カースド・プリズン・ブレイカーL~呪われた牢獄、神殺しに挑まんとす~   作:ターニャ・オルタ

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Ms.プレイ・ディスプレイ

「たどり着いたか……出来ておるぞ、オヌシからの()()()()

 

「流石ヨコヅナ、いい仕事だ、完璧(パーフェクト)!それじゃあ早速……変身!! なんちゃって」

 

「もはや止めるまいて。存分にするがよい」

 

「おう。こちとら女の命がかかってるからな、なりふり構わず()()()()決めてやる」

 

 

 

 

地の底の獄。

 

頓挫した大規模地下都市(ジオフロント)の跡地は、地下にも関わらず相当の広さと高さを有している。Ms.プレイ・ディスプレイが目を覚ました時には、空中から吊り下げられた鎖でがんじがらめにされ、己自身も浮かされていた。

 

Kaミさ摩ッTeいUNOハ(神様っていうのは)準備Noあ使IモGo尊じナ猪Ka皎(レディの扱いもご存じないのかしら)?」

 

「我が恩寵を解さぬモノに生きる価値なし。たとえ(ディメンジョン)・リッパーで宇宙を裂こうとしても無駄だぞ、この場所ならば我が力に地球の重力をも合わせることが出来る。何の問題も無く抑え込んでやろう」

 

Kaい綰ナり叩な曰ネ(会話が成り立たないわね)……Deモ、こレ刑事Ku艇ネ(でも、これで確定ね)杏たハぜn嚢ノか皆nカ蛇Naい(アンタは全能の神なんかじゃない)

 

「何を」

 

D・リッパーとの接続で、Ms.プレイ・ディスプレイは直接接触以外のギャラクセウス由来の力を受け付けない。だが、ギャラクセウスがこの宇宙全てを作ったというのであれば、そもそも地球の重力すら受け付けなくなってしまうハズである。加えて、ギャラクセウスは地球の重力を利用しなければD・リッパーの時空破断に対抗できないというのなら、少なくともこの地球という星はギャラクセウスが創ったものではない。

 

マa(まあ)じn涙ヲ筑っタ野がアn徒ッ亭uノ端(人類を創ったのがアンタだっていうのは)じ綱nデ商Keど(事実なんでしょうけど)So腕ナ伽(そうでなきゃ)ぜn陣ル祈(全人類の)し控So兎(思考操作)なnテ(なんて)溺なiハず堕Si(出来ないハズだし)

 

「……どういう意味だ」

 

4こ嘘ウ差っテ(思考操作って)閃しnハO塚ッて裳(先進波を使っても)キほn嫡2Zi文い害(基本的に自分以外)2ハ溺なiモ乃(には出来ないもの)

 

電磁「波」など、波の性質を持つものは発信源から四方八方へと伝わっていく。これは到達までに時間を必要とするもので、すなわち過去から未来へと進むものだ。これを遅延波と呼び、通常の電波や光というのは全てコレである。

しかし、マクスウェルの電磁法的式によれば、理論上これと反対の動きをする波、外から内へと進む波が存在するものとされる。これが先進波であり、未来から過去へと遡航するものだとされ、基本的に遅延波に打ち消されるものと考えられている。ただし、万物理論を実用できるD・リッパーならば話は別だ。先進波だけを抽出し、電気信号として過去へ送り、神経電位を、すなわち思考を上書きすることが出来る。

 

「何故、思考操作の方法を貴様が知っている」

 

塔ぜn4ッ照Wa4(当然知ってるわよ)駄っテ(だって)わ足Moヤ羅れ鄭るモ廼(私もやられているもの)

 

「謀りを、貴様は私の思考操作を無効に……」

 

垂ガあn峪さ0テ月n低っタの4(誰がアンタにされてるなんていったのよ)棉4ハ3頼Noワ確かRa(私は未来の私から)4高そウ棹Sa0帝ルの(思考操作をされているの)

 

「……まさか、D・リッパーの出所は、()()()()()なのか?」

 

※糸ウ(ご名答)

 

人類史の終わりまでに、技術ツリーから言ってD・リッパーが完成することは無い。

解決策は簡単、()()()()()()()()()()()()、D・リッパーの制作を続ければいい。

かつて、一番最初のMs.プレイ・ディスプレイは、未来において不完全なD・リッパーを作りあげた。不完全な状態でも、彼女のクラッキング能力と合わせて、()()()()()()()()()()()()()、過去の自分へ先進波を使ってD・リッパーについての知識を送ることが出来る。ただし、不完全なままで先進波を受容させるには過去の自分もまたクラッキングマシンと融合した状態であることが必要となる。だから未来の彼女は過去の彼女がクラッキングマシンと融合した直後に向けて先進波による思考操作を行った。

