さんさんと照り付ける日差しに、心地よいそよ風が舞う。
そこは迷宮内のプライベートビーチ。
白い砂浜にビーチパラソルが立てて在り、そこにリクライニングチェアとビーチ・チェアが三つ置かれ、横に白くて丸いテーブルが置かれていた。
リクライニングチェアに横たわる一人の猫娘。
黒のバッククロスティアードフレアワンピースの水着を着たモモカがいた。
身長百五十八の引き締まった体にスラリと伸びる白い足。
水着は前から見るとビキニに見え、後ろから見るとクロスした紐で編みこんでるようなワンピースタイプに見える。
その奇抜なデザインが仄かな色気を漂わせていた。
波打ち際で遊ぶ獣人の子供、ラコル。
着ている水着はピンクで腰回りにフリルが付いているタイプで、とても可愛らしい水着であった。
うりゃりゃりゃやああああああ!
凄まじいスピードでイルカの様に水中を泳ぎ、海面にジャンプする一人のネコムスメ、カヤ。
着ている水着は競泳用タイプの紺色で、サイドに黄色のラインが入っているハイレグカットの水着である。
身長百五十六のカヤも無駄のない引き締まった体をしていて、モモカとは違う健康的な少女と言う雰囲気を醸し出していた。
もっとも、これは二人が生前死ぬ前の記憶の体格なのだ。
カヤはリムルから何かを頼まれる事、もしくはヤバいお使い? を察し、一度テンペストを脱出してからこっそり戻って来て、出来たばかりの迷宮ビーチにテントなど持ち込んで泊りがけで遊んでいたのである。
その際にラコルを呼んで連れて来ていたのだが、いつしかモモカも現れ迷宮の海を堪能していた三人。
モモカはテーブルに置いてある酒蔵君から、青い液体をカクテルグラスに注いでいき、クピリと飲み目を細めほっと軽く息を吐く。
シュナに作ってもらった、アルコール度数の高いカクテルであった。
「ほっ。いいわね~ この波の音聞きながらの一杯も。海か……こんな風に遊ぶなんて、無かったわねぇ、あの頃は。ほんと、カヤが何かヤバそうだから雲隠れしようと言ってきた時は何事かと思ったけど……。魔王の集まりだったとはね、カヤが嫌がるわけだわ。フフッ」
泳ぐカヤに遊ぶラコルを見ながら、しみじみと声を漏らすモモカ。
一方テンペストに帰ってきたリムルは、付いてきたルミナスを賓客室に案内して、二人の潜伏先を洗い出していたが二人は見つからなかった。
そうしてる内にルミナスが一度迷宮の海と砂浜を見たいと言い出し、リムルは迷宮の海へ案内した。
そこには砂浜で寛ぐモモカと海で遊ぶカヤがいて、何故かラコルもいたのである。
「リムルよ。あれはカヤとモモカではないか? それとあの獣人の子供は知り合いか?」
「ああ、いるな。あの子は、二人の友達だよ(灯台下暗し――ここに居たのかあー!)」
ルミナスは遠めに二人を確認し、ビーチパラソルがある方にサクサクと歩き歩を進めて行く。
リムルもそれに付いて行きながら、海を見るとカヤが大波を立てながらラコルが遊んでる波打ち際に迫っていた。
「うにゃにゃにゃーー。ラコルー、そこ危ないぞおー!」
『重力支配』で大波を作り、その波に乗るような形で腹這いになり大波を横切るように滑っていく。
リムルが(あ! あれ波にのまれるんじゃね?)そう思った時にラコルが動いた。
「もう、カヤお姉ちゃんったら。しょうがないなあ~」
砂のお城を作ってたラコルが仕方なさそうに言い、スクッと立ったラコルの姿がゆらりと揺れた瞬間残像を残し、ラコルに蹴られた濡れた砂が宙に舞う。
瞬歩――
一瞬でモモカのいる所まで移動していた。
その
「え!? ラコルって、いつの間にあんな事出来る様になったんだ? あの歳で何気に凄いんだが」
「ほおぉ。中々出来るではないか、あの子供」
見事な瞬歩にリムルとルミナスは歩きながら、感嘆の声を上げる。
リムルとルミナスが海に来た時から気付いていたモモカは、苦笑い気味に呟く。
「あら~。短いバカンスだったわね。でも、なんでルミナスがいるのかしら?」
モモカはリクライニングチェアから体を起こし腰掛ける様にして足を組み、酒蔵君からレモネードをグラスに注ぎ飲んでるラコルに微笑みながら声を掛ける。
