〝グリ〟 フランス語で灰色です。
※作中に出てくる〝
血が混じると言うより、精神生命体の悪魔族と人間との間に生まれた子供と言う事で、魂が混じると言う様に表現しています。
地下迷宮にある医療施設のベッドに、黒い繭が横たえられていた。
そこにはダコラとラナも来ていて、黒繭化したラコルが寝かせられているベットの前で、カヤとモモカから事の顛末の説明を受けていた。
「ごめんなさい。こんな事になったのは、あたしの責任だ」
「わたしが付いていながら、ラコルをこんな目に……謝って済むことではないのは、わかってる。本当に、ごめんなさい」
二人は床に正座して、深々と土下座をしてダコラとラナに詫びた。
そんな二人にラナが片膝を付き、二人の体を起こし優しく話し掛けて来た。
「顔を上げて下さい。あの時に気まぐれだとしても、私達の命を救ってくれたにも関わらず、今度はラコルの命まで救ってくれたのです。ラコルが影獣になったのは、御二人の責任ではありませんよ。カヤ様、モモカ様」
そこへダコラも片膝を付きラナの隣に来ると、同じように二人に話し掛けてくる。
「そうです。本当なら、あの時私達は死んでいたでしょう……愛するラコルを残して。でも、今こうして親子三人、また居られるのです。ラコルは、本当に楽しそうに毎日あなた達の事話していましたのですよ。ラコルの大好きな方の眷属に、なれたのです。しかも、あのヴェルドラ様と肩を並べる御方の眷属となった。親として誇らしく思いますよ、我が娘を。だから、顔を上げて笑ってください。カヤ様、モモカ様」
柔らかく微笑み言うダコラの言葉に二人はぎこちなく笑い、ラナが二人の手を取って立たせる。
そこへラミリスが来て、その後にリムル、ヴェルドラ、シオンにシュナ、ベニマル、ソウエイ達がやって来た。
で、ラミリスが影獣に付いての調査報告を開始しようとするも、チラリとダコラとラナを見てリムルを見ると、リムルは軽く頷き、ラミリスが報告を開始する。
「それで、まずあの黒い霧と傷の事なんだけど、あれはこの世界の魔素に異なる魔素が結び付いて、〝魔核〟を侵食、人間なら魂を侵食して影獣にする、生きた寄生霧ともい言えるものなのよさ」
「生きた寄生霧?」
リムルの問いにラミリスは、コクリと頷き報告を続ける。
「そうなのよさ。そうね、アタシ達の世界の魔素をプラス特性の魔素として、あの黒い霧はマイナス特性の魔素を持ってるワケ。そしてそれが結び付くと、アタシ達の世界の
「ふーむ。なら、あの影獣に対抗できるのは、カヤとモモカだけになるな」
「リムル。
そこでラミリスは一度言葉を切り、自分の調べた影獣に関する全てを総動員して、他に打てる手が無いか、同じ場所をパタパタと回り飛びながらぶつぶつと呟いていた。
ラミリスの言葉にリムルは、シオンの『
それからもラミリスの報告が続き、次にオトワが来た時の防衛手段を話し合っていくが、そこへモモカが「その前に、全てを話すわ」と口を開いてきた。
それにリムルが「そうか。なら、頼む」と言った所に、更なる者がそこに現れる。
「ククク。その話し、ぜひとも伺いたいものですね」
「ああ。オレも、その話しは、ぜひ聞きたいものだな」
「そうね。私も、ぜひ聞きたいわね」
「ボクも、その話には興味があるな」
「そうなんだよなぁ、なーんか気になってたんだよなあ」
ディアブロが入って来て、その後にギィ、テスタロッサ、ウルティマ、カレラと医療室に入って来た
ディアブロ達を見て、カヤとモモカは顔を見合わせて頷くと、話を切り出していった。
「まず、わたし達の人間だった頃の話からだから、『思念伝達』と『思考加速』を使ってわたし達の記憶と交えて話すわ」
