転生マーキュリーのONEPIECE物語   作:永久@

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第13話、あちこちの悪意

その後ガープは帰り、4人の生活はいつもの日常に戻った。

 

森の猛獣を狩り、日課の試合をして、町の不良と喧嘩をする事もあった。

ダダン一家から『どくりつ』して、森の中に家を作った。獲物がいなくなる冬でも、4人で力を合わせて乗り越えた。お互いの事ももっと沢山知った。エースの“親”についても知った。わざわざフーシャ村から村長やマキノがやって来てくれた事もあった。時に喧嘩をする事もあったけれど、それでも仲良くやっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その日は突然訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サボを返せよ!!ブルージャム!!」

 

ルフィの絶叫がゴミ山一帯に響き渡る。すぐ近くでエースがナキを庇うように覆い被さって頭から血を流し、ナキはその下でガタガタと震えながら泣いていた。

離れた場所にあの海賊ブルージャムが、サボを抱えて立っている。サボは必死に抵抗しているが、大人の男に押さえつけられてろくに動けていなかった。

この中で唯一質の高いスーツに身を包んだ男──かつて中心街で遭遇したサボの父は、ルフィの絶叫を鼻で笑った。

 

「『返せ』とは意味のわからない事を。サボはうちの子だ!子供が生んで貰った親の言いなりに生きるのは当然の義務!よくも貴様らサボをそそのかし家出させたな!」

「…そそのかされてなんかねェよ!俺は自分の意思で家を出たんだ!!」

「お前は黙っていなさい!」

 

息子の言葉に聞く耳も持たず、サボの父は怒声を上げた。平静を取り繕ってはいるが、その表情からは確かに苛立ちが見てとれる。

 

「では後は頼んだぞ、海賊共」

「勿論ですダンナ。もう料金は貰ってるんでね。こいつらが坊ちゃんに近付けねェよう、しっかり“始末”しときます」

 

息をするようにブルージャムの話した内容に、ぞっとサボの背筋が凍りついた。父はその恐ろしい話に、なんて事ないような顔をして頷いている。それが更に恐怖をかきたてる。

父親だったのだ。かつては純粋に慕っていたし、自分をこの世界に産み落としてくれた恩は確かにあった。

けれどだからこそ、自分の大切なきょうだいを、ただの子供を簡単に傷付けようとしている父が、今は恐ろしくて仕方なかった。

 

「…ッちょっと待てブルージャム!お父さんもういいよわかった!わかったから…!」

 

今、きょうだい達を助けられるのは、自分しかいない。

抵抗をやめてそう叫ぶと、エースが目を見開いてこちらを見た。耐えきれずに目を逸らす。

 

「何がわかったんだ、サボ」

 

この状況でその意味がわからないほど馬鹿ではないクセに、わざわざ確認を取る父がとても憎たらしい。

 

「何でも言う通りにするよ…!言う通りに生きるから!この3人を傷付けるのだけは…やめてくれ!」

 

視線が痛い。ブルージャムがサボの拘束を解いて地面に下ろす。すかさずエースが逃げろと叫ぶが、言う通りにはできなかった。

 

「お願いします……大切な…きょうだいなんだ!」

 

例え夢を捨てたとしても、家族には生きていて欲しかった。

 

 

 

 

「いか、ないで、さぼ」

 

 

 

 

最後に聞こえたかすれた声に、サボは唇をこれでもかと噛みながら、振り向かず呟いた。

 

 

「約束、破って、ごめんな」

 

 

その言葉は、精一杯の虚勢か、それとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴族に生まれるなんて事は頑張ってできる事じゃねェ。幸福の星の下に生まれるって事だ」

「……!」

 

あの後、3人はブルージャムの船に連れていかれた。

サボは父親と王国の兵士と共に行ってしまい、海賊に囲まれた状態では、3人に打つ手はなかった。

 

「まさかあの悪ガキ4人組…あァいや、1人は巻き込まれただけか?なァ嬢ちゃん」

「っ……」

「ま、その1人が貴族だったとは誰も思わねェよな。お前らもうあのガキに近付くなよ?もしそうする気なら今ここでお前らを殺さなきゃならねェ」

 

咄嗟にエースとルフィがナキを庇うと、ブルージャムはけらけらと声を上げて笑った。

 

「安心しろ、今お前らに手は出さねェよ…俺は筋さえ通ってりゃ話がわかる男だ」

「うるせェ!サボをあのオッサンに引き渡した奴の言う事なんか信用できるか!サボは高町を嫌ってたのに!」

「あァ…あいつの事は忘れてやりな。それが優しさってモンだ、大人になりゃわかる」

 

「でも!」

「待てルフィ!」

 

ルフィの叫びを同じように叫んで制すると、エースはブルージャムを睨みつけながら問いかけた。

 

「…俺達をここに連れてきた理由はなんだ?ただ連れてきたって訳じゃねぇんだろ」

「…フフ、何、たいした話じゃねェんだが…」

 

