カヤはモモカに吐き捨てるように言った。 

 

 パンッ!!

 

 一際高い乾いた音が、囲炉裏端に響く。

 

 モモカがカヤの前に立ち、頬を(はた)いた音だった

 カヤは叩かれた頬を右手で押さえ、(うつむ)き歯をギリッと噛み締めた。

 

「なんで、大事な妹を……騙すような事をしなければいけないのよ! わたしはね、あんたと自由に生きていければ、それでいいのよ! ネコマタの事なんて放り出してもいいとさえ、思ってたわ! 魂に掛けた術が切れるまで、あんたとどこかに隠れててもいいと、思った事があるのよ! それでも……できないこと、あるじゃない……」

 

 カヤの頬を叩いた左手を右手で握りしめ、モモカは怒りとも哀しみとも言えない顔で、言葉を吐いた。

 

「わかってるよ……そんなこと……」

 

 俯いたままカヤは行き場の無い言葉をつき、暗く重い沈黙の空間が、二人を包み上げていく。

 

 しばらくして、モモカがカヤに言い放った。

 

「いいわ。あんたも思う所があるなら、ガチでやり合おうじゃない」

「……なんでもありか?」

「ええ。先に倒れた方が負けで、いいわよね?」

「いいよ、それで」

「じゃあ、表に出なさい」

 

 モモカは魔素で作った薄羽織を消し、土間に降りて行った。

 

 家を出ながら二人は話場所はどこにするかを話し、家の近くにある開けた土地に向かい、お互い対峙する。

 

 そこには、先程迄の重苦しい雰囲気は無く、完全に戦闘状態になったカヤとモモカがいるだけであった。

 

「合図はどうする?」

 

 カヤの問いにモモカは(たもと)から銀貨一枚を取り出し、「これを投げて、地面に落ちたらで、いくわよ」そう言われ、カヤは静かに頷いた。

 

 ピーーン。右手の親指で銀貨を弾くと高速回転しながら天高く舞い、地面に向けて落ちてくる。

 

 クルクル回転しながら銀貨は地面に落ち、跳ねた――その瞬間二人の姿が砂塵を残し消えた。

 

 ガガツ! 激しい打撃音の後二人の姿が現れ、カヤの下段蹴り(ローキック)がモモカの左脚に放たれた。

 

 モモカはそのまま左に身を(よじ)りながら飛び、地面に両手を付き振り上げた右足でカヤの顔面を狙い蹴る。

 

 それを同じようにカヤは身を右に捩り、モモカの右足が鼻先を掠め通り過ぎ、地面に両手を付き屈むように右足の海老蹴りを、モモカの腹部に蹴り込んだ。

 

 カウンターで決まった海老蹴りに大地を抉りながらモモカは数十メートル吹き飛び、モモカはすぐさま跳ね起きるが、既に目の前にカヤがいて右正拳を打つ構えを取っていた。

 

  〝発破(はっぱ)二式・火具突智(かぐつち)

 

 キュドン! 鈍い音と共にモモカ左の脇腹を『多次元結界』ごと抉り、更に左縦拳も放つが、モモカはキュンと股関節を捻り右半回転すると、左手でカヤの左手首を取り、右手の甲でカヤの右腕付け根を下から打ち上げる。

 

 打ち上げられた衝撃でカヤの左腕関節が外れ、真正面に回ったモモカは両手を頭より高く上げ、そのまま勢いよくカヤの両肩に、掌打を振り抜くように振り降ろした。 

 

 〝闇夜影千流 柔術・掌打 天墜(てんつい)

 

 振り抜くように両肩に打ち下ろされた掌打はカヤの両鎖骨を砕き、更に鞭がしなる様に右腕を振り抜き、右手の甲でカヤの喉を潰し、左拳を密着させるとモモカは零距離正拳を叩き込む。 

 

 〝闇夜影千流 柔術殺技 鼓打ち(つづみうち)・改〟

 

