また 大事な者を 失ったな
カヤよ その大事な者を そのような魔物に 貶めたのは 誰だと 思う?
お前ぞ くくくくくっ
うるさい 黙らねえと ぶっ殺すぞ ネコマタの思念体が!
くくっ 平安の世で 姉二人と 両親を失い
戦乱の世では 姉と 育ての親に 近しい者 三人 失い
フェイリュアワールドでは 唯一心を許した者を 救えず
そして この世界で もっとも 大事にしてた 者を 自らの 手で
いやはや なんとも 哀しい ことだのう
自らを 憎むか? カヤよ
あたしは あたしは……
カヤ ダメヨ ソノコエニ ミミヲ カシテハ ダメ モウ フウインガ モタナイ
バクンッ
脈打つ鼓動にも似た音が、カヤの体内で
座り込みうな垂れるカヤにモモカとシオンも掛ける言葉が見つからず、唇を噛み締めていたが。
家の門に施した呪符結界の起動した形跡をモモカは感じ取り、カヤにそれを告げ、モモカはシオンを連れて『空間転移』して行った。
それを聞いたカヤも同じく、『空間転移』した。
家の庭に転移したモモカとシオンが目にしたのは、血溜まりに倒れ息絶えてる、ラコルの姿だった。
ラコルの体に付いている傷跡は、どれも影獣が受けた傷と同じ物であった。
「ラコル……」
「これは……どうして、こんな事になったのですか……?」
唖然と倒れてるラコルを見つめる二人の横をカヤが、ふらふらと通り抜けて行く。
パチャリと血溜まりに跪くとラコルの体を抱き起し、滴り落ちる血も構わずに抱きしめる。
「ごめんね、ラコル……痛かったよね。あたしが、馬鹿だった……。もっと早くに弟子にしてれば、アンタの真剣な気持ちに、ちゃんと向き合っていれば……」
涙を流しながら命の火が消えたのか、半開きの黒い目は涙に濡れたままであった。
その目を静かに右指で閉じると、更にきつくラコルを抱きしめていく。
すると家の門の前にいつの間にかエテラルが来ていて、不気味に嗤う。
「ふははは。無様であるな魔物よ。たかだか獣人の子供一匹が死んだくらいで、何を嘆くのだ?」
「ああ? 誰だ、てめえ」
「私か? 私は只の人間ですよ。なんの力も無い、只の人間です」
「その人間が、何しにここに来た!?」
「用という程でもないのですがね。なに、そこに転がってる薄汚い魔物の餓鬼を見に来たのですよ。うくくく」
「おい……人間。その口を塞がないと、ぶち殺すぞ!」
どす黒い感情がカヤを支配していき、禍々しい妖気を漏らし始める。
「ふむ、影獣の成れの果てですか。何とも、面白くない結果に終わりましたねえ。いやー 実に滑稽な結果ですな。うははははは」
「てめえか! ラコルに何をしたんだ!?」
口の中に現れた牙を剥き、凄まじい形相でエテラルを睨む。
エテラルとカヤのやり取りを見ながらシオンは、家の敷地を覆い尽くす結界の存在に気付き、エテラルに聞こえないよう、小声でモモカに語り掛けた。
「モモカ、今この家の敷地全体は、結界で覆われてますね?」
シオンの問いにモモカも小声で返す。
「ええ。もしもの時の為に、仕込んでいた防御呪符結界よ」
「なるほど……。いいですかモモカ、よく聞いてください。この結界を絶対に消しては駄目です。 可能性は高くありませんが、ラコルを救う事が出来るかも知れません」
「どういう事なの? シオン」
「私が一度死んだ話は、依然しましたよね」
