転生したらネコムスメなんだけどの件   作:にゃんころ缶

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 お待たせしました。九十一話です。







九十一話 鈴 音

 

 

 〝破幻ノ(ことわり)天壊兇想(テンカイキョウソウ)〟が、地脈に最後の術を仕掛けて来る。

 

 

 星の地脈が〝憎念〟の流れる負の地脈へと、変貌を遂げ始めていく。

 

 大地は震え、海は荒れ狂い、空は暗雲垂れこめ、無数の雷が大地を焦がす。

 

 

 作戦室のベニマル達は、ノイズが走り始めたモニターに騒めき立つ。

 

「リムル様! 俺達も打って出ましょう!」

 

 ベニマルの声が響く中、ゲルドやガビル達までも、いきましょう!と言う。

 そんな声をリムルは、一蹴する。

 

「駄目だ! 出る事は許さん!」

「しかし、リムル様――」

「ベニマル! 言いたいことは、わかるさ。でもな、あいつらを――信じろ!」

 

 ベニマルだけではなく、他の者にも言い聞かせるようにリムルは言った。

 そこへ、ラミリスが口を挟んでくる。

 

「大丈夫なのよさ。やっぱり、モモカが睨んだ通りね。大丈夫! ちゃんと手は、打ってあるのよさ!」

 

 小さな胸をこれでもかとばかりに張り、ニッと笑いながら皆に向かって親指を立てるラミリス。

 

 

 星の地脈を掌握し、星ごと(ことわり)を書き換える。

 

 もし、これと別の方法で世界の理を書き換えるなら……この世界は、終わっていた。

 

 だがモモカは、夢見の映像から、ネコマタの術が地脈を利用することに気付き。

 ラミリスと、ある仕掛けを地脈に施していた。

 

 それは……。

 

「さあさあ、カヤ(モモカ)よ。始まるぞえ、終焉の宴が!!」

 

 地脈に到達した術が、地脈を辿り、全ての繋がる地脈を侵食し始める、が。

 

 それは……いきなり、止まった。

 

 地脈を覆い尽くそうと、黒い触手を地脈に穿とうとする、や。

 

 激しい放電現象にも似た電撃状の光が走り、迫る黒い触手を弾き飛ばした。

 

 星の内部に通る地脈にモモカが仕掛けた、鳥居型結界。

 

 

 〝巴門七聖陣(はもんしちせいじん)

 

 星の内部に走る地脈の要七ヶ所に仕掛けた鳥居型結界が、理の書き換えを拒む結界であった。

 

 あくまでも侵食を遅らせるのが目的で、完全に防ぐことは出来ない。

 

 この一時的に遅らせてる時間内に、ネコマタを倒す。

 これがカヤとモモカ、ヤエの出した答え。

 

 カヤの持つ最大最強の技で、ネコマタを倒す……その為の布石。

 

 その技は……一度限り。

 

 ネコマタの『因果律操作』ごと倒さなければ、この世界は――ネコマタの想う世界になるのだ。

 

 

 地脈への侵食が止まったことに気付き、ネコマタが低く、低く、声を出していく。

 

「何をした? お前ら……何をした? のだ」

 

 折れた夜叉を投げ捨て、カヤ(モモカ)を睨みながら言う。

 

「さあ、なんだろうな?」

「ふん、世迷言を……。完全には、止め切れておらぬようだが。無駄な事を」

「無駄じゃないさ。その間にお前を、殺せばいいだけだから」

「ほおぉー。出来るのかえ?」

「出来るさ。その為に、あたしらは技を磨き、策を練って来たんだ」

「なら……やってみるがよいわ!」

 

 激昂した声を上げ、ネコマタは己の〝憎念〟を増幅させていく。

 

「がが……が、がぁ……がぁああああああああああああああ!!」

 

 凄まじい咆哮が響き渡り。

 ネコマタの体が、黒い霧に包まれ、魔力が膨れ上がって行った。

 

 その黒い霧に反応して、星を覆う青白い魔素粒子がチリチリと弾け反応する。

 