 ――軸足にした左足を中心に、衝撃波で半系十メートル程の浅いクレーターを作り、土煙と小石が円形状に飛び散り、モモカの体内を魔力が螺旋のように駆け巡り、己の気と混ぜ合わせ、そこにもう一つ霊子を練り込んだ〝三種混合防御結界貫通衝撃波〟を左縦拳から打ち放った。

 

 大気が破裂した音と共にカヤは、体をくの時に折り曲げ百メートル近く吹き飛び、大地に激突しめり込んだ。

 

 カヤが激突した衝撃で大地は大量の土砂を吹き上げ、辺り一面に豪雨のように降り注ぐ。 

 

 そこへ、モモカは間髪入れずに範囲限定核撃魔法、『破滅の炎(ニュークリアフレイム)』を放つ。

 

 〝闇蓮華〟

 

 身を起こしたカヤの周りを十枚の呪符が取り囲み、一気に連鎖爆発を起こし黒い華を咲かせていく。

 

 身体の半分以上を吹き飛ばされたカヤは、悪態をつき損傷部分を再生しながら、口中に魔力球を形成していった。

 

「なにしやがる! モモカあぁ! あざとさ百%おんながああああ! ぶっ殺すぞ!」

「はんっ! やれるなら、やってみなさいよ! 女子力マイナス百おんながああああ!」

 

 そこからは、〝熱射咆哮(ヒートロア)〟とモモカの呪符が乱れ飛び、もう姉妹喧嘩の粋を通り越して、さながらヴェルドラとヴェルグリントとの怪獣大決戦を彷彿とさせる光景が繰り広げられていた。

 

 農地で畑仕事してるハイオーク達が、遠く離れた所で戦ってるカヤとモモカの余波が、小麦の穂を揺らし始め、「そろそろ、リムル様に報告した方が、よくないか?」と話し始めて、一人のハイオークが『思念伝達』でリグルドに報告をしていた。

 

 更にヒートアップし、カヤは千鳥、モモカは鈴蘭を取り出し壮絶な斬り合いを始め腕を斬り飛ばし、脚を斬り飛ばし、首を斬り落とされながらも、神速再生を使いお互いに斬りかかって行った。

 

 腰後ろに差した、小脇差・鈴蘭の柄を右逆手で握り、左手は鞘尻を握り姿勢を低くして、カヤに向かって疾駆していくモモカ。

 

 口に咥えた〝幻身〟の呪符を発動させ疾駆しながら身体を左右に、揺らしていく。

 

 ゆらり、ゆらり、振り子のように揺れるモモカの身体がコマ送りみたいに繋がり、実体が掴めなくなっていく。

 

「ちっ! 小太刀術、口伝奥義か。人間の頃より、厄介になってやがる」

 

 モモカを迎撃すべく、カヤは右足を前に出し左足を後ろに引き両足を肩幅より少し大きく開き、上半身を左に捻じり右肩を向かってくるモモカに向ける。

 

 角帯から鞘を三分の一出して鯉口を切り、構えると、鞘を引き抜くように――抜いた。

 

 〝闇夜・刹月花(やみよ せつげっか)

 

 神速の抜刀百連斬。

 

 不可視の百の斬撃が、カヤの周囲に壁を作る。

 斬撃を放った瞬間、モモカの身体が霧に映る影の様に成り、百のゆらめく影がカヤを襲う。

 

 カヤの放った斬撃にゆらめき襲う影が次々と霧散していく中、右側から斬撃を弾く音がした。

 

 ギィンッ! 「そこかあぁ!」 

 

 右横薙ぎに刃を抜き放ち激しい音を立て、カヤの刃が止まる。

 

 すると、刃を止めた鈴蘭の鞘が現れ、そこから空間に色を塗るかの如くモモカの姿が現れていく。

 

 モモカはカヤの間合いに入る前に鈴蘭を持ち換えていて、右逆手に持った鞘でカヤの横薙ぎに振られた刃を止め、左逆手で持つ鈴蘭の刃でカヤの右胸を、深く刺し貫いていた。

 

