地鳴りのような重く響き渡る衝撃音が、迷宮全体に響いていた。
「なに、なに? 何が起こってるのよさ!」
ズン、ズンと地震のように揺れる研究室で、慌てふためくラミリスが飛び回りながら叫んでいた。
そこへ、ベレッタが寄って来て静かに告げる。
「ラミリス様。どうもカヤ様とミリム様が地下秘密闘技場で、ガチで戦っておられるみたいです」
「はあぁ?……なにやってんのよさ、あの二人」
戦ってると聞いて口をあんぐりと開けたまま、しばし固まるラミリス。
しかし、揺れは収まるどころか徐々に大きくなってきていて、気を取り直したラミリスがとうとうキレた。
ラミリス、激怒!
「あんのおバカふたりがぁーー! いくわよ! ベレッタちゃん。あの二人にガツンと言ってやるのよさ!」
ベレッタを伴い、ラミリスは地下秘密闘技場へと急ぐ。
「うりゃあああああ」
カヤの超高速〝死蝶三段蹴り〟
パパパンッ!
乾いた破裂音が三つ響いた。
下、上、中と右サイドキックが炸裂する。
ミリムは難なくそれを、右手だけで
間髪入れずにダンと右蹴り足で大地を踏み、鞭のようにしならせた右裏拳二発を囮に左掌底を胸の真ん中に叩き込み、そこへ右掌底を打ち合わせ振動波を送り込む。
〝闇夜影千流 柔術・絶技〝
だが振動波が体を駆け巡る前にミリムは、右拳で胸の真ん中辺りをドンと叩き、同じ固有振動波を送り込み相殺した。
「わははは。おもしろい技を使うのだな、お前。ワタシはとても楽しいぞ!」
「はあ!? あれを相殺したのか!? なんで初見技の対応が出来るんだよ! デタラメな奴だなあんたは!」
「わはははは! ワタシの『
「どんだけ生きてんだよ!(くそー 技が見えたんじゃなくて、多分技の性質を見抜いた? それで対応して来たとか……戦闘経験の差は、流石に埋めようがないなぁ。もう出し惜しみ無しかな)」
余裕の笑みでカヤの絶技を相殺し、そこから超高速のパンチの連打がカヤを襲い、密着しての右ショートアッパーを繰り出され、ガードした瞬間に変形左フックが視角外から放たれカヤの右脇腹に突き刺さる。
「グハッ(なんだ……このパンチの、重さは……)」
打ち下ろすように打たれた左フックに、カヤは衝撃を逃がし切れずによろよろと後ろに後ずさる。
そこへ間髪入れずにミリムはカヤの正面左インサイドに入り込み体を回転させ、右後ろ蹴りをカヤの腹部に見舞う。
その時ミリムのマントに視界を遮られるも、インサイドに入られた瞬間に正中線をずらし、蹴りだされた右足首を右手で掴み、左手で右
カヤの膝壊しにミリムの超反応。
「あまいのだ!」
同じ方向に体を回転させ、カヤの頭部を左足で蹴り抜いた。
「ウギャッ!」
盛大に地面をバウンドしながら転がり行くカヤは左手で地面を掴み、ガーッと一本の線を引きながら制動を掛けるが、既にミリムが接敵してきていて拳と蹴りの応酬が始まる。
ガッ、ゴガッ、残像すら残らないお互いの攻撃。
カヤとミリムの真上に蹴り上げた前蹴りが、お互いの顎先ギリギリを掠め行く。
蹴り上げた足をそのまま踵落としに切り替え、振り降ろすお互いの踵が眼前で合わせ停まる。
「中々やるではないか、お前」
「うるさいわ、理不尽魔王が」
踵を合わせ止めたまま二人は下に振り抜こうと力を込めていくが、拮抗したカヤとミリムの力で二人が立つ地面が、ドンッ、ドンッ、と半径五十メートル程の浅いクレーターを作り、輪を掛ける様にクレーターが広がっていく。
「うぬぬぬぬぬっ」
「うにゃにゃにゃっ」
凄まじい破裂音が鳴り響く。
拮抗した力が乱れ、二人の踵落としが地下秘密闘技場の大地を抉り、激しい振動が迷宮内を走り、爆発したかのように大量の土砂が二人に降り注ぐ。
もうもうと立ち上がる土煙の中、カヤとミリムはこの戦いが楽しくて、口元にうっすらと笑みを浮かべていた。
「楽しくてしょうがないのだ。もっと、お前の力を見せてもいいのだぞ?」
「あんたこそ、まだまだ本気が出せるんだろう?」
そこへ、ラミリスが飛び込んで来た!
