転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 六十六話です。







六十六話 オ・イ・テ・イ・カ・ナ・イ・デ

 

 

 ジュラの大森林に再び影獣が出たとの報が出て、リムル達は作戦室に移動していた。

 

 

 そんな時、作戦室にシオンが現れる。

 

「どうしたのですか? 皆険しい顔をして」

「ああ、シオンか。今、リムル様達と話してたんだが、影獣がジュラの大森林に出てな。それより、何故お前が、帰ってきているんだ?」

「ルミナス様からの頼まれ事で、この年代物の白ワインをカヤに持って行ってくれと、言われて帰ってきたのですが。影獣ですか……ベニマル、それはカヤは知っているのですか?」

「ああ、もう伝えてある」

「そうですか。すぐ、帰るつもりでしたけど、少しお手伝いしてから戻りますね」

「おい、シオン! って、もういない。相変わらず、思い立ったが即行動だな」

 

 苦笑いしながら、ベニマルは頭をカシカシと搔きリムルを見ると、しゃあないと言ったように肩を竦めていた。

 

 リムル達は作戦室でカヤとモモカの報告を待ちながら、密かに厳戒態勢をテンペスト内に敷いていく。

 

 

 影獣出現の報を聞き、カヤとモモカは目撃された地点へ来ていた。

 

「この辺りだと思うけど、微かに異質な妖気を感じるね……」

「ええ、確かに感じるわね」

 

 二人は『万能感知』で付近を探るが、微弱な妖気しか感じ取れなかった。

 

 

 朝早く起きてラコルは気が付くとジュラの大森林にいつの間にか居て、重くなった足を引き摺るようにカヤとモモカの家を目指していた。

 

 完全に侵食されかけた魂と心核に、ラコルは僅かに残ったカヤとモモカの思いだけで、二人の家を目指す。 

 

(ころしちゃえ)

(いや、だ……アタしは、そんなこと、したく、な、い)

 

 それはラコルの心に心地よく響く、甘美な声。

 抗う術を持たずとも、必死に何かに縋るように二人の家へと体を動かす。

 

 二人の家が遠めに見えて来た時、また意識がどこかへ持ってかれるような感覚にラコルは地面に勢いよく倒れる。

 

 それでも、這いずるように動くラコルの体から影獣が分離していき、いずこへと消え去った。

 

(か、や、おねえ、ち、ゃ、ん……た、す、けて)

 

 

 ラコルから分離した影獣は、モモカの背後へいきなり出現し、黒爪が背中から胸へと刺し貫いた。

 

「かはっ……な、んでいきなり、現れたの?」

「モモカ!」

 

 『万能感知』を掻い潜り現れた影獣にモモカは、「なぜ?」という疑問を顔に浮かべながらゆっくりと倒れ伏していく。

 

「どこから出て来たんだ、おまえ!?」

 

 声を張り上げ、瞬時に影獣の真横に飛び込み中段横蹴りで右横腹を蹴り飛ばし、重く鈍い音が響き影獣は数十メートル程吹き飛んだが、カヤの横蹴りを右肘でガードしていた。

 

「ガードした? モモカ大丈夫!?」

 

 倒れてるモモカに駆け寄り抱き起すと、貫かれた胸の傷口が火花を散らすようにバチバチ音を立てながら黒い霧状の煙を上げていた。

 

「ぁぁぁあ、がっ。こ、の、け……がはっ」

 

 カヤの呼び掛けにモモカは何かを伝えようと口を開くも、『思念伝達』も声を発することも出来ず、咳込む様に黒い霧を吐く。

 

 そして、もう一つ。

 

 凄まじいスピードで、カヤ達に近づく妖気があった。

 

「これ……魔力回路がズタズタになってるの? くそ!! 」

 

 胸に両手を当てたままビクビクと痙攣するモモカを抱き抱えたままカヤは、右手を傷口に当て再生を試みようとした時、蹴り飛ばされた影獣がカヤの真上迄ジャンプしてきて黒爪を振り降ろす。

 

「はやい!」

 

 頭上に振り降ろされた黒爪を右腕でガードしようと上げた、その時。

 