 腰下まで長い黒髪をザワザワと波打たせ、二つに分かれた尻尾を妖しく揺らしながら。

 鋭い牙が並んだ口を開け、鈍く輝く金色の目を細めながら嗤う。

 

「もう、容赦せぬぞ! 塵も残さずに、この世界から消し去ってくれるわ!」

 

 〝憎念〟の塊の妖、ネコマタ。

 

 どす黒く渦巻く憎悪を、まき散らしていく。

 

『カヤ、ここからはあんたに、まかせるわよ! 術の行使などのサポートは、わたしがやるわ』

『うん、まかされた。モモカ!』

《さあ、決着をつけましょう。私たちの手で!》

『だね』

『そうね』

《では――》

『『いこう!』』

《いきましょう!》

 

 ここに、強大な力を持つ者同士が、ぶつかり合う。  

 

 

 ネコマタの〝超核撃魔法〟

 

 〝超重力崩壊(ハイパーグラビティコラプス)

 

 猛烈に暴れ狂う、超高重力の嵐。

 全てを飲み込まんと、空間を捻じ曲げながら回転する超高重力球。

 

 その中心にいるカヤ(モモカ)は、左右に両手を広げ。

 

 ネコマタの放った〝超重力崩壊(ハイパーグラビティコラプス)〟の超高重力を操作、支配し。

 

 一瞬で掻き消してしまう。

 

 カヤ(モモカ)の〝超核撃魔法〟

 

 〝超破滅の炎(ハイパーニュークリアフレイム)

 

 ネコマタを中心にして、巨大な黒球が現われ、あらゆる物を蒸発させる超高熱と爆発が襲う。

 

 それをネコマタは、「かあぁっ!!」気合一発で、吹き飛ばしてしまう。 

 

 口を大きく空け、ネコマタは〝憎念〟を核とした、超魔力砲を撃つ。

 

 〝怨裂呪砲(カースカノン)

 

 まるで数多の人の悲鳴のような音を上げ、黒い螺旋の光線が放たれる。

 

 カヤ(モモカ)も同じように口を開け、次元砲を撃ち放った。

 

次元魔導砲(ディメンション・ソーサリーカノン)〟 

 

 白く輝く光線が空間を歪ませながら突き進み、〝怨裂呪砲(カースカノン)〟とぶつかった。

 

 互いに衝突した光線は、黒い稲妻と白い稲妻みたいな物を躍らせながら。

 大地を抉り焼き、激しい光と共に、対消滅していった。

 

 ネコマタはその攻撃の刹那に、カヤ(モモカ)の間合いに飛び込み。

 胸に掌底を叩き込む。

 

 グワンと空間がたわみ、カヤ(モモカ)は凄まじい勢いで吹き飛んでいく。

 すると、その吹き飛ぶ速度より速い速度でカヤ(モモカ)を、追い越し。

 今度は逆に蹴り飛ばす。

 

 地面に叩き付けられた勢いで、轟音と共に巨大なクレーターを形成し、吹き上げられた大量の土砂が豪雨のように降り注ぐ。

 

 土砂の降り注ぐ中、カヤ(モモカ)は静かに立ち上がり。

 丹田に魔力を集中させると……。

 

「はああっ!」

 

 一気に解放し。

 モーターが唸るような音上げ、魔素粒子をまき散らしていく。

 

 空中に浮かぶネコマタ目掛け、飛び掛かる。

 ヒィイインーー 甲高い音を上げ、拳の連打を見舞う。

 

 その一発一発が、とてつもなく重く、次元衝撃波を発生させ。

 ネコマタの体を抉り穿っていく。

 

「ぬがっああああ! 小生意気な、小娘共がああああああ!」

 

 ネコマタも同じように拳の連打で返すが。

 カヤ(モモカ)はそれを受け流し、襟元を掴むと。

 

 真下の大地に、勢いよく叩き付けた。

 

 ドドン 激音が鳴り響く中、追い打ちとばかりにカヤ(モモカ)が超高速でネコマタ目掛け踏みつけていく。

 

