転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました! 七十一話です。

 ※作中使用している特殊文字フォントは、C6N2様が作った自作フォントを使用しています。




七十一話 傭兵猫(前編

 

 海を越えた北の果ての大陸。

 

 

 雪が降る極寒の土地で、様々な鉱石が取れる山間に連なる国、ヴァサルティス国。

 同じくその土地にある大国、ハルモア王国。

 

 

 地図上では隣に位置するハルモア王国だが、鉱石が取れる山間部はヴァサルティス国が所有しており、その取れる豊富な鉱石を巡り、幾度となく衝突を繰り返して来た両国。

 

 大国ハルモア王国は、ヴァサルティス国に対して許せない事案があった。

 

 ハルモア王国の軍四十五万。

 一方、ヴァサルティス軍は十二万に傭兵団二万。

 

 ヴァサルティス国は少し変わった国であり、傭兵には魔物や獣人、亜人、など種族を問わず雇い入れ、鉱山の仕事にも同じように雇い入れていた。

 

 過酷な鉱石堀は、屈強な体を持つ獣人や亜人、魔物などが重宝されテンペスト程ではないが、それなりに上手くやっている稀有な国でもあった。

 

 人類こそがこの世界を統べる者と掲げるハルモア王国は、そんなヴァサルティス国が我が国の脅威となり得る者を使役していると、再三魔物達の雇用を止めるよう抗議していたがヴァサルティス国はそれを受け入れず、ついにハルモア王国は宣戦を布告したのであった。

 

 建前はそれだが、ヴァサルティス国の鉱山は特に上質な金鉱石が取れる為、ハルモア王国は何としてもその鉱山を手中に納めたく、隣国に住み着いた魔物討伐と言う建前の元に雪の少ない季節を狙って大規模な侵攻を始めたのだ。

 

 圧倒的なハルモア王国の軍に対して、ヴァサルティス国は山間部に位置する地形を生かし、三つのルートから成るヴァサルティス国へ続く街道に築かれた砦に陣取り、軍を三つに分け抵抗していた。 

 

 

 カヤとモモカは、ヴァサルティス国に傭兵として第三砦に配属されていた。

 

 ハルモア王国の侵攻が始まって九日目。

 

 ちらちらと降る雪の中、ハルモア王国の攻撃が休まった合間に、騎士団と雇われた傭兵達は食事を兼ねた小休止を取っていた。

 

 補給部隊の一団がやって来て、大小様々な焚火の所で暖を取る騎士団の団員達や傭兵の者達に食事を取りに来るようにと声を上げる。

 

 小さい焚火で暖を取っていた二人は、近くにいる傭兵達が「飯だ! 飯だー」と口々に言いながら立つのを見て、その後に続く。

 

 木の椀にシチューに似た肉野菜を煮込んだ物が入れられ、黒パンを受け取るとカヤとモモカは焚火の所へ戻る 

 

 白いフード付きのマントを着ていてフードを降ろすと、カヤは黒パンをシチューに浸して(かじ)りつき「このパン、いつ食っても硬いなと」ぼやきながら食べていく。

 

 モモカは小刀で黒パンをスライスして食べていた。

 

 仲間と食べながら喋る傭兵達の声が、あちこちから聞こえてくる。

 

「おい、第十八遊撃隊の奴等、全滅したらしいぞ」

「第二十五、三十三、三十六も全滅したらしい」

「どだい百人編成の遊撃隊で、奇襲攪乱って無理があるんだよ……」

 

 人狼(ライカンスロープ)の男が横にいる人間の男に、スプーンを振りながら言葉を吐き捨てていた。 

 

「ここ、第三砦は険しい谷に挟まれた所だ。守るには容易いが、攻めるにはちと厄介だからな。正面から攻めるしかないが、敵は十五万の兵にこっちはたかが三万弱の兵……。じわじわと攻められると、ここの陥落も時間の問題だな」