そう言い、モモカはそこに居る全員を『思念伝達』でリンクしていく。
何故、乱破ノ者のだった時に死んで転生して来たかを話し、その死んだ原因の記憶を見せて行った。
モモカのお側付き護衛の任のお取下げをカヤが主に嘆願しに行き、それが里を攻め滅ぼされる原因となり、攻めて来た成友の軍と戦う記憶の映像。
カヤの師匠と対決する映像の時は皆が見入っていて、只の人間であのような太刀筋の斬撃ができるとはとか、百人を相手に斬り合うカヤに、ヴェルドラが「ほうー。人間の頃から、凄まじいものだな」と感嘆の声を上げる。
そして。
カヤが死に、モモカが最後の呪符術を発動させる記憶映像では、ディアブロ達の顔付が微かに変わる。
「あら。〝
「やっぱりなー あいつの〝魔核〟と同じ匂いがするじゃないか」
「そうだね。誰かさんと同じで、負けず嫌いな奴だったよね」
「ははっ。魂の色が誰かに似てるなと、思ったが――奴か」
「クフフ。そうですか、どうりで。ククク、それがあなたの、望んだものですか」
ディアブロ達は最初に出会った時から、カヤとモモカの〝
「もう、ディアブロ達は気付いてるわよね。そう、わたしとカヤは――人間と悪魔族の〝
「「「「「!?」」」」」
「なになに、そんなこと可能なワケ!? 混血じゃなく〝魂血〟? 悪魔族と人間との間に出来た子供? はあーー!?」
ラミリスは獣人や魔人、エルフ族のハーフならこの世界にいるが、悪魔族と人間の〝魂血〟は聞いた事も見た事も無くて「なにそれ!?」と騒ぎ立て、リムル達も流石に驚き、「えっ!?」と言う顔で二人を見て、固まっていた。
その中シュナだけは、カヤが見せてくれた時政の記憶の中で垣間見た人ならざる気が、人の物ではない何かだと感じ取ったことを今思い出し。
「やはり、そうでしたのね」
と、小さく口に出し、カヤを見ていた。
「わたしとカヤは元々、平安時代に生まれた子供だったの。そして本当の父母は、人間の沙羅
モモカがそこまで話すとディアブロ達が、ある名前を口にする。
「「「「「グリ」」」」」
ディアブロの眷属、灰色のグリの名を。
「何故、異世界の召喚術式が、悪魔界に届いたのかは謎ですが。それを知るには、もう本人達はいませんからねぇ」
ディアブロは腕を組んだまま左手を顎下にやり、少し考え込む仕草を取る。
すると、それを合図かの様にモモカは那破刀との記憶映像を千鳥から引き出し、皆に見せていく。
「ナハト……。眷属ではない、あの時言った子孫を残すことに、成功しましたか。流石、私の眷属の中でも異質な眷属ですね。クフフフ」
いつものように言うディアブロの表情は、少し嬉しそうにも見えた。
那破刀が倒れ、体が霧散消滅した記憶映像の所でギィがモモカに尋ねて来た。
「おい、モモカ。奴の魂はどうなった?」
「……それは、わからないの。完全に消滅したのか、輪廻の輪に取り込まれたのかは、わたしにもわからないのよ」
「そうか……。お前達子供に力を取られたと言え、悪魔族の本質は変わっていないはずだ。何百年掛かろうとも復活できるはずなんだがな。異世界に召喚されて、
ギィは腕を組んだまま、しばし思案に没頭していく。
ネコマタとの死闘に沙羅も倒れ息絶える記憶映像にウルティマが呟くように口を開き、テスタロッサ、カレラが続く。
「へえー あれ禁呪の一種だね。異世界にもあったんだね」
「確かにね。かなり特殊な術式形態なんだけど、こちらの術式と共通点がいくつかあるかしらね」
「そうだな、何かを媒介に強力な術を行使する。自身の魂を贄に発動する魔術とか幾つもあるが、これも中々に興味深いな」
