転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 六十八話です。






六十八話 ヴェルドラとカヤ

 

 

 〝無限牢獄〟の完成寸前にヴェルドラがその場に現れた。

 

「リムルよ。我に任せてはくれないか」

 

 その言葉にリムルは一瞬何か考えるような仕草を取った後、〝無限牢獄〟を完成前で止めた。

 

「ヴェルドラ。やれるのか?」

「我は、カヤと約束をしたのだ。だから――我がやらねばならぬ」 

「そうか、わかった。後はお前に任すよ、ヴェルドラ」

 

 そう言うとリムルは、あっさり〝無限牢獄〟を解除してしまう。

 

 虚無の空間に閉じ込められかけたネコマタは、一瞬何が起こったか分からぬ顔をして周りの空間を見、あの不安定な空間の揺らぎが無くなっているのを確認する。

 

 リムルは「じゃあ、後頼むな」と言い残して、シオンとモモカの所へ向かっていった。

 

 ヴェルドラはゆっくりとネコマタと化したカヤの前まで歩いていき、おもむろに口を開く。

 

「カヤよ、あの時の約束を果たそう。止めに来たぞ」

 

 静かに語るヴェルドラの言葉は、まだカヤが完全にネコマタに取り込まれていない事を見抜いていた。

 

 しかし、それにネコマタが返す。

 

「〝竜種〟が人化した姿か。くくっ。もうカヤは我と一つぞ、〝竜種〟の男よ」

「我はヴェルドラ。カヤの友人でもある、ヴェルドラ・テンペストだ。それと、カヤの姿と声で薄汚い言葉を、使うではないわ!」

 

 言葉の圧、最後の一言にはヴェルドラの怒りとも取れる圧が籠っており、ネコマタをそれに気圧される。

 

(ちっ……。この世界に君臨する最強の存在、この圧は中々に答えるな)

 

 内で舌打ちをしながら、同化したカヤの意識を探るが、どこにもカヤの意識は無かった。

 

 それを確認し、ネコマタは〝無限牢獄〟に封じられる一歩手前で解放されたことをチャンスだと踏み、目の前にいるヴェルドラをとりあえず動けなくなるまで痛めつけて、この世界に来ているであろう本体を探しに行こうと考える。

 

(早く、合流して我が本体に戻らねばのう、カヤも連れてな。ふむ、見たところ魔素量(エネルギー)はほぼ同じくらいか。これならば、後れを取るまいて)

 

 ようやく馴染んで来たカヤの体にネコマタは、カヤの技を探る。

 

(ほお~ 複合属性攻撃とな……面白い事を考えおる。火具突智に鼓打ち、今の魔素量(エネルギー)ならばヴェルドラにも勝てよう。くく)

 

「何を考えておる、ネコマタよ。来るなら、来るがよいぞ」

 

 右手でさっさと来いと言う様に、クイックイッと誘う。

 

「くくく。我を封印しなかった事を、後悔させてやろうかのう」

 

 ネコマタの姿が陽炎の様に揺れた刹那――

 ヴェルドラの正面に居て、〝|火具突智〟を乗せた拳の連撃を見舞う。

 

 〝火具突智・改〟百連撃。

 

 ヴェルドラは全ての連撃を両掌を駆使し防いでいくが、複合属性を乗せた攻撃に『多次元結界』を削られていく。

 

 最後の攻撃を左手で防ぐも、甲高(かんだか)い破裂音と共に左手を粉砕される。

 

「どうだ? ヴェルドラ。最強の〝竜種〟もその程度かのう。くくく」

 

 ネコマタの言葉にヴェルドラは、やれやれと言った顔で左腕を振ると、粉砕された左手が再生していた。

 

「ん? こんなものなのか? カヤはもっと激しかったぞ?」

 

 にぃっと笑いながら答えるヴェルドラにネコマタは両眉を吊り上げ、蹴りの応酬から、右縦拳を顔面に放つが、それは牽制で、本命の〝迅雷鼓〟を叩き込む。

 

 凄まじい震脚に、ネコマタの足元を中心に直径二百メートル、深さ一メートル程のクレータが出来る。

 

 落雷が起こった様な激音が響き渡り、ヴェルドラは両腕をクロスさせた防御態勢のまま、踏ん張る両足が大地を削り、樹々をなぎ倒しながら数百メートルの所で止まった。

 

 クロスした両腕の中心はひしゃげ、胸の鳩尾辺りは陥没していた。

 

