転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました七十九話です。





七十九話 弟子たち

 

 カヤ達が〝破幻城〝から去った後。

 

 城内にいるネコマタは、東の帝国から流れて来た元魔導技術者の前にいた。

 

「ゲルトラルよ。例の物は出来たかえ?」

「はっ。今しがた完成しましたであります」

 

 そう答えたゲルトラルの差し示した方向には、台座に寝かされた人形みたいな物があった。

 

 頭の部分はツルッとして、両腕両脚の各関節には球体が使われており、よく見ると女性型の球体関節人形の姿をしており、それはまるでデッサン人形にも見て取れた。

 

 ハ―ヴィ・ゲルトラル、東の帝国をマサユキが統治することにあたり、非人道的な魔導実験を行った研究機関は軒並み閉鎖もしくは解体され、その責任者も罪を問われることになり、数多の命を奪った実験に携わった責任者は重い処分を下されることになった。

 

 それをいち早く察知したゲルトラルは、あらゆる伝手を使って帝国から逃亡を図るも、ドワルゴン国境付近で追い詰められ捕縛されるも、たまたまドワルゴンに来ていたジラに助けられた。

 

 ジラは助けた男が魔導工学の技術者と聞き、〝憑依核〟の寄生者にはせずネコマタの元へ連れ帰ったのだ。

 

 ゲルトラルは軍の技術士官の時、人に変わる殺戮兵器、人形部隊設立を軍部に立案。

 

 軍部はそれを承認し、ゲルトラルは設立された実験機関の責任者となった。

 人形の核となる魔導核に罪人の魂を封入し、制御しようと試みるも。

 生身の物質体(アストラルボディ)を失った人間の魂は、精神を壊し、見境なく殺戮をする制御の効かない物だった。

 

 幾多の実験を重ね、捕らえた魔人の魂を核に使ったところ、殊の外安定し制御にも成功する。

 

 十体の試作バトルパペットをテンペストとの戦争に試験登用し、ドワルゴン戦線に投入。

 

 しかし、援軍に来たテンペストの増援部隊に掃討される。

 制御とドワルゴンの兵に対して一定数の戦果を上げたのも事実で、本格的な生産に入ろうと計画を立てた矢先に、ヴェルグリンドが魔王リムルに敗北し、百万もの戦力もほぼ全滅させられた。

 

 そして――皇帝ルドラの失踪。

 

 そんな経緯をネコマタに話し、自分が追われる身になった現況、魔王リムルに復讐が出来るならばとネコマタの配下になることを望み、現在に至る。

 

「ふむ。これがお前が言ってたバトルパペットと言うものかえ?」

「さようで御座います、ネコマタ様。身体パーツには最高品質の魔木を使用。球体関節と手足の爪は純度百の魔鋼を使っており、多種多様なギミックも備えておりまする。ジラ様の魂ならば、生体魔鋼(アダマンタイト)から究極の金属(ヒヒイロカネ)へと進化するのも、そう時間は掛からないと思われます」

「うむうむ。よくぞここまで仕上げたな、ゲルトラル! 褒美を一つ取らせよう。申して見よ」

「……恐れながら申し上げます。〝私めの願いはただ一つ〟――魔王リムルの死で御座います! 帝国を敗北に追いやり、どこの馬の骨とも分からぬものを皇帝にし……。帝国の為に尽くして来たこの私を、罪人に仕立て上げる現況を作った、魔王リムルと連なる者への――復讐で御座います!」

 

 片膝を付き頭を下げるゲルトラルは、全身から魔王リムルとテンペストの魔物達への憎しみを露わにした。

 

 ネコマタはその強い憎しみを抱くゲルトラルを慈愛の目で見て、嬉しそうに顔を歪める。

 

「よかろう。お前はそのままの姿で、我がこの世界を喰らい尽くすとこを見るがよいぞ」

「いえ、ネコマタ様。ジラ様の依り代となる、私が作りし最高傑作が完成したのであれば――もうこの世に未練は御座いません。矮小なるこの身なれど……出来ればネコマタ様の一部となり、魔王リムルの死を、見届けたく存じます」

 

 ネコマタの精神支配にあってたのか、己の意思なのかは判らない。

 眷属としてではなく、ネコマタの一部になりたいと願い魂を差し出した。

 

「うむ。その願い、しかと聞き届けたぞ。我が一部となり、この世界が滅び、新たな憎念渦巻く混沌の世界が生まれるのを、しかと見届けるがよい!」

「ありがたき幸せ、ネコマタ様」

 

