転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

62 / 94
 お待たせしました! 六十二話です。






六十二話 太古の魔王

 

 決着のついたカヤとミリムの戦い。

 

 

 そんな中、戦いを見ていたリムル達は口々に戦いの感想を述べていた。

 

「終ったな。カヤがあそこまでやるとはな……ミリムのガチに付き合えるとか、お前達姉妹はほんと底が知れないな」

「そうでもないわよ、リムル。あの子ギリギリを通り越して、最後は捨て身だもの。フフッ」

「確かにそうじゃな。じゃが、モモカよ――カヤの手綱はしっかりとな」

「わかってるわ、ルミナス。心配ないわよ、カヤもその辺わかってるから」

 

 カヤとミリムの勝負の決着が着き、リムル達が話してるのをラコルは黙って聞きながら、目に焼き付けた二人の戦いを頭の中に描き「すごいな」ポツリ呟き、中継映像が切れた水晶球をまだ眺めていた。

 

 しばらくして、ボロボロの姿のカヤがミリムを連れて『空間転移』で戻ってきて、そんなカヤを見てラコルがタタタッとカヤに駆け寄り、はしっと抱きついた。

 

「カヤお姉ちゃん。おかえりなさい」

「ん? うん。ただいま、ラコル」

 

 いつになく真剣な顔をしたラコルに「どしたの?」と言いながら頭を優しく撫で、「なんでもない」とラコルはニコリと返し、カヤはモモカの隣に腰掛けラコルもカヤの隣にちょこんと座る。

 

 リムルはカヤのボロボロの姿を見て、流石にガチのミリムとやり合って無傷では済まないよなと思いながらカヤを見て、ミリムも見てるとあちこちに傷があり、二人の戦いが凄まじいものであったと再認識したところへ、ミリムがニコニコと語り掛けて来た。

 

「リムル。ワタシはカヤと友達になったのだ。親友(マブダチ)が増えたのだ!」

「へえー よかったなミリム」

「うむ。カヤは、ワタシの親友(マブダチ)になったのだ」

親友(マブダチ)? あ、あぁ、うん」

「カヤ。嬉しくないのか?」

 

 気の無い返事をしたカヤを見て、ミリムは見る見る内に目に涙を溜めていき、右拳を握りしめて闘気を込めていく。

 

 それを見たリムルがカヤを見て、何かを訴える様にブンブンと激しく首を振り、察したカヤがニコリとミリムに返す。

 

「うん! めっちゃ嬉しいよ、ミリム」

「そうだろそうだろ。カヤも驚かすのは駄目なのだぞ。わーはっはは」

「ごめんねー ニャフフ(うわー ミリム子供じゃん。あたしより永く生きてて子供って……)」と思ったカヤだが言ってる本人も子供じみた行動や言動を吐くので、ある意味同族なのである。

 

 カヤが酒蔵君に入れてるにごり酒を飲んでいると、仄かに香る甘い匂いにミリムが「なんなのだ? それは」と聞き「これ? にごり酒って言うんだよ。飲む?」とカヤが言うと即座にリムルが「駄目だぞミリム」と言う。

 

「何故なのだ? 少しぐらい、いいではないか」

 

 ミリムはそう食い下がり。

 

「駄目なものは駄目だ、ミリム」

 

 そんな押し問答を繰り広げるのを見てカヤは(ああ、あれか。ラミリスと一緒か)そう納得をし(なんで、あたしには何も言わないんだろう?)ふと思うも(まっ、いいか)と、にごり酒をクピクピ飲んでいく。

 

「カヤ。どうであった?」

「ん? 強かった、この世界の魔王は厄介な者ばかりだ。フヒヒヒ」

「そうか。なら、よい」

「どしたの? ルミナス姉さま。いつになく優しい?」

「なんじゃ、厳しくして欲しいのか?」

「いや、そのままでいて!」

「たわけが」

 

 いつもとどこか違うルミナスに首を傾げながらも、まだ押し問答しているリムルとミリムを見て、「ほんと、この世界は飽きないわ」そう呟きモモカを見て「そろそろ、片付けようか」と言い、ラコルを連れてテントの片付けを始める。

 

 その日、ルミナスはテンペストに一泊することになり、ミリムはいつもの如く宿題が終わってなく、迎えに来たフレイに連行されていった。

 

 

 

 一夜明けて、昼前のテンペスト。

 

 レオンの所にレインとミザリーを置いて、ギィがテンペストにやって来た。

 

 カヤとモモカが、如何な魔物か会いに。

 

 執務室の前に来て、おもむろにドアノブに手を掛けドアを開く。

 

「よお! 来たぜリムル」

「帰れ」

 