 

これこそがMs.プレイ・ディスプレイが精神崩壊した本当の理由。不完全なD・リッパーによる無理矢理な思考操作のせいで、過去の自分と未来の自分が送った知識が上手く合一出来なかった結果だ。しかし発狂しながらも、彼女は未来の自分が送ってきた知識に基づき、D・リッパー完成のために必要な資材・機具を集めるために行動した。そのための破壊活動や、時にはヒーローに資するような行動が、余人には支離滅裂な活動としか思われなかった。何せ彼女が作っているものは現行人類では決してたどり着けぬ技術ツリーの果ての極地、その目的が看破されることは無かったし、未来からの無理な思考操作で狂っているのも事実ではあったのだから。

 

無論、ただの一度のやり直しで完成するハズも無い。不完全なD・リッパーで再び過去の自分へと思考操作を行い、何度でも何度でもやり直す。十回、百回、千回、万回。D・リッパーが完成し、()()を果たすまで何度でも。もはや何度過去の自分を発狂させたか回数すらわからなくなり、たった一人で積み重ねた時間が人類史が終わるまでを上回り、そうして数多の自分で屍山血河を築いた果てにD・リッパーは完成したのだ。

かつて別次元からもたらされたD・リッパーも、その世界のMs.プレイ・ディスプレイが自身の命を引き換えにして過去へと自分の知識を送った後、その死体から回収された物だったということだ。

 

出もNe(でもね)ダ空こSo技もn七4(だからこそ疑問なのよ)メの真e2炒O舞ハ(目の前に居るオマエは)45鷽うSa忍て稲イ(思考操作をしていない)

 

「……」

 

ここまで、わずかとも表情を動かさなかったギャラクセウスの、頬がわずかにヒクリと動く。

自分で自分の思考操作を受け続けているMs.プレイ・ディスプレイだから分かる。今ここに居るギャラクセウスは過去へと先進波を送っていない。ならば、思考操作をしているモノこそが、大元のギャラクセウス本体ということ。

 

オ魔eのホn鯛(オマエの本体)床2Iる(何処に居る)?」

 

「これから死ぬ者が知る必要は無い」

 

これ以上の発言は許さん、とばかりに言い捨てたギャラクセウスが腕を持ち上げるのと、

 

この地下空間の入口となる坑道からゴァアン!と轟音と共に土煙が吐き出されるのは同時だった。

 

「いよう待たせたな……お色直しに時間がかかっちまってなあ」

 

土煙から現れ出でたのは、オリエンタルな意匠を施された、妖しく薄く金色に光る鎧を纏ったカースドプリズンだった。その体躯は、ただでさえ常人を上回る偉丈夫だったのが、巨大な鎧のせいで二回りは大きくなっている。そのカースドプリズンをガラスの如き瞳で眇めつつ、ギャラクセウスは眉を顰める。

 

(見えない……?)

 

神たる己がかけた呪いによる鎧の、内部を透視できない。X線、赤外線、反響定位(エコロケーション)、いずれも何の反応も返ってこない。()()()()()()ものを吸収しているのかも知れないが、己の力を引き受けないというのが僅かに不快だ。とは言え、エンジンの駆動音もしなければ、大容量バッテリーなどが搭載されている様子もない。ならばあの鎧は神たる己の干渉を何とか防ごうといういじましい努力ということだろう、とギャラクセウスは結論する。そのカースドプリズンは兜のスリットから光る眼光で、地下空間の上空に浮かぶギャラクセウスとMs.プレイ・ディスプレイを見上げる。

 

Baカ(馬鹿)……なn溺タの4(何で来たのよ)

 

「テメエの女を奪い返すのに理由が要るのかよ?」

 

「ッッッ!高Ra(だから)そ初う5苫ガO禰うNoキn視(そういうこと真顔で言うの禁止)!」

 

「いいから安心して待ってろ、囚われの女とか百科事典作れるくらい救ってきたっつーの」

 

その話詳しく(その話詳しく)

 

「急に流暢に喋るなぁ?!」

 

「……戯れ合いはもう十分か?」

 

馬鹿ップルに無視された形のギャラクセウスはようやく声をかけるも、カースドプリズンは大げさに驚いたようなリアクションで方を竦めて見せる。

 

「ああ、そういえば居たなギャラクセウス。だが無駄だ、何千年もかかってそのザマじゃあ、俺様には決して勝てやしねえ」

 

「その不遜、死をもって許そう。ひれ伏せ、【七つの罪錘(セブンシンカー)】」

 

明らかに先の意趣返しのカースドプリズンのセリフ。僅かに眉を顰めたギャラクセウスは、先と同じ重力の檻で押し潰さんとする。決して抗い得ぬ力を前に、いかなる者もひれ伏す以外の行動は許されない……ハズだ。