「ふははは。この力……何とも素晴らしいではないか! あの〝竜種〟にここまでのダメージを与えるとは。我が完全体となれば、この世界に我に抗える者などいなくなるのう。くかかかかか」

 

 〝無限牢獄〟に封印されかけた先程の事は忘れ、溢れ出るカヤの力に酔いしれるネコマタ。

 

「だから、言ったであろうが。カヤの力はこんなものでないと、な」

 

 そんなネコマタの高笑いを意に介さない顔でつまらなさそうに言葉を吐き捨て、ヴェルドラは受けた傷を神速再生し、首をコキコキいわせながら回す。

 

「ふむ。いくら受けたダメージを治そうが、完全には治せまい――があっ!!」

 

 ヴェルドラは数百メートルの距離を一瞬で詰め、普通にボディーブローを叩き込んだ。

 

 喋ってる途中での攻撃にネコマタの体は宙に浮き吹き飛ぶかと思われたが、ヴェルドラがネコマタの右手を掴んでいて、その場に浮いた形から背中に踵落とし喰らい、真下に叩き付けられる。

 

 ネコマタを叩き付けた大地は大量の土砂を吹き上げ、まるで豪雨の様にその場に降り注ぐ。

 

「がはっ!!……なんだ、この衝撃は……馬鹿げておる、ではないか……」

 

 なんの変哲もないボディーブローと踵落としの威力に、ネコマタは信じられないと言った声を上げる。

 

「〝ヴェルドラ流闘殺法〟の初歩の技だが? カヤはなんなく躱すぞ? ネコマタよ、お前真面目にやっておるのか?」

 

 空様に残念な顔でネコマタに言うヴェルドラにネコマタは、牙を剥きだし激昂した声で両の手の爪を三十センチ程伸ばし、ヴェルドラに振るっていく。

 

「黙れ! ヴェルドラ! 我の力はこんな物ではないわ!」

 

 〝次元双爪(ディメンションクロー)

 

 空間ごと対象を斬り刻む、空間斬撃の爪がヴェルドラに見舞われる。

 

 〝空間歪曲防御領域(ディストーションフィールド)

 

 ヴェルドラは両手にだけ〝空間歪曲防御領域(ディストーションフィールド)〟を限定的に発生させ、〝次元双爪(ディメンションクロー)〟を、涼しい顔で捌いていく。

 

「なんだと! ここまで高度に収束した空間斬撃を捌くなど、ありえぬ!」

 

 苛立たし気に声を荒げ技を振るも、ヴェルドラに一傷(ひときず)も負わせられなかった。

 

 そんな中リムルはモモカの側に行き、胸を押さえ呻いているモモカを『解析鑑定』で見る。

 

(これは……魂の回廊を通じて、魂に干渉を受けているのか。なら、この干渉を遮断してやれば。シエルさん!)

 

主様(マスター)、お待ちを……疑似回廊を通じて、今、ネコマタの思念体、何と禍々しい憎悪ですか……。ですが、あの者の残した術式を利用します。封印術式を一度解体、再構築……干渉遮断防壁展開……遮断確認。主様(マスター)、もう大丈夫です》

 

『ありがとう、シエルさん』

 

 

 見る見るうちにモモカの顔が、生気を取り戻していった。

 

「モモカ、聞こえるか? モモカ!」

 

 意識を回復させつつあるモモカにリムルが呼び掛けると、モモカがそれに答える。

 

「あ、ありがとうリムル。本当に助かったわ」

 

 上半身を起こし力なく答えるモモカ。

 

「状況はシオンから聞いた。確かに、ラコルの魂は残滓すら感じ取れないな」

「ごめんなさい、リムル。わたし達が必要以上に関わらなければ……こんな事に……」

「それは違うぞモモカ。奴の手先をむざむざテンペストに入れた、俺達の責任でもあるんだ」

「そんなことはないわ。あの人間は、恐らく精神支配された人間。魔法や術式で縛られてない分、結界で感知は難しいし、オトワは最初からわたし達に関係ある者を狙ってきた。あの時の様に……」

「あの時?」

 

 リムルの疑問に、モモカは『思考加速』と『思念伝達』で、オトワとの戦いの記憶をシオンとリムルに見せた。

 

 記憶を見たシオンは「下衆ですね」と両眉を吊り上げ一言言い、リムルは「身近な者を使った精神攻撃か、本当に厄介だな」そう言い、もう一度敷地内の結界内を探っていく。

 