「ええ、聞いたわ。それがどうして――」
「魂の残滓です。それが、まだ結界内に残ってるはずです。ならば、反魂の術でラコルを蘇らせることが出来るかも知れません。リムル様は、そうやって私達死んだ者を御救いになられたのです」
「反魂の術……でも、シオン、残念ながら、ラコルの魂の残滓すら感じないわ。結界の中には。恐らく、残滓すら残さず消滅したのかも、知れない」
どんなに『万能感知』を駆使しても、魂の残滓の反応はなかった。
完全に諦めたかのようなモモカの発言をシオンは、「可能性を捨てては駄目です!」とモモカを励ます。
そんな中、エテラルはカヤ、ひいては魔物を蔑む言葉を吐き捨てていく。
「どうですか? あなた方魔物が、我ら人間に見たいに哀しむなど、これほど滑稽なものはありませんよ。そこの餓鬼も、私がほんの少し力を貸しただけで、醜い化け物に成り果てたのですよ。うくくくく」
「てめえが、影獣を与えたのか? ラコルに」
「与えた? いえ、お借りした〝
恍惚の表情を浮かべ、天に向かって両手を広げながら語り続けていく。
パキッ パキキッ
ネコマタの思念体を封印していた術式が、一つ、また一つと、砕け散って行き始める。
「人間……それ以上、喋ると……まじ、潰すぞ!」
カヤの尻尾が激しく揺れ暴れ、黒い
「ふふふ。どうですか、魔物よ。あなた方魔物は、下等な生き物――駆逐されるべきなのですよ。我ら、人間の手によってね。見なさい、大事な者すら自らの手で殺す。なんと愚かな、生き物なのでしょう。ふはははははははは」
その言葉は、その場にいるシオンすらも激怒させる程であった。
「何ですか、あの人間は! あの時とは、違うと言う事を教えてあげねば、いけませんね」
「待って、シオン」
今にも飛び出しそうなシオンをモモカは止め、この口調、語りは、どこかで聞いた気がした。
それは、オトワと対峙した時の状況に、どこか似ていたのだ。
沸き上がる粘り付くようなどす黒い感情。
カヤの人間対する嫌悪感が、荒れ狂うような憎悪へと、変わっていく。
モモカが「カヤ!」と声を掛けようとした瞬間。
「もういい。だまれ」
カヤが結界の外にいるエテラルの所へ一瞬で移動し、エテラルの顎を右手で掴んでいた。
「あなたは、力も無い、只の人間を殺すのですか? まさにバケモノではありませんか!!」
「バケモノ? そんなものじゃない。いいか――あたしは、全てを滅ぼす……
カヤの黒い瞳が細く縦長になると、目が金色に鈍く光り輝いていく。
カヤ ソチラヲエラブノデスカ ヤハリ アナタノナカニハ ニンゲンヘノ ゾウオ ガ ウマレテイタノデスネ ラッパノサト デノ コトハ アナタノ ココロニ ネブカク ノコル キズアトニ…… カヤ
ネコマタノ ハンシン トモイエル シネンタイ ワタシノ チカラデモ フウイン スルコトシカ デキナカッタ デモ オモイダシテ コノセカイニ キテ イロンナ マモノヤ ヒトト デアッタ コト ヲ
アナタヲ マモレナイ アネヲ ユルシテトハ イイマセン アナタニ オワセタ ゴウ ソレハ ワタシタチノ ゴウナノデス カヤ アナタハ ヒトリデハ ナイノデスヨ
もう いい つかれた よ
カヤ モウ ワタシデハ ネコマタノ シネンタイヲ オサエルコトハ カナイマセン アナタシカ アラガウコトハ デキナイノデス……
