転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 五十四話です。


※ネコムスメ姉妹が着ている服装ですが、ps4,Switchで出てるゲーム天穂のサクナヒメ
の主人公サクナヒメが稲作りをする時に来てる服装がこれに当たります。
上が膝丈迄の小袖(こそで)に下はハーフスパッツみたいな半股引(はんだこ)に、(すね)に巻いてる
のが脚絆で足に履いてる草鞋は足首をホールドするタイプの草鞋です。俗に旅草鞋とも
呼ばれてるみたいです。
 後、腕に手甲も付けてますが、ネコムスメ姉妹は手甲は付けてません。
 半股引はよく祭りで男性が履いてる物のことです。
 現在の作中では、魔素で作ったハーフスパッツを穿いています。

 この服装はよく忍者を題材とするマンガや、時代劇物で見られる恰好ですね。
 それと、くノ一の服装としてもよく使われてるみたいな感じ?なのかな。
 脚絆については、鬼滅の刃に出てくる禰豆子が脛に巻いてるのが脚絆ですね。

 モモカが着ている薄羽織も禰豆子が着ている物と同じような物です。

 ネコムスメ姉妹の服装はこのようなイメージで書いております。

 



五十四話 闇の絆

 

 グラブゲの高級娼館アンソルスランに、ベゼット達の姿があった。

 

 店の責任者、用心棒、手下、客室係合わせて四十人は既に無力化拘束され、娼館を取り仕切っていた幹部の男は既にベゼットが殺し、魂を呪符に吸収している最中でいた。

 

「〝終〟 よし、これでいいか」

 

 そう言い呪符を、ミリタリーパンツの太腿横にあるポケットに入れる。

 

 そこへ、両手を後ろ手に縛られ床に座らせられている、歳はベゼットと同じ位の肩上位の黒髪長髪でキリッとした顔立ちで細目の男。

 

 名はイサカ。そのイサカがベゼットに声を掛けて来て、ベゼットはゆっくりとイサカの横に腰を下ろす。

 

「なあ、ベゼット。何故うちの娼館など襲撃したんだ?」

「ん? 俺達のボス、カヤ姉さんとモモカ姉さんの指示だ」

「何があった?」

「お前のボス、ダートがお二人に喧嘩を仕掛けたんだよ。アルコを使ってな」

「そんなことが……チッ。ボスは野心の固まりだから、大方お前の所のボスの首を手土産に、上層部に取り入ろうと考えたんだろうよ。上からお前の所のボスには手を出すなと通達が来てるはずなのに……迷惑な話だ」

「上がバカだと、配下全員とばっちりを喰らうからな」

「確かに。暗殺者を引退して、女共の世話でのんびりやってたのになぁ。ついてねぇ」

 

 諦め顔で血が滲み鈍い痛みが襲って来る右足を、眺めぼやく。

 

「一つ聞いていいか? イサカ」

「ああ」

「お前ほどの男が、何故引退して娼館の女共の世話をしてる? さっきも殆ど抵抗しなかったじゃないか」

「……心がな、もう持たなくなっちまってな。殺し過ぎたんだよ……これ以上()るとな殺しが楽しくて楽しくてしょうがなくなって、アルコ見たいに血を浴びないと済まなくなってしまう――行きつく先は見境の無い只の人殺しさ」

「そうか。お前、奥さんと息子が一人いたな……」

 

 イサカは力なく答えると天井にある豪華なシャンデリアに目をやり、ぼんやり見つめていた。

 

 そして、ふと思い出したようにベゼットに問うてみる。

 

「そう言えばベゼット。何でまだマリラが生きている? 処分は決まっていたはずだろう? 完全に心がぶっ壊れていたはずだが、何故生かしてる?」

「それか……確かに心はぶっ壊れたままだ。だがな、そのままで心のバランスが取れてしまっている――不思議なことにな」

「なんだと!? そんな馬鹿な!」

 

 ベゼットの返答にイサカは思わずありえないと言った顔で、ベゼットに詰め寄った。

 