 大地が割れ、裂け目の底までネコマタごと踏み抜いていった。 

 地殻まで響くその衝撃は、マグマを吹き上げ。

 どこまでも続く裂け目が、吹き上がるマグマで赤い火柱の列を作る。

 

 吹き上がるマグマの中、空中に浮かび上がるカヤ(モモカ)。

 

 その横に、魔核を砕かれ死んだネコマタが、『因果律操作』で蘇り。

 カヤ(モモカ)の胸を貫き手で、貫く。

 

 〝魔核〟を貫かれたカヤ(モモカ)の体が、一瞬で霧散した。

 

 しかし。

 

 ネコマタの背後に現れた影があった。

 

「なにっ!?」

 

 驚愕の声を上げ、振り向きざまに再度〝魔核〟を貫いた筈なのに――

 

 魔素粒子になり霧散したカヤ(モモカ)が、こんどはネコマタの眼前に現れた。

 

「……お前ら、まさか……『因果律操作』が、使えるのかえ!?」

 

 ありえぬ現象にネコマタが問うた。

 それにカヤ(モモカ)は、薄く嗤いながら返す。

 

「ねえよ、そんなもん! ただ、お前のその力に対抗する為に、考えに考えぬいた――あたしたちの、策だ!」

 

 そう答えると、カヤ(モモカ)はヒィーイインと更に唸りを上げ始めて行った。

 星を覆う魔素粒子。

 

 〝情報生命体〟となったカヤ(モモカ)の命とも言える存在は、この漂う魔素粒子の中にあり。

 この無数に漂う魔素粒子の一つ一つが、記録されたカヤ(モモカ)の存在である。

 

 ネコマタが『因果律操作』で死を書き換えるなら。

 

 カヤ(モモカ)は、星を覆う魔素粒子が消えない限り、無限に蘇ることが出来るのだ。

 

 死をも超越した二人の戦いが激化を辿る中、カヤ(モモカ)の瞬間移動にも似た力が発動された。

 

 ネコマタの攻撃が当たった瞬間に、霧のように霧散し空中にいるネコマタの背後や、横、真下など。

 

 あらゆるところに、タイムラグの無い瞬間移動で出現していた。

 

「お、のれぇえええ! 小賢しい力を使いおってぇーー!」

 

 己の攻撃が当たらずに、カヤ(モモカ)があらゆるところに瞬時に現れるのを、わけがわからないと言った声で、吠える。

 

 その光景をモニターで見ていたヴェルドラが、愉快そうに口を開いた。

 

「くわっはははは。あれは、我と初めて戦った時に見せた技では無いか。まあ、あの時より――遥かに進化しているがな! はあっはははは」

 

 腕組みをしたまま体を揺らし、笑うヴェルドラ。

 

 その様子をベニマル達はポカーンと見ていたが、リムルだけは気付いていた。

 

 そこへシエルが、リムルにあの力の説明を始める。

 

(マスター)様。あれは、量子テレポーテーションの一種かと》

『量子テレポーテーションだと?』

《はい。おそらくは、星に漂わせた魔素粒子の中に、自分達を魔素粒子化して。星を満たす空間にある魔素粒子のもつれ関係にある魔素粒子のうち、一方の状態を観測すると同時に、瞬時にもう片方の状態を確定、判明させることによって。いかな場所へとも、情報を瞬時に伝達する。量子テレポーテーションの応用です》

『ほおぉ。全く、あいつらと来たら……ほんとに戦国時代の元人間かってーの。くくっ そうか、カヤとモモカは技量を、ほんとに磨き続けて来たんだな』

《修練と研鑽の賜物でしょう。それに……》

『ん? それに?』

《いえ、なんでもありません》

 

 シエルはカヤとモモカが〝情報生命体(デジタルネイチャー)〟に進化した事だけは伏せた。

 

 この事は、まだ未完成の領域にあり、確実なものとして使えるまでは温存。

 ミカエルとの戦いにおいて、切り札に使えると判断したシエルであった。

 

 シエルの〝なんでありません〟にリムルは、いつもの事だと受け流していた。

 

