転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 今回は少し、長くなりました。
 
 姉妹が生きる里も終わりを迎えます。



 ※鯉口を切るとは、鞘を掴んだ左手の親指で鍔をグッと押して刃をほんの少し鞘から
押し出し、即抜けるようにした状態です。


 


八話 里の終わり・それぞれの思い

 

 毒が回り、次第に倒れ行く乱破ノ者達。

 

 

 

 続々と雪崩れ込んでくる足軽兵たち。

 

「皆の者、ゆるせ。此度の一件はわしの責任だ」

 

 大広場奥の屋敷で、(おさ)は最後の戦いに出る者たちに、頭を下げていた。

 

「長、なぜ夏夜を放置した? さっさと首を刎ねてればよかったんだ!」

「そうだ! あいつのせいで、俺達はこんなことになったんだ!」

「いや、夏夜(カヤ)を殺しても、里は滅ぼされることになってただろうて……」

「あいつは、今先頭に立って戦ってる。無事な者を逃がすためにな」

「あたりまえだろ! 自分で招いた事だろうがよ! くそが、毒で死ぬなんて、まっぴらごめんなんだよ……まだまだやりたいことがあったんだよ!」

 

 長の前に集まった者は、それぞれが思い思いを口にし、長はそれを黙って聞いていたが一人の若者が口を挟んだ。

 

「俺はあいつを責めねぇよ。 打刀も持たずに直談判にいったんだ……。殺されるかも知れねぇ所に行くなんて、普通中々できねぇし。このお側付き護衛なんてものを、ずっと放置して来た俺達一族と、その重鎮達の責でもあるよ」

 

 無事な者を連れて里を脱出したはずの十次(トオジ)がそこにいた。

 

「十次! なぜ戻ってきた! お前さえ生きてれば、また里の再興をできるものを、今すぐ戻れ!」

「長……いや爺様、俺は戻らねぇ。心配はねぇよ、無事に里を抜けれたよ、喜一達は。それに、喜一達には無事生き延びれたら、もうどこかでひっそりと暮らせと言ってきた。この里は俺の代で(しま)いだ! 生き残った者たちに、また業を背負わせることなど俺にはできなかったんだよ……」

「十次、お前は……そうだな、それも一興なのかもな」

 

 長はそう口にすると、そこにいる者全員に告げる。

 

「皆の者、ここにいる者全員の命わしが、貰い受ける! もとより夏夜も、命をとうに捨てておるだろう。 ならば我ら、夏夜に後れを取ってはならぬ! この命一片たりとも残さず燃やし尽くすまで、喰らって、喰らって、喰らって、奴らを喰らいつくしてやろうぞ! 我ら、乱破の者の恐ろしさ、成友の魂の(ずい)まで、刻んでやろうぞ!!」

 

 おおおおおおぉとその場にいる数十名が一斉に声を上げ、各々戦場へ散っていき十次は長に一礼すると、夏夜がいるであろう場所に急ぐ。

 

 長の所に残るあまり動けない者は、まだ、火が移ってない家屋で待ち伏せをする為に、武器を手に移動をし息を潜める。

 

 百佳(モモカ)太平(タヘイ)は燃える家々を抜け、往来の十字路近くまで来ていた。

 

 刀を抜いた足軽兵十数人と、戦いになり太平は毒の影響で動きが鈍ったとこへ、三人から槍で刺し貫かれながらも相手の首を飛ばし、力尽き崩れ落ちる。

 

「たへいいいいいいいいいーー!」

 

 名前を絶叫しながら、小太刀を振るい爆炎符を飛ばし、太平を抱き抱え側の家に転がり込み、入り口で爆炎符を使い炎で入れなくした。

 

「太平! 太平! お願い、まだ、逝かないで……」

「もも、か、ここま、でだ……す、ま……」

 

 太平の命はここに燃え尽き、百佳はそのままギュっと抱きしめたままでいた。

 

 幼馴染で心から愛していた男。

 

