転生マーキュリーのONEPIECE物語   作:永久@

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第15話、炎の中の悪魔の叫び、壁の中の必死の嘆き

「ゴミ山を燃やす!?何でそんな事すんだよ!!」

 

ブルージャムのアジトに響く、困惑したエースの叫び声。空は夕焼けから夜へ姿を変えようとしており、陽は既に半分を水平線の彼方に隠している。

 

「馬鹿野郎大きな声出すんじゃねぇ…ゴミ山の連中に聞こえちまうだろ」

「大変だゴミ山のおっさん達に知らせねぇと!!コイツやっぱ悪ィ奴だ!!」

「あーうるせぇな、騒ぐなと言ったろう…オイ押さえろ!」

 

咄嗟に抵抗しようともがくが、流石に大の大人には勝てず簡単に押さえつけられた。

キッ、と鋭く睨みつけてくるエースを、ブルージャムは鼻で笑う。

 

「流石のガキ共も腰が引けたか…まぁ安心しろ。お前らは燃やしたりしねぇさ」

「!……なんだって?」

「ンなもん当たり前だ!ばーか!」

 

あっかんべーで噛み付くルフィとは裏腹に、エースはブルージャムの言う事に疑問を抱く。その疑問を肯定するように、ブルージャムはにやりと口角を上げて不敵に笑った。

 

「お前らはまだちょいと、俺の役に立ってもらう」

「…どういう事だ」

 

エースがそう問いかけると、ブルージャムは近くの部下にめくばせする。部下は軽く頷くと、持っていた袋からごそごそと何かを取り出した。

あっ、とルフィが声をこぼす。

 

「こいつはお前らのモンだろう。…いいや正確にはお前らの“爺ちゃん”のモンだ」

 

掲げられたトラバサミの罠に彫られた、古ぼけた“MARIN”のロゴ。

初めてルフィが祖父にジャングルに放り込まれた時、ナキがもらっていたサバイバル道具の一つだ。コルボ山に来た時だって、ナキはそれを持ってきていたが、いつの間にかなくしてしまっていた。

まさか、ブルージャム達が拾っていたとは。

 

「覚えてるか?エース。お前が俺の部下を襲って、うちの海賊団の財宝を奪った時の事…」

「……!」

「あぁ先に言っとくが、あれは別に恨んじゃいねェ。むしろ強ェ奴は好きだ…まぁその時、その部下がおめおめと帰ってきた時に持っていたのがこの罠だ。『ガキ共の手がかりです』っつって、俺に渡して来たんだよ」

 

まぁそいつは殺したが、とぽつりと呟くブルージャム。

 

「だがこいつが手がかりだっつうんなら仕方ねェ。財宝をみすみす奪われたままにしとくのは、うちの海賊団の沽券に関わるからな。それでこいつが何なのか調べてみたら…」

 

一旦区切り、ロゴの片隅に小さく彫られた傷跡を二人の目の前に掲げてみせる。

傷は文字を形作っており、その名前は予想通りか、二人がよく見知った人物。

 

「“モンキー・D・ガープ”。海賊やっててこの名前を知らねぇ奴は居ねぇ。驚いて調べてみたら更に驚愕だ。その麦わら帽子のチビとあの嬢ちゃんは、正真正銘英雄ガープの孫らしいじゃねェか」

 

くつくつと笑いエース達を見下ろす姿は、まさしく悪党の笑みと言うに相応しい。

 

「俺とねーちゃんだけじゃねェ!エースもサボも、じいちゃんの孫だ!」

「へェ?つくづくお前らは面白ェな。あの英雄ガープの孫って事も、全員血が繋がってねェのも、その中にこの国の貴族のガキが混ざってる事も」

 

くつくつと喉を鳴らし、ブルージャムは悪どい笑みを浮かべる。

 

「だがまぁ、お前らがガープと血が繋がっていなくとも、祖父と孫っつー関係性だけで、十分利用価値がある」

「何が言いてェ!」

「俺はな、もう海賊なんて辞めてェのさ。生きる為にこうなったが、できる事なら貴族にでも生まれて、のんびり穏やかに暮らしたかったんだぜ?」

 

だが、ブルージャムの生まれは輝かしい貴族ではなく、貧しい平民の下の下の生まれ。

いくら平穏を望もうと、簡単には手に入らない。むしろ、貧しさの中では生きる事すら危ういのだ。悪さを働く事で何とか生き延び、気付けばこうして海に出ていた。

手に入らない平穏を心のどこかで望みながら、何度も悪事を働いてきた。

 

 

そして、やっとブルージャムはチャンスを掴んだ。

 

 

 

 

『燃やすというが、ゴミ山ったってね…俺達にゃいい隠れ家なんだ、“国王”』

『承知の上だ、ブルージャム……この件が済んだら、もう隠れ住む事もない…私の権限で』

 

 

 

 

 

『お前達を、貴族にしてやろう』

 

 

 

 

 

やっと、掴む事ができたチャンス。

それを手放すような真似を、ブルージャムは絶対にしない。

 

 

「………お前らは、俺がガープと取引する為の“人質”だ」

「は…!?」

「俺はこれから海賊業から足を洗う。その為にゃ、俺の手配書は邪魔なんだよ」

 

例え貴族の称号を手にしても、手配書があり続けては犯罪者のレッテルは剥がれない。それでは、せっかく手に入れられる平穏が脅かされる。

だから、ブルージャムは“取引”をするのだ。英雄と称されるガープを相手に。

 

要求するのは、“手配書の撤回”たった一つ。

 

 

「…あァ、お前らホント、よく都合良く俺の前に居てくれたもんだぜ」

 

ブルージャムはニィ、と口角を上げて薄ら笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、時間は過ぎていく。

