転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました 八十話です。

 ※作中使用の特殊フォントは、〝C6N2様〟作成のフォントを使用しています。




八十話 アタしはどこにもいかない

 

 

 モモカの予知夢が告げた日まで、残り十八日。

 

 

 モモカはラミリスを連れて世界各地を巡っていた――

 ラミリスのお供ベレッタを連れて。

 

 ベレッタは懐から水晶球を取り出すと、ほんの少し魔力を送り込み起動させた。

 

 すると水晶球から立体映像が映し出される。

 それはこの星に流れる地脈を表す地図であった。

 

 更に『魔力感知』で地下に流れる地脈と、映し出された地脈を表す地図と照らし合わせ、軽く頷いた。

 

「ラミリス様、モモカ様。ここで最後です」

「そう。ベレッタちゃんご苦労様! モモカ、ここが最後よ!」

「わかったわ」

 

 ラミリスがそう言うとモモカは右足の爪先で地面に魔法陣を描いていく。

 まるで舞う様にふわりふわりと、円を描くように動いていく。

 

 魔法陣の中に古代語が浮き上がる。

 

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 (我が言霊(ことだま)は 禁忌の調べ そこにあるが どこにも存在しない)

 (ならば 我が言霊に触れるは誰ぞ? 紡ぎし言霊は 何者も寄せ付けぬ)

 (我が言霊は 全てを 拒絶する)

 

 魔法陣の中で赤く光る古代文字。

 

 全てを書き終えて、トンと軽く足を踏み鳴らすと。

 

 魔法陣の縁に黒呪符がずらりと並び立ち、回転を始め地中深く存在する地脈に向かっていった。

 

 やがて地脈に達すると魔法陣の縁に並んでいた黒呪符が合わさり、黒い鳥居を形成し、その中心に魔法陣が固定された。

 

 それは、地脈に展開された結界であった。

 

《モモカ、お見事です。これで、最後の一手を遅らせる事が出来ますね》

『ええ。上手くいけばいいけども……試すことも出来ないから、ぶっつけ本番になるわね』

《それでもです。ナハト父様の記憶にあった古代呪符術に、闇夜家の呪符術を掛け合わせ、新たな黒呪符術を作り出すなんて》

『わたしに出来る事を、やっただけよ。ヤエ』

《そうですね。打てる手は全て打ちました――後は、ネコマタを倒すのみです!》

『ええ、その通りね。ヤエ』

 

 ヤエと話してる所にラミリスが話しかけて来る。

 

「モモカ、どうしたの?」

「え? ああ、どうもしないわ。終わったわよ」

「そう。ねえねえ、ほんとうに、この術はアンタに負担はないんでしょうね?」

「大丈夫よ、ラミリス。ありがとう、心配してくれて」

「ラミリス様はあれ以来、あなた方の心配をいつもしています。必ず、必ず、おか――」

「ベレッタちゃん!」

 

 ベレッタの言葉を途中で遮り、ラミリスはベレッタの右肩に止まると、そっとベレッタの頬に左手を当て静かに首を横に振り微笑んだ。

 

 その意図を察したベレッタはモモカの方に向かって、軽くお辞儀をする。

 それにモモカは優しい笑みを、浮かべ返す。

 

 地脈の状態を確認したモモカは、ラミリスとベレッタを連れてテンペストに『空間転移』して行った。

 

 

 一方その頃のカヤは。

 

 もう、やることもやったし、後は待つだけとばかりに……だらけていた。

 

 ヴェルドラの部屋のソファーに寝そべり、テーブルに置かれた大皿に盛られたポテトチップスをポリポリ食べながら、マンガを読みふけっていたのだ。

 

「ねえー ヴェルドラ~ 次の第十七巻はどこ~」

「ん? そこの棚に入っておるぞ」

「んや、ここか? おおー あったあった」

「カヤ。先程まで読んでおった、格闘マンガの四巻はどこに置いたのだ?」

「え? あぁ、そこそこー」

 

 カヤはヴェルドラの問いに、尻尾の先でテーブルの横をチョイチョイと指し示す。

 

