我天津ヨリ遣ワサレシ死神也   作:太陽隊長

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まさか今年中に投稿できるとは思いもしなかった
みんなもシルヴァリオサーガで二次創作書こうぜ!


英雄譚、その前座/prologue

新西暦1027年、21:27

 

軍事帝国アドラーの帝都は、地獄と化していた。

 

今日も平和に終わるはずだった日常は壊された。

世界は赤く紅く血塗られる。

あらゆる死に包まれた、苦しみと嘆きしかない無間地獄。

焔が人を焼き殺し、死体を苗床として燃え上がり更に命を奪っていく。

崩れる瓦礫に押し潰され、血の押し花が増えていく。

悲鳴と怒号がそこら中から響き渡り、阿鼻叫喚が跋扈する。

人の命が呆気なく散っていく。

大和(カミ)の遺産を手にし栄華を極めていた国の中心だとはまるで思えない。

恐怖と絶望の中、それを作り出した元凶と一人の星辰奏者(エスペラント)が一方的な死闘を繰り広げていた。

 

赫黒の拳が振るわれ、触れたモノがどれも変わりなく塵と化す。

槍のような氷柱が樹木のように別れ、華のように咲き乱れながら全てが凍りつく。

人も戦車もゴミのように薙ぎ払われながら、未だ魔星の前に立つ一人の男。

 

「オイオイ兄ちゃん、随分足掻くが苦しくはねえのか?どうせならすぐ楽になったほうがアンタにとっちゃ幸福かもしれねえぞ」

 

「そうだな、今すぐ死ね劣等が。その醜態見るに堪えん、ネズミ如きが私の手を煩わせるな」

 

「───ふざけるな」

 

魔星の傲岸不遜な物言いに男、イサム・虚・アマツは否と返す。

 

「死ね?死ねと言ったかおまえら、この俺に。───阿呆が」

 

生きているのは苦しいだろう、だから死ね。

無様な姿を見せるな、だから死ね。

なんだそれは、馬鹿なのか。

 

「生きてさえいればどうにかなるだろう、命さえあれば明日に希望を見れるだろう。生きているだけで俺にとっては天国だ、極楽浄土に違いない」

 

「あらら、ならまあ仕方ねえか」

 

凍傷だらけの腕を炎の中に突っ込む。

代わりに腕が燃えるが、星辰光(アステリズム)で炎の熱を奪って命に換えた。

換えた命が通常の星辰奏者を超える速度で腕の火傷を再生させる。

 

「ああ、後劣等とか言ったなおまえ。残念なことに俺は血だけは一級品でね、おまえたちみたいな魔人とは違うのさ」

 

「ほざいたな貴様………!」

 

その言葉が蒼の魔星の逆鱗に触れた。

圧倒的暴威の下、絶対零度の星が放たれる。

威力を増し、しかし精度を欠いた攻撃を超人的な身体能力でイサムは躱した。

 

「さてと、片方が挑発に乗ってくれたのはいいが………」

 

冷や汗をかきながら敵の能力を分析する。

キレたことで攻撃の精度が下がったのは予定通りだが、威力が上がるのは予想外だ。

基準値(アベレージ)から発動値(ドライブ)に移行した訳でもないのに、星の力が上昇している。

それはつまり出力の調整が可能ということで────

 

「今まで手加減されてたってことか、お決まりの展開だが笑えねえな」

 

星辰奏者は異能の出力を基準値から発動値、言い換えれば零から十、もしくは十から零にすることしか出来ない。

本気を出すにしても文字通り全力しか出せないのだ。

だがアレは違う、詠唱(ランゲージ)を唱えた様子がなく発動値に移行したようには見えない。

必要が無いのかもしれないし、もしくは基準値と発動値の出力が近いのかもしれないが、大気中の星辰体(アストラル)と感応するならなんらかの予備動作ぐらいあっていいはずだ。

それらしきものがないという事は、アレは発動値に移行し零から十になったのではなく、出力を調整し零から五になったと考えるべきだ。

 

「化け物が………」

 

「化け物ね、そりゃあアンタらが言っちゃいけねえんじゃねえか?」

 

赤い鬼面がイサムの言葉に疑問を返す。

 

「人間を越えた超人、星辰奏者。はたから見ればおまえさんも充分化け物だよ」

 

「吐かせ赤鬼、てめえらは化け物から見た化け物じゃねえか。普通の人間からしたら俺よりよっぽど怖いだろうさ」

 