「よくそこまで鍛錬したわねぇ。頑張り屋さんね、ラコルは」
「えへへー。最近ね、ここまで出来る様になったのー」
褒められて照れ臭そうに笑い、グラスをテーブルに置くとモモカの横にちょこんと座った。
そうしてる内にリムルとルミナスがモモカの所まで来て、ルミナスが口を開く
「ほぉ~。よく似合ってるではないか、モモカ」
「あら、ありがとう。ルミナス、どうしたの今日は?」
「いやな、リムルがこの海と砂浜を造ったと聞いたものでな、視察に来たのだ」
「そう、フフッ。じゃあ、ルミナスも水着を作ってもらうのかしら?」
「う、うむ。無論、そのつもりじゃ」
「なら、一緒に泳げるわね。ウフフ」
「そうじゃな。
モモカがにこり微笑み言うとルミナスも同じように微笑み返し、それを見たリムルは「やっぱり、こう言う対応が出来るモモカは違うよなあ」と沖ではしゃぎ泳ぐカヤを見て呟く。
モモカはリムルとルミナスに椅子を勧め、二人共ビーチ・チェアに腰掛ける。
「そうそう。ラコル、この方は魔王ルミナス。わたしのお友達よ」
「は、初めまして、ラコルと言います。魔王ルミナス様」
少し緊張気味の言葉で挨拶をしてペコリと頭を下げる。
「うむ。礼儀正しい子じゃな。先程の瞬歩は、その歳で見事だったぞ。これからも、鍛錬を怠るでないぞ」
「は、はい! ありがとうございます! ルミナス様」
魔王ルミナスに褒められて、嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらモモカの横に座り、両足をパタパタさせ満面の笑みを浮かべた。
「モモカ、ラコルに教えてるのか? 体術を」
「いいえ、闇夜影千流は教えてないですよ。体術の基礎しか教えてないし、後はわたし達の体術をたまに見せてるだけよ。フフッ」
リムルの問いに、基礎しか教えてないと答えたモモカの返答にリムルとルミナスは驚き、中々に才のある子じゃとルミナスは言い、リムルも先が楽しみだなと笑顔で言うとラコルは恥ずかしさで一杯になり、モモカの左腕を掴むと顔を伏せてしまった。
そんな和やかな雰囲気の中、海から上がって来たカヤが「ルミナス姉さま、なにしてんの?」と言いながら酒蔵君を掴み、レモネードを飲む。
「逃げた
「へ、へえぇー。じゃあ、またね」
ルミナスの言葉に即逃亡の構えを取るや否や、一瞬で背後に回ったルミナスに後ろから抱きしめられ、「座るがよい」耳元で低い声で言われ、「あ、はい」と観念してルミナスの隣にあるビーチ・チェアに座った。
ぷんすかと不貞腐れ気味にカヤは文句を言いながら、酒蔵君をコンコンと叩きカクテルをグビグビ飲み始めていく。
「でさあ、なんで魔王達があたし達に用があるわけ? あたしは用なんかないんだけど?」
「お前、イングラシアで力使っただろ?」
「ギクッ……さあ、なんのことかな~」
「それを、ギィに知られたんだよ。あとミリムにもな」
「ギィ? ミリム? 誰なのそれ?」
「最古の魔王に位置する二人だよ。とにかく、魔王でもないお前達の力が気になるらしくてな、どうしてもお前達に会いたいそうだ」
「やだ、めんどい。争う気は更々ないから、そう言っておいて。モモカ、後は任す」
「あんたねぇ。ここまで来たら観念しなさいな。逃げても、どうせ後で説明やらなんやらで、もっと面倒になるわよ?」
「い・や・だ!」
「カヤ。そう言わずに一度だけ会って、敵対の意思はないと言えばいいんだから、会ってみろよ」
「そうじゃな。子供みたいに駄々をこねず、会って敵意が無い事を言えばよい」
「カヤお姉ちゃん。魔王様達が会いたい言うなら、会ってあげないとダメなんだよ」
「ほう。ラコルの方がお主より、よほど大人じゃのう」
「ぐっ、ぐぬぬぬぬ」
ラコルからダメ出しを喰らい言葉に詰まり、唸るカヤ。
周りに味方がいない状況に、目を吊り上げルミナス、リムル、モモカを睨むも、三人共そんなのどこ吹く風で、モモカがグラスを二つ用意し酒蔵君からレモネードを注ぎ、リムルとルミナスに勧める。
