転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました、八十四話です。






八十四話 モモカVSジラ(死闘・3

 

 

 ジラの猛攻。

 

 

 〝インパクトスラスター〟を使用した変移軌道。

 人体工学を無視した、手足の動き。

 

 それらを絡めたジラの変移体術にモモカは、苦戦していた。

 

 踵蹴りを見舞うジラ。

 それを腕をクロスさせて受けるモモカ。

 

 だが、受けた瞬間に膝の球体関節を支点に外側に折れ曲がり。

 そこから変形右膝蹴りを、モモカに叩き込む。

 

 顎下から膝蹴りを喰らい「ぐぇっ」と変な声を上げ、モモカの身体が浮き上がる。

 右半身の構えからジラは左手の平に魔力を集め、凝縮していく。

 左手が眩い位に光り輝き、ダンと左足を踏み出し、左掌底をモモカの腹部に打ち込んだ。

 

 何層にも張られた魔力衝撃波が腹部で炸裂した。

 

 一気に解放されたエネルギーは、モモカを貫き走る。

 

 ズンっと重々しい音を立てモモカの身体がくの字に曲がり、超高速で吹き飛んで行った。

 

 山間に並ぶ樹々を薙ぎ倒し、岩を砕いても勢いは衰えず二千メートル先の山に激突した。

 

 山の中腹辺りが爆発したように岩石をまき散らし、大穴を開ける。

 

 神速再生で体を再生したモモカが、崩れ落ちる岩石を弾き飛ばしながら出てくる。 

 

「魔力衝撃波の五層重ねとか、やってくれるわね」

 

 濛々と上がる土煙の中モモカが、上空にいるジラに吐き捨てる。

 

「あのくらいでは、大したダメージにはなりませんか」 

 

 いつもの口調に戻ったジラが淡々と言い。

 両太腿の横がガシャッと開く。

 そこから空間収納されてた縦長のマイクロミサイルラックが、迫り出して来る。

 

 ジラの両義眼に仕込まれた捕捉システムが、モモカを捉えた。

 

 その瞬間両側に表れたミサイルラックから、鉛筆程の大きさであるマイクロミサイルが白煙を拭きながら一斉に撃ち出された。

 

 片側横に五列、縦に二十並んだ100+100の計200発に及ぶマイクロミサイルが、白煙を引きながらモモカを襲う。

 

「なっ! カヤが読んでいたSFマンガに出てくる。アンドロイドや、戦闘サイボーグみたいじゃない! まったく誰が作ったのやら――〝召喚者〟の知識の応用なのかしらね!」

 

 そう叫ぶと、真上に急上昇し回避行動を取っていく。

 

「……マンガ?……意味不明の言葉になど用はありません」

 

 ジラは聞きなれない言葉に疑問を持つも、些細な事だと打ち捨てた。

 

 このヴェルドラとカヤが愛読するマンガ=聖典が、ジラの命運を分ける事になるのであった。 

 

 ドンッ! ドドンッ! 縦横無尽に空を駆け、マイクロミサイルを回避するモモカだが。

 

 迫るマイクロミサイルを直前で回避しても、直前で爆発しモモカの精神体(スピリチュアボディ)にダメージを与えて来た。

 

「当たらなくても、近接で爆発するの!? もう、うっとうしい!!」

 

 マイクロミサイルは近接信管も備えていたのだ。

 

 物理爆発に混ざり、精神体(スピリチュアボディ)に直接ダメージを与えるマインドボムが炸裂していく。

 

「まさか二属性を乗せて来るなんて、侮れないわね相変わらず!」

 

 怒りに満ちた言葉を吐きながら、蛇がうねり、踊り狂う様に回避行動を取る。

 ボッボッボッ モモカは更に速度を上げ、丸い衝撃波の輪が後ろに三つ形成されていた。

 

 すると、マイクロミサイル群も更に速度を上げ、追尾して来る。

 

 それにモモカはクルリと姿勢を変え。

 