「ちげぇねえ。傭兵の俺達に遊撃隊やらせて、騎士団の連中は砦の中でぬくぬくしてやがるからなあ」

「文句言うなら砦の中での防衛を、希望すればいいだろうが。てめえは遊撃隊の方が金になるから遊撃隊を希望したんだろう?  少なくとも騎士団の奴らは強制はしていないぞ。遊撃隊の指揮官は、騎士団員がしているしな」

「ああ! お前喧嘩売ってるのか!? ぶっ殺すぞ!」

 

 日を追うごとに居なくなる仲間や部隊、覚悟はしていても疲労と焦燥感から文句を垂れ流していく傭兵達。

 

 そこへ、外気よりも底冷えのする声が聞こえて来た。

 

「うっせえなぁ。喧嘩するなら向こうでやれよ。なんならその喧嘩、あたしが買おうか?」

 

 食事を食べ終わったカヤがフードを被りながら静かに言い放ち、突き刺すような目で声を荒げた男を睨む。

 

 漏れ出た微かな妖気に周りにいる傭兵達の食事を取る手が止まり、皆固まったようにカヤを凝視していた。

 

「第四遊撃隊、の亜人……」

 

 声を荒げた豹種獣人の男は震えた声で言うと、手に持ったスプーンをポトリと地面に落とす。

 

 カヤとモモカがいる第四遊撃隊。

 

 一桁番号遊撃隊の中で、唯一残ってる部隊。

 

 戦死した傭兵の補充を繰り返しながら全滅は免れている、第4遊撃隊。

 そして、もっとも戦果を上げている部隊でもあった。

 

 その中で斬り込み隊長的なカヤの凄まじい剣撃に、一緒にいる傭兵達ですら恐怖を覚える程であった。

 

 更に、モモカの敵指揮官暗殺、攻撃系呪符なども合わさり、敵軍に恐怖の対象として認識され始めていた。

 

 敵前線部隊の指揮官はモモカが仕留めていて、そのせいでここ二日前線部隊の進攻が鈍くなっていたのだ。

 

 仲間の傭兵達ですら、その淡々と敵兵を葬っていく姿に味方で良かったと思うが、その反面、得体の知れない強さの二人に畏怖の念を抱いていた。

 

「ここを落とされたらヴァサルティス国は裏から攻められて、第一砦を攻めている敵本体に挟まれ、あっという間に瓦解するぞ。死にたくなかったら、踏ん張るんだね」

 

 そこまで言うとカヤは、両膝を抱えて顔を埋め体を休める。

 

 身を斬られるような空気がスッと穏やかな空気に変わり、固まっていた傭兵達は再び食事を取る手を動かし、黙々と食べて行った。

 

 焚火が燃える音が響く中モモカは、魔素で作った黒呪符に右人差し指で梵字とは違う、この世界の古代文字で呪文を書いていく。

 

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 書かれた呪文がポウッと淡く赤い光を発すると、呪符に刻まれ完成する。

 

 完成した呪符が百枚の束になり、それをモモカは袂の空間収納へ入れ、また次の呪符を作り始める。

 

 古代文字、それは鈴蘭が見せてくれた父ナハトの記憶にあった、この世界の古代文字。 

 

 今ではほぼ失われた古代呪符魔法をモモカは自分の呪符術と掛け合わせ、新たな呪符魔法として編み出していた。

 

 今までの呪符術と基本同じなのだが、更にこの世界に合わせ再構成最適化した呪符術。

 

 オトワ、いや、ネコマタを葬る為にモモカが考案した〝黒呪符術〟

 能力を押さえた今でもその〝黒呪符術〟は、凄まじい威力を見せていた、が。

 そこから更に威力を抑え込み、オーバーキルにならないように調節をしていた。

 

 そこへ、ヤエがカヤにある事の報告を告げる。

 

