対峙するモモカとジラ。
先に動いたのはモモカであった。
着ている薄羽織を脱ぎ捨てると、モモカは左指に挟んでいた〝黒呪符〟を前にピッと投げ。
投げられた符は、十枚の符に分かれクルクルと回転しながらモモカを追従して来る。
ジラに向かって瞬歩を使い、一瞬で間合いを詰め。
右手首を掴み、右肘の関節を極めようとするや、カキンと関節が外れ、勢いでモモカはその場で半回転する。
掴んでいた腕を投げ捨て、忌々し気に吐き捨てた。
「ちぃっ! 自在に外れるなんて、厄介極まりないわね!」
ジラの上半身だけ腰の繋ぎ目を起点に高速回転し、左手の爪でモモカを斬り付けて来る。
それを後ろ腰から抜いた鈴蘭で弾きながら、後方に飛び退った。
その隙に投げ捨てた腕が宙を飛び、軽い金属音と共にまた繋がる。
(なるほどねぇ。あいつの身体は、投げなどの体術系は通用しないわけね。なら、打撃はどうかしらね!)
モモカは鈴蘭を鞘に納め、両手足に火具突智・改を発生させていく。
大地を蹴り、神速の瞬歩で接敵し。
右縦拳でジラの腹部を打ち抜く。
ガカアァン! 大木を叩いたような音が鳴り、ジラの腹部だけが接合面の関節が外れ真後ろに吹き飛んで行った。
接敵した間合い。
そこからすかさずモモカは、左上段廻し蹴りを放つ。
ガコォンー! 鈍く重い音を立て、ジラの頭が首から外れ真横に勢いよく飛んで行った。
そのままモモカは高重力波でジラの身体を縛り、右手の平にジラを乗せ。
大地に高重力波を乗せたまま叩き付けた。
しかし、ジラの身体は同じ高重力波をぶつけて来て、モモカの高重力波を相殺し。
叩きつけらた瞬間、各パーツのジョイントを外しバラバラになり、叩き付けられた衝撃を吸収した。
時折、モモカから離れた所の影獣が集団で吹き飛び、消滅させられていた。
カヤがモモカとジラの戦いの邪魔にならない様に、影獣の群れを相手にしていたのだ。
バラバラになったジラの身体が瞬く間に合体し、元の形を取り戻していく。
「やれやれ。自在に身体をバラすことができるか。なら!」
パンと一つ短拍手を叩くと、追従していた〝黒呪符〟の一枚がジラの元へ飛び、各関節に目掛け分裂し。
空間を歪ませていった。
「斬り裂け! 〝
ぐにゃりと空間がねじ曲がり、球体関節を斬り裂いていこうとした時。
「弾きなさい。〝
各球体関節から次元音波を発生させ、ジラの各関節に発生した空間の
「そう、ならこれは!」
並列起動で、〝
凄まじい爆発と共に黒級が咲き乱れ、狂ったがの如く重力崩壊の嵐が巻き起こる。
「〝核撃魔法〟ですか。それはあなただけの物ではないですよ」
淡々と吐き出す言葉と共に、ジラも〝核撃魔法〟を放った。
周辺にいる影獣を巻き込みながら、二人の〝核撃魔法〟がぶつかり合い。
大地を抉り、山を吹き飛ばし、抉られた大地が巨大な亀裂を作る。
無制限に解放された二人の〝核撃魔法〟が、一帯の地形を変えていった。
凄まじい気流の流れが竜巻を発生させ、高さ千メートルを超す巨大竜巻が幾本も暴れ狂う。
更にモモカの追撃がジラに炸裂する。
「〝極・黒蓮華〟連爆!」
範囲限定〝
並列起動で、精密に各術式の操作を行い、術の安定、威力を操作し。
しかも、追尾機能と、軌道予測演算まで備えた、特殊術式。
地を掛けるジラを追いかけていく。
空中に回避する為宙に飛び、超高速の不規則軌道を描きながら逃げるジラを的確に追い詰めていった。
ドドドドン! 大気を震わす轟音を響かせ、まるで黒い数珠が連なるように爆発していく。
ジラの不規則軌道に合わせ追尾する〝黒蓮華〟に、不敵な笑みを浮かべたジラが吠える。
「くく。これが高揚感と言う物なのでしょうか!? モモカ! 私はあなたに対して溢れる〝憎念〟に、打ち震えている!」
ジラが眷属として生まれ、初めて見せた感情に似た言葉。
その顔は――
兇気に満ちた笑みを湛え、初めて体感する高揚感に身を任せていた。
「人形が初めて得た感情が、兇気と〝憎念〟に満ちた思いとはね……しゃれにもなんないわね!」
モモカも何故か嬉しそうに口端に冷徹な狂気の笑みを湛え、吐き捨てた。
お互いの狂気と兇気が惹かれ合い、相反し、弾き合う。
回避を続けるジラの周辺一帯をいきなり表れた、桜の花弁に似た〝黒呪符〟が埋め尽くす。
