転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 六話です。

 

 


六話 終わりの足音

 

 

 百佳(モモカ)達が里に帰ってきて八日たった、日暮れ時。

 

 

 

 夏夜(カヤ)は岩風呂より、少し奥に行った所にある炭焼き窯の前にある簡単な作りの野外囲炉裏の前で、膝を抱えて座り(おさ)の所で自分の処遇の事で、小梅が庇ってくれた事を思い出していた。

 

 パチっパチっと音を立て燃える(まき)を、ずっと眺め瞳に映る炎がゆ~らゆ~らと、小さな篝火(かがりび)のように揺れていた。

 

 

 先程までの記憶が、夏夜の頭の中で揺れ動く。

 

 

 里に連れ帰られた夏夜は、(おさ)の所で里の重鎮(じゅうちん)達に糾弾される事になる。

 

 ある者は手足を縛り山に捨て狼の餌にと、またある者は手足の腱を切り里から追放せよと、様々な意見が飛び交う。

 

 夏夜をどう裁くかで揉める中、父、母、百佳が一生懸命弁明してくれたが、里の重鎮(じゅうちん)達は聞く耳持たなかった。

 

 そんな中、ずっとその様を見てた小梅が口を開いた。

 

「なぁ、おお婆様、おお爺様、里が危険に晒されるのはわかるよ。でもな、遊女みたいな扱い受けた姉さん達の末路は、充分見てきて知ってるだろうが!」

 

 里の重鎮達を見渡し、忌々し気に吐き捨てた。

 

「あたいらはな、殺せと命じられればどんな奴でも殺す。それが赤子、子供、老人だろうとな! でもな、あんなクソ爺の慰み者になる為に、人の心を捨て乱破ノ者なんかになった訳じゃないんだよ!」

 

 怒りにも似た、どこかやり場のない気持ちで言葉をぶつけた。

 

「小梅! お館様をくそ爺呼ばわりは許さぬぞ!」

「おお婆様。ならあたいも夏夜と一緒に罰するかい?」

「そ、それは……」

 

 小梅は里に古くからいる、稀少な毒使い忍びの一人娘で、今は家督を継いでおり里のお役目で使う毒を一手に引き受けていた。

 

 だから、この場での発言も許されていたのだ。

 

「夏夜のやったことは、許されるものではないのはわかってるよ。お館様の(めい)は絶対だし、逆らうことなど以ての外だ。そんなことはこの里に生まれて、嫌という程叩き込まれてきたよ」

 

 小梅は話しながら、うな垂れてる夏夜の頭を撫で、己の思いをぶちまけていく。

 

「でもな、理屈ではわかってても修羅の道を行くと決め捨てたものが、心の外で細い紐で繋がってて(うず)くんだよ……百佳がお側付きを言い渡せられたと聞いた時どうしようもなく、ここが疼いてたまらなかったんだよ……」

 

 胸を押さえながら、百佳達のことだけではなく、里で生まれた宿命に縛られ、与えられた(めい)に従うだけの生き方に、抗うことはできないのかと、思いを吐き出す。

 

「小梅よ。そんな甘い戯言(ざれごと)は捨て去れい! じゃないと里そのものが滅ぶのだぞ」

「おお婆様。人を(あや)めるなら、殺められる覚悟は皆あるはずだよな? この戦乱の中生きてるんだ。そうなってもあたしは受け入れるよ……それがなんであれね」

「馬鹿なことを、お前はこ奴のやったことを許すというのか!? 今のうちに首を刎ねるなりして殺さねば、本当に里に災いを呼ぶぞ! わかっておるのか小梅よ!!」

 

 おお婆様の吐いた言葉を聞いた瞬間、殺気を放って小梅の目がすーっと細くなり、その気を感じ夏夜の体がぴくっと跳ねた。

 

「なぁ、おお婆様よぅ。それ以上、その口を開いてみろ。殺すぞ!!」

 

 腰の小太刀に手を掛け、おお婆様の前にゆっくりと近づいていく。

 

