転生マーキュリーのONEPIECE物語   作:永久@

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第18話、かくして世界は残酷である

全員、嫌な予感はしていた筈だった。

エースもナキも、サボも、ルフィでさえも。

 

悪い事ばかりが起きていた。サボが連れ戻された時から何かが狂い始めた。

全てが片手で数えられる程の期間に起きた出来事だった。頭の中がジメジメした湿気にやられているみたいに、言い表せない違和感と不快感でいっぱいだった。

 

それでも、なんとなくだけれど。なんとかなると思っていた。4人全員、ダダン達でさえ、何故かなんとかなると希望的観測を抱いていた。それはこの4人の子供達が、どんな事でもなんとかしてきた悪運の強い子供達であったと知っているからだった。

 

 

どいつもこいつも甘かった。

 

世界は優しくなかったし、世界の『意思(・・)』はいとも容易く、人を傷付けるように出来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな、大きな豪華客船。

世界で最も気高い一族、世界貴族“天竜人”の為だけに用意された、大きく豪華な政府の軍艦船。

マストや船旗には天竜人を象徴する紋章と、全ての海を結ぶ世界政府のマークが大きく描かれている。

 

「大変お待たせ致しました、あと少しで港に到着致します」

「ご覧下さい。ゴア王国の国民達が、偉大な尊いお方を拝見する瞬間を今か今かと待っているようです」

 

黒スーツの役人達が朗らかな声で港を示す。宇宙服のような独特の服装をした人物は、港を一瞥だけして何も言わなかった。

 

 

不意に、船の上がざわつき始めた。

役人達の視線は軍艦の外に向いている。護衛の海兵達が電伝虫を取り出したり血相を変えたりと忙しなく動き始めたので、尊い人物は訝しげに眉を寄せ、甲板の橋にまで寄って艦の外を見た。

 

「……あれは何かえ?」

「……ただの漁船のように見えますが」

 

役人の言葉に、彼は額に深く皺を刻んだ。

 

「そこの海兵」

「は、はい!」

「その背に背負っているモノを寄越すえ」

「……は?」

 

その海兵は、自身の愛用の武器としてバズーカを常に背負っていた。数発放てば開放的に敵を倒せるからである。

 

「何をしている。早く渡すえ」

 

だから、だろうか。ぶっ飛ばす爽快感を知っているから、なんとなくわかるのだろうか。

彼は目が良かったので、あの漁船に乗っているたった一人だけの乗組員を──あどけない小さな子供を、知っている。さっき見えたから、見えてしまったから知っている。

 

「おい、いい加減にするえ。これ以上私を不快にさせるなえ」

 

天竜人の声が更に低くなった。明らかに機嫌を損ねているがわかり、海兵は意を決して天竜人にバズーカを差し出した。

天竜人はずしりと重いバズーカを受け取ると、その重さにわずかに眉をしかめたが、特に文句を言う事はなくそのバズーカを構え————漁船めがけて、砲弾を打ち込んだ。

 

爆発音のような轟音が響き渡った。小さな漁船から火の手が上がる。バズーカの銃口からは火薬の煙が空を登る。

 

「ジャルマック聖、船には子供が!」

「海賊旗を掲げたら何者であろうと海賊だえ……何よりィ………」

 

傍にいた役人にそう答えながら、ギリ、と歯を噛み締める。歯の軋む音がして、まるでその音は不機嫌極まりないのだと主張しているようだった。

 

「下々民が、私の艦の前を横切った!!!!!」

 

怒りと共に2発目の砲弾が放たれた。止める術は誰にもなかった。いや、実力だけならば十分にあった筈だった。けれど、彼らが背負う正義と義務が、頭の中でその行いを拒絶して否定する。

 

“止めてはならない”。何故なら、相手は天竜人だ。

 

砲弾が漁船に命中し、更なる爆発音が轟いた。煙に隠れる残骸と成り果てた漁船を見下ろし、天竜人は海兵にバズーカを押し付けるように返して奥に戻った。海兵は呆然として、子供が乗っていた筈の漁船を見た。

黒い旗が掲げられた漁船は、もう跡形もなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………サボ、が……?」

 

吐息かというほど小さく紡がれたかすれた声は、静まり返ったこの空間にとてもよく響き渡った。

町から戻ってきたドグラの口から語られた内容は、全員が揃いも揃って予想すらしていなかった事ばかりだ。

皆が呆然と立ち尽くすしかできない中、真っ先に口を開いたのはエースだった。

 

「嘘つけてめェ!!!」

「エース!?」

 

エースがわなわなと肩を震わせてドグラに飛びかかる。周囲は困惑しながらエースを引き剥がそうとしたが、エースの手は力強くドグラの肩を掴んでいた。

 

「冗談でも許さねェぞ!!サボが、サボが死んだなんて……!!」

「冗談でも嘘でもニーんだ!!おりにとっても唐突すぎて……!この目を疑った!夢か幻を見たんじゃニーかと!!」

 

