モモカの見た予知夢の期日迄あと、六日。
快晴の早朝、カヤとモモカは自宅と敷地を覆う結界の敷設をしていた。
「これで、いいわね」
「だね。これで、ラコル達以外にこの結界を解除できる者はいないよ。それにしても、いい天気だねぇ」
結界の確認をして、カヤは空を見上げていた。
ラコル達は既にモモカの防御術式を展開させる為に、担当する国々へ赴いていた。
ラコルはファルメナス王国へ。
メイムはドワルゴンへ。
イリアはブルムンド王国へ。
そしてイングラシア王国へは、テスタロッサの右腕と言える配下モスが、モモカの術式展開に備えて待機していた。
「なあモモカ」
「なに、カヤ」
「この家さ。何回吹き飛んだか、覚えてる?」
「うーん。五、六回くらいかしら?」
「七回だよ、モモカ。喧嘩するたびに、ここら一帯吹き飛ばしたからなぁ。ククク」
「あんたが悪いのよ。盗み喰いなんかすらから。フフッ」
「そのたびにゴブキュウが来て、「姐さん方、勘弁してくださいよ」ってボヤいていたよね。ウククク」
《ほんとうにこの子は。何でこんなに食いしん坊になったのかしら。おまけに大酒飲みだし。困った妹です》
『ヤエ~ あたしの体を貸してる時に、焼き肉屋に行ってたよね? そんで、ビールしこたま飲んで無かったっけ?』
『あらま。ヤエもお酒好きなのね。フフフ』
《なななななな、何を言ってるのです、カヤ! あれはですね、ちょっとお肉が美味しくて、出て来たビールがですね、その、何て言うか……おいしかったもの、で。ゴニョゴニョ》
『まあいいじゃない。それでこそ、わたしたち姉妹なのよ。ヤエ、カヤ』
『だね。モモカ、ヤエ』
《ですね。カヤ、モモカ》
カヤとモモカはテンペストに向かって歩きながら、ヤエを交えてここに来た時の事。
出会った魔王や魔物、人間などの事を笑いながら話していく。
カヤは思う。
今でも人間は嫌いだよ。
でも、そうじゃない人間もいた、ミョルマイルやヒナタ。
そして、ネコマンマ商会のみんなや、魔国に関与する者たち。
魔物になって、よかったと思ってる、ほんとうに。
あたしはこの国が好きだ! みんなが好きだ!
だから――あたしはこの国を……せめてリムルが愛する者達を、守りたい。
そして……あたしの……好きな人達がいるこの世界を、守りたい。
モモカは思う。
人間に興味は無いわ。
でも、そうでない者も出来た。
今度こそ、守って見せる。
もう、二度と乱破ノ里や、猫神ノ里みたいにさせない。
手の届く範囲でしかないけど、必ず、守って見せる。
わたしは、わたしのケジメを付けないといけないわ。
始まりのあの日……そして……。
ヤエは思う。
私はカヤのスキル、〝
何故、〝
どんなに、どんなに、どんなに検索しても、それはわからなかった。
自ら望んでカヤの力になったのに、あの子達を見ていると……。
二人を、抱きしめたかった――
できれば生身の手で、二人を抱きしめてあげたかった。
でもそれは、もう出来ない。
私はカヤの〝
だから、この能力の全てを使って二人を助ける。
ネコマタとの戦いに勝つため、に。
それぞれの思いを乗せ、三姉妹は快晴の空の下を歩いていく。
完全にテンペストに馴染んだ二人は、農作業に向かうハイオークやホブゴブリン達と軽く挨拶を交わしていく。
カヤとモモカはテンペストの町に着くと、お互いに別の所へと足を向けて行った。
モモカはシュナの工房に行くと、シュナが奥から出て来て手招きをする。
奥の部屋に来るとシュナは扉を閉め、広い台座の上に被せてある布を取った。
そこに現れたのは。
「モモカ、あなたが注文した物が出来ました。こちらです」
「これね」
布を取った台座の上には、大きい魔鋼で出来た物体が横たわっていた。
その物体の横に、長さ107mm、幅15.24mmの円筒形なる物体が二十個並んでいた。
ずしっりとしたその物体をモモカは軽々と右手で持ち。
あちこち触り確かめ、目を細め満足そうに頷く。
「シュナ、ありがとう。注文通りだわ。流石ね、あなたの『
「いえ。まだまだですよ、私なんて。ふふふ」