《!? この、反応は……》

『ん? どうした? シエルさん』

《この微弱な反応……ユニークスキル? 既に消えかけていますが……何故ユニークスキルの反応がここ、に!? 主様(マスター)! ラコルのユニークスキルが、まだこの結界内にあります!》

『なんだって!? 何でユニークスキルがこの……!! あれか! ヒナタの時と同じ、ユニークスキルに魂の残滓が保存されてるのか! しかし、何で只のユニークスキルがそんな事できたんだ?』

主様(マスター)。推測ですが、あの二人との接触により魂が鍛えられ、ユニークスキルもその影響を受けたのではと推測します。そして、ラコルの強い思いが、そうさせたのだと》

『そうか。シエルさんそのユニークスキルを、消えないよう保護してくれ!』

《やっています。主様(マスター)、保護致しました》

『よし。しばらく、そっちは任せた』

 

 リムルは、シエルに結界内に漂うユニークスキルを保護してもらい、モモカに急ぎ伝える。

 

「モモカ! ラコルは蘇生できるかも知れないぞ!」

 

 上半身を起こしたまま地面に左手を付き、目も伏せがちで力なく垂れていた猫耳がピクリと跳ねる。

 

「え? どういう事なの?」

「可能性の問題なんだが、前例がある。どの位の記憶が保存されてる残滓か判らないけども、助かるぞラコルは!」

 

 リムルは手短に以前ヒナタを蘇生した時の事を、モモカに話していく。 

 モモカはその話を聞き、ラコルを救う希望をリムルに見い出す。

 

 

 そんな中リムルからラコルのユニークスキルの件が『思念伝達』でヴェルドラに伝えられる。

 

「ネコマタよ。本気の力がそれか? 笑止!」

 

 ネコマタの攻撃を躱しながらニヤリと言う。

 

「!? 笑止だと? その減らず口を潰してくれるわ! ヴェルドラ!」

 

 激昂したネコマタは四つん這いの姿勢を取ると口の中に魔力球を作り、超高圧縮を始める。

 

 それを見たヴェルドラは『混沌之王(ナイアルラトホテップ)』の〝確率操作〟を発動する。

 

「死ぬがよい、ヴェルドラ!」 

 

 〝荒暴砲口(フィアス・ブラスター)〟  

 

 超高圧縮された熱放射線光線が、一直線にヴェルドラに向かう。

 が、その熱放射線光線はヴェルドラに当たらず、上空へと熱放射線光線の軌跡が走っていく。

 

 直撃する確率を下げ、上空へ弾く確率を上げ、『多次元結界』を右手に極集中させて上に弾いたのである。

 

 それでもヴェルドラの右腕は肘まで蒸発しており、白い煙が肘から上がっていた。

 

「ばか、な?」

「紛い物はそんなものだろう」

 

 そう言った刹那――ヴェルドラの右腕は神速再生し、ネコマタの懐に飛び込むと上から渾身の力で殴りつけた。

 

 地面が噴火したような土砂を巻き上げる。

 

 そのまま地面にめり込んだカヤの体の両肩を掴み引き起こすと、ヴェルドラはカヤの頭に盛大な頭突きを入れた。

 

「いいかげん、目を覚まさぬかあああ!!」

 

 ゴガンッ!! 鈍く重い打突音が響き、ネコマタの意識が飛ばされる。

 

「あぁ……がぁあ……」

「いつまでそうしておるのだ、カヤ!!」

 

 怒気を込めた言葉をぶつけ、カヤにもう一発頭突きを見舞う。

 

 ズゴンッ!!

 

「……ヴェルドラ……もう、いいんだ……あたしを……ころして、おねがい」

「我は殺さぬ――止めに来たのだ!」

 

 更にもう一発頭突きを入れた。

 

 ゴズンッ!!