「ありえないぞ、そんな事は! あそこまで心がぶっ壊れてしまったら、後はもう見境なしに目に付く者を殺すだけの者に、なるはずだ!」

「確かにそうだ。そうだな、これは他言無用になる――聞けば後戻りはできんぞ」

 

 ベゼットの口調が脅しではなく、もし、その先を聞けば、そしてそれを誰かに話せば確実に命は無いと意味していた。

 

 イサカは迷いに迷った、もし聞いたとしても今の自分にまた暗殺者に戻る自信は無い。

 

 そんな考えが頭の中をグルグル駆け巡り、下を向いたまま今の壊れかけの自分の心を少しでも修復する糸口があればと、ブツブツと呟いていく。

 

 そんなイサカを見てベゼットは、軽く溜息を付くと一瞬口端に、思惑ありげな笑みを浮かべ語りだす。

 

「昔馴染みのお前だから、教えてもいいが……人の口に戸は立てられない。ならどうするかなんだが……今の俺達には、新しく配下を増やす予定は無いんだな。今いる俺達の能力の底上げと組織改変この二つに、お二人は注力している。それとだ、これは俺の推測なんだが――お二人は配下全員の仙人化を、目論んでいるかも知れんなぁ」

「ん? 話が見えて来ないのだが?」

「まあ、聞け」

 

 そこまで言うとベゼットは、ミリタリーベストの胸ポケットから酒を入れる携帯型ボトル、横に少し広めで長方形のスキットルを取り出し栓を開けると一口飲み、イサカにスキットルを差し出す。

 

 差し出されたスキットルを受け取り、恐る恐る一口を飲んでみてカッと目を見開くと、もう一口をグビリと飲んだ。

 

「きついが美味いな、この酒。こんな酒飲んだことないぞ――」

「魔国産、林檎のブランデーだ」

「テンペスト、魔物の国……この酒は一部の王族、貴族と限定された高級酒場でしか、出回ってないと噂されている酒か?」

「ああ。だが、近い内に一般の市場に流れて来るようになるはずだ」

 

 イサカはベゼットの言葉にゴクリと喉を鳴らし、次の言葉を述べる。

 

「ベゼット。何故お前が魔国内政の情報を、知っている?」

「俺達は、もう只の暗殺者ではない。暗殺、諜報活動、潜入調査、要人警護、様々な依頼をこなす、高度な戦闘集団だ」

 

 淡々と穏やかに話すベゼットの言葉にイサカは。

 

「おいおいおい! それってもう、一組織の範疇を超えてるんじゃないか!?」

 

 興奮気味にイサカは声を大きくして、ベゼットに顔を向け詰め寄った。

 

「フフッ。俺達はな、魔国とそれに連なる国々に収集した情報を――売っている!」

「なっ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間イサカは左手で顔を覆い、小さく声を漏らす。

 

「今回のモモカ姉さんの考えの一つに乗っ取った傘下組織にいて、その商売に精通して、尚且つ客の流れを熟知してる奴が欲しいのではないかと考えてな。じゃあ、その熟知してる奴をどこで見つけるかは言わずもがなだがな。マリラの件だが姉さん達との関わり合いが原因だと、俺は見てる。多分、魂? もしくは精神の強化が、何らかの形で表れているのかも知れん――俺の推測に過ぎないがな。話が逸れて悪かったな」

「くそっ、ベゼット! お前ワザと組織の情報の一部を、俺に話したな……」

「さあな。フッ」

 

 イサカは絞り出すような声でベゼットに言葉を吐き捨てるも、ベゼットは知らんなと言う様に、軽く笑い返した。

 

 ベゼットはアンソルスランを襲撃し、配下を倒し店を取り仕切ってる幹部を殺した時の、娼館にいる女達の嬉しそうな笑みを隠し浮かべていたのを見逃さなかった。

 

 そしてイサカが倒された時だけ、女達皆が心底心配そうな目を向けていたのも、見逃さなかったのだ。

 

 イサカがマリラの事を聞いてきて、恐らく壊れて行く心の歯止めを知りたいのだと見て、それを餌に引っ掛けたのである。

 

 ベゼットの推測通りなら、姉さん達二人に関わることでイサカの壊れいく心に何らかの変化があるだろうと、考えたのだ。

 

