転生マーキュリーのONEPIECE物語   作:永久@

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第26話、海兵達

 ナキは、海兵の事をよく知らない。

 正確には、実際に会った海兵が誰であるのかをよく知らないのだ。多くの人が自分をガープの孫娘として気にかけてくれているようだが、名前を教えて交流を持つ者は数少ない。

 せいぜいガープ直属の部下達やガープから紹介されたセンゴクやおつる、三大将。それから指南役になった三人と、おつるに紹介されたドレークだ。一見すれば全然数は多いように思うのだけれど、ナキを一方的に知る人数の方が遥かに上である。それぐらい、ナキという少女は海軍の中で話題の的になっていた。

 

 

 そんなナキの隣に今、よく知らない大男がいる。

 紫色の髪、ガープに負けず劣らずの筋骨隆々な身体。年齢もおそらくガープくらいだろうか。ロリコンの容疑にかけられたクザンにゲンコツ一つ食らわして、膝をつきながら大丈夫か、ととても柔らかい声でナキに問いかけた。だからナキも、三人に伝えていたように大丈夫、何もされてません、とちゃんと返したのだ。

 それから彼は三人とクザンに何かを伝えて、彼らがどこかに行っている間、休憩にしよう、と呟いた。あの人達はきっと、祖父の所に行ったのだろう。げんなりとしたクザンの表情が、何故かナキにも祖父の力強い拳を思い出させるようだったからだ。

 ナキがこくりと頷いて、よっこらせ、と彼は近くの階段に腰掛ける。ナキは少し狼狽えてから、とてとてと彼の隣に腰掛けた。

 

「俺はゼファーだ。お前の爺さんの仕事仲間だよ」

 

 そう名乗った彼は、ゼファーは、やはりとても優しい声をしていた。

 

「えっと、あの…な、ナキ、です」

「わかってる。ガープから話は聞いてるからな」

 

 ゼファーは、ナキに色んな事を話した。

 海軍本部は慣れたか、とか、訓練はきつくないか、なんて。ナキがゆっくり返事をしている時は、ちゃんと待ってくれている。ナキはなんとなく、彼は優しい人なのだろうと思った。あと親なんだろうな、なんて事も考えた。だって、やけに子供の相手に慣れている。それはフーシャ村で経験した、マキノや村長、村人達のような優しさに似ていて、けれどもダダンのそれともまたそっくりだった。子供に優しくしてくれる人達とそっくりだった。

 

「友達は出来たか?」

「あ、えと……はい」

「はは、それは良かった」

 

 夜中に窓辺に現れる鼻の長い少年が頭を過ぎる。友達になろうとは言われたし、きっと、多分、友達にカウントしても良いのだろう。そんな事を考えれば、なんだか気持ちがふわふわしてくる。

 ルフィは元から弟だったし、エースやサボも兄弟になったのだから、友達とは少し違う。つまり友達という存在に巡り会って来なかったナキにとって、ジラフは初めての友達と言えるのかもしれない。

 

「……嬉しそうだな」

 

 ゼファーにそう言われて、へ、とナキは目を丸くした。どうやら頬が勝手に微笑みを浮かべていたようだ。途端に恥ずかしい気がしてきゅっと唇を引き結ぶと、ゼファーが笑っている。

 

「うぉぉーい!! ナキちゃぁぁぁぁん!!!」

 

 そんな時、遠くから自分を呼ぶ声がして、ナキはぱっと声のする方を見た。ドダダダ、と勢いよく砂埃をあげて猛ダッシュしている祖父の姿が見えて、何故か不思議な安心感がするのと同時に、クザンが殴られたであろう事を理解した。力強そうな握り拳がそれを物語っている。

 キキィッ、と甲高いブレーキ音と共にガープは目の前で停止すると、この世の終わりを聞いたかのように青ざめた表情でがしっとナキの肩を掴んだ。

 

「大丈夫か!!? クザンの阿呆に何もされとらんか!!? わしが悪かった、防犯ブザーの一つも持たさんとこんな失態……!!!」

「な、何もされて、ない、よ」

「爺ちゃんを許してくれ、ナキちゃん……まさかクザンが女ならなんでも良い発情期の猿だったとは思いもよらなかったんじゃあ……!!!」

 

 相変わらず微塵も話を聞いてくれやしない。

 多分、誤解が誤解のままストレートにガープの耳に伝わってしまったのだろう。この調子では誤解の解くのにかなりの時間がかかるだろうし、誤解が解けてもしばらく噂が流れてしまうのは容易に予想できる。頑張れクザン、負けるなクザン、青キジの明日はどっちだ。

 

「おいおい、落ち着けよガープ。孫をビビらせるんじゃねぇ」

「ん? 何じゃ、おったのかゼファー。ちょうどええから紹介してやる、わしの孫のナキちゃんじゃ。可愛いじゃろ?」

「これが噂に聞くジジ馬鹿ってやつか」

 

 小さなナキの頭上で、図体のでかすぎる大人達が軽口を交わす。大人達は呆れたように、けれど確かに楽しそうに笑っていて、ナキはその様子をジッと見ていた。

 不意に、ガープの歯を見せた笑顔が、ルフィの笑顔と重なったような気がして、会いたいなぁ、とナキはぼんやりそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「反省してくださいよー!」