 

「あ、いたーー。仕方ないじゃん!! あたしの中にネコマタの思念体がいて、ラコルをこの手で殺したんだよ!! もう、いやなんだよ……大事な者が消えていくのは……ヴェルドラなら、あたしを殺せるでしょ! ネコマタがあたしを完全に取り込む前に……」

「やらぬ――あの時も言ったが、お前を全力で止める」

「なんで、よ……なんで殺さないのよ! テンペストが滅ぶかも知れないんだよ!!」

「カヤ。お前を助けられる確率が零でなければ、我は諦めぬよ。皆もそうだ」

「ラコルを殺したあたしが……そんな助けを受ける資格が、あるわけないよ……」

「ラコルを助けられる確率も、零ではないぞ。助かるかも知れぬのだぞ!」

「じゃあ、生き返ったとして……そのラコルを殺した張本人が、どういう顔してラコルに会えばいいいんだよ! もういい。あたしを殺したくなるよう、本気でヴェルドラ――あんたを殺しにいく!!」

「カヤ!!」

 

 ヴェルドラの説得に耳を貸さず、カヤは〝火具突智・改〟二連撃をヴェルドラに放つ。

 

 先程の比ではなく、正真正銘の〝火具突智・改〟にヴェルドラのガードした両腕は粉砕された。

 

 シューッと音を上げながらヴェルドラの両腕は再生されていくが、ネコマタが放った物とは威力が段違いであった。

 

「くくっ。やはり、マジのお前は凄まじいものだな」

 

 含み笑いを浮かべながら、どこか嬉しそうに言うヴェルドラにカヤは、無造作にも見える歩みで近づいていく。

 

 構えも無く無造作に見えるカヤにヴェルドラは、上段蹴りから切り返しで下段蹴りで膝を狙うが、正中線の軸だけをずらし、その蹴りを捌き、予備動作無しの〝鼓打ち〟をヴェルドラの腹部に叩き込む。

 

 大気が割れる音と共にヴェルドラが後ろに吹き飛ぶ。

 

 吹き飛びながら身を翻し地面に着地すると、大地を蹴った土煙だけ残し、カヤの間合いに飛び込む。 

 

 神速のパンチの連打と蹴りの応酬に、カヤの体はまるで揺れ動く影の様にゆらゆらとその攻撃を躱していった。

 

 そこから、予備動作のないカウンターの拳が放たれる。

 ヴェルドラはそのカウンターに反応して、更に拳のカウンターで返す。

 

「なるほど。それが、本当のお前の本気か。ならば、我はその本気をも上回り、カヤ――お前を止める!」 

 

 知覚すらも覚束無い二人の攻防に、シオンは驚愕しモモカに尋ねる。

 

「モモカ、あのカヤの無造作にも見える、立ち姿の技は何なのですか?」

「あれは、闇夜影千流 柔術 極奥義・無影舞崩(むえいぶほう)という技よ。一見無防備に見える、構えの無い立ち姿から、技を繰り出すの。脱力状態から、破裂するような爆発力を込めた拳打と蹴り、カウンターを見舞う、極奥義。あれを体得した者は創始者と、歴代の皆伝を得た者でも、数人もいないと言われてるわ。カヤはその体得した、一人なの。確実に相手を殺す為に使う、奥義なのよ。ただ相手を、殺す為の技」

「殺技……本当に戦う為の戦闘術なのですね」

「戦闘術、か。そんな言い方をしたのは、シオン……あなたが初めてだわ。アリガトウ」

 

 シオンの言葉にモモカは、小さく「ありがとう」と呟いた。

 自分達の闇夜影千流を殺人武術ではなく、戦闘術と言ってくれたのを素直に嬉しく思う。

 

 殺人武術、乱破ノ者の頃からそう呼ばれてきた闇夜影千流。

 魔物になってからも、モモカとカヤはそう呼び、思っていた。

 しかし、シオンは、戦闘術と呼んだ。

 

 シオンは、元鬼人(オーガ)であり、この世界の戦闘種族でもあった。

 闘霊鬼となった今でもその本質は変わっておらず、殺すことに特化した技など、シオンに取っては当たり前の事でもあり、そんなことはシオンに取って些末ことなのだった。

 

 激しく戦うカヤ、その姿はリムルには何故か泣いてる様に見え、間に入り二人を止めたい衝動に駆られるが、右拳を軽く握りしめ、すぐに緩めるとヴェルドラを信じ見守る事に徹する。

 

 その激しい戦いも、ヴェルドラの猛攻を掻い潜り、〝火具突智・改〟を拳ではなく抜き手でヴェルドラの〝魔核(コア)〟がある位置へ突き込まれる。

 

 が、その貫き手は四指の第三関節迄で止まっていた。

 

「なんで、よけないのよ!」

「……なんでだろうな。カヤよネコマタの思念体は、今お前が抑え込んでいるのであろう? 何故ネコマタに取り込まれたふりをするのだ。お前の魂の力ならば取り込む事はできても取り込まれるなどありはせぬであろう? 何故死を選ぶ? なぜ死のうとするのだ? 安易に死を選ぶなカヤよ。暗殺者だったお主は、人間だった頃足掻いて、足掻いて生きてきたのであろうが……。なぜ今でも足掻かぬのだ、カヤ、足掻け! 諦めたらそこで終いぞ!」