思い思いの事を口にし、ウルティマ達は三人で意見を交わし始める。
そこで、三歳の頃の
その記憶映像をみたリムルがモモカに問う。
「なあ、モモカ。あの彌恵と言う女の子がお前達の姉なんだな?」
「ええ。長女の彌恵姉さんよ」
「ふむ。三姉妹だったのか『モモカ、そのヤエはお前達の中に、いるんだろう?』」
「そうよ。三姉妹だったの『いるわ、カヤの中にね。でも、これだけは誰にも言わないで欲しいの』」
「だった? という事は、その姉、彌恵は死んだのか?『ああ、言わないよ。安心しろ』」
「ええ。異空間の中で、消滅したわ『ありがとう、リムル』」
モモカは〝
そしてモモカは一呼吸置くと、次の事を話し出す。
「わたしは、二度転生してるの」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
「一度目は平安時代に生きた桃華が、自身で考案した転生術で戦国時代に転生したの。輪廻の輪の中で永き時を待ち、闇夜家の血を引く女性の子供としてね。ただ、その転生術は不完全で、生前の記憶を永久に失ってしまうの。だから、今のわたしには戦国時代を生きた頃の記憶しか無いのよ。そして、何故そうしたのかは桃華の記憶が失われてしまってるから、もう知る術がないわ」
するとラミリスが口を挟んで来た。
「なるほどね。さっきの記憶映像なんだけど、異界送りの時の異空間内が凄い時空間の乱れに襲われてる感じがしたのよさ。だからネコマタは、ヴェルダナーヴァがいる時代に飛ばされてしまったのね。偶然が偶然を呼ぶ結果……違うわね。いくつもの未来が分かれている結果、辿り着いた未来なワケ? 未来への分岐……。今も変化する、未来への分岐点。ねえ、モモカ。あんたこれから先の未来は、見たワケ?」
「いえ、見てないわ。わたしの見た夢見は、どれもテンペストが襲われ、わたしか、カヤがネコマタに喰われてたり、いい状況の夢見は無かったわ。そして、今の状況もね」
「そう……。なら、今の状況は新たな未来へ入ってる事になるわね。完全な予知じゃなくても、今までの予知夢を考慮すると……。モモカ、今の状況は悪くないと言えるかも。何かがきっかけで、確定してた未来が、新たな分岐をしたワケだから。いくつもの未来から、ネコマタを倒せる未来の時間軸に流れたと、考えた方がいいのかしらね」
ラミリスの説明に皆が聞き入り、ヴェルドラが疑問を挟む。
「なあ、ラミリスよ。そのきっかけとは何なのだ?」
「え? うーーん。流石にそこまではワタシにも予測がつかないんだけどぉ。あれよ! あれなワケ!」
「だから、そのあれとは、何なのだ?」
「えーとね……! 眷属よ! ラコルちゃんを眷属にしたから?」
「何故そこで首を傾げて疑問系になるのだ。ラミリス」
「あー 師匠、それはね。カヤが絶対に弟子は取らないと言ってたのが、ラコルちゃんを弟子にすると決めたからなのかなと、思ったワケよ。 その些細な行動や考えで分岐したと考えても、おかしくはないワケ。だから、そう推測したのよさ」
「ラミリスよ。そんな事で未来が変わったりするのか?」
「師匠、未来というのはね、どんな事がきっかけで、変わるかわからないのよさ! カヤとモモカがこの世界に来て、どのように変わっていくのか、多分それも関わってるワケ! まあ、最初にネコマタをこの世界へ送り込んだことは、迷惑なんだけ……ど?」
迷惑まで言うとリムル達がジト目でラミリスを見ていて、カヤとモモカも申し訳なさそうな顔で俯いていた。
流石にテンションが上がり過ぎて失言をかました事で(やってしまった?)と思ったラミリスだが、そこは生来の天真爛漫さで乗り切って行った。