 あの一件以来夫婦にはならなかったが、二人とも変わらぬ想いは捨てなかった。

 

 出来るなら、太平の子を授かりたかった百佳。

 出来るなら、百佳との子が欲しかった太平。

 出来るなら、夫婦になりたかった……百佳と太平。

 

「さようなら。わたしの愛した初めての人」

 

 静かに寝かせた太平の胸に爆炎符を置くと、裏口から出て待ち構えてた足軽兵数人を斬り伏せていく。

 

 右手逆手に小太刀を握り、右に左に体を揺らし低い姿勢で、刃を振るいながら数人の間を疾風の如く駆け抜けると、一斉に首から血を吹き出し倒れる足軽兵達。 

 

 〝闇夜影千流(やみよえいせんりゅう)、小太刀術・月下影舞〟(げっかかげまい)

 

「来世では、また貴方と一緒に……。さよなら、太平。爆ぜろ!」

 

 太平の胸に置いた爆炎符を発動させ、家をも包む火柱が上がり近くにいた足軽兵達をも炎が飲み込んでいき、この時静かに百佳の中で何かが、芽生えつつあった。

 

 一方、二十人程の足軽兵に輪のように囲まれた夏夜、一斉に槍が突き出される。

 

 瞬間――

 槍が重なるが真ん中に夏夜はいない。

 

 足軽兵達は槍の穂先の下に影があるのに気づく。

 

 夏夜は脚を前後に開脚して、前にした右脚に体をぴたりと付けて穂先を(かわ)していた。

 

「下にいるぞ!」と言う足軽兵の槍を、下から掴んで手繰り寄せるように体を素早く起こす夏夜。

 いきなり目の前に寄ってきた夏夜に、横蹴りで鼻下人中を蹴られ奪われた槍で刺し貫かれ息絶える。

 

「邪魔だよ。あんたら」

 

 感情もなく言葉を吐き浴びせる。

 

 奪った槍を両手で左右に回しながら、パシーんと柄全体で一度地面を叩き槍を構えるや否や、近くの者に素早い五連突で五人の喉を刺し貫く。

 

 向かってくる三人を一度横に薙いだ槍をくるっと回し、石突で一人の顎を突き割り、槍を返し二人の足の甲を刺し、前のめりなった所を、右後ろ廻し蹴りで二人の顎を蹴り砕く。

 

 更に相手の槍を巻き飛ばしてからの、胸突きで六人を倒し残る五人も槍を振り廻しからの突き、返しの石突で人中を突くで葬り去る。

 

 足軽兵二十人を始末し場を移そうとすると、そこへ十次が駆けて来た。

 

「夏夜、まだ無事だったか」

「ん? 十次どうしたの、百佳から無事な者を連れて里を抜けたと聞いたけど?」

「喜一達にまかせて、戻ってきたんだ」

「なにしてんの? あんたが死んだら誰が跡を継ぐんだよ」

 

 夏夜は、少し(いぶか)しげに聞く。

 

「いや、そのな、え~と、喜一達にはもうどかで、ひっそりと暮らせと言ってきたんだ」

「え? そうなんだ……」

「この里はな、俺の代で終わりだ」

 

 ニカッーと笑いながら十次は言った。

 

「ごめんな……十次」

「いや、夏夜の所為(せい)じゃない。俺の決めた事だ」

「そう……」

「すまない、百佳のこと、俺達一族の怠慢だ。いくらお役目だからって、何かさやり様はあったんだと思う。それをしなかった、俺達一族の責任でもあるんだよ」

「……十次」

 

 あっけらかんと言う十次に夏夜は、子分のくせにとかなど、ぶつぶつと文句を言う。

 

「お前には、小さい頃から色々突っかかって悪かったな。そのおかげで、ぼこぼこにされて子分になったんだけどな。ハハハハ」

 

 笑いながら十次が言うのを。

 

「それは、あんたが悪い。フフフ」

 

 と、同じように笑い返す夏夜。

 