手に持った物体を『重力支配』で角帯の腰後ろに固定し、パンと叩き角帯の空間収納にそれを仕舞う。
「モモカ。開発に時間が掛かり、それを試験する暇がありませんでした。出来れば、一度試験をしたかったのですが……」
「構わないわ、シュナ。あなたの腕を信用してるし、カイジンやベスター達も手を貸してくれたんでしょ? なら、問題ないわ。ほんとに、ありがとう。シュナ」
ふわり柔らかい笑みでシュナに言い、シュナも同じような笑みで返した。
それからモモカは、円筒形の物体を一つ一つ手に取り、何かを仕込むような仕草で手に握る。
しばらくするとまた台座に置き、次の円筒形物体を手に取る。
ニ十個の円筒形物体に何かを仕込む動作を終え。
四枚の〝黒呪符〟を取り出し、それぞれ五本づつ〝黒呪符〟の空間収納に収納していった。
その作業が終わり、モモカはシュナに御礼を言い、そこから立ち去ろうとした時。
「モモカ……。いえ、何も申しません。いってらっしゃい」
シュナは言い掛けた言葉を飲み込み、にこりと微笑むと。
両手を前に揃え深々と腰を折り、モモカを送り出した。
それにモモカは、シュナに向かって同じように腰を折り。
「いってきます」
そう返し、部屋を後にした。
部屋を出ると工房にいるゴブリナ達全員が、モモカに向かって皆が深々と腰を折り頭を下げていた。
モモカは、ゴブリナ達全員に同じように返し、顔を上げるとその表情は。
暗殺者の顔だった。
ゴブリナ達はモモカが工房から出るまで、誰一人顔を上げる者はいなかった。
一方カヤは、ヴェルドラの部屋に来ていた。
ソファーに座り、背の高いグラスに入れたカクテルを飲みながら、ヴェルドラと談笑していた。
人仕切り話した後、グラスをテーブルに置くと、カラッと氷が音を立てる。
真向かいに座るヴェルドラのとこへカヤが来て、立つように促す。
「なんだ?」と言いながら立ったヴェルドラに、カヤは。
「ねえ、ちょっと後ろ向いて」
カヤのお願いにヴェルドラは、ゆっくりと背を向ける。
そこに……カヤが後ろからそっと、ヴェルドラの腰に両手を回す。
こつんとヴェルドラの背中に額を当て、静かに口を開いていった。
「ヴェルドラ……少しの間だけ……こうしてて、いいかな?」
「うむ……かまわぬぞ」
「ありがとう」
そう言うとカヤは、柔らかく後ろからヴェルドラを抱きしめていく。
(ヴェルドラ……好きだよ……あたしは、あんたが――大好きだ……)
カヤは口には出さずに、胸の内で自分の気持ちを言葉にした。
決して自分から好きだと言ったことが無いカヤ、そのカヤが初めて自分から好きだと言った思い。
好きになった男は二人目。
一人目の男、トキマサはカヤに刀を捨ててくれと望んだ。
カヤを守りたいがために、自分がカヤを守る為に。
心底好きになった男からの言葉に……カヤは、首を横に振り「できない」と言った。
相容れぬ想いがぶつかり、最後にはカヤがトキマサの命を絶った。
その話しをヴェルドラに聞かせた時。
ヴェルドラは『我はな、寄り添うではなく、隣に並び立ち共に歩く者がよいな。共に戦い共に歩む、弱ければ守るでもいいが。お互いに強ければ、我は共に戦いたいな。あくまでも我の考えだがな。ウハハハ』豪快に笑いながらカヤに答えていた。
その言葉を聞いた時カヤは……ヴェルドラの事を、本気で好きになっていた。
時政以外にもカヤを好きになった男はいたが、やはりカヤに刀を捨ててくれと望んだ。
しかし、ヴェルドラは違ったのだ。
カヤと共に戦いたい、そう言ったのはヴェルドラだけ。
カヤの全てを肯定し、何一つ否定しなかった者、最強の〝竜種〟が一人、ヴェルドラ。
そんなヴェルドラを好きになり、ずっと一緒にいたい、そばにいたい、同じ道を歩いて行きたい。
その思いも、残り少ない寿命の中で言い出せず、カヤは。
(ここまで、好きになった男は、トキマサ以外にはいなかったよ……ちがうな……それ以上に、好きになったかも知れない、かな……)
ゆっくりとした静寂が満ちる時間の中。
テーブルに置いたグラスに入れてある溶けた氷がぶつかり合い、カラカラッと乾いた音を響かせた。
どれくらいの時間が経っていたのだろう。