「夏夜を殺すなら、あたいは里の者にとって敵になるな。あいつら二人は、あたいにとっては身内みたいなもんなんだ。お役目で失敗して、死んだおとうと、おかあの時は、そばにいなくて何もできなかった……だから、今そばにいる夏夜は、守りたいんだよ。修羅の道を歩き、血山を築こうとも大事なものはあるんだよ、おお婆様」

 

 おお婆様も若い時はかなりの手練れだったが、静かに睨み言葉を連ねながら発する小梅の殺気に気圧される。

 

「お、お、お前は掟に逆らうと言うのか、小梅!」

「おお婆様、わたしも、夏夜を殺すと言うなら里を敵に回してでも、大切な妹を守ります!」

 

 百佳もそう言うとすっと立ち上がり、両手に呪符の束を持ち親指で扇状に広げ、二人の親も百佳に続き静かに立ち上がった。

 

「おお婆様も小梅もやめい! 小梅、少し口が過ぎるぞ! それに百佳、お前も(はや)るな」

 

 (おさ)が三人を戒めたが、小梅は構わず口を開く。

 

「あたいらは、人を殺めておまんま食ってるんだ。でもな、せめて身近な……家族くらい助けようと思ってもいいだろうがよ。家族への情さえ忘れたら、あたいらは、獣にも劣るじゃねぇか! いつかはこの業の報いは来る。ならその時まで大事なもの一つ位守ってもいいんじゃねぇか?」

 

 誰もが小梅の言葉に、今まで口にしたくてもできなかった事を言われ、押し黙ったままでいた。

 

「皆の者、この件は一旦保留とする。 明日お館様の所に立ちこの一件の処遇を、わしが聞いて来るまで待て。以上だ!」

 

 (おさ)のその言葉で場は一旦しめた。

 

 そしてお館様の所で今回の件の処遇を聞いてきた(おさ)は、しばらくはお役目の報酬はないとの事と、夏夜は寛大な処置で、里に当分の間謹慎で良いとのことだった。

 

 この一件はこれで終わった。

 

 表向きは……。

 

 夏夜は百佳に怒られ最後に泣かれたこと、自分のことで小梅は自分の立場を捨ててまでも守ると言ってくれたことに、自分だけが思うだけで、何もできてないんじゃないかと自責の念に駆られていた。

 

 パチン、薪が弾け火の粉が散る。

 

 日が暮れ暗がりの中、焚火の明かりに夏夜の姿が映り揺らめく。

 

 自分のやったこと、里に危険が及んだかもしれなかったこと色々な考えが、頭の中をぐちゃぐちゃにして駆け巡る。

 

「あたしは、馬鹿だ……勝手に暴走して、百佳と喧嘩してあたしのことで泣かしてしまったし、守るとか言いながら百佳を困らせた。小梅もあたしを庇ってくれた」

 

 言い様がない感情を口に出し、膝を抱えたまま顔をうずめた。

 

(どうにかしたかったのに。でも、その気持ちが逆に百佳を心配させて、里の者にも迷惑を掛けたし、父様、母様は怒らなかった……逆にそれが辛い……あたしの、守るはなんだったんだろう……あの時ほんとうにそう思った。それは嘘じゃない……でも、今は、わからなくなっちゃった)

 

「あたしは……忌み子だ」

 

 いつもの覇気はなく、そこには年相応の哀し気な少女がいるだけであった。

 

「誰が、忌み子だって? 言った奴連れてこい! あたいが、どつきまわしてやるわ!」

「え? 小梅……」

 

 ガサガサと小梅が、林から狩って来た二羽の野ウサギを持って出てきた。

 

「なに、悩める町娘みたいなことやってんだよ」

「……してない」

「ほんと、百佳のことになると、夏夜はだめだなぁ」

「そんなこと……ない」

 

 頭をカシカシとかきながら、あ~もうと言いながら小梅は夏夜の隣にドカッと腰を下ろした。

 

「夏夜、飯作るの手伝え、飯まだだろ?」

「……うん」

「あ、お前(まき)小屋に鍋隠してるだろ? それ持ってきな。それと岩風呂で湧き水汲んで来てくれな」

 

 夏夜の頭をぽんぽんと叩きながら言う。 

 

「いつもここで、狩りしてきたの食ってるのに今日は、ないんだな。ククッ」

 