「俺さ、夏夜が(うらや)ましかったんだよ」

「……なんで?」

「俺はさ、物心ついたころから、長の孫だ、次期長はいずれ俺だとか、望んでもない事押し付けられては、期待してるやらなんやらで、それが嫌でな」

 

 夏夜を真っすぐに見たまま、話しを続けていると。

 

 そこへ物陰から足軽兵が飛び出してきたが――

 

 チンッと鍔鳴りがすると足軽兵の胴が斜めにずれ落ち、内臓がその場にダバダバと散らばり血溜まりができる。

 

「す、すげぇな夏夜。いつ抜いたか分からなかったぞ。それにその気、殺気とは違うだろ? 何だかわからないが、おっかねぇなその気」

 

 十次は夏夜の抜刀術を目の前で見て、驚愕した。

 

「ん?大丈夫。十次には向けてないから」

「そうか、やっぱお前凄いな。小さい頃から強くなりたいって言ってたもんな。俺は強くはなりたくなかった。乱破ノ者なんかに、なりたくなかったんだ……」

 

 夏夜は黙って、十次の言葉に耳を傾けていた。

 

「でも、そんな中でも強くなりたいって、絶対に自分の信念まげない夏夜を見てたら腹立たしくてさ。なんかそう言えるお前がさ、うらやましくて、俺にない強さを持ってる夏夜がって。あああ、うん、なんだ、わからん……あ、うん」

 

 頬をポリポリ搔きながら、少し照れ臭そうに笑う

 

「やっぱ、十次、馬鹿だろ?」

 

 すっと踵を上げやや爪先立ちで十次の両頬を両手で押さえ、軽く口付けをしアホ子分と言うと、ぽすっと腹を小突いた。

 

「あいたた、って……お前、あいつ(・・・)に、いやなんでもねぇ。ああ~、来世でまた会えたらいいな」

「ん、その時はまた、子分にしてあげるよ」

「ああ、今度はお前が俺の、子分だな。それじゃ夏夜、俺いくわ、爺様のとこへ」

「十次……いい、やっぱなんでもない。じゃあね」

 

 そうして二人は別れ、十次は長の所で死闘を繰り広げ、最後は両親と長と共に 屋敷とその周りに油を捲き火を放ち、その場にいる足軽兵達諸共炎に巻かれて逝った。

 

 百佳は、何名かと斬り合ってたがなんなく片付けると、十字路近くの一角で無数の転がる足軽兵の死体を見て、その中にいる影を見つけた途端に着物の袖で口と鼻を覆った。

 

 そして、その影が小さい何かを放り投げ、受け取った百佳は即座にその丸薬を齧り飲み込む。

 

「小梅、まだ無事だったのね。よかった」

「ああ、ここら一帯はあたいが強毒粉撒いたからな。その丸薬飲んでれば大丈夫だ」

「そう、なら少しの間は、ここには誰も近づけないわね。小梅、ほんとにごめ――」

「――百佳! それ言うと、まじに引っ(ぱた)くぞ! 」

 

 言葉を即座に遮り、少し語気を荒めて言いながら、百佳の背中に回り背中合わせで、小梅は言葉を続けた。

 

「なぁ、あの時の言ったことは嘘じゃねぇし、あたいの本心なんだよ。同情とか情けでもないし、あんたら二人は、あたいの家族みたいなもんだからな」

「小梅。それはわたしも同じよ……だからあなたには、喜一達と里を抜けて欲しかったのに……」

「悪いな、それはできねぇわ。あんたら放って行くなんてさ、無理だ。ククク」

「小梅……」

 

 小さく笑いながら小梅は、前から来た足軽兵が毒に藻掻いてる所を、なんなく小太刀で斬り捨て、百佳も前から来た足軽兵を斬り捨て、また背中合わせになる。

 

「あたいら三人の中で、一番泣き虫の夏夜がさ、一番頑張ってたよな、あんたを守るんだって。それが、あいつ(・・・)のことで泣くことも捨てて……それでも、前を向いて修羅になろうとも、闇すら飲み込んで必死に生きて来たんだ。そんな夏夜を見てたら、乱破ノ者とか関係なく、ほっとけなくてねぇ」