 カヤと影獣の間に割って入って来た影。

 

 その影は手に持った大太刀、神・剛力丸の峰で、影獣を殴り付けた。

 

 殴り付けられた大太刀の峰を黒爪で受けるも、勢いを殺せず踏ん張った後ろ足が大地を抉りながら二本の線を描き、百メートル以上飛ばされる。

 

 カヤの目の前に立つ大きな影――そこには神・剛力丸を携えたシオンが立っていた。

 

「大丈夫ですか? カヤ」

「シオン? ルベリオスにいるんじゃ?」

「ルミナス様の使いで、ちょっと帰ってきたのですよ。カヤ、あれが影獣ですか?」

「そう。少しモモカを頼む。あいつは、あたしが始末する」

「!? 何ですかその傷は?」

「あいつの黒爪にやられたんだ。だから、モモカをお願い」

「わかりました」

 

 そう言うとカヤはモモカをシオンに預け、影獣の元へゆっくりと歩き近づいていく。

 

 近づくカヤを見て影獣は姿勢を低くし、両手の黒爪を構え低く唸る。

 

 グゴォルルルルル。

 

「へえー 構えを取る魔獣? いや、何もんだお前?」

 

 ガグルルルゥ。

 

「まぁ、いいや。モモカに手を出したんだ、死ね!」

 

 キュン。砂塵を巻き上げ一瞬で影獣の背後を取り、〝発破二式・火具突智(かぐつち)・改〟を背中に叩き込む。

 

 しかし影獣はカヤの動きを読むかの如く火具突智・改が放たれた瞬間、身を(ひるがえ)しカヤの左側面に回り込み、右手の黒爪を横に薙いだ。

 

 それをバックステップで躱し、カヤの右眉がピクンと跳ねあがる。

 

「なんで影獣如きが、体術じみた身の使い方をするんだ? 何もんだ、お前!?」 

 

 ガゴルルルルルル。

 

 カヤの問いに、低く地響きのような唸り声で返す影獣。

 

「唸るだけか、獣め」 

 

 静かに吐き捨てると、カヤは再び懐に飛び込み零距離格闘を仕掛けていく。

 だが、影獣もカヤの動きに付いて行き、黒爪を振るう。

 

 凄まじい格闘戦を繰り広げる、カヤと影獣。

 

 その最中、モモカはズタズタに斬り裂かれた魔力回路の修復を試みていたが、体内に入り込んだ異質な魔素がモモカの体内の魔素と反応を起こし、暴れ狂っていた。

 

(何なの、この魔素は……!?……フェイリュアワールドの魔素? どうしてこの世界に、存在して……オトワが溜め込んでたと言う事なのね。なら、わたしとカヤには耐性があるはず。そうか、だから呪符があれを中和出来たの、かな? 先にこの異質な魔素を中和しないとだけど……どうにも、厄介な魔素だわね、これ。魔力回路の修復と中和が、くそ! 侵食してきている何かが……黒い霧、毒、違う…………精霊獣、眷属の魂? オトワの奴! 眷属の魂を意思も無い、相手を喰らい侵食して隷属する、只の化け物に作り替えたわね!)

 

 影獣の正体を看破したモモカは、内から滾る怒りに頭の中で声を張り上げるも、魔力回路の修復が追い付かない為に侵食をくい止めるので精一杯で、中和も儘ならなかった。

 

 地面に横たわったまま苦しそうに呻くモモカを見ながらシオンは、自分に中出来ないか必死に考えていた。

 

「この傷から沸き上がる黒い霧みたいな物は、何なのでしょうか……」 

 

 シオンは本能的に黒い霧に触れるのはヤバいと感じ、モモカを安全な場所へどうやって運ぶか考えてると、モモカがようやく言葉を口にした。

 

「シ、シオン……お願い。あなたの『料理人(サバクモノ)』で……わたしの魔力回路を、修復して」

「え? 私がモモカの魔力回路を、修復するのですか?」 

「そう、お願い。あなたしか、この黒い霧に触れる事は出来ないの……はや、く」

「しかし、どうやって修復などするのですか? モモカ!」

「時間が……こほっ、こほっ」

 

