森の深く、人の声はおろかモンスターの鳴き声すら聞こえない中二つの足音が響く。普段ならもう少し騒がしい場所であるはずだが、ここまで静まり返っているのは時間が時間である事だけでなくある噂が原因であろう。などと考えていると後ろから本日5,6回目の承諾し難い提案が来た。
「ねえ、そろそろ戻りましょう? こんな所にい続けるなんて私無理だわ。もう散々探したじゃない」
かのkob副団長様には一見弱点が何一つないように見えるが、彼女にもただ1つ弱点がある。攻略時の威勢からは推察できない大の幽霊嫌いなのだ。であればこの現状は彼女に取って最悪に近いもので先程から足取りが重くなるのは至極当然の事だろう。少女が口をムスッとしてやや怯えながら発するその言葉には男というもの従ってしまいたくなるが、そこは理性で抑えて却下する。
「お前なあ、この森に入ってからまだ30分しか経ってないんだぞ。最低でも1時間は探すからな」
「そ、そんなー」
へなへなと座り込むがその手にはかかるまい。理性だ理性を保つんだ俺。話を戻そう。この静けさの理由の《ある噂》とは端的に言えば幽霊が出ると言うものだ。現実世界ならいざ知らずここは仮想世界である為そんな訳が無いと思うだろうが、何と実際に遭遇し攻撃を受けそうになったというプレイヤーがいるのである。ここは最前線から離れており一般のプレイヤーも日夜レベリングに訪れていて、ある夜には今回の依頼人もここに来ていた。夜になるとレアアイテムが出現するという話をNPCから聞きわざわざ夜更けに出掛けたが、偶々いつものパーティーメンバーは用事が有り仕方なく一人で戦闘していたのであるが。一時間ほど戦い続けて半ば諦めつついた時、突如後ろから奇妙な音がした。何かと思って振り返ってみるとそこには巨大な黒い影がいたと言う。驚いたのも束の間ソイツは剣を振りかぶり依頼人を攻撃しようとしたのである。その威力はとてつもなく周りに爆風を巻き起こすほどであったが、幸運なことにその攻撃はリーチが足りず空を切った。絶望して金縛りにあった様に足が動かなくなり死を覚悟したがソイツは突如奇声をあげたかと思うと煙のように姿を消してしまったのだ。
「結局ソイツは何がしたかったんだろうな」
「うーん。もしかしたらその幽霊は何か伝えたかったのかな」
何か伝えたかった…か。確かにあるかもしれないな。と、その時。
ガキィィィーーン
金属と金属がぶつかるようなこの音は。
「誰かが戦ってるわ!」
「行ってみよう」
即座に二人は持ち前の敏捷値で風のように駆けた。木と木の間を走り抜けると音が近づいてくる。噂が回っているこの時期にここに居るなら同じ口の可能性がある。敵はかなりの強さの様だから攻略組である事が予想されるが、一体誰だ? と思考をしていると、急に開けた場所に出た。そこには、二メートル強の鎧と戦うプレイヤーの姿があった。しかしあれは見た事のないプレイヤーだ。恐らく攻略組では無い。にも関わらずあのプレイヤーはソイツと思わしきものと互角に剣を交えている。
「一体何者何だ…?」