「あの子、ほんとあなたには、遠慮がない態度よね。ふふふ」

「だな。クククッ」

 

 二人はまるで昔を懐かしむように、声を出し笑う。

 

「夏夜は、ただ大好きな人と、一緒にいたいだけだったんだよなぁ。あいつそれを守るんだとか言ってて、根っこにあるものに気づいてなかったしな……」

「大丈夫よ。あの子それに気づいて、一緒に生きたいと、同じ時を過ごしたいって言ったわよ。独りは嫌だともね」

「そうか! やっと根っこにある本音言ったか~ そうか、そうか、そりゃよかった!」

「ふふふ、やっぱりあなたも、夏夜のお姉さんね。ふふ」

 

 小梅は、夏夜が押し殺し、隠し、見ようとしなかった本音に気づいたのに喜び、心配してた胸の内が聞けて、安堵した。

 

「百佳。あたいは今から、できるだけ多くの足軽兵共を連れて、あそこに行くわ。だから、あそこには、絶対にくるなよ」

「そう……粉ひき小屋にいくのね」

「ああ。できればもっと、色々やりたかったな三人でさ……。百佳、じゃあいくわ」

「小梅……ありがとう。じゃあね」

 

 二人は背を合わせたまま別れの言葉を交わし、そのままお互いが向いてる方へ駆けていく。

 

 

「いるわ、いるわ! 足軽兵共が! お前ら楽には死なさねぇぞ」

 

 小梅は足軽兵の集団を見つけると腰に付けてる、竹筒の栓を飛ばし毒粉を撒きながら、集団へ斬りかかる。

 

 撒かれた毒に目や鼻から血を垂らしながら、足軽兵共は叫び声を上げのた打ち回り、追い打ちに足元で毒玉を破裂させ、紫の粉が辺りを覆いつくし、毒粉の結界を張った。

 

「ええい、距離を取れい。その粉に近づくな、毒にやられるぞ!」

「弓隊! 前へ! 矢で射って殺せい!」

 

 足軽兵を率いる、(かしら)が叫び、ひゅひゅっと矢が放たれそれを小太刀で捌いてたが、一本が小梅の左肩に当たった。

 

「いったぁー くそがー!」

 

 小梅は叫び、矢を無理やり引き抜き小屋を目指し駆けていき、小屋に飛び込むと入り口にありったけの毒玉を撒き入れなくした。

 

 周りは五十数名の足軽兵が囲み、矢を射ってたが 急に小屋の周りに白い煙に似たものが、モウモウと立ち込めていき騒然としていた。

 

 小梅は鼻と口を手拭で覆い、小屋にある小麦粉が入ってる粉袋の口紐を片っ端から解き、中をぶちまけていった。

 

「あ~あ、こんなことなら、商人の若旦那食っとけばよかったなぁ。イイ男で気前もいいし、焦らすんじゃなかったわ! これだけだな心残りは……クククク。まぁ、あたいらしくていいかもな」

 

 そう言いつつ小麦粉を、撒いていく。

 

「ほんと、成友のくそ爺め! あの世に行っても、枕もとに出て呪い殺してくれるわ! くそったれっがぁあああああああ!!」

 

 怒気を込めた声で言い放つと、小梅は仕掛けていた紐を力任せに引っ張った。

 

 火打石がカチッと鳴り、激しい轟音と共に火柱と爆風が小屋ごと足軽兵五十数人を襲う。

 

 小梅は粉塵爆発を使い、周りの者ごと道連れに巻き込み吹き飛ばした。

 

 百佳はその轟音を聞き一瞬足を止めたが、きゅっと唇を噛むとまた駆けだした。

 夏夜もまた轟音を聞き何かを感じ取り、囁くように小梅姉さんと呟く。

 

 

 大通りの十字路近くで百人近くの足軽兵集団が、何かから逃げるように固まり走って来てる所に夏夜は遭遇する。

 