《カヤ、『狂乱之王(フレンジー)』の復元が終わりましたよ》

『ん? 早かったねぇ、よく復元できたね』

《あの究極能力(アルティメットスキル)は『解析』済みでしたので、密かにバックアップを作っておいたのですよ。そのバックアップも厳重に封印して隠匿していたので、気付かれずに済みました》

『よくやったよ、ヤエは。ほんとありがとう、ヤエ』

《いえいえ、私はカヤの力に成るものです。だから――》

『ヤエ! この間決めたよね。あたし達は三姉妹でいこうと。〝神智核(マナス)〟だろうと、自我はあるんだし、あたしのお姉ちゃんだろ? まあ、あたしの体の中に間借りさせてやってるんだけどね。うくく 』

《それを、言われると……》

『ヤエ、あんたがあたしのこと、どれだけ思ってくれてたかは痛いほどわかるよ。モモカも言ってたよね。もう何があってもあたし達姉妹は、いつも一緒だと』

《そうでした……カヤ、本当にありがとう。私はあなたの〝神智核(マナス)〟になって、本当によかった》

『あたしも、〝神智核〟がヤエでよかったよ。でさ、ネコマタが取り戻した『狂乱之王』は元々どんな権能があったの?』

《破壊と混沌を招く力です。憎悪で力を増幅するスキル。あまりにも危険な究極能力でしたので『解析』を試みたのですが、一部情報が欠落していてわからなかったのですよ》

『へ? 『狂乱之王』は『解析』出来たんだよね? それおかしくない?』

《正確に言えば、『狂乱之王』の権能だけがわからなかったのです。私が『解析』出来たのは器、究極能力の器だけを『解析』してから、ユニークスキルの器を作成して、あなたに付与したのですよ。元の不明な権能は全て凍結してましたからね。恐らく、権能の残りの情報はオトワの中にあるのでしょう。そして『狂乱之王』の真の名は――『兇羅之王(マレフィック)』なのです》

『ほえ!? きょうらんじゃなくて、きょうらのおうなの? なんかややこしいな、でもユニークスキル付与とかそんな事よく出来たねぇ』

《はい。『狂乱之王(フレンジー)』は『兇羅之王(マレフィック)』を媒体に独自進化したカヤのスキルとも言えますね。付与は、『化カシ之王(ネコダマシ)』の進化前の『化カス者』で世界の言葉を騙し、こっそりとね。うふふ》

『うふふって……ヤエ、それってさ、とんでもないことだと思うんだけど?』

《いいのですよ! 出来たものは出来たのです。それより、あなたの究極能力(アルティメットスキル)はあなた独自のものです》

『あー てことは、器だけを元にしてユニークスキルから究極能力(アルティメットスキル)に進化して、あたしの権能はあたしに生まれた、あたしだけの権能って事かな?』

《そうですね。奪われたのは元々ネコマタの『兇羅之王』ですから、カヤに生まれた権能はカヤだけの物ですし。オトワは思念体と『兇羅之王』を取り戻せた事から油断して見逃したのです。だからカヤの権能には気付かなかったのですよ。うふふふ。もっとも、私が自閉モードに入る時にカヤの権能も、隠蔽しましたからね。えっへん!》

『えぇー えっへんって、それ言うか普通……』

《え? え? こう言うのは言わないのですか? カヤがいつも見ているマンガと言うものには、よく書いてあるじゃないですか!》

『あー あれはねぇ 何と言うか、ヴェルドラ曰くバイブルでもあるんだけども。リムルが言うには、リムルが元いた世界の娯楽? みたいなもんって言ってたよ』

《娯楽って……うぅっーー。マンガにはそう書いていたのに~》

 

 頭の中でヤエとやり取りしてるカヤは、たまにちょっとズレた事を言うヤエに何か親近感を覚えると言うか、本当にあたしのお姉ちゃんだなぁとクスリと笑う。 

 

