家に帰った夏夜達も、母からお猪口を貰い飲もうとした瞬間、『ダメ、ノンジャ、ダメ、シヌ』夏夜の頭の中で小さな子供の声が響き、同時に百佳のお
「!」
「これ……飲んだら駄目な物だ」
「どうしたの? 夏夜」
百佳の問いに答えず、父と母に矢継ぎ早に問う。
「
二人は夏夜の真剣な問いに戸惑いつつ、飲んだと答えると夏夜は横にあった壁を殴りつけ、殺意剥き出しに言葉を吐く。
「これ、たぶん、飲んだら、死ぬ! 成友の差し金だ!」
「「「なっ!!」」」
そこへ小梅が飛び込んできた。
「百佳! 夏夜! この酒飲んだか!?」
二人とも飲んでないと答えるやいなや。
「
「え!? ……うぁあああああああ、あたしのせいだ。あいつら、あたしごとこの里潰す気だったんだ。くそぉおおおおおお」
叫び飛び出そうとするのを百佳が必死に止め、小梅は
「やっぱり、あたしを殺せばよかったんだ! 殺して首をお館様に持っていけばよかったんだ! あたし――」
ボゴッと夏夜の頭を殴る音がして百佳が叫ぶ。
「おちつけ! 馬鹿夏夜! 今やることはなんだ!? 坂上の軍が恐らくもう近くに来てる。 まず赤子と無事な者を逃がすことを考えなさい!!」
百佳の叱咤に幾分か落ち着きを取り戻した夏夜は、母様のとこに行きしがみ付き、ごめんなさい、ごめんなさいと何度も謝った。
「いいのよ、夏夜。私たちは
夏夜の頭を撫でつつ、言葉を続ける。
「あなたは百佳と無事な者を連れて、お逃げなさい。頼むわね、夏夜」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、あたしも戦う! あいつら皆殺しにしてやる!」
聞き分けのない事を言うなと夏夜をなだめ、父様が口を開く。
「百佳、夏夜と無事な者を頼むぞ。後のことはわしらにまかせよ」
「父様それは聞けませんよ。鼻から血が出始めていますよ。毒が回って来て遠からず酒を飲んだ者は動けなくなりましょう」
と、父の鼻を指しながら百佳は言う。
とりあえず
あちこちで酒を飲み過ぎたものから胸を押さえ、黒みがかった血を吐き倒れていき、そして抵抗力の弱い者から死んでいく。
そして長の所では小梅が毒の説明をしていた。
「小梅、解毒剤は調合できないか?」
「無理だ。みんな知ってる通り、これは作った者しか解毒剤は作れねぇ」
「小梅! てめぇ、毒を見抜いたんだろうが、できねぇのかよ?」
「見抜けても、こんな特殊な毒は製法がわからねぇし、どんな毒使ってるかで解毒剤の調合は変わるんだ! 恐らく、この毒は
「蟲毒……だと。じゃあもう、助からねぇのかよ。くそが、だからさっさと夏夜を殺しておけば良かったんだよ。だか――!?」
そう言いかけて男は急に押し黙る。
「夏夜を殺しても、この里は滅ぼされることになってたわよ」
殺せと毒づいた男が百佳の姿を見て口を閉ざし、百佳は落ち着いて
「
「うむ、わかった。すぐ取り掛かろう」
長はすぐまだ動けるものに指示を出し、迎え撃つ用意もするように皆に伝えた。
「小梅、あなたは、無事な者を連れてすぐに里を抜けて」
「悪いな、それはできねぇわ、百佳」
「だめよ! 行って、手練れが護衛しないと逃げ切れるかどうか、わからないのよ!」
「見ろよ、運よく喜一が酒飲んでなかったみたいだぜ」
喜一は無類の酒嫌いで飲むのが嫌で隠れており、あと
里の周囲を探ってた太平が帰ってきて、長に現状を報告した。
「里は既に取り囲まれつつあります。遠からず里に攻め入って来るでしょう」
毒の痛みで手が震えるのも構わず、長に告げる。
夏夜の事を口汚く罵り、恨み事を言う者も最後は腹を括り、それぞれ武器を手にする。
「太平……ごめんなさい」
百佳は太平を抱きしめて、言葉を漏らす。
「いいんだよ、百佳。俺達にとって大事な妹だろ? 百佳を助けに行った大事な妹を誰が責められると言うんだ。そうだろう? 百佳」