 モモカに魔力回路の修復をお願いされて、「そんな事やったことが無いのですよ!」と返すが、モモカはまた咳き込み胸の傷口を押さえ苦悶の表情を浮かべる。

 

 見るからに状態は悪化していくように見え、シオンは一度目を閉じ覚悟を決め、深く深呼吸をして目を開け、モモカの胸の傷口に両手を伸ばそうとすると、進化の時に聞こえて来た声がまた聞こえて来た。

 

《お待ちなさい。その黒い霧は異質な魔素が変化したものです。貴女に、少し力を貸しましょう》

 

 進化の時に色々聞いてきた声。

 その声が、少し力を貸しましょうと言ってきたのでシオンは迷わず頷いた。

 

 シエルが、シオンに魔力回路修復の最適解を告げていく。

 

《いいですか。まず貴女の『料理人』で黒い霧の異質な魔素を、あるべきこの世界の魔素へと変換するのです。今、引き裂かれた魔力回路を見える様にします。見えましたね?》

「あ、はい! 見えます、光る細い線の引き裂かれた魔力回路が、見えます!」

《では、『料理人』で黒い霧を変換しつつ、引き裂かれた魔力回路を丁寧につなぎ合わせていくのです。大丈夫、貴女しか今モモカを救える者はいません。魔力回路が修復されれば後は、モモカがやるでしょう。さあ、おやりなさい》

「はい!」

 

 シエルの言葉通りに、モモカの傷口に両手をそっと差し込み、引き裂かれた魔力回路を繋ぎ合わせていく。

 

 その行為を見たカヤは、影獣をシオンとモモカに近づけないように常にシオンとモモカを自分の背に回し、近づく隙を与えなかった。

 

(これは……モモカも黒い霧を中和している? それに……モモカの体内にあるもう一つの魔素……。この魔素は有害ではない。しかし、周囲の魔素を取り込み独自変換しているのですか? いやいや、今は魔力回路の修復に集中しなければ)

 

 シオンはモモカの魔力回路修復中に、モモカの体内で起こってる事に疑問を持つが、その疑問を振り払い修復に全力を傾けていく。

 

 数分が過ぎ、シオンが顔を上げて、はーっと深く長い息を吐きカヤに叫ぶ。

 

「カヤ! もう大丈夫です!」

 

 カヤに伝えると、カヤは一瞬だけシオンに視線を向け頷く。

 

「まず、その厄介な腕を一本砕く」

 

 カヤは静かに影獣に言うと、左右に残像を残しながら体を振り、右廻し蹴りを影獣の左腕に蹴り込んだ。

 

 影獣は左腕でガードするが、ガード上から左腕を砕かれた。

 

 アギャウウウウウウウ!

 

 カヤは足の甲ではなく、右足の親指に〝火具突智・改〟を発生させピンポイントで蹴り砕いたのである。

 

 闇夜影千流・柔術の蹴り技の一つ、足の親指で頭のこめかみや、脇腹の肋骨を砕く技の応用であった。

 

 同じ時間、這いずりながらカヤの家を目指す、ラコルの左腕が――

 

 砕け折れた。

 

「きゃあああああ! いたい……腕が、おれた……いたいよ、お姉ちゃん」

 

 家の小さな門の数メートル前まで来て、砕かれた左腕の激痛に体を丸め必死に耐えていた。

 

 カヤ達の家は竹に似た物で家の周りに塀を作り、小さな門を作っていた。

 

「いやだ、お姉ちゃんと、戦いたくないよ。たす、けて、カ、ヤ、お、ねえ、ちゃん」

 

 霞む目に映る門に向けてラコルはまた這いずりながら、体を動かす。

 

 

 魔力回路が修復されたモモカは、一気に体内に巡る黒い霧を中和し傷口も再生していく。

 あらかた中和が終わると体を起こし、シオンに礼を告げる。

 

「シオン、ありがとう。あなたが来なかったら、ほんと危なかったわ」

「いえ、再生が無事終わってなによりです」

 