 小梅はいつものように、夏夜に接し遠慮なく用事をいいつけていき、薪小屋から平たく切った板を持ってきて、野ウサギをのせ(さば)いていく。

 

 そこに夏夜が野外囲炉裏の鍋掛に鍋をかけ、汲んできた水を鍋に入れる。

 

 ウサギをさばき終わった小梅は、持ってきた袋から大根、ねぎを取り出し切って鍋に入れていく、そして野菜が煮えたところにウサギのお肉を投入していく。

 

 ぐつぐつと煮えていく大根、ねぎ、お肉、竹の皮に包んだ味噌を鍋に溶いていき、鍋の湯気に混じって香ばしい味噌の香りが、空きっ腹に響き夏夜のお腹がきゅっ~と鳴る。

 

「なんだ、腹へってんじゃねぇか。ククク」

「……うるさい」

 

 小梅は笑いながらもう一つの竹の皮の包みから握り飯を取り出し、味噌を塗り火の近くに置き、焼き味噌握り飯を作る。

 

 木のお椀と箸を、湧き水で洗ってきた夏夜は小梅に渡す。

 

「お、ありがとな。そろそろいい頃だな、食べようぜ」

「うん」

 

 二人はおもむろに鍋をつつきだす。小梅はお椀に満遍なく野菜、お肉を入れていき、一方、夏夜はお肉、お肉、お肉、大根、お肉、とお肉ばかり取る。

 

「相変わらず、肉すきだなぁ。野菜もちゃんと食べな」

「葉っパは、いい」

「葉っパじゃねぇ~ 野菜だ!」

「百佳がおこるぞ、肉ばっかり食うってな。クククク」

「もう、いっぱいおこられてる――いだっ」

 

 パシンと軽く頭を叩き、小梅は素知らぬ顔で、大根をあちあち言いながら食べる。

 

 しばらく、もくもくと鍋をつつく二人を薪の炎が、赤々と照らし出していた。

 

 竹筒に入れてきた水を夏夜に渡し、焼き味噌握り飯を頬張るとカラッと薪が音を立て、火の粉が夜の空に上がって行く。

 

 鍋も食べ終わり一段落した所で、小梅は夏夜のすぐ隣に座り直し話し始める。

 

「なぁ、夏夜、お前さ後悔してるのか、お館様の所に行ったこと?」

「いや……それはしてない、ただ……」

「ただ? なんだ」

「あたしは、強くなりたい、そうしたら百佳を守れると……思ってたんだ。でも、あたしのこの力は、人を壊すことにしかつかえなかったんだ。この力は、守ろうとするものすら壊してしまうんじゃないかと……思えて」

 

 そこで言葉につまり、膝を抱えて顔を膝に埋めた。

 

「その力は、お前が望んで手に入れたものだろう、誰にも恥じることはねぇよ。百佳がその力を忌み嫌ったか? 今までのお役目で百佳を守ってきたんだろう? あたいらはな、いつ死んでもおかしくはない事をしてんだしな……」

 

 新しい(まき)を放り込みながら、静かに言う。

 

「あたいの友達はもう三人死んでるんだよ。それだけ死が付き纏うお役目なんだ。特に夏夜達は暗殺が主だ、その中で未だ生きてるのは、夏夜の力じゃないのか? 百佳もお前のおかげで、何度命拾いしたかわからないって言ってたんだぞ」

 

 そう言いながら、夏夜の頭をゆっくりと自分の方に寄せ、夏夜は逆らわずこてんと小梅の肩に頭を寄せた。

 

 音の無い空間に、薪の弾ける音だけが、静かに響いてゆく。

 

「あたいらの心は、真っ黒に闇で染まってしまってるけどな、何か一つだけ心の拠り所を持っててもいいんだ。だから自分の中の闇を、決して否定するなよ。自分を否定したら、それはもう何者でもないからな……闇も自分自身なんだ」

 

 夏夜の頭を撫でながら、自分に言い聞かせるように語る小梅。

 

「……うん」

 

 小梅に寄り掛かったまま小さく頷き、そのまま二人は寄り添ったままで燃える薪を眺めていた。

 

 小梅の遠慮のない物言いと、それでいてさり気無い優しさがこの時ほど心地いいと思ったことはなかった。

 