 カヤの『狂乱之王』とネコマタの『兇羅之王』、一つの究極能力の器を元に生まれた究極能力(アルティメットスキル)『狂乱之王』は『兇羅之王』が無ければ生まれなかったであろう……ネコマタの最大の誤算は、カヤに凶悪極まりない究極能力(アルティメットスキル)を与えた事かも知れない。

 

 低く垂れこめた鉛色の空が段々と薄暗くなり、長く暗い夜が訪れる。

 

 夜襲を掛ける為遊撃隊の者達は、各々戦闘の準備を始めていく。

 

 雪が浅いとはいえ、足首がすっぽり埋まる程には降り積もっていた。

 遊撃隊の者は皆カモフラージュの為、白いフード付きのマントを着ていた。

 

 カヤとモモカも焚火を消し、第4遊撃隊がいる場所へ向かう。

 

 第四遊撃隊・隊長パジェロが各班のリーダーに点呼を取るよう指示する。

 班は二十名の五つに分けられ、班長は単純に戦闘力に長けた者が隊長から指名されていた。

 

 一班から四班まで点呼の終わりを報告し、残る五班の班長モモカが点呼の終わりを告げた。

 

 闇夜に紛れ、全遊撃隊が大門の横にある小門から次々と出発して行った。

 

 モモカ達第四遊撃隊も、敵前線野営地を目指し駆けていく。

 班に配属されている魔法士が、静音の魔法を掛けて鎧や腰に下げた剣、雪を踏みしめる音を消していった。

 

 しばらく走ると幾つもの篝火(かがりび)の明かりに、ずらりと並ぶテントの列が目に入って来る。

 

 ちょうど敵兵も食事を終え、しばしの休憩を取っている所だった。

 

 遊撃隊の目的は不規則に夜襲を掛け、敵兵に眠る隙を与えず、前線にいる兵の体力、精神の消耗を招く事が目的であった。

 

 敵前線野営地には約五万の兵がおり、遊撃隊は三千の兵で夜襲を掛けていた。

 この無謀とも言える夜襲だが、不規則に襲撃が来るものだから敵兵も常に気が抜けずにいた。

 

 だが最初の前線部隊指揮官が、後方の部隊と兵を入れ替えつつ夜襲に対抗して来たのを見て、モモカが指揮官が眠るテントに忍び込み指揮官を暗殺をしたのだ。

 

 すぐに代わりの指揮官が来るも、暗殺に怯え後方から指揮を取るものだから、少しずつ前線にいる兵の士気が落ち始めていたのだが。

 

 先頭を走っていたモモカが後方のカヤ達に左手で止まれと合図をし、グッと拳を握り動くなと伝え、更に左手を開いて下に振り、しゃがめと伝える。

 

 それを見たカヤ達はすぐに動きを止め、素早く雪の積もった地面に伏せていく。

 

 匍匐前進で隊長のパジェロがモモカの横に来て、現状を尋ねる。

 

「モモカ、どうした?」

「……気配が、今までの兵士とほんの僅か違うような」

「どういうことだ?」

「しっ」

 

 パジェロの問いにモモカは口に人差し指を立て言葉を止め、小高い丘から見える野営地を探っていく。

 

 『万能感知』を『魔力感知』に毛が生えた程度まで精度を落としており、風に乗って来る敵兵の匂いや、魔法部隊の魔力を嗅ぎ取っていった。

 

 鼻をスンスンと時折慣らし、猫耳をピクピク動かしながらテントに眠る敵兵士の気配を探っていくが、そのどれもが臨戦状態の緊張感を放っていた。

 

「ちっ。やられたわね」

 

 低く吐き捨てる様に言ったモモカは、パジェロにすぐ告げる。

 

「パジェロ隊長。すぐにここから撤退を! 待ち伏せよ! 多分別動隊が、わたし達の後方に回ってるわね」 

「なっ! では他の部隊にも伝えなくては」

「ええ、急いでくださいね。しんがりと囮はわたしとカヤでやるので、包囲網が完成する前に急ぎ撤退を!」

 

