転生マーキュリーのONEPIECE物語   作:永久@

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第17話、任せた者

走る。

 

炎の中をひたすらに。肌が燃えそうな程に熱を帯びている。熱くて熱くてたまらない。それでも止まらず走り続ける。

 

視界は全て炎だった。グレイ・ターミナル全体に燃え盛る炎。赤とも青とも白とも黄色とも取れる数々の明るい色が、目の前の全てを覆っていた。

 

銀色が視界の端にちらついて、そのたびに体の底から恐怖が湧き上がる。体の至る所が熱くて痛くて、ぐらりぐらりと体が震える。

 

「は、はぁっ……は、ぁっ……!」

 

 

あの目が。

 

血走ったあの目が、眼孔を見開いて苦しみもがくポルシェーミの姿が、頭にこびりついて離れない。

あれをやったのが自分なのだと思うと恐ろしくてたまらなかった。人一人を殺そうとしたという事実が、ずしりと重荷になって背中にのしかかる。

 

「っあ……っ!」

 

足を取られて地面に転がる…かと思えば、水銀がクッションになってナキの体を守った。擦り傷ひとつつかずにゆっくりと膝をついたナキの瞳にははっきりと恐怖が浮かんでいる。

 

「ぅ、ゔぁ"ぁ〜……っ!」

 

そして、もう我慢の限界とでも言わんばかりに、ナキはその場で蹲って大声で泣き叫んだ。

顔をぐしゃぐしゃに汚しながら嗚咽をこぼして、カタカタと震えながら蹲るその姿の、なんと哀れな事だろう。

 

けれどその哀れな少女は、今や悪魔の実の中でもトップクラスに危険な能力の保有者となったのだ。

簡単に人を殺す銀の毒は無意識に身体中から湧き上がり、ナキの周囲にさらさらと広がっていく。

 

 

それはまるで、火炙りになる魔女を閉じ込める檻のように見えた。

 

 

 

 

そして、それに物凄い速さで近付く男がいた。

 

男は電光石火、いや最早音速と比喩しても良いのではという猛スピードで走っていた。炎の中をまるで鬱陶しい草むらをかきわけるが如く直進する姿はまるで地獄の鬼だ。

おまけに何が酷いって、男の体は燃え上がっていた。それはもうごうごうと勢いよく音を立てながら。

 

そして、そんな男が全力疾走して近付こうとしているナキは、生まれつき見聞色の覇気を所有している。

おまけに今は様々な恐怖体験をした後で、脳が体の自己防衛という自己防衛機能をフルに働かせている。無意識に流れる水銀がその証拠だ。

そんな時に訳分からん速度で近付いている謎の気配を感じれば、すぐに気付くに決まっている。

 

「……!…!?」

 

ばっとナキが顔を上げ、水銀が彼女の目の前をさぁっと開いてクリアにする。それはまるで意思を持っているかのようだったが、ナキには今それを気にする余裕がなかった。

 

ナキが気配を感じて数十秒と経たずに、男がスライディングして目の前に現れる。ナキの肩がビクリと勢いよく跳ね上がった。

男は、ナキに面と向かうようにしてその場に立った。黒髪のオールバックが若干チリチリと燃えていて、黒い瞳孔の三白眼が睨むようにナキを見据える。頬は痩せこけて線が浮かんでいて、顔立ちからすると年齢は40代後半の中年期ぐらいだろう。

ナキを守るように取り囲む水銀の粒。瞳から流れる大粒は銀色に輝いていて、地面にジュッ、と音を立てながらこぼれ落ちていく。

 

男がゆっくりとナキの方に近付く。男が近付く程ナキの表情はより一層恐怖に染まり、それに比例して身を取り囲む水銀の量は更に増える。

 

「こな、い……で……」

 

か細く弱々しい声で、ナキは必死に拒絶の言葉を呟いた。しかし男は止まる気配はなく、しっかりと、確実に、ナキの方へと歩み寄っていく。

 

 

「こ、ない、で、ぇ!」

 

 

その、切実な金切り声を合図に、水銀が一直線に男に向かって飛びかかった。

ナキはすぐにそれを止めようとしたが、制御もできていない無意識の力で止められる訳がない。

しかし、男はナキの水銀を避けず、逆に飛びかかった水銀へ目掛けて突っ込んだ。

 

槍のように鋭い水銀が頬をかすめて肩を貫く。

ひっ、とナキが小さく悲鳴をこぼすが、男は立ち止まる事なく突っ込んでナキの細腕を掴みあげた。

 

「やっ…だ、めっ…!」

 

水銀に飲み込まれるポルシェーミの姿が、また脳裏に蘇る。

ぞわりとまた恐怖に飲み込まれそうになったその時、男はナキの腕を引っ張ってゴリ、とうなじに銃口を押し当てた。

 

パシュン、と音がして、ナキの体がぐったりと男の胸に倒れ込む。

静かに寝息が聞こえ始めたのを確認して、男はコートのポケットから“腕輪”を取り出し、それをナキの右腕に装着した。

その瞬間、周囲に浮いていた水銀が、引力に従ってぼとぼとと地面にこぼれた。

 

ナキについた腕輪は“海楼石”と言って、能力者の能力を封じるこの世でたった一つの石だった。

撃ったのは麻酔銃だ。即効性の麻酔を塗っておいたミリ単位の針には痛みもほとんどない。

 

「………」

 

麻酔で眠ったナキの顔を覗き込む。涙の跡がこびりついた顔は、怪我一つないのにとても痛々しい。海楼石の腕輪をつけた細腕は、ポルシェーミに抵抗した時にできたのだろう赤い痣が浮かんでいた。

 

「………チッ」

 

男は苛立ちながら舌を打つと、ナキを抱えて自身のロングコートに包み、一人で突っ込んだ時よりも気を付けて炎をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとヴァナータ!単独行動とは良い度胸してんじゃなっt、ちょっと待ちな何よその子は!!?」

 

船に戻ってきた男に真っ先に声をかけたのはオカマだった。一言も言わず船を降りて炎の中に男に突っ込んで行った男に説教を食らわすつもりだったのだが、男が抱えているナキに目がいってしまい、咄嗟に怒鳴るような声で聞いてしまった。男はそれをガン無視して白衣の男に問いかけた。

 

「ガープは?」

「一週間もしねぇうちにこの国に来るだろうよ。天竜人の船は既にレッドラインを抜けた」

「ドラゴンは?」

「ここだ」

 

頬に刺青を刻んだ男───ドラゴンは低く答え、ナキにつけられた腕輪を見て眉間に皺を寄せた。

 

「……イワから聞いた。その子はマキマキの実を食べたそうだな」

 

簡単に人を殺せる危険な能力。

そんなものを、まだ十にもなっていない幼い少女が手にしてしまった。

この火事も、悪魔の実の事も、全てが後手に回った事にやるせなさがひたすら募る。

 

「どうするつもりだ?」

「ガープがどうにかする」

 

ドラゴンの問いに男は即答した。別に投げやりなのではなく、きちんと信用しているからこそガープに任せるつもりなのだ。

 

───あの雨の日だって、確固たる信頼があったからこそ、彼は赤ん坊だったナキをガープに任せたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ナキはダダン達の山小屋の前にそっと戻された。

 

海楼石の腕輪は外れなかったが、目覚めたナキ本人が泣きながら「ついたままでいい」と言うので、誰も何も言わずそのままにした。

ダダンとエースが戻ってくるまで、ルフィはずっとナキに張り付き、ナキもずっとルフィの手を握って離さなかった。

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