カヤ アノケンノウダケハ ワタシノ ソンザイヲ カケテデモ ワタシマセン ネコダマシ ノ キドウヲ テイシシテ アンキョウセイスイヲ カンゼンインペイシマス アノ ケンノウダケハ ネコマタニハ ワタシマセン ワタシテハ ナラナイノ デス
ヤエの声が聞こえたのを最後に、カヤの意識はネコマタの思念体と混じり合っていく。
そこへ、世界の言葉が静かに一つの事を告げた。
《告 ネコマタの思念体を縛る封印術式が消滅……確認しました》
《続いて全ての能力隠蔽解除を……確認しました》
《これにより〝
《〝
《続いて〝
《告 権能、〝闇鏡??を完全隠蔽……確認しました》
《告 それに伴い〝
《告 権能、????は〝
《告 権能???? 存在を……確認できません》
〝
その存在すら如何様な力であっても看破することは敵わない、〝
ヤエはこの『
ある者とは――
シエルである。
シエルが疑似魂の回廊を通じてこちら側を探ってるのをヤエは気付いており、幾度となく見えない攻防を繰り広げていたのであった。
《やはり、居たのですね。私と同じ存在が。世界の言葉すら騙す〝
そしてシエルもヤエの存在と、『
「ちっ! ここに来て、『化カシ之王』を停止させるなんて! ヤエが自閉モード!? あれを封じたのね」
モモカが声を荒げると同時に爆発したかのような
咄嗟に結界外へ転移したモモカは、今だ膨れ上がる
カヤとモモカの純粋な
それは、〝竜種〟に匹敵する
作戦室でのラミリスはカヤとモモカのEP計測値が、純粋にヴェルドラ達と同等なのを慌ててリムルに報告をしていた。
「リ、リムルーーーー! とうとうカヤとモモカの真のEP値が判明したのよさ! EP値8340万! いい、何もしてない状態でのEP値は、二人とも8340万なのよさ!!」
「ああ。大気が震えてビンビンに感じるよ、ラミリス」
それを聞いたリムルは、今回ばかりは自分も出なければならないと決める。
そして、ベニマルに最悪の事態に備えるよう告げ、竜魔刀を左手に掴む。
時を同じくして地下迷宮にいたヴェルドラは、腕組みをしたまま目を閉じており、ゆっくりと目を開けると何かを決意したかのような顔付でソファーから立ち上がる。
「くっくっ。魔物よ。本性をあ――」
「死ね」
溢れ出る
「殺しては駄目ーー! カヤあああああああああああ」
モモカの声は空しく響き、エテラルの体は容易く水風船が破裂する様に、あっけなく弾け飛んだ。
血の雨が降り注ぎ、カヤは口端を上げ冷たく笑みを浮かべる。
Broken Heart カヤの心 が 壊れ 激しい憎悪と混じり合う。
天を仰ぎ見るカヤの咆哮が、轟き渡る。
うがっあああああああああああああああああああああああ!!
尻尾がビクビクと波打ち、尻尾の先から木の割れるような音を立て、二つに分かれていく。
二本の尻尾を持つ
荒れ狂う禍々しい
「カヤ……あなたは、私達の敵になるのですか!? 正気に戻って下さい、カヤ!」
黒い魔素粒子を纏ったカヤの前に、神・剛力丸を構えたシオンが立ち塞がる。
「シオン! 今のカヤはカヤではないわ! 駄目、逃げて!」
モモカが警告を発するも、シオンは引かずカヤを止めようと声を掛けるが、カヤは無造作に右手をシオンに向けて振った。
その動作を見たシオンは、即座に神・剛力丸の刃を横にして地面に突き立て防御態勢を取る。
ゴガッアアアアアン!