 パジェロは立ち上がるとすぐに魔法兵の所に行き「待ち伏せだ!」と言い、連絡用水晶球で他の部隊にすぐに撤退をする様に告げる事を命令して、自分達も即撤退を始めた。

 

 しんがりと囮、幾度となくモモカが進言して見事部隊を生き残らせ、モモカ自身も生き残り帰還して来た事を何度も見て来た事から、パジェロは疑いもせず第4遊撃隊を率いて砦を目指し撤退を開始する。

 

 

「ダゴン副団長。ネズミが数匹掛かりましたが、残りのネズミ達が撤退を開始しました」

「ふーむ。向こうにも、鼻の利く奴がいたのだな。よし、ネズミの後方に回っている殲滅部隊隊長に伝えよ。即時殲滅を開始せよ、と!」

「はっ!」

 

 ダゴンの命令を聞い騎士団員は踵を返すと、連絡用水晶球がある所へと急ぐ。

 

 ハルモア王国騎士団の副団長ダゴン、狡猾な男でいて自分を隠すことに長けており、様々な手を使い今の地位に昇り詰めた男。

 

 前線部隊指揮官が暗殺され自分が指揮官に任命されてからは、敢えて後方でだらりだらりと指揮を取り、わざと前線部隊の兵の士気を下げさせ、相手を油断させて全遊撃隊を繰り出して来た所を殲滅する、という作戦を立てていた。

 

 そして二万の殲滅部隊が野営地から離れた所に潜み、ヴァサルティス遊撃隊が野営地に近づくのを見て、静かに包囲網を敷いていたのだ――

 兵の気配や姿を隠す大規模範囲魔法を掛けて。

 

 その魔法には二千もの魔法兵が動員されていた。

 

 カヤを先頭に第四遊撃隊は撤退をしていたが、既に退路は塞がれじわりじわりと包囲網が狭まれていった。

 

 カヤはパジェロ隊長を呼ぶと何かを告げ、パジェロは頷くとカヤの示した方向に第四遊撃隊を引きつれ駆けていった。

 

 カヤは敢えて包囲網の厚い方へ駆けだし、一際強い気を放つ者を見つけその方へ向かう。

 

 殲滅部隊隊長・ザリオス、身長は二メートル近くあり、王国騎士団の中でも勇猛果敢で知られていた。

 

 重装鎧に身を固め両手に巨大な戦斧を握り立つ姿は、見る者に恐怖を抱かせるには充分であった。

 

 既に四つの遊撃隊を血祭りに上げた戦斧からは血が滴り落ちて、足元の雪を真っ赤に染め上げていく。

 

 ザリオスは段々と近づく気配に気付き、周りの兵達に迎撃の準備をさせていく。

 

「魔法兵、迎撃準備!」

 

 三百人の魔法兵が炎系の魔法を発動させ、ザリオスの号令を待つ。

 

「いた、あいつか。隊長クラスか? デカいな。ざっと見積もって、あそこには数千人はいるか。殲滅部隊を逆に殲滅してやるかね。くくく」

 

 駆けながら魔素で作った白マントを消し、千鳥の鯉口を切ると残り千メートルを瞬歩で一気に詰め、魔力を溜め攻撃準備をしている魔法兵の集団目掛け真上にジャンプした。

 

「なに! 上だ、放てえ!」

 

 三百もの炎の固まりが真上にジャンプしたカヤに襲い掛かる。

 

 〝闇夜・刹月花〟

 

 包むように襲い来る炎撃を無数に繰り出した不可視の斬撃が、掻き消していった。

 

「馬鹿な! 三百人からなる魔法攻撃だぞ……」

 