カヤがゆっくりとヴェルドラから両手を離し、少し離れる。
ヴェルドラが振り向き、カヤと向き合う。
「ヴェルドラ……いってくる。じゃあ……ね」
そう言ったカヤの表情は一瞬で、暗殺者の顔付になる。
「いってこい、カヤ。またな」
カヤの言葉にヴェルドラは、静かに返す。
カヤは振り向かずに右手を上げると、ヴェルドラの部屋を後にする。
そして、ヴェルドラの部屋のテーブルには、ぽつんと……〝酒蔵君〟が置いてあった。
それからカヤとモモカは、ネコマンマ商会の事をテスタロッサに引き継ぐ為二日を要す。
して、その日が――来た。
急激に天候が変わったのを合図に――ネコマタが動き出していく。
真っ黒な雲が徐々に世界を、覆い始めて行った。
カヤとモモカはリムルの執務室に来ていた。
「リムル、じきに始まるよ。世界の崩壊が」
「動き出したのか?」
「ええ、〝破幻城〟が具現化し始めているわ」
「そうか……」
執務机の椅子に座っていたリムルは、おもむろに立ち上がると。
真剣な顔で二人に告げる。
「ジュラ・テンペスト連邦国、盟主として――カヤ・ヤミヨ、モモカ・ヤミヨの両名に、ネコマタの討伐を正式に、依頼したい!」
凛としたその言葉にカヤとモモカは、その場に片膝を付き頭を下げ、返答を返す。
「「承りました! リムル陛下」」
凛とした言葉に、決意を込めた言葉で返す二人。
執務室のある建物から二人は出ると、そこには。
広い石畳の道の両側に、テンペストの住人全てが長い、長い、行列を作り並んでいた。
リムルもカヤ達の後から出て来て、二人が「なにごと?」と、戸惑ってる間に横に並び。
先頭にいるリグルドに軽く頷き、右手をサッと横に振ると――。
一斉に並んでいた者達が片膝を付いていく。
「武運を祈る!」
リムルはそう二人に告げると、左手で(いってこい)と送り出すように道の奥を差した。
カヤとモモカはリムルの前で一礼すると、キッと顔を引き締めて歩き出す。
ブルムンド王国への街道に繋がる通用門までの、長い人の行列。
二人は徐々に歩く速度を上げていき、駆け足で行列の間を抜けていく。
『モモカ……今度こそ、守ろう!』
『ええ――今度こそ、ネコマタを倒しましょう!』
《私たちの手で、奴に引導を!》
『『《いこう!!》』』
ブルムンド王国方面の通用門に来た二人は。
立ち止まり、まだ跪いてる行列の者達に、深々と一礼をし、通用門を抜けていく。
すると、そこにディーナとザーバがいた。
ディーナは険しい顔で、カヤとモモカに言葉をぶつけた。
「カヤ姉さん、モモカ姉さん……やっぱり私もいくよ! どうせ、こんな稼業だ。死ぬのが遅いか、早いかだ――」
「ディーナ! 誰が命を粗末にしていいと言った!」
ディーナの言葉にカヤが怒りを込めた言葉で返すも、ディーナは引かなかった。
「でもでも……姉さん達は、私の心の恩人なんだ! 壊れていく私の精神を……救ってくれたんだ! 悪党でも、恩義は感じるんだよ……だから、私も――」
そこまで言うとモモカがディーナを優しく前から抱きしめて行った。
「ありがとう、ディーナ。最後にあんた達みたいな配下に会えて、ほうんとうによかった」
「私は……私は……」
何もできない自分に怒りが沸きあがりディーナは、ギッと唇を噛み締め、下唇の端が切れ血がツ~っと流れ落ちたのを、モモカが右小指で、そっと拭う。
モモカが「じゃあね」と体を離し、それでも何かを言おうとするディーナをザーバが止めた。
「ディーナ! もう、およし。あんな覚悟を決めた者を、誰が止めれると思うんだい? それが、悪であろうと、善であろうと。誰も、止められやしないよ。あたしらのボスが、戦いに出るっていうんだ。配下のあんたがおたおたして、どうするんだい! しゃきっとしな!」
ザーバのハッキリとした言葉にディーナは、左拳で自分の額を思い切り殴りつける。
真っ赤になった額もそのままに「すいません。取り乱しました、姉さん方」と頭を下げた。
それにカヤが「いいよ。あんたみたいな配下を持って。あたしは、嬉しいよ」そう言いながら微笑み言う。
そこへザーバが。