『ところで、シエルさん。カヤたちの深層意識には潜れたのか?』

《今、九十八階層を突破し、九十九階層を攻略中です》

『そうか……何とかして、あいつらの戒めを、解いてやりたい』

《はい。(マスター)様の、望むままに》

 

 そこでシエルの会話は終わり、リムルも終わりを迎えつつある、戦いに注視していく。

 

「おのれ、蠅のようにブンブンと我の周りに現れよってからに!! ぬっ!? ここじゃあああああ!」

 

 粒子テレポーテーションで眼前に現れたカヤ(モモカ)の胸に、貫き手を穿つ。

 穿った瞬間に〝魔核〟を砕きその中にある、魂を掴んだ。

 

 〝魂砕き(ソウルクラッシュ)

 

 だが、ネコマタの力をもってしても、カヤ(モモカ)の魂は砕けなかった。

 

「何故じゃ! 何故砕けんのじゃあ! ごふっ」

 

 カヤ(モモカ)の魂が砕けずにいる所へ、カヤ(モモカ)が同じように貫き手で、ネコマタの胸を穿ち。

 

 魂を掴んだ。

 

「おのぉれぇー! 離さぬか、この小娘がああああああ!」 

「誰が離すかぁー! お前こそ離せよ!」

「おのれー! うがああああああああ!」

「くそがぁあ! うに゛ゃぁあああああああ!」

 

 拮抗する二人の力。

 

 お互いの突き込まれた胸の空間が、歪だし。

 ぐにゃりと曲がり、局所的な時空間の歪みが生じる。

 すると……在ろうことか、二人の魂がリンクしてしまった。

 

 一気に意識を時空の彼方に引き込まれ、ネコマタとカヤ(モモカ)の動きが止まる。

 

 魂に刻まれた、記憶。

 

 流れゆく記憶の奔流の中、次々と過ぎ去っていく記憶の光り。

 

 幾重も重なる光の束が解れ、一つの記憶に辿り着く。

 

 カヤ(モモカ)は、ネコマタの古い記憶の欠片に、触れた。

 

 それは。

 

 

 平安初期の時代。

 

 広い屋敷が映り、ネコマタの記憶映像が、廊下に流れ、幾つもの襖を抜け。

 行灯に照らされた、一つの寝室に辿り着く。

 

 そこには、初老の女性が寝ており。

 

 傍らには、心配そうに初老の女性を見ている、使い魔らしき化け猫の(アヤカシ)がいた。

 

 声が、聞こえてくる。

 

鈴音(スズネ)よ。今までよく使えてくれた。もう、戒めを解く故……自由に、生きるが良い」

「嫌です、璃羽(あきは)様! 私は、いつまでも貴方様の、お側に……」

「長年、朝廷に使えて来たが……我が呪法を散々利用しながらも、恐れを無し。とうとう、我が一族を……根絶やしに来おったわ。じゃが……これも、我が一族がして来た業への、報いかも知れぬ、なぁ」

「そんなことはありませぬ! 傷つき、死にかけた私を救い。使役することで、討伐者から私を、守ってくれた……璃羽様は、私の恩人です……」

 

 涙を流しながら璃羽の右手を握りしめる鈴音に、璃羽は優しく語り掛ける。

 

「ほんに、優しい(アヤカシ)よのう……お前は。だから、人を傷つけずに生きて来たのだな。運悪く人に化けた姿を、術者に見破られなかったら……今でも、ひっそりと生きていけただろうに。すまぬなぁ、鈴音。こほっこほっ」

「……お体に障ります。璃羽様、これを」

 

 咳き込む璃羽に鈴音は、薬湯の入った湯飲みを差し出し、璃羽は上半身を起こすとそれを受け取り。

 

 一口二口と飲むと、湯飲みを鈴音に渡し、すぐに体を床に横たえる。

 

 はだけた掛け布団を鈴音は、そっと掛け直す。

 

 胸を病んだ璃羽は、余命幾ばくも無く。

 天幻(てんげん)一族の当主として、一人この屋敷で終わりを迎えるつもりであった。

 