「ヴェルドラ……。でも、ラコルを殺してしまったのはあたしの責任なんだ、あたし達がテンペストにこなけば……よかったんだよ!!」

「それは違うぞ。お主がテンペストに来なくても、いずれあ奴らは来た。そして同じように誰かが犠牲になったであろう。その時は誰も救えぬ。しかし! 今はラコルだけならお主は救えるのだぞ!」

「あたし、が? 無理だよ。反魂の術など知らないし、どんなに謝っても取り返しのつかない事をしたんだ。疫病神なんだよ、あたしは」

「いいかげんに、せぬか!」

 

 バゴンッ!

 

 モモカばりのゲンコツをヴェルドラがカヤの頭に落とし、カヤが頭を抱えながら言葉をぶつけて行く。

 

「いてえな! さっさとあたしを殺しておけば、面倒ごとは無くなっただろうがあ!」

「いつまでも子供みたいに、言うではないわ!」

「子供? あたしが子供? 人間の頃から子供らしい事などなかったわよ! 物心付いた頃からひたすら、殺人術を訓練していたんだよ! 子供であった頃など……無かっ、たんだ。人間の時死んだ時も、あのまま輪廻の輪の外で漂っていたかったんだ! 転生など、望んでもないのに……。何で転生などさせたんだよ。何で死んだままにさせてくれなかったの……」

 

 ヴェルドラの胸を両手でドンドンと叩きながら俯いたまま頭を胸に付け、荒げた言葉も徐々に小さくなっていった。

 

「カヤよ。お前が、今までどんな過酷な道を歩んで来たかは、我にはわからぬ。慰めの言葉も我は知らぬし、言わぬ。だがな、今いるお前となら、色々なものを分かち合えると思うぞ? それでは、駄目なのか?」

「……わからない」

「そうか。花火の時に言った言葉を覚えておるか?」

「……うん」

「我は、共に並び歩いていく事は出来るぞ。共に戦うこともな」

「でも……あたしは、あたしは……」

「カヤ、拳を納めよ。ラコルを助けるぞ」

「……わかった」

 

 カヤは返事を返しヴェルドラの胸から離れると、家の庭に向かって歩き出す。

 

 と、カヤの背後の空間が揺らぎいきなりオトワが現れ、モモカが叫ぶ。

 

「カヤ! 後ろよ!」

「くかかかかかか。とんだ茶番を見たものだのう。カヤ」

「なっ! がはっ」

「カヤ!!」 

 

 ヴェルドラが動くよりも早く、オトワの右手が背中からカヤを貫く。

 

「返してもらうぞえ。我が半身と言える思念体を」

「て、めえ。どこに、隠れて、た」

「ふむ。お前が殺した人間の目を通して見ていて、後は空間の狭間から覗いておったのだよ。『空間転移』の応用じゃよ。くかかかかか。では、返してもらおうかの」

「あ、があああああああっ」

 

 着流しの黒字に牡丹の花をあしらった着物を着て、金色に光る猫目に猫耳、そして二つに分かれた尻尾。

 

 顔は妖艶な美形でありながら、見え隠れする狂気の渦が表情に表れていた。

 

 ぐりぐりと右手をカヤの体の中で動かし、何かを掴んだ仕草を見せ一気に右手を引き抜き、それに合わせカヤはうつ伏せ状態で倒れて行った。

 

 オトワの右手には、赤黒く光り輝くビー玉位の光球が握られていた。

 

「お帰り、我が半身よ《ただいま、我が半身よ》」

「油断しすぎだ、ネコマタ」

 

 オトワが右手の光球を見て、にんまり笑みを浮かべた刹那――

 ヴェルドラの左手刀がオトワの胸を〝魔核〟ごと貫いた。

 

「くっ、かか。〝竜種〟よ。なんとも、無粋な、奴じゃな」

「終わりだ、ネコマタよ」

 

 ヴェルドラが告げ左手を引き抜くと、オトワは仰向けに倒れ光の粒子が拡散するように体が霧散していった。

 

「カヤ! 大丈夫か?」

 

 倒れてるカヤに駆け寄り抱き起すと、カヤが苦しそうに言う。

 

「ヴェ、ルドラ……あいつ、は、死んでない」

「なに!? 確かに、〝魔核〟ごと貫いたぞ?」

「何をじゃ? くかっ」

「分身体か!?」

 

 確かに死んだはずのオトワが、先程の位置に立ち嗤っていた。

 

主様(マスター)。あれは、原因と結果の書き換えです。因果律の操作が行われたと推測します》

 

 なにー! それって反則じゃね?