大きな金属の固まりをぶつけ合わせたみたいな轟音が轟き、シオンは神・剛力丸を突き立てたまま、三百メートル余りも吹き飛ばされていた。
辛うじて耐え切ったシオンは片膝を付き、苦笑い気味に言葉を放つ。
「ただの衝撃波が、ここまでとは……。カヤも、中々に理不尽ではないですか」
その言葉を聞き、カヤが口を開く。
「ふむふむ。手を軽く振っただけでこれとは、凄まじいものよのう。くかかかか」
声はカヤの声であったが、その言葉には言い様の無い身を斬り裂くような冷たさが漂っていた。
「カヤ、どうしたのですか!? 目を覚ましなさい、カヤ!!」
既に後十メートルの所まで迫ったカヤに呼び掛けるシオンの言葉は、無慈悲に否定される。
「カヤ? 我はネコマタぞ。もう、カヤの意識は我と同化しておる。既にこ奴の心は壊れているわ。鬼の娘よ、お前はちと厄介故、死んでおれ」
右人差し指をシオンに向けると、指先に小さな魔力弾を作りシオンに放った。
シオンはその魔力弾に内包された凄まじいまでの
「カヤ。私は諦めませんよ!」
シオンは己の闘気を全開にし、最悪耐え切れぬとしても再生復活までの時間を短縮する為、限界を超える闘気を練り込んでいく。
それを見ていたモモカは、家の敷地を覆う結界に重ねる様に新たな結界を重ねていき、即座に呪符結界をシオンの前方に飛ばした。
一枚の呪符が無数の呪符となり、壁を形成し魔力弾を受け止める。
呪符の壁に激突した魔力弾は内包した魔力を解放しながら爆発炎上し、半径数百メートルを業火で焼き払い、溶けた地面が黒いガラス状になり白煙を吹き上げていた。
半身を焼かれたシオンは地面に倒れていたが、焼かれた傷は瞬く間に修復されて行き、爆発の衝撃で飛ばされた意識が覚醒し始めていた。
「シオン!」
倒れてるシオンの名を呼ぶモモカは、シオンの意識が戻りつつあるのを確認して安堵すると、カヤの前に立ち言葉を投げる。
「ネコマタ。カヤを返してもらうわよ!」
「返す? どうやってかの? 魂と融合した我をどうやって引き剥すのだえ? くっくく」
「融合? 冗談を。わかるわよ、わたしには。完全に融合しきれてないでしょ? あんた」
「流石にわかるか。そうかそうか、お前達は魂の回廊で繋がっておったの。我が完全にカヤと融合するまで、大人しくしておれ。くくく」
ネコマタは下卑た嗤いを込めて言うと、右指をパチンと鳴らした。
「なにを……あぐっ、これは、あっああぐっ」
いきなり胸の内側から掴まれ引っ張られる感覚に、苦悶の表情で声を上げる。
「ぐっううう……あの時と一緒だ、オトワがカヤの魂を、掴んだ時、と……あっあああああああああ」
胸を押さえ倒れ込むと、モモカは体を痙攣させながら意識を狩り取られていく。
意識が覚醒したシオンは、呻き倒れてるモモカを見て、自分の身体を起こし立とうとするも、思いの外ダメージが大きくて、足がガクガクと震えていた。
「これは……ダメージがまだ抜けきって、ないようで、すね。早く、立ち上がらないと、なっ!?」
ようやく立ち上がったシオンが見た物は、目の前で今にも破裂しそうな拳大の超魔力弾であった。
「リムル様」
リムルの名を小さく言い、シオンは目を閉じた。
白色に輝き、シオンを包まんばかりの光が爆発した――。
〝魂暴喰〟
まるで暴風が吹き荒れが如く空間を吹き荒れ、シオンを包んだ爆発エネルギーを根こそぎ喰らっていった。
「待たせたな、シオン」
水色の髪を靡かせ、シオンの前に立つリムル。
「リ、リムル様!」
『ちょっと『思念伝達』を使うからな』
そう言うとリムルは『思念伝達』でシオンに告げ、更に『思考加速』百万倍で今起きている状況をシオンから聞く。
時間にして一秒にも満たない時間の中でリムルは、今の状況の説明をシオンから受ける。
「そうか、わかった。シオン、俺がカヤの相手をするから、お前は隙を見てモモカを連れて、離れていてくれ」