何も知らない者達を、刻一刻と地獄に叩き落とす為に。

 

炎の悪夢が始まったのは、空が闇色に染まった深夜の時だった。

 

 

あらかじめ設置していた火薬は、一度引火するとすぐにゴミ山全体に燃え広がった。このゴミ山が年中どれだけジメジメしていようが、一度燃えれば後は簡単に火が回る。ここはあまりに、火の餌となる物が多すぎた。

 

数十分も経てば、“不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)”は混沌と恐怖に包まれた。ゴミ山一帯全てを囲うように配置された火薬の荷が、逃げ惑う住民達の逃げ場を容赦なく奪っていく。死にもの狂いで逃げ道を見つけてそこから逃げようとしても、ブルージャム達に撃たれて死んでいく。

 

地獄だった。

 

「ギャハハハ!こりゃ最高のゲームだ!」

「“人間狩り”ってか!?あァいや、ここにあるのは全部ゴミなんだから“ゴミ狩り”かァ!」

「違いねェ!ギャッハハハハ!」

 

「ゴミは全て燃やしちまえ野郎共!!この仕事が完了すりゃあ俺の長年の夢が叶う!!俺達は国王から称号を受け貴族となって“高町”に住めるんだァ!!!」

 

欲に満ちた叫び声が一帯に響く。燃え盛る地獄を楽しんで、これから先の自分の未来に喜びを見出している悪魔の喧騒。

まさしくこの地獄絵図に相応しい男の、歓喜に満ちた笑い声が声高らかに響き渡る。

 

しかし、男は忘れていたのだ。

世の中がそう甘くない事も。

 

 

約束は、強者にとっては何の意味も成さないのだという事も。

 

 

 

 

「…おい、何の冗談だ」

 

先程とは打って変わって、焦りでぶるぶると震えた声。

 

「おい!!てめェらどういうつもりだ!?門を開けろォ軍隊!!!ここから俺達は避難できる筈だろ!!?」

 

怒声を浴びせながら門を叩いても、強靭なそれはびくともしない。

 

「約束はどうした!?国王!!この仕事を終えたら…俺達を貴族に…!!」

 

ブルージャムは忘れていたのだ。あまりに全てが順調であったが故に。あまりにこの“最弱の海(イーストブルー)”に馴染んでしまったが為に。

 

 

「……てめェら………ハメやがったのかァァァァァ!!!!!????」

 

正当な権力を持つ者が、はぐれ者の自分達に、希望など与える筈がなかったのだという事を。

 

 

彼らにとっては自分達もまた、この炎で燃えるべき“ゴミ”だったという事に、全く気付けなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし切れたぞ!急げルフィ!泣き言言う奴は置いてくぞ!」

「あっ、あちっ!ウッあつくねぇ!」

「外はもう火の海だ…!とにかくすぐに森に戻るぞ!ナキをこれ以上一人にできねェ!」

「ウゥッ…息、苦しい…苦しくねェっ…!」

 

燃え盛る“ブルージャムのアジト”から、エースとルフィは逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

痛い。

 

軋むような痛みが体を苦しめる。けれど何故か、体よりも心の方が、ずっと苦しくて痛い気がした。

ごうごう、ぱちぱち。焚き火の時によく聞いた音が、もっと大きな音になって耳に届く。遠い場所で燃えている筈なのに、壁を隔てて燃えている筈なのに、まるですぐ隣で燃えているように感じてしまう。

 

 

 

 

昨日の夜、サボがステリーに聞かされた“この国がゴミ山を燃やす”という事実。

たくさんの人が生きている場所が燃え、たくさんの人が“一緒に燃やされる事になる”という事実を知って、サボは居てもたってもいられなかった。

けれど、そんな感情を塵にするように、高町の貴族達は、義憤にかられるサボの心に、冷水のような言葉をもたらした。

 

『ゴミ山で今夜火事が?……そんな事知っているが、それがどうしたのかね?』

 

 

男は、そんな風にサボに問い返した。

穏やかな陽射しを浴びて、悠々と紅茶を片手に、心底不思議そうに首を傾げて。

人が大勢死ぬかもしれない事実を聞いて。

 

『そんな事』と、この国の人間はわらうのだ。

 

 

 

 

「……どうした、少年」

 

——突然、気配もなく頭上から声が聞こえた。痛む体を無理矢理動かして見上げれば、真っ黒なコートの男がこちらを見下ろしている。

 

「……おっさん……この、火事の犯人、は……“王族”と、“貴族”、なんだ……!ハァ…本当、なんだ…!」

「………」

 

男は無言で膝をつき、身を屈めてサボに触れた。ついさっき、この国の軍にボロボロにされたせいで、額からべっとりと血が垂れている。

 

「…この町はゴミ山よりもイヤな臭いがする…!人間の腐ったイヤな臭いがする!ここにいても、俺は自由になれない…!俺は…!」

 

——貴族に生まれて、恥ずかしい。

 

「…!」

 

その言葉を聞いて、男はようやく顔色を変えた。幼い子供の悲しさと悔しさに溢れた慟哭に目を伏せる。

 

「……わかるとも。俺もこの国に生まれた。しかしまだ俺には、この国を変えられるほどの力がない」

 

(とうとう子供にコレを言わせるのか…ゴア王国!)

 

本来ならまだ純粋無垢であるべき子供が、大人の闇に打ちのめされて涙を流している。

まだ幼い子供が、自分の出生を嘆かねばならないほどに苦しんでいる。

 

「おっさん…おれの話…聞いて、くれる、のか…」

「…あぁ……忘れない」

 

忘れはしない。忘れられる訳がない。

 

 

壁を隔てた、中と外。

それぞれの悲痛な叫びは、それでもなお、天の権力には届かない。

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