 

「おいおい、そんな使い古された手が通じると思ってんのか。脳味噌にカビでも生えてんじゃねえの?」

 

「……何だと?」

 

カースドプリズンは小揺るぎもせず平然と立っている。重力による干渉を無効化している?ありえない。プリズンブレイカーや、D・リッパーを使用している者ならばともかく、カースドプリズンは鎧によって囚われているのだ。鎧自体は『この宇宙』の物質である以上、重力操作は有効であるハズ。戸惑うギャラクセウスに対し、カースドプリズンは兜の中のドヤ顔が幻視できるような自慢げな声で告げる。

 

「悪いが今の俺様は()()()に居るんでな」

 

「どういう意味だ」

 

「この鎧には全体にガンギマリ妖精(ティンクルピクシー)のガンギマリパウダーが合成されている。つまりこの鎧そのものが妖精郷と同じ『この宇宙』とは別の異界ってワケだ。そう、言うなれば今の俺様は妖精鎧(ティンクルプリズン)……!」

 

「……小賢しい」

 

ギャラクセウスは眉根を寄せる。意味の分からない妄言は無視するにしても、鎧そのものが干渉を無効化するという点は無視できない。このまま遠隔からの攻撃では埒が明かない。ならば直接接触で終わらせる。

 

「【瞬間転移(アポート)】」

 

背後へと転移して、ガラ空きの背中に触れて電撃を流しこめば終わりだ。カースドプリズンの背後へと転移したギャラクセウスは、眼前にあるはずの鎧の背中へと手を伸ばそうとして――――

 

()()()()だよなァ!!」

 

転移後の視界一杯に、鎧の()が迫っていた。当然、そのまま叩き込まれるカースドプリズンの拳。ただでさえ巨躯のカースドプリズンが、さらに巨大な鎧を纏った拳は質量の暴力だ。顔面へとマトモに喰らったギャラクセウスの体は二転三転、ゴロゴロと地面を転がる。

 

(転移を予測された?まぐれ当たりか?)

 

地面を転がりながらも、追撃を避けるために再度の転移。逃げるためのそれは、先程とは反対側に大きく離れた位置への転移で。なのに

 

「俺様の奢りだ、存分に土ペロしてくれ」

 

既にして眼前にはカースドプリズンの蹴りが迫っている。障壁の展開も、再転移も間に合わず再び地面を転がるギャラクセウス。空中浮遊で態勢を立て直すも、何が起こっているのか、まるで意味がわからない。

 

「何故、私の場所が……」

 

()()()()っつったろ?」

 

言ってカースドプリズンはコンコンと左手で兜の()()()()左眼を叩く。

 

「その義眼、クロックファイアの……」

 

「まるで使いこなせてなかったからな、俺様が貰ってやった。テメエの転移が空間を歪曲させてのショートカットか、それとも陽位相転移(フェルミオンリープ)かは知らねえがな。どちらにせよ()()()には電子の揺らぎが絶対に起こる。ソレさえ見逃さなきゃあ結果は体験してもらった通りだぜ」

 

クロックファイアの義眼は、視界に入った爆弾を任意に起爆でき、爆弾の位置も分かる。それは光情報、すなわち電磁波の送受信を行っているということだ。ならば未来から送信されてくる思考操作の先進波も、転移のための電子的揺らぎさえも視認できるということ。クロックファイアは爆弾にこだわるあまり見過ごしていたのか、無視していたのか。ともかく電磁視覚こそがこの義眼の窮極の能力。

 

「だが、見えたとて対応できるかは別の話。何故、その鈍重な鎧で私の転移に先回り出来る」

 

「鈍重?何言ってやがる。今俺様が纏っているコイツはな、ガンギマリパウダーやら爆弾魔(ゲスヴィラン)の義眼やらも取り込んではいるが、大元はリキシオンが作ったニンジャ用全身義体(サイバネボディ)だ」

 

今現在ギャラクセウスとカースドプリズンが争っているこの地下空間で、かつてカースドプリズンが相対した、ギャラクセウスの消滅を目論んで未来からやって来たヴィランの名はリキシボーグ。肉体を機械の体に置換し、生物的限界を超越した未来のリキシオンである。その強さはプリズンブレイカーだけでなく、ミーティアス・ロックピッカーという三人がかりの戮力なくば倒せなかったほどの難敵だった。

 

