転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました七十八話です。

 ※作中で使用させて頂いてる特殊フォントは『C6N2様』が作成された特殊フォントを使用しています。

 転スラ最新刊19巻……延期の延期とは……くあああああああああ。
 早く読みたいいいいいいい!

 11月30日が待ち遠しいです……





七十八話 兇 想

 

 

 陰る夕日に照らされる、ジラとカヤとモモカ。

 

 

 そして、結界内でそれを見ているソウエイとソーカ。

 

 

 『思念伝達』でカヤは、ソウエイにヤバくなったら即ここから退避することを条件に、二人がここに留まることを許した。

 

「なあ、ジラ。どっちと遊びたいんだ?」

「二人で掛かって来ても構いませんよ」

「あー、ほんと変わらんな。あんたは」

「カヤ。わたしが遊ぶわ。いいでしょう?」

「ほいよ」

 

 ころころと薄い笑いを込めた物言いでカヤに言い、カヤがそれに即答する。

 

「モモカ一人ですか。まあ、いいでしょう。少しは強くなりましたか?」

「さあ、どうかしらね。掛かって来なさいな、ジラ」

 

 顔から笑みを消し、スーッと緩やかに間合いを詰めるモモカ。

 その動作にジラは反応が遅れて、モモカの裏拳縦拳肘打ちの三連打をいきなり喰らう。

 

 構え無しからの右裏拳で顔面打ち、そのまま即座に拳を引いて腹部に縦拳を放ち、更に迅雷鼓で追い打ちを決める。

 

 迅雷鼓による打撃の衝撃波が背中を突き抜け、背骨ごと吹き飛ばし背中に大きな穴を開けたままジラは、激しくバウンドしながら大地を抉り木々をなぎ倒し、ようやくその動きを止める。

 

「悪趣味ね。人間の体を模倣した擬態なんて」

 

 モモカはつらつらと言葉を吐きながら、ジラの側にいた。

 吹き飛んだジラの速度に合わせて、一緒に飛んで来たのである。

 

 噴き出る血をまき散らしながらジラは立ち上がると、神速再生で体を再生しモモカへと貫き手の連撃を見舞う。

 

 ガガッ! 打ち込まれる貫き手をモモカは孤拳で受け流し、そのままカウンターを見舞い手首の関節で顎を打ち、親指を内に曲げた左掌底で更に顔面を打ち、同時に内に曲げた左親指でジラの右目を潰す。

 

 接敵したモモカは左半身のまま、ジラの右足に外から差し込む様に自分の左足を入れる。

 右目を潰されても意に介せず左上段蹴りをモモカに放つが―― 

 

 ――その瞬間モモカは交差させた左足脛の部分でジラの右膝関節を押し、右膝を逆関節に極め押し折る。

 

 ベギッ、骨の折れる音と共にジラの右脚は膝関節が逆に折れ曲がり、その場に倒れ伏す。

 

 そこへ、間髪入れずにモモカが足でジラの頭を踏み砕く。 

 

 ドンと大地を揺らす程の振動と音が鳴り響き、ジラの頭が風船の如割れ潰れた。

 

 モモカの一撃一撃が〝加具突智・改〟の威力を秘めており、もはや〝火具突智・改〟は複合打撃を発生させる術式へと成り替わっていた。

 

 それと同時に〝黒呪符〟も並列起動させていて、ジラが倒れると同時に〝次元雷撃呪符・破天雷光〟が降り注ぐ。

 

 幾つもの激しい稲妻が空間を歪ませながら、自然雷撃と次元雷撃がジラの体を焼き尽くす。 

 

 シュッーと黒焦げになった地面が白い蒸気を上げながら、灰になったジラから高熱で揺らめく陽炎が立ち昇る。

 

 その戦いを見ていたソウエイは、あまりの破壊力とモモカの真の力を目の当たりにして、(まだまだ、俺達は精進が必要だな)と心の内で呟く。

 

 ソーカに至っては目をまん丸にして、固まっていた。

 