 そこへ、一人の巫女装束を着たうら若き女性がやって来る。

 

「璃羽様、失礼しまする」 

 

 声を掛けてから、その女性は襖を開ける。

 

「おぉ……弥月(みづき)殿か。伏せたままで、すまぬな」

 

 首だけを弥月に向け言う。

 それを鈴音は、警戒心露わに威嚇するも、璃羽に「やめよ」と言われ、大人しくなる。

 

「して、どうでしたかな? 現、闇夜一族の当主よ」 

「はい。頼まれた通りに、一族の子供、その親は、無事都を出ましたでありますよ。私の〝幻隠〟の呪符を持たせてありますので、見つける事は無理か、と」

 

 にこりと微笑む女性は、闇夜 弥月、カヤ達の祖母に当たる人物であった。

 

「そうですか。無理を言って、すまぬな……」

「いえ。今まで使えて来た一族に、もう用は無いと、一族皆殺しは……あまりにも慈悲のない事。しかし、我らも朝廷に使える身。子供とその親の片方どちらかしか、逃がすことは叶いませんでした」

「いや、それで充分です。朝廷が恐れたのは、我が編み出した呪法。反心魂(はんしんこん)。十の妖の魂を、怨念と憎悪ごと呪玉に封じ込め、災いを成す。その気になれば、都すらも呪える呪法。あまりにも、強力過ぎた術故……朝廷も、存在事消し去りたくなったのでしょうね」

 

 そこまで話すと静かに一度目を閉じ、再び開くと弥月に目を向ける。

 

「我が命は、もう長くはありません。この秘術は、誰にも教えていませぬ。我が命が消え去れば、この呪法も、永遠に失われるでしょう。最後に残った……この反心魂は、鈴音に浄化の手解きをした故……我が死した後、浄化するよう言い付けてあります」

 

 そう言いながら、鈴音に玉を見せる様に促し。

 

 鈴音は懐から、握れば手の中に隠れる大きさの玉を取り出した。

 

 透明の玉の中には、凄まじい憎悪と怨念が渦巻いていて、それを見た弥月ですら。

 

 「何とも、凄まじい呪法ですね」と、目を鋭く細め小さく呟く。

 

 しばらく見せ、鈴音は大事そうにその玉を懐に仕舞った。

 

 ここで、記憶の映像が途切れる。

 また、無数の記憶の光が流れる中、一つの記憶が垣間見えた。

 

 

 そこは……。

 

 

 燃え盛る、璃羽の屋敷であった。

 

 屋敷を燃やす炎に照らし出される、妖――鈴音がいた。

 

 その鈴音を囲む、符術士と武者たち。

 囲む者達に向かって鈴音は、怒りに満ちた声を上げていた。

 

「何故じゃ! 何故そっとしておいてくれぬのだ! 璃羽様は、後七日も生きられぬ体なのに……何故に、何故に殺したのじゃ!」

「使い魔風情が、人に物申すな! あ奴が編み出した呪法は、都を滅ぼしかねん!」

 

 武者の男が鈴音に吐き捨てる。

 

「慈悲は無いのかえ? お前らは……璃羽様と、同じ人であろうがぁああああああああ!!」

「慈悲? 笑止! 呪いを操る一族など、危険極まりないわ! なっ……ぐわあああああああ」

 

 鈴音に言い返した武者が、鈴音の爪に斬り裂かれた。

 

 鈴音は二人の符術士と、武者を三人殺したところで、呪縛の呪符で体を縛られ動きを封じられた。

 

 一人の位の高そうな武者と符術士が、何やら話してるのが鈴音の耳に飛び込んでくる。

 

「玉は見つかったか?」

「いや、屋敷には無かったし、天幻も持っていなかった」

「ぬうぅ。もう屋敷は火が強くて入れぬし……!? もしや、その化け猫が持っておるかも知れん。急ぎ、調べよ!」

 

 一人の符術士が、鈴音の体を調べようとすると。

 

「触るな……私に触るな……人、よ……。玉だと、こんな物で、私の愛する璃羽様を、殺したのかえ!」

 

