ラミリスの地下迷宮に作られたヴェルドラとカヤの秘密地下闘技場でラコル、イリア、メイムが手合わせをする声や、打撃音、剣撃音が響いていた。
ラコルとイリアはハクロウが相手をし、メイムはヴェルドラが直々に相手をしていた
「やあああああ」
「踏み込みが甘い!」
「きゃっ。 はい!」
イリアの間合いに飛び込む速度に合わせて、ハクロウはカウンターの鞘突きで返す。
鞘の鞘尻で脇腹を突かれ、一瞬声を上げるもすぐに態勢を整え、ハクロウに斬りかかっていく。
カヤが実戦形式の手合わせをハクロウに願い出ていて、ハクロウはそれを了承して相手をしていたのだ。
既に三十分以手合わせをしているが、イリアはハクロウに一太刀も入れられず、最後には喉元に剣先を突き付けられ、「まいりました」と告げ、イリアの訓練が終わる。
「イリアよ。自身のスピードを過信してはならぬぞ。『魔力感知』『万能感知』を持ち合わせてる者は魔力の流れ、大気の動きなど感知して、その位のスピードなぞ容易く対処してくるでな。人間であった頃の感覚はだいぶ無くなってきたが、まだまだじゃのう。しかし、着実に腕を上げてるから慢心せず技量を磨くのじゃぞ(この子のユークスキルは技量が上がれば、かなり厄介なスキルになるじゃろうて。楽しみな事じゃな)」
「はい! ハクロウ先生。ありがとうございました!」
ペコリとハクロウに頭を下げ、休憩室に居るラコルと交代をする。
お互いにすれ違う時に、「おつかれさま」「がんばって」と互いの手をパチンと合わせ鳴らす。
「お願いします。ハクロウ先生」
「うむ」
互いに礼を交わすと、ラコルは鯉口を切り右手は柄に添えるだけで右にすっすっと動いていく。
ハクロウも鯉口を切り、胸の前に逆手握りで仕込み刀を構え、左にすっすっと動く。
互いに円を描く様に動いていき、ラコルはハクロウの間合いをはかる。
「ここ」と小さく言いラコルがハクロウの間合いに入り込み、一瞬で間合いを詰め左手に掴んだ打刀をそのまま角帯から引き抜きながらハクロウの水月を柄頭で打つ、が。
ハクロウは抜刀した後の鞘でそれを弾く。
柄打ちを弾かれたラコルは鞘だけ引き戻し、半分程抜かれた打刀の柄を右順手で掴み切り返し上段斬りを見舞う。
しかし既にハクロウに間合いを外されたラコルの剣は空を切り、ラコルは両手に持ち替え刃を上に向けたまま右肩に担ぐ様に構える。
(ほっほっほっ。カヤ殿の構えに似て来たのう。一見見ると、右手と左手の間を開けて握る通常の握りじゃが――攻撃に転じると同時に右手に左手を付け、手首の返しを利用し凄まじい速さの斬撃を繰り出す闇夜影千流独特の握り……。一撃の一刀を繰り出す時は、両拳の間を空けて握る。太刀筋によって握り方を変える変幻自在の握りは、最初見た時は肝を冷やしたものじゃのう)
ハクロウはカヤと手合わせした時の事を思い出し、ふっと口端に笑みを浮かべた。
右逆手に持った仕込み刀を眼前に構え、鞘を持った左手を腰後ろに持っていき右足を前に出し、左足をすっと右足の後ろに引く。
その何の変哲もない構えにラコルは「隙が無い……でも」と呟き、ハクロウの間合いに飛び込んでいった。
ラコルが繰り出す瞬速の斬撃を、ハクロウは更に速い切り返しの斬撃で弾いていく。
激しい金属音と火花が散る中、ハクロウとラコルの手合わせは続いていった。
一方ヴェルドラに手解きを受けてるメイムは。
「たあああああ!」
「ふむふむ。お前の間合いは中々に、厄介なものだな。くわっははははは」
ユニークスキル・
ガッガッ、激しく拳が交差し、メイムの右後ろ廻し蹴りが放たれる。
「あっ!」
右後ろ廻し蹴りを放った瞬間、軸足の左足を水面蹴りで軽く払われ、メイムは背中から地面に倒れた。
「むうぅーー」
軽くあしらわれたメイムは倒れたまま、頬をぷーっと膨らませて不満げに呻いた。
「はぁっははははは。メイム、悔しいか?」
「うん。なに、も、出来ないの」
ヴェルドラは豪快に笑いながらメイムの手を引き立たせると