 ヴェルドラはその指し示す方に行き、目当てのマンガを手に取り、寝そべるカヤの頭の横に座り、またマンガを読み始める。

 

 カヤに付いてきたラコルは、同じようにマンガを読んでいた。

 イリア、メイム、トリアスは家庭教師が来る日なので、焼き鳥ねこまんま二階でお勉強中である。

 

 ラコルがラミリス愛用の少女マンガに夢中になり、ひたすら読んでいると……そこへ。

 

 デッデッデ― デェエデデー デェデデー デェッデッデー

 

 いきなりカヤの袂から不穏な音楽が鳴り響く。

 ピクリと尻尾を揺らし、やおらパシンパシンと尻尾でソファーの縁を叩きだした。

 

 して、カヤの顔は……とても嫌そうな顔で猫耳を伏せていた。

 

 それは袂に入れてある、〝携帯電話〟からの呼び出し音であった。

 いつまでも出ないカヤに、ラコルが問う。

 

「ねえ、カヤ姉さん。それ、でなくていいの? その呼び出し音は大姉様だよね?」 

「ん? 誰だその者は?」

「え? ああ、ちょっとしたした知り合い、かな」

「ふむ。そうか」

 

 ヴェルドラはカヤの返答に別段気にする事も無く、マンガのページをパラリと(めく)る。

 

「ねえ、出た方がいいと思うよ。カヤ姉さん」

「いいんだよ、ラコル。どうせ、また厄介ごと押し付けて来るから、いない振りでいいんだよ!」

「でもぉ、それ、ぜったいバレてると思うけど。アタしに「いない振りした時は、報告よろしくねえ」っていってたよ?」

「なんじゃとー! あんのバ……くそ、しかたない」

 

 ラコルの言葉にしぶしぶ袂の空間収納から〝携帯電話〟を取り出し、自分の周りの音を遮断すると通話ボタンをポチった。

 

『あい、もしもし』

『あら~ カヤちゃん。いたのねえ。いないかと思ったわよ~』

『いや、あの、ちょっと用を足しに』

『ほ~ん。カヤちゃんにそんなのは、ないでしょ?』

 

 つまらない言い訳をした途端、〝携帯電話〟でのエルメシアの声が、明らかに目が座ったような声に変わり、カヤがすぐに訂正する。

 

『あー、はい。ないです』

『それでねぇ。用と言った程ではないんだけどお~。あの件、今日そちらに行くから、よろしくね~』

『はい? ち、ち、ちょっと待って! なあ、エル姉さん。そうほいほい皇帝が、出歩いていいんかい!』

『大丈夫よお~。カヤちゃんとモモカちゃんと言う、最強の護衛がいるじゃなあい』

『いや、そうじゃなくてね。気軽にうちへ来られても、その、準備と言うものがですね――』

『そうそう、旧サイファーのメンバー全員とぉ、夜蝶組からは、イサカと女纏め役のフォンテーヌ。商人組からはぁ、ナガンとぉ、三人娘のステアちゃん、ヴィカちゃん、シプカちゃんを、呼んでおいてねえ』

『いや、だからですね。えーと、聞いてます? エル姉さん』

『そう言えばあ、(ちん)が小耳に挟んだ事なんだけどう。あんなことや~ こんなこととかあ~ やったのって――ほんとなのかしらあ?』

『ふにゃ!! ななななな、なにをいってるのかにゃ?(あ、あああ、あれか? いやいやいや、あれなのか?)』

『でも~ カヤちゃんも、色々な所でお金がいるだろうからあ~』

『――はい。ごめんなさい! あの件、至急準備しますね!』

『いい子ねえ~ じゃあ、よろしく頼むわよ~』

 

 そこでプチッと携帯電話は切れた。 

 

(なんで……エル姉さんが、あれや、これを知ってるんだ? あぁぁ~ 監視か!? 監視がいるのか!? いや、それはない。ぬわぁぁー わからん! くそー 尻尾がムズムズするーーーー )

 

 モモカ以外でカヤのやり過ぎを、諫める事が出来る人物。

 エル姉さんこと、エルメシア皇帝。

 カヤが頭の上がらない人物、TOP4に入る人物である。

  