「ま、まあ……コホン」
一つ咳払いをすると。
「でもあんな厄介な魔物が来たんだから、大変だったワケよ。でもね、それが運命としたら――全てが必然なワケ。カヤとモモカがこの世界に来てアタシ達と出会うのも、確定した未来だったのよさ! ネコマタを倒す為にね。だからね、ワタシ達は全力で、あんた達に力を貸すワケよ!」
グィッと小さなを胸をこれでもかと張りラミリスは、カヤとモモカに向かって親指をビシッと立てた。
いきなり、達と皆を一括りにしたラミリスにリムルは「全くお前は」と苦笑いしながらも頷き、ヴェルドラも「ほんとにお前は、ブレぬなあ」と笑い、ベニマル達もそれに賛同するように笑い頷く。
ギィは仕方ねえなあと言った顔をし、ディアブロ達は口端に軽い笑みを浮かべていた。
そんな中、カヤが真剣な顔付で一番伝えねばならない事を口にする。
「何で、あたしが弟子を取らない、ネコマタを倒したらテンペストを出て行くと言った事なんだけど……」
そこで、一度口を
しかし、意を決して話を続ける。
「あたしとモモカの寿命は、尽きかけてるんだ」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
その言葉にリムル達は絶句したが、ディアブロ達だけは感づいていたのか驚きもせずにいた。
ディアブロ達は魂の色を見分ける事が出来、カヤとモモカの魂が徐々に色を失いつつあるのを見抜いていたのだ。
「あたしとモモカは、本当ならこの世界では存在出来ないんだ。絶対にね」
カヤの言葉にリムルが問うて来た。
「精神生命体に、寿命があるのもおかしな話しなんだが。なあ、どうやってこちらに、存在してるんだ?」
「モモカの考案した、〝鏡霊・魂魄縛〟と言う呪符術で強制的に存在を固定してるんだよ、この世界にね。あたしはモモカを、モモカはあたしを、常に認識し続けてるんだ――存在が消えないようにね」
「……カヤ。その呪符術の起動に、お前達の生命エネルギーを使ってるんだな?」
「うん。日々あたし達の命を削りながら、存在をこちら側に固定し続けてるんだよ。だから、弟子を取っても、弟子の成長を見届けられないし……眷属にしても、あたし達は眷属を置いて、いずれ存在が消滅してしまうん、だ……だから……」
カヤはそこまで言うと唇を噛み両拳を握りしめ、俯いてしまう。
「ここには居るけど、どこにも居ない、けどそこに居る、か……。俺の元居た世界のお伽話に出てくる猫みたいだな。不確定存在みたいなものか。それを確定存在にする術式、生命エネルギーを消費するわけだ。膨大なエネルギーを用いる術式になるだろうからな。なあ、その術式はリスクがあるのか?」
その言葉にモモカが答える。
「この術式は自分達の魂を呪いで縛り繋げ、存在を認識し続ける物。元が呪いであり、禁呪を元に考案したものだから、当然リスクもあるわ。わたし達の魂の完全消滅、それに連なってわたし達に関わった者から、わたし達に関わった記憶を完全消去――わたしとカヤの完全なる無よ」
モモカの言った言葉にシュナが着物の袂に入れた両手で口元を覆い、唇が微かに震えていた。
シオンは目を伏せたまま静かに息を吐き、目を開けると天井に視線を向けた。
「そうじゃったのですな。あの時、弟子を取ってもいいのではと申した事、済まぬことをした」
ハクロウはモモカに深々と頭を下げあの時の事を謝罪するも、モモカは首を横に振り言葉を返した。
「いいえ、ハクロウさん。あの言葉は、わたし達が弟子を取ると言う事に対して、考えるきっかけを与えてくれた言葉でもあるんですよ。どうか、気に病まないでください、ハクロウさん」