「姉さん方。あたしゃね、ここまでいい具合に歳を重ねて来たんだ。やってること含め、先の人生に未練など、これぽっちもなかったのさ。殺される日が来るまで、のんびり生きればいいさと、ね」
目深に被ったフードを下ろし、綺麗に結い上げられた銀髪が黒い雲から差す日の光にきらりと輝く。
「罪な人たちだよ、姉さん方は。って、最強最悪の悪党だったね、姉さん方は。ひっひっひっ」
「わかってるじゃん、ザーバ。クククッ」
「よくみてるわね。フフフ」
三人で小さく笑い合う中、ザーバが笑いを止め。
真剣な顔付でカヤとモモカに告げた。
「あたしゃね、覚悟を決めたさ。姉さん方が帰ってきたら、眷属にしておくれ。何百年掛かろうとも、まつさね」
最後までザーバは、自分の寿命を全うしようと決めていた……いや迷っていた。
だが、ここに来てザーバは迷いを捨てた。
仙人になるのはザーバの積み重ねた技量からしても、容易い事であった。
にも関わらず、それを望まなかった。
暗殺稼業をしながら寿命の概念が無くなっていく事に、恐怖を覚えていたのだ。
だから初老の域まで生き延びられたら……何時殺されてもいいとさえ、思っていた。
そのザーバが覚悟を決め、待つと言った――
何百年掛かろとも、待つと。
カヤとモモカはその言葉を黙って聞き。
「「じゃあね」」とザーバとディーナに言うと、ザーバは片膝を付くと、ディーナもおなじように片膝を付く。
「「御武運を、姉さん方!」」
頭を下げ二人の姿が見えなくなるまで、ザーバとディーナはその場にそうしていた。
空を這う様に黒い雲が広がりつつあるのを見て、モモカが『念話』で防御結界術式を設置した国々の起動担当に告げる。
『そろそろ始まるから、準備はよろしくて?』
真っ先に答えたのはミリムだった。
『大丈夫なのだぞ! よいか、ネコマタをしっかり殺してくるのだぞ! わーっははははは』
次に答えたのはメイム。
『いつでも、いける、の。……ガゼル陛下、その人心配症な、の。こつんして、いい?』
なにやらメイムに色々言ってるのがいるらしく、メイムがコツンしていい?とガゼル王にお伺いを立てているのを「メイム。我慢なさい」とモモカが釘を刺す。
そこへ、レオンの国へ言ってるディアブロから来た。
『何度見ても、あなたの術式は興味深いですね。ククク。今度、その仕組みを教えてくれますか?』
『はあ。ディアブロ、あなたね。わたし達の話を聞いたでしょう?』
『ええ、理解してますよ。あなたも半分悪魔族なのですから――その位、
ディアブロの最後に言った言葉には、凄まじい覇気が乗せられており。
モモカの背筋がぞくりとする程であったが、『できたらね』とそっけなく答え、ディアブロとの『念話』を切った。
次はイングラシア王国のモスであった。
『モモカ様、準備は出来ております。いつでも起動できます』
『ありがとう、モス。起動タイミングはまた、知らせるわね』
そうしてると焦れたイリアが『念話』を飛ばして来た。
『モモカ姉さん、準備OKです! いつでもいけます!』
『そう。しっかりね、イリア』
『はい! モモカ姉さん!』
そして、ギィがレオンの所に行ってるので、ギィの居城では急遽レインとミザリーが起動係になっていた。
『モモカ様。準備は滞りなく、終わってます』
ミザリーが答え、レインも同じように答える。
エルメシアの声がモモカに届く。
『モモカちゃん~ こっちはいつでもいいわよ~』
『はい、エル姉さん。タイミングは、後程に』
するとダグリュールが割り込んでくる。
『モモカ殿、手筈は整えた。後は、そちらの指示待ちだな』
『ありがとう、ダグリュール殿。後は、よしなに』
それからラコル。
『モモカ姉さん、準備は終わってます! いつでも起動オッケーです!』
『ラコル。頼むわよ』
『はい!』
最後は、ルミナス。
『準備は出来ておる。いつでも申すがよい』
『そう、よかった。じゃあ、タイミングは後程』
と、会話を打ち切ろうとするところへ、ヒナタが口を挟んでくる。
『ねえ、モモカ。本当に、今すぐ起動は出来ないの?』
『ダメよ! ヒナタ。〝破幻城〟が完全に
