※作中使用している特殊文字フォントは、C6N2様作成のフォントを使用しています。
作戦室で世界を根源とする理の破壊と、新たなる理への書き換えが始まったのを見ているリムル達。
その様子を見ていたベニマルが口を開く。
「リムル様、俺達も加勢に出る事は、出来ないんですか!?」
自国を守る立場も、もちろんあるが。
既に仲間と認めたカヤとモモカにだけ戦いを任せるのは、我慢できなかった。
仲間が強大な敵と戦うならば、己も共に戦うべきだと。
しかし。
「駄目だ!」
「リムル様!」
「ベニマル!!」
「リ……」
リムルの圧の籠った声にベニマルは押し黙る。
リムルはベニマルの男気を知っている。
普段は冷静さの中に己を押し留め、采配を振るう。
だが、仲間が窮地に陥れば、自ら先陣を切る事も。
そんなベニマルだからこそ、ここで釘を刺しに来た。
「ベニマル。カヤが言っていたことを、忘れたのか?」
「いえ。覚えています」
「なら、わかってるな?」
「はい。申し訳ありませんでした。出過ぎた真似を」
「いや、いいさ。あいつらと関わった者は、皆――同じ考えだろうからな」
そう言ったリムルの、固く握りしめた拳と。
腕を組んだまま静かにモニターを見ている、ヴェルドラを見て。
ベニマルは(ああ、一番出て行きたいのは――御二人なんだな)と考え、リムルに軽く一礼をして、再びモニターに目を移す。
カヤがベニマル達に言った事。
『いいか、ベニマル。あんた達は何があっても、モモカの結界から出てくるんじゃねえぞ。あんたらのことだ、ありとあらゆるスキルを使って、抜けようとするかもだけど。あれは――あんたらの手に負えるもんじゃない! あの凄まじい憎しみと怨念は、いくらあんたらが強くても……晒され続ければ、心を喰われるぞ。そうしたら、ただの目に見える者を殺し続ける存在になる。あれに耐えれるのは、悪魔族くらいだけど……それも未知数だ。あたしとモモカだけなんだよ、あの憎しみに満ちた〝憎念〟を受け流せるのは』
(憎しみか……その感情は俺にもある。オーガの里が滅ぼされた時の、憎しみと復讐の念。感情を持つ種族の憎しみや怨みを
今まで戦ってきた敵とはタイプも性質も違う、ネコマタ。
そのネコマタと戦うカヤとモモカの事を、記憶に焼き付けていこうと思った。
二人が万が一消滅しても、二人が己に掛けた術の代償で――
関わった全ての者達から、二人の記憶を消し去っていこうとも。
それが発動しようとも自分は、二人と関わった記憶を絶対に消させないと心に誓う、ベニマルであった。
テンペストに向けて来る黒い波。
それは、影獣の軍団。
夥しい影獣の群れがテンペストを目掛け、押し寄せて来る。
まるで巨大な波が、テンペストを囲むように。
「さて、はじめるか。後衛よろしく」
「ええ。いつも通りに、
二人から青白い魔素粒子が漏れ出していき。
渦を巻き、竜巻がの如く荒れ狂う。
やがてそれは、天を突く高さまでに達する。
その光景は〝破幻城〟からも見え、ネコマタが嬉しそうに顔を歪める。
カヤとモモカの所へ、ネコマタの声が届き響く。
「カヤ。モモカ。また、報われぬ戦いをするのかえ? お主らは
「言いたいことは、それだけか?」
「なんじゃと?」
「カヤはね。言いたいことはそれだけかと、言ったのよ。あんた、猫耳壊れてるんじゃない?」
「クカカカカ。言うな、お前達!!」
「お主らから、お前達か。最初からそう言えや、ネコマタ。四の五の言わずに来いよ。ぶっ殺してやんよ」
「そうかそうか。ならば、お前ら二人。仲良く魂を喰らうてやるわ! 後悔するがよいわ!!」
ネコマタの言葉を皮切りに、カヤが動く。
先程まで纏っていた魔素粒子を吹き飛ばし、両拳を腰に当て丹田に魔力を集中していく。
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ああああああああああああああああ
うに゛ゃぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!