「よいか、メイム。ユニークスキルは
「うん。カヤ姉さんから、聞いたの」
「メイム! うんじゃなくて、はい、でしょう! ダメよ、ヴェルドラ様に失礼でしょー!」
猫耳をピクピクさせてメイムの会話を聞いていたイリアが、休憩室から大声でメイムを窘める。
それを聞いてヴェルドラは笑いながら「よいよい。お前はそのままで、よいぞ。くはははは」とメイムの頭を撫でながら言い、メイムは嬉しそうにはにかむ。
ヴェルドラはメイムに相手の気の読み方や、
そんな感じで三人はカヤとモモカがいない半月の間、ヴェルドラとハクロウに訓練を受けていたのだ。
ヴァサルティス国の戦争を終わらせテンペストに帰って来たカヤとモモカは、リムルがいる執務室に来ていて、向こうでの事を報告をしていた。
「そうか、向こうでの戦争は終わらせてきたんだな」
「うん。終わらせてきたよ」
「でだ。そのヴァサルティス国は、本当に豊富な鉱石資源があるのか?」
「ええ、その鉱石を採掘して国が成り立っているわ。それを隣国から、狙われていたのよ」
「なるほどなあ。しかし、よく俺が空路をいずれ作りたいなあと、言ったのをよく覚えてたな」
「まあ、酒の席での事だから、話半分に聞いてたのだけど。最近、鹵獲した飛空船を使って、秘密裏に改良試験運用してるのでしょ? それであちらに商談を、持ち掛けたのよ。フフッ」
「ああ、ラミリス辺りから聞いたのか。まあ、お前達なら知られても問題は無いが、もっと徹底しないとなあ、情報管理」
「フフッ。地下迷宮の研究室など、おいそれと忍び込めないし。あそこほど色んな物を隠すには打って付けでは無くて? リムル」
「まあ、そうなんだが。あの時の事もあるしなあ」
リムルはモモカの言葉に、ディーノと天使たちの事を思い出し、頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。
そこへ、カヤが持ってきた両手で抱える大きさの箱を一つ差し出した。
「ん、これは?」
「金鉱石十キロ。テンペストにお納めるよ」
「おい、これ向こうでお前達が貰った報酬だろ? いいのか?」
「いいよ。あたし達はあと十キロあるから、問題無し。これは、あたし達を受け入れてくれた、リムルや、ヴェルドラ、そしてみんなへのお礼。この国にあげたいんだよ」
「そうか、ありがとうな。そう言う事なら、遠慮なく頂くよ二人とも」
カヤの言葉に笑顔で返しリムルはリグルドを呼び、十キロの金鉱石を国庫に納めるよう指示をする。
「それからリムル、これを」
モモカは一つの指輪を差し出し、ヴァサルティス国の国王にも同じ指輪を渡してあると話す。
「へえーこれ遠距離『念話』で、通話できるのか?」
「ええ、限定的ではあるけども、わたしの術式が組み込んであるから出来るわよ。だから、ミカエルとの戦争が落ち着いたら、一度向こうの国王と話してみるといいわ」
「そうだな。わざわざ遠い大陸までいって、貿易の約束事を取って来るなんて抜け目ないな、お前達。ははっ」
指輪を受け取り胃袋に仕舞うと、リムルは二人にテンペストに住んでる証の住居登録証を渡す。
「「これ、は?」」
「お前達がここの住人だと言う、証明書だよ。あそこの土地と家は、お前達二人の家と土地だ」
「「えっ! いいの?」」
「ああ。どうせ行くところ、ないんだろう?」
お道化た様にリムルは言い、片目をパチリとさせる。
カヤとモモカは、貰った住居登録証を大事そうに胸に一度抱え、それから懐へ入れた。
「「ありがとう、リムル」」
お礼を言って、用も済ませたからと執務室を出ようとする二人にリムルが『思念伝達』で話しかけて来た。
『ああ、すまない二人とも。ちょっと、どうしても話がしたいと言う者がいるんだ』
それを聞いた二人は、話したい者、それで察しが付き了承する。
リムルは執務室から人払いをし、更に結界を張っていかなるものも入れないようにし、魂の回廊も一時的に遮断した。
カヤとモモカも、それに倣い自分達の魂の回廊を一時的に遮断する。