「そうだな、そいつは違いねえ!」

 

紅の魔星が死を纏って突っ込んでくる。

触れれば終わりの無数の死撃をすんでのところで躱し続ける。

同時に蒼の魔星の星が襲いかかるが、身体の限界を越えて無理な動きでひたすら躱す。

反撃なんてできやしない、出来ることはただ躱すだけ。

いくら己の性能(スペック)が優秀でも相性が悪すぎる。

 

イサムの星は奪う星。

星辰体を除いたあらゆる力を吸収し生命力に変換する能力だ。

周囲のエネルギーと生命力を取り込む力は、二体の魔星とはすこぶる噛み合わない。

ひたすら生き延びる事に特化したその力は勝負を決する奥の手に欠けている。

戦闘スタイルは己が武器である大鎌を振るうことのみ。

紅の魔星、マルスは触れた物を分解して消滅させる。

蒼の魔星、ウラヌスはあらゆる物を凍結させる。

近接戦闘しか出来ないからマルスには一撃さえ与えることは不可能だ。

奪うことしか出来ないから熱を奪うウラヌスの星に対抗することは不可能だ。

近づくマルスと周囲の炎から常に力を奪い続けているものの、生命力のストックは減る一方。

ストックが尽きれば今と同じ速さを保てず、攻撃を避けることが出来なくなる。

とどのつまり、もうイサム・虚・アマツは詰んでいる。

 

防戦一方の中、遂に氷杭の一つがイサムの左脚を貫いた。

氷華が広がるその前に炎の中に飛び込んで侵食を抑えようとするが、絶対零度の前にはこの程度の炎では止められない。

左脚から上に向かって身体が凍り始める。

これにて弱者の悪足掻きは終わり。

また一人、魔星の手によって命が散った…………

 

「────まだだッ!」

 

イサム・虚・アマツは生きることを諦めない。

どれだけ絶望的な状況に追い込まれても、可能性が見えなくても、命の輝きを消そうとしない。

もう駄目だ、助かるはずが無い?

だから諦めて目を閉じる?

そんな思考をしている暇があるなら生きる方法を考えろ。

目を閉じる力があるならその力で身体を動かせ。

自分というたった一つの命を守るためならば手段を選ぶことは無い。

他の全てを喰らってでも生き残る、友も家族も自分のためなら惜しくない。

自らの生存に振り切れた破綻者。

だから、彼は足掻くことをまた選択した。

 

「──吸収(アブソーブ)ッ!」

 

周りの炎からイサムを中心に熱が奪われていく。

そうして吸収し変換した生命力を、イサムは自身の体温の上昇に回した。

 

「ア、アアアァァァーーーッ!」

 

消えても際限なく燃える炎、それを取り込み無尽蔵に上昇する体温。

炎よりも熱く熱くその身を灼き焦がす。

星辰奏者でさえ耐えられるかわからない高温は肉を、骨を、内臓を融かしていく。

だがその人体が出すにはありえない熱量が、広がる氷華を液体の過程を飛び越え昇華させた。

疲弊しきった身体が倒れないよう武器を支えに膝を着く。

 

「ハァーッ、ハァー………!」

 

「………コイツぁ驚いた。まさか相棒の星辰光を受けて生きてるとはな」

 

「ネズミどころかゴキブリだな、貴様は」

 

その常軌を逸した方法に、マルスとウラヌスは驚愕していた。

どういう原理かはわからないが体温を上昇させて星辰光を無効化したという事実に唖然とする。

自分たちのように骨格から超人として造り出されたのではなく、強化されたとはいえ生身の人間がそんな無茶をしたのだ、正気の沙汰とは思えない。

 

「だがその様子じゃもう何も出来ねえな。悪いな兄ちゃん、どうかあの世で恨んでくれ」

 

「メインディッシュの前の前菜としては悪くはなかった、惨めに死ぬといい」

 

だがしかし、もはやイサムに打つ手はない。

もう星辰光の発動さえ困難な彼は魔星から逃げることも出来ない。

そう、今度こそ魔星の蹂躙劇は幕を下ろす───

 

 

 

「──そこまでだ」

 

 

 

───英雄譚の開幕を以て。

 

闇を振り払い、光の化身が降臨する。

燃え盛る業火の中から、あらゆる希望をその身に背負い、軍靴の音を重く鳴らしながら、鋼の英雄がその姿を現した。

いつか見かけたその男の名を、イサムは呆然と口にした。

 