「散り舞え、全てを斬り裂きなさい!――〝千舞・徒桜〟!」
襲い掛かる無数の黒花弁にジラは、不規則飛行軌道をしながら体から魔力衝撃波を出し、襲い来る黒花弁を迎撃していく。
それでも迎撃が追い付かず、徐々に結界を貫かれ。
魔木で出来た体の部分に、亀裂が走って行った。
そこへ間髪入れずに次の黒呪符術が飛んで来た。
「荒れ狂いなさい、次元を超える
言霊が飛び、〝次元雷撃・破天雷光〟がジラを包む様に降り注ぐ。
猛烈な稲妻と雷撃の音が鳴り響き。
ジラの身体を
一瞬動きが止まったジラへ、〝黒蓮華〟が直撃する。
連続した爆発の中、燃え盛る火球の中から煙を引きながら地上へ落下するジラ。
そのまま大地へ激突すかと見えたジラだが、激突寸前にくるりと体を回転させ『重力支配』でふわりと着地する。
「何とも殺しがいのある事でしょう。全リミッターを解除し、決着をつけましょう」
そう言うと、ジラの体の各パーツの排熱カバーが開き。
真っ赤な魔素粒子を吐き出していく。
各パーツに付いていた亀裂が、見る見るうちに修復されていった。
モモカもジラの三十メートル前に着地して来て、両手指に〝黒呪符〟を挟み、構える。
バッシュゥと蒸気を吹き出すような音を上げ、排熱カバーが閉じると。
ガシャッと音を上げ、両肩のカバーが開くと、そこから二本の噴射ノズルみたいなものが表れた。
更に、ジラの腰まである長い黒髪が首後ろで髪同士が合わさり、一本の三つ編み状態になる。
そこから、両肩甲骨に当たる部分が開き、そこからも肩のより大きい一本の噴射ノズルが飛び出してくる。
そして、両
縦に並ぶ計六本の噴射ノズルが、カシッカシッ音立てながら、上下左右に動いていた。
ヒィイイイン 各噴射ノズルがオレンジ色の炎を吐き出し始める。
旧帝国で試作段階であった魔導ロケット。
魔素の消費があまりにも多く、実用化には程遠かった試作品。
それが、余りあるジラの
制御術式により、急始動から急停止、また急始動とあらゆる機動に対処できる魔導ロケット。
ゲルトラルが心血を注いで作った、バトルパペットの機動機構。
制御術式も、ジラによる高度な制御術式で超高機動戦闘を可能にする代物である。
「魔導工学と物理工学を合わせ持つ、バトルパペット。その恐ろしさを味わいなさい、モモカ!」
背中の魔導ロケットが、ドンッという衝撃音を残し、ジラはその場から消えた。
「えっ!?」
モモカが声を上げた時には、既に眼前に迫っており。
爆炎符をチャフの様にまき散らしながら、後方に飛ぶ。
激しい火球が炸裂する中、ジラの肩と脹脛の噴射ノズルがパンッパンッと音立て、空中であらゆる方向に軌道を変え、爆炎符を容易く回避していく。
〝インパクトスラスター〟この姿勢制御補助ロケットは、常時噴射ではなく。
軌道を変える時に爆発するかの如く噴射し、一気に起動を変えるシステムであり、『重力支配』『重力操作』が使える事が前提のイカレたシステムであった。
眼前に迫ったジラが、破裂音を響かせながらモモカの背後に周り。
モモカが左後廻し蹴りを放つと同時に、パンッパンパン、大気を弾く音を上げ。
前面に回ると、両腕を突き出し。
両腕のカバーが三つに分かれ開き、六つの銃口が炎を上げ魔鋼散弾を撃ち出した。
瞬時に〝黒呪符〟で結界を張るも、撃ち出された散弾に『多次元結界』ごと貫かれる。
散弾は通常の球状の球ではなく、小さな羽根の付いていない矢であった。
そのマイクロフレシェット弾一つ一つに、『絶対刺突』を付与していたのだ。
体をぐずぐずに貫かれ、その場でユラユラと揺れ動くモモカ。
「あっ、あぁああ」
「他愛も無い。こんなものですか」
次弾を装填したジラは、躊躇なく二発目を撃った。
ドパンッ!
甲高い発射音が響き、モモカの〝魔核〟が貫通され、崩れるようにモモカの身体は霧散していった。
「……」
止めを刺した。
しかし、ジラは一言も発せず。
霧の様に霧散したモモカのいた場所から、動こうとはしなかった。
(おかしいですね。あのカヤが、モモカが殺されようとしてるのに、一向にこちらへ来ない。なぜ?……ブラフ?……いや、確かに殺した。それは間違いないはず)
ジラは何か引っかかる物を手繰り寄せるように、思考を巡らせた。
(…………)
(………)
(……)
(…)
(!? もしや!)