 迫るマイクロミサイル群に向くと、両袂から〝黒呪符〟をばら撒いていった。

 

 宙にばら撒かれた〝黒呪符〟が次々と起爆する。 

 

 凄まじい爆発の連鎖の中、マイクロミサイルは、その爆発を縫う様に回避し追尾して来た。

 

 完全思考制御。

 

 ジラの『万能感知』と、バトルパペットに仕込まれている魔導レーダーシステムにより。

 

 周囲百キロは完全に空間を掌握されていたのだ。

 そこに予測演算も加わり、モモカを追い詰めていく。

 

「完全思考制御か……マリラのバレットダンスと、同じような感じかぁ!」

 

 モモカは背中から進行していたのを、頭を進行方向に向けた水平飛行に切り替えた。

 

 不規則回避行動を取るモモカの両肩から、二本の白い煙見たいなものが尾を引いていく。

 

 これは、急激な回避運動により。

 

 モモカの両肩からこぼれた空気が急減圧され、大気に含まれる水分の一時的凝結作用で発生した水蒸気の尾であった。

 

 眼下には影獣の群れで黒く覆い尽くされた大地が見え、時折その大地に所々ぽっかりと巨大な大穴が開き、大地が露わになっていた。

 

 地上ではカヤが、次々に湧き出る影獣の群れを殲滅していたのだ。

 

 急降下して来たモモカが地上すれすれで体を起こし、低空を超高速飛行していく。

 

 軌道を変えれなかったマイクロミサイルが、何発か爆発する。

 低空を飛ぶモモカの後には、土煙が左右に分かれ渦を巻き流れて行った。

 風圧でバタバタと激しく靡く髪と、尻尾。

 

「ああ、もう!」

 

 苛立たし気に声を上げるモモカ。

 その瞬間『重力支配』を使い、直角に軌道を変え、真上に急上昇を掛ける。

 それについて来れないマイクロミサイルがまた何発か、爆発していった。

 

 ドドドドドドンッ! 連続した爆発音が響き渡り、執拗に追尾して来るマイクロミサイル群。

 

 ゾクリ

 

 モモカの本能が何かを告げる。

 急上昇しながら身を捩ると、更に真上からジラの右腕が飛来して来ていた。

 ギリギリで躱したのもつかの間、真下からもジラの左腕が迫り、それも躱していった。

 

 しかし、ジラの左腕の後ろに姿を隠していた左足が、モモカの右脚ごと真上に貫き粉砕する。

 

 粉砕された右脚が霧散し魔素粒子へと変わり、光の粒子を辺りにまき散らす。

 

 

「ちいっ! 影に潜ませていたかぁ!」

 

 迎撃しようと鈴蘭を抜き放とうとした時――

 極音速で飛来した右脚に後ろから貫かれる。

 

 胸の真ん中には、メタル色の爪を生やした右足が覗いていた。

 

 がはっ!

 

 バランスを崩したモモカに、百以上ものマイクロミサイルが直撃する。

 

 高度三千メートルに凄まじい火球が膨れ上がり、その中から一つの物体が地上目掛け落ちて行った。

 

 黒い煙を長く引き摺りながら、大地に激突し浅いクレーターを作りその中心に、右腕両足を失ったモモカが横たわっていた。

 

 精神体に直接攻撃を受けた為、ピクリとも動かないモモカに影獣の群れが襲い掛かり、喰い荒らしていく。

 

 残る左腕が宙に舞い、それに影獣が喰らい付いて行った。

 

 程なくしてその場にジラが来て、右手を横に振ると、辺り一面を埋め尽くしていた影獣達が一斉に引いていく。

 

 モモカが横たわっていた場所がぽっかりと空地みたいに開け、左顔半分を失った頭部と胸の一部分だけが転がっていた。

 

 失った部分から青白い魔素粒子を漂わせながら転がったままのモモカにジラは、あの時の様に言葉を投げつける。

 

「少しは強くなったようですが、しょせんその程度。弱いですね、あの時と同じです。今度はきっちり、殺してあげますよ」

 