 モモカの言葉に、まだ心配そうな笑顔でシオンは返した。

 

「しかし、モモカが無防備にやられたなんて、少し信じ難いですね」

 

 シオンはモモカが背後からでもあっさり刺し貫かれたことの疑問を口に出し、モモカもそれに対しての疑問を口に出した。

 

「そうなのよ。『万能感知』をすり抜けていきなりやられたの……でも」

 

 でもと言ったところで急に押し黙り、あの刹那にほんの僅かに感じた気配の正体を探る。

 

(あれは、まるで敵意の無い無垢な、気配だった。刹那の間に感じ、わたしが気を許した、の? 何故に影獣から、あんな気配が……) 

 

 シオンが肩を貸しながらモモカを起こし、モモカはまだあまり力の入らない両足を踏ん張りながら、あの時感じた気配の正体を探る。

 

 

 ガウヤウネオオオオオ!

 

 イガヤアアオオオオオ!

 

 オネガウオオオオオオ!

 

「ああ? おまえ、何か言いたいのか? もう黙れ!」

 

 奇妙な唸り声を上げる影獣の右脇腹に、カヤの左中段蹴りがめり込む。

 

 ボキボキと木の幹が割れるような音を立て右脇腹がボコンとへこみ、二十メートル先の大木に飛ばされ激突した。

 

 ズウウン、重く低い音と振動が地面に響き、大木に激突した影獣がズリズリと地面に落ちていく。

 

 

 門の前まで辿り着いたラコルは、不意に右脇腹がへこみ肋骨の折れる音を聞き、激しい悲鳴を上げる。

 

「ぎゃあああああああ!」

 

 耐えきれぬ激痛と、喉の奥から込み上げる物を勢いよく吐き出した。

 

 げほっ げほっ 

 

「いた、い。血? カヤ、おね、え、ちゃん……いや、だ……たた、かいたく、ない、よ」

(ダメだよラコル。カヤを殺さないと、ダメだよ!)

「お、ね、え、ちゃ、ん」

 

 動く右腕を少しづつ動かし、カヤ達の家にある庭の井戸の前まで来ると、最後に残ったラコルの意識が完全に影獣に喰われてしまう。

 

 それと同時にモモカが一人で遊びに来たラコルに何かあった時の為にと、家の門に仕込んでいた防御結界呪符が作動して、家の敷地ごと防御結界で包んだ。

 

 影獣と化したラコルの目に映るのは、激昂したカヤの姿だった。

 

 チリリリリリッリ

 

《ダメ、カヤ、ソノマモノハ……》

 

『黙れ、ヤエ あいつは、モモカを殺そうとしたんだ!』

 

《そうだ、カヤ そ奴はお前の敵ぞ 殺せ 殺さねば また お前の大事な者を殺しに来るぞ》

 

《クッ ワタシノ フウインヲ ヤブリツツアル ネコマタノシネンタイ アナタハ コノママ……》

 

『黙れ小娘 この 懐かしき 妖気は 我が半身 この世界に来たのか 待っておれ すぐにいくぞ、我が半身』

 

 カヤの頭の中に響く見知らぬ声とヤエの声に、カヤは思わず左手で顔を押さえる。

 

『出てくるな! ネコマタの思念体があたしに意見するな!』

 

《これは異なことを、既に永き年月によりお前の魂と我は切っては切れぬぐらい融合してるぞえ。選べ お前は どちらを選ぶのだ? 人間を全て滅ぼすのか それとも 助けられる者も 助けられず また 繰り返すのかえ?》

 

『だまれ……あたしの中でごちゃごちゃ煩いぞ ネコマタ! ヤエ! こいつ邪魔だ! 抑え込め!』

 

《カヤ ダメ ネコマタノ コトバニ ミミヲカサナイデ フウインガ ヤブ レ ル》

 

「カヤどうしたの?」 

 

 いきなり顔を押さえ動きを止めたカヤを案じモモカが声を掛けるも、カヤは魂の回廊を強制遮断してモモカをネコマタの影響が及ばない様にした。

 