 リリーン

 

 ネコマタがゲルトラルに右手を翳すと、どこからか鈴の音が響き、泡の様にゲルトラルの体が崩壊し、小さな光の球になったゲルトラルの魂を手の平に乗せ、味わうかの如くゆっくりと飲み込む。

 

「……美味じゃ、何とも、得難い美味じゃ。憎しみこそが、我の喜び」  

 

 憎しみに塗れたゲルトラルの魂の味に、ネコマタは恍惚の表情を浮かべる。

 

 そして。

 

 ネコマタは飲み込んだゲルトラルの魂と入れ替わりに、一つの魂を右手の平に具現化させる。

 

 ジラの魂をゲルトラルが作ったバトルパペットに入れ込み、融合させる。

 

 ライムグリーンの身体がポウッと光り輝く。

 

 カキン カキキ ガシャリ 小刻みに身体を震わせながら身体を起こし、台座に立ち上がる。

 

 ツルッとした頭の顔に当たる部分が波打ち、顔を形成していく。

 

 目が出来上がり、猫目の瞳が丸くなったり細くになるを繰り返す。

 

 鼻、口、頭に猫耳がズルリと現れ、黒い髪が背中の真ん中辺りまで伸び、尾骶骨に当たる少し上の部分から長い黒毛の尻尾が伸びて来た。 

 

 銀色に輝く球体関節と爪が不気味に映るバトルパペットは、完全にジラの魂と融合し一気に魔素量(エネルギー)を解放した。

 

 激しい魔素量(エネルギー)の嵐がジラの身体を中心にして巻き起こり、バトルパペットを構成する身体パーツが肌色へと変貌する。

 

「すばらしい。なんと力に溢れた身体なのでしょう」

 

 戦闘人形と言う体を得たジラは、相変わらず感情の無い言葉であったが、そこには喜びに満ちた何かが込められていた。

 

「どうじゃ、そのバトルパペットと言う依り代は?」

「はい。物質体(マテリアルボディ)を作るより、より戦闘に特化した身体だと思います」

 

 ジラはカチャカチャと魔鋼製の爪が付いた手を握ったり開いたりして、答えた。

 

「うむ。魔導工学に科学技術と言う物を駆使して作ったものであると、言っていたのう」

「そうなのですか。ほほう……ここは、ここも……こうなっているのですか。中々に面白いものですね」

 

 ジラは自分の身体を隅々まで確認しながら、時折ガシャリ、カシャと機械音を上げていた。

 

 人仕切り確認を終えたジラは、ネコマタの前に来て跪く。

 

「ネコマタ様、不覚を取り。大変申し訳ございませんでした」

「よいよい。次は、確実に殺せるであろう? 構わぬよ」

「はっ。必ずや、モモカを殺してみせましょう」

「うぬうぬ。して、その関節の球は、究極金属(ヒヒイロカネ)に進化出来そうかえ?」

「はい。四十日もあれば、この金属も私の魔素に馴染み、究極金属(ヒヒイロカネ)へと至るでしょう」

「そうかそうか。あ奴らは科学技術(・・・・)と言う物は、知らぬであろうからな。クカカカカ」

 

 〝破幻城〟天守閣にある玉座にあつらえた豪勢な椅子にネコマタは座り、兇喜に見溢れた笑いを上げる。

 

「さあてさて。カヤ、モモカ、そして魔王リムルよ。もう、猶予はそう残されておらぬぞ。クカッ。残された短い時間を、我を憎みながら過ごし、絶望せよ。ありあまる憎しみを、我に向けるのだ。我を憎み、怨み、憎悪を滾らせ、我に向けるのだ。さすれば、その感情は――我の糧になるのだからな! クカカッ」

 

 玉座に座るネコマタは〝破幻城〟に集まる負の念に酔いしれ、うっとりとした表情で言葉を吐いた。

 

 見えているが、そこには存在しない〝破幻城〟。

 夜の静寂に、妖しく光りながら負の念をまき散らしていた。

 

 

 

 あれから二十日経ったテンペスト。

 

 地下秘密闘技場にカヤ、モモカ、ラコル、イリア、メイム、トリアス。

 そして、立会人ヴェルドラがいた。

 

 闇夜影千流の鍛錬最終段階を迎え、ラコル達は本気のカヤとモモカを相手にしなければならなかった。

 

 ラミリスの作った迷宮復活の腕輪を外し、まず仙人化を果たしたトリアスがモモカと対峙し、六十秒持ち堪えたら試練は終了となる。

 