リキシオンはその戦い以来、自らの到達できた可能性のひとつとして、錬金術ニンジャ全身義体(サイバネボディ)の研究・再現を進めていたのだ。それをカースドプリズンはリキシオンとの相撲勝負に勝利した賞品(プライズ)として要求したのだ。対ギャラクセウスの切り札、破壊吸収するオブジェクトとして。ニンジャの高速戦闘に対応するための強化セラミックとバイオマテリアル、人工筋肉で構成されたソレを鎧として纏えば、強力な強化外骨格(パワードスーツ)として機能する。ならば今のカースドプリズンの動きは鈍重どころか、俊敏なるニンジャのソレ。

 

「さあ、想いを果たせよリキシボーグ!オマエの力で(クソ野郎)を殺すぞ!!」

 

「ちっ」

 

高速で踊りかかるカースドプリズンに対して、ギャラクセウスは今度は上空への転移で逃れる。空中までは跳びかかるにしても時間を稼げ―――

 

「アイツ風に言うなら、死神の(あぎと)を逃れることは出来ない、ってとこか?」

 

地上のカースドプリズンが呟くと同時、ぱんぱん、とカースドプリズンの腕部装甲から乾いた音が響くと、ギャラクセウスの体に穴が穿たれる。

 

「ぐっ、銃などで、我が神体が、何故……」

 

「地獄もテメエが創ったもんじゃ無えからだよ」

 

ギャラクセウスの体を襲ったのはダストの双銃が生み出す善悪の弾丸。地獄の悪魔がもらたす弾丸は防御力を無視して罪の重さでダメージを与えるが、悪魔が憑依したダストでなければ生み出せない。だからカースドプリズンはダストとの戦いでワザと大量の銃弾を撃たせるよう誘導した上で、ティンクルパウダーで空中に固定して銃弾を回収したのだ。後はクロックファイアの義眼で生み出す指向性爆弾を炸薬(ガンパウダー)として用いれば、腕部装甲を左眼の視界に収めるだけで発射できる。

 

「ゴボッ、このような、小細工……」

 

二度の打撃、そして銃撃でついにギャラクセウスが口から血……なのだろう、白い液体とも気体とも取れないものを溢す。その隙にカースドプリズンは()()()にギャラクセウスへと、空中に出来たキラキラと光る()を駆け上がる。

 

「ミーティアスの……私が与えた力まで」

 

「ごっつぁんです!美味しくいただきました!!」

 

先の闘いで賢者の石へと移し取ったミーティアスの星の力。空中に道を作る星の道(スターロード)とその機動力にニンジャ全身義体(サイバネボディ)が合わされば、鎧を纏った状態でもプリズンブレイカーと同等どころか、それ以上の機動性を発揮できる。先に転移へと追い付いた動きの種はコレだったのだ。

そのまま空中のギャラクセウスへと飛び蹴りを叩きこむカースドプリズン。

 

「死にさらせェ!」

 

「もはや通じぬ」

 

しかし、蹴りが到達するより前に、カースドプリズンの体へと衝撃が走り、地面へと叩き落される。

 

「ぐっ……まあそう簡単にはいかないか」

 

周囲に視線を巡らすと、衝撃の正体は岩塊だった。ギャラクセウスは地下都市跡に散乱する巨大な岩を、電磁加速してカースドプリズンにぶつけたのである。ギャラクセウスからの重力を無効化出来ても、ギャラクセウスの力で加速された岩の運動エネルギーまで無効化できるわけではない。

 

「やはり貴様はまともに相手をすべきでは無い。数千年ぶりで忘れていたよ」

 

「おいおい耄碌してんなら大人しく首を出せよ。出さなくっても殺してやるが」

 

「【地殻天移(ウラノガイア・テクトニクス)】」

 

瞬間、カースドプリズンを浮遊感が襲う。自分が浮かせられた、のではない。地面が周囲まるごと無くなって、下が大穴になったのだ。ならば消えた地面、というか岩盤はどこへ行ったのか?視線を転ずるまでもない、暗くなった視界が雄弁に語っている。大穴へと落下していくカースドプリズンの上空、空間全体を塞ぐように真上に浮遊する規格外質量。要するにあの神気取り(ギャラクセウス)はこの大地でダルマ落としをして、引き抜いた地盤で俺様をサンドイッチにするつもりらしい。

 

「な……っめんな!!」

 

こちとらなぁ! 牢獄にブチ込まれたままァ!ウン千年以上戦ってきたんだよ!

 

ミーティアスの力で空中ジャンプ、あえて下に落ちると、紅玉の義眼に命じる。

 

起きやがれ、クソピエロ(ウェイクアップ)!」

 

現れたのは巨大なバルーンのようなピエロ。これぞクロックファイアの超必殺(ウルト)たる巨大爆弾。

嗤い膨れて、大量の小型ピエロ爆弾を撒き散らす群体爆弾(クラスターボム)

それを上空の岩塊めがけて、全力で蹴り飛ばす。

 

「ハットトリックだオラァ!」

 

一撃で三発どこか数十発の爆弾を叩きこむ群体爆弾(クラスターボム)が炸裂する……が、それでも膨大な質量の暴力には抗いきれず、いくらか穴を穿った程度にしかならず。

 

そのまま岩盤は周囲ごとカースドプリズンを押し潰した。

 

「終わったか……最後に足掻いていたが、無駄だったようだな」

 

ギャラクセウスは、安堵の息を吐きながらひとりごちる。

 

(安堵?この私が?)