 そこへ、ジラの灰が突然渦を巻きながら人の形を取り始めた。

 モモカはそれを見て、口端に喜びにも似た笑みを浮かべる。

 

 人の形を取った灰がホワーッと光り輝き、その形を露わにした。

 その姿はモモカ達と同じ亜人の姿をした、(アヤカシ)ネコマタの眷属である。

 

「やっと本気を出したみたいね。舐めてるから痛い目をみるのよ。フフフッ」

 

 ジラはモモカの言葉に無表情のまま大技を即撃ちした。

 

 〝極超魔力熱線砲(ハイパ―マジックブラスタ―)

 

 両手の平を眼前で重ね合わせ、モモカに向けて放つ。

 それを見越していたモモカの前には、瞬時に無数の〝黒呪符〟が現れ壁を形成した。

 

 〝黒呪符・対魔法攻撃障壁 鏡華千月・號(きょうかせんげつ ごう)

 

 放たれた白色の光線が黒呪符障壁にぶつかり、夥しい光の飛沫を辺りにまき散らすも、モモカの障壁を打ち破ることは出来なかった。

 

 前に対峙した時の鏡華千月より格段に耐久度が向上した鏡華千月は、あっさりジラの大技を受け止め、あまつさえその膨大な魔素量(エネルギー)を吸収してしまう。

 

 その光景にジラは無表情のままでいて、疑問を口に出していた。

 

「何ですか、その黒い呪符は?」

「前にあんたの技を受けた、呪符障壁術よ。まあ、前と耐久度は段違いだけどね」

「……理解不能ですね。前の技がなぜ、今通用するのですか? 何故呪符が黒くなったのですか?」

「フッ。言ってもわからないでしょうね。あんたには」

「そうですか……。ならば、全力で殺しに行きましょう」

「来なさいな」

 

 そこからは、体術を駆使した魔物同士の戦いが繰り広げられていく。

 ジラは両手の爪を三十センチ伸ばし、その爪一本一本に『絶対刺突』を付与し、モモカの身体を刺し貫き破壊していく。

 

 一方モモカは、自身の〝魔核〟だけは刺し貫かれない様に軸線をずらし対応して、呪符攻撃と打撃技を見舞っていた。

 

 お互いの手足が吹き飛び、そこから神速再生で瞬時に再生を掛ける。

 ジラとモモカの溢れんばかりの〝妖気(オーラ)〟が、辺りの景色を変えていく。

 樹々は燃えなぎ倒され、小高い丘はあっけなく吹き飛び、大地は抉れ山々に破壊の大音響が響き渡り木霊する。

 

 本気を出したジラは凄まじいほどの強さを発揮していたが、真なる姿を取り戻したモモカの強さがそれを上回っていた。

 

 『絶対刺突』で刺し貫かれ粉砕された身体を神速再生しながらモモカは、極・超魔力縮退炉術式(ハイパーマジックジェネレーター)を起動させる。

 

『ヤエ、制御よろしく』

『存分に、モモカ。多重術式展開、並列起動開始。黒呪符に魔素(エネルギー)充填開始。十二、三十九、七十四、九十八……百、百二十。臨界突破。〝黒呪符術式〟全力展開。いけますよ、モモカ!!』

『いくわよ、ヤエ!!』

 

 フィイインーー、軽やかなモーターの如く唸りを上げてモモカは、青白い魔素粒子を立ち昇らせる。

 

 物理法則を無視した不規則軌道を描きながらモモカが迫り、ジラも不規則軌道で上空に飛び上がる。

 

 魔素粒子の尾を引きながら迫るモモカの攻撃に、ジラは防戦一方へと追い込まれていく。

 

 明らかにフェイリュアワールドでのモモカとは違う様子にジラは、戸惑いにも似た感情が沸き起こる、が。

 

 感情を持たないジラにはそれが何か理解できず、それと合わせて苛立ちのような感情も沸き起こり、どちらも理解できないジラは機械的な物言いであるも、明らかに発した声が大きかった。

 