 その目は憎悪に満ちていて、何よりも大事な主を殺した人への憎しみで、染まっていた。

 

 懐に入れた反心魂が、鈴音の憎悪に呼応する。

 凄まじいまでの妖力が、鈴音の体内に流れ込んでくる。

 

 体を縛る、呪縛を無理やり消し飛ばし。

 

 自由になった手で自分を調べようとした符術士の胸を、鋭く伸ばした爪で刺し貫く。

 

 その時に、「茲良(ジラ)!」と名を呼ぶ声が響いた。

 

「お前ら……許さぬぞ、主に術など行使する、体力など……既に、残ってはいなかったのに。今まで、散々璃羽様にお前らの邪魔になる者達を、呪法で――殺させてきたのだろうがぁあああああ!」

 

 圧倒的な力で、その場にいる武者、符術士を長く伸ばした爪で斬り裂き、皆殺しにした。

 

 血の滴る手で懐の反心魂を取り出すと、淡く赤い光を発していた。

 

 鈴音は死ぬ間際の、璃羽の言葉を思い出す。

 

 屋敷に、いきなり武者と符術士たちが押し入って来た。

 主を守ろうと鈴音は戦ったが……。

 

 多勢に無勢、鈴音一人では守り切れず、武者の刃に璃羽は斬り殺されてしまう。

 

 その時に言った、璃羽の言葉。

 

 『鈴音よ、人を憎んでは……ならぬぞ。憎しみに駆られると、人であれ、妖であれ……後戻りができなくなるで、な。逃げよ、そして――反心魂を浄化、破棄するのだ……ぞ』そこで言葉が切れ、璃羽は生涯を終えた。

 

「璃羽様……私は……私は……人を、許せませぬ。私は、頼んだ。地に頭を付け、もう長くは生きれぬ璃羽様を静かに……死なせてくれと。しかし……でも、あ奴らは――抵抗も出来ぬ、璃羽様を斬ったのだ!! すみませぬ……私の大事な主、璃羽様。私は……私は……私は、璃羽様の仇を取りまする! 憎い、憎い、あ奴らが憎い、人が――憎い! 私の憎しみで、殺し尽くしてやりまする!」

 

 反心魂、十の妖の魂と憎悪を封じ込めし、呪玉(じゅぎょく)

 

 その強大な力故、璃羽はめったにこの術を使わなかった。

 

 完全に解放されれば、都一つをいとも簡単に滅ぼす呪い。

 

 だが、その反心魂にもう一つ憎悪に燃える魂を加え、十一にすると。

 制御すら出来ず、国すら滅ぼしかねない何ものかを生み出すと、鈴音は聞かされていた。

 

 その言葉を鈴音は思い出し、反心魂を躊躇なく飲み込んだ。

 

 鈴音の体内で反心魂はその力を解放し、呪法が解き放たれていく。

 

 がぁああああああああああああああああああ!

 

 両手を横に広げ、天を仰ぎ見、咆哮する。

 その咆哮は都中に、轟き渡る。

 

 一本だった尻尾が、嫌な音を立てながら二つに割れ。

 黒く沸き上がる霧のような物を纏い、憎悪が鈴音を支配していく。

 

 璃羽に救われた時の、記憶。

 璃羽と過ごした、楽しい日々の記憶。

 璃羽に戦う術を、教えてもらった記憶。

 鈴音であった記憶全てが……消え失せていく。

 

 反心魂に喰われて、鈴音の魂は反心魂と同化し……それは、生まれた。

 

 負の感情を糧とする、〝憎念〟の化け物――

 

 猫又。

 

「私は……我は、再びこの都に帰って来るぞ! その時は、この都全ての人を、憎しみと怨念渦巻く地獄へと、突き落としてやろうぞ!」

 

 この言葉を残し、猫又になった鈴音は姿を消した。

 そして、カヤ達が生まれ、カヤが三才になった年に、猫又は都に帰って来た。

 

 ここで記憶の再生は途切れ。

 カヤ(モモカ)とネコマタは、現実の時間帯へと戻され始めていた。

 