 カヤに放たれた三百の炎撃が一瞬で掻き消されたのを見て、ザリオスは戸惑うもすぐに気を取り戻し、「下に降りるぞ! 迎撃!」と兵士に号令を飛ばす。

 

「へっ、流石隊長だねぇ。すぐに持ち直すか」

 

 魔法兵集団の真ん中に降り立ったカヤは、千鳥の柄頭前にある左手を右手にくっ付ける様に握り、魔法兵に斬りかかっていく。

 

 通常右手と左手は間を開けて握るが、闇夜影千流はこの握りが主流であった。

 

 闇夜影千流の怖さは、この両手をくっ付けて握る構えにある。

 この握りだと細かく素早い振りが出来、特に屋内や超接近戦などで猛威を振るって来たのだ。

 

 魔法の明かりに照らされた千鳥の刀身が無数に光る線の軌跡を作り、十数人の首が乱れ飛ぶ。

 

 吹き上げられた血潮の中カヤは縦横無尽に動き、あっという間に三百人の魔法兵を斬り捨てた。

 

 カヤが着地して、一分も経たない内に三百の魔法兵が斬り殺されたのを見て、他の兵士は体が硬直し、皆血に染まったカヤを凝視していた。

 

 血の垂れる千鳥を右下に振ると、刀身に付いた血糊が雪の積もった地面に赤い線を作る。 

 

「下賤な魔物風情が、高貴な我が兵達を殺す事など、断じて許しはせんぞおぉー!」

 

 巨体重装甲鎧に見合わず素早い動きで、戦斧をカヤに振り降ろすザリオス。

 

 それをトンと後ろに飛び(かわ)すカヤ。

 

 躱され地面に振り降ろされた戦斧が降り積もった雪を消し飛ばし、剥き出しになった地面を抉った。

 

「ふん。次はその小枝みたいな剣ごと、首を落としてくれるわ」

「やってみろよ」

 

 ザリオスの言葉にカヤはスーッと目を細くし、少しづつ殺気を強めていく。

 

 両手に持った戦斧をまるで木の棒みたいに軽々と振り回し、カヤに斬りかかかる。

 

 ギャギャンッとけたたましい金属音が鳴り響き、火花が飛び散り、ザリオスの斬撃を全て弾いていく。 

 

「ば、馬鹿な! 我が戦斧は〝伝説級(レジェンド)〟なのだぞ! 何故折れぬ、何故砕けぬのだ!」

 

 ザリオスは、今まで相手の剣が折れ砕けなかった事が無く、カヤの打刀が折れ砕けない事に徐々に焦り始め、絵も知れぬ恐怖がじわりじわりとザリオスを包み始める。

 

 常人では捉えられない程の速さで繰り出される、戦斧の斬撃。

 

 しかし、キィンッと澄み切った音が響くと、右手に持った戦斧の刃が横から切られたように真っ二つになり、切られ半分になった刃がドズッと鈍い音を立て地面に突き刺さる。

 

「そん、な……」

 

 信じられないと言った顔で右手の戦斧を見て、それでも左手の戦斧を振るおうとしたら、今度は戦斧の柄ごと切られ左手には切られ短くなった柄だけが握られていた。

 

 もう言葉が出ず口をパクパクさせていると、眼前に居るカヤが口端を少し上げ僅かに笑いを浮かべザリオスを見ていた。

 

「お前ら、一人も逃がさないよ」

 

 低く心臓を握りつぶすがの如く言うと、カヤからとてつもない殺気が放たれた。

 

 〝指向性殺気・妖煙(ようえん)〟、カヤは己の妖気(オーラ)を殺気と化し、この雪の平原にいる2万の殲滅部隊全兵士だけに殺気を飛ばしたのだ。

 

 カヤの凄まじい殺気に触れた兵士達は立ち所に正気を失い、皆顔を掻きむしり始め悶え苦しみ始めていった。

 

 撤退をする全遊撃隊は、いきなり動きを止め苦しみ始めた敵兵達の前を全速力で駆け抜けていく。

 