「なんなのですか!? その力はどうやって手に入れたのですか!?」

 

 ジラの大きく吐いた言葉にモモカは斬れるような視線で、うっすらと口端に嗤いを浮かべジラに言葉をぶつけた。

 

「やっと、あんたの大声が聞けたわね。フフッ。感情の無いあんたでも、理解に苦しむ事があるなんてね。技量を磨いたかいがあったというものね。あんたは、ここで殺す!」

 

 空中で戦っていたジラが下に降り立った瞬間、地面に仕込んだ〝黒呪符〟が起動した。 

 

 〝重力風陣(グラビティーストーム)

 

「これは?」

 

 範囲限定超高重力波がジラの両足を大地に縫い付ける。

 

 凄まじい超高重力波の嵐に両足を粉砕されながら神速再生掛け、すぐに両足を粉砕されるを繰り返す。

 

 両足を支点に身体全体を固定されていて完全に動きを封じられ、あまつさえ超高重力波により自分中心の空間までも歪められ、『空間転移』すら出来ずにいた。

 

 そこへ間髪入れずに、頭上からの超高重力波による圧殺が来た。

 

 〝過重豪殺(グラビティープレッシャー)

 

 ジラは両手を頭上に上げると、己も重力支配を使った。

 

 ダーーンと轟音が響き渡ると、ジラを中心に深さ三十センチ半径五メートルの円が大地に刻まれ、その円の外側にまた轟音と共に新たな円が出来、次々に新たな重力円が降り注いでいく。

 

 降り注ぐ超高重力波に耐えるジラ、しかしその足元は三十センチの深さで止まり、ジラを確実に押し潰そうと襲い掛かる。

 

 モモカは超高重力波によりジラの足元の大地が粉砕されぬよう、円形の多次元結界を敷設していたのだ。

 

「この重力攻撃は私の重力支配を上回るとでも言うのですか……」

 

 モモカの放った超高重力波を同じ重力支配で相殺しようと抗うジラは、徐々に押されていく自分に困惑し始めていた。

 

 超高重力波に囚われてからの体感三秒の間に、今度は四方から超高重力波の壁が押し寄せ、頭上に上げてた片方の右手を前方に突き出し、四方から迫る超高重力波の壁に同じ超高重力波の壁をぶつける。

 

 不可視の壁がぶつかり、グワワッーと周辺の空間がたわみ揺れ、けたたましい金属音にも似た音を上げた。

 

「もう次元が違うな、この戦いは」

「はわわっ、はにゃあぁ~」

 

 ジラとモモカとの戦いを見て苦笑い気味に呟くソウエイの横で、超高重力波で起こった空間の歪みと揺れにソーカは、星幽体(アストラルボディ)を揺らされて、軽い脳震盪状態に陥り目を回していた。

 

「耐えるわね。これはどうかしら」

 

 〝岩山崩拳(ランドスライド)

 

 そう言うや身を屈めながら真下の大地をモモカの拳が穿つ。

 

 轟音を響かせモモカがいる周辺の大地が真上に吹き上がり超高重力攻撃に耐えるジラに向けて、真下に放った超高重力波が津波の様にジラに向かって突き進む。

 

 大地を抉り迫るその凶悪な超高重力波は真上、四方からの超高重力攻撃に耐えるジラに直撃する。

 

 その超高重力波にも自分の超高重力波をぶつけるも完全に押し負け、直撃した衝撃で今まで耐えてた重力攻撃の拮抗が破れ、真上、四方、最後に真正面から襲い掛かる超高重力波にジラは、押し潰された。

 

 バジャッ!