 〝闇夜影千流 小太刀術・口伝奥義 幻舞抜刀(げんぶばっとう)月華霧刃(げっかむじん)

 

「こぉおのぉおおおお!」胸を刺し貫かれ、激昂した声を上げるカヤ。

 

 右手に持った千鳥を上に振り上げながら、柄をクルリと手の中で返し逆手持ちにし、モモカを刺し貫こうとする。

 

 モモカは右手に持った鞘を、振り降ろされる切っ先に被せ、千鳥の柄後ろを左手で掴み、左手を引き下げ、右手を押し上げる様に返し、カヤの手から千鳥を奪いそのまま逆袈裟で斬り上げた。

 

 〝闇夜影千流 小太刀術・返し技奥義 落花柄返(らっかつかがえ)し〟

 

 胴を斜めに斬り上げられ、カヤの上半身が斜めにズリリと落ち、体内に溜め込んだ魔素を、下半身の切り口から勢いよく真っ赤な魔素粒子を、吹き上げる。

 

 それは、まるで鮮血のようにも見え、大気にさらされた魔素粒子は霧散していった。

 

「くあぁぁ……やり、やがった……なあぁ」

「わたしの、勝ちかしらね」

 

 モモカはカヤの顔を覗き込む様に冷たく言い、千鳥で(とど)めを刺そうと魔核のある胸の辺りに切っ先を突き立て、柄を握る手に力を入れようとした瞬間。

 

「えっ!?」

「まだ、終わりじゃないぞ!」

 

 立ったままの下半身が崩れる様に消えゆくと、カヤが下半身を神速再生させモモカの左足首をガシッと掴み、『重力支配』でそのまま水平に落ちる様に、急加速していった。 

 

 ガアーーッと激しい砂煙を上げ、更に加速していくカヤ。

 

「ちょっ!! 何引き摺ってんのよ! このぉー! キャッ」

 

 引き摺られながら、左足首を掴むカヤの右手を斬ろうと振り上げるや、カヤはいきなり直角に方向を変え、空を目指して飛翔していき、凄まじい勢いの方向転換にモモカの手から千鳥が零れ落ち、真っすぐ上空を目指し飛ぶカヤに、爆炎符を投げようと袂に手を引っ込めるや、ドンッ! 音速突破の衝撃波がモモカを襲い、一気に一万メートル上空まで連れてこられた。

 

 急にふわりとした感触がモモカを襲い、胸の前にカヤの腕が現れガシリと抱え込まれ、腰下辺りも両足を交差されてがっちり挟み込まれ、モモカは頭を大地に向けたままカヤに、叫ぶ。

 

「あんたね! なにするつもり! 馬鹿カヤ、離せ!」

「あたしの、新技だ! ヴェルドラの部屋にあった奥義書(マンガ)に載っていた、技だ!」

「それ、ただのマンガよね!」

「ちがう! 奥義書(マンガ)だ!」

 

 くらえ!!

 

 〝威綱(いづな)落とし〟

 

 背中から張り付き、がっちりモモカを捕まえたまま、大地に向かって加速していく。

 

「あんたね、わたしと一緒に自滅する気!?」

「だれが! 伊達にラコルとスカイダイビングごっこ、してたんじゃないぞ!ギリギリなところで重力制御で落下速度零にして、モモカだけ大地に、叩きつけてやるわ!」

「あんた、それ一度も成功してないわよね!? ラコルから聞いてるわよ!」

「なにゃー! ラコルめー 帰ったら、お尻ペンペンしてやる!」

「そんなことしたらぁあ。わたしが、あんたの尻を真っ赤に燃え上がるまで、シバキたおしてやるからね!」

「やっかまっしいわ! やれるもんなら、やってみろ!」

 

 凄まじい勢いで落下する二人は落下しながら口喧嘩を始めるも、見る見るうちに眼前にジュラの大森林の大地が迫ってきた。

 

 高度百メートルを切り、二十メートルを切った所で「アホ姉! さらばじゃ!」そう吐き捨てモモカから離れようとしたら、「バカ妹! だれが逃がすか!」と言った刹那――

 