 だが、持ち堪えられず死の一歩手前まで追い詰められ、ヴェルドラのストップが掛かればそれで終わりなのだ。

 

 もし試練に失敗すれば、闇夜影千流の使い手と、名乗れなくなるのである。

 事実上の破門なのだ。

 

 この弟子たちの最終試練にヤエは、一切口出しも手出しも、しないと二人に告げた。

 

 何故なら。

 

 闇夜影千流の現党首は、カヤとモモカなのだからと。

 ラコル達に《頑張るのですよ》そう言葉を送って、静かに見守る様に意識を隠した。

 

 弟子たちの最終試練が始まる。

 

 以前、トリアスがカヤとモモカに言った言葉。 

 

 トリアスは闇夜影千流を継ぐのは、イリア達に任せると言い。

 

 自分は師範代となり、将来は裏の武術として厳選した者にだけ教えていきたいと二人に申し出て、カヤとモモカはそれを了承した。

 あくまでも表の武術は朧流であり、その裏側を闇夜影千流が担えばいいとトリアスは言った。

 

 四ケ月前に十一才になった子供の考えでは無く、まるで大人のような考えをするトリアスだが。

 

 大人のディーナやザーバ、ベゼット達と同じ仕事し、依頼にもいく。

 そんな生活が良くも悪くも、トリアスの精神を鍛えていったのだ。

 

 モモカとの試練が始まり手加減無しの殺意と殺気がトリアスを襲う。

 

 トリアスも己の殺意と殺気を爆発させ、それに対抗する。

 

 旧魔王クラスならそれだけで動きを封じることが出来るそれに、トリアスは耐えた。

 カランビットナイフとダガーナイフを操り、それに体術を加えモモカに攻撃を仕掛けるトリアス。

 

 モモカの小脇差による凄まじく速い斬撃に付いて行くも、徐々に体を斬り付けられていくトリアス。

 

 致命傷になる攻撃をギリギリで避け、残り十秒を切った時に右腕を斬り飛ばされながらも、迫る死を退け……六十秒を耐えきった。

 

 試練が終わりすぐさまヴェルドラが完全回復薬(フルポーション)をトリアスに振り掛けると、斬られた腕が元に戻り、体に付いた無数の傷が一瞬で消えた。

 

 まだ荒く息をしているトリアスに、モモカが声を掛ける。 

 

「仙人の身でよくここまで、来たわね。独自の鍛錬でここまで来たことを、誇りなさい。あなたは、まごう事無き己の力で強くなったのよ。今日から師範代を名乗ることを、許すわ! 更なる精進に励みなさい!」

「は、い……うっ、グスッ……ありがとう、ございます……モモカ、姉さん」

「うむ。見事だったぞ、トリアス。更なる力を付けるべく、精進するがよいぞ。くわーっははは『トリアスよ。聖人になった暁には、お前もカヤとモモカの眷属になるのであろう?』」

「はい、ありがとうございます。ヴェルドラ様『はい。自分の力で聖人になれたら――その時は僕も、眷属になりたいです!』」

『うむうむ。よく言った! それは決して遠回りでないぞ。己の信念を持たぬ力など、意味はなさぬからな! うわっははははは』

 

 表の言葉で語り掛けながら『思念伝達』でこっそり本音を聞く、ヴェルドラ。

 

 両膝を付いたまま涙を拭うトリアスにヴェルドラは、豪快に笑いながらトリアスの頭をポンポンと優しく撫でる。

 

 これより十年後に新しく、闇夜影千流・ナイフ術を編み出す一人の男が、ここに誕生した。

 

 休憩室で待つイリア達は、帰って来たトリアスを労い、試練達成を喜び合う。

 

 次の試練を受けるメイムをトリアスは「がんばれよ!」と送り出し「う、ん。がんばる、の」とメイムが休憩室から出て行く。

 

 メイムも昨日に誕生日を迎え、十一才になっており、その数日前がイリアの誕生日でイリアも十二才を迎えていた。

 

 ラコルは二ケ月前に七才の誕生日を、迎えていたのである。

 

「メイム。わたしの教える事は全て教えたわ。カヤからの教えもこれが、最後。見事六十秒耐えて来なさい」

「は、い。わかった、の。いってきます、モモカ姉さん」

 

 休憩室に来たモモカに送り出され、メイムはカヤが待つ戦いの場へと赴く。

 カヤの横にいるヴェルドラがメイムに、声を掛けた。

 