 

 真上四方からの重力波に押し潰され、更に直進してきた重力波がすり潰していった。

 

 真っ黒い霧状の物を吹き上げながらジラの体はミンチになり、渦を巻く霧状のものからすぐさま再生が始まって行った。

 

「させないわよ!」

 

 霧状から再生を始めたジラの真下に積層型魔法陣が現れ、その周囲を〝黒呪符〟が取り囲む。

 

「これは!?」

 

 神速再生を掛けてたジラは己の体がほぼ再生されかけたところで、いきなり現れた積層型魔法陣に再び拘束され、抗う事も出来なかった。

 

「動けない? なぜ!?」

「それは〝霊子崩壊〟を元にわたしが考案したオリジナル〝核撃魔法〟。その積層型魔法陣に囚われたら、覚醒魔王と言えども、逃れる術はないわよ」

「この私が負ける? ありえません! ネコマタ様の右腕たる私が……ありえない!!」

 

 ジラの表情は変わらずとも、張り上げる声は明らかに高かった。

 

「あの時の借りを返すわ。死になさい、ジラ!!」

 

 〝聖暴冥爆(スーパーノヴァ)

 

 モモカの言霊(ことだま)と同時に黒い半球のドームがジラを覆い、霊子と闇の光がその中で荒れ狂う。

 

 物質体(マテリアルボディ)を破壊し、精神体(スピリチュアボディ)を崩壊させ、星幽体(アストラルボディ)を消滅させる暴虐の嵐。 

 

 黒い半球はその表面をうねる様に走る無数の白色光を身に携え、徐々にそのうねりを小さくしていく。

 

「私……が……負ける……なん……て……ありえ……ない……」

 

 身体を構成する全ての器を破壊され、剥き出しの魂になったジラが振り絞る様な声で呻く。

 

「ジラ。その魂はわたしが、無に帰してやるわ」

 

 赤黒く点滅する小さな浮遊するジラの魂を掴もうと手を伸ばした、その時。

 

 モモカの後の空間から鋭利な爪を伸ばした白い右手が現れ、その伸びた爪でモモカの背中を貫くとする。

 

 だが、モモカはスッと身をずらし、左手でその手の手首を掴み空間から引きずり出し、出て来た者の胸に右貫き手を穿った。

 

「もう不意打ちは喰らわないわよ。ネコマタ」

 

 冷たく斬り裂くような目つきと、冷え上がる様な声でネコマタに言葉を吐く。

 

「クカッ。なるほど、あの時のお前とは確かに違うな」

「とりあえず、内から崩壊しなさいな。フフッ」

 

 モモカはニヤリ嗤うと手首まで埋まった右手を引き抜き、ネコマタを結界で丸く覆い尽くす。

 

 その瞬間――ネコマタの体内で超高重力が暴れ回る。

 

 範囲限定〝重力崩壊(グラビティーコラプス)

 

 ネコマタの体内でマイクロブラックホールが重力崩壊を起こし、超高圧縮空間が一点集中し内側からネコマタを飲み込んでいき臨界に達すると、凄まじい爆発の嵐を巻き起こす。

 

 極矮小な超新星爆発の輝きはモモカの張った結界内で目も潰さんばかりの輝きと、結界内から漏れ出る爆発の衝撃波が周辺を襲う。

 

 周辺の樹々が衝撃波で唸りを上げ軋み激しく揺れ、薙倒されていく。

 

 ソウエイは、終始黙って腕を組み見てるカヤの横顔を見てカヤとモモカが、闇を自称する自分達より遥かに高位の存在に居ると悟った。

 

(闇……あの二人の闇は、俺とは別の闇だな。さしずめ悪魔界の闇と、言ったところか。親の闇を引き継ぐ者、悪魔族の父親か……リムル様の周りにはほんと――理不尽な方達が集まるものなのだな。ふっ)

 

 小さく呟き言った言葉にソウエイは何故か、嬉しそうに口を歪ませた。

 それを見ていたソーカが不思議そうにソウエイを見るも、ソウエイは漏れ出る高揚感を隠すことはしなかった。

 

「こわいねぇ。モモカが怒ったら、一切合切が灰燼と化すからなぁ」

 

 ソーカがそんなソウエイを見てると、カヤが表情も変えずに言葉を放っていた。

 そこへ恐る恐るソーカがカヤに尋ねる。

 