〝
次元鳴動波。
カヤ周辺の空間が何重にもブレ、その咆哮が円形状に広がって行った。
ビリビリと大気を震わせながら、迫る影獣に直撃する。
直撃した次元鳴動波は影獣の核を砕き、中に潜む魂を潰し崩壊させて行った。
テンペストに迫っていた、何百万にも及ぶ影獣の体が、泡状になり一瞬にして霧散する。
大地を覆っていた黒い影が消え去り、その空間だけぽっかりと巨大な穴が開き、大地が見えていた。
だが、世界を覆い尽くす黒霧と黒雲は、喰らった生命体を影獣に変え、無限増殖していく。
「ヤエ。〝破幻城〟まで『空間転移』で飛べるか?」
《少し、お待ちを……駄目ですね。世界の
「そうか。なら、直接殴り込みにいくか!!」
そう言ったカヤは駆けだした。
音速を超え。
極音速に達し。
駆けながら、千鳥を振るい。
影獣の群れを斬り飛ばしていく。
イタイ クルシイ ニクイ ニクイ タスケテ シネ シネ ニクイ ナンデ ワタシガ
コワイ コロセ コロセ オレガ オマエヲ オマエタチヲ コロシテヤル ワタセ ワタセ
オマエタチノ タマシイ ヲ ヨコセエエエエエエエエエエエエ
幾百幾万幾千万、膨大な〝憎念〟がカヤに襲い来る。
だが。
「憎いか――なら、その憎しみを喰らい尽くしてやるよ! 永劫に無に帰せ」
〝指向性殺気・
カヤは無秩序にそれを解放した。
闇よりいづる死の囁きよ 一切の命を狩り取り 無への世界へ導かん
〝
〝憎念〟を凄まじい殺意で喰らい 無へと返す。
「しかし、一向に縮まらないな。〝破幻城〟までの距離が」
《カヤ。〝破幻城〟の周りには幾つもの位相空間が、張り巡らされています。おそらく、それが視覚と『万能感知』に欺瞞を引き起こさせているかと》
「ふーん。ちょっと上から見てみるか」
そう言うやカヤは、上空三千メートルまで一気に飛んだ。
『一隻眼』を全開にし、〝破幻城〟を探査する。
「ちっ。強力な
「カヤ。あれは、わたしが破壊するわ。破壊と同時に、あんたが〝破幻城〟をぶっ壊しなさいな」
「あいよ」
追いついてきたモモカがカヤの横に来て、事無げに言い。
カヤがそれに即答する。
モモカが〝幻隠〟と『多次元結界』を掛け合わせた即席術式を展開し。
位相空間に干渉して、〝破幻城〟を包む結界を突破していった。
辺りを埋め尽くす影獣の群れに、核撃魔法の連発をお見舞いする。
並列起動術式により、同時起動された百に及ぶ〝
黒い火球が次々と影獣を飲み込み、〝憑依核〟を燃やし尽くしてしまう。
一瞬黒い霧が晴れ、黒雲も切れ間が出来るも、すぐに空も地上も埋め尽くされてしまう。
「切りが無いわね。やっぱり、あれを破壊しないと駄目ね!」
襲い掛かる影獣を、モモカは殴り蹴り飛ばし、〝黒呪符〟で〝憑依核〟ごと魂を燃やし尽くしていく。
「ふん。体長三メートル程の黒い獣の形をした生物? 猫か虎を大きくした形か。フフッ、猫と虎に失礼かしらね。似て非なる物だわ」
そんな事を考えてると。
上空に飛び上がった影獣三千匹が、一斉にモモカに襲い掛かる。
地上からもモモカを囲むように、同数の影獣が飛び掛かって来た。
腕に喰らいつき、足に喰らいつき、腰、頭に喰らいつく影獣。
次々と折り重なるように、モモカに群がって行った。
六千匹もの影獣が重なり合い、小高い丘を形成し、モモカを押し潰さんとする。
喰らい付き、牙から〝憎念〟を流し込んでいく影獣たち。
『痛覚無効』があっても、精神に直接作用する〝憎念〟は不快感と言う痛みを、モモカに与えていた。
痛いわねぇ
モモカの低く殺意の籠った声が聞こえ、古代語の
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我が身も凍らせる 闇の吹雪
91pomcbvzseqreyfihjkk
凍てつく吐息は
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全てを凍てつかせ 無に帰せ
〝
キイィンッ!! 薄いグラスが割れるような音が空間に鳴り渡る。
一瞬にして六千匹もの影獣が、纏めて氷の山となり。
パチン! 指を鳴らす音が響くと、一斉に砕け氷の結晶と化した。
キラキラと砕けた氷の結晶が、辺りを覆い尽くし薄暗い中に舞う。
その中を駆け抜け、〝破幻城〟を囲み結界を作っている要石の近くまで行き、鈴蘭を抜き放ち斬撃を飛ばそうとすると。
キラリ
何かが光った瞬間、モモカの右腕が貫かれ粉砕された。
クルクルと宙に舞う鈴蘭を左手で掴もうとするや、左腕も何かに貫かれ粉砕される。
両腕を神速再生し、地面に落ちる寸前の鈴蘭をポンと爪先で蹴り上げ右逆手でキャッチし、右逆手で構えたまま全周警戒になるモモカ。
(今のはなに? 魔法? いや違う。銃の類? 違う。もっと、単純な――!?)
