転生マーキュリーのONEPIECE物語   作:永久@

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第22話、旅行するなら

 悪魔の実の制御訓練は、本来なら海兵の中の能力者が行うものである。

 一般人、まして幼い子供が耐えられるようにできていない。

 

 ロギアやパラミシアの中でも特殊な能力の場合は、それによって特別なメニューが組まれるが、ナキの場合は特に準備が必要になった。

 水銀の毒性分析、それに見合った訓練場の補強、能力に対抗できる実力を持つ教官の選別など。

 

 例えそれらの準備が整ったとしても、政府から最終的な許可が降りなければ意味はなかった。

 

 

 

 

 

 ───聖地マリージョア。

 

 “権力の間”と呼ばれる部屋に集まった五人の男達は、気難しい表情を浮かべて言葉を交わしあっていた。

 

「──訓練の許可は別に出しても構わんだろう、むしろ止める理由がない。マキマキの実の能力を制御できないまま放置しておくのは愚策だ」

「情報の統制を更に強化しなくてはならないな。この事が海賊側に知られれば、厄介な事になるのは目に見えている」

「下手をすれば“四皇”が動く可能性もある。本人が成長するまでは、監視を兼ねた護衛を傍に置いた方がいいかもしれん」

 

 口々に意見を述べる、世界政府最高権力者──“五老星”。

 

 その議題として彼らが現在進行形で話し合っているのは、幼い1人の少女の事だった。

 

「それにしても、親子(・・)揃って厄介な能力(チカラ)を持ってくれる。あやつの能力と比較すれば、生まれつきの見聞色など可愛いものだろうが……」

「例え能力がなくとも、個人で周囲に与える影響力が強い事は今でも変わらん……親の七光りとでも言うべきか、この娘もその影響力は尋常ではないだろうな」

 

 ため息混じりにそう言った彼の手には、“ONLYALIVE(生け捕りのみ)”と書かれた一枚の手配書が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───少しの時が過ぎ、海軍本部マリンフォード。

 

 

 ついに能力の制御訓練を始めるというその日に、ナキは謎の大男と対峙していた。

 

「………」

「………」

 

 ひく、と喉と頬が一緒に引きつったのが自分でもわかった。

 ガープと同じくらい、ひょっとすればガープよりずっと大柄だろう体。深く被った帽子から覗く視線は冷たくて、何を考えているのかまるでわからない。クマのような耳があるが、あれも本物なのかつけ耳なのかよくわからない。わからないだらけの大男だ。

 

 今ナキがいるのは、水銀の毒に耐えられるよう補強された訓練場だ。

 そもそも「待っていてくれ」と言われたから大人しく待っていたら、突然現れた謎の大男。ナキじゃなくても普通に怖い。

 

「………」

 

 重い無言の空気が流れる中、男はジッとナキを見下ろしながら、横に結んだ口をゆっくりと開き、そして言った。

 

「………旅行するなら、どこへ行きたい?」

「………ぇ」

 

 低い声で紡がれた予想外の言葉に、ぽかん、とナキは目を丸くして男を見上げた。

 ほぼ頭上なので首が痛くなりそうだったが、それよりも驚きの方が勝って呆然としていたのだ。

 壁に体を預けて、男はナキの答えを待った。手に持っている聖書を開く事はなく、ただナキを見つめて答えを待っていた。

 

「どこが良い?」

「えっ、あ、えっ……」

「どこでも構わない。言ってみろ」

「え、えぇ……?」

 

 ナキはおおいに困惑した。対面の謎の大男に突然そんな質問をされたら、誰だって怖いし困惑する。

 何より、男の質問にどうやって答えれば良いのかがナキにはわからなかった。ドーン島以外の島なんて、せいぜいルフィと一緒に放り込まれたジャングルぐらいしか知らないのだ。

 そもそも、ナキ自身はあの島を出る事を想像すらしていなかったので、どこに行きたい、と考えた事もろくになかった。

 

「……ごめん、なさい。い、行きたい、場所は、あ、あんまり……ない、と思い、ます」

 

 考えるだけ考えて、ナキは思っている事をそのまま男に告げた。嘘を言っても誤魔化しても何の意味にならない事をわかっているのだ。

 

「——そうか」

 

 不完全な返答をしたナキを責めはせず、男の声は相変わらず静かなものだった。

 

「……この海にどんな国があるのか、君はどれほど把握している?」

「え、」

東の海(イーストブルー)北の海(ノースブルー)南の海(サウスブルー)西の海(ウエストブルー)——そして偉大なる航路(グランドライン)。この五つの海にどんな島があり、どんな国が栄えているのか。一体どれほど把握できている?」

「えっ、と……」

 

 正直な所、ナキの本心は「わからない」だ。

 例え読み書きができて本を好んでいたとしても、読んでいたのはほとんどが冒険譚などの創作物、後は村長やダダンがとっていた新聞ぐらいだった。

 地図に関してはドーン島とその周辺を書いたものぐらいしかなくて、この世界には所謂“世界地図”という物が存在していなかった。

 だからナキは、この世界にどんな島と国があるのかを、よく知らなかったのだ。

 

「砂漠の王国アラバスタ───水の都ウォーターセブン───海底のリュウグウ王国───国土を持たない国ジェルマ───」

 

 国の名を次々に男が紡いでいく。どれもナキが知らない名前ばかりだった。

 

「知らないなら、知ると良い。たったそれだけの事で、見ていた世界が全て変わる事もある」

 

 そう言って、男は踵を返して部屋を後にした。

 

 

「……な、なに……?」

 

 部屋に一人残ったナキは、困惑しっぱなしで去っていく男の背中を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は、悪人である。

 

 本人の気質がどうであれ、世界は男の事をそう評した。暴君と呼び、恐れ畏怖する。

 人に忌まれる事に多少なりとも心を痛めていた若い頃を、男はもう思い出せずにいた。

 

 

「何のつもりだ?」

 

 物陰から聞こえた声に足を止める。

 

「それは、どういう意図の質問だ?」

「何故あの子供と接触したのかと聞いているんだ」

「政府から『接触するな』という命令はなかった。“契約”の範疇を超えない限りは俺の自由だ」

 

 男の返答は淡々としていた。ナキと話していた時より声は低く、声の方向を一瞥すらしない。

 

「……必要でない限り、あの子供には関わるな。これは政府の命令だ」

「承知した」

「くれぐれも命令を違えるなよ。“バーソロミュー・くま”」

 

 その言葉を最後に消えた気配に、男は───バーソロミュー・くまは、再び歩を進めた。

 政府の言いたい事はわかる。子供は周囲の環境に染まりやすい生き物だ。そこに海賊である───政府に略奪を許された海賊(・・・・・・・・・・・・)、“王下七武海”の自分が近付いて、悪影響を及ぼす事を忌避しているのだろう。

 

 妥当な判断であると思うのと同時に、過保護な物だとも思う。

 先程、自分に釘を指した人物を──更にその背後にある組織の事を考えると、思わずため息がこぼれそうになる。それほどの影響力を持っているのだと、あの子供が自覚するのは果たして何年後になるのだろうか。

 

 

 せめてその時には、気になる場所の一つや二つはあれば良いと、“暴君”は二つ名に似合わぬ事を思うのだった。

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