「クリストファー、ヴァルゼライド、大佐……」

 

始まりの星辰奏者、クリストファー・ヴァルゼライド。

アドラー帝国最強の男が全ての悲劇を終わらせんがため、魔星の前に立ち塞がった。

そしてイサムの肩に手を置き、その目を見ながらこう言った。

 

「よく耐えた、後は俺に任せろ」

 

魔星へと振り向き、携えた七つの鞘から二本の刀を抜く。

その眼に宿すは悪への怒り、その手に握るは断罪の刃。

さあ、見るがいい───魂にその偉業を焼き付けろ。

後の世に語られる蛇使い座(アスクレピオス)の大虐殺、その最終章が始まった。

 

 

イサムは歓喜に打ち震える。

ヴァルゼライドに賛辞を送られたこと───ではない。

それもなくはないが、胸に手を当てそこに感じる鼓動に安堵した。

 

「ああ──俺は生きている」

 

身体は内も外もボロボロ、しかし間違いなく命は此処に在る。

魔星との戦いには敗北した、だが勝利を勝ち取ったのは俺だ。

俺は『俺の生存』という最大の目的をもぎ取った、これを勝利と言わずして何と言う。

その最後のピースとなったヴァルゼライドに感謝しながら、その戦いを見届ける。

 

普通に考えれば、彼が魔星に勝つのは不可能だろう。

星辰奏者を越えた化け物、それも二体を相手に勝利するなど空想夢想に過ぎない。

俺が生き残れたのは血筋ゆえの性能の高さと、生存特化の星辰光のお陰だ。

如何に強力な星辰光であろうと奴らに打ち勝つことは出来ない。

 

しかし彼の事は伝聞であれど他人よりは詳しいだろう。

彼の幼馴染らしい深謀双児(ジェミニ)の隊長から何度もその覇道を聞いている。

 

曰く、己の決断を絶対曲げない頑固者。

 

曰く、其の星は光の裁き、神の雷。

 

曰く、彼に敗北はない、最後には必ず勝利する。

 

それを聞き一度見かけた時は若干疑ったが、今戦場に立つその姿を見て確信した。

この人は英雄の名に相応しい怪物だ、相手が誰であろうと負けるハズがない。

今もそう、どちらも星の力を身に纏ってはいないとはいえ魔星と互角に打ち合っている。

出力も速度も劣っているのに、それを圧倒的な技量で抑えている。

強い、強い、強すぎる───帝国最強、もはやその称号さえ霞むほどヴァルゼライドは強かった。

そしてその根底に在るのは、あらゆる試練を踏破する意志力───即ち、気合と根性だ。

なんて不条理、気合と根性(そんなもの)で何もかも乗り越えられるほど現実は簡単ではないのに、それをやってのける化け物に誰も勝てるハズがない。

だから、そんな英雄(バケモノ)と戦う魔星を憐れに思う。

この惨劇を作り出したことに思うものもあるが、それ以上にこの人と戦うこと、そして戦うことを選んだのを憐れんだ。

 

「「天昇せよ、我が守護星────鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため」」

 

創生せよ、天に描いた星辰を────我らは煌めく流れ星

 

紅の魔星が滅びの瘴気を身に纏う。

蒼の魔星の周囲を絶対零度が覆う。

光の英雄は、その刃に輝く雷光を宿した。

三つの異星法則がぶつかり合い、戦闘は更に激しさを増す。

 

そしてそのタイミングで、俺の意識は遠のき始めた。

自らの生存を確信したことで、身体が休息を求めたのだろう。

墜ちていく意識の中、余裕が出来たからか他のことが頭に浮かんだ。

 

(兄貴、ヒナ………ゼファー)

 

何処までも優しくお人好しな兄。

俺がその手を振り払って逃げてしまった少女。

そして数少ない友人の一人で、臆病な自称落ちこぼれ。

彼らは無事だろうかと、今更そんなことを気にして。

 

「やっぱ自己中だな………俺って」

 

己が塵屑であることを再認識して、俺は目を閉じた。

心が折れてその場から逃げ出した友人に、最後まで気づくことなく。




うちのイサム君は強いぞ!
チトセネキには勝てないけど!
ヴァルゼライド閣下には勝てないけど!
魔星にも軒並み勝てないけど!
ただしゼファーさんには勝てる

フィーリングで書いてるけど多少の無茶は新西暦だからで押し通る、ハズ
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