 

そのことに苛立ちを覚える。その苛立つという感情さえも不快で。

しかしそれ以上に不快な、ガガガガという破壊音が岩盤の下から連続して響き、落下して再び地面となった岩盤へと亀裂が広がっていく。

 

「まさか」

 

ギャラクセウスが思わず呟くより早く、亀裂から飛び出したのはカースドプリズン。その()()の手に握られた巨大な鉄塊からは、巨大な鉄杭が飛び出している。

 

杭打機(パイルバンカー)だと?」

 

六連炸薬式破城槌(ガトリングド・ラム)だよ!」

 

ロックピッカーがおじ様(カースドプリズン)のために作った切り札。それを賢者の石にカオス因子を封入したチェストリアと共に譲り受けたカースドプリズンは、この局面まで温存していたのだ。

ギャラクセウスが戸惑う一瞬の隙にカースドプリズンは空中を一息で駆け上がると、既に四発を打ち出し終えた破城槌を背中から生えた三本目の腕と、さらに背中の装甲が展開・変形した四本目の隠し腕で構え、両手をフリーにしてギャラクセウスの両手を掴むと、五本目の杭を爆薬の炸裂と共にギャラクセウスの胸元へと叩き込む。

 

「天誅!」

 

「ゴボッ……その、うで」

 

「優劣を競うなら、腕の一本や二本、増やして当然だろ?」

 

そのまま絡まり合うように地面へと落下しつつ、カースドプリズンは重心の移動で自らが上になるとギャラクセウスを地面へと叩きつけた上で、最後の六本目の杭で完全に地面へと縫いとめる。

 

「標本の虫みたいに縫い付けられた気分はどうだ?」

 

「油断、だな。うかつに私に触れるとは」

 

ギャラクセウスは先程、直接接触での攻撃を転移を見切られて果たせなかった。しかし、今はカースドプリズンの方から接触している。密着状態での電撃は、いかなイレギュラーとて防げはしない。

 

「体内から焼き切れろ、【暴虐の雷獣(バイオレンス・サンダー)】」

 

雷、それは古来より神の御業と畏れられた超速フレームの上に喰らえば即死というリアルチート技。直接接触であればD・リッパーを持つMs.プレイ・ディスプレイでさえ防げなかった。さらに今度は気絶させるつもりの電撃ではない。完全に殺すつもりの最大威力。

 

だというのに、電撃が発生しない。

 

「残念、それも対策済みだ」

 

「なっ」

 

ならばとギャラクセウスは転移で逃れようとして、しかしカースドプリズンの()に触れているだけで、電気が全く操作できない。歯噛みするギャラクセウス。カースドプリズンは両手を押さえつけるのを背中の隠し腕に任せると、左手でギャラクセウスの顔面を掴む。

 

「ぐっ……」

 

「やっぱな。電波遮断物質を取り込んだ鎧で接触されると、テメエ能力を封じられるんだな?」

 

思えば、未明の戦いはおかしかった。重力で潰され、脱獄(プリズンブレイク)して転移で倒され、デフォルトの鎧に戻ったところで別な場所に飛ばされた。しかし、それならば最初っからカースドプリズンだけ別な場所に転移させればよかったはずである。何故そうしなかったのか。と言うよりもむしろ、()()()()()()のだとしたら?

 

「テメエが創った『この宇宙』ってのは、宇宙そのものじゃなくって、人類生存圏っつーか、認識宇宙なんじゃねえか?いわば『この宇宙』ってゲームのスクリプトを書いたのがテメエで、その物理エンジンの中でだけお前は全能ってことなんだろ?」

 

人類の認識では、『この宇宙』は、現在四つの基本相互作用から成り立つと考えられている。

即ち、電磁気力・重力・強い力(グル―オン)弱い力(ウィークボソン)

ギャラクセウスは、自らが創りだした人類が「できる」と認識したことならば何でも出来る全能の存在。逆に言ってしまえば、ギャラクシーパワーという膨大なリソースを抱えていても、現実に出力するには人類が観測・承認するそれら四つの力を経由しなければ何も出来ない。

 