「えーと、カヤ様。モモカ様って、いつもお優しそうなのに、そんなに怒ると怖いのですか?」

「そだよ。怒ると、あたし以上に容赦がなくなるからねぇ。正直、ガチで怒ってるモモカとは戦いたくは、ないな」

「へ、へぇ~。そうなんですかぁ」

 

 テンペストにも猛者はいる、ゼギオンと迷宮十傑、ベニマル、ハクロウ、ゲルド、ガビル、そして最強の〝竜種〟が一人ヴェルドラ、それから戦う力は無いが知力では猛者の位置にある、精霊工学の天才にして、『迷宮創造(チイサナセカイ)』で迷宮を操るラミリス。

 

 しかしソーカはソウエイとは別に、背筋にゾクリと来るものを二人に感じていた。

 

(うーん……お二人は怖いと言うか、何か魔物とは別の怖さを持ってるような感じが、あるような気がしますよねえ)

 

 畏怖の念みたいな感じが頭を過るソーカであった。

 

 そんな中、激しく輝く爆発の光が収まり始め、モモカが再度ジラの魂に手を伸ばそうとすると。

 

 左右から半透明の巨大な両手がジラの魂を掴む様に合わさる。

 それを瞬時に後方に飛び躱すモモカ。

 

「ちっ! ほんと厄介ね、その力は!」 

 

 忌々し気に吐き捨てるモモカに、(ことわり)の操作で死を無かったことにしたネコマタが巨大半透明の姿で現れる。

 

「クカカッ。いやいや、中々に効いたぞえ。少しばかり理を書き換えるのに、時間を要したがのう。二秒ほど――クカカカカカ」

 

 巨大な半透明のネコマタは山々に響き渡る程の声量で、嘲笑う。

 

「モモカ、どいて」

 

 それまで黙って見ていたカヤが、モモカの側に来て千鳥の鯉口を切りおもむろに抜くと、千鳥を眼前で横にして刃の上に当たる部分、峰横の棒樋(ぼうひ)と呼ばれる部分を左人差し指と中指を立て他は軽く握った形で二本の指を鍔元から切っ先三寸までスーッと滑らせた。

 

 すると、カヤが撫でた部分に古代語が浮かび上がる。

 

458EF KPEY46VSLJAQ751ZH QRWEHOPXMH628AIF 458SK YAMIYOKAYA

(我は狂なり 乱れ狂いあらゆる神を喰らうものなり 我が一太刀は全てのものを斬るなり 我は 闇夜カヤ)

 

 カヤが千鳥に刻んだ言霊がポワーッと淡く光り浮かび、刀身が静かに軽くキイイィンッと唸りを上げる。

 

 抜いた千鳥を鞘に納め、鞘ごと少しに前に出し鯉口を切り右足を前に出し左足を後ろに引き、少し屈むように身を沈め左に身を捻じり引き絞るように、千鳥を抜き放った

 

「斬り飛べ。〝閃影斬破(せんえいざんは)〟!」

 

 抜き放った刃から、黒い一筋の次元斬撃が半透明のネコマタを斬り裂かんと襲い来る。 

 

 その斬撃はネコマタをすり抜け、後方に見える巨大な結界を斬り裂いた。

 

 パキンィーーンッ!

 

 甲高くガラスが割れる音に似た音を響かせ結界が砕け散り、結界に隠れたアレリカ公国の姿が露わになる。

 

「やっぱり隠してたか。ジラを囮に時間稼ぎとは、相変わらずだなネコマタ」

「クカカ。何を言う、誰も救えなかった小娘が。また、我に歯向かうのかえ?」

「そうだな、確かにトク爺は救えなかった。でもな、ラコルは救ったし。今は、あたしとモモカの眷属だぞ」

「なんだと!? あそこまで侵食された者を、救えただと? あまつさえ眷属にしたとは……笑止! その者の魂でも喰らったのであ――」

「――あほか! きちんと名付けして、進化させたあたしとモモカの眷属だ!」

「ばかな!?」

 