 眩いばかりの光の束が流れる、不可思議な世界を意識しながらカヤは、モモカとヤエから尋ねられる。

 

『ネコマタも、最初から〝憎念〟を抱く者では無かったの、ね。カヤ、あんたは……どう、思って?』

『同情はしないよ。あんなこと、戦国乱世では日常だったもの』

 

 モモカの問いに――

 カヤは、即答し。

 

 そのまま、言葉を続ける。

 

『どんな手段であれ。使えた主が慈悲も無く殺されたことへの、復讐なら……誰でも思う事じゃない? だからあたしは、それを否定はしないよ。でも、それがあたしの邪魔をするなら――叩き潰すだけだよ』

《そうですね。復讐ならば、その時の朝廷にすればいいだけ。しかし、鈴音は……あの呪法に(すが)った……いえ、受け入れたのでしょうね。全ての、憎悪を》

『そうね……元は優しい心を持った、妖だとしても――もうあれは、反心魂から生まれた、憎念の化け物だから。わたしたちで、終わりにしてあげないとね』

《反心魂……沙羅母様からは、詳しくは教えてもらってなかったのですけど……。一代限りの、禁呪だとは、聞いていました。まさかあれが実在して、猫又を生み出していたとは、思いませんでした》

『もうモモカの言った通り、終わりにしてあげよう。多分……沙羅(かあ)様も那破刀(とう)様も生きていて、ネコマタの正体を知ったら、同じことを言ったかも、知れないし』

《そうですね。天幻一族と闇夜一族も、何某かの因縁はあったかも知れませんね。因果は巡る……なら、その因果を断ち切りましょう!》

『そろそろ、現実の時間帯に戻るね。ヤエ、あれの準備を。そしてモモカ、あれをやるよ』

『ええ、わかったわ。カヤ』

《起動はさせてますよ。後は、使う――タイミングのみ、です》

 

 程なくしてカヤたちは、現実の時間帯に時期戻され、同時にネコマタも戻って来た。

 

「……みたのか?」

「ああ、見て来たよ。記憶の欠片を」

「ふん。それで、同情でもするのかえ?」

「しないよ。あたしらの、目的は――あんたを、倒す事だ!」

「くくく。それでこそ、闇夜一族の者だえ」

「あんたこそ、あたしの記憶の断片を、見て来たんじゃないのか?」

「そうだのう、見てきたぞ、しかと、な。お前たちが、何故――〝憎念〟に耐性があるのか。それが、わかったぞ。憎しみと言う感情が、無いではないか……流石に、無い物を感じさせることは、出来なんだのう。よもや、反心魂にこのような形で対抗するとは。お前たち、親から聞かされていたのか?」

「いや、全く知らなかったよ。あんたの記憶の断片で、初めて知ったからな」

「そうか……」

 

 そうかと言ったネコマタの表情が一瞬、記憶の断片で見た、主を思う鈴音の顔を覗かせた。  

 

 ネコマタは、静かにカヤ(モモカ)の胸から手を引き抜き、無防備な後ろを見せて、歩き始めた。

 

 それをカヤ(モモカ)は、黙って見ていた。

 

 ある程度距離を取った所で、振り向き。

 いつもの形相に戻り、声を出した。

 

「さあ、いつまでもお前たちの防御結界は、持たぬのであろう? クカカカカカカカカ 掛かって来やれ、闇夜一族の小娘どもが!! 我が、その存在を喰らい、殺し尽くしてやるわ!!」

 

 世界に満ちた、〝憎念〟を吸収し始めるネコマタ。

 

 黒く渦巻く嵐がネコマタを中心にして、巻き起こる。

 

 カヤ(モモカ)は白色に光る魔素粒子を体から、まき散らし始め。

 

 ギィイイイイイイインッと耳を裂く甲高い音を、上げていく。

 

 

 最後の決着をつけるべく、二人は己の力を。

 

 高めてゆく。

 

 

 

 




 九十一話を読んで頂き、ありがとうございます!

 次回の更新も読んで頂けたら、幸いです。



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