「その中で一番使い勝手のいい電磁気力を、電波遮断物質を取り込んだ俺様の鎧はすべて防いでしまう。だから夜中の戦いで俺様が脱獄(プリズンブレイク)をして鎧を脱ぐように、イレギュラーなら攻撃が通じるだ何だと煽ってたんだろ。図星か?んン?」

 

ギャラクセウスは逡巡した。重力ならばいまだに使えるが、押し潰せば自分ごと潰れるだけだし、逆に重力をカットしたところで鉄杭により地面に縫いとめられていては動きが取れない。

 

(何故このような、何故……)

 

不測の事態が立て続けに起きて、まるで人のように苛立っている。全人類の創造主、神たる己が。

ギャラクセウスは気づかない、対人戦の経験が無いが故に。ここまでの一連の流れ自体が全てカースドプリズンの手の内。対人戦の基本は初見殺しと選択肢の飽和だ。ワザと相手を苛立たせるような煽りを入れつつ、妖精郷の粉、紅玉の義眼、全身義体(サイバネボディ)による強化外骨格(パワードスーツ)、地獄の弾丸、星の力、隠し腕とカオス因子による破城槌、そして電波遮断鎧。

次々と初見の事態をぶつけていって対応を飽和させ、相手に流れを作らせない。

 

「まあアレだ、テメエはもっと自分が創った人間と、面と向かって関わるべきだったな」

 

もしギャラクセウスがもっと対人戦の経験が豊富だったら、結果も違っていただろう。

ギャラクセウスの顔面を掴むカースドプリズンの左手、その鎧の指が()()()()()ほど不自然に膨らんでいることにだって気づけたかも知れない。しかし、そうはならなかった時点で、この結末は覆らない。

 

シー・ヴィス・ベラム(戦いを望むのならば)パラ・ベラム(戦いに備えよ)!!」

 

ラテン語の警句(モットー)、「平和を望むならば(シー・ヴィス・パケム)戦いに備えよ(パラ・ベラム)」を捩った、万日を戦場で過ごしたカースドプリズンなりの言葉と共に、撃ち放つのは左手に仕込んだダストの超必殺(ウルト)、『塵は塵に(Dust to Dust)』の弾丸。ティンクルパウダーと、己の左奥歯を使って発動させずに受け止めたのはこの時のため。先にダストの善悪の弾丸がギャラクセウスに対して有効なのは確認済み。ならば地獄の最高権力者ヘルゼブルの断罪は、一切の呵責無く祈るべき神すら殺す。

 

(Dust)から人を生んだテメエが塵になる(to Dust)かは知らねえ……ただひたすらに敗けて死ね(Bites the Dust)

 

弾丸が撃ち込まれた場所から光が溢れ、十字架の形となって屹立する。光が消えた後には、光となって崩れ行くギャラクセウスの残骸が僅かに残るのみ。その時、上空でMs.プレイ・ディスプレイを拘束していた鎖が落ち、同時にカースドプリズンの鎧がボロボロと崩れていく。神の力が、呪いが消え去ったということ、すなわち

 

「ハッハァー!弱体化(デバフ)状態でも神殺し(ジャイアントキリング)できるってなぁ!!……っとと」

 

兜が崩れ、喜色満面の紅に輝く素顔が覗く。が、喜びも束の間、拘束の外れたMs.プレイ・ディスプレイが落下して来たのですぐさま二段ジャンプで迎えにいくと、横抱きに抱きとめる。

 

「言ったろ、安心して待ってろって」

 

亘4と乄ハSoのア殿(私としてはその後の)Ko10ば乙イTuめ泰ケど(言葉を問い詰めたいけど)……So0寄モ(それよりも)道すRuノ(どうするの)?」

 

「あん?」

 

木Seか猪ギャ洛せuス貸nだジ天で(この世界のギャラクセウスが死んだ時点で)ミ雷2いRu藍ツが(未来にいるアイツが)Ko載かイWo1000帝すル(この世界を剪定する)せ階ガo割ば(世界が終われば)ア屶Mo4布よ(アナタも死ぬのよ)?」

 

「だが、それをどうにか出来るモンは用意してくれてんだろ?」

 

「……い弥4(嫌よ)

 

「俺様のために、作ってくれたんだろ?D・リッパー」

 

イYa與(嫌よ)!……Daッて(だって)ソ後タRa(そうしたらアナタは)

 

Ms.プレイ・ディスプレイが、自分の命を犠牲にしてでも、過去の自分を発狂させてでもD・リッパーを完成させようとした本当の理由、最初の動機。それこそは、愛したカースドプリズンを救いたいという想いだった。

 