「あんたらあぁーー。なに、破壊行動をしているのよさ!! 迷宮内永久出禁にするわよ!!」
「「えっ?」」
「ミリム様、カヤ様。先程から迷宮内が地震のように揺れてまして。それでラミリス様が、お怒りになられたのですよ」
「「あぁー」」
ベレッタの言葉に二人は間の抜けた声で、お互いにラミリスを見る。
お怒りのラミリスが文句をぶちまけながらブンブンと二人にドロップキックを見舞うが、それをひょいひょいと避けながらミリムが右人差し指で上を指し「空でやるのだ」とニカーッと笑うと、カヤも「いいよ」と笑い返し、プンスカ怒ってるラミリスを置き去りにして迷宮内から外へと出て空を飛ぶと、もの凄い勢いで成層圏ギリギリまでカヤとミリムは飛んで行った。
「ここなら、思い切りやれるのだ。わははは」
「だね~ ニャハハハ」
高笑いしながらミリムは両掌を開き合わせ、そこに魔力を集中させていく。
同じくカヤも口の中に魔力球を形成して、魔力球の超圧縮を始めた。
膨大な魔素量がミリムに集まり、バカげた魔力の輝きを放ち始める。
カヤの超圧縮された魔力球が、いまにも弾けそうな勢いで唸りを上げていく。
「では、いくのだ!
眩い青白い光が両手の間から拡散しながら、幾筋もの破壊的な光となりカヤに襲い掛かる。
「やらせるか!
空中に浮かんだまま四つん這いの姿勢を取ると、放電しながら輝く尻尾をピーンと立て、青白い幾筋もの超熱放射光線を撃ち出し、凶暴な光がミリムに喰らいかかる。
お互いの拡散光線が次々とぶつかっていき、ミリムとカヤの間に凄まじく巨大な爆炎球を作っていた。
その爆炎球の中で魔素粒子同士が衝突し、その摩擦で電荷が生じ、巨大な爆炎球に放電現象が起こり稲妻が走る。
その巨大爆炎球の真ん中を、風穴を開ける様に爆炎を丸く吹き飛ばし、一筋の超熱放射光線がミリムの左肩を貫き、丸く開いた傷口からは白い煙が立ち上がっていた。
「油断大敵だ、魔王。フヒヒ」
「ほう。ここまでワタシに傷をつけるのは――あの時以来なのだ。いいだろう、見せてやるのだ。ワタシの本気を」
先程までとは違った静かな口調でミリムが語り目を閉じると同時に、まるで大陸を覆う荒れ狂った嵐がそこに現れたかのような破壊的な覇気が辺りの空間を包んでいった。
ミリムの
額には、美しい紅色の角が生えていて、露出度の高い衣装が揺らめき、徐々に漆黒の鎧へと変化していき、背中に竜の翼が大きく広げられ、竜の瞳孔を静かに見開く。
完全戦闘形態。
〝
「チッ……これ、どうしろと? どいつもこいつも……なんで、この世界の奴らはとんでも魔物ばかりなんだよ!! 間に合うか――真・狂乱舞、緊急起動!!」
《真・狂乱舞 緊急起動しますか? YES/NO》
「やれ!!」
《告 真・狂乱舞 術式起動承認、確認しました。第一から第八までの魔力過給機術式の拘束呪符術解除及び緊急起動開始》
《告 第一から第八魔力過給機術式、臨界突破。八式魔力増幅炉術式へバイパス接続。〝真・狂乱舞〟 緊急起動。四十六、七十八、九十三……百%、全能力ハイブースト。リミットオーバーまで、残り百二十秒です》
「まだだ!――
口の中の魔力球を
《告
世界の言葉が告げた瞬間、一気にカヤを中心にした空間に赤く輝く魔素の粒子が渦を巻くように天に向かって立ち昇り、ヒィーーンとモーターの唸りにも似た音を立てていく。
「ふむ。それがお前の隠された強さなのだな。どこまでワタシの本気に耐えられるか、見てやるのだ」
淡々と告げるミリムの右手が虚空の中から、一振りの長大な
数多の魔人、魔王を葬り去って来た伝説の魔剣。
〝天魔〟
「あれも妖刀の類か? めっちゃ、禍々しいなあの剣」
パシリと角帯に挟んでいる左腰の下げ緒を軽く叩き〝千鳥〟を空間収納から取り出す。
即座に鯉口を切ると、魔素粒子をまき散らしながらミリムへ斬り込んでいった。
甲高い金属音が断続的に鳴り響いていく。
上段斬りから切り替えし右逆袈裟からの、左横薙ぎ。
神速の斬撃をミリムは難なく弾き返し、カヤの脳天目掛け〝天魔〟を振り降ろす。
それを刃を横にして受け、更にカクっと両手首を返し切っ先を右下に傾け、〝天魔〟の刃が千鳥の刃に沿って激しい火花を上げながら下に落ちていく。
一旦間合いを空け、次なる技を放つ。
「鳴れ!
