吉良吉影がその人物に出会ったのは、確か小学校の頃だったと記憶している。
事故で両親を亡くし、生き残ったが目を失ってしまった、可哀そうな子供。
それが周りのその人物に対する認識だった。
だが吉良吉影は、周囲から同情され、手を差し伸べてもらわねば生きていけない哀れな同級生に然したる興味はなかった。
ただ興味がないだけで、普通に生活を送れば、吉良吉影と、その人物との関係も、同じ学校の同級生で終わっていただろう。
しかし運命のいたずらか、吉良吉影は、その人物と奇妙な友人関係を築くことになる。
「作楽(さくら)だ。よろしく」
癒し系という言葉が似合う柔らかな頬笑み。穏やかな声。
きっかけはなんだったかは忘れたが、少なくとも何かしら知り合う機会があったのだろう。
単に名前を知り合っただけならそれだけだったが……。
「君の“ネコ”は、とても魅力的だ、興味をそそられるよ」
何気なく作楽の口から放たれた言葉に驚愕した。
「いつから知っていた?」
「割と最近。」
「見えるのか? これが…」
吉良吉影と佐倉を結びつけたのは、スタンドという特殊能力だった。
「見える。たぶん、“見える”ことが俺の能力なんだろうね」
作楽は、事故で両目を潰してしまい、失明した。
しかし、見えているのだ。失明していながら“本当は見えていた”のを隠していた。
医学的には、完全に失明してしまっているのに、その不思議な力のおかげで、相手や周りにいる者達を目を通して物を見ていた。
しかもその力は、普通の人間には見えない物も見る力になった。
「吉影と同じかもしれない」
「…なるほど、…個人によってそれぞれ違う能力があると言うことか……」
スタンドという同じ能力者という繋がりがきっかけで、その後二人は、それぞれの進路を進みつつも三十代を過ぎる頃になっても友達同士でいることになる。
***
「やあ、吉影。相変わらず植物のような平穏を求めているかい?」
来客者である吉良吉影を玄関で迎えた作楽。
リビングに案内した後、キッチンからティーカップをのせたオボンを持って来る。
作楽の家、兼作品工房にお邪魔した吉良は、リビングのソファーに座って、出されたお茶を優雅に飲んだ。
「ふむ……、茶葉を変えたのか?」
「もらいもの。不味かった?」
「香りの割には、味に癖もなく、…悪くない」
「まあまあってことならOKだな。ブレンドのレシピに1つ追加だ。ああ、あとこれ、こないだ来た美術商が持ってきてくれたパリのお菓子らしいんだけど、食べる?」
「いただこう」
他愛もないお茶会。
これが半年に一回か二回。
義務教育が終わってからすぐに進路が別れ、それから始まったこの戯れ。
どこかにドライブに行くとか、そういった遊びはしない。
これが彼らの交遊なのだ。
「“彼女”さんは、元気にしているかい?」
「ああ、もちろんだよ」
ちょっと……歪んではいるのだが、彼らにとって、これが普通だ。
「ねえ、吉影。その“彼女”さんをモデルにしてもいいかい?」
「ダメだ」
「ケチっ。じゃあ、吉影と一緒にモデルならどう?」
「いいだろう」
「返事が早いぞ、オイ。さすが世界最凶の手フェチ」
「それで? どんな作品にするつもりなのかな? 油絵か? 彫刻か?」
たまに出る作楽の毒舌を可憐にスルーするのもいつものことだ。
「手がモデルだから、石膏で手を作ろうかと思ってるんだ。吉影君が愛して愛してやまない美しい“彼女”を作品にどう表現するか。ぅふうフフフフフフフ………、マズイな、弾けてしまいそうだ」
「……(類とは友を呼ぶとは、このことか)」
吉良吉影は、ヘラヘラ笑いながらおおげさな身振り手振りをしはじめた友人を見てそう思った。作楽は、芸術家としての才能を発揮する時は決まって“変”になる。己の中に溢れた何かを創作として形にし放出しないと頭が弾けてしまいそうだと言うのだ。
『狂っていないと芸術家は務まらない』が作楽の信条であり、一部の愛好家に数億の金を出させるような作品を世に出せるのは、このためだろう。
そして吉良吉影は、芸術家の顔になった友人と、作品を制作についての打ち合わせをしたあと、何事もなく帰路についた。
ちなみに吉良吉影が、殺人癖があることと、美しい女性の手しか愛せない性癖であるという秘密を作楽は知っている。知っているが作楽は、それを受け入れているし、吉影もまた作楽に気を許している。秘密を知られていても問題ではなかった。だからお茶会で何気なく交わされる会話に出てきても動じないのである。
杜王町に根付いた、奇妙なサクラ(作楽)。
桜(サクラ)は、時に不吉の象徴とされることもある。
はたしてこのサクラ(作楽)がどう咲き誇るのだろうか。
次で、オリ主の設定について。