一番最初のMs.プレイ・ディスプレイが、どのような経緯でカースドプリズンを愛するに至ったかは、もはや彼女自身にすらわからない。ただ未来の自分から伝えられ続けるのは、D・リッパーの制作知識と、未来で死んでしまうカースドプリズンを救わなければならないという呪いめいた恋慕のみ。確かに、D・リッパーをイレギュラーたるカースドプリズンが使用すれば、ギャラクセウスが失われようともカースドプリズンの力だけで世界を保つことも、次元自体を再構築する事すら理論上では可能となる。しかしながら、ソレをやってしまえばカースドプリズンはより高次の存在へと移行()()()()()

 

一次元が、より上位の次元を「点と線の集合」としか認識できないように。

二次元が、より上位の次元を「平面の集合」としか認識できないように。

およそ7~8次元より上の存在となってしまうカースドプリズンは、この三次元の認識宇宙に自分を再現しようとしても、その総体が収めきれなくなってしまう。それはもうこの世界の内側から居なくなるということだ。

 

航4Gaデぃ免ジョn・りッ派ーヲ(私がディメンジョン・リッパーを)津くッTa野ハ(作ったのは)A鉈ヲ(アナタを)ケ乄Si舞たメ洒なi(消してしまうためじゃない)Taダ(ただ)竇タ2(アナタに)域テiて星イ(生きていて欲しい)Soれ丈デ(それだけで)……」

 

愛されたいとすら願わない。ただ自分の愛したこの人に生きていて欲しい。神に願っても無駄ならば、自分が救うしかない。ただそれだけの想いで、人類史が終わるよりも長い、永い時を何度も何度もやり直し続けて来たのだ。嗚呼、体が生身で無くて良かった。もし今生身だったなら、自分の顔は涙でぐちゃぐちゃになっているだろうから。

 

Ms.プレイ・ディスプレイはもはや言葉を続けられず、涙も流さない異形の頭を俯かせるだけ。だと言うのにカースドプリズンは、その顎にあたる部分を優しく持ち上げると、ブラウン管の表面を、まるで涙が流れているかのようにそっと優しく掬って、言う。

 

「俺様なら何とでもなるさ、なにせ俺様だからな」

 

「……ナにSo0(何ソレ)リ邑2なッ手Na石よ(理由になってないわよ)バ火(馬鹿)

 

「いいから信じろ……何よりもう、時間が無え」

 

そう言って持ち上げるカースドプリズンの手は、鎧の崩壊がどんどんと進んでいる。ギャラクセウスの呪いが完全に解けてしまえば、D・リッパーを吸収する能力自体が使えなくなる。そうすれば、この袋小路の世界はそもそも終わりだ。

 

「……イ厦(いいえ)やッ梁Daメ4(やっぱり駄目よ)そ0楢Waた4ハ網1℃遣なOス(それなら私はもう一度やり直す)

 

愛する者を犠牲にしなければ救えない世界なんて要らない。だから何度でもやり直す。何万回でも、何億回でも、何兆回でも。カースドプリズンを救えるまで、何度も、何度でも!

 

悲壮な決意と諦観を胸に、Ms.プレイ・ディスプレイはD・リッパーを起動する。今まで何度もやってきたように、自分の命と引き換えにして、再び過去の自分へと先進波を送るために。

 

「なら好きにしな。それまでこうして、抱き締めていてやるから」

 

()……」

 

「俺様はな、オマエのそういう誰に何を言われようとも馬鹿にされようとも、絶対に自分が()()()()()()()()()()()所が好きなんだよ。信じろっつったろ?何度やり直して、どれだけ重い想いをぶつけられても、全部受け止めてやるから、安心していいぜ」

 

「―――ッ、綿4ハ(私は)Aな恃ソuいウ床Roがスき與(アナタのそういう所が好きよ)

 

「ああ、知ってる」

 

それきり、二人は口を開かず、カースドプリズンは既に兜が崩れて露わになった唇で、Ms.プレイ・ディスプレイのブラウン管の(おもて)に口づけを落とす。

 

実際には感じることの無いその温もりを噛み締めながら、Ms.プレイ・ディスプレイはD・リッパーで己の命と精神の全てを先進波として変換し過去へと送ると、そのまま息を引き取った。

 

そして、温もりと命の消えた彼女の体を抱えたまま、カースドプリズンは凶星引力(フォビドゥン・グラビティ)を発動しD・リッパーを吸収すると、次元の彼方へと消えていった。

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

遥か未来、人類が死滅した後の地球。

 

空は真っ赤に染まっており、大地には草一本生えていない。

人だけでなく全ての生命が払底した世界にただ一人、佇む白皙のおぼろな人影。

ガラスのごとき透き通った白き瞳は、何処か遠く、時間の彼方を見るようで。

 

「みぃーつけた、テメエが本体だなクソ野郎(ギャラクセウス)

 