「はい! わかりましたリムル様!」
元気を取り戻したシオンはリムルから距離を取り、モモカの方へ視線を移す。
「さて、カヤ。いや、今はネコマタと言った方がいいのかな? 一応名乗っておこう。魔王リムル・テンペストだ」
「いかにも、魔王リムルよ。我は、ネコマタの半身と言える思念体だが、まごうことなきネコマタだわえ」
「そうか。じゃあ、とっととカヤの体から、出て行ってくれないかな? 俺は、無用な争いは好まないんだ」
「これは異な事を。もう、カヤの意識は我と一つぞ」
「ああー そう来たかあ。じゃあ、強制的に追い出すとしよう」
予兆の無い動きでリムルはカヤに接敵し、小手試しとばかりにカヤにボディブローを一発叩き込んだ。
凄まじい衝撃波がカヤの腹部から背中に抜け、そのまま一瞬で数百メートル近く叩き飛ばされた。
リムルはシオンに目配せすると、シオンは勢いよく瞬動でモモカの所まで行き、モモカを抱えるとモモカ達の家の敷地に飛び込み、リムルがそこへ強固な『多次元結界』を重ね賭ける。
『
『うん、ありがとう、シエルさん。でも、これから俺の力だけでカヤと対峙するよ』
『しかし
『うん、その可能性もあるかもだけど――』
『未だ抗っていると?』
『いや、多分違うな。恐らく……自分の心を閉ざしてしまったかも知れないな』
『!? わかりました。
『わかってるよシエルさん。その時は頼むよ、相棒』
相棒の言葉にシエルは不可思議な感情にも似た物をリムルに漏らし、それを感じたリムルはくすりと笑い、「それじゃあ、少しやろうか」と静かに言い、竜魔刀を抜く。
「この力、中々この世界の魔王も捨てた物ではないのじゃな」
叩き飛ばされた先で、着物に付いた土をパンパンと払いながらネコマタは言い、千鳥を取り出すとおもむろに抜いた。
抜き様に不可視の斬撃を飛ばすも、リムルは軽く竜魔刀を振るだけでその斬撃を掻き消した。
「いくぞえ」
ネコマタはカヤの記憶からの抜刀術、紅斬り牙を繰り出す。
神速の飛び込み抜刀斬り。
「その技は一度見たな」
逆袈裟に斬り上げるネコマタノ太刀筋に、リムルはスッと右横に避けながら刃を横に薙いだ。
けたたましい音を響かせ火花が散り、お互いの刃が弾け合う。
「ほう。お前も剣術を使うか」
「ああ。師匠に鍛えられているものでね」
リムルは言葉を言いながら、横薙ぎから上段斬りへと太刀筋を変え、ネコマタの脳天目掛け竜魔刀を振り降ろす。
ネコマタは刃を横にして受け止め、すかさず腰に差した鞘を左手で帯から抜きリムルの右脇腹を薙ぐが、それは読まれており、瞬動を使ったバックステップで躱された。
「ほおほお。鞘打ちを躱すか、魔王」
「それも、一度見たものでね(あぶな! 未来予測で躱したけど。鞘も使うなんて古流剣術、こわ!)」
それから激しい斬り合いを繰り広げるが、ほぼ互角の斬り合いにネコマタは忌々し気に言葉を吐き捨てる。
「こんなものか、こ奴の闇夜影千流・抜刀術は。なんとも、拍子抜けじゃのう」
その吐き捨てた言葉にリムルは右眉をピクリと跳ねさせ、怒りの顔を少し剥き出しにした。
「そうだな。カヤがガチで闇夜影千流を使えば――俺は、剣術では敵わないな。只の技量すらも無い模倣の闇夜影千流など、そんなものだろう? ネコマタ」
皮肉を込めたリムルの言葉にネコマタはイラつく様に顔を歪ませ、カヤの顔が狂気に満ち溢れる。
「やめじゃ。こんな物など、しょせん遊びにすぎぬ」
鞘に納めた千鳥を、ゴミでも投げ捨てる様に地面に投げ捨てる。
ガシャリと金属音を鳴らし地面に転がる千鳥を見てリムルは左手を向けると、カタカタカタ震える千鳥が宙に浮かび、リムルの手の中に飛び込んでいく。
「なに!? どういうことじゃ!」
「どうもこうも、投げ捨てて置いて、それか? カヤ以外に使われるのが嫌だったんだろうよ。なあ、千鳥」
手にした千鳥にワザとお道化た様に語り掛け、ネコマタと化したカヤを見る。