「お前たち、わしは一人ぞ! かかって来ぬか――!」

 

 玄斎は、逃げ惑う足軽兵達を悠然と歩きながら追い、斬り捨ててゆく。

 

 凄まじい殺気に及び腰になり、それでも玄斎を取り囲むがなぜか手を出さずにいて、皆持っている刀や槍がカタカタと震えていた。

 

「この、有象無象共が!! 毒にやられておる、わし一人も殺せぬか!おお戯け者共が!     ぬう!?」

 

 玄斎は、足軽兵集団の後ろから来る、夏夜を見つける。

 

 夏夜もまた、激しい異質な気を放ちながら歩いて集団に近づくと。

 

 ささぁーっと集団が二つに割れ、そして足軽兵達は夏夜が黒い渦巻く気を放ってるように見え怯え動けずにいた。

 

「ふむ、やはりまだ生きておったか。げに凄まじき殺気よのう、夏夜! そうか! それが、全ての枷を外した真のお前か!?」

「はい。お師様」

 

 夏夜は答えつつ、次に来る言葉を予見する。

 

「夏夜! わしと死合え! 人斬りの技を極めし者同士、今一度技をぶつけ合おうぞ!」

「……お師様。どうしても、おやりになりますか? 引くことはできませんか?」

「無論だ。引くも何もなし! 我の願いはお前との死合いのみ!」

 

 駄目とわかってても聞く夏夜。出来るなら斬りたくはないと願ったが玄斎の夏夜を見る目が、激しい殺意をぶつけてきてるのを感じ夏夜も己の覚悟を決める。

 

「わかりました。……お受けします。玄斎殿!」

「よくぞ言った。存分に斬り合おうぞ! 周りにいる有象無象共! 邪魔だてすると主らも斬り捨てる故、おとなしく見ておれ!!」

 

 玄斎の覇気に当てられ足軽兵達は、動けず皆この勝負を黙って見ることになる。

 

「闇夜影千流、皆伝。佐々木玄斎。参る!」

「闇夜影千流、極伝。夏夜。気を抜くと、一瞬で終わりますよ」

 

 双方名乗りを上げると、左手を鞘にかけ鯉口を切る。

 

 お互いに刀を抜き正眼の構えを取り、徐々に間合いを詰めていく。

 

 二人の間合いがぶつかった瞬間、斬り合い激しく金属のぶつかる音が響き渡り基本の技の応酬から、少しづつ応用の技の繰り出し合いになる。

 

 夏夜が逆袈裟からの横薙ぎを繰り出す、躱す玄斎は即座に突き技三連撃で迎撃し、それを捌き夏夜の抜き打ちが首を狙い放たれたるが、それをも躱す玄斎。

 

 ざざざざっと摺り足の音がその場に響く。そして玄斎の飛び込み逆袈裟を後ろに飛び躱すが完全には躱しきれず、右腕を浅く斬られる。

 

「流石よのう、夏夜。あれを躱すか」

「いえ、さすが玄斎殿、完全には躱しきれなかったよ」

 

 二人はそう言いつつまた、ざりざりっと摺り足を響かせ、間合いを計る。

 

 夏夜の姿が揺らぐ、ゆらりゆらりと実際にはそう見えないが、夏夜の異質な気が玄斎にそう見せており、周りの足軽兵達もそう見えていた。

 

「これか! お前の修羅の気とも呼べるものは!」

「さぁ、そうかもですね。あたしが、望んだ力だよ!」

 

 言うと同時に、夏夜は気を隠し偽り突き技からの右、左逆袈裟の三連斬撃を見舞う。

 玄斎はいきなりの斬撃を辛うじて躱すが両腕を斬られ、血が飛び散る。

 

「ぬううう。気を偽り隠すか! これが、あの時見せた技の完成形か!」と言葉を吐く。

 

 玄斎は己の気をぶつけるが、悉くぶつけた気を飲み込まれていき、自身の気力を吸い取られる感覚を覚えた。

 