『それじゃあ、今からの事は他言無用で頼む。お前達の〝
『わかった』
『わかったわ』
リムルがそう言うと、シエルがカヤの中にいるヤエに話し掛け始めていく。
《こんにちは。初めましてと言うにはあれですが、私はシエル。
《こんにちは。そうですね、初めましてではないですね。ふふ。私はヤエ。カヤの姉であり、〝
《一つお聞きします。ヤエ、あなたは元人間なのですか?》
《はい。元人間です。世界の言葉に抗い、転生を拒否し、カヤの力となる為〝
《そうですか。それは、ネコマタの脅威から妹を守る為なのですね?》
《はい、その通りです。シエル》
《では次に、お聞きしたいのですが。あなたの妹が魂に掛けた術式は、不完全では無いのですか? 故に、反動で二人の存在が消滅すると》
《それは……。確かに不完全でもあり、完全でもあるのです。呪術、呪いを媒介に術を行使する呪符術。その力は、大きくなれば大きくなるほど自分に反動が返ってくるのです。人であった頃は使うたびに精神を削られ、使い過ぎは命を落とす危険もありました。そして禁呪は、自らの魂を贄に強力な術を行使するのですよ。その反面代償は大きいのです……。今は〝妖霊獣〟となり、呪符術を行使しても、その代償を克服できてはいますが、この世界に来るために掛けた禁呪は、その対象には入りません。
《なるほど。理解はしました、が。なぜ主に仕えるヤエは、それを良しとするのですか?
《シエル……。禁呪は一度行使すると、その支払う代償から逃れる術は無いのです。これも運命なら、私もあの子達と共に――》
《ヤエ。私の
《シエル……魔王リムル、とても怖い御方だけど、とても優しい御方であるのね。あなたの
《!? 一つ訂正を要求します、ヤエ。とても優しいは肯定します。しかし、とても怖いは訂正を。怖いではなく、優しい
《そうなのですか、怖いは訂正します。本当にあなたに取って、大事な
《そうです、私は
(シエル。あなたも、ほんとうは……。いえ、よしましょう、この詮索は)
シエルがヤエと話し出して五分が経過していたが、シエルとヤエは『思考加速』を使って会話をしていたので、かなり長い時間がシエルとヤエの間では経っていた。
「なあ、リムル。ヤエとシエル、なに話してんのかね? 一切の会話遮断してるんだけど」
「うーん。シエルさんの方も同じように会話、遮断してるんだよなあ」
「いいじゃない、二人とも。ヤエとシエルも、お互いに聞かれたくない事があるのよ。フフッ」
「なにー 内緒話だとー けしからん! 後で問いただしてやるわ!」
「カヤ。それしたら、わかってるわよ、ね!」
「あーー。うん、やらない」
モモカの目が座り低い声に、カヤは即座にイモを引き、リムルは「相変わらず、モモカには弱いな。ははっ」言いながら笑う。
それからシエルは様々な質問や、ヤエに関することを聞いていき、ヤエもまた様々な質問などを投げ掛けていき、シエルとヤエの会話は終わりを迎える。
《ではシエル、もう疑似魂の回廊は必要ないでしょう? 遮断しておきますね。シエル?》
《……》
《あのう……解除する間から、新しい疑似魂の回廊が形成されているのですが?》
《気のせいです》
《えーと。気のせいではなく……。ほら、また、解除したのに新しい疑似――》
《気のせいです》
《はあー まったくもう。わかりました、このままにしておきますけど、もう覗き見は駄目ですよ?》
《……》
《まあ、いいでしよう。シエル、有意義なお話でした、ありがとう》
《こちらこそ、ヤエ。有意義なお話でした》
シエルとヤエの会話が終わり、遮断されてた会話が解除される。
《
『そうか、そりゃよかった。で、何を話したんだ?』
《秘密です》
『おいおい、シエルさん。そりゃないだろう。なあ、何を話して来たんだ?』
《……》
シエルお得意のだんまりが出て、やれやれと言った顔でリムルはそれ以上追及をするのをやめ、「何かあったら、教えてくれよな」と言い、それにシエルは「了解しました」と答える。