 掴まれた身体をグリっと回し、カヤの体を両腕でがっちりと抱き抱る。

 

「はあぁ! はなせ! このぉ、もも――かぁああああああああああ!」

 

 カヤとモモカは揃って大地に激突し、地響きと轟音が鳴り響き、大量の土砂が爆破したように舞い上がっていく。

 

 そこへ、やってきたリムルが仕方なさそうに。

 

「あー やりやがった。モモカまで一緒なって、なにやってんだか」

 

 そう言葉を吐き、半径百メートル程のクレーターの中心に開いた、深い穴を覗き込んで「おーい 大丈夫か~」と二人に声を掛ける。

 

 しばらく覗き込んでると、穴の底からボロボロのモモカが上がって来て、リムルの前に降り立った。 

 

「なあ、モモカ。そんなになるまで、やるなんてどうしたんだ?」

「え? ぁあー ちょっと、言い争いになったと、言うか……ごめんなさい」

「いや、怒ってはないけど。カヤは、大丈夫なのか?」

 

 と、言ってる所へ穴の縁に手を掛けて、同じくボロボロになったカヤが、上がってきた。

 

「あぁ~ 死ぬかと思った。死なないけど――げっ! リムル」

「おい。なんだ、その〝げっ〟は。まったく、おまえと来たら、毎度なにかやらかさないと、気がすまないとか、あるのか?」

「あー 今回はそこの姉も、関わってるんですが――」

「ああ、わかったわかった。とりあえず、詳しいこと聞きたいから、あーそうだな。明日でいいから、俺の所へ来てくれるか?」

「……わかった」

「ええ、明日ね」

 

 リムルは、二人の恰好が再生もおぼつかない位にボロボロの姿に、軽く溜息をつきながらも、ここまでやるからには余程の事があったんだろうと察し、明日説明に来てくれと言い、〝空間転移〟でテンペストに帰って行った。

 

 リムルが帰った後に二人は、背中合わせでズリズリと腰を落としていって、ペタンと尻もちをつくように、両足を前に投げだした格好で地べたに座った。

 

「ねえ、何百年ぶりかな……喧嘩」

「うーーん。覚えてない……」

「そう」

「モモカとの喧嘩は……マジしんどいわ」

「わたしも、あんたとの喧嘩は……マジしんどいわよ」

「「はあぁぁ~……」」

 

 二人とも空を見上げて「「あぁ~ つかれたわ」」と力なく呟き、青く映る空に浮かぶ雲を、ボォーッと眺めていた。

 

 流れる雲を見上げつつ、カヤがバツの悪そうに口を開く。

 

「ぁあー ごめん、モモカ」  

「わたしの方こそ、ごめん」

「なんかさ、いきなりあんな事知って……うーん、ちと、頭が混乱したわ。モモカは悪くないのに、当たり散らして……ほんと、ごめん」

「お互い様、よ。わたしも、流石に冷静ではいられなかったもの。ごめんね、カヤ」

「まあ、あれだ。長き因縁の決着は、つけないとだわ」

「そうね……沙羅(かあ)様のやり残したお役目、わたし達でケリを付けましょう」 

「うん。あいつは、この世界に残しては、ダメだ」

 

 背中合わせで話すカヤとモモカは、さっきまでのいら立ちもやり場のない怒りも消え、いつもの二人に戻っていたが、二人の尻尾が仄かに光り輝いて、細かい魔素粒子を放ち始めていく。

 

 それは、黒から……静かに――灰色(・・・・・・・・)へと変わっていき、しばらくして輝きが消えると同時に、また黒へと戻っていた。

 

 この現象にカヤとモモカは、気付かずにいた。 

 

「ねえ、沙羅(かあ)様の魂さ……いまも輪廻の輪を外れて、彷徨ってるのかな……」

「たぶん……あれはわたしが使った術の元だから、今も彷徨ってるでしょう、ね」

「そっか」

 