 モモカ、ルミナス、エルメシア、そしてリムル、この世界でカヤの手綱を握れる、唯一の存在。

 

 この四人を知る人物たちは、口を揃えて言う――

 世界崩壊を防ぐ盾だと。

 

 カヤが知ったら「なんだとー!」と激オコ案件だが、それだけカヤの力が天災級(カタストロフ)である証拠でもあったのだ。

 

「ああぁー ラコル~ 今から言う者にさあ、今夜テンペストに来るよう伝えてくれるかな。今日の依頼は全てキャンセルで。これ最優先事項ね。旧サイファー組全員と夜蝶組のイサカとフォンテーヌに、商人組からは、ナガンと三人娘に、必ず遅れることがないよう伝えるんだよ」 

「はい、わかりました。カヤ姉さん。今夜、大姉様が来るんだね?」

「そう。あぁー ほんと皇帝が気軽に出歩くなよなぁ。ねえ、ラコルもそう思わない?」

「え? えーと、アタしには難しくてわかんないや。それじゃあ、いってきます!」

「逃げたな? まあいいか、フヒヒ」

 

 その夜、焼き鳥ねこまんまの地下会議場に用意された一際豪華な椅子に、一人の女性とその椅子の横に護衛の様に立つ男性がいた。

 

 モモカの黒呪符術〝幻隠〟を掛けられたその二人は、そこに居るベゼット達には姿が認識できずにいた。

 

 カヤが小声で「どうしてもやるの?」と聞いていて、その聞かれた主は「もちろんよぉ~」と言い。

 

 モモカに〝幻隠〟を解くように言う。

 

 カヤが一緒に来ている男性の横に行き、エルメシアに聞こえない様に声を掛ける。

 

「ねえ、エラルド公。なんで止めなかったんだよ。いいのか、こんなとこで素性を明かしても? めっちゃ、まずいだろうが!」

「あー、カヤ殿。一度言い出したら聞かぬことぐらい、知ってるであろう? 更なる諜報機関を得て、大層ご満悦であるからなあ……。実際、今現在陛下の居室には、〝幻隠〟の黒呪符が張られていて、誰も気に留めない。いつも通り陛下が居室にいると、お付きの者も皆思ってるであろうからな。だから、今この場所にいるのは――大姉様と、言う事だ」

「あー、モモカが用意した〝転移陣〟と〝幻隠〟かぁ。大変だねぇ……エラルド公も」

「ふむ……お主もな」

 

 二人で訳の分からない慰め合いをしてる所に、モモカの声が響く。

 

「今から、大姉様からの言葉と姿を拝謁することになる。皆、この事は一切の他言は無用! もし洩らせば、死より辛い責め苦を味わう事になるわよ!」

 

 覇気の籠ったモモカの言葉に、その場にいたベゼット達全員が無言で片膝を付き、頭を下げる。

 

 パンと短拍手の音が鳴ると、今までぼやけていた二人の姿が露わになる。

 

 一人は豪勢な椅子に足を組み座り、右手に開いた豪華な扇子で優雅に自分を扇いでいる風精人(ハイエルフ)。 

 

 もう一人は高位の貴族が着る服を着た耳長族の男。

 

 魔導王朝サリオンを統べる、エルメシア皇帝がそこにいた。

 

 ベゼット達全員は、呆気にとられた顔でエルメシアを見て、それをカヤとモモカが「そうなるよねぇ」と苦笑い気味に言う。

 

 普通ならベゼット達など、一生かかっても顏を拝めない存在である。

 

 パシリ 右手に持った扇子を軽く左手の平に当て閉じると、緩やかに口を開く。

 

「朕がお主らのボスである。カヤちゃんとモモカちゃんのボスよお~」

 

 その砕けた物言いにエルメシア以外の者皆が、目を丸くした。

 

 エラルド公は「陛下! 流石にそのような言葉はお控えください」と慌て。

 カヤは「あー、あたしゃ知らね」とさじを投げ。

 モモカは額に手をやり「エル姉さん。さすがにそれは、皆がびっくりします」と苦笑いで言う。

 