その言葉にハクロウは顔を上げ、柔らかくモモカに笑みを返す。
鼻をぐすぐすいわせていたラミリスが、目に溢れんばかりの涙を溜めてモモカの前に飛んで来る。
「これは、わたしとカヤの決めた事であるから……無になる覚悟は、もう出来てるわ」
目の前に来たラミリスにモモカは静かに言うと、ラミリスが声を張り上げる。
「なんで、諦めるのよさ! 何か、何か打開策があるはずよ! だから、消えないで! 何か、何か、何か、手がある……そんな覚悟なんて、捨ててしまえばいいのよさ!」
ラミリスはモモカの胸に飛び込み、両手でポカポカとモモカの胸を叩きながら泣き崩れ、そんなラミリスをモモカはそっと両手で抱き包み、「ありがとう」と優しく言った。
重く垂れこめる空気の中、リムルはモモカに尋ねる。
「モモカ。本当に生き残る術はないのか? あと、どの位持つんだ?」
「ないわ。呪いは代償の大きさに比例して己に返ってくるわ。わたしが掛けた呪い、存在が消えないと言う呪い、その代償は必ず返ってくるの。わたし達の命は……残り半年が精々でしょうね。それまでにネコマタを倒さないと、テンペストが滅ぶ未来が確定してしま……うあっ……あぁ……」
「おい? モモカ!?」
いきなりモモカの目が猫目になり金色に染まると、髪と尻尾の毛が灰色に輝き始め何かを見てるように両手を伸ばし、無数の光の玉がモモカを囲み、何かを呟き始めていく。
避◎◆……
★界が……
宇▽が……
わたし達の▽☆◎を……
そ◎■▽のじ◆☆★◎を……
これで……
リ……ム……ル……
そこでモモカを囲んでいた光の玉が一斉に弾け霧散していった。
髪の色も目も元に戻り、ガクッと両膝を床に落とし、モモカは両手で体を支えた。
シオンがモモカに駆け寄り体を支え起こし、リムルが先程の現象に付いて尋ねた。
「大丈夫か? 何が起こったんだ?」
「夢見というか……白昼夢にも似た予知……」
「何を見たんだ?」
静かに聞き返すリムルにモモカは静かに答えた。
「ちょうど半年後にオトワが、世界に何か仕掛けて来るわ」
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
「それで、何が起こるんだ?」
「オトワの術に、わたしとカヤが対抗してる所が見えたわ」
左手で顔を押さえながら、断片的に見た予知映像を繋ぎ合わせていくも、それはモモカの知らない未知の膨大な情報量で、今すぐには説明できなく、分かる範囲で話していく。
「何らかの、巨大な術式で世界を覆うオトワが見えたの。でも、その術の正体はわからない。他にも幾つも未来映像を見たのだけど……どれもが漠然として説明がつかないし、わたしの知らない知識というか、ちょっと説明できないわ。ごめんなさい」
「それ、『思念伝達』で見せられないか?」
「ちょっと待ってね……!? どうして……」
「どうした?」
「先程の未来映像に、ロックが掛かったわ『ヤエ姉さん。起きてたのね』」
《ええ。今見た未来予知の事は、それ以上話しては駄目。何がきっかけで未来の時間軸が変わるかわからない。だから、もう話しては駄目》
『わかったわ、ヤエ姉さん』
《ヤエでいいわよ。もう私は〝
『姉さん。わかったわ、ヤエ』
いつの間にか自閉モードを解除していたヤエが、流調に語り掛けて来た。
今ままでネコマタノ思念体を封印するのに能力の九割を使っていて、その思念体もカヤの〝魔核〟から抜きとらてしまったので全能力をフルに使えるようになり、言葉も今ままでのたどたどしさが無くなっていたのだ。