 右手を貫き手の形にし、止めを刺すべくゆっくりとモモカに近づいていくジラ。

 

 その様子を〝試験型 特殊環境用・神之瞳(アルゴス)から来る映像が映し出されたモニターを見ていたラミリスが、モニターの画面に近づき声を上げる。

 

「モモカあぁ! あんたなにやってんのよさ! 起きなさいよ! モモカぁああああああ」

 

 モニターの画面を両手で叩きながら叫ぶラミリスを、トレイニーが後ろからそっと両手で抱き抱え。

 

 暴れるラミリスを自分の胸に優しく抱いていった。

 

 リムル達も一声も発せずに、モニターを凝視していた。

 

 だが、只一人EP計測器の針をジッと見つめている者が一人。

 

 アルファである。

 

 彼女はさっきから激しく揺れ暴れる計測器の針を、見ていたのだ。

 

「そうかそうか……そこまでやるか――くはははははは!! まさに猫を被るだな、モモカよ!」 

 

 皆がモニターに釘付けになってる中、急に豪快に笑い出し。

 

 腰に下げたヒョウタンを掴むと、コンコンと二つ叩き、中の酒をグビリと飲んだ。

 

 そのヒョウタンはカヤが置いていった、〝酒蔵君〟であった。

 そんなヴェルドラにリムルが訝し気に尋ねる。

 

「おい、ヴェルドラ。猫を被るって、何かしてるのか? モモカは」

「うむ。しておるよ、最初からな。くわあっはははははは」

 

 そう答えるとヴェルドラはまた、〝酒蔵君〟からグビリと飲む。

 

「なあ、しているって、具体的に何をなんだ?」

「わからぬか?」と言われリムルはここ最近の記憶を辿っていった。

 そして……あるマンガに行き当たった。

 

「ああ!! あれかあ、SF長編マンガ・サイボーグニャンコ戦記かあ!」

 

 リムルはモモカとジラの戦いを見ていて、ジラの身体が色々ギミックが仕込まれているのを見て、どこの〝召喚者〟がもたらした技術なんだろうなあと考えて見ており。

 

(俺の入た世界では、アニメでよく見た設定だよなあ)などと思っていた。

 

 確かにモモカの戦いがあまりにも正攻法過ぎるとは、思っていたのだが。

 

 そこへヴェルドラが言った、猫を被っているの言葉。

 それで今、腑に落ちたのだ。

 

 カヤの見ていたマンガを、モモカも見ていたのだと。

 ならば……。

 

「ヴェルドラ。モモカもあれ読んだのなら――ジラのギミックは、おおよその見当はつくよな?」

「うむ。その通りだ、リムルよ。あのマンガに出てくるアンドロイドの敵は、まさにジラの使っておるギミックに酷似しておるからのう」

「じゃあ知っていて、あのやられっぷりを演じていたのか? 」

「うむ。我も最初は気付かなかったが――あのカヤが全くモモカの戦いに、介入してこないからな。流石に気付いたのだ。何か隠しておるぞ、モモカは」

「ねえねえ、師匠。本当に大丈夫なの、モモカは?」

「案ずるな、ラミリスよ。しかとこの戦いを、見てるが良いぞ」

 

 ヴェルドラの言葉にラミリスは少し安心した顔を見せ、パタパタとトレイニーの肩に乗って行った。

 

 リムルは、モモカの隠し玉が何なのかを気にしながらも、モニターに視線を戻す。

 

 その横でシュナだけは終始何事も無い様な顔でモニターを見ていてた。

 

 ヴェルドラの言った隠し玉を知っている本人であり、まだそれをモモカが使ってない事も見て知っており。モモカに近づくジラを見ながら着ている服の両袂で口を覆い隠し、クスリと小さく笑みを浮かべていた。

 

 モニターに、モモカの側迄来たジラが映る。

 

「モモカ。自分の弱さに悔いて、死になさい」

 

 そう言い、右貫き手をモモカの残っている胸の部分に押し当てようとすると――

 グリっとモモカの残った右半分の顔が、ジラに向けられた。

 