ある一つの事に思い当たり、すぐに『万能感知』で周辺を探る。
その時。
「油断しないのは、相変わらずね」
背後でモモカの声がしたと同時に、刃が光りジラの背中を斬り付ける。
金属がぶつかる激音が鳴り、火花が散った。
ジラの肘から鎌のような刃が伸びてモモカの刃を受けるも、
斬られた半分の刃がクルクルと回り、地面に落ち突き刺さる。
「『並列存在』……あなたも使えたのですね」
「
「技量を磨く? 何ですかそれは? 教えなさいモモカ!!」
理解できない言葉にジラは、声を高く張り上げる。
「あんたには、一生理解できないと思うわよ。簡単な事、鍛錬を積むのよ」
ジラを見るモモカは、冷たく突き刺さるような瞳で見ながら、言葉をぶつけた。
「鍛錬……技量……理解不能です。魔物は持って生まれた力が全てです! ありえない、こんな事は!」
そう発した言葉とジラの顔は、憎しみと怨念の塊みたく醜く歪んでいた。
魔導ロケットを全開で噴射してモモカに接敵し、突きと蹴りを見舞っていく。
蹴り足を振る動作に〝インパクトスラスター〟が大気を裂き、モモカを攻める。
人体工学を無視した動き。
モモカが蹴りを防御した瞬間、膝の球体関節を軸に、あり得ない方向に脚を曲げ。
防御した腕をすり抜け、モモカの顔面に蹴りを叩き込む。
「ぎゃう!」
〝インパクトスラスター〟で加速された蹴りがモモカの顔面を蹴り抜き。
蹴られたモモカは地面をバウンドしながら激しく回転し、大地を抉りながら数百メートルを蹴り飛ばされていた。
地面にめり込んだモモカを、そのまま上空から踏みつける。
ダアーーンと地響きのように大地が揺れ、大量の土砂が跳ね上がり降り注ぐ。
降り注ぐ土砂の中、ジラはモモカの胸倉をつかみ持ち上げる。
「あなたでは――私には勝てない!」
ジラの口が大きく開き、そこから半球のレンズを嵌めた砲口が出て来た。
キ゚イィーン、収束された魔力が唸りを上げ始める。
砲口の先に幾重もの魔法陣が形成され、更に魔力を収束していった。
おもむろに、胸ぐらを掴んでいた手を離す。
「今度こそ、死になさい!」
〝
極限まで収束された熱収束砲が、放たれた。
近距離での膨大な熱量を秘めた熱光線は、光線の通り道にいる影獣達を蒸発させ、モモカの星幽体まで焼き尽くしていった。
熱収束砲の光線が通った後には、一直線にとてつもない長さの焦げて黒いガラス状になった道が、出来ていた。
砲口を納めるとジラは、ゆっくりと首だけを一回転させる。
何かを探すように、また、ゆっくりと首だけを回す。
「いましたか。これでも殺しきれないとは、直に魂を掴み潰すしかありませんね」
忌々し気に吐いた言葉とは裏腹に、ジラの顔は妖しく笑っていた。
大地が白い煙を上げながら揺らめく陽炎の中、一つの影がジラに向かって悠々と歩いてくる。
次第にその影が実態を表し、その姿はモモカとなる。
「中々に効いたわよ、さっきのは。プールしていた
表情を変えることなく、つらつらと言い放つモモカ。
これは半分ほんとで、半分嘘である。
並列影分身に半分の半分づつ
それを二体も消滅させられて、実質半分の
今は、極・超魔力縮退炉術式のお陰で、無尽蔵に
余剰分は吐き出さずに、並列影分身に与えていたのだ。
ある意味反則級のスキルであり、余剰分を並列影分身に与えながらプールする。
これは、ネコマタが
自身の復活時における、
致命傷を喰らう、古い体を破棄、再構成、その時に生じる
そして、モモカは常時二体の並列影分身を別空間に隠していた。
その制御は、ヤエであった。
ヤエの並列演算により、様々な術式が制御されていた。
カヤとモモカの術式を、軽々と同時制御するヤエ。
その術式制御はシエルに匹敵するほどに精密で正確であり、シエルと対等に渡り合えるのも伺える力であった。
〝並列影分身・魔鏡〟。
それをモモカは、エネルギータンクとして使っていた。
並列影分身は同じ存在ではなく、言わばコピーみたいなものであり。
故に並列影分身と、モモカは呼んでいたのであった。
完全な並列存在は数体までなら作れるが、魂の疲弊が激しくなるので。
残された時間を削ることになるのを防ぐ為、コピー体にしてエネルギータンクの役割として特化させたのである。
「解せませんね。どういうからくりなのか、
「教えるバカが、いると思う?」
「いませんね。では、その魂に聞くとしましょう」
ゆっくりと、歩き近づく二人。
それは、あの日の決着を――付けるかの如くであった。
八十三話を読んで頂き、本当にありがとうございます!
次回の更新も読んで頂けたら、幸いです。