『ヒナタよ、そこまでじゃ。説明は何度も、受けたであろう?』
『すいません……ルミナス様。ごめんなさい、モモカ』
『いいのよ、ヒナタ。市民の安全を守る立場だもの、不安はわかるわ。絶対にタイミングはしくじらないから、信じてちょうだいね、ヒナタ』
『わかったわ。武運を祈るわ! モモカ』
『ありがとう、ヒナタ。それに、ルミナスも色々とお世話になったわね。ほんとうに、ありがとう』
『
『……』
ルミナスの言葉にモモカは無言だったが、ルミナスはそれ以上は言わなかった。
この『念話』を皮切りに、空に流れる黒雲に大きな変化が表れる。
空を這う黒雲がまるで溶けた鉛が流れる様にうねり、渦を巻くように激しく流れ始める。
同時刻、〝破幻城〟
「ジラよ、時は来たぞえ。〝破幻城〟を現世に固定する!」
「はっ、ネコマタ様」
天守閣にいるネコマタが天に向かって両手を広げる。
集えこの世の憎悪よ 我が
世の理は我が理、我が理が真の理 さすれば我が理に抗えるものは無し
今こそあるべきものを壊し 我が兇想で埋め尽くせ
〝破幻ノ理・
ネコマタの言霊が響き渡り、甲高い短拍手の音が、空間を揺らす。
現世に完全具現化し、存在を確定した〝破幻城〟
その大きさは、天守閣まで約千メートルの大きさだった。
黒雲垂れこめる下に現れた〝破幻城〟が地上に向けて黒霧を吐き出していく。
空に向けては噴煙の様に黒雲を吐き出していった。
地上と空。
黒雲と黒霧は溶けた鉛みたいに流れ、広がっていく。
黒雲は日の光を完全には遮らず、薄暗い夕暮れ時の明るさになっていた。
渦巻きうねるその黒霧は周辺の村や、小さな里を飲み込み喰らう。
黒雲、黒霧は凄まじい速さで広がって行き、生きる者全てを飲み込んでいった。
大勢の悲鳴が――
憎しみと怨念の声となり、怖気る程の負の念をまき散らす。
やがて、飲み込まれた者は――
影獣となり、〝憎念〟の塊と化す。
黒雲と黒霧は、ネコマタが増殖させた〝憑依核〟の粒子。
〝
もはや生物とは懸け離れた、何か。
〝憎念〟を糧に、あらゆる生物に取り付き影獣化する、粒子生命体とも言える存在に成り果てていた。
黒雲と黒霧に呑み込まれた、魔物、魔獣、人間などあらゆる生物は、影獣へと造り変えられる。
意思無き、〝憎悪〟を振り撒く化け物に。
「モモカ、始まったよ!」
「ええ。ヤエ、極・超魔力縮退炉術式の制御よろしくね!」
《お姉ちゃんにお任せを! いきなさい、モモカ! カヤ!》
モモカが再び『念話』を飛ばす!
『術式起動始めるわよ!みんな、
その『念話』を合図に皆がモモカから渡されていた〝黒呪符〟に、己の
モモカの言霊が走る。
フルベ ユラユラト フルベ 陰る夕日に映える 影
フルベ ユラユラト フルベ それは幻夜のはじまりの 影
フルベ ユラユラト フルベ ゆらりゆられて 影走る道
フルベ ユラユラト フルベ そこは幻夜の通り道 いきませい いきませい
フルベ ユラユラト フルベ ゆらりゆらりと 彷徨う
フルベ ユラユラト フルベ 迷い誘われ 幻夜へと
夜を滅し 常世の闇に紛れん 狭間の幻にありし世界 それは影
いきはよいよい 戻りは あらぬ 見える彼方の空蝉よ
包め〝呪狂・
パンッ! 一際高い短拍手が鳴り響く。
大規模防衛〝黒呪符術〟
超巨大な〝黒呪符〟が国を囲むように連なって壁となり、展開される。
空間が激しく揺らめき、景色が何重にもブレていく。
それも徐々に収まり、各国々の景色がまるで波打つようにゆっくりと揺れていた。
そう、一時的に国ごと現世と常世の狭間に隔離したのだ。
この効果は、モモカが生きている限り解除はされない。
即ち、効果が切れるのはモモカの魂が、燃え尽きた時である。
その一部始終を〝試験型 特殊環境用・
そして、その中継をガゼル、ヨウム王や、他の魔王達の所へ送った中継水晶球に投影されていたのだ。
ここに、最後の戦いの火ぶたが切られた。
カヤとモモカは
迫りくる黒霧の大波に、不敵な笑いを浮かべていく。
八十一話を読んで頂きありがとうございます!
次回の更新も読んで頂けたら、幸いです。