世間はきれいに飾られているこの時期にまつわる
にゃん娘な彼女の思い出話です
クリスマスということで急遽ぶっこみました()
世間はクリスマスの文字で溢れてる
きっと来年もその先もずっと…この時期になれば景色は赤と緑で染め上げられる
「クリスマス…かぁ…」
欧米では家族と過ごすのが一般的らしい
日本では恋人と過ごせるかどうかで競ってる人もいる
聖夜をもじって性夜なんて言葉が出来るくらいだ…誰が考えたんだろう
「うち彼氏とかいないし…両親は共働きだし…兄弟もいなければ親戚も知らないし…」
これまで私はクリスマスというイベントと縁がなかった
両親は共働きで帰るのが遅い…この時期は特に忙しいようで
クリスマスなんてまともに祝った記憶がない
幼い頃から飼猫とただ普段通りに過ごしていた
それでも…
それでも、クリスマスは私にとって特別な日だ
…ちょうど6年前から
うちの猫…カルは私が生まれる前から飼っていた猫だ
鼻からお腹、手足と尻尾の先が白、あとは黒い毛並みの普通の雑種の猫
もともとは野良猫で正確な歳はわからないのだけど3,4歳程の時うちの庭に住み着いていたらしい
ところがそのあと弱ってしまったらしく親が保護したということだ
カルと言う名は飼い始めの頃にふらふらしてよく頭をぶつけていたから頭が「軽」いと付けたそうだ
なかなかひどい名付けな気がする
6年前のクリスマスの朝…カルは冷たくなっていた
単純計算で20年近く生きていたことになるのだから猫にしては大往生もいいところだ
でも…私にとっては早すぎる死だった
私は引っ込み思案で、友達も出来なくて…私にとってカルは数少ない家族であり、小さな兄であり、唯一無二の親友だった
当時中学生だった私はまだ死というものに慣れていなくて、どうしようもなくて、一通り泣いたあと絶望して、虚無感に苛まれて、三学期…半ば強制的に日常に引き戻された
それでも…虚無感から逃れることは出来なかった
家に帰ってただいまと言ってもあの温もりはなく…廊下をとたとたと走る音も首輪についた鈴の音もにゃーという声も何も聞こえない
私は帰る場所を失ったような気がした
気づけば何もないところを眺めている…まるでカルが出てくるのを待っているかのように…そんなことが増えた
学校は通い続けた
学校には何もなかったけれど
家にいるより気が楽だった
家にいると、どうしても失ってしまったことを実感してしまうから
学校はカルがいたときと何も変わっていなかったから
そんなある日の下校直前、突然、意外な人に話しかけられた
「なぁ…奔剛、お前何かあったのか?」
冴城さん…普段声を聴くことすらない、静かな人だ
寝てるか、本を読んでいるか…もしくは隣のクラスの紀先さんが一方的に話しているのを聞き流しているイメージしかない
部活もやっていないようで、授業中も窓の外を眺めているような人…成績は学年で一桁レベルらしいけど
ある意味ボッチな私と共通点はあるように思えるけれど、それゆえに接点は皆無
そんな彼女がいきなり私に何があったのかと問う
「えぇと…なんでかな?」
「最近…というか、三学期に入ってからずっと目が死んでるからな」
…え、三学期始まってから1ヶ月近くずっと見られてたの?こわ
「目…そんなに死んでるかな…というか、よく気づいたね。うちなんて全然目立たないのに」
「目立つ目立たないは知らんが…見てればわかる位には目が死んでるぞ」
…なぜ見てるのか
まぁ、いいや、別に隠すことでもないし…この人がからかうイメージは湧かないし
「…冬休み中にね…飼っていた猫が…死んじゃったの…」
そう…死んでしまった…カルは
始めて言葉にした気がした…カルは死んでしまった…死んでしまったのだ
あのときの光景が脳裏に浮かぶ
堰を切ったように涙が溢れてくる
冴城さんは何も言わず、静かに待っていてくれた
表情に出ていないだけで、突然泣き出した私に狼狽えていただけかもしれないけれど…その可能性の方が高そう
「…少しは落ち着いたか?」
「…うん」
「少しは気が晴れたか?」
…そういわれるとそんな気がしないでもない
でも…なんで?
「なんで…そんなこと聞くの?私…冴城さんと話したこともないのに」
「別にこれまで話す機会がなかっただけだろ。俺以外話しかけるヤツがいなさそうだったから話しかけたんだよ」
そんな理由…?よく意図が掴めない…そもそもなぜ話しかける必要があるのか?私がおかしかったから…?
なら、なぜ私を見ていたのか?