何か考え込むような仕草のモモカに、リムルが言葉を続けていく。
「そうか。まあ、この世界に何かを仕掛けて来るのがわかったんだ。それだけでも、いいじゃないか。対策も考えられるしな。それと、モモカ。お前達が掛けた呪いの代償を何とかする手立ては、俺も考えてみるから、諦めるなよ。いいな」
「ええ……」
モモカは何でリムル達はこんなに優しいんだろう、そう感じ思い――リムル達の優しさに触れたモモカの胸が小さくトクンと鳴った。
それはカヤも同じで、テンペストに来てからの二人の心の変化がここに来て大きく表れ、ヤエもそれを感じ取っていた。
『『『今度こそ、ネコマタを滅す!』』』
姿は違えど、千年以上の歳月を得て三姉妹はここテンペストにて揃い、ネコマタを倒すべく新たなる決意を心に秘める。
そこへ。
「おや? 目覚める見たいですよ」
おもむろにディアブロが、黒繭化したラコルに視線を向ける。
ピシリと上部に亀裂が入っていき、それが徐々に足元へと広がっていく。
「カヤ、モモカ。あの時にも説明したけど、記憶の保存がどこまでされてるかわからない。最悪、お前達との記憶は無いかも知れない――」
「いいよ、リムル。ラコルが生きててくれさえすれば。あたしは、それでいい」
「ええ。蘇生して、ダコラとラナとの記憶さえ無事なら、構わないわ」
ダコラとラナが心配そうに見守る後ろに来ると、ダコラとラナはカヤとモモカの背中を軽く押し、自分達の間に二人を入れる。
完全に割れた黒繭が淡い光を発しながら、紡がれた糸が崩れる様にふわりふわりと溶ける様に消えて行った。
黒繭に包まれていたラコルの体が完全に露出し、六歳の時の体が成長しており、十二、三歳くらいの体付きになっていた。
その体は何も身に付けていなく、素裸であった。
グリッとカヤが首を後ろに向けて、口端を上げ牙を覗かせて怒鳴る。
「野郎どもはこっち、みんな!! 後ろ向け!!」
自分達の裸は見られても何とも思わないカヤとモモカだが、流石にラコルの裸は見るのを許さなかった。
シュナがにこにことリムル、ベニマル達を見ていて、一部の者は何故か冷たい汗がぽたりと流れ落ちていて、いきなり怒鳴り上げたカヤの声に、リムルを含む男達は一斉に後ろを向いた。
ギィとディアブロだけは、「ほほう。これが、カヤの眷属ですか」、「ん? これは新種か?」など口にして見ていたものだから、カヤが「お前ら、いい加減に後ろ向けよな。殴っていいか?」と言い始めて、リムルに「お前らいいから、後ろ向け!」と言われ、ディアブロとギィはしぶしぶ後ろを向く。
後ろを向いたままギィが。
「女になれば、観察してもいいんだろ? 悪魔族の〝
そう言うも、モモカが。
「ギィ、駄目よ。わたし達の眷属だから、遠慮して」
冷ややかに返すと。
「私達が、眷属の裸に興味があるとでも?」
とディアブロが言い。
「とりあえず、ディアブロおじちゃんは、黙ろうね」
そこへ、カヤが返す。
「殺しますよ? カヤ」
カヤの言葉に返しながら、ディアブロの目が険しくなる。
「やってみろ、ディアブロ、お・じ・ち・ゃ・ん」
と、カヤが更に返したものだから、一触即発の状態に陥るとみられたが、リムルが「お前ら、いい加減にしろ!!」と怒り、それはあっけなく幕を閉じた。
そうしてる内にラコルの瞼がピクピクと動き、目を開ける。
ぼんやりとした視界に、ダコラとラナの顔が目に入り次にカヤとモモカの顔が目に入る。
ゆっくりと上半身を起こし、自分の身体を見つめていて「裸だ」と呟くと、両の手を開いたり握ったりして手の感触を確かめていた。
「よかった……ラコル」