「メイムよ。我と鍛錬した事を忘れなければ、試練は合格であろう。頑張るのだぞ!」

「は、い。ヴェルドラ先生。ガツン、と、いってくるの」

「うむ! 存分にやれ、メイムよ!」

 

 カヤとモモカはメイムの体術の応用性を上げる為、ヴェルドラにも相手をしてくれるよう頼み、メイムはヴェルドラの手解きも受けていたのだ。

 

「メイム。あたしの技を全て耐え切ったら合格だよ。あんたは、死んでもしばらくしたら再生復活するけども、それを武器にしたら不合格だからね。まあ、殺す気でいくから、気い抜くなよ」

「はい。わかった、の」

 

 ヴェルドラの横で表情を一切崩さないカヤが、メイムに淡々と言う。

 カヤのスイッチは既に、入っていた。

 

 カヤとメイムは闘技場の真ん中で距離を開け、お互いに構えも取らず立つ。

 

 ヴェルドラの「はじめ!」の掛け声と共に、両者は動いた。

 

 お互いが立ってる所に僅かな砂煙を残し、ガガッと拳が交わる音がし、二人が姿を現す。

 

 二人は〝火具突智・改〟を拳両手足に纏い、拳打と蹴りの応酬が乱れ飛ぶ。

 複合属性打撃の操作が上のカヤが、徐々にメイムの多重結界を貫いていく。

 

「むー。やっぱ、り。カヤ姉さんの、方が、術式の操作が上な、の。で、も!」

 

 メイムは後ろに下がりつつカヤの拳と蹴りの連打を捌き、右脚を後ろに引き更に後退する。

 

 それにカヤが誘われる様に前に出て来た。

 

(ここ、なの!)

 

 声には出さず、心の内で叫び技を繰り出す。

 

 後ろに下がると言う〝虚〟に、下げた右脚を軸に力を溜め、その溜めた力が弾ける様に左足が。

 

 〝実〟の蹴りをカヤの腹部に、放つ。

 

 神速の〝火具突智・改〟を乗せた左三日月蹴り。 

 

 パァーーンッ 甲高い大気を裂く破裂音が響き渡る。

 

 完全に誘い込まれたカヤに突き刺さる三日月蹴りは、カヤが股関節をクリッと回し腹部に放たれた三日月蹴りは、カヤの脇腹を掠め抜けていく。

 

 メイムの尻尾の毛がボワワッと逆立ち、最大限の危険が迫る事を知らせた。

 

 カヤはメイムの〝虚実〟にワザと乗り、それを打ち砕いたのだ。

 

 そこは、カヤの間合い。

 

 メイムの虚実を入れた三日月蹴りを躱し、メイムの懐に入ったカヤは拳を密着させた状態から〝鼓打ち〟を放つ。

 

 メイムは〝鼓打ち〟が放たれた瞬間、丹田に全〝魔闘気〟を集中させ、耐えるのではなく受け流すことに全力を傾けた。 

 

 耳を(つんざ)く激音が鳴り響き、メイムは腰を下げたまま両腕をクロスさせ、全身を駆け巡る衝撃波を一点に集め、背中に向けて解き放つ。

 

 メイムの背中がボコっと膨らみ、一気に破裂した。

 

 背中に空いた大穴から鮮血の様に魔素粒子が吹き出し、星幽体(アストラルボディ)まで響いた衝撃にメイムの意識が沈みかける。

 

「だ……め、なの。ここ、で、ひざを――」

「そこまでだ。メイム」

 

 ガクガクと震える両膝を手で押さえ膝を付くまいと耐えるメイムの頭にヴェルドラがポンと手を乗せ、静かに試練の終わりを告げる。

 

 メイムの前に立つカヤに、ヴェルドラはゆっくりと頷くと、カヤが口を開く。

 

「メイム、あんたは――六十秒耐えた。合格だよ、メイム! あんたに闇夜影千流・柔術の、免許皆伝を与える!」

 

 声高らかにメイムに言葉を送ると。

 

「やっ……た、の……」

 

 カヤの言葉を聞いたと同時にメイムの意識が途切れた。

 

 ゆらりと倒れるメイムの身体をカヤが優しく受け止め、そのままお姫様抱っこで休憩室まで運んだ。

 

 休憩室の長椅子に寝かされたメイムに完全回復薬(フルポーション)を振り掛け、イリア達がおめでとうの言葉を送る。

 