程よく冷えたレモネードにルミナスは、「中々に美味じゃな。このレシピはあるか」とモモカに聞くと、「これは、シュナに作ってもらったものなの」そう告げ、リムルが後で聞いておいてやるよとルミナスに言い、「うむ」と満足げに頷くルミナス。
カヤがラコルの方を向いて何かを言おうとしたら、ルミナスの突き刺すような言葉がカヤに刺さる。
「ラコル~ 。こんな――」
「なんじゃ?」
「フニャッ! な、なんでもないですのよー(なんで、あたしの言おうとしたことがわかったんだよ!)」
ラコルに、「こんな老獪吸血鬼みたいになってはダメだよー」と言おうとして、ルミナスに右手を握られ慌ててイモを引くカヤであった。
だが、そのやり取りの中いきなりカヤは立ち上がりある遠くの一点を凝視して、尻尾をゆらゆら揺らしながら警戒度MAXになり、モモカも同じようにカヤと同じ一点を凝視していた。
「来たか。早かったな」
「大方、帰ってすぐこちらに向かったのであろう」
遠くに姿を見せた者に、リムルとルミナスはさらりと言うと、カヤが「あいつ、ヤバっ」ぼそり言い捨てるや、『空間転移』で転移しようとした刹那――
――その遠くに見える影が動く。
それは遠くに砂煙を上げたと同時に、カヤのいる場所へと移動していた。
ほぼ転移を済ませたカヤがいた空間に、強引に手を突っ込むと尻尾を掴み思い切り引っこ抜き、砂浜に叩きつける。
カヤを叩きつけた反動で大量の砂が噴煙の様に舞い上がり、降り注ぐ。
その降り注ぐ大量の砂をリムルが〝魂暴喰〟で一瞬にして喰らい消し去った。
「わっはははは! ワタシから逃げようなど、百万年早いのだ!」
そこには、尻尾だけを上に出して砂に埋まってるカヤに、高笑いしながら言い放つミリムがいた。
「あー ミリム。わかってるよな?」
「大丈夫なのだ。ワタシにはこれがあるから、心配ないのだ!」
両手に嵌めたドラゴンナックルをリムルに見せながら得意げに言うミリムに、リムルは「とにかく、絶対にここでは暴れるなよ」と念を押しそこへルミナスが「カヤがいるのじゃぞ。それは無理と言うものであろう?」と不穏な事を言い、リムルが更にミリムに念を押していたら――
「うにゃああああ! どこのアホだ、あたしの尻尾を掴んだ奴は!」
砂に埋まっていたカヤが、ガバッと跳ね起きいきなり捲し立てる。
「ワタシは魔王ミリム・ナーヴァだ! お前達に会ってみたかったから来たのだぞ?」
「あああぁぁ? なにあたしの尻尾を掴んでくれてんだ? ぶち殺すぞ! このー」
「なんだ? お前。ワタシと遊びたいのか?」
「ちがうわ!」
(なんだこの魔王……隠すつもりもないこの
『一隻眼』でミリムをみていたカヤはミリムの胸に目が止まり、ほんの一瞬だけニヘラと口端に笑いを浮かべた時――。
激しい轟音と共に、海を背にして立っていたカヤの後頭部を、凄まじい衝撃波が海を二つに割るかの如く抜けていく。
「おい。今、ワタシの胸を見て笑ったな?」
「さあ、なんのことかにゃ~?」
ミリムの轟速右ストレートを左掌で受け止めたカヤがポヤポヤと言い、ミリムはあからさまに額にピキピキ青筋を浮かべていく。
それを見たリムルが二人に釘を刺していく。
「ミリム、暴れたら蜂蜜は無しな。カヤ、暴れたらあれな」
「なっ! それは嫌なのだ! わかった、大人しくするのだ」
「はわぁ! わ、わかった! 大人しくする」
リムルの言葉にミリムはルミナスの隣のビーチ・チェアに座り、カヤも座ろうと見回すと――
椅子が無い。
カヤは「ぐぬぬ」と唸りながら右拳を握りしめミリムを見るが、ミリムはしてやったりと「ふふん」と得意げに笑い、カヤを見ていた。
仕方なしに、モモカの隣に座るラコルの横に座り、左膝に左肘を付きそこに顎を乗せ、不機嫌そうにそっぽを向く。
「魔王ミリム様、モモカと申します。以後お見知りおきを」
「魔王み、ミリム様。初めまして、ラコルです」
「モモカとラコルか。お前達は中々に礼儀正しいのだ。わははは」
その中モモカとラコルはミリムに挨拶をし、ミリムは上機嫌に笑いながらどこからか取り出した蜂蜜の瓶の蓋を開け、指に付けた蜂蜜を舐めていた。
「カヤ、だ」
一人だけ険悪なオーラを振り撒き、言葉を言い放つカヤ。