 

《反則の意味がわかりませんが、恐らく倒すことは不可能だと》

 

 ここの結界の維持もあるし、下手に動けないか……手の内がわからない内はな。

 

《あの領域での観測妨害を感知しました。何かが来ます》

 

 シエルさん、ここを死守だ。

 

 リムルはシオンとモモカの前に立ち、オトワの攻撃に備える。

 

「リムル。わたしも戦うわ」

 

 よろよろと立ち上がり、モモカはオトワに視線を向ける。

 

「駄目だ。まだ魔力の調整が、本調子ではないだろう? 後ろに下がってろ」

 

 きっぱりとリムルに言われ、モモカは大人しくシオンに支えられながら、リムルの後ろに下がる。

 

 やれやれと言った顔でオトワは、口を開く。

 

「分身体? 違うぞえ。さて、完全体に戻るとするかのう」

 

 右手に持った光球をごくりと飲み込むと、オトワを中心に魔力の爆発にも似た衝撃波が広がり、ジュラの大森林の樹々を大きく揺らしていき、黒い霧を渦巻く様に巻き上げながら口端を上げ、薄く嗤う。

 

『リムルよ。あ奴は、我らと同等以上のEP値を持つかも知れぬぞ』

『今ラミリスから、『思念伝達』が来たんだけど。一瞬だけ――EP計測器のメーターを振り切ったそうだ』

 

 リムからの言葉にヴェルドラは黙って聞き、ネコマタから視線を外さなかった。

 

「では。我は忙しい故、帰るとするかのう」

 

 オトワは右手を横にふわりと降り、左手も同じように振ると左右に影獣が五十匹づつ現れ、計百匹が一斉に咆哮する。

 

 ギィエエエエエェーーーー!!

 

 〝呪狂鳴音(カースハウリング)

 

 ヴェルドラならばこの〝呪狂結界〟を敗れるが、今はオトワの力も上乗せされ、百匹の咆哮に魔力が乱されていた。

 

「なんだと!? 魔力が……乱されていく」

「ヴェルドラ、動くなよ。敷地の結界が揺らいでいるから、余波で破れかねない。おい、オトワ! お前の目的はなんだ?」

「そうさのう。この世界の強者(つわもの)どもの魂を喰らう事、ではないな。ヴェルダナーヴァの愛したこの世界の、破壊じゃな。くかかかかかか」

「ヴェルダナーヴァは、もういないぞ」

「そこは問題ではないのじゃよ。魔王――」

「リムルだ」

「魔王リムル……そうか、あの時の強大な魔力の持ち主か! そうかそうか。目的は、我の復讐じゃよ。あの壊れた世界に、我を封じ込めた罪をこの世界に償ってもらうとしよう。それでは、次はお前に連なる者全てを影獣の餌にしてやろうぞ。くかかか。!?――」

 

 オトワがリムルに連なる者全てと言った瞬間――リムルの妖気(オーラ)が一気に膨れ上がり爆発したように上空へと吹き上がる。

 

 バサバサと服の裾が靡き、水色の髪が暴れる様に舞い踊り金色に輝く両の目がオトワを貫く様に睨み、ゆっくりと言葉を発する。

 

「おい。てめえ、俺の知る者達に手を出したら――たたでは死なせねえぞ。それとな、あんまりカヤとモモカを舐めてると、存在事消されるぞ。ネコマタ」

 

(我が気圧される? なんじゃ、あの者の覇気は……あれでは、まるで……)

 

 リムルから発せられた圧倒的な覇気にオトワは気圧されるも、自身の覇気で相殺していく。

 

(うーむ、奴は下手に刺激するのは得策ではないな。じわりじわりと外堀から埋めるとするか。まあ、あれが完成すれば、そんなことは些末な事になるがのう)

 

「流石に、一国を取り仕切る魔王だけのことはあるな、リムルよ。次は、この世の終わりの時に会おうぞ! くかかかかかかか」

 

 冷たく突き刺さる様な嗤いを残し、影獣とオトワは何処へと『空間転移』して行った。

 

 