 巨大な姿を通常サイズまでに戻し、半透明のままジラの魂を大事そうに抱え怒気の籠った声を上げる。

 

 妖艶なる美女のネコマタは、その美しい顔を歪め両眉を吊り上げ、あらん限りの憎しみを込めた目でカヤを睨む。

 

 その怨念込めたるネコマタの殺意を涼し気にカヤは受け流し、更に言葉を吐きぶつける。

 

「よお、ネコマタ。あの巨大な勾玉はなんだ? 派手に黒霧をまき散らし国ごと覆ってるじゃないか。まあ、国と言うより大きな村か? で、そこの村長さんはあれで何をしたいんだ?」

 

 ワザと挑発気味にネコマタに言いネコマタの反応を待つが、怒気を露わにしたネコマタの表情が氷の微笑みのような表情を浮かべる。

 

「ふっ。我としたことが、つい激昂してしまったわ。まあ、考えればお前達であれば眷属くらい作れるであろうからな。それに影獣に耐性があったのも、頷けるでな。失念しておったわ、元はフェイリュアワールドの魔物と、な。クカッ」

「ちっ。やっぱり挑発にはのらないか『ヤエ、〝絶無〟で斬り飛ばせるか?』」

《無理でしょう。もはや、あれは存在が希薄――いえ不確定存在というより、今この現世に存在していません。夢幻みたいなもの。存在せぬものはいかな絶無と言えども、斬れませんよ》

『そっか。じゃあ、やっぱり再び現世に存在を確定させた時だな、斬るのは』

《ええ、その通りです。あの予知夢の示した時まで》

 

 一切の表情の乱れが無いカヤに訝し気にネコマタが言い放つ。

 

「何を考えておる、カヤよ。この術の正体が気になるかえ?」

「結界を隠れ蓑にあの国ごと存在を希薄にし、夢幻(ゆめまぼろし)かの如く現世と切り離したんだろう?」

「ほう……そこまで読んでおったか。昔のよしみだ、少しだけ教えてやろう。〝破幻ノ理(ハゲンノコトワリ)〟これがあの術の名前じゃ」

「へえー。どう言う術なんだ?」

 

 カヤの問いにネコマタは、言霊(ことだま)で返した。

 

「世の(ことわり)の外で、我が理を通す。世の理は我が理、さすれば我が理に染まる」

 

 リイーーーーンと鳴り響く鈴の音。

 

 それに合わせ勾玉が吐き出す黒霧が巨大な竜巻の如く渦を巻き、勾玉もその形を黒霧に変え、その中心に巨大な城が現れた。

 

 日ノ本の城と形は同じでありながら、通常の城より遥かに大きくその色は黒く揺らめき立っていた。 

 

 〝破幻城〟

 

 〝破幻ノ理〟の要になる、勾玉の姿。

 

《でましたね。モモカの予知夢にあった巨大な城》

『あれが恐らく、最終形態でしょうね。あの術の』

『まあ、既に現世と切り離してたから、どうしょうもないけどね』

《中途半端に破壊してネコマタを取り逃がせば……今度は完全に姿を晦まし、二度と見つける事は不可能でしょう》

『だから、敢えてあの術を完成させる。次に現世に存在を確定させれば、もう不確定存在になれない。あれは膨大な魔素量(エネルギー)を使用するからね。いくら理を操作しても、そうおいそれとは術の再起動は出来ない』

《その通りです。あれは、恐らく理の外にある術。私の演算が導き出した結果は、あの術は一度限りの術のはず。でなければ、ヴェルダナーヴァとの戦いの時使用していたでしょうから。恐らく、術の完成までかなりの時間を要するのでしょう。だから邪魔されない様、あの術の要ごと夢幻化したと思います》