 ネコマタの意識をカヤの中に感じたモモカは、強制遮断された魂の回廊を再度繋げようとしたが、カヤから完全に拒絶され繋ぐことは出来なかった。

 

「あんた、何してるの!? 答えなさい、カヤぁあああああああ!!」

 

 シオンの右肩に掴まったままモモカはありったけの声で叫ぶが、カヤは耳を貸そうともしなかった。

 

「どしたのですかカヤは? いつもの様子とは違います。モモカ、何が起こってるのですか!?」

「シオン……あの子の魂は、ネコマタの半身と言える思念体が、融合してるのよ。今、封印されたネコマタの思念体が目覚めようとしてるの。多分カヤは、一人で何とかしようとしてるんだと思う……」

「それは……何故黙っていたのですか! モモカ……早くに言ってくれれば、何とか出来たかも知れないのでよ!」

「ごめんなさい……」

「違います、モモカ! 私が怒ってるのは、何故友人である私達に相談してくれなかったのかを、怒っているのです!」

 

 目を伏せ猫耳もしんなりと伏せて下を向いたまま謝罪するモモカに、シオンは友人として怒り、最後の方は静かに労わる様な感じで柔らかくモモカに語り掛けた。

 

「モモカ。私は友人ではないのですか? リムル様やシュナ様、ヴェルドラ様は友人ではないのですか?」

「……そうね。もう、大事な友人になってるわね」

 

 モモカの言葉を聞き、シオンはにこりと微笑むと次の言葉を繋ぐ。

 

「モモカ。影獣が片付いたら、全て話してくれますか?」

「ええ、わたし達のことを全て、話すわ」

「二人では、出来ない事も皆で考えれば何とかなるものです! リムル様のお知恵を借りれば、絶対になんとかなります! リムル様は、私達の魂さえ蘇らせて下さったのです! リムル様は最強なんです!!」

 

 満面の笑みで力説するシオンの言葉はモモカの胸に突き刺さり、シオンのリムルに対する信頼以上のものが痛いほどモモカに伝わって来た。

 

「ほんと……あんたらは、理不尽な魔物だわ。わたし達が望んでも手に入れらなかった物を持ってるんですもの」

「なら、今からでも作ればいいじゃないですか。そうでしょ? モモカ」

「……できれば、いいわね」

 

 出来ればそうしたい、モモカは何とも言えない表情に少し笑みを混ぜながら答えた。

 自分達の魂に掛けた術が、そう遠くない内に切れる事もモモカはわかっていたのだ。

 

 

 影獣の意識の中でラコルは泣いていた……。

 大好きなモモカに傷を負わせた事、カヤと今戦いを繰り広げてる事に。

 

 〝憑依核〟が完全にラコルの魂を侵食しても、ラコルの二人に対する気持ちだけはユニークスキル・『見取る者(ミトリゲイコ)』が一欠けらのラコルの思いを守り、意識の一部だけを切り離し、侵食された魂と心核から切り離していた。

 

 何故そのような事が只のユニークスキルに出来たかはわからない……ラコルの強い思い、カヤとモモカといつまでも一緒にいたい、カヤの弟子になりたい、その強い思いから来る魂の強化とも言える事が、起こっていたかも知れない。

 

 ガヤ゛ア゛オ゛ネ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ン

 

(とど)めが欲しいのか? 無慈悲に、殺してやるよ」

《いいぞカヤ。お前の中に眠る憎悪を呼び起こせ。お前から大事な者を奪う者全てを憎む、その憎悪を燃やすのだ》

「憎い? 黙れネコマタ。影獣を始末したら相手してやるから、今は黙ってろ」 

《よかろう、それでは早くその魔物を始末すればよいぞ。くくくくくく》

 

「さっきからあの影獣は、何か言おうとしてませんか?」 

「あれが? まさか……そんなこと」

 

 カヤと対峙する影獣が先程から変な唸り声を上げてるのをシオンは訝し気に見て、モモカに問う。

 

 問われたモモカも何か不自然な物を感じ取るが、それが何かはわからなかった、が……。

 