思考を巡らせていると、また何かが光る。
しかし、モモカは超反応でそれを、鈴蘭で弾き返した。
ガキュンッ!!
バッと火花を散らし、刹那の間に浮かび上がったシルエットは、腕の形をしていた。
「腕? あれは……人形の腕?」
そう考えてるとまた光り、モモカは弾くと同時に『思考加速』でその物体を把握した。
「カラクリ人形の腕! 誰が操ってるのかしら、ね!」
気配を隠しても僅かに漏れ出る〝憎念〟を見つけ、そこに〝爆炎符〟を飛ばした。
激しく巻き起こる火球と爆発の中。
一つの物体が、何事も無く歩いてくる。
カキキキ カキッ
ジラが爆炎の中から、姿を現す。
その姿を見てモモカは訝し気に、声を出す。
「あんた、ジラなの?」
「そうですよ。あなたを葬る為に、最適な体を手に入れたのです」
「人形みたいなものが、ほんとうに人形になるなんて。冗談が過ぎると言うか、あんた――バカなの?」
スーッと目が細く鋭くなり、凄まじい殺意の籠った言葉を吐く。
そんなモモカの言葉を、意に介せずジラは、淡々と言い放つ。
「ネコマタ様の為なら、そんな事など些末な事ですよ。モモカ」
「そう。なら、魔物としてではなく――ただのカラクリ人形として、壊してあげるわ!」
「やってごらんなさい。モモカ」
モモカは『審美眼』でジラの体を観察して行った。
(なるほどね。ベレッタの体と類似点があるわね。でも、ジラの方が機械的な要素が強いわね。関節が球体で……ちっ、
構えを取りながら左指に〝黒呪符〟を挟み、モモカの身体がゆらりと右に傾くと。
砂塵が舞い、ジラの背後を一瞬にして取る。
速い斬撃の、横薙ぎ、逆袈裟斬りを放つ。
が、人体構造を無視した動きでジラはそれに対応する。
グリっと頭が回転、後ろを向き。
両腕が真後ろに向き、モモカの斬撃を防ぐ。
ガキキキンッ! 「ちっ! 前も後ろも、関係なしとはね!」
忌々し気に吐き捨て、モモカは後ろに飛びながら、〝黒蓮華〟を撃つ。
爆音を上げながら、連続した黒い華の爆発がジラを襲う。
超高速移動でそれらを交わし、ジラは両腕をモモカに飛ばす。
「ちいっ!」
不規則軌道を描き、迫りくるジラの両腕、
モモカは、鈴蘭で弾き、〝黒呪符〟で障壁を張るも。
『絶対刺突』の前では、あえなく障壁を突破されてしまう。
(あの腕を操ってるのは、思考? 自動では、無いわね。重力支配でもない……思考操作か!)
『思考加速』を使い、ジラの腕を分析していると。
ガシャッ! 迫る腕を弾いた瞬間。
その腕は目の前でクルクルと回り拳を握った状態から、腕の部分が三つのカバーを開ける様に開き。
そこに長い筒のような物が、表れた。
「なっ!?――」
ドパンッ!! 凄まじい破裂音が響き、モモカの体が無数の小さい穴に貫かれたようになり。
千切れた手足が宙に舞う。
仕込み散弾銃。
ジラの腕に仕込まれたギミックの一つであった。
地面に崩れ落ちたモモカの〝魔核〟を目掛け。
もう一本の腕が、超高速で飛来する。
貫こうとした瞬間に、モモカは。
瞬時に体を魔素粒子化し、そこにジラの腕が突き刺さる。
突き刺さった衝撃で、地面がクレーター状にへこみ、大量の土くれを巻き上げた。
ザザァーッと音を立てながら、巻き上げられた土くれが降り注ぐ中。
モモカが神速再生で体を修復、再構成を掛ける。
「へえ~ 少し驚いた。まさか、あんたらが――魔導科学、物理科学を手に入れてたなんてね。〝召喚者〟でも、拉致ったのかしら? それとも、旧東の帝国の残党かしら、ね?」
「あなたには関係ない事です」
「そう。フフ……フフフ」
驚いたと言いながらモモカの表情は冷静でいて、いつにもまして冷淡な笑みを浮かべていた。
そんなモモカの言葉にジラは、機械的に答える。
ジラよ次の段階に入ったぞえ!