「エラルド。今は皇帝ではなく、ネコマンマ商会の大ボスとして、いるんだけどもお。あなたも公爵ではなく、朕に情報を持って来るこの者達の、パイプ役としているのよお」

 

 大ぴっろげにエラルドの身分も明かし、ころころと笑い言うエルメシア。

 

 しかし、ベゼット達はエルメシアの意図に感づいていた。

 

 そう。

 

 もう後戻りは――決して出来ない。

 

 魔国連邦の重鎮の一人が〝三賢酔(リエガ)〟にいる事から、うすうす感付いていたベゼット達。

 

 ここで、まさかの大物が出て来るとは、誰も思ってなかった。

 

 この事により、〝三賢酔〟の残る一人の大物についても確信を得たベゼット達たちだが。

 

 それを口に出す事はおろか、頭に思い浮かべる事も打ち消した。

 

 そこへ、更にもう一人後れて現れる。

 

 白く透き通るかのような長い髪に軍服を着た、女性。

 テスタロッサである。

 

「遅れまして申し訳ありません、陛下」

「いいのよお~ 急だったしぃ。これで、ネコマンマ商会の主な者は集まったわねえ。それでは始めましょうかあ」

 

 ネコマンマ商会のこれからの役割。

 

 カヤとモモカの不在時を取り仕切るテスタロッサの事。

 

 組織の本質は変わらず、諜報活動、各種要人警護、戦闘アドバイザー。

 そして――暗殺を行う事。

 

 決して表には顔を出さず、闇に紛れ暗躍する集団としての徹底した情報管理。

 

「こんなところかしらねえ。わかっているとは思うけどもお。あなた達は――必要悪。綺麗事だけでは世の中、回らないものねえ。これからはテンペストの暗部との連携も増えるだろし、朕の依頼も増えると思うからよろしくねえ~」

 

 ころころと言うエルメシアの言葉に、ベゼット達一同は頭を下げたまま聞き入っていた。

 

 そんな中、テスタロッサがカヤとモモカに『思念伝達』話しかけて来た。

 

『あなた達、中々うまい具合に感情を食べたじゃない。グリの娘だけあるわね。ふふっ』

『え? ああ、まあねぇ。最初は何となくだったんだけどねえ。ククッ』

『そうね。意識はしてなかったんだけども、カヤと同じで何となく気付いたと言うとこかしら。フフッ』

『ほんと、最初は加減が難しかったんだよねえ』

『一番苦労したのは、あの子でしょ?』

 

 カヤの言葉にテスタロッサがマリラを指して言う。

 

 悪魔族は他者の感情を喰らう。

 

 その元悪魔族のグリの娘なら、同じように感情を喰らう事が出来るのも道理であった。

 

 それに気付いた二人は、精神が壊れかけていたマリラの人を憎む感情を少しづつ食べていき。

 

 それと併用して、狂気の感情を食べていき、狂気を薄めてそのまま固定した。

 

 マリラの強さの根源は狂気。

 

 それを壊さない様バランスを取りながら憎しみの感情だけを、ほぼ喰らい尽くしていたのだ。

 

 完全には消さない。

 

 上手く精神のバランスを取りながら、壊れた精神を直さず、そのままバランスを取る手法。

 

『初めてにしてはよく出来てるわね。全ての感情を食べ尽くすことは、本人にも悪影響出るから。その辺のさじ加減は、大変なんだけど。これも本能なのかしらね』 

 

 テスタロッサは興味深そうな顔で二人に微笑み語る。

 

『しかし――見事に配下の者達の、精神バランスを取ったものね』

『まあ、乱破ノ里に伝わる〝陰陽反心ノ法〟を元にやっただけなんだけどねぇ』

「ねえ、カヤ。後で、その〝陰陽反心ノ法〟とやらを詳しく教えてくれないかしら?』

『ん? いいよ~。でも聞いてなにすんの?』

『どうもしないわよ。興味があるからだけよ』

『そう、悪魔族らしいね。フヒヒ』

『あなたも半分は、悪魔族じゃない。ふふ』

 

 そんな話を繰り広げていると、エルメシアの話も終わり。

 