 何故なら、自分達がそうであったから。

 

 ただし、関わる者が全てそうなるとは限らない。

 

 後はその本人次第――

 ベゼットはそこまでの責任を取るつもりは毛頭なく、あくまでも姉さん達に渡りを付けるだけ。

 

 もし組織に仇名す者になるなら、迷わずイサカの首を刎ねるだろう。

 

「イサカ。俺達の組織に来い! ここを取り仕切れ。姉さん達には俺が渡りを付けてやる。そこからは、お前次第だが」

「ベゼット。もう一つ聞くが、お前達の魂に制約は、掛けられてるのか?」

「ああ、魂に〝呪印〟が掛かっている」

「そうか……そうだよな、裏切りは死だからな……」

「違うぞ、イサカ。この〝呪印〟は俺達が望み、頼み、刻んでもらった〝呪印〟なんだ」

 

 静かに言いながらベゼットは胸の真ん中辺りに手をやり、そこにとても大事な物があるかの如く、そっと手を押し当てる。

 

「はあっ!? お前達のボスは、お人よしなのか!?」

「あ゛ぁ! お二人を愚弄すると、いくらお前でも殺すぞ!」

 自分の常識外の事につい思ったことをストレートに言ったイサカは、いきなり殺気を全開にしたベゼットを見て、慌てて詫びの言葉を入れる。

「いや、すまない。そんなつもりでは、ないんだ。しかし、おかしいだろ? どこで人は裏切るか、判らないんだぞ……」

 

 以前はベゼットとも互角に渡り合ったイサカだが、現役を退いていてもベゼットと戦ったら、勝てなくとも充分に渡り合えるだろう、そう思っていた。

 

 しかし、今ベゼットの放った殺気は以前とは比べようもなく、もし()りあったら確実に死ぬなとがっくりと首を落とす。

 

「暗殺者の俺が言うのもおこがましいんだが、この呪印は姉さん達と、俺達の絆だ。いや――闇の絆(・・・)と言ったところか。この呪印は刻まれてるだけで、何があっても発動はしない。たとえ裏切ってもな」

「そん、な……馬鹿な話し、聞いた事もない! ハハッ、ハハ。なんなんだ、お前達のボスは? わけわかんないぞ、お前達も……」

 

 もう、どうにどうにでもしてくれと言う様に答え俯いたままのイサカに、ベゼットが言葉を続ける。

 

「俺を含め皆、姉さん達を敬愛している……う~ん……違うな。そうだな、この命ある限り姉さん達と共に居たいか、な。そう、それだけだ」

「それだけ?」

「ああ、それだけだ」

 

 それだけ、この言葉にイサカはフッと全身の力が抜け、大きく息を吸い吐き出す。

 

「それとな、俺とマリラは、元々異世界人らしい」

「らしい? とは」

「記憶がない。いつからこの世界に来たのか、一切記憶がない。覚えているのは、俺は少年の頃にはこの世界にいたと言う記憶だけだ。マリラも同じだ、七才の時には、この世界にいたという記憶しかない」

「何で、異世界人とわかったんだ?」

「ユニークスキルだ。元からこの世界にいる人間には、ユニークスキルがない。魔人や魔王に連なる魔物は持ってるみたいなんだがな。後は例外で言えば、魂の強化に伴い発生すると言ったところか……。そうだな、もう一つ殺して奪うがあるな、方法はわからんが。モモカ姉さんの推測では、どこかの国が自国で使うわけでなく、商品として売り出す為に〝召喚〟したのだろうと言っていた。元居た世界の記憶など、商品にはいらないからな。その証拠に俺とマリラには(あるじ)に逆らえない〝呪言〟と、魂を砕く術式が組み込まれていたんだ……それをモモカ姉さんが、解除してくれた。おそらく〝鍵言(トリガー)〟は先代が持っていたんだろうな」

 

 イサカはベゼットの話を聞きながら、既に後戻りできない所へ足を踏み入れたなと、グラブゲを抜ける覚悟を決める。

 

 組織への裏切りは死。

 だがしかし、今はサイファーが報復に動いている。

 

 もし、グラブゲが潰されれば、晴れて大手を振ってサイファーに行けるかも知れない。

 

 だが、グラブゲには奴がいる、あの〝召喚者〟がいる。

 

 狂気の〝召喚者〟アルコが。

 

(勝てるのか? あのいつ動いたかもわからない、スピードに付いて行けるのか?)