「お帰り、ラコル」
涙をポロポロと流しながらラナはラコルを抱きしめ、ダコラもラナと一緒にラコルを抱きしめていく。
「た、ただいま。パパ、ママ」
しばらく親子三人で抱き合いながら言葉を交わし、ラコルの無事を喜ぶ。
それを見ていたカヤとモモカは、ラコルがダコラとラナの事を覚えていて良かったと安堵していた。
ラナが「ラコル、あなたを蘇生してくれた、カヤ様とモモカ様よ」と言うと、ラコルは不思議そうな顔をして言った。
「お姉ちゃん達が、助けてくれたの? ありがとうございます」
ペコリと頭を下げてお礼を言うラコルの姿に二人は、自分達と出会った頃の記憶だけが失われているのを見て肩を落とすも、精一杯の笑顔を見せる。
それを聞いたリムル達も一応に笑顔を浮かべていたが、どこか遣る瀬無い気持ちに襲われていた。
ディアブロ達だけは、〝
ラコルの無事覚醒を見届けたカヤとモモカは、「じゃあ、今は親子三人で」と立ち去ろうとした時。
プッ
クスクス
クククッ
「ごめんなさい。カヤお姉ちゃん、モモカお姉ちゃん。ちゃんと、記憶は――」
「「ばかたれ!!」」
ラコルがいたずらで記憶が無い振りから、二人の名前を呼んだら。
ガバッとカヤがラコルを抱きしめ、モモカもラコルを横からカヤごと抱きしめていた。
「よかった……あんたが、無事蘇生出来て本当によかった」
「ラコル……よかった……記憶も残ってたのね」
「く、くるしいよ、カヤお姉ちゃん、モモカお姉ちゃん」
「ごめん、ごめんね、あんたの気持ちは分かってたのに……ごめん、ね」
「アタしこそ、ごめんなさい。カヤお姉ちゃんはアタしが弟子になっても、すぐに一人になって寂しい思いをしないようにと、気遣ってくれてたんだもの。だから、アタしも我が儘言ってごめんなさい」
「我が儘じゃない、あたしがもっと考えてればよかったんだ。あんたはあたしの弟子で、眷属だ」
「ええ。最初の、わたしとカヤの眷属よ」
「えへへー。嬉しい! 弟子になれて、眷属だもの。アタしの夢が叶ったもん!」
「そうだよ。あんたは、あんたは、あたしの弟子だ」
「そうよ、わたし達の弟子で眷属よ。ラコル」
カヤとモモカは嬉しさと安堵から、頬を伝ってポロポロ流れる涙に気付かずにラコルの覚醒を心から喜んだ。
「泣いてるの? カヤお姉ちゃん、モモカお姉ちゃん」
「いや、嬉しいんだよ……嬉しいんだけど、何で涙がでるんだろうね」
「そうよ嬉しいの。嬉しいのに涙が、止まらないのよ」
「涙はね、嬉しくても流れる時あるんだよ。カヤお姉ちゃん、モモカお姉ちゃん。寝てる時ね、ずっと子守唄を唄ってくれてたもう一人のお姉ちゃんがいたよ。いっぱいお話も聞かせてくれて、ネコマタの事も聞いたの。お姉ちゃん達の終わりが近い事も。だから、アタしは眷属としてお姉ちゃん達の後を継ぎ、闇夜影千流をこの世界に残していくと決めたの――」
「「ラコル!」」
二人は更にギュッとラコルを抱きしめて、ラコルが「く、く、く、る」と声を上げ始め、慌ててシオンが止めに入っていた。
シュナがラコルの体格に合わせた小袖を持って来て、手早く着せていく。
カヤとモモカ、そして眷属であり弟子になったラコル。
そんな三人をダコラとラナは優しく見つめ、流れ落ちる涙を拭くラナを、ダコラがそっと抱き寄せる。
ネコマタが世界に破滅をもたらす日まで、あと半年
カヤとモモカの最後の戦い
半年と言う短い期間での、ラコルの修行が始まっていく
そして、イリアとメイムは
その答えも、カヤとモモカは出す事となる
六十九話を読んで頂き、ありがとうございます!
次回の更新も読んで頂けたら幸いです。