百佳は返事の代わりにそっと、唇を重ねた。毒の影響があるのを危惧し太平は遠ざけようとしたが百佳は構わず口付けを続けた。
皆の掛け声を合図に意を決したかのように唇を放し、最後の言葉を交わす。
「「共に最後まで、この命を燃やし尽くすまで」」
そして二人は戦いの場に急ぐ。
その頃、玄斎は一人稽古場で正座し、来たるべき戦いに備えていた。
「ふむ、この体、どこまで持つかのう。最後に皆伝を超える極伝を夏夜に与えることができて、師匠としては本望じゃわい。これぞ師匠冥利に尽きると言うものじゃな。ふははは」
里が攻められるとわかってても、動じることはない玄斎。
「後は、この体動かなくなるまで、斬って斬って斬り捲ってくれようぞ。そして……」
何かを決心したかのように瞼を、閉じる。
百佳は家に帰り事の顛末を話し「父様。母様。今まで、ありがとうございました」と正座してる二人の前で、正座したまま深々と頭を下げ、短い別れの言葉を告げた。
父、母は、わたしと夏夜も呼び一緒に抱きしめ「「あなた達をとても愛してた」」とだけ言葉を残し家を後にした。
里の動ける者達が走り、表入り口と裏入り口に集まる。里の周りは丸太の壁で周囲を囲んでおり入り口はこの二つのみである。
坂上の軍は周りを囲むように兵を配置していき、最初に火矢を放ち始め火矢の雨が降り注ぎ家々を燃やしていく。
まず表入り口、裏入り口に各百人ずつの足軽兵が、突入してきた。
「夏夜、来たわよ」
百佳が息を切らせながら戻って来た。
(お願い。私の中にいる、もう一人のあたし? 力が欲しいの)
《チカラヲカシテ?、モウイイノ?、ウン、ソウ、イマダケハ、アタシノ、テヲトッテ、ダイジョウブ、ネ、サア、イコウ》
「夏夜?」
訝し気に夏夜の名前を呼ぶ百佳。
「……うん、わかった」
夏夜が何かぶつぶつと呟いて、わかったと言ったとたんに、夏夜を纏う殺気が人外の者ともいえる気に変貌する。
「え!?」
百佳もそれに反応した。
草原を舞う風のように、広がる夏夜の気に里の誰もが一瞬体を、ビクッと震わせた。
静かに立つ夏夜、すべての
そんな夏夜を、百佳は躊躇もせずにギュッと抱きしめる。
「百佳、いこう!」
「夏夜……うん、そうね、いこう!」
そう言い、その場から二人は駆けていく。
里の往来の大通りに面する十字路で、二人は別れ夏夜は表入り口へ、百佳は裏入り口へと疾駆する。
戦いが始まる――表入り口での攻防戦、百の足軽兵に対し乱破ノ者二十数人。
覚悟を決めた乱破ノ者達は凄まじく、悪鬼羅刹が如く己が手にした武器を振るう。
槍に刺され貫かれても、相手の喉笛に噛みつき食い千切る者、幾人者の槍に串刺しになりながら、爆炎符十枚連爆で自分
尽きかけの命なれど、修羅の集団と化した、
遥かに数で圧倒してるのに、足軽兵達は言い知れぬ恐怖を感じていた。
そこへ、夏夜が疾駆しながら突っ込んで来る。
数人の兵集団の真ん中で、いきなり刀を抜き剣閃が四つ光り鍔鳴りの音が響くと、血の飛沫が柱のように四つ立ち、首が落ちていく。
一瞬で四人がやられ驚いた兵の動きが止まった所を、抜き様の逆袈裟斬り、横に薙ぎ返す刀で喉を刺し貫く、これで残りの三人を斬り捨てた。
〝繋ぎ技 十字紙切り〟
殺気とは違う異様な気を放ちながら次々と斬り捨て、築かれていく血山と死体。
たった一人の少女に、蹂躙されていく足軽兵達の断末魔と怒号が木霊する。
「くそ! なんだ、このガキは――」
「くるなー 化け物娘だ! なんなんだ、こいつは」
「鉄砲隊を、呼べー! ぎゃわあああああ 」
「俺の、俺の、腕がない……げふっ」
夏夜が縦横無尽に駆け、刃を振るうたびに築かれていく屍の山。
「駄目だ、早すぎる。固まるな、固まるとやられ……」
「囲め! 囲んで槍で、あああああああ」
夏夜の、あまりにも素早い動きに翻弄され、足軽兵達は混乱の淵にいた。