「お前、ほんとに態度悪いな。ワタシ達にそんな態度取る奴は、ただの愚か者しかいないぞ?」
「あ゛ぁ゛? 愚か者って誰のことだ?」
「決まってるではないか。お前しかここにはいないぞ? 愚か者は」
プチッ。
カヤの細やかな、忍耐袋の緒が切れた。
「最古の魔王か、なんか知らないけど――表でろやあぁ!」
「むっ。やるのか? おもしろい、遊んでやるのだ! わっははは」
「おい、お前達。暴れるなっ――」
「下でやる。それでいいだろう、リムル」
「おい、お前! 何故リムルを呼び捨てにするのだ? 友達しかそんな呼び方をしては駄目なのだぞ」
「友達だもん、リムルとはねぇ。あとヴェルドラとも友達なんだよぉ」
リムルを呼び捨てにした事に反応を示したミリムに、カヤはうひっと軽く笑い、ゆっくりとはっきりとした口調でにこにこと言葉をぶつけた。
「ほんとなのか、リムルよ?」
「まあな。ほんとだよミリム」
「そうか、わかったのだ。リムルの
「にゃんだとー! チビっ娘のくせにー!」
「ああん! 今チビっ娘といったな!? ぶち殺されたいのか?」
「やってみろよ。チビっ娘」
「「やるか!!」」
カヤはテントに行くと中に入り水着を脱ぎ、魔素でいつもの小袖に着替え外に出てミリムに下に行くぞと言い、二人揃って地下秘密闘技場に行った。
「ほんとに困ったものじゃ、カヤには」
「まあ、あいつだしなぁ。ミリムを怒らせるバカはカヤぐらいだよなぁ」
「仕方ないわ、リムル、ルミナス。あの子の忍耐力は賞味期限切れだもの」
「フッ。賞味期限切れとはよく言ったものじゃな」
「プッ。モモカ、それ忍耐力無いのと同じじゃないか? クク」
「カヤお姉ちゃん。大丈夫かなぁ……」
リムルとルミナスはさもありなんと言う様にクスリ笑い、ラコルは少し心配そうに呟く。
地下秘密闘技場に来た二人は、お互いに魔王覇気全開で相対する。
ヴェルドラが張った防護結界をビリビリと揺らしていく。
「お前達、程々にな」
迷宮内の被害を最小限にする防護結界を張ったヴェルドラはそう言い残し、読みかけの
「これはいらんから、ガチで来い」
「いいのだ。あとから謝っても、許さないのだ」
カヤの言葉にミリムも了承し、二人はニクキュウグローブとドラゴンナックルを外し空間収納に仕舞うと、先にカヤが動いた。
フッと姿を消した瞬間ミリムの懐に飛び込み、物理、炎系魔法、それに〝魔気闘法〟をミックスした、〝火具突智〟の改良型を放つ。
〝魔気闘法〟――
それは、シオンの神気闘法からヒントを得て、人だった頃に体内で練る気の応用で独自に編み出した技術で、カヤは〝魔気闘法〟と呼んでいたのだ。
〝
キュドンッ!
収束された破壊の貫通噴流衝撃波がミリムの腹部を貫かんと、空間を震わせる。
放たれた刹那ミリムは、右に身を捩り左腕でその貫通衝撃波を弾いた。
しかし、カヤの放った貫通衝撃波はミリムの『多重結界』を貫き左腕の肉を抉り貫く。
貫かれた左腕を物とせず、加減無しの右ストレートをカヤの顔面に叩き込んだ。
その凄まじい威力のストレートにカヤの頭部は吹き飛び、その威力は勢いが衰えずにカヤの体が地面を大きく抉りながら、土砂を巻き上げ二百メートル近く吹き飛ばされていた。
空中に舞い上がった地面の土砂が豪雨の様に降り注ぐ中、ミリムが猛烈な殺気を放ちながら口を開く。
「ここまで傷を負わせた者は今まで一人だったが、お前は本気を出すに値するのだ。わははは」
傷を負った左腕は既に修復を終えてあり、笑いながら言う言葉に籠った圧倒的な圧力。
頭部の再生を済ませたカヤも起き上がり、激烈な殺気を放ちミリムに言い放つ。
「にゃろー、ただのパンチであれかよ。あたしもマジにやらせてもらうわ」
カヤの表情が変わり、足元から静かに赤い魔素粒子を巻き上げていく。
「さあ、くるのだ」
「ああ、やってやるよ」
二人の姿が掻き消え、ぶつかる破壊のエネルギーと化した物が迷宮全体を揺らしていく。
六十話を読んで頂き、ありがとうございます!
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