 意識が沈んだままなのに、何故かメイムの顔は喜びに満ち溢れていた。

 

 そこへ、モモカがイリアに声を掛ける。

 

「イリア、次はあなたよ」

「はい、モモカ姉さん」

 

 ヴェルドラがいる闘技場中央へ、歩き着くとイリアは腰後ろに差してる小脇差の柄を坂で握り、鞘尻を左手で掴み構えをを取る。

 

 最近小太刀から、刃長四十五センチの小脇差へと刀を変えており。

 

 モモカと同じサイズの刀に変えた事から、小回りの利く素早い太刀捌きと闇夜影千流・柔術の相手の懐に飛び込む技を併用し、めきめきと腕を上げていたイリア。

 

 その最後の試練が始まる。

 

 ヴェルドラの掛け声と共に試練が始まる。 

 

 お互いの刃が交差し弾き合い、火花を散らす。

 モモカの〝爆炎符〟がイリアの周りを囲むと、イリアも〝爆炎符〟で自分を囲み。

 爆炎には爆炎で対抗し、その威力を相殺していく。

 

 しかし、モモカの刃が確実に急所を捉え始め、イリアは焦るも。

 

 「どんなときでも、冷静さを欠いたら死ぬよ」そう言われたカヤの言葉を思い出し、体勢を立て直すべく、〝爆炎符〟の三十連爆をモモカに放つ。

 

 モモカを囲む三十枚の〝爆炎符〟が一気に起爆する。

 連続爆発の轟音が地下闘技場を揺らしていく。

 激しく渦を巻く火球の中から、百枚の黒呪符が回転するように囲んでいた。

 

「へえ、確実に殺す威力ね。いい出来だわ――でも、まだ術の精度が甘い!」

 

 パチンと指を鳴らすと、百枚の黒呪符がイリアに襲い掛かる。

 

 ドンッ ドンッ と大気を揺らす音と共に爆発の衝撃とそれに合わせて空間斬撃が、イリアの体を焼き斬り裂く。

 

 神速再生で体を修復しながら回避し、襲い来る黒呪符を起爆前に小脇差で斬り裂いていった。

 

「やっぱり、あれくらいでは牽制にもならないか――なら!」

 

 パンと眼前で手を合わせ、言霊を綴る。

 

 焼き尽くせ 黒の華 〝闇蓮華〟!!

 

 範囲限定核撃魔法、『破滅の炎(ニュークリアフレイム)』を放つ。

 

 イリアの〝闇蓮華〟はまだ四つ迄が限界で、大きさもモモカの半分くらいの大きさであった。

 

 しかし、イリアは時間差で起爆させ、モモカの意表を突くことに成功した。

 

「やるわね」

 

 一瞬態勢をを崩されたモモカは口端に薄く笑いを浮かべ、口に一枚の黒呪符を横に咥えると。

 

 モモカの身体が陽炎の様に揺れていく。

 

 コマ送りの様に揺れ、実態を掴めなくして行った。

 

 一方イリアも同じように黒呪符を咥え、イリアの体がコマ送りみたく揺れ動く。

 

 同時奥義発動。 

 

 〝闇夜影千流 小太刀術・口伝奥義 幻舞抜刀(げんぶばっとう)月華霧刃(げっかむじん)

 

 お互いを目指して疾駆していく、モモカとイリア。

 

 コマ送りの様に揺れ動く二人の姿が合わさる瞬間――霧に映る影の如く実態を影とし。

 

 無数に分かれた影が、激突する。

 

 ぶつかり斬り合う影が次々と消滅していく中、一つの影がある影の背後に回り込む。

 

 ギィンッ! バッと飛び散る火花に映ったモモカの姿。

 イリアは殺気を隠し、無数の影の中から僅かに妖気(オーラ)の強い影を見つけ出した。

 

 鋭い横薙ぎの斬撃をモモカの背中に見舞う。

 「やった!」そう声を出した刹那――モモカの姿が霧散した。

 

「まだ、殺気を隠しきれてないわよ」

 

 低く、漆黒の闇から響く魂ごと握り潰さんばかりの声が、イリアの右横で聞こえる。

 

 両腕を背中越しに隠し、何故か穏やかな顔のモモカがいた。

 (違う! ()られる)その顔を見たイリアの体内警報が、激しく鳴り響く。

 モモカは完璧に殺気を偽り隠し、斬撃を繰り出してくる。

 