リムルはゆっくりと千鳥を掴んだ左手を緩めると、千鳥は結界の中で横たわるモモカの元へと飛んで行った。
「よいわ。しょせん剣術など、人間共の児戯にすぎぬわ。
口端をにぃっと上げると、ネコマタは口の中に魔力球を作り、膨大な魔力を圧縮し始める。
二つに分かれた尻尾が激しく揺れ動き放電現象を起こし、魔力球は輝きを増していく。
「この魔素量、素晴らしき力ではないか。魔王よ、受けてみるか? 避けても良いが、お前の後ろには人が沢山住んでる街があるではないか。くくくくっ」
超高圧縮された魔力球が臨界突破を迎え、口の中でうねり始める。
『
『ああ。冗談みたいな熱量だな。テンペストに着弾したら、一瞬で消し炭になるなテンペストごと』
『では、テンペストの防護結界を反射モードへとシフトします』
『頼むよシエルさん。ベニマル聞こえるか?』
『はい、リムル様』
『手筈通りに頼む。ラミリスにも伝えてくれ』
『了解しました。リムル様』
『思念伝達』で準備していた対策をベニマルに伝えると、それは放たれた。
〝
がしっと両手を地面に付き、四つん這いの態勢を取り、ネコマタはリムル目掛けて熱放射線光線を撃った。
『多次元結界』を右手に集中させ受け止めるも、リムルの右腕ごと『多次元結界』を貫きテンペストに向けて熱放射線光線が走る。
膨大な熱量により、熱放射線光線の通った大地と樹々は一瞬にして炭化した黒い軌跡を作り出す。
だが熱放射線光線の着弾前にテンペストは、ラミリスの地下迷宮に転移した。
何もなくなった空間に張られた防護結界は数十枚のガラス状に似た巨大な四角の形を取り、熱放射線光線を受け止める。
凄まじい威力の熱放射線光線は防御結界にぶつかり、次々と防御結界を貫いていく。
ぶつかり弾ける膨大なエネルギーが、飛沫となって周囲に飛び散り樹々を燃やしていった。
真ん中までの防御結界を貫くも、徐々に防御結界の傾斜が斜めに傾き始めていき、残り七枚の所で上に反らされ、成層圏へと熱放射線光線は突き抜けて行った。
「やれやれ、右腕を持っていかれるとはなあ」
右肩から下を無くした右腕を神速再生してネコマタに、にやりと言い放つ。
「なんだ、あの結界は? この威力だぞえ! 膨大な
「不思議か? ネコマタ。俺達はな、日々技量を磨いているんだよ。与えられた力だけでは、この世界で最強には、なれないなあ」
「戯言を! 今一度喰らうがよいわ!」
再び、魔力球を作り超高圧縮をはじめると。
『
『わかった。やってくれ、シエルさん』
「ネコマタ、お前は危険すぎる。しばらく、大人しくしていろ」
リムルの目が金色に輝き、右手をゆっくりとネコマタに向けると、周りの空間が異様な揺らめきを起こし始めていく。
それに気付いたネコマタは魔力球の圧縮を止め、『空間転移』でその場から逃れようとするも、揺らめき不安定さを増すその空間から転移できなかった。
「なんじゃ! 転移できぬ。なんだこの空間の乱れは!」
転移出来ない状況に焦りを見せるネコマタは、ありったけの魔力弾を周囲に放つが、そのどれもが揺らめく空間に飲まれていった。
「カヤごと我を封印するか? 助ける事も出来ぬとはのう。しょせん、そんなものか。我をカヤから引き剥がすことなど、諦めたかえ?」
「いいからもう、お前は黙ってろ。後でゆっくり、分離する方法を探すさ」
「おのれ! 許さぬ、許さぬぞ! 魔王リムル! 我が完全体になれば、この世界など完膚なきまでに滅ぼしてくれようぞ!!」
最後の叫びを残し、〝無限牢獄〟が完成するその時。
ポンとリムルの左肩を叩く手があった。
「リムルよ。我に任せてくれないか」
あの時の約束を果たすべく、ヴェルドラがその場に現れる。
六十七話を読んで頂きありがとうございます!
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