鞘から約
チンッ。
納刀時に鳴る鍔鳴りの軽やかな金属音と共に、不可視の空間斬撃がカヤを中心にして広がっていく。
それに合わせて、『重力支配』で足元に発生させた
〝剣紋紅月〟の空間斬撃を追う様にカヤがミリムに迫る。
二段重ねの攻撃にミリムは、ふっと口元を一瞬緩ませた。
あたかも石の壁を平たい板で、叩き付けたような音が鳴る。
無造作に振った〝天魔〟の一振りで空間が破裂したような音を響かせ揺らぎ、不可視の空間斬撃を掻き消した。
刹那――
カヤがミリムの懐に飛び込んできて逆袈裟に斬り上げる。
大きな金属と金属がぶつかったような轟音が、一帯の空間を揺るがす。
〝闇夜影千流 抜刀術 神閃・紅斬り牙〟
その〝神閃・紅斬り牙〟さえもミリムは〝天魔〟で受け止めていたが、凶悪なカヤの斬撃の余波はミリムが纏う漆黒の鎧に、一筋の傷をつけていた。
間合いを空け、近づき、又離れ、その合間にお互いの斬撃がぶつかり弾け合い、激しい魔素の火花を散らしていく。
殺気を全方位に飛ばし気配を偽り紛れミリムに斬り付けていくが、ミリムは全ての迫る殺気の幻影を斬り伏せ、霧のようにまき散らされた赤い魔素粒子の中に潜むカヤを見つけ、ミリムもカヤを斬り付けていく。
拮抗した戦いにも見えるが、徐々にミリムがカヤを押し始めていたのだ。
一方モモカ達は、リムルが胃袋から取り出した水晶球が映す立体中継映像を見ていた。
「太古の魔王ミリム。流石にカヤは勝てないわね、今回は」
「今回とは? 次やれば勝てるとでも言うのか? モモカ」
「そうね……勝てなくとも、今日よりはあの子、強くなってるわよ。ルミナス」
「今日より明日か……。あ奴らしいのう。フフッ」
つい出たモモカの言葉にルミナスが問うて、立体中継映像を見ていたモモカは、少し表情を緩め返した。
ラコルだけは一言も発せず、真剣な眼差しでカヤとミリムの戦いを凝視していて、それは二人の戦いを全て脳裏に刻み付けるかの如く。
そこへ、シエルさんがリムルに語り掛けて来る。
《
それは、最初にヴェルドラと戦った時に使ったやつか?