「また、あの時と同じだ! 何も出来なかった……。強くなったんじゃないのかあたしは! くそったれがああああ」

 

 二度もオトワにしてやられ、カヤは己のうかつさと何もできなかった自分に怒りをぶつけた。

 

 その姿を見ていたモモカも後れを取った自分への怒りで、唇を噛み締めていた。

 

 ヴェルドラがそんなカヤに「ラコルを助けるぞ」と一言言い、リムル達の所へカヤと向かう。

 

 

 カヤがモモカの横に行くと、リムルが二人に口を開く。

 

「のんびりもしてられないから、単刀直入に言う。ラコルは、俺では蘇生出来ない」

「え? やっぱり無理じゃないか……」

「リムル、さっきは助けられるって言ったじゃない! どうしてよ!」

「モモカ、落ち着けって。俺ではと、言っただろう」

「「俺では?」」

「ああ。ラコルの魂の残滓は、自身のユニークスキルに吸収されてるんだけど。その残滓が別の(ことわり)に、汚染されてるんだ。俺ではそれに干渉出来ない。やろうとすれば出来るんだが、今は時間が惜しい。お前達ならそれに干渉できるはずだ」 

「リムル。何故わたし達が出来ると?」

 

 モモカは何故という疑問をリムルに問い、リムルがそれに答える。

 

「こちらの世界の、理では無いからだよ。あれはオトワの作ったものだ。ならば、何らかの形であちらの理をこちらに適合させたんだと思う。だが、俺達はあちらの世界を知らない。でも、お前達なら知ってるだろう?」

 

 そう言うとリムルはニカーッと笑い、後はわかるだろうと言った顔で言う。

 

「フェイリュアワールドの理……名付けでわたし達の眷属にすると言う事ね。それで両方の理を融合一つにして、汚染の浄化をする――」

「そうだ。〝反魂の秘術〟は俺が教えサポートするから、お前達は蘇生と同時に、名付けをするんだ」

「わかったわ、リムル。教えてちょうだい、〝反魂の秘術〟を。いいわね、カヤ」

「……うん」

 

 モモカは覚悟を決めカヤに告げると、カヤも力なく頷き返事を返す。

 

「よし、いくぞ。二人共俺とリンクしてくれ」カヤとモモカは『思念伝達』を使いリムルとリンクして、疑似魂の回廊を立ち上げると、リムルが反魂の術式を起動し、立ち上げていく。

 

 シオンが綺麗に血糊を拭き、ラコルをそっと仰向けに寝かす。

 

 リムルの水色の長い髪がまるで風にそよぐ様に舞い、目が鮮やかな金色に輝き両手を広げると。

 

 巨大な魔法陣が、仰向けに寝かせられているラコルを中心に広がっていく。 

 その魔法陣の縁を囲むように更に無数の魔法陣が壁の様に展開される。

 壁の様に展開された魔法陣の中心に、更に長方形の呪符が展開されていった。

 

 一度切りのリムルとモモカによる、同時〝反魂の秘術〟

 

 輝きを増す魔法陣と呪符にシオンは思わず目を奪われ、言葉を呟いていた。

 

「何て綺麗な、術式なんでしょう」

 

 自分を救ってくれたリムルの秘術が見られたことにシオンは感動し、その後に続く言葉を失い、頬に一筋の涙が流れ落ちていく。

 

 魔法陣と呪符の輝きが最高潮に達し、ラコルの胸の上に小さく輝く新たな〝魔核(コア)〟が形成されていった。

 

 新たな〝魔核〟にユニークスキルが取り込まれ融合していき、淡く光る光球になりラコルの胸の中に吸い込まれていく。

 

 そこへ。

 

「モモカ! カヤ! 名付けを!」

 

 リムルが二人に告げた。

 

「カヤ。あんたが呼びなさい」

「え? あたしが……」

「そうよ。ラコルが一番名を呼んで欲しいのは、あんたなのよ!」

「で、も――」

「はやくなさい! カヤ!!」

 

 モモカの真剣な声にカヤは、ヴェルドラに視線を向け、次にリムル、そしてシオンに向けると、三人ともカヤに静かに頷いていく。

 

 一度目を伏せ、パッと見開くと覚悟を決め声を発する。

 

「ラコル、 あんたはラコルだ! ラコルーー!!」

 

 世界の言葉が流れてくる。

 

《告 眷属への進化が開始されました。身体組成が再構成され、新たな種族へ進化します》

 