 ガギャオオオオオオン

 ゴギャオオン 

 ゴガウウウウウオオオオ

 

(ごめんなさい、カヤお姉ちゃん、モモカお姉ちゃん。もう、逆らえない、黒いアタしが……カヤお姉ちゃんを殺したくて、仕方が無いの。ころして、お願い、アタしを、ころして)

《ラコル大丈夫だよ。ちゃーーんと殺してあげようよカヤを。キミはもうアタしと同化したから、この黒い魔獣は――アタし達なんだよーー。さあ、置いていかれない為にも、殺そうよおおおおおおおおおおおおおお》

 

 影獣が四つん這いになりグッと力を溜める様に体を丸め、一気に溜めた力を解放し弾ける様にカヤに突進しする。

 

 モモカが感じた不自然な物――それは微かに感じたラコルの気配だったのだ。

 その影獣はラコルだと気付いた時には、影獣がカヤの襲い掛かるように突進していた。

 

「だめ!! カヤ!! その影獣は――」

 

 モモカが叫んだ瞬間にはカヤが動いていた。

 

「おそい」 

 

 一言発するとカヤは、突進する影獣と同じように大地を蹴り影獣の懐に飛び込む。

 

 刹那――

 

 影獣の右腕の黒爪が横に薙ぎ払われるが、それより早くカヤの技が胸の水月に放たれた。

 

 

 〝闇夜影千流(やみよえいせんりゅう) 柔術殺技・鼓打ち(つづみうち)派生技・片葉(かたは)

 

 右手を猫手のようにした掌底を水月に叩き込み、更にその掌底を内にグリッと捻り込むと。

 

 精神体(スピリチュアボディ)星幽体(アストラルボディ)すらも貫く空間衝撃波が胸から背中を貫通していく。

 

 ズムンと重く響く轟音と共に、影獣の背中が山の様に盛り上がり、それは破裂した。

 

「モモカ! どうしたのです! あれは誰なのですか!?」

 

 シオンの驚くような問い掛けに、モモカは力なく答える。

 

「あれは……多分、ラコルだと、思う」

「え!? あれが、ラコルなのですか?」

 

 モモカの言葉に驚愕し、今まさにカヤの殺技が炸裂した影獣を凝視した。

 

 

 背中から黒い血とも霧とも言えぬ物をまき散らし、何かを言おうとしながらゆっくりと背中から倒れて行く。

 

 ゴメ゛ナ゛ガイ゛イ゛イ゛イ゛

 

 オ゛イ゛テ゛イ゛カ゛ナ゛イ゛デ

 

 ガヤ゛オ゛ネ゛ジンンンン

 

 

 同刻

 

 庭の井戸の前に倒れてるラコルが上半身を起こし、天を見上げ黒く染まった目から涙を流し声を振り絞る。

 

 ごめ、んな、さい

 

 お、い、て、い、か、な、い、で

 

 カヤ、お、姉ちゃ、ん

 

 

 最後の言葉を言い終えた瞬間ラコルの胸の真ん中が陥没し、背中の真ん中がボコりと膨らみ、それは破裂した。

 

 夥しい血を吹き上げ、ラコルの周りに(おびただ)しい血溜まりが出来、パチャリと血溜まりの中に倒れいく……。

 

 そして――

 

 ラコルの命の灯が、消えた。

 

 

「え? なに言ってんの……? お前……あんた……」

 

 はっきり聞き取れた「オイテイカナイデ」影獣の言葉にカヤは、ようやくその影獣が誰か、察した。

 

 完全に生命活動を止めた影獣にカヤはよろよろと近づき、ぺしゃりとその場に崩れ座った。

 

「あんた、ラコルなの? ねえ、なんで、どうして……」

 

 口を開き赤く染まった舌を口の横にだらりとたらり垂れ下げたまま動かない影獣の顔に手を当てようとするも、崩れる様に体が霧散していき、黒い霧が空中に拡散消滅していった。

 

 

 ドックン

 

 カヤの中で何かが動き出そうとする音が、鳴り響き渡る。

 

 

 




 ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

 次回の更新も、読んで頂けたら幸いです。






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