 エラルド公とベゼット、アネーロが情報の受け渡しのやり方について談義を始めていた。

 

 残る者は、改めて一人一人エルメシアの所へ、挨拶と自己紹介を始めていた。

 

 モモカはそれを見て、外で警護をしているラコル、イリア、メイム、トリアスに『思念伝達』で会合が一段落したことを告げる。

 

 夜も深まった頃にネコマンマ商会の極秘裏に行われた会合は、終わりを迎えた。

 

 カヤとモモカの心残りの案件もほぼ片付き、ネコマタ襲撃までの短い日々が始まる。 

 

 

 

 

 /////ここからラコル視点/////

 

 あの夜の会合から三日経った頃、一つの依頼がネコマンマ商会に来たんだ。

 

 それはね。

 

 獣人の子供、若い女性を主に狙い誘拐拉致する、小集団の情報。

 

 その小集団は今まで目立った情報が無く、存在が闇に包まれてたんだ。

 

 人数が少ない手練れの集団。

 モモカ姉さんが言ってたけど、こう言う少人数の集団が一番厄介なんだと。

 人数が少ない故、情報漏れが殆ど無いと言う事らしい。

 

 その小集団の実態が判明し、秘密裏に処分してくれと〝藍闇衆(クラヤミ)〟の頭領、ソウエイ様からネコマンマ商会に依頼が来たんだ。

 

 その依頼が来た時にアタしはアネーロさんから、呼び出しを受けたんだよ。

 

「ラコル。昨日来た依頼なんだけど。調べた所、どうもあなたに因縁がある小集団みたいなの」

「えと、どう言う事です? アネーロさん」

「簡潔に言うわね。この小集団はあなたの両親を――襲った者達よ」

「えっ!?……奴らが……見つかったんだ……あいつら、が」

「ラコル。殺気が漏れ出てるわよ」

「あ!? ごめんなさい」

 

 アネーロさんの説明にふつふつと沸き上がる怒りと殺意を指摘され、アタしはすぐに内へ押し込めた。

 

「それでね。カヤ姉さんとモモカ姉さんがあなたにこの依頼の事を話して、あなたがこの依頼の任を受けると言うなら、任せると言ったのだけど。受ける?」

 

 アネーロさんが話す言葉にアタしは、あの時の事を思い出す。

 パパとママと荷馬車に乗り、行商の旅をしていた時の事を。

 そんな、楽しい日々に割り込み、パパとママを襲った奴ら。

 旧街道に、コボルドの行商人がいると言われパパはそこに向かったんだけど。

 いたのは……黒いフード付きのマントを来た八人組の男達だったんだ。

 

 すえた汗くさいフードを目深に被り、いきなりパパとママを斬り付けた男達。

 アタしは何もできずに、ただ……泣く事しか出来なかったん、だ。

 リーダと思われる一人の男が「このガキを連れて行けいけ」と言ったら、急に男達が周りを見回し始め、「何か来る……やばいなこの妖気(オーラ)は。引くぞ!」と言って、即座にその場から消えたんだよ。

 

 その後に、カヤ姉さんとモモカ姉さんが来て……パパとママを助けてくれたの。

 

 あれが出会いであり、アタしのもう一つの始まりであったかも知れないかな。

 アタしがカヤ姉さんの闇夜影千流を習いたい、弟子になりたいと思ったのは。

 

 そんな事を思い出してると、アネーロさんが再度聞いてきたの。

 

「ラコル。どうするの? 受ける?」

「……はい。受けます」

「そう。わかってると思うけど――」

「大丈夫です。私怨などないです。あるとしたら、怒りと殺意だけかな。でも、それも依頼なら押さえますけど。闇夜影千流を使いこなすのに必要なだけだから」

「ならよろしい。依頼内容は、リーダ格の捕獲、後は処分。いい、常に冷静にね」

「はい! アネーロさん」

 

 ネコマンマ商会の依頼の受付と金庫番を預かる、優しいけど厳しくもあるアネーロお姉さん。

 

 アタしは、その依頼を受ける事にしたんだ――

 ネコマンマ商会の一員として、ね。

 