そこへ、新たな突入してきた兵百に、鉄砲隊がいた。前衛の兵が合図ともにさっと後方へ引いていき、同時に二十の火縄銃が轟音を響かせた。
撃たれ倒れていく、乱破ノ者達。
夏夜は「奥へ!」と残ってる仲間に叫び、まだ火の移ってない家々が並ぶ所へ駆けていく。
裏入り口は百佳達が、激戦を繰り広げていた。
里の者達は皆、一時的に身体能力を底上げする、秘薬、強心丸を服用していた。
この秘薬は副作用が激しく、本当の意味でわが身が最後の時に使う、自決用とも言える秘薬だったが、毒におかされた体を動かす為に効果が切れるたびに使い続ける、命尽きるまで。
太平達男衆は、野太刀(刀身五尺・約百五十cm)を持ち足軽兵と壮絶な戦いを繰り広げていた。槍の猛攻を躱し振るわれる野太刀に、槍兵の首が飛び胴が切断され、そこへ百佳の爆炎符が飛んでくる。
あまりの猛攻に早々と鉄砲隊を投入してきたのを百佳は見ると、〝認識阻害〟の呪符を使い鉄砲隊二十人の前まで、駆け行く。
呪符二十枚を放ち短拍手一回、「爆ぜろ! 二十連爆」と言うや否や鉄砲隊達の前で爆炎が上がり、鉄砲隊二十人は炎に包まれ、悲鳴を上げながら地面を転げ回った。
更に弓隊三十が来て百佳に矢を射る、それを側転から連続バク転で躱しつつ、後方宙返りしながら認識阻害の呪符を展開して、そのまま太平達のとこへ引き、奥へ引こうと促し生き残った者を連れ撤退していった。
夏夜達が、家々が並ぶ通りへ来るといきなり先頭を走ってた二人が、家の影から出て来た者にいきなり斬られ絶命した。
夏夜は後ろにいる数名に先に行けと言い、そこに残った。
鎧を着けてない武士がいる……夏夜はすぐこれは達人だと判断し、左親指で打刀の鍔を押し鯉口を切り、出てきた武士と対峙する。
武士が夏夜に向かって、口を開く。
「お主が、坂上殿が言ってた抜刀術を使う娘か?」
「そうだよ」
「我は
「闇夜影千流、極伝。夏夜」
「極伝だと!? 笑止! 小娘の分際で!」
武士の言葉を意に介せず、夏夜は言う。
「きなよ。そうしたら、わかるよ」
夏夜はそう言いつつ、鞘に左手をかけたまま鞘を少し前に出す。
斎藤は刀を抜き八相の構えでじりじりと、間合いを探る。
「なんだ、こ奴……気が読めぬ……」
明らかに異様な気を放つ夏夜に、冷や汗が頬を伝い一滴滴り落ちた。
「きぇえええええ」
気合一閃斎藤が仕掛けるが二撃共、紙一重で躱され、しかも夏夜はまだ抜いてさえいなかった。
「殺意でもない……この気はなんなんだ。人外の者とでも言うか」
「そうかもね。次は、抜くよ」
斎藤は間合いを詰めつていき、夏夜は後ろに下がりながらピタッと止まると右足を前に出し折りながら、左足を後ろに伸ばしながら、膝を地面すれすれにつけ左足の裏を家の軒下を支える丸太に、ピタッとつけた。
斎藤は頭の中で幾つもの太刀筋の予測を試みたが、そのどれもが途中で掻き消えたように消え、まったく太刀筋が読めない状態に困惑していた。
(ありえぬ……如何な達人でも、完全に太刀筋を隠すことはできぬ……隠す、否、こ奴のは何か別の気で隠しておる)
そう結論付けると八相から霞の構えに変え、得意の突き技を放とうとする。
刹那――夏夜は左足で丸太を蹴り、踏切に使われた丸太が折れ弾け飛ぶ。
突きを放とうとした斎藤の前に、疾風の如く飛び込み逆袈裟に薙いだ。
刀を持った両腕は宙に舞い、右脇腹から左肩に向けて斬り裂かれ血が吹き上がる。
いつ斬られたかも分からず斎藤は「ば……かな、みえ……ぬ」と言いながら倒れゆく。
「あたしを、殺すならこっち側にこないとね。ただの殺意だけじゃ、むりだよ」
ひゅんと風を切るように刀身を右に振り、血振りを済ませると鞘に納めつつ 絶命した斎藤に技名を告げた。
足軽兵達の向かってくる足音が聞こえ、夏夜は足音のほうへ駆けていく。
(
気配を消し、今の戦いを一部始終見ていた影が呟く。
ここまで、読んで頂き本当にありがとうございます!
引き続き読んで頂ければ幸いです!