 

 そんな不安が頭を過り、もしベゼット達が負けたら自分は処分され、暗殺者ながらも最愛の妻を得て一人息子がいるのも知られているから、妻も息子も見せしめに殺されるだろうと考えると、一度決めた覚悟が揺らめき始めギリッと唇を噛む。

 

 そんなイサカを心配そうに見つめる目に気付き、顔を上げると一階のロビーに集められた女達全員が、床に座らせられているイサカを見ていた。

 

「あいつら」

 

 イサカはポソッと呟き、一瞬女達に目をやり、また目を伏せる。

 

 娼館の女達は二十人いた。

 

 その全員に〝呪言〟が組み込まれていて、逃げる事も逆らう事も出来ない様にしていた。

 

 女達は、客を取らない時は店を取り仕切っていた幹部の相手と、その手下の相手をさせられていた。

 

 どんな仕打ちでも、逆らう事は出来ずに……。

 

 普通は店の女達に手を出すのは厳重に禁止されているのだが、取り仕切っていた幹部は無類の女好きで、そんなことはお構いなしであった。

 

 またダート・グラブゲも店の稼ぎが良いので、黙認していたのだ。

 

 そんなとこへ、現役を引退したイサカがこの娼館に来てあまりの酷さに、幹部に詰め寄り店の商品に手を出すなど言語道断と言い放ち、女達に手を出すのをやめさせた。

 

 アルコが来る二年前までは、暗殺者としてトップにいたのだから幹部も手を出せず、イサカがいない時だけを見計らい女達に手を出していた。

 

 それでも、女達からしたらイサカが居る時だけは、僅かな心の平穏を得ていたのだ。

 

 そして客とのトラブル――

 主に貴族なのだが、これにもイサカは間に入り、いつも手際よく納めていた。

 

 このイサカの行動が、娼館にいる女達全員から信頼を得ていたのである。

 

「イサカ、もう一つ言い忘れた事がある。マリラは仙人に、進化した」

「はあああああ!? マッドネイルがか!?」

「そうだ。他にも成りつつあるのも、ちらほらいるな」

「どうなってるんだ……。サイファーは!?」

「それとだ。サイファーはな、もう依頼受付の窓口でしかない。真の姿は、ネコマンマ商会だ!」

「なに! 最近噂の商会なのかあぁ。飯屋ネコマンマ亭……。そうか、飯屋と暗殺組織が繋がってるなんて普通思わねえぞ! しかし、なんでお前達が飯屋で働いてるのが、同業者にバレないんだ?」

「それは、極秘だ。時期にわかるさ。フフッ」

 

 サイファーの実態を聞き驚きのあまりイサカは、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。

 

 表の仕事をしてる時は皆モモカの〝認識阻害呪符〟を身に付けていて、〝幻隠〟の簡易版であり、ベゼット達の正体を知ってる人物がベゼット達を見ても、本人と認識出来ないのである。

 

 見破るとしたら、〝覚醒魔王級〟の力を持つ者で無ければ不可能なのであった。

 

「ベゼット。話は終わったか?」

 

 筋肉質で頭を短く刈り上げた厳つい顔のオルトギースが、ベゼットに近寄り声を掛けてくる。

 

「ああ、終わったよ。待たせたな」

「それと、カヤ姉さん達がグラブゲのアジトに行く前に、こちらに寄るそうだ」

「そうなのか。イサカがこっちに付いた」

「それは、本当か?」

「ああ。本当だ」

「ふうう。これで、おれ達がここの経営やらなくて済むな。ガハハハ」

「だな。ウククク」

 

 二人共飯屋ならいざ知らず、娼館の女共の扱いなぞ、わからんからなと肩を震わせて、大笑いするのをイサカは「何だ此奴らの雰囲気は」と訝し気に見上げていると、オルトギースが近付いて来て腰を低くし、手にしたナイフでイサカの両手を縛っている縄を切ると、立てと言う様に右人差し指を上にクイックイッとする。