そう言うと、ブルージャムは懐から1枚の紙切れを取り出し、近くのテーブルの上に置く。

3人がお互いの顔を見合ってからその紙を覗くと、それは所々に印のついた地図だった。

 

「これはこの不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)の地図だ。俺達はこれからこのバツ印の所に荷物を置いて回らなきゃならねェんだが…ちと人手が足りなくてな」

「…これを俺達に手伝えってか?」

「話が早くて助かるぜ」

 

そう言って、笑みを浮かべたまま3人を見下ろすブルージャム。

エースは少し考えてから、警戒は解かずただ一言「わかった」とだけ呟いた。

 

 

 

この時ナキだけが、ブルージャムから感じる悪意を、1人静かに感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、サボは久しぶりとなる高町の実家に戻ってきた。

煌びやかな豪邸、たくさんの使用人。そのどれもが懐かしく、けれど同時に不快だった。

 

案内された部屋はかつての自室で、家出した時から何も変わっていなかった。両親なりに情があってそのままにしたのか、それともただ客間にでもしていたのか。いずれにしろどうでも良い。本当なら、もう帰ってこない筈だった部屋だ。

とりあえずソファに座って適当な本を読んでいると、ドアがノックを鳴らしてゆっくり開いた。幼い茶髪の頭が、ドアの隙間からひょっこりと姿を見せる。

 

「おい、“お兄様”。おめェ馬鹿なんだって?ふふ…お父様とお母様が陰で散々言ってたよ」

 

部屋に入ってきたのは、自分の知らない間に義弟となっていた少年、ステリーだった。父曰く、貴族の出だが事情があり我が家で引き取ったのだとか。それもサボにはどうでも良い事だ。

子供らしくないニヤついた笑みを浮かべて、ステリーは部屋のベッドに腰掛けた。

 

「しかし悪運は強いね。明日の夜は“可燃ゴミの日”だ…ゴミ山にいたら間違いなく死んでただろうな」

「…何だって?」

「ん?あぁ、ゴミ山にいたんだから知らねェよな。ふふふ…」

 

ステリーは嘲笑すると、まるで世間話をするかのような軽い口調で言った。

 

「明日の夜、不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)は大火事になる。国があのゴミ山を全部燃やすんだ」

「………は?」

 

思わず硬直する。想像すらしていなかった事を言われて、頭の中が困惑で溢れる。

数秒の時間が経ってようやく言葉の意味を理解すると、サボの両手はステリーの胸ぐらの服を掴みあげていた。

 

「ひっ…!ななっ何すんだよゴミ人!臭ェ!近寄るな!!」

「どういう事だ…全部説明しろ!グレイ・ターミナルが火事だと!?」

 

あまりの剣幕にステリーは一瞬たじろぐと、忌々しげに舌を打って続きを話し出した。

 

「もう何ヶ月も前から決まってる事だ…!世界政府の“視察団”が東の海(イーストブルー)を回ってるのを知ってるか?このゴア王国にはいよいよ3日後にやって来る」

「それだけで…!」

「それだけじゃねェよ馬鹿め!今回はその視察団の艦に世界貴族が乗ってるんだ!」

 

サボの眉間に皺が寄る。世界貴族なら、サボでもよく知っていた。

世界政府という巨大組織を設立した創設者達の末裔が世界貴族。通称を“天竜人”。

普段は偉大なる航路の海から出る事もほとんどない天竜人が、視察とは言えこんな東の海の王国にやって来るのだ。確かに大騒ぎもするだろう。

しかし、それで出した結論が最悪だったのだ。

 

「王族達は少しでも気に入られようと、この国の汚点を全部焼き尽くす事にしたんだ!あのゴミ山さえなければこの国は綺麗な国だ!」

「……!お前ら何言ってるんだ!?そんな事できる訳がない!!」

 

ゴミ山にだって人はいる。捨てられたゴミで家を建て、雨風を凌ぎ、生活資源をゴミの中から見つけて暮らしている。けれど、それをサボが話してもステリーは疑問符を頭に浮かべていた。サボの手をなんとか振り払い、ステリーは告げる。

 

「…お前、話を聞いてなかったのか?」

 

 

 

この国の汚点(・・)は、全部(・・)燃やすって行ったろ?

 

 

「……人もか……!?」

 

ニヤついたステリーの笑みは、その問いかけの答えとしては充分だった。

 

 

 

 

 

その後の事を、サボはあまり覚えていない。

 

ただ、気付けばいつもの動きやすい服に身を包み、扱い慣れた鉄パイプを手に握っていた。

軍の作戦会議を盗み聞き、ステリーの言葉が冗談ではなく真実だと理解して、どうしようもない程に嫌悪した。貴族も、自分も、この国も。

 

 

 

「…エース、ルフィ………ナキ……」

 

 

縋るように呟いたきょうだい達の名前は、誰にも届かず夜闇に消える。

 

 

運命の時は悪意と共に、すぐそこまでやって来ていた。


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