 読めない、反応すらできない、そんなモモカの右から振り降ろされる袈裟斬りにイリアは。

 『考えるな。無意識の中で技を繰り出せ』カヤから教えられた言葉がイリアの頭の中を駆け巡る。

 

 刹那の中、まるでスローモーションの様に見える斬撃。

 イリアは微かに漂う殺気を纏う袈裟斬りに、自分の持つ小脇差の刃で受ける。

 ガギィン 鈍い音が鳴り響くと同時に左からの逆袈裟斬りで斬られた。

 

「あぁ、ぁぁ。鞘に、殺気を纏わせて……」

 

 眼前に立つモモカは、右逆手に鞘を持ち、左逆手に小脇差を持ち。

 両腕を上下に交差させたまま、イリアを見ていた。

 

 〝闇夜影千流・小太刀術 奥義 甲裂双燕(こうさそうえん)

 

 ズルリ イリアの上半身が斜めに斬り裂かれ、今地面に落ちようとする時。

 

「そこまでだ!」 

 

 ヴェルドラの試練終了の声が響く。

 イリアも死力を尽くし、六十秒の試練を耐え切ったのだ。

 

 ずり落ちるイリアの上半身をモモカが抱き支え、完全回復薬(フルポーション)を振り掛けた。 

 

「合格よ、イリア。よくあれに反応出来たわね、詰めが甘かったけども。フフ」

「いえ……私の、完敗でし、た。うっ……グスッ」

 

 イリアは右腕で自分の目を覆い溢れる涙を堪え切れず、頬に落としていった。

 そんなイリアにモモカは、はっきりとした言葉でイリアに告げる。

 

「イリア。闇夜影千流。小太刀術 免許皆伝をあなたに与えます! これからも、更なる精進に励みなさいな」

「は、い。ありがとう……ございます。ヒック……モモカ姉さん」

 

 涙声で答えるイリアの顔は涙でクシャクシャになりながらも、笑顔を浮かべていた。

 

「イリアよ」

「はい、ヴェルドラ様」

「あれはな、我でも判別が難しいのだ。あれに反応出来ただけでも、大したものなのだぞ。誇るが良い! カヤとモモカの弟子としてな! ふははははは」

「はい、ありがとうございます。ヴェルドラ様」

 

 ヴェルドラの言葉にイリアは、笑顔で答えた。

 モモカに支えられながら休憩室に着いたイリアを、ラコル、メイム、トリアスが笑顔で迎えた。

 「おめでとう!」その言葉にイリアは「ありがとう!」と満面の笑顔で返し、四人はしばし抱き合い喜びを分かち合う。

 

 ひとしきりそれを見守っていたカヤが、静かに口を開く。

 

「さて。最後は、ラコル。あんただよ」

「はい、カヤお姉ちゃん。行こう闇丸」

 

 ラコルはテーブルに立掛けてた打刀を手に持つ。

 カヤの千鳥と同じようにラコルは自分の打刀に名前を付けていた。

 

 二人はヴェルドラの待つ、闘技場中央に並び歩きゆく。

 中央に来ると、ラコルとカヤはお互いの間合いの外まで離れていく。

 

 カヤとラコルはヴェルドラの方を見、ヴェルドラは腕を組んだままゆっくりと、頷いた。

 

 それを合図かの様に二人は、腰に差した打刀の鯉口を切る。

 そして二人は、スーッと左に差した鞘を三寸ほど前に出した。

 

 緩やかに、それでいて音も無く静寂の中二人の間合いが、詰められていく。

 カヤの間合い、ラコルの間合いがギリギリ接触する所で止まった。

 

 そこで。

 

 ラコルが内に溜めた殺気を一気に解放した。

 

 言霊(ことだま)が走る。

 

 闇は 光に

 光は、闇に

 光さえも喰らう 闇

 

 アタしは その闇さえも 喰らうもの

 闇を愛し 闇に生き 暴れ狂う殺意さえ愛すもの

 

 アタしは 無情なるもの

 アタしは 闇夜影千流の 使い手

 アタしは ラコル

 

 凄まじい妖気と殺気が解放され、ラコルを中心に青白い魔素粒子が巻き上がる。

 

「ふっ。よくそこまで、ものにしたな」

 

 嬉しそうに口元に軽く笑いを浮かべ、カヤも一気に殺気を解放していった。

 

 闇は 光に

 光は、闇に

 光さえも喰らう 闇

 

 我は その闇さえも 喰らうもの

 闇を愛し 闇に生き 暴れ狂う殺意さえ愛すもの

 