《告 個体名カヤとモモカの偽装が解かれた為、亜神から新種・妖霊獣(スペクター)と呼称します》

 

《確認しました。 個体名ラコル 種族:獣人から妖霊獣・眷属へと進化……成功しました》

 

《告 『見取る者(ミトリゲイコ)』が〝究極能力(アルティメットスキル)〟『天武之王(テンブノサイ)』へ進化……成功しました》

 

 ラコルの身体構成が精神生命体となり、精神生命体でありながら物質体を持つ体に作り変えられていく。

 

 そして黒い糸状の物が優しくラコルを包んでいき、黒い繭となる。

 

 

 これは……ディアブロに名を与えた時に、似ていないか?

 

 リムルはラコルが黒い繭となった姿を見て、ディアブロに名付けした時の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

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※二人の種族が新種となり、最終決戦に向けて能力の進化と新たなスキル名が追加されますが、ここではまだ一部だけ表記します。

 

 

カヤ 

EP: 8340万(8340万+千鳥300万)

 

種族: 妖霊獣(スペクター)(物理体を有した、精神生命体)

 

加護: 姉の加護

 

称号: 乱破ノ者

 

固有スキル: 万能感知 思念伝達 変化(へんげ) 神速再生 魔王覇気 多次元結界 思考加速 

 

アルティメットスキル:狂乱之王(フレンジー)

          

 空間支配 重力支配 一隻眼(相手の能力を見抜く)

 時空間操作 並列演算 並列起動

     

 予測演算妨害 未来予知妨害 確率操作妨害 法則操作妨害

 時間操作妨害 並列演算妨害 解析鑑定妨害 

 時空間操作妨害  

                 

 真狂乱舞・時間限定、全能力ハイブースト<リミット120秒>

        

 闇鏡静水・特定条件でのみ、森羅万象切断が使用可能

<厳重封印状態により使用不可>

           

 

隠蔽特化型・究極能力(シークレット・アルティメットスキル):『化カシ之王(ネコダマシ)

 

 自身の能力だけでなく、魂の回廊に連なった者までの能力を偽装し隠蔽する

 世界の言葉すら騙すことが出来、隠すことも可能

 

※〝絶対暴力〟 EP値と、真の攻撃力を偽装するために生み出された権能で、偽装が解除されたので消失。

 

 

 ???

 

 ???

 

耐性: 物理攻撃無効 状態異常無効 精神攻撃無効 自然影響無効         

    聖魔攻撃耐性 痛覚無効

 

 

 

モモカ 

EP: 8340万(8430万+鈴蘭280万)

 

種族: 妖霊獣(スペクター)(物理体を有した、精神生命体)

 

加護: 妹の加護

 

称号: 乱破ノ者

 

魔法: 元素魔法 呪符魔法 暗黒魔法 

 

固有スキル: 万能感知 思念伝達 変化(へんげ) 神速再生 魔王覇気   

       思考加速

 

アルティメットスキル: 乱破之王(ブレイク・デストロイヤー)

            

 森羅万象 呪符多次元結界 詠唱破棄 黒炎核支配 重力支配 空間支配 時空間操作

            

 物質変換・改変 融合・分離

          

 解析鑑定 法則操作・改変 審美眼(相手の持ってる本性を見抜く) 

 並列演算 並列起動

 

耐性: 物理攻撃無効 状態異常無効 精神攻撃無効 自然影響無効         

    聖魔攻撃耐性 痛覚無効

 

 

 

ラコル 

EP: 540万

 

種族: 妖霊獣(スペクター)・眷属(物理体を有した、精神生命体)

 

加護: 姉妹の加護

 

称号: 無し

 

魔法: 元素魔法 呪符魔法 暗黒魔法 

 

固有スキル: 万能感知 思念伝達 変化(へんげ) 神速再生 多重結界

       思考加速 

 

アルティメットスキル:『天武之王(テンブノサイ)

           

 空間操作 重力操作 流転ノ眼(見た技を自分の物にし、更にそれを自分流に改変する。但し自分より技量が上の者の技は不可だが、威力は落ちるが模倣は出来る)

 

 時空間操作 並列演算 並列起動 解析鑑定

          

 

耐性: 物理攻撃無効 状態異常無効 精神攻撃無効 自然影響無効         

    聖魔攻撃耐性 痛覚無効

 

 




 六十八話を読んで頂き、ありがとうございます!

 次回の更新も読んで頂けたら幸いです。

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