責務を果たすのじゃ!!
「御意 ネコマタ様」
空間にネコマタの声が響き渡り、その声にジラが返した。
空を覆っていた黒雲が、激しい稲妻を轟かせながら光り輝き。
眩い光を上げたかと思うと――
それは、一気に晴れ渡るように掻き消えた。
黒雲の消えた空は……。
様々な景色が鏡の様に映し出され、水面が揺れ動くように波打っていた。
ネコマタの思い描く、〝憎念〟渦巻く兇想の世界。
まるで外から、リムル達のいる世界を飲み込まんとするようであった。
(第二段階。外から内なる理を喰らい、新たなる理の礎を築く。ここまでは、ヤエの解析通りね。さて、ここから先の予知夢は、漠然としたものでしかなかった……けど! ヤエの予測した、これから先起こる事への対処は済ませてある。どこまで有効かはわからないけども……)
ジラと対峙しながらモモカは……一度静かに目を閉じると。
己の本性を解き放つ。
冷徹であり、一片の慈悲も無いモモカの本性。
カヤを守る為、一切の情を捨て戦ってきた、人間の頃のモモカ。
そんな自分を普段は隠し、生きて来た。
魔物になってもその本性は残り、更に強化された精神として残っていた。
刺客姉妹の片割れと忌み嫌われ、恐れられたモモカが。
ここに、目覚めた。
無数の蛍が舞うかの如く、青白い魔素粒子を見に纏い、全ての力を解き放っていく。
世界の言葉が走る。
《全属性合成開始を確認……失敗しました》
《再合成……失敗しました》
《再合成……失敗しました》
《再合成……失敗しました》
《再合成……失敗しました》
《再……》
《……敗》
《……》
《…》
エンドレスで続くその言葉に……終わりが見える。
《霊子の合成を破棄……再試行》
《火 風 水 地 闇 光 の合成を確認……成功しました》
《新たな属性の誕生を確認……以降、これを
モモカの〝黒呪符〟が新たな属性を得て、薄紫色に光り輝いていった。
「モモカ。あなただけが、進化出来るのではありませんよ」
淡々とジラは言うと……。
カキカキッ ガキン 体中のパーツをかき鳴らし体を震わせていく。
「〝憎念〟よ。我が力となりて。全てを憎悪の業火で燃やし尽くさん」
ジラの言霊が梵字の帯と成りて、体を覆い尽くしていった。
何重にも巻き付いた梵字の帯が――
一気に弾け飛ぶ。
ゴウッ! ジラから憎念の粒子ともいえる真っ赤な粒子が立ち昇る。
それは真っ赤に流れる血の如く、赤く光り輝きジラの周りで踊り狂う。
その様子を中継水晶球で見ていたギィが、不快を露わに吐き捨てた。
「ふん。なんとも、不愉快な――赤だな」
原初の赤 ギィ・クリムゾン。
同じ赤をまるで紛い物の赤と言う様に吐き捨て、強引にモモカへ『念話』を飛ばす。
『モモカ。その不愉快な赤は、跡形も無く消せよ。いいな』
『ええ。わかってるわ、ギィ。いえ、
『いい返事だ。じゃあ、またな。モモカ』
『じゃあね。ギィ』
そこで『念話』は切れ、モモカは周りを埋め尽くす影獣とジラに向けて、悪鬼の如く薄く底冷えのする笑みを口端に浮かべ――言う。
ジラ、
ええ、今度こそ魂ごと消し去ってあげます
そう言った二人は――
再び激突する。
八十二話を読んで頂き、ほんとうにありがとうございます!
次回の更新も読んで頂けたら、幸いです。