 パジェロはカヤの言った言葉が、この事かと今理解した。

 

『パジェロ隊長、しばらくしたら敵兵は動きを止めるから。それを見たら、全速力で砦を目指す事』と、これだけをパジェロ隊長に告げていたのだ。

 

 これを聞いたパジェロはすぐに全遊撃隊に連絡用水晶球で伝え、無理な戦闘は避け、逃げに徹するようにと命令を飛ばす。

 

 二万もの兵が一斉に悶え苦しむ姿はとても異様で、見るものすらにも恐怖を抱かせた。

 

「な、なんなのだこれは! 何が起こったと言うのだあああああああああっ!」

 

 理解不能な光景にザリオスは声を張り上げ、眼前に居るカヤに「何者なのだ!? お前は!」と問うと、カヤは感情の消えた言葉で答える。

 

「あたしか? あたしはな、 天災級(カタストロフ)の魔物だ」

「なっ! がっあぁぁ……」

 

 天災級(カタストロフ)、それを聞いたザリオスはあまりの恐怖と絶望に白目を剥き、口から泡を吹き失神してしまう。

 

「こんなもんか、こいつら。さーて、どうしようかねぇ」

 

 グルリと周りを見渡し、しばし思案を始める。

 

《カヤ》

『なに、ヤエ』

《あなたは、まだ人間を憎みますか?》

『うーん 嫌いだけど 好きな人間もいるしなぁ いい人間もいれば、悪い人間もいる。だから 憎しみとかないよ そもそもあいつら 勇者以外あたしの敵じゃないもの。何かしようとしたら叩き潰すだけだし。それにさ、乱破ノ者には憎しみと言った感情はないよ。その感情だけ、抜け落ちてるから。その代わり、怒りと殺意は凄まじいものがあるけどね くくく』

《クスッ。あなたらしい答えですね。カヤ、今あなたが携えてる、殺気、殺意は、まごう事無き乱破ノ者だった頃のあなたですよ》

『戦場で嗅ぐ血の匂い 死の匂い……。乱世の世だったあの頃と同じ匂いだ。懐かしい匂いだな。死と生の狭間で足掻いていた頃を 思い出すなぁ。はあぁぁ、もっと 魔素量(エネルギー)を使える術式が 欲しいなぁ』

《いいでしょう、能力制限を解除します。そうですね、SFマンガというもので見た、縮退炉と言う物を術式形態で構築してみましょうか?》

『たのむよ ヤエ』

《はい。完全なるブラックホール機関術式の作成に入ります》

《九式・闇鏡重魔力炉術式解体……成功しました》

《次に、〝黒炎核(アビスコア)〟生成。更に〝黒炎核〟をマイクロブラックホール化……成功しました》

《マイクロブラックホールの成長と蒸発を平衡状態に保ち、現状の大きさに固定する術式を構築……成功しました》

《マイクロブラックホールの安定化、保持……成功しました》

《これにより、質量を魔力に変換することが可能になりました》

《極矮小の質量を持つ魔素粒子を魔力に変換……成功しました》

《九式・闇鏡重魔力炉術式を今後、極・超魔力縮退炉術式(ハイパーマジックジェネレーター)と呼称します》

《カヤ、これで生きている限り無限に魔素量(エネルギー)を蓄え、尽きる事はありませんよ》

 

「おおぉー すげえ」 

 

 カヤが感嘆の声を上げると同時に、周辺の大気が凪いだ――。 

 瞬間、カヤを中心に余剰魔素量(エネルギー)の波動が円形状に広がって行った。

 

 激しい波動は降り積もった雪を舞い上げ、野営地に敷設されたテント群を揺らしていく。

 

 野営地のテントを揺らす強風にも似た波動に、テントにいた兵達がわらわらと出て来て、何事かと言った顔で空を見上げたり、周りを見渡したりしていた。 

 