 我は 無情なるもの

 我は 闇夜影千流の 使い手

 我は カヤ・ヤミヨ

 

 大気を斬り裂くほどの衝撃が闘技場内を襲い、轟音を響かせ地響きが迷宮内を揺らしていく。

 

「やっぱり――カヤお姉ちゃんは、凄いや」

 

 狂い乱れる程の殺気がラコルの殺気を喰らわんと襲い掛かるも、ラコルはその殺気を自分の殺気で、受け流していった。

 

 ぶつかり合う二人の殺気。

 それが、いきなり掻き消えた。

 カヤもラコルも己の殺気を、偽り隠したのだ。

 台風の目に入ったかのような静寂が、周辺を包み上げる。

 

「来るわよ」

 

 モモカの言葉をイリア達は、カヤとラコルの戦いに目を釘付けにされながら聞いた。

 

 二人は無造作に間合いを詰め、お互いが五メートルの所まで近づいた。

 そこで止まると、左手は鯉口を切ったまま鞘を掴んでおり、右手はだらりと下げたままでいた。

 

 チンッ チチンッ チンッ 軽やかな金属音だけが鳴り、ラコルの頬が切れ、カヤの髪が幾本か切れ飛ぶ。

 

 見えない攻防。

 

 二人の右手はほんの僅かに残像を残し、刃を抜き、納刀、また抜刀と繰り返し、不可視の斬撃を相手に飛ばしていたのだ。

 

 イリア達は声も出さずに、二人の戦いを目に焼き付けていった。

 

 見えない攻防から、一点。

 ラコルが先に仕掛け、教えられた技の全てを総動員してカヤに挑む。

 

 ラコル〝闇夜・刹月花(やみよ せつげっか)

 カヤ 返し〝闇夜・刹月花(やみよ せつげっか)

 激しく金属同士がぶつかり合うような音が鳴り響く。

 

 ラコル〝紅斬り牙〟

 カヤ 返し〝紅斬り牙〟

 すれ違い様に弾け合う刃、火花の花を散り裂かせる。

 

 ラコル〝闇夜影千流 口伝奥義 逆さ不意打ち斬り 黒椿〟 

 カヤ 返し〝闇夜影千流 口伝奥義 逆さ不意打ち斬り 黒椿〟

 同じ速度で抜かれた刃がぶつかり合い、一瞬刃を重ねたまま止まり、すぐに二人は間合いを空ける。

 

 技と技のぶつかり合い。

 

 ラコルはカヤに教えられた全ての技を繰り出し、カヤはその全てを受け、返した。

 死力を尽くした、弟子と師匠の戦い。

 

 残る最後の奥義……そこで、カヤが穏やかな笑顔を浮かべながらラコルに語り掛ける。

 

「ラコル。あたしの弟子ラコル。よくここまで闇夜影千流の技を、会得したね」

「はい。アタしの夢だったもん! カヤお姉ちゃんの弟子になるのが!」

「そっか」

 

 お互いに軽やかな笑顔で言葉を交わし、カヤが次の言葉を言う。

 

「ラコル。あたしが、教える最後の技だ。一度だけ見せたよね?」

 

 カヤに言われた言葉。

 それは、闇夜影千流・口伝最終奥義の事。

 ラコルはコクリと頷く。

 

「見事、防いでみな」

 

 カヤは愛しそうに言葉を掛け、ラコルに向かって歩き出す。

 

(口伝最終奥義……殺気を隠し偽り、殺気を持って斬る。今のカヤお姉ちゃんにはまるで、殺気も殺意も無い……。でも、アタしを確実に――斬りに来る!)

 

 ラコルも己の殺気と殺意を押さえ静め、深く、深く、内に沈めていく。

 そこからカヤを大好きだと言う思いに、殺気を紛れ込ませていった。

 

 チャリ、チャリ、地面を踏みしめる音だけが聞こえる。

 

 何事も無い様な顔付でラコルとカヤはすれ違う――刹那、剣閃が走る。

 

 〝闇夜影千流 口伝最終奥義・血華落葉(けっからくよう)

 

 空間を歪ませる程の斬撃が、ラコルの首へ放たれる。

 地下闘技場にけたたましい金属音が木霊(こだま)した。

 しかし、カヤの刃はラコルの首に当たるも、皮一枚の所で止められていた。

 

 カヤの抜刀に、ラコルは左逆手で刃を抜き。

 そのまま柄を上にしたまま峰に右腕を当て、カヤの神速の抜刀斬りを首の皮一枚で止めていた。

 