けれどそれは、純然たる真実。

あの船に掲げられた黒い旗を、そしてそれが燃やされる瞬間を、ドグラは双眼鏡越しに確かに見たのだ。

 

「サボは貴族の両親に連れて帰らりたって……ルフィ言っティたなァ。おり達みティーなゴロツキにはよくわかる。帰りたくニー場所もある!あいつが幸せだったなら……!!海へ出る事があったろうか!!海賊旗を掲げて一人で海へ出る事があったろうか!!」

 

戻る訳がない、と誰もが思った。

 

きっと海賊になるのだと笑っていたサボは、もうここには居ない。

幼いながらに彼が決意した気高い覚悟は、呆気ないほど簡単に燃やされた。

 

「………さ、ぼ」

 

昨日隣にいた人が、今日も必ず隣にいてくれる保証はどこにもない。

笑いあって交わした口約束が、本当に叶う確信だって誰にもない。

 

ナキは知っていた筈だった。何しろ一度“死んでいる”から。

 

「ドグラ、サボを殺した奴らはどこにいる!!俺がそいつらをブッ殺してやる!!」

「む、無理だエース!相手は世界貴族だぞ!?」

「そんなもん知るか!!俺があいつの仇を取ってやる!!」

 

「やめねェかクソガキ!!!」

 

怒声と共にダダンがエースを床に叩きつけ、木目の床がバキリと割れた。

 

「ろくな力もねェクセに威勢ばかり張り上げやがって!!行ってお前に何ができんだァ!?死ぬだけさ!!死んで明日にゃ忘れられる!!それくらいの人間だお前はまだ!!!」

 

子分達がルフィとナキに距離を取らせてダダンを止めようと慌てるが、その間もエースはもがき、ダダンは鬼の形相でエースに向かって怒声を上げる。

 

「いいか!!?サボを殺したのはこの国だ、“世界”だ!!!お前なんかに何が出来る!!?お前の親父は死んで世界を変えた!!!それくらいの男になってから生きるも死ぬも好きにしやがれ!!!」

 

世界は広く、そして大きい。

小さな歯車が一つ欠けたぐらいではまるで微動だにせず、何事もなかったかように回り続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、エースはダダンに「頭を冷やせ!」と言われて、小屋の外にある木に縛りつけられた。

ルフィは声が枯れそうになるほど泣き叫び、ナキも嗚咽に喉を震わせながら泣きじゃくった。

どれだけ必死に泣いた所で、サボが戻ってくる訳ではないけれど。それでも大切な家族がいなくなった現実に、泣かずにはいられなかった。

 

 

「少しは頭が冷えたか?エース」

「……ルフィとナキは?」

「夜通し泣いてて……今は寝てる」

「………」

 

元から泣き虫だった2人の泣き声は、外にいたエースの耳にもよく聞こえた。2人共サボによく懐いていたから、あんなに泣くのは仕方がないだろう。

 

「お頭!今、手紙が……」

「手紙ィ?」

「サボからです……!あいつ、海に出る前に、手紙を出してたんだ……」

 

全員の視線がドグラの持っている手紙に向く。丸っこい字で書いた『兄弟達へ』という文字を見て、エースはサボの手紙だと確信した。字のクセをハッキリ覚えている訳ではないが、それでもなんとなくサボの字だとわかった。

 

「寄越せ……!もう町には行かねェよ。俺達にだろ!?その手紙!」

「……ホントに町には行かねェんだな?」

「そう言ってんだろ!」

 

しばらくジト目でエースを見やってから、ダダンは子分に言って縄を解かせた。自由になったエースはすぐにドグラから手紙を受け取って、そのまま森の方に向かった。今度は誰も止めたりしなかった。

 

『今日は熊肉狙うから、料理は頼むぞー!ダダーン!』

 

これから懐かしくなっていく明るい声が、何故か聞こえたような気がした。

 

 

=====

 

 

 

エース、ルフィ、ナキ。火事で怪我をしてないか?心配だけど、きっと無事だと信じてる。

 

お前達には悪いけど、3人が手紙を読む頃にはもう俺は海に出てる。

 

色々あって一足先に旅立つ事にした。

行先はこの国じゃないどこか。そこで俺は強くなって海賊になる。

 

誰よりも自由な海賊になって、また4人揃ってどこかで会おう。

 

広くて自由な海で必ず、必ずだ!

 

 

 

───それからエース。俺とお前は、どっちが兄貴かな?

 

 

ナキは俺達より一つ年下だから妹だけど、俺達は同じ年齢だからなぁ。

 

長男二人に、妹一人と弟一人。ちょっと変だけど、この絆は俺の大切な宝だ。

 

 

ルフィもナキもまだまだ泣き虫だけど、俺達の可愛い弟と妹だ。

 

 

よろしく頼む、エース。

 

 

 

 

=====

 

 

インクの滲んだ手紙を握り締めてエースは泣いた。

 

この手紙を書いた兄弟に、エースはもう二度と会えないのだ。

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