 

「イサカ。もう少ししたら、おれ達のボス、カヤ姉さんとモモカ姉さんが来る。きっちり挨拶をしろ。不敬は許さんぞ!」

「わかってる。全面的にそちらに従う」

 

 圧の籠った低い声でイサカに言い、イサカが従うとの返答に、満足気にオルトギースは頷いた。

 

 ベゼットは一階のロビー端に固められた手下達を確認し、娼館の顧客名簿に目を通しているとフロッティが話し掛けてきた。

 

「ベゼット。一度ネコマンマ亭に帰って様子を見て来ましたのですけど。そうしたら、マリラが帰って来ていて……。モモカ姉さんが魔力冷蔵庫に入れていた、シュークリームを食べてましたのですけども、どうしましょう?」

「はああああああああ!? あのシュークリームは家に置いとくと、カヤ姉さんが盗み食いするから、こっちに保管するわよって入れてた物なんだぞ!? 因みに何個食べていたんだ?」

 

 フロッティから聞いて、被害は何個かと恐る恐る訪ねてみた。 

 

「うーん。両手に一個づつ持ってましたから、多分二個だと思いますわよ」

 

 ベゼットはパシッと頭に手をやり、「マジかー」と唸り「何故止めなかった」とフロッティに返すと。

 

「だって、私が怒られるわけでありませんし。またゲンコツでも貰えば懲りるんじゃないですの? ホホホ」

 

 ポヤポヤ笑いながら返されて、更に頭を抱えるベゼットであった。

 

 六個入れてあったので二個の被害であった。

 

 家に置けばカヤが、ネコマンマ亭に置けばマリラが――

 モモカ激怒確定である。

 

 額に汗を浮かべ必死にモモカへの説明はどうするかと悩んでいると、「にゃほー」陽気な声でカヤがアンソルスランにやって来た。

 

「カ!? カヤ姉さん! ご苦労様です!」

「ご苦労様です」

「あら。カヤ姉さん、ごくろうさまですのよ」

「おぉー ベゼット、オルト、フロッティ。こっちも終わったみたいだねぇ」

「あ、はい。既に協力者も確保しております!(モモカ姉さんはどこに?)」

 

 モモカの姿がないのにホッとしながらも、どのみここに来るだろうから話さないわけには、いかないんだよなーと半ば諦め顔になる。

 

「協力者が一人出ました。会われますか?」

 

 オルトギースが一人の男を指差す。

 

「いや、後でいいや。それより、マリラのあほんだらこっち来てない?」

「「え?」」

「あらま、ホホッ」

 

 マリラは来てないかの問いにフロッティは口に手を当て笑いを堪え、オルトは普通に「来てません」と返し、ベゼットだけは額に浮かんだ汗がツーッと頬を伝い落ちていき、目がグルグル泳ぎまくっていた。

 

 そんなベゼットを余所に「先にコントラバンド商会に寄ったら、マリラの奴さっさと帰ってやがんのよ! ほんと、困った自由人だよねぇ。プンプン」腕を組み右足の爪先で床をトントン叩きながら尻尾を左右にブン、ブン、と勢いよく振りながら、カヤが怒っていた。

 

 その姿を見ながらフロッティは更に肩を震わせながら笑いを堪え、ベゼット、オルトギースに至っては。

 

((いや、自由人って……それをあなたが言いますか))とジト目になっていた。

 

 気を取り直したベゼットがカヤに「モモカ姉さんは、どちらに?」尋ね聞き、「まだコントラバンド商会にいるよ。もう少ししたら、こっちに来るんじゃね?」と返し、一階ロビーをグルーッと見回しながら中央に歩いていき、残る配下達もカヤの近くに集まって来た。

 

「ところで、カヤ姉さん。アネーロ達は?」

 

 ベゼットがカヤにアネーロ達の事を尋ねると、カヤは「グラブゲのアジト兼屋敷近くで、待機させてるよ」そう返しながら歩を止め、手に持った人の頭台の大きさの皮袋を受付ロビーカウンターの上に置く。

