カースド・プリズン・ブレイカーL~呪われた牢獄、神殺しに挑まんとす~ 作:ターニャ・オルタ
「たどり着いたか……出来ておるぞ、オヌシからの
「流石ヨコヅナ、いい仕事だ、
「もはや止めるまいて。存分にするがよい」
「おう。こちとら女の命がかかってるからな、なりふり構わず
◆
地の底の獄。
頓挫した
「
「我が恩寵を解さぬモノに生きる価値なし。たとえ
「
「何を」
D・リッパーとの接続で、Ms.プレイ・ディスプレイは直接接触以外のギャラクセウス由来の力を受け付けない。だが、ギャラクセウスがこの宇宙全てを作ったというのであれば、そもそも地球の重力すら受け付けなくなってしまうハズである。加えて、ギャラクセウスは地球の重力を利用しなければD・リッパーの時空破断に対抗できないというのなら、少なくともこの地球という星はギャラクセウスが創ったものではない。
「
「……どういう意味だ」
「
電磁「波」など、波の性質を持つものは発信源から四方八方へと伝わっていく。これは到達までに時間を必要とするもので、すなわち過去から未来へと進むものだ。これを遅延波と呼び、通常の電波や光というのは全てコレである。
しかし、マクスウェルの電磁法的式によれば、理論上これと反対の動きをする波、外から内へと進む波が存在するものとされる。これが先進波であり、未来から過去へと遡航するものだとされ、基本的に遅延波に打ち消されるものと考えられている。ただし、万物理論を実用できるD・リッパーならば話は別だ。先進波だけを抽出し、電気信号として過去へ送り、神経電位を、すなわち思考を上書きすることが出来る。
「何故、思考操作の方法を貴様が知っている」
「
「謀りを、貴様は私の思考操作を無効に……」
「
「……まさか、D・リッパーの出所は、
「
人類史の終わりまでに、技術ツリーから言ってD・リッパーが完成することは無い。
解決策は簡単、
かつて、一番最初のMs.プレイ・ディスプレイは、未来において不完全なD・リッパーを作りあげた。不完全な状態でも、彼女のクラッキング能力と合わせて、
これこそがMs.プレイ・ディスプレイが精神崩壊した本当の理由。不完全なD・リッパーによる無理矢理な思考操作のせいで、過去の自分と未来の自分が送った知識が上手く合一出来なかった結果だ。しかし発狂しながらも、彼女は未来の自分が送ってきた知識に基づき、D・リッパー完成のために必要な資材・機具を集めるために行動した。そのための破壊活動や、時にはヒーローに資するような行動が、余人には支離滅裂な活動としか思われなかった。何せ彼女が作っているものは現行人類では決してたどり着けぬ技術ツリーの果ての極地、その目的が看破されることは無かったし、未来からの無理な思考操作で狂っているのも事実ではあったのだから。
無論、ただの一度のやり直しで完成するハズも無い。不完全なD・リッパーで再び過去の自分へと思考操作を行い、何度でも何度でもやり直す。十回、百回、千回、万回。D・リッパーが完成し、
かつて別次元からもたらされたD・リッパーも、その世界のMs.プレイ・ディスプレイが自身の命を引き換えにして過去へと自分の知識を送った後、その死体から回収された物だったということだ。
「
「……」
ここまで、わずかとも表情を動かさなかったギャラクセウスの、頬がわずかにヒクリと動く。
自分で自分の思考操作を受け続けているMs.プレイ・ディスプレイだから分かる。今ここに居るギャラクセウスは過去へと先進波を送っていない。ならば、思考操作をしているモノこそが、大元のギャラクセウス本体ということ。
「
「これから死ぬ者が知る必要は無い」
これ以上の発言は許さん、とばかりに言い捨てたギャラクセウスが腕を持ち上げるのと、
この地下空間の入口となる坑道からゴァアン!と轟音と共に土煙が吐き出されるのは同時だった。
「いよう待たせたな……お色直しに時間がかかっちまってなあ」
土煙から現れ出でたのは、オリエンタルな意匠を施された、妖しく薄く金色に光る鎧を纏ったカースドプリズンだった。その体躯は、ただでさえ常人を上回る偉丈夫だったのが、巨大な鎧のせいで二回りは大きくなっている。そのカースドプリズンをガラスの如き瞳で眇めつつ、ギャラクセウスは眉を顰める。
(見えない……?)
神たる己がかけた呪いによる鎧の、内部を透視できない。X線、赤外線、
「
「テメエの女を奪い返すのに理由が要るのかよ?」
「ッッッ!