 静かに、イィーンと唸りを上げる二つの刃。

 その唸りはまるで、刃同士がお互いを慈しむ様な音にも聞こえた。

 

 合わさった刃をカヤが静かに引き、千鳥を鞘に納める。

 

 ラコルは急に震えだした膝を支える様に、闇丸を地面に突き立てた。

 

 闇夜影千流の怖さを改めて感じ、カヤが前に言った「えげつない位、殺すことに特化した技なんだよ」その言葉の意味を改めて体感し、「ほんと、怖い剣術だ」下を向いたまま、ポソリ呟く。

 

 ヴェルドラは腕を組んだまま、うんうんと頷き、カヤを見てニカーッと笑って見せた。

 

 その笑いにカヤも、ニカーッ笑い返し、ラコルに声を掛ける。

 

「ラコル、合格だよ。あんたに闇夜影千流・抜刀術 免許皆伝を授ける。ここからが、ほんとの始まりだよ。あんたの、あんただけの技を編み出してみな」

 

 そう言われてラコルは顔を上げると、大粒の涙を流しながら「はい!」と力強く答えた。

 

 稀代の天才剣士ラコル。

 

 その実力はいずれ、刀神ラコルと呼ばれ、数多の魔物から恐れられることになるのだが。

 

 それは、また別のお話である。

 

「じゃあ、(みんな)のとこへ帰ろうか」

「はい、カヤ姉さん」

 

 お姉ちゃんから、自然に姉さん呼びへと変わったラコル。

 それをカヤは自然に受け入れ、ヴェルドラと並び歩き、三人で休憩室に向かう。

 

 ラコルがカヤの腕に抱き付き歩く姿を、イリアが「ラコルずるい!」とぷーっと膨らませ駆け寄って来る。

 

「今日だけは、いいんだもーん」

 

 そんなイリアにラコルは、悪戯っぽく笑い言う。

 

「やれやれ、まったく二人とも子供なんだから」とトリアスは腕組みをして言い。

「まったく、なの」とメイムはちゃっかりモモカの腕に抱き付きながら言っていた。

 

 カヤから離れラコルとイリアは、やいのやいと言い合いを始める。

 それは喧嘩ではなく、まるで姉妹のじゃれ合いの様にも映った。

 

 その光景を見ながらヴェルドラがカヤに言葉を投げた。

 

「まるで、カヤとモモカの妹と弟みたいだな。くわっーはははは」

 

 笑いながら言うヴェルドラにカヤが返す。

 

「そうだね」

 

 そう言ったカヤの目は、めったに見せない本当の穏やかな目をしていた。

 

「ヴェルドラ。今日は立ち合い、ほんとうにありがとう」

「礼を言われ程の事はしておらんぞ?」

「いや。あんたが居てくれたから、あたしとモモカは、本気であの子達と戦えたんだ」

「そうか。お前の弟子も中々によい育ち方を、してるではないか」

「ゼギオン程じゃないよ。鍛え過ぎじゃない? ククク」

「いいのだ、あれは! わはははは。して、カヤよ」

「なに?」

「我は思うのだ。お前の横に並び立ち、一緒に歩んでくれる者。それはあの者らもそうではないのか?」

「うん……確かにそうだね。あの子達も一緒に歩んでくれる――大事なあたしとモモカの弟子だ」

「ならば――何百年、何千年掛かろうとも、弟子のところへ帰って来なくてはな」

「ほんと、だね……でき……」

 

 ヴェルドラが言った言葉にカヤは途中まで言い掛けた言葉を止めて、ラコル達を見ていた。

 

 そこへカヤの左肩にポンと手を置きヴェルドラは「足掻け」そう一言言うと。

 ラコル達の方へ視線を移した。

 

 カヤは左肩に乗せられたヴェルドラの手に、自分の右手を重ねる。

 ヴェルドラは少し恥ずかしそうに指で頬をポリポリ搔いていたが、手を退ける事はしなかった。

 

 ここに弟子たちが巣立った。

 

 ここからは、独自に各々の技を磨き、闇夜影千流を更に強固な武術へと昇華させることを目標とする事となる。 

 

 

 秋の始まりを告げる心地よく拭く風に、ジュラの大森林の樹々たちが枝葉を揺らし唄う。

 

 ネコマタと姉妹との最後の戦いは、すぐそこまで迫って来ていた。 

 

 

 




 七十九話を読んで頂きありがとうございます!

 それでは、次回の更新も読んで頂けたら幸いです。




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