 

「ほんと、いったいわねえーー! このぉお、くそったれがあああああ! あんま、調子に乗ってると、ぶっ殺すぞ! この、ガラクタがぁああああああ!!」

 

 どんな時でも口調を崩さないモモカが、ド汚い言葉を吐き捨てた。

 

 その様子をリムルは「誰だ、あれ?」と呟くように言い。

 

 ラミリスが「誰もなにも。モモカなのよさ」と呆気に取られながら言う。

 そんなモモカの様子をヴェルドラ以外は皆、目を丸くして見ていた。

 

 ヴェルドラだけは知っていた、モモカの本性を。

 マジに切れると、本来のモモカが出て来て豹変するのだ。

 

 モモカは普段は表に出さない自分がいる。

 それは、冷酷で、何者にも容赦がない自分。

 刺客姉妹と言われてた人間の頃に、あの修羅を唯一押さえることが出来る者。

 

 そう呼ばれていたのだ、モモカは――

 修羅の姉と。

 

 そのモモカをヴェルドラは、一度見ていた。

 

 地下秘密闘技場でディアブロと秘密裏にモモカが、手合わせをした時に。

 最初は互角に戦っていた二人だが、途中でモモカが切れ、豹変した。

 

 その時にカヤもいたのだが、マジ切れしたモモカを見て、脱兎の如く逃げ出していたのだ……。

 

 秘密地下闘技場から。

 

 手合わせが終わり、ヴェルドラの張った結界から出て来たモモカとディアブロは双方ぼろぼろであったが、ヴェルドラの見立てでは、ディアブロの傷の方が僅かに多かった。

 

 結局その手合わせの勝負の勝ち負けは、双方譲らず。

 次回にお預けとなった経緯があったのだ。

 

 手に持った〝酒蔵君〟を再び腰に下げ、モニターに映るジラにヴェルドラが誰にも聞こえない様な小さな声で、囁き言う。

 

「ジラよ。お主は最初から、全力でモモカを殺しに行くべきであったな。一度勝った相手でも、侮りは死ぞ」

 

 それは敵であっても、強者に向けるヴェルドラの手向けの言葉でもあった。

 

「まだ、抗うのですか? 無駄な事を」

「あ゛あ゛っ? うるせえな、この能面女がぁ!」

「なっ! まだ――」

 

 バキィイイン! いきなりジラは見えない障壁みたいな物に、弾き飛ばされた。

 

 周辺に漂っていた魔素粒子が竜巻の様に渦を巻き上げ、その中心に身体を神速再生したモモカが立ちあがる。

 

「な、何ですか、その魔素量(エネルギー)は!?」

「もういい、だまれ! 『ヤエェーー! カヤの真・狂乱舞をわたしにリンク!』」

《はい、モモカ。では、真・狂乱舞を起動します。真・狂乱舞、全力解放!》

 

 世界の言葉が告げる。

 

《真・狂乱舞の起動承認をしますか? YES/NO》

 

 それにヤエが、即答で言う。

 

《もちろん、YESです!》

《全能力のフルブーストを確認 真・狂乱舞改め 神・狂乱舞スタート リミット 八百三十四秒》

 

「ぁぁぁぁあああああああぁぁ……コンタクト……リンクスタート!」

 

 ヒュイィンーー モモカが左右に両手を広げると、青白く発光する魔素粒子がモモカを包み上げていく。

 

 まるでモモカの周りだけ暴風が吹き荒れるかのように、魔素粒子が舞い踊っていった。

 

 腰を少し落とし、両足を肩より広く左右に広げ。

 左右に開いていた両手を、勢いよく胸の前で叩き合わせる。

 

 パンッ!!