 アタしの中にある、小さな小さな、傷。

 

 それにけりをつける為に。

 

 依頼の任を受け、アタしは再びあの旧街道に来ていた。

 

 小集団の名は、〝バイパー〟

 

 この組織は、あらゆる奴隷商人に品を卸していたんだ。

 パパと一時期取引をしていた貴族も、この組織によく依頼をしていたらしい。

 

 今はその商人貴族も、テンペストでの商売権を取り消されて、落ちぶれてしまったんだけどね。

 

 ふふふ 自業自得だね。

 

 少し日が傾き始めた頃。

 

 人気のない旧街道に止めた荷馬車の近くに、音も無く八人組の男達が現れた。

 

 奴らを嵌める為に偽の奴隷確保の情報を、ソウエイ様の組織が流していたんだ。

 

 スンスン

 アタしは鼻を鳴らして、風に乗って来る男達の匂いを嗅いだ。

 

 間違いない あいつらだ 忘れもしない あの汗のすえた臭い 

 

 気配を偽り周りの気配と同化しているアタしは、木の上から奴らを見下ろしていた。

 

 

「おい、おかしくないか? 誰もいないぞ」

 

 一人の男が目深に被ったフードを下ろすと長い髪を後ろで一括りにした優男風の剣士だった。

 

 へえー 剣士かぁ

 と、すると。

 冒険者崩れか、どこかの国の兵士だったか騎士だった者のかな?

 

 おや? 引こうとしてるな うん 引き際がいいね 

 

「引くぞ。罠の可能性がある」

 

 そう男が言った所にアタしは、木の上から飛び降りた。

 

「「「「「「「「だれだ!?」」」」」」」」

 

 一斉に八人の男達がアタしに振り向いた。

 

「獣人専門に誘拐拉致を生業にする組織、バイパーだね?」

 

 アタしがそう言うと、もの凄く訝し気に男達がアタしを見ていたのだけど。

 

 まあ、仕方ないよねぇ。

 

 こんな可愛い亜人の姿をした、〝妖霊獣(スペクター)〟だもの。うふふ

 

「何もんだ、獣人のガキ」

「ん? うーんと、ね。〝妖霊獣〟という種族なんだけど」

「聞かねえ種族だな」

 

 そうだろうねえ 新種だもの ふふっ

 

「どこのもんだ?」

「あなたたちを、始末してほしいと言われて、来たんだよ」

「「「「「「「「なに!?」」」」」」」」

 

 びっくりした? びっくりしたよね この男の人たち。 

 こんな暗殺者とかいないもんねえ。

 

 えーとこの人たちの能力は、と……。

 

 ふーん 全員Aクラスかぁ 冒険者やってればそれなりに食べれるのになあ。

 

 まあ、やっぱりお金だよね 大金が動くとなれば、そっちが楽なのかな。

 

 既に五人はアタしの前に立ち塞がりつつある、と。

 横にずれた三人の中にバイパーのリーダがいるのかな?

 

 よし いこう 闇丸

 

 闇丸の鯉口を切り、アタしは身を沈め。

 左足を後ろに引き、右足を折り、弾け飛んだ。

 

 〝闇夜影千流 抜刀術 神閃・紅斬り牙〟

 

 一瞬にして、五人の男達の後ろまで移動した抜刀斬り。

 

 アタしの斬撃に、あっけなく血肉の塊と化してその場に哀れな肉塊と成り果てた五人の男たち。

 

 右に振り抜いた刃を、右斜めに振って血振りをする。

 

 バッと飛び散った血糊が地面に綺麗な線を描いていた。

 

 闇丸を鞘に納め、アタしは三人の前に立ち、誰がリーダか問うた。

 

「ねえ。誰がリーダなのかな?」

 

 でも、三人の男は誰もが恐怖で顔を歪め、ガタガタと震えていたんだ。

 

 圧倒的な力の差、

 

 そうだよねえ、怖いよねえ、アタしもミリム様とかヴェルドラ様に稽古を付けてもらう時、こわいもん。

 

 で、もう一度聞こうとしたら。

 二人の男が大声で叫びながら、その場から逃げ出したんだ。

 