 

 そしてロビーカウンター前に集められている娼館の女達に目をやり、一階の待合室や手下が待機する控室を見て周り、二階に上がり行くとベゼットがカヤの後ろに付いて行く形で付き従う。

 

 二階に上がると様々な趣向を凝らした部屋が五部屋あり、上級貴族向けの豪華な部屋が五部屋、後は大きな浴室が付いた部屋が二部屋に、中下級貴族向けの部屋が三部屋、残り二部屋が備品、その他を入れる部屋だった。

 

 それから三階に上がり、階段真正面に殺した幹部の大きく贅沢を尽くした執務室があり、隣に手下の待機室がまたあってその奥両側に左右一部屋づつ大部屋があり、二部屋とも十人分のベッドと化粧台が備え付けられていて、割と小奇麗に整頓されていたが、二部屋とも窓は付けられてはいなかった。

 

「うーん……。こりゃ全面改装だねぇ。豪華だけど、下品臭い! それでさ、この飾られてる絵とか壺とか他の物も全部売っぱらっちゃっていいよ。『解析鑑定』したらけっこうな値段で売れる価値あるから。新たに飾る物はこちらで用意しよう」 

「了解しました。で、改装依頼は以前の職人達ですか?」

「うん。まあ手配はテンペストに帰って、モモカとやっとくよ」

「わかりました。〝転移魔法陣〟も前回と同じ感じですね?」

「そう。後は、モモカが来てからだねぇ」

 

 話しながらカヤとベゼットは一階に降りて行き、カヤが一人の男の前で足を止める。

 

「あんたか、協力者ってのは?」

 

 カヤは腕を組み、自分より背の高いイサカを見上げ気味に問い掛けた。

 

 いきなり声を掛けられ一瞬ドキッとするも、カヤの姿を見てすぐに只の亜人ではないと感じ、その場に跪き自分の名を告げる。

 

「ネコマンマ商会のボスですね。私はイサカと言います。この娼館で女達の面倒を見てる者です」

「ふーん。でさぁ、あたし達に協力すると言う事は、グラブゲを抜けてこっちに来るんだね? 言っておくけど、仲間を裏切ったら魂すら残さずに消すからね? あんたに関わる者皆、同じ道を辿る事になるよ。本当に、いいんだね?」

 

 普通の口調で言ってるにも関わらずカヤの圧は凄まじく、下を向いたまま大粒の汗をボタボタ床に落とし、次の言葉を出すのに喉の奥がヒュウ、ヒュウと鳴り声が出せずにいた。

 

 イサカの様子を見ていた娼館の女達もその圧をまともに受け、その場にしゃがみ込む者や、失神する者が出ていた。

 

「ん? どしたの? 汗が酷いよ」

「い、いえ……大丈夫です。ハァハァッ。一つ、一つ聞いても宜しいですか?」

「いいよ」

「仲間とおっしゃいましたけど。あなたを裏切ったら、どうなりますか?」

「どうもしない」

「えっ……」

 

 どうもしない、この言葉に思わず絶句し、「あの、あの」と言葉にならない言葉を口にし、固まった。

 

「ん~ あたしが怒ったら、イングラシア毎無くなるよ? だから、あんた如きの裏切りにあたしは一々構わないよ。めんどくさいし。まあ、その前にベゼット達があんたとあんたに関わる者、全て始末するだろうしねぇ。多分マリラが嬉々として、先頭に立つだろうねぇ。ニャヒヒヒ」

 

(俺如きか……ハハッ。器が違い過ぎる。それに、めんどくさいか……なんなんだ、この御方は。マリラ……それはマジに勘弁だな)

 

 大きく深呼吸して浅く深呼吸を幾度か繰り返し、今度こそ覚悟を決め己の決意を口にする。

 

「ネコマンマ商会のボス! 俺を、いや私をあなた様の配下の末席にどうか、どうか加えて頂きたくお願い致します! この命ある限り、あなた様に忠誠を誓います!」

 