「いいから安心して待ってろ、囚われの女とか百科事典作れるくらい救ってきたっつーの」
「
「急に流暢に喋るなぁ?!」
「……戯れ合いはもう十分か?」
馬鹿ップルに無視された形のギャラクセウスはようやく声をかけるも、カースドプリズンは大げさに驚いたようなリアクションで方を竦めて見せる。
「ああ、そういえば居たなギャラクセウス。だが無駄だ、何千年もかかってそのザマじゃあ、俺様には決して勝てやしねえ」
「その不遜、死をもって許そう。ひれ伏せ、【
明らかに先の意趣返しのカースドプリズンのセリフ。僅かに眉を顰めたギャラクセウスは、先と同じ重力の檻で押し潰さんとする。決して抗い得ぬ力を前に、いかなる者もひれ伏す以外の行動は許されない……ハズだ。
「おいおい、そんな使い古された手が通じると思ってんのか。脳味噌にカビでも生えてんじゃねえの?」
「……何だと?」
カースドプリズンは小揺るぎもせず平然と立っている。重力による干渉を無効化している?ありえない。プリズンブレイカーや、D・リッパーを使用している者ならばともかく、カースドプリズンは鎧によって囚われているのだ。鎧自体は『この宇宙』の物質である以上、重力操作は有効であるハズ。戸惑うギャラクセウスに対し、カースドプリズンは兜の中のドヤ顔が幻視できるような自慢げな声で告げる。
「悪いが今の俺様は
「どういう意味だ」
「この鎧には全体に
「……小賢しい」
ギャラクセウスは眉根を寄せる。意味の分からない妄言は無視するにしても、鎧そのものが干渉を無効化するという点は無視できない。このまま遠隔からの攻撃では埒が明かない。ならば直接接触で終わらせる。
「【
背後へと転移して、ガラ空きの背中に触れて電撃を流しこめば終わりだ。カースドプリズンの背後へと転移したギャラクセウスは、眼前にあるはずの鎧の背中へと手を伸ばそうとして――――
「
転移後の視界一杯に、鎧の
(転移を予測された?まぐれ当たりか?)
地面を転がりながらも、追撃を避けるために再度の転移。逃げるためのそれは、先程とは反対側に大きく離れた位置への転移で。なのに
「俺様の奢りだ、存分に土ペロしてくれ」
既にして眼前にはカースドプリズンの蹴りが迫っている。障壁の展開も、再転移も間に合わず再び地面を転がるギャラクセウス。空中浮遊で態勢を立て直すも、何が起こっているのか、まるで意味がわからない。
「何故、私の場所が……」
「
言ってカースドプリズンはコンコンと左手で兜の
「その義眼、クロックファイアの……」
「まるで使いこなせてなかったからな、俺様が貰ってやった。テメエの転移が空間を歪曲させてのショートカットか、それとも
クロックファイアの義眼は、視界に入った爆弾を任意に起爆でき、爆弾の位置も分かる。それは光情報、すなわち電磁波の送受信を行っているということだ。ならば未来から送信されてくる思考操作の先進波も、転移のための電子的揺らぎさえも視認できるということ。クロックファイアは爆弾にこだわるあまり見過ごしていたのか、無視していたのか。ともかく電磁視覚こそがこの義眼の窮極の能力。
「だが、見えたとて対応できるかは別の話。何故、その鈍重な鎧で私の転移に先回り出来る」
「鈍重?何言ってやがる。今俺様が纏っているコイツはな、ガンギマリパウダーやら
今現在ギャラクセウスとカースドプリズンが争っているこの地下空間で、かつてカースドプリズンが相対した、ギャラクセウスの消滅を目論んで未来からやって来たヴィランの名はリキシボーグ。肉体を機械の体に置換し、生物的限界を超越した未来のリキシオンである。その強さはプリズンブレイカーだけでなく、ミーティアス・ロックピッカーという三人がかりの戮力なくば倒せなかったほどの難敵だった。
リキシオンはその戦い以来、自らの到達できた可能性のひとつとして、錬金術ニンジャ
「さあ、想いを果たせよリキシボーグ!オマエの力で
「ちっ」
高速で踊りかかるカースドプリズンに対して、ギャラクセウスは今度は上空への転移で逃れる。空中までは跳びかかるにしても時間を稼げ―――
「アイツ風に言うなら、死神の