『ようするに、術の完成から新たな世界の理の書き換えが行われる最終段階を防ぐ、という事ね』

《そうです。この星を贄に最終段階の書き換えを行うはずです。それさえ防げば、私たちの勝ちです!》

『確かに。あの術の最終段階は、現世に存在しないと世界の造り変えは出来ないでしょうからね』

《ですが……術の完成と共に、モモカの術で保護されない国や村は全て黒霧に呑み込まれるでしょう……できれば――》

『ヤエ。それは何度もモモカと、話し合っただろ。モモカの術制御にも限界がある、ヤエの補助があってもね。並列起動で制御しながら、リムル達の国を守るんだ。それも、ネコマタとジラと戦いながら。戦いの間に、あたしとモモカの寿命が尽きないようにね』

《……ごめんなさい。カヤ、モモカ。私が覚醒してほんの短い時間でしたけど……あの国はもちろん、全ての人や魔物を助けたくて……ほんと、我がままですね。ごめんなさい》

『いいのよヤエ。あなたはあなたのままで、いて頂戴。わたしとカヤは、悪党なのよ。だから、自分の手が届く範囲でしか助けない。それ以上は、わたしとカヤの寿命を計算に入れた戦いに、狂いを生じさせるもの』

『そうそう。だからさ、ヤエは悪党の妹二人の面倒を見る、気苦労の多いお姉ちゃんでいてよ。あたしが持ち合わせない感情だから……お願い、ヤエ』

『そう。わたしも、自分の知り合いと友人以外は死のうがどうなろうが、興味ないもの。だから、ヤエ――その感情は捨てないで』

《はあぁ~……まったく困った妹たちですね――いいでしょう。お姉ちゃんが二人の行き過ぎた行動を諫める、お姉ちゃんでいましょう。私は怒ると怖いですよ? カヤ、モモカ。クスス》

『ええー 手加減してよね、ヤエ。ククッ』

『ほんと、お手柔らかにね。ヤエ。フフッ』

《コホン。それより二人とも、最終形態が完成したみたいですよ》

 

 『思考加速』を解除しつつヤエが、カヤとモモカに声を掛ける。

 

 完全に姿を現した〝破幻城〟。

 その禍々しい姿は、城全体から水滴の如く黒霧が滲み出て来て、宛ら憎悪の固まりの様に見えた。

 

「さてさて。ここまで来たら、もうこの術は止まらんぞえ。これから為す術も無くこの世界が喰われるのを、あの時の様に見ておるがよい。クカカカカカカ」

 

 ネコマタはジラの魂を飲み込み両手を広げながら高笑いをしクルリ身を翻すと、悠然と〝破幻城〟に向かって歩み始める。

 

『後は、奴が〝破幻城〟から出て来た時に殺す。それだけだね』

『ええ。今度こそ、存在の残滓すら残さず葬ってやるわ』

《ぐっちゃぐちゃにすり潰して、引導を渡してやりますよ》

『『えっ?』』

《なにか?》

『いや、なんでもない(マジに怒らすと、モモカよりこわい?)』

『何でもないわ(あらいやだ。怒らせると、一番ダメなタイプ? フフ)』

《では、テンペストへ帰りましょう》

『あいよ』

『そうね』

 

 見えてはいるがそこには存在しない、されどそこにあり、どこにも存在しない。

 染み出るような黒霧が陽炎のように揺れ動き、まるで人の呻き声みたいな音を上げる。

 

 この世界全ての負の感情が集まり、集約される〝破幻城〟。

 

 ネコマタが〝破幻城〟に入るのを見届けると二人は、ソウエイ、ソーカを伴いテンペストへ『空間転移』していく。

 

 

 日が沈み、〝破幻城〟は闇の中に仄暗く薄い光を発しながら地獄の窯の蓋が開いたような兇音を放ち、ネコマタの嗤い声が周辺一帯に響き渡る。

 

 ネコマタの想い描く世界、それは妄想でもなく、想像でもなく――それは兇想。

 

 激しい憎しみだけの世界。

 

 憎しみの念だけが溢れる世界。

 

 ネコマタの兇想が想い走る。

 

 

 〝破幻ノ理〟が発動するまで、残り二ヶ月と二十二日。

 

 

 

 




 七十八話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新も読んで頂けると、幸いです。



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