「うあああああああっ。バケモンだああああああ!」

「助けてくれぇえええええ! だれかぁああああああ!」

 

 うーん。

 

 悪党なら悪党らしく出来ないかなあ。

 

 まあ、いいかな。

 

 アタしは二枚の〝黒呪符〟を出し。

 二人の男目掛け飛ばした。

 

「斬り裂け。〝歪影紙(ひずみかげかみ)〟」

 

 アタしは言霊と短拍手を一つ鳴らした。

 

 歪曲した空間が二人を襲い、斬り裂き、断末魔の声と共に、血の海に沈んだ。

 うん、上手く制御出来たかな。

 

「ねえ、あなたがバイパーのリーダかな?」

 

 残った男に再度聞いたら、その男はフードを下ろした。

 

 短く髪を刈り上げた、イケメンの男だった。

 

 うーん……人は見かけによらないとは……。

 

 ほんとだったねぇ。

 

 と、そんな事を考えてたら。

 

 いきなり腰に下げたブロードソードを抜いたよ。

 あー不意打ち斬りだぁ~。

 

 でも、遅い。

 

 ブロードソードを半分まで抜いた所に、アタしの柄蹴りが当たって、ブロードソードを後ろへと蹴り飛ばしたんだ。

 

 そして、闇丸の柄頭で男の水月を打ち、昏倒させた。

 

 信じられないと言った顔で、ズルズルと崩れ落ちる男を、アタしは何の感情も無い顔で見てた。

 

 終わった。

 

 あっけなく、終わった。

 

 あの時泣き叫んでいた、アタしは……闇夜影千流の使い手となり、再びここに来た。

 

 人を斬った。

 

 でも、そこに後悔も、自責の念も無かった。

 

 あるのは ただ 終わった。

 そう 依頼が 終わったと言う 事実だけだった。

 

 アタしは『念話』をアネーロさんに飛ばし、依頼を果たしたことを報告する。

 

『アネーロさん。終わりました。リーダは確保しています』

『ご苦労様。ラコル、一度こちらに帰って来てくれるかしら?』

『リーダはどうします?』

『すぐに〝藍闇衆〟の者が引き取りに来るわ』

『はい、わかりました。引き渡したら、すぐ戻ります』

『それじゃあ、待ってるわね』

 

 そこで『念話』を切り、〝藍闇衆〟の者が来たのでリーダを引き渡し、アタしはホッと一息をついたら。

 

《ラコル。大丈夫ですか?》

『あ、ヤエ姉様。ありがとうございます。心配には及びません、大丈夫です!』

《そうですか。安心しました。カヤもモモカも心配してましたもので》

『そうなんだ……嬉しいな、心配してくれてたんだ』

《あたりまえです! あなたは、大事な私達の眷属なのですから。それ以前に――カヤとモモカの大切な友人なのですよ、ラコル》

『うん! カヤ姉さんモモカ姉さんも、だーい好き! もちろんヤエ姉様もね!』

《ありがとう、ラコル。あなたは、あの子達に取って特別な一人なのです、これ言うとイリアが怒るかも知れませんね、ふふふ》

『でも、みんな――大事な者になってるよ!』

《そうですね……みんな、カヤとモモカの……》

 

 そこでヤエ姉様の言葉が途切れたけど、何故かヤエ姉様も嬉しそうだった。  

 

 カヤ姉さんとモモカ姉さんに出会い。

 

 アタしの未来は変わったのかな?

 

 ほんとは、ここで死んでるか、どこかに売られていたのかも知れない。 

 

 でも……今アタしは、ここにいる。

 

 闇夜影千流・免許皆伝の使い手として。

 

 

 アタしは どこにもいかない(・・・・・・・・)

 

 

 ここにいるんだ

 

 

 そして――カヤ姉さん、モモカ姉さん、ヤエ姉様の。

 

 帰りを、まつんだ 

 

 

 ネコマタとの戦いから、帰ってくるの、を。

 

 

 




 八十話を読んで頂きありがとうございます!

 次回の更新も読んで頂けたら、幸いです。

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