 レオンの所に居るはずのディアブロが、即座にドアをし――

 

 ガッ。

 

 だがドアは閉まらず、鈍い音と共に完全には閉まらなかった。

 ギィがドアとドアの間に爪先を入れていたのだ。

 

「チッ。小賢しい真似を」

「テメエ、レオンの所に居たはずだよな?」

「何を言ってるのです? ここを行き来する事など造作もありませんよ。ククク」

 

 やれやれと言ったリムルが、カヤ達に会いに来たんだろうから通していいよとディアブロに告げ、そのまま応接しに案内して、ディアブロはレオンの所に戻って行きシュナがお茶の準備を始めていく。

 

「で、リムル。いるのか?」

「いるよ。ちょっと待ってくれ、今呼ぶから」

 

 ギィの問いにリムルは『思念伝達』でモモカにギィが来たことを告げ、すぐにこちらに来てくれる様言うと、二人が『空間転移』で執務室へ転移して来た。

 

 カヤとモモカは応接室に入り、既にリムルとギィが豪華に装飾された椅子に座り二人を待っていた。

 

 二人はリムル達真向かいのソファーに座り、リムルの真向かいがモモカ、ギィの真向かいがカヤとなる。

 

 そこで、リムルがギィの紹介を二人に始める。

 

「昨日話した、魔王ギィ・クリムゾンだ」

「テメエらか、フェイリュアワールドから来たと言うのは?」

 

 紹介が終わると同時にギィが口を開いた。

 

「はい、そうですよー。 そこから来た、テメエのカヤですよー」

「そうですね。その姉のモモカです。魔王様」

 

 ギィの言い放った言葉に、カヤはかったるそうに答え、モモカは微笑みながら答えるも目が笑ってはいなかった。

 

 リムルが(あー しょっぱなから喧嘩腰って……)思うも、敢えてその件は放置でいいやと開き直り、とりあえず質問等はギィの好きにさせる事にする。

 

 そこへ、お茶とチーズケーキを乗せたワゴンをカラカラとシュナが押して来て、リムル達にカップを配り空のカップにお茶を注いでいく。

 

 お茶を注ぎ終わり、チーズケーキも切り分け配り終えたシュナは、リムルの後ろに静かに立つ。

 

 ギィは出されたお茶を一口飲み、チーズケーキをフォークで三分の一程切り食べて、「お前の所の食い物は、ほんと美味いな」と満足そうに言う。

 

 モモカは上品そうにチーズケーキを切り食べていたが、カヤは頬張るように食べて、シュナに「御代わり!」とケーキ皿を差し出していた。

 

「よく食うなお前は」

「ほっとけ。さっさと用件を済ませろよ」

「ははっ。初対面で俺にそんな口をきいた奴は、久しぶりだな」

「そりゃどうも」

「単刀直入に聞く、お前らはどうやってこの世界に来た?」

「偶然ですよ。進化して、追ってる魔物がこちらに来たから、来ただけですよ」

「答えになってねえな。どうやって、こっちの(ことわり)に適応したんだ?」

 

 モモカは澄まし顔で答えるも、その答えに納得しないギィが覇気を漏らし始める。

 

 リムルがギィから漏れ出る覇気に注意を入れようとすると、そこにカヤが何気に言葉を放つ。

 

「ねえ、あんた。そんなに覇気を漏らすと、弱い魔物や人間が死ぬぞ。リムル激オコよ?」

「チッ」

 

 軽く舌打ちをして、漏れ出る覇気を引っ込めると再度問い返す。

 

「お前らはあちらでしか、存在出来ないはずだ。どうやって、その(ことわり)を捻じ曲げた?」

 

 その問いにモモカが答える。

 

「進化の過程での産物なの。それ以上はスキルに関することだから、見ず知らずの魔王様に手の内を見せる馬鹿はいないのではなくて?」

「くく。確かにな、お前の言う事にも一理ある。じゃあ、もう一つ――ネコマタの目的はなんだ?」

 

 その問いに、モモカはカヤと顔を見合わせ頷く。

 

「目的はリムルの魂を喰らうこと、後はこの世界に存在するこの上なく強い魂を喰らうこと、だと思いますよ」

「なっ!? おい、ネコマタは魂を喰らって何をする?」

「おそらく……。自分をフェイリュアワールドに隔離したヴェルダナーヴァへの復讐と、とてつもない憎悪から来るこの世界に存在する、全ての生物の抹殺かも知れないわね」

「ヴェルダナーヴァは、今は存在してないぞ」

「今はでしょ? 竜種は不滅の存在と聞いたわ。なら、ネコマタに取っては居ようが居まいが関係ないの。ヴェルダナーヴァの愛した者全てを滅ぼす……。多分それだけなのよ、ネコマタは」