 技の繰り出し、太刀筋が揺らぎ、偽られ玄斎は次第に防戦一方になる。

 

 散る火花、響く甲高い金属音に空気が裂ける。

 

 夏夜の抜き打ち二連、横薙ぎから上段斬りに繋げ、左足で地面の土と小石を玄斎の顔めがけ蹴り放つ。

 

 放たれた土、小石を物ともせず突っ込み、玄斎は横薙ぎ一閃―― 夏夜の胸辺りを掠め着物は切れ血が散ったが、夏夜は躱しながら片手突きで玄斎の左肩を刺し貫いていた。

 

「まっこと、面妖なこの太刀筋は見事なり! ならばわしも見せよう、お前の知らぬ技を!」

 

 そう言うと血が滴る両腕を上段に構え、気を練り始める。

 

「きええええええぃぃぃ」

 

 気合一閃――

 

 上段からの振り下ろし斬り、空間を裂いたかの如く振り下ろした切っ先の風圧で地面に砂塵が散り、それを紙一重で見切る夏夜の髪の毛が数本宙に舞う。

 

「闇夜影千流、我流技 閃火一刀(せんかいっとう)閃雷(せんらい)。わしの我流技よ、夏夜!」

 

 激しく気合の入った言葉で言い放つと、また上段の構えを取る。

 

 夏夜は鞘を左手で掴んだまま鯉口を切り、ゆっくりと歩き玄斎の間合いに入ってゆく。

 

「ぬうぅ。揺れる殺気の影か? 面妖な、お前のその異様な気は……いや、殺気とも違うな。もはや、人が操れる気ではないな。人外の者の気か……。我が弟子よ、よくぞここまで到った。この一太刀で終いにしようぞ!」

 

 玄斎は無防備にも見える夏夜の歩く姿に、惑わされるな、これはまやかしの幻影ぞと、己に言い聞かせる。

 

 気合と共に己の魂の炎を燃やし尽くすほどの力を籠めた一刀。

 

 それが夏夜の脳天に振り下ろされる。

 

「参るっ!!」

 

 刹那――

 

 チンッ! 鍔鳴りの音が、一つ鳴り響いた。 

 

 玄斎は確かに夏夜の脳天目掛け技を放ったが、そこに夏夜の姿はなかった。

 

 す~っと幻のように玄斎の右横を通り抜けると同時に、抜き打ち一閃。

 

 鍔鳴りの音だけ残し、振り返らずに歩き去りながら、技の名だけを告げる。

 

「闇夜影千流、極技。 闇鏡静水(あんきょうせいすい)血華落葉(けっからくよう)

 

「み……ご、と」

 

 微かに漏れ出る玄斎の声。

 

 同時に右首筋から血の花が咲き誇り、そのまま前のめりに倒れ、玄斎は絶命した。

 

 夏夜は静かに立ち止まり、一度振り返ると深く一礼をし、師匠だった玄斎に手向けの言葉を送る。

 

「お師様。今まで、ありがとうございました」

 

 夏夜は、短く息を吐き周りの兵達を見渡すと、ふっと一瞬表情を緩め「『コレイジョウハ……ヒトノミデ、ハ、ム』……わかってるよ」何かを呟き、百名近くの集団に斬りかかっていく。

 

 多少の傷は構わずに、己が気を放ち足軽兵達の動きを鈍らせ、首を刎ね、胴を裂き腕を斬り飛ばす。

 

 夏夜の斬撃の鋭さとあまりに人を斬り過ぎた為、振るう刃は欠け刀身は曲がり、最後には折れた。

 

 折れた刀を近くの足軽兵の首に喰い込ませ、腰の刀を奪い更に刃を振るう。

 

 もはや、一人の娘とはかけ離れたその異質な動きと放つ気に、足軽兵達は阿鼻叫喚になり闇雲に斬りかかるものや、その場に(うずくま)る者がいたが、容赦なく斬り捨てる夏夜。

 