 

 纏っていた魔素粒子が、甲高く響く短拍手と共に弾け飛ぶ。

 その余波はモモカを中心に物凄い速度で、円形状に広がって行った。

  

 作戦室のEP計測器の針を見ていたアルファが声を上げる。

 

「リムル様!! モモカ様のEP値、一億六千万オーバーですー! カヤ様も同じ数値を示していますー!」

「なにいーー!?」

 

 EP値一億突破と聞いて、流石のリムルも変な声が出て、作戦室にいるベニマル達はもうここまで来たら、何でもありだよねといった目をしていた。

 

 そんな中。

 

 ヴェルドラだけは、何故か嬉しそうに口元を緩めていた

 

 この時カヤとモモカは――

 

 世界最強の〝竜種〟のEP値を超えた。

 

 

 荒れ狂ったエネルギーの余波は、数百キロにも及び。

 それに巻き込まれた影獣達は、跡形も無く分解消滅していった。

 その残滓ともいえる〝憎念〟を、モモカは全て集め、喰らっていく。

 

 喰らった〝憎念〟をモモカは体内で――浄化した。

 

「まずっ!」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で言い放つ。

 

 〝憎念〟から解き放たれた魂が、苦痛の声をモモカにぶつけて来る

 

 ナゼダ ナゼ タスケテ クレナカッタ オカアサン オトウサン ドコ?

 コワイ クライ ヤミダ ヤミニ オオワレテイク イヤ イヤ ワタシハ ダレモ

 

 ニクミタクハナイ ニクメ ニクメ コンナ スガタニ シタヤツヲ ニクミ コロセ

 

 数千、数十万、数百万もの魂が上げる声に、モモカは晒されていく。 

 

「そんなこと言われても、知らないわよ。でも、輪廻の輪には送ってあげれるわ。だから、また新しい命として生まれて来なさい」

 

 ぴくっと眉を跳ね上げ言うも、最後の方の言葉では表情を緩め。

 まるで母親の様に、数百万もの魂に語り掛ける。

 

 かえりませい かえりませい

 ぬばたまの夜に 惑う子ら

 鳴かぬ(ぬえ)の 声さがし

 黒くうつろふ(染まる)闇の道 そこへもろともに(一緒に) あゆみゆく(歩いていく)

 

 みえざる影に おびゆるも(怯えても)

 

 そこに手を引く なんぢとわれ(あなたとわたし)

 

 みつけてかえらむ(帰ろう) かのかたへ(あの場所へ)

 

 いでいこふ(さあいこう) 流る輪廻の輪の中へ

 

 言霊が、魂を輪廻へ送る術式を組み上げた。

 

 そして……優しく短拍手を一つ鳴らす。

 

「いきなさい、冥界に流れる輪廻の輪へ。〝冥途天翔〟」

 

 明滅し、小さく光る何千万もの魂が一斉に天へと昇って行く。

 

 その光景はまるで、無数の蛍の群れが天を目指して飛んでいく様にも見えた、

 

 儚くも美しい情景に、〝試験型 特殊環境用・神之瞳(アルゴス)〟によって中継された映像を見てる者達は、しばし言葉を失っていた。

 

 そこへ。

 

『ねえ、あなた。あの時は、手を抜いていたのかしら?』

 

 いきなり『念話』が飛んで来た。

 ヴェルグリントである。

 大規模防衛〝黒呪符術〟発動時に、唯一タイミング合わせに参加しなかった国、東の帝国。

 

 それは、ヴェルグリントがモモカから受け取った〝黒呪符〟を見て、「原理はわかったわ。後は、あなたのタイミングに合わせてやるから、大丈夫よ」それだけ言い、モモカは「そう。それでは、合わせよろしくね」と、あっさり言い、そのまま帝国を後にしたのだった。

 

 モモカは幾度か ヴェルグリントと手合わせをしており。

 

 秘密地下闘技場で激しい手合わせを繰り広げていたのは、ごく少数の者しか知らなかった

 

 何故ヴェルグリントが、モモカだけに手合わせを挑んだのかは――

 誰も知らない。

 

 そしてヴェルグリントは、モモカのタイミングに見事合わせて来て、大規模防衛〝黒呪符術〟の起動させたのだ。

 