 

 そこまで言うとティーカップを手に取り、残るお茶を飲み干すモモカ。

 

「ミカエルの事もそうだが、ネコマタの目的がそれなら、捨て置けないな――」

「駄目ですよ。ネコマタは、わたし達の得物です。もし、手出しするなら――わたしとカヤは、あなた達に敵対しますよ?」

 

 ギィの一言にモモカは、静かに少し圧の籠った言葉で即座に釘を刺しに来た。

 

「おい、お前。このオレを脅すつもりか?」

「いえ、まさか。ただ、手出しは無用に願いますね、と言う事ですよ。フフ」

 

 モモカの返答にギィは同じように、圧の籠った言葉で返すがモモカはさらりとそれを受け流し、それにギィは苦笑い気味に言い放つ。

 

「チッ、喰えねえ奴だな、テメエらは」

「あら、どうも」

「褒めても何も、でないぞ?」

 

 ギィ、モモカ、カヤはお互いに不敵な笑みを浮かべ睨み合う。

 

「わかった。で、テメエらだけで、殺せるのか? ネコマタを」

「ええ、わたし達だけが――ネコマタを殺せるわ」

 

 モモカが答えた瞬間――

 

 チリリリ

 

 剣閃が煌めき走る。

 

 刹那の合間にギィが長剣を取り出し、カヤの首を横に薙いだのだ。

 

 スーッとカヤの首に一筋の栓が走り、緩やかにトンとカヤの膝に落ちて行った。

 

 その横でモモカは何食わぬ顔でお茶を飲み、リムルが一瞬ギョッとするも、ギィが「マジ喰えねえ奴だな」と吐き捨て荒々しく椅子に座り直す。

 

 リムルはギィの攻撃に見覚えがあった。

 

 クロノアとギィが繰り広げた、いつぞやの攻防。

 

 時間を操作した攻撃。

 

 リムルがカヤに視線を戻すと、首の落ちたカヤの体は砂が崩れる様に霧散していき、いつの間にか黒猫の姿でシュナの腕の中に抱かれていた。

 

 カヤの体は抜け殻であり、魔素粒子で作ったダミーであった。 

 

「お見事です、カヤ。ふふ」

「いやあ、ギリよ、ギリ。フニャニャ」

 

 シュナの褒め言葉に照れ臭そうに腕から降り、元の姿に戻りソファーに座る。

 

「何をした?」

 

 ギィが訝し気にカヤに問う。

 

「一秒だけ、そっちの攻撃を邪魔したんだよ」

「じゃあ。その一秒の間に、ダミーを作成して黒猫になり、シュナの腕の中に逃げたのか?」

「お! リムル、せいかいー。そっちの魔王様は、斬った瞬間に気付いたけどねぇ。これは、マンガ(聖 典)にあった空蝉の術みたいな? 物を真似て作ったんだよね」

「オレが手を出せないと知ってて、そこに逃げたな腹黒猫が」

「フヒヒ。黒猫だもの」

 

 ギィの、あからさまにマジ厄介な奴だなオーラを物とせず、無邪気に笑うカヤ。

 

「相手のスキルに対しての妨害か。これは、全てのスキルに対して効果あるんだろう?」

「あら、バレた。どうしようモモカ、カヤ困っちゃう~」

「やめてよね、マジにキモイから」

「キモイってなんだよ! 知ってるぞ、エチエチ下着もっ――」

「あ゛あ゛?」

「なんでもないです」

 

 両膝を揃え身を捩りながら言うカヤに、モモカがキモイと言いそれにカヤが反撃したら、凄まじい殺気を込めた目でカヤを黙らせたのを見て、ギィは完全に警戒心を解いた。

 

「ほんと、わけわかんねえ奴だな、お前ら。最後にもう一つ聞く。お前らは、魔王を名乗る気はあるのか?」

「「ない」」

「そうか。今、俺達はミカエルと戦争をしている。まあ、あいつが姿(くら)ませているから休戦状態なんだが、いつ仕掛けてくるかわからねえ。そんな時にネコマタの件だ。自分達で()ると言ったんだ、その責任は果たせ。このオレに啖呵を切ったんだ、やれるよな?」

「ああ、()るよ」

「ええ、確実に殺して見せるわ」

 

 最古の魔王の一人、ギィ・クリムゾン。

 

 その圧倒的な存在を見せつけながらも、一歩も引かないカヤとモモカにギィは次の言葉を告げる。

 