 そう言うと二人はスクッと立ち、パンパンと腰回りを軽く叩き土埃を落とすと、「大きい温泉いこうか」とモモカが言い、テンペストへ〝空間転移〟して行った。

 

 

 次の日、リムルの元に訪れた二人のペコペコと平謝りする姿に、リムルは笑いながら「まあ、農作物に被害が出なかったからいいが。次からは気を付けてくれ」と二人に告げ、とりあえず荒れた平地の後始末はいいから、小麦畑にある小麦の根を食い荒らすモグラに似た魔獣の駆除を頼むと言い、カヤが「やっぱり、罰あるじゃん」とぼやくとリムルが「なら、お前だけ別の事やるか?」と尋ねるや、「いや、いい! 誠心誠意駆除を頑張ります!」と即座に返し、二人は駆除を引き受ける事になった。

 

 

 そして……。

 

 いつものようにヴェルドラの所で、オヤツを食べてるカヤ。

 

 お気に入りのソファーに深々と座りマンガを読みふけるヴェルドラ、その頭の上には黒い生き物が乗っていた。

 

 カヤが黒猫に猫化して、ヴェルドラの頭の上にお腹を下にして後ろ足を投げ出すように乗り、左前足は自分の胸の前に置き、右前足だけをぶらぶらさせて、ヴェルドラが食べようとバタービスケットを手に取ると、口に入れる前にカヤが右前足でヒョイと掠め取り、カリカリ食べていた。

 

「おい、カヤ」

「なに、ヴェルドラ」

「我の頭の上で、ビスケットを掠め取るのは、やめよ」

「えー いいじゃん。三回に一回、掠めてるだけだよ」

「なら、頭から降りて食べればよかろう!」

「やだ。ここ、余剰魔素(エネルギー)が漏れ出て心地いいんだもん」

「ふーむ、仕方のない奴め。ところで、もういいのか?」

 

 もういいのか? それでカヤは察して「うん。もう落ち着いた」と返すとヴェルドラは「そうか」と一言だけ言い、手にしたマンガのページを(めく)る。

 

 しばらく、マンガのページを捲る音とカヤのバタービスケットを齧る音だけが、二人の空間を満たしていった。

 

 カヤは尻尾をゆらゆらと左右に揺らしていたのをピタリと止め、ゆっくりと口を開いた。

 

 ねえ、ヴェルドラ。

 

 なんだ、カヤ。

 

 あたしが……もし……テンペストに、みんなに牙を剥いたら、さ。

 

 迷わずに、あたしを――殺して。

 

 なぜだ?

 

 あたしを、確実に殺せるのは……ヴェルドラか、リムルくらいだし。

 

 ……。

 

 

 身勝手なおねがいだとは、わかってる。

 

 でも……おねがい、ヴェルドラ。

 

 

 わかった。

 

 その時は、我が全力でお前を、止めよう!

 

 

 この時カヤは、ヴェルドラがどういった表情をしていたかは判らなかったが、最後に言った言葉には、〝最強の竜種〟として威厳と自信に溢れていながらも、カヤは何故か暖かな物に包まれていくような感覚に陥り、頭の上から右前足でヴェルドラの鼻頭にそっと触り、柔らかく撫でていく。

 

 それを嫌がる素振りも見せずにヴェルドラはパラリとマンガのページを捲り、乾いた紙の擦れる音だけが、優しく響いていた。

 

 

 




 
 ここまで読んで頂けた読者の皆様、ありがとうございます!


 ※今まで作中でモブキャラや、ネコマンマ商会の者達がカヤ達を呼ぶときに、
〝姉さん〟と〝姐さん〟を使い分けてますが、これは単なる知り合いとかは〝姐さん〟で
親密度の高い者達が呼ぶときは〝姉さん〟と表現しています。

 読まれてる読者の皆様には、え?っとなった方もいらっしゃると思います。

 これに対して、今まで補足説明の無かった事にお詫び申し上げます。
 

 では、次回の更新も読んで頂けたら幸いです!


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