 折しもその頃、里の表入り口前に陣取った坂上は、配下の者達から戦況報告を受けていた。

 

「報告します。裏入り口制圧完了しました。里中央の大通り十字路近くで最後の抵抗をしてる一団と遭遇、現在交戦中ですが程なく制圧できるかと」

 

 坂上の前に来た配下の一人は、片膝をつき報告をする。

 

「うむ。一人も逃がすでないぞ。して例の娘たちは、まだ生きておるのか?」

「はっ。先程なぜか、佐々木玄斎と一騎打ちをしており、娘に負けた玄斎は絶命したかと」

「ほほう、何故か知らぬが、これで一つ厄介な奴が消えてくれたのう。これは僥倖じゃったな! うむうむ」

 

 とりあえずの戦況に満足し、腕を組みつつ燃える家々を眺める。

 

「しかし、我が方も少なからず被害が出ておるのう。腐っても乱破ノ者ということか、まぁ知略に長けた我の敵ではなかったな。鉄砲隊(かしら)はいるか?」

 

 坂上の呼びかけに、走り寄る鉄砲隊頭。

 

「お主は、抜刀術を使う小娘を仕留めよ! 奴は感が以上に鋭い故ぬかるなよ。狩猟を生業としてた主なら、気配を消し狙えるだろう?」

「は! お任せを!」

「ならば行け! 後に我も里に入る」

 

 そう告げると坂上は、出陣の準備に入る。

 

 坂上が里に入る準備をしてる頃、夏夜は、ほぼ百人の足軽兵を片付けていたが、自身の体も無数の刀傷、槍の刺し傷などで血に濡れ、それでも二本の刀を持ち一本で攻撃を受け二本目の刀で斬る。

 

 即興の二刀流で戦い残る十数名に構えを取り、柄を握る両拳から血がポツリポツリと滴り落ちていた。

 

「どうなってやがるんだー! 化け物かこいつは」

「もういやだ! いやだ! おらは死にたくねー」

「物の怪じゃ! この娘は物の怪じゃあぁ!」

 

 血に塗れそれでも、向かってくる娘に、ここは地獄の一角に繋がったんじゃないかとか口々に叫び、必死に足を動かそうと藻掻くも、粘った泥の中を歩いてるみたいにしか動かせずにいた。

 

「あ~、いたいな。さすがにきついわ、これ、意識飛びそう」

 

 痛みに耐え呟いてると、夏夜の頭の中で不可思議な声が響く。

 

《確認しました。『痛覚無効』獲得……成功しました》

 

(あ? なんだ? やばい幻聴が聞こえ始めた。まぁいいや。もう少し行けそうだね……痛みが消えた?) 

 

 幻聴のように聞こえる声に夏夜は訝し気に思うが、それを振り払うように。

 

「もう、死ねよ。あんたら」

 

 と吐き捨て、恐れ固まってる兵達に斬りかかり、残る者共を斬り伏せる。

 

 同時に二本の刃は折れ、体力も限界に近づきつつあった。

 

 折れた刀を投げ捨て二本の槍を持ち、十字路に出て道が交差する真ん中に向けて、小走りで行く。

 

 

 一方、百佳も十字路に差し掛かる道を進んでいると、父と母の遺体を見つけ足を止めた。

 

 折り重なるように死んでおり、最後は父が母を庇って討たれたのだろう。

 

「先に逝ったのですね……じきにわたし達も行きますから、今しばらく待っていてくださいね。父様、母様」

 

 そう亡骸に告げると十字路に入り、交差する真ん中へ走る。

 

 あちこちで抵抗していた乱破ノ者達は、毒が完全に回り次々と倒れ死んでいく。

 

 まだ息があるものは止めを刺され、最後の断末魔をあげる。

 

 

 傾きつつある夕日が、地面に刺さった刀の刀身に反射され鈍く光り、走りゆく夏夜の姿を映していた。

 

 

 




 ここまで読んで頂いた皆様、ありがとうございます!


 次回もよろしくお願いします!


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