「お前らに、オレの事をギィと呼ぶことを許そう。オレもカヤとモモカと呼ぶ」

「じゃあ、あたしもカヤと呼ぶことを許してあげる、ギィ。ニャハハ」

「わかったわ、ギィ」

「カヤ。お前、本当に口の減らねえ奴だな。はははっ」

 

 これでギィの来た目的は果たされ、レオンの所へ戻る間際カヤとモモカに、何かを思い出したように口を開く。

 

「そうだ。お前ら、もしかして……。いや、まさかな」

「「なに?」」

「あぁー なんでもねえわ。じゃあな」

 

 言いかけた言葉を引っ込めて、ギィはレオンの所へと転移して行った。

 

「何だったんだ、今の?」

 

 リムルが二人に聞くも、二人共「さあ?」と首を傾げ「わからない」と言い、「じゃあ、帰るね」そうカヤが言いモモカと転移して行き、応接室を後にする。

 

 穏やかな風が吹く、昼下がりのテンペストであった。

 

 そして、数日経った頃。

 

 

 

 オトワが滞在するアレリカ公国。

 

「ジラよ。全国民へ施した〝憑依核(ポゼッションコア)〟の定着がほぼ完了したぞえ。こ奴らに傷を負わされた者は感染し、新たなる〝影獣〟(えいじゅう)となるのじゃ」

「さすれば、いよいよ始めるのですね」

「うむ。しかしじゃ、数日前に感じたあの膨大な魔素量、あれはまごうことなきカヤものじゃった。ちと、厄介じゃのう。あれ程とは……」

「いかように」

「そうじゃのう……カヤ達は、テンペストに居るのじゃろう? ならば、近しい者を見つけ、また消し去ってやろうかのう。クカカカカ」

「では、擬態で潜入し――」

「待て、ジラ。精神支配しておる、人間を使うがよい。あそこの魔物は油断ならぬ。万が一にも気取られてはならぬ」

「わかりました。他国への潜入調査用に捕獲してある、人間を使いましょう」

 

 椅子に座り、ワイングラスをゆらゆら手の中で玩んでいるオトワは、嬉しそうに顔を歪ませながら言葉を続ける。

 

「まあ、今回は我に任せよ。精神支配しておる人間が見る視界を見れるのは我だけ故、息抜きに遊ぶとしよう。それと五眷属の事じゃが、あれはやめじゃ。〝影獣〟だけで事足りる」

「なぜでしょうか?」

「ふーむ。精神支配した人間の潜入調査で分かったのじゃが、殊の外この世界の魔物と魔王は厄介なのじゃ。特に竜種などは不滅の存在じゃ。だから、それよりも面白い事を思いついたのじゃよ」

「面白い事とは?」

「ヴェルダナーヴァの愛した、この世界の破滅じゃ。破滅、いや我の思う世界に作り替えるじゃな。人間どもを滅ぼし、ついでに魔物も魔王も滅ぼして、新たなるフェイリュアワールドにしてくれるわ! クカカカカ」

「世界創造でしょうか?」

「うむ。それに近いが、まずこの世界を壊さぬことには始まらぬ。それには我の半身がいる。鈴音の記憶が半身を取り戻せと言うておる。そして、我の半身を持つ者がカヤだと鈴音の記憶が教えてくれたのじゃ。一度あ奴の魂に、我は触れておったからのう。カヤに更なる絶望を与えて、我の半身を引き摺り出すとしようかのう」

「わかりました。それでは、今回私はいかように動きましょう?」

「そうじゃな……。五眷属用に作った魂は贄に使用するので、それを持ってテンペスト以外の国へ行き、存分に人間どもの憎悪を喰わせて来るが良い」

「はい。仰せのままに」

 

 コンコン。

 

 そこへ、ドアをノックする音が響く。

 

「はいれ」

 

 オトワの言葉に一人の男が張って来て、オトワの前に跪く。

 

 ドラール・ソル・アレリカ公爵であった。

 

「オトワ様。全国民、大人から赤子迄、オトワ様のお言葉を待っておられます」

「ドラールよ。今しばらく待つが良いぞ。皆に伝えよ、もう少ししたら存分に魔物の血肉を喰らわせてやると」

「ははっ。ありがたき幸せ」

 

 オトワの言葉に、真っ黒に染まった目の中に浮かぶ紫に光る瞳がグリグリ動き微笑むと、深く一礼をして部屋を出て行った。

 

 

 さてさてさて。

 

 待っておれ、カヤ、モモカよ。

 

 今度こそ引導を渡してやるぞえ。

 

 クカカカカカカカカ。

 

 

 




 六十二話を読んで頂き、ありがとうございます!

 次回の更新も、よろしくお願いします!






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。