『それはないわ、ヴェルグリント。あなたに対して手を抜くとか、自殺行為だもの』

『ふーん、ならいいわ。あなたは、私自ら敬称無しで呼ぶことを許した魔物なのだから――無様は許さないわよ』

 

 そこでヴェルグリントは『念話』を切り、中継水晶球に映し出されている映像に、注視する。

 

 淡く光り輝く魂の群れが、天へと昇り、上空にある兇想の理の境界面に当たる前に魂の群れは次々と虚空に消え、輪廻の輪へ向かっていった。

 

 

「クカカカ。やるではないか、モモカ。ちと、あ奴らの力を侮り過ぎたかのう。まあ、よい。しょせん影獣など、戯れに作った物であるからな」

 

 破幻城の天守閣から見ているネコマタは何事も無い様な顔で、静かに嗤い言う。

 

『ジラよ。はよう止めを刺せい。次の段階が控えておるからな』

『……御意。ネコマタ様』

 

 ネコマタの『思念伝達』に答えるも、ジラは魂を送り出すモモカに向かおうとするが。

 

 足が動こうとはしなかった。

 静寂の中に蔓延する計り知れない、殺意。

 

 ジラは知らぬうちに気圧されていたのだ――

 その圧倒的な、殺意に。

 

(ありえない。この私が……気圧されている、など)

 

 ジラの心核に、呪いの様に沸き上がる困惑と言う感情。

 そんな理解不能な感情に怒りを募らせていたジラの目に、不可思議な光景が飛び込んで来た。

 

 モモカの周りに二千近くの魂が集まり、寄り添っていく光景。

 

 寄り添って来た魂をモモカは優しく手で包み、また宙に解き放っていった。

 

 名残を惜しむ様にモモカの頭上をふわりふわり舞うと、天に昇っていく魂。

 

 それは、猫神の里の眷属達の魂であり。

 

 モモカによってネコマタの呪縛から解き放荒れた喜びと、感謝を表してるようにも見えた。

 

 それにジラは、憎悪の念で言葉を吐き捨てる。

 

「ありえません! 〝心核〟すらも砕かれてるのに、意識が残ってるなど、ありえません! 使役されるだけの眷属にそんな事は、あってはならないのです!」

 

 そんなジラにモモカは、鋭い目付きながらも淡々と返す。

 

「ありえない? あんたらには、永遠に理解出来ないでしょうね。思いはね、〝心核〟だけではなく、魂そのものにも刻まれるのよ。憎しみだけを糧にするあんたらが、眷属達を否定する権利など――どこにも、ないのよ」

 

 淡々と綴る言葉に、凄まじい魔王覇気を乗せて返すモモカ。

 ジラは、気付かぬうちに一歩、二歩と後退をしていた。

 しかし、己の中の〝憎念〟を増幅させ、魔王覇気を跳ね返し反撃に転じた。

 

「ここで、あなたを確実に殺します! モモカぁああああああ!!」

 

 あの感情の無い言葉でしか喋らないジラが、怒りの感情を露わに叫ぶ。

 

「やってみろ、木偶人形が。その、存在すらも残さず――消し去って()るわ。フフッ フフフ」

 

 静かに漂うそれは、安寧の中に隠された殺意と狂気。

 

 薄い笑みを浮かべるモモカの表情は、見る物全ての精神を凍り付かせる程に恐ろしく。

 カヤとは真逆に己の殺意と狂気を、無差別に解放していった。 

 

 今だ世界に増殖する影獣たちが、世界に広がるその殺意に怯え、恐怖した。

 

《モモカ。新たな属性、闇魔光をあれに付与しておきました。いつでもいけますよ》

『そう。上出来よヤエ。あいつは、魂ごと粉砕してやるわ!』

《倒しましょう! モモカ!》

 

 力強いヤエの言葉にモモカも続き。

 今度は逆にジラを、追い詰めてゆく。 

 

 




 八十四話を読んで頂き、本当にありがとうございます!

 次回の更新も読んで頂けたら、幸いです。



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