余人が存在しないハズの世界で、最後に残ったギャラクセウスへと声をかける、緋色に輝く長身痩躯の男。D・リッパーによって高次の存在となった、かつてカースドプリズンとも、プリズンブレイカーとも呼ばれた男。彼自身は今はカースド・プリズン・ブレイカーを名乗っている。

それに驚くこともなく、ギャラクセウスは微笑すら浮かべて見せた。

 

「ようやく来たか。遅かったな……いや、むしろ早かったな弥勒菩薩(マイトレーヤ)よ」

 

「俺様が未来仏(ホトケサマ)?はっ、だったら念仏でも唱えてろよ。これから地獄へ行くテメエにゃ似合いだ」

 

「いいや、それが事実だ。君の存在が宇宙を救う」

 

「こんな世界で、過去の人類操って神様気取りの奴が何言ってやがる」

 

「もっと大きな話だ。深淵にて微睡む混沌、盲目にして白痴のアレが目覚めれば、その瞬間この宇宙は終わりだ。その時までに私は力を蓄えなければならない」

 

ギャラクセウスは他者から「できる」と観測されたことならば膨大なギャラクシーパワーで何でもできる。だからこそ人類を生み出し、それが最大限繁栄するよう介入した。この最も長く生きた、最後のギャラクセウスが過去へと先進波で干渉することによって。それでもここが終点、ここにいるギャラクセウスは、この瞬間のみ全ての平行世界を通じて最も力を増したギャラクセウス。人類史に決して観測されることのない不世出の(エグゾーディナリー)ギャラクセウス・究極の一(ラストスタンド)。だが、もはや観測する人類が存在しない以上、やがては消えてゆく存在だ。剪定された世界の無数のギャラクセウスのように。

 

「人類はここが限界だ。だから私はその中から君のような存在が生まれ出でるのを待っていたのだ。強烈な自我で、ただ一人の観測だけで全てを決定づけられるイレギュラーな存在を。だからこそ過去に君を殺さず封印し、試練を与えた。この私にまでたどり着ける存在となれるように。そうして君はたどり着いてくれた。君が観測し、私が世界を創る。これで私と君は永遠の存在となるのだ」

 

そう言って、ギャラクセウスはカースド・プリズン・ブレイカーへと手を差し出す。

しかし、カースド・プリズン・ブレイカーは冷ややかに見るだけでその手を取らず、呆れたように肩をすくめる。

 

「で、今度こそ俺様を生かさず殺さずで封印して、テメエを観測し続ける装置にしようってんだろ?俺様には未来の可能性の分岐も観測出来てんだ。教えといてやるが、ここでテメエに協力しても、最後は『混沌』に飲まれるだけだぜ」

 

「……ならば仕方ない。貴様の言う通り、力づくで封印させてもらおう」

 

ギャラクセウスが笑顔を消すと同時、生きとし生けるモノ全てが死に絶えた世界に、ゆらゆらとした人影が現れはじめる。

 

「今の私は消滅までの間だけ、観測者の拘束なしに力を振るえる。私と貴様が共通に観測できた者ならば、すべて再現できる……この数と私を相手にしては、貴様とてどうにもならんぞ」

 

荒れ果てた大地へと現れるヒーロー、ヴィラン、聖人、魔女、天使、悪魔憑き、鬼、ドラゴン、吸血鬼、ゴーレム、獣人、地球外生命、拳法家、暗殺者、海賊、詩人、探偵、武将、ニンジャ。かつて統天(マスタースカイ)やカースドプリズンやプリズンブレイカーと死闘を繰り広げた猛者が地平線を埋め尽くす。

 

「かつての私は貴様の経験に敗れたが、此度は貴様の経験が貴様の敗因だ」

 

既に勝利を確信したギャラクセウスに対し、カースド・プリズン・ブレイカーは「はぁあ~~」と大げさな溜息をつく。

 

「テメエ本当に分かってねえんだな。ボスラッシュならぬ雑魚ラッシュで俺様がどうこう出来るわけねえだろうが」

 

「強がりを」

 

「ま、最後だし俺様もテメエの敗因を教えておいてやる」

 

そう言ってカースド・プリズン・ブレイカーは全身を撓ませる。彼はギャラクセウスを殺すために来たのだ、この時の果てまで。

 

何故?

 

人間を弄ぶ神だから?

 

否。

 

「テメェが俺様の女を泣かせたからだァ!」

 

そして、人の死に絶えた世界で、緋色の閃光と、神威の白光とがせめぎ合い――――

 

 

 

そして

 

 

 

 




カースド・プリズン・ブレイカーvsギャラクセウス・究極の一(ラストスタンド)はユザパ。

決まり手はカースド・プリズン・ブレイカーの星天・零零零式(アステール・スカイ・アイン・ソフ・オウル)
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