 

 力いっぱい、厳しさを孕んだ声でウェニーはクザンに向かってそう叫んだ。はいはい、と疲れたと言わんばかりに肩を落とすクザンは、その頭に大きなゲンコツが三つ重ねてずるずるとキョウテンに引っ張られている。ゼファー、ガープ、それからセンゴクと海軍の黄金世代が揃い踏みだ。なお次に彼が向かうのはおつるのもとである。四つ目のゲンコツ待ったナシ。

 

「全く、クザン大将ったら。誤解を招く事ばっかりして」

「スキャンダルも良い所だな」

 

 怒りを隠さないウェニーの隣で、ダルメシアンがそう呟く。その表情は怒っていると言うよりも呆れていて、その感情の先はクザンやガープ、そして隣に立つこの同期の女も含まれていた。

 

 ウェニーの出身は南の海だ。別に珍しい訳でもなんでもないが、南の海は四つの海の中でも特に海軍の評判がよろしくない。海賊王の息子がいるかもしれない、とほぼ疑惑の段階で赤ん坊という赤ん坊を殺しまくったのだから仕方ない。妊娠中の母親も、結婚している誰かの妻達も問答無用で捕縛され、疑わしければ殺された。

 

 それでもウェニーが海兵の道を選んだのは、弟分二人を食わせていく為らしい。と言うのも、ダルメシアンはその弟分達と会った事がなく、ウェニー本人から聞いた話しか知らないからそう言うしかなかった。

 聞けば、南の海の赤ん坊狩りは、その弟分達が産まれてからまだ三年にもならない頃に起きた出来事なのだと言う。弟分二人を含めてウェニーの島でも殺害の対象となる赤ん坊はたくさんいたが、島民の大人達がなんとか奔走した結果、父親が完全にわからない赤ん坊だけが殺される事になった。

 思わずそれで良いのかと聞いたら「あの子達も危なかったけど、父親役してくれるって言うスラムのおっさんがいたから助かったんだよ」とけらけら笑っていた。

 

 そう言う込み入った事情もあって、ウェニーは子供をとても大事に思っている。ノットロリショタノータッチ、卑猥な目なんて言語道断。なので今回のクザンは完全に彼女の地雷原を踏み抜いた。

 

「ダルメシアンももうちょっと怒ってよ! あんた、呆れるばっかりで全然クザンさんに怒らないじゃん」

「俺が怒ってどうすんだよ。流石にあの人だって幼女には手ぇ出さねぇだろ……多分」

 

 断言できないのがなんとも悲しい話である。

 

 別にクザンもそこまで色欲に狂っている訳ではないのだが、普段の軽々しい軟派な態度が裏目に出ていた。自業自得という他ない。

 兎にも角にも、ダルメシアンが怒った所で何にもならないのは事実だ。というか既に、最強セコムである海軍の英雄ことゲンコツのガープがブチギレている。ついでに風紀に厳しいサカズキもマグマを煮えたぎらせる事だろう。ボルサリーノはちょっとよくわからない。

 

 若い二人に出来るのは、言われた通り訓練でナキに能力を制御させる事。出来る事なら海兵に憧れるように、というガープのお願いなのか命令なのかよくわからない注文もある。あとの難しい座学やら何やらは、キョウテン少将の方でなんとかしてくれるだろう。本人のやる気もそこそこに伸び代も感じられるので、そう難しくはないと思っている。

 

 ウェニーの赤い髪が潮風に押されて揺れている。炎のように真っ赤な髪だが、実際は炎に燃やされる樹木の身体を持つ樹木人間だ。ダルメシアンに至っては、名前と同じイヌイヌのダルメシアン。

 正直な所、自分達がナキの講師を立派に務められるのかと言われると疑問が残る。共に実態を持ち、実戦ももっぱら物理攻撃がメインスタイルだ。ナキはパラミシアとはいえ水銀というそれなりに危険な能力であり、いざと言う時に自分達で抑えられるかどうか。

 

(まぁ、やらねばならんのだが)

 

 自問自答。この世界は理不尽で出来ているのだから、今更こんな事で文句を言うほどダルメシアンも馬鹿じゃない。それはウェニーも同じだろう。だからヘイトに近い感情しかなかった海兵にまでなって、本部にまでやって来た。生半可の覚悟では到底できない事だ。

 

「そう言えば、ゼファー先生に任せてきたけどナキちゃん泣いてないかな」

「大丈夫だろ。ゼファー先生、子供の扱い上手いし」

「いや顔は怖いじゃん」

「思い出せ、あの子ガープ中将の孫だぞ」

「あー納得……いやとんでもなく失礼だよねそれ」

 

 上官と恩師に対して普通にド失礼この上ないが、あの二人の顔が厳つくてちょっと怖いのは紛れもない真実であった。ふと、狼狽えている所は見た事があるが、実際に涙を流している様子は見た事がないと気付く。それも顔に鍛えられたおかげなのだろうかと馬鹿みたいな事を考えながら、ダルメシアンとウェニーは廊下を歩いた。




ほぼ!まる!1年!

泣いた。
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