 一気に言い終え、ブハッーと息を吐き、(ひざまず)いてる体勢からガクリと腰を落とし尻もちを付いた格好になり、体を支える両手が小刻みに震えてるのに気が付く。

 

「いいよ。あ~あ、なんか暑苦しいのが入ってきたよ。ウヒヒッ。あっ、それとボスは無しね。姉さんと呼ぶこと、モモカも同じね」

「わかりました! カヤ姉さん」

「じゃあ、ベゼット。後の面倒は任す」

「はっ! カヤ姉さん」

 

 カヤの了承の言葉を聞き、ベゼットは尻もちを付いてるイサカに右手を差し出し、差し出された右手イサカが取ると、グイッと引き上げベゼットはニーッと笑うと、「ようこそ、ネコマンマ商会へ」静かに言葉を投げ、ポンと肩を軽く叩いた。

 

 バルクやオルトギース、ボア、ダネルの男達が軽く挨拶を交わし、フロッティも軽く挨拶を交わすのかと思えば、「ご愁傷様。オホホホ」と小さく笑い、「え?」イサカが首を傾げても口に手を当て、笑っていて「おい、フロッティ。弄るのはやめておけ」とダネルが静かに窘め、フロッティはペロッと舌を出しその場から離れて行き、娼館の女達に「カヤ姉さんの妖気(オーラ)はきつかったでしょう?」と言いロビーにあるソファーや椅子に座るよう促す。

 フロッティの彼女達を見る目は、どこか懐かし気でいて少し寂し気な目も入り混じった様な、目をしていた。

 

 その様子をチラッと見たカヤはベゼットを呼び、娼館前の二階建て宿の部屋は何部屋あるか? と尋ねる。

 

「前の宿ですか? ちょっと見てきますね」 

 

 言われすぐに前の宿屋にいき、部屋数を見てきてベゼットはすぐに帰ってきた。

 

「二十部屋ありました」

「じゃあさ、コントラバンド商会から奪った金貨七百枚から金貨百枚置いていくから、これで買い取り交渉して残りは宿の改装とか備品買ってね」

「えーと、カヤ姉さん。何に利用するんで?」

「あの子達の部屋に使うよ。個室があった方がいいと思うからね」

 

 カヤはベゼットに金貨百枚程入る皮袋を用意させ、道中財布からジャラジャラと、金貨百枚を皮袋に入れて渡す。

 

 金貨を受け取ったベゼットは、カヤに対して疑問と懸念を口にする。

 

「カヤ姉さん。女達に個室を与えて大丈夫なのですか? それに、逃亡を企てる可能性もあるかと」

「そうだねぇ。その懸念はわかるよ。じゃあ、組織としてどうするかだけどぉ」

「どうするのですか?」

「ようはさ、あの子達にネコマンマ商会に居た方が得と、思わせればいいんだよ。身の安全、衣食住、体を張ったそれに見合う対価、それだけだよ。他の組織には、今のところどれも無理だからねぇ。後は信頼、これには善も悪もないからね。あの子達から信頼を得ればいいんだよ。あたしはあんたらも、あの子達も区別はしない。どちらも体を張ってるんだから、同じネコマンマ商会の者なんだよ」

「わかりました。そのように皆にも、伝えましょう」

 

 カヤの言葉にベゼットは跪き、言葉を返す。

 

(やはり、この御方は俺達とはどこか違う……悪を超えた悪なんだろうか……ハハッ)

 

 ポヤポヤした普段からは想像できないカヤの姿に改めて、この御方は底が知れないなと、心の内で密かに思う。

 

 コントラバンド商会から奪った金貨七百枚をモモカより先にコントラバンド商会に来たことで「あたしが預かっておくね。ニャフ」とちゃっかり自分の財布に入れていたカヤ。

 

 それが後日モモカにバレて没収されたのは、言うまでもない。

 

 バレてモモカから〝お話し(説教)〟を受けるカヤを見て、ベゼットが(あの時の俺の気持ちを、返してくれ)思うのも、いつものネコマンマ商会の日常であったのだ。

 

 




 五十四話を読んで頂き、本当にありがとうございます!

 次回の更新も、よろしくお願いします!







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