「ん…?なんで?そもそも私を見てた意味もわからないし…」
「…学校に来ても特にやること無いからな。暇なときは適当にクラスの人間のことを眺めてるんだよ。お前は特によく席にいるし、一人で暇そうにしてるから観察しやすい」
趣味が人間観察の人ってホントにいるのか…
「それに…理由もなんとなくそういう類いの物のような気がしたからな。類友というやつか」
類友…類は友を呼ぶ
…そういえば、冴城さんは夏休み直前におじいさんを亡くしたと聞いた
一学期の終業式も休んでいたっけ…紀先さんも従姉妹だから少し話題になっていた気がする
「…私なんて…飼い猫が死んじゃっただけだし…冴城さんと比べたら…」
飼い猫が死んじゃっただけ…間違いじゃない
だけど、口から出たその言葉には違和感があった
カルは私にとって飼い猫以上…もしかしたら家族以上の何かだったから
「そういうのに人か猫かは関係ないんじゃないか?お前にとってはその猫が大切だったんだろ?」
「…うん、カル…うちの猫はね…」
私はカルのことを話した…カルは私の家族で、兄で、親友で、癒しで、励ましで…そして…
「カル…だったか?カルは確かに死んでしまった、その事実は変わらない」
変えられるなんて思ってない…ただ、変えられないという現実に絶望しただけ
「…でもな、存在ってのは…この世界ってのは案外曖昧なものだ。所詮各々がその脳で認識しているだけだからな」
…何が言いたいんだろう?
「どういうこと?」
「極端な話、俺とお前のいる世界は別だということだ」
「…ん??」
「そして…極論、お前の世界の全ての存在はお前の中に内包されている」
なんか凄いこと言い始めた気がする…
「だから、お前の中で…お前の知るカルは存在している」
難しい話はなんか聞いたことある言葉に帰結した
「えぇと…つまり?」
「生死に大した意味はない…自分がその人物についてどれ程知っているかが自分にとってのその人物の存在そのものなんだ。アイツならこうした、ああしたって思考ができる程に知っているなら、それはその人物が自分の中に存在しているといってもいい。死は消滅じゃない…言ってしまえば情報の更新停止、それまでに得た情報の分だけは自分の中に生きているんだよ…俺はそう思ってる」
つまり、カルは私の家族で、兄で、親友で、癒しで、励ましで…そして…私自身だったんだ…たぶん
「…やっぱりよくわからない」
「わかる必要なんてないさ、そういう考え方があるんだって思えれば救われることもある…宗教ってのはそういうもんだ」
宗教なの…?
「俺は自分で自分のための宗教を作っているだけ、そしてそれをお前にも伝えてみただけだ。なんの根拠もないただの中学生の妄言だよ、でもな、そんな妄言でも納得できれば意味を持つ」
自作の宗教とか…でも、なんとなく…なんとなく良い気がする
私の中のカル…家中駆け回って、知らないものに興味津々で、でもすぐびっくりして逃げて、また戻ってきて…落ち着きがなくて
ことあるごとに私に声を掛けてきて、自由気ままで…
そんなカルが私の中にいる
瞼を閉じれば鮮明にその光景が思い浮かぶ
カルはここにいる
「ま、自分なりに考えて見ると良い」
冴城さんは帰る支度を始める
そういえば下校の時間だった…時計を見るとあれからもう2時間…そろそろ部活組にも帰宅を促す放送が流れる時間
「…冴城さん、今日はありがとね」
「おぅ」
帰り…私は冴城さんと一緒に校舎を出た
別れるまで会話なんてなかったけれど、居心地は悪くなかった
それから暫くして、紀先さんが私に話しかけて来るようになった
とりとめのない話ばかりだったけれど、少しずつ気が楽になっていた
あれから6年…そう、もう6年の付き合いになる
冴城さんと紀先さん…今では真理にゃんと倫にゃんとはあれ以来友達になった
途中で天にゃんも加わって4人でいることが多くなった
今日はクリスマス…私には一緒に過ごす家族や恋人はいない
だけど、私には3人の親友ができた
これから真理にゃんちでクリスマスパーティーだ
クリスマスはカルの命日で私の中に産まれ変わった再誕の日
これからも…
ずっと、共に生きていくと誓おう
私が生きている限り、カルは存在しているのだから
ずっと、友と生きていこう
もう私は一人じゃないのだ
だからもう私は大丈夫、何があっても楽しく生きる
私の親愛なる兄に倣って、うるさく自由に生きていく
クリスマスは私にとっての亡きカルへの誓いの夜
誓夜なのだ
「みんな!メリクリにゃ!」
彼女のがにゃん娘となった要因のお話でした
飼い猫を自分の中に飼いながら生きると誓う彼女は今の言動をとるように(実は3人の前だけのよう)
ある意味であの言動は自分の宝を共有したい仲間意識の現れなのかもしれない…
あと真理のお節介のお話でもありますね…まぁ、この娘、今後も沢山お節介しますけど