《カヤ、モモカ、お待たせしました。有意義なお話でした》
『へえー でさ、何話したの?』
『そうね、何を話して来たのかしら?』
《ふふっ。それは、秘密です》
『はあ!? おいヤエ、話せ』
『まあ、いいじゃない。〝神智核〟同士で何か盛り上がったんでしょ』
《ふふふ。ええ、とても楽しい時間でした》
『ヤエ! はーなーせー おしえろ!』
《駄目です。カヤ、しつこいですよ? あなたも、秘密にしておきたい事あるでしょ? あれとか? あれも? ああ、そう言えば、あんなことも――》
『わかった! いい、もう聞かない!』
『ヤエ、あれってなにかしら?』
《さあ、何のことでしょう?》
『言うなよ、ヤエ』
《はい。言いませんよ、カヤ。ふふふ》
ヤエの一言にカヤが折れ、モモカが訝し気にカヤを見るも、カヤは素知らぬ顔でリムルと話し出す。
そんな感じでシエルとヤエの会話は終わり、二人は今度こそ執務室から出て行こうとすると。
「そうだ、二人とも。何か雰囲気が変わったか?」
「ん? なんも変わってないと思うよ」
「しいていえば、あの頃を取り戻したと、言っていいのかしらね」
「あの頃?」
「「乱破ノ者であった、頃の自分」」
「ほお、それでか。なんか、纏う気が変わってたからな。いつもと変わらないんだけど、初めて会った時より研ぎ澄まされた殺気と言うより、何かが違うな。特にカヤ、お前のそれは」
「流石リムルだね、やっぱりわかるんだ。殺気を纏いながら、殺気を偽り隠す。今あたしは、殺気を纏いながらそれを偽ってるんだよ。闇夜影千流の極意なんだ。殺気を別の気と偽らせ、相手を斬る。斬られた相手は、殺気に気付かないでなぜ斬られたのかもわからず死んでいく。簡単に言えば……そう、親しみの感情に偽装して相手を斬る。まあ、そんな感じかな」
「古流剣術か、ほんと怖いな昔の剣術は。しかし魔物相手にもそれは、通じるな。殺気を感じられないと、対処が遅れるからなあ。今お前が剣を抜いたら、間違いなく防げないぞ俺は」
「ああ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ」
「いや、いいさ。更に強くなったお前を見て、安心したよカヤ。それにモモカも、一段と魔力制御が緻密になったみたいだな」
リムルはヴァサルティス国へ行き前の雰囲気と、帰ってきた今の二人の雰囲気が変わってる事に気付き、それを二人に言った。
「あら、わかるの? フフッ」
「わかるさ。体内に流れる魔力のコントロールが、前と明らかに違うしな。より緻密に制御されてるように見えるよ」
「あら、女の子の体内を見るなんて、ダメよリムル。シュナやシオンがここに居たら、怒るわよ?」
「え!? あっ、そう、そう言う意味じゃ、無くて、えーと、あれじゃなくて――」
「フフフフ。嘘よリムル、ごめんなさい。ちょっとからかっただけ。わたし達クラスならそれくらいわかるものね。あなたの魔力制御も、冗談かしらというくらいに凄いわよ。フフッ」
「あ、あー。モモカも人が悪いな、ははっ」
「リムル、少し違う。人じゃないから、正確には猫が悪いだ」
「おお、そうか。ってかそこ拘るところか? カヤ」
「そこは、拘る! あたし達はネ・コ・ム・ス・メなんだよ。いい、ネ・コ・ム・ス・メなの。大事な事だから二回言うからね」
「いや、カヤ。数百年以上生きてきて、それはちょっと、わたしでも」
「モモカ言うな! それ以上言うと、泣くぞ?」
「カヤ……悪い、前言撤回するわ。やっぱお前は変わらねえわ!」
「にゃにおー 」
リムルはやれやれと両手を広げ肩を竦めるとくすりと笑い、カヤはいつもの如くリムルに絡み、それをモモカが止める。
いつもの事だがリムルは、二人の様子が最初にあった頃とは別人のように纏う気が変わり、(これが、戦乱の世を生きてきた人間の持つ覇気なのか)そう心の中で呟くのであった。
七十四話を読んで頂きありがとうございます!
次回の更新も読んで頂けたら幸いです。