《はい。
戦いの中で新術式を作るか……いや、スキルの性能アップと言ったところか。
どんだけ魂が強いんだよ――これは、カヤ一人の力じゃない気がするなぁ。
《
ちょっと待て! カヤが
《はい、
そうか……シエルさんは疑似回廊をまだ繋げていて、情報収集していたんだったな。
シエルさんと同じスキルの統廃合ができて、新しいスキルを生み出すか……。
カヤの場合は本人限定だろうな……オトワ、もしくはネコマタを殺す為のスキルアップ。
マジに敵じゃなくてよかったな――もしミカエルに組していたら、俺達は苦戦を免れなかったかも知れないな。
《
シエルさん、それは大丈夫だよ。
もし、そんな事になっても俺が止めるし、なによりもヴェルドラが全力でカヤを止めるよ。
《……》
シエルさんの心配もわかるけど、俺はあの二人を信じるよ。
ヴェルドラもあの二人を信じると言ったんだ。ルミナス、ラミリス達もね。
《わかりました、
ああ、頼むよシエルさん。
そんな中、カヤとミリムの戦いが終わりを迎えようとしていた。
《告 リミットオーバーまで三十七秒》
「これ、あれだわ。えーと、
全能力ブーストの制限時間が迫る中、カヤは乾いた笑いを発する。
二人は、高度一万二千メートル迄降下して来ていた。
「周囲の酸素取り込み及び全魔力、超高圧縮開始」
カヤの体が明滅するように輝き始め、モーターが最高出力で焼き切れそうな音にも似た音を上げ、超高速不規則軌道で飛び回り始めた。
カヤの放つ爆裂魔力弾が、弾幕のようにミリムに降り注ぐ。
『多重結界』を揺らしながら爆発する爆裂魔力弾を意に介せず、ミリムは腰に両手を当て高笑いしながらカヤに告げる。
「わーーっははははは! ワタシの取って置きを喰らうのだ。耐えれたら、御褒美をあげるのだぞ?」
「はあ? いらんわ!」
「
ミリムの体が淡く美しい輝きを放つ。
その光は、全ての物を破壊消滅させる、崩壊の調べ。
魔王ミリムを戦いにおいて常にその頂点に君臨させた力の一つ、究極にして最強の魔法。
カヤの『多次元結界』ごと
「なんじゃこりゃあああああ! ヤバいってもんじゃないわ! あ、あ、あ、脚が崩壊するー 再生、再生って、再生する間から崩壊消滅してるよ……。うにゃー、打つ手なしだわ。どうするどうするどうするーー。うーーあれ、やるか」
凄まじいまでの威力に飛び回るカヤの両脚が崩壊消滅し、ミリムに取り付こうとするが、既に腰辺りまで崩壊消滅していた。
それでもなお、眩く光り輝くカヤはミリムの眼前迄迫り、最後の賭けに出る。
それは、魔力爆発、炎系魔法、魔闘気、超高圧縮した高濃度酸素による物理爆発の極大魔力複合爆発での威力相殺。
眼前迄迫ったカヤと目を合わせ、ミリムはニヒっと笑い、カヤも同じように笑う。
「
ふっとカヤの輝きが収まり、次にカヤの胸から中心に白色の光が膨れ上がり、ミリムの〝竜星爆炎覇〟と重ね合わさるように膨大なエネルギーを爆発させ、その衝撃波が眼下に広がるジュラの大森林にある樹々を揺らしていた。
その馬鹿げた二つのエネルギーが超強大な一つの光球となり、目も空けられない程の輝きを放ち、夕方近くのジュラの大森林とテンペストを明るく照らしていた。
そして、眩い程の光を放つ光球が徐々にその光を失い萎み、光球があった中心にミリムと、胸から下が無く右腕も付け根から失っているカヤがいた。
「ざまあみろ……髪が少し焦げ、てる、ぞ」
左人差し指でミリムの前髪を指し、そこまで言うとカヤは真っ逆さまにジュラの大森林目掛け落下していく。
ミリムは前髪の先が少し焦げていて、漆黒の鎧のあちこちに小さなひびが入っていた。
落下しながらカヤは「あーはらへったー ダメージ抜けるのに時間掛かりそうだな~」など考え、いよいよジュラの大森林の大地が迫り、激突寸前にがくんと体に衝撃が走り、体が大地目の前数センチで止まった。
急降下してきたミリムがカヤの左腕を掴み、激突寸前でカヤの体を止めたのだ。
「お前、中々やるではないか。本気のワタシの攻撃に耐えられる者など、数える程もいないのだぞ。約束の御褒美に、友達になってやるのだ。ワタシをミリムと呼ぶことを許すぞ。わーっはははは」
「なんだ、それ……。くくく。あたしの、負けだ。カヤでいいよ、ミリム」
「そうか。これからよろしくなのだ! カヤ」
「うん、よろしく。ミリム」
「また、遊ぶのだカヤ」
「うん。でも、今日のあたしより、明日のあたしは強いぞ。にひひ」
「それは楽しみなのだ! わはははは」
元気よく笑うミリムが左手を差し出し、カヤも左手を上げミリムの左手を掴む。
ここに、カヤとミリムの勝負はミリムの勝利に終わった。
六十一話を読んで頂きありがとうございます!
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