 カヤから立ち昇る赤い魔素粒子が、青白く光る魔素粒子へと変わっていく。

 リムルみたいに『胃袋』と言った便利スキルは無く、溜め込める魔素量(エネルギー)が許容量を上回ると体から余剰魔素量(エネルギー)として排出されるのである。

 

「へえー、色も変わるんだ」

《変換した魔素粒子が百%魔素量(エネルギー)になり、新たな魔素粒子を作り出したのです》

「うん。魔力の高まりが明らかに変わったね」

《モモカにも、同じ極・超魔力縮退炉術式(ハイパーマジックジェネレーター)を付与しました。これで、魂の回廊を通じて双発での極・超魔力縮退炉術式(ハイパーマジックジェネレーター)起動が可能となります》

『またこんな制御がややこしい術式を、作ってからに。ふふ』

 

 縮退炉術式の付与を確認したモモカが『思念伝達』で、口を挟んで来た。

 

《お姉ちゃんにお任せを。私が完全制御します! カヤとモモカは戦いに専念してくれれば大丈夫!》

『そう。任せたわよ、ヤエ』

 

 モモカはそう答えると、野営地の真ん中を目指し飛んで行った。

 

 一方カヤは、以前テスタロッサから聞いた〝死の祝福(デスストリーク)〟の事を考えていた。

 

(あれと似た何か、出来ないかなぁ。破壊じゃなく、一気に命を狩り取りたい的な?)

 

 カヤの右手の平の上に、深遠の闇から呼び出された黒き炎が現われる。

 

 それを高密度にゴルフボール大に凝縮し、〝黒炎核(アビスコア)〟を作り出す。

 

 その〝黒炎核〟を口の中に入れガッと噛み潰し、言霊を言う。

 

「闇よりいづる死の囁きよ 一切の命を狩り取れ」

 

 言霊は指向性次元波動となり、二万の敵兵の魂を一瞬にして砕いた。

 

 〝死の言霊(デススピリットワード)

 

 一切の慈悲なく命だけを狩り取る闇の波動、一瞬にして命を狩り取られた兵士達は、一斉に糸の切れた操り人形見たく崩れ落ちていく。

 

 命を狩り取った二万もの魂をカヤは集めつつ、右手に集めた幾つかの魂を眺めて「お腹すいたな」と呟くと……。

 

 その魂を、おもむろに食べた。

 

「あ、意外に美味しいぃ」

 

 初めて食べた魂の味に、うっとりとした声を漏らす。

 

 するとそこへ――

 

《こら! カヤ、つまみ食いは駄目でしょ! ラコル達の更なる進化の時にいるんだから、つまみ食いは厳禁です!》

「ああ、ごめんごめん。つい、見てたらお腹すいてね。てへっ」

 

 ヤエにつまみ食いを注意されたカヤは、丁寧に残った魂を集めていく。

 

 

 そして、野営地の真ん中に、静かに降り立ったモモカ。

 

 ハルモア王国兵士達はたった一人で表れた敵国の兵士に驚くも、それが女の亜人と見るや、口々に「一人で来るとか馬鹿か?」「自殺しに来るとは、なんとも」「魔物が一匹迷い込んでるぞ、うははは」など下卑た嗤いと重なり、皆がヤレヤレと言った顔で剣や槍を構える。 

 

 モモカは両袂に手を入れたまま血も凍り付くような目で敵兵を見回し、口端が上がり死の笑みを浮かべる。

 

「さあ、()りましょうか」

 

 闇の底から響く声が、辺りに木霊(こだま)した。

 

 

 

 




 七十一話を読んで頂き、ありがとうございます!

※今回カヤが刀を両手をくっ付けて握る描写をしましたが、これは新選組の土方歳三がしていた握りと言われています。
 狭い部屋などで、細かく素早い刀の操作が出来たそうです。

 次回も呼んで頂けたら幸いです。 


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