 しばらくしてそろそろ帰るねと鍋とお椀を片付け、夏夜はその場を後にする。

 

 そこへ、少し時をおいて百佳がやって来て、小梅に話しかけた。

 

「ありがとう。小梅」

「ん? なにもしてねぇよ。いつもとかわらないさ」

「……あなたのそんな所にあの子も、好きになったのね」

「百佳よぉ、心配でずっと見てたんだろう? ほんと姉妹揃って不器用とか、見ててこっちが心配になるよ」

「そうね……まったく、ね……」

 

 いつになく元気のない百佳に、こっちもかと頭をカシカシと搔きながら夜更けまで話す二人であった。

 

 燃え尽きかけてカランと音を立て崩れ落ちる薪が、火の粉をまき散らし夜空に舞い上がる春も終わりかけた夜。

 

 

 そして春が過ぎ、夏が終わり……秋が来た。

 

 秋に入り、しばらくお役目が無いとの通達があり、里の者全員が里に帰って来ていた。

 

 秋も深まるお昼前時にお館様の使者が、荷車に酒の大樽を沢山積み(おさ)に日頃の労いとして、お館様よりの(たまわ)り物故、ありがたく頂戴せよと、大広場で酒樽を開け皆を集めて振舞えと申し付けた。

 

 こういう事はたまにあるので(おさ)も疑わずに、皆を集めて酒を振舞えと里の者に指示した。

 

 酒の飲めないものはお猪口(ちょこ)で一杯だけ飲み、子供たちも一口だけ飲んでいき、それを漏らさず飲んでるか、使者達は気づかれぬよう注意深く観察していた。

 

 ほぼ酒がいき渡った頃合いをみて、(おさ)にこれで皆飲んだかと尋ね、幾人か野良仕事に出てると聞くと。

 

 使者は、帰ってきたらちゃんと振舞うように言いつけ、またすぐお役目が言い渡されるので、励むようにと言いその場を後にした。

 

 この時小梅は、お役目に使う毒の調合が忙しく調合小屋に籠っており、夏夜は(イノシシ)狩に、百佳もそれに着いて行っていた。

 

「小梅~、ここに酒置いとくから飲めよ~」と、里の者の一人がとっくりを置いていき、お館様の賜りものだから、ちゃんと飲めよと告げる。

 

 小梅は「ああ、一段落したら飲むよ」と言い、毒の調合に没頭する。

 

 大広場では、酒好きが集まり酒盛りを楽しみ、こんな上物の酒は滅多に飲めねぇと(ます)で、ガブガブと飲み干していく。

 

 そろそろ日が傾き始めた頃、夏夜達も猪を仕留めて家に帰って来ていた。

 

 折しも毒の調合が一段落した小梅が、とっくりから酒をお猪口(ちょこ)に注ぎしばらくじーっと見つめていた。

 

 毒使いの癖で必ず口にする物、特に他人からの物は、必ず調べてから口にするのが習慣になっていた。

 

 お館様の賜り物でも例外はなく、匂いを嗅ぎ確かめる。

 

 そして、小指に少しつけて舐めてみる……。

 

 …………

 

 ……

 

 

「なっ!!」

 

 怒りに満ちた目で声を上げる小梅。

 

「これは……くそ! この酒、根来(ねごろ)の毒が入ってるじゃねぇか!」

 

 小梅は類まれなる舌と嗅覚をもっており、根来ノ者が使う特殊な毒を見抜いたのだった。

 

 バンと小屋の戸を蹴り開けるように開け、「飲むなーー!」と叫びながら走った。

 

「この酒を飲むんじゃねーー! 根来の毒だ! みんな飲むんじゃねーー!」

 

 くそ、もっと早くに気づいてればと小梅は叫び走り、自分の失態に言い様のない怒りで己を責めた。

 

 既に毒の効果が表れ、倒れてる者がちらほらと走る小梅の目に飛び込んでくる。

 

 小梅は酒を飲むなとあらん限りの声で、叫びながら百佳達の家に急ぎ駆けていく。

 

 

 




 ここまで、読んで頂き本当に、ありがとうございます!

 引き続き読んで頂ければ幸いです!
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