地上のカースドプリズンが呟くと同時、ぱんぱん、とカースドプリズンの腕部装甲から乾いた音が響くと、ギャラクセウスの体に穴が穿たれる。
「ぐっ、銃などで、我が神体が、何故……」
「地獄もテメエが創ったもんじゃ無えからだよ」
ギャラクセウスの体を襲ったのはダストの双銃が生み出す善悪の弾丸。地獄の悪魔がもらたす弾丸は防御力を無視して罪の重さでダメージを与えるが、悪魔が憑依したダストでなければ生み出せない。だからカースドプリズンはダストとの戦いでワザと大量の銃弾を撃たせるよう誘導した上で、ティンクルパウダーで空中に固定して銃弾を回収したのだ。後はクロックファイアの義眼で生み出す指向性爆弾を
「ゴボッ、このような、小細工……」
二度の打撃、そして銃撃でついにギャラクセウスが口から血……なのだろう、白い液体とも気体とも取れないものを溢す。その隙にカースドプリズンは
「ミーティアスの……私が与えた力まで」
「ごっつぁんです!美味しくいただきました!!」
先の闘いで賢者の石へと移し取ったミーティアスの星の力。空中に道を作る
そのまま空中のギャラクセウスへと飛び蹴りを叩きこむカースドプリズン。
「死にさらせェ!」
「もはや通じぬ」
しかし、蹴りが到達するより前に、カースドプリズンの体へと衝撃が走り、地面へと叩き落される。
「ぐっ……まあそう簡単にはいかないか」
周囲に視線を巡らすと、衝撃の正体は岩塊だった。ギャラクセウスは地下都市跡に散乱する巨大な岩を、電磁加速してカースドプリズンにぶつけたのである。ギャラクセウスからの重力を無効化出来ても、ギャラクセウスの力で加速された岩の運動エネルギーまで無効化できるわけではない。
「やはり貴様はまともに相手をすべきでは無い。数千年ぶりで忘れていたよ」
「おいおい耄碌してんなら大人しく首を出せよ。出さなくっても殺してやるが」
「【
瞬間、カースドプリズンを浮遊感が襲う。自分が浮かせられた、のではない。地面が周囲まるごと無くなって、下が大穴になったのだ。ならば消えた地面、というか岩盤はどこへ行ったのか?視線を転ずるまでもない、暗くなった視界が雄弁に語っている。大穴へと落下していくカースドプリズンの上空、空間全体を塞ぐように真上に浮遊する規格外質量。要するにあの
「な……っめんな!!」
こちとらなぁ! 牢獄にブチ込まれたままァ!ウン千年以上戦ってきたんだよ!
ミーティアスの力で空中ジャンプ、あえて下に落ちると、紅玉の義眼に命じる。
「
現れたのは巨大なバルーンのようなピエロ。これぞクロックファイアの
嗤い膨れて、大量の小型ピエロ爆弾を撒き散らす
それを上空の岩塊めがけて、全力で蹴り飛ばす。
「ハットトリックだオラァ!」
一撃で三発どこか数十発の爆弾を叩きこむ
そのまま岩盤は周囲ごとカースドプリズンを押し潰した。
「終わったか……最後に足掻いていたが、無駄だったようだな」
ギャラクセウスは、安堵の息を吐きながらひとりごちる。
(安堵?この私が?)
そのことに苛立ちを覚える。その苛立つという感情さえも不快で。
しかしそれ以上に不快な、ガガガガという破壊音が岩盤の下から連続して響き、落下して再び地面となった岩盤へと亀裂が広がっていく。
「まさか」
ギャラクセウスが思わず呟くより早く、亀裂から飛び出したのはカースドプリズン。その
「
「
ロックピッカーが
ギャラクセウスが戸惑う一瞬の隙にカースドプリズンは空中を一息で駆け上がると、既に四発を打ち出し終えた破城槌を背中から生えた三本目の腕と、さらに背中の装甲が展開・変形した四本目の隠し腕で構え、両手をフリーにしてギャラクセウスの両手を掴むと、五本目の杭を爆薬の炸裂と共にギャラクセウスの胸元へと叩き込む。
「天誅!」
「ゴボッ……その、うで」
「優劣を競うなら、腕の一本や二本、増やして当然だろ?」
そのまま絡まり合うように地面へと落下しつつ、カースドプリズンは重心の移動で自らが上になるとギャラクセウスを地面へと叩きつけた上で、最後の六本目の杭で完全に地面へと縫いとめる。
「標本の虫みたいに縫い付けられた気分はどうだ?」
「油断、だな。うかつに私に触れるとは」
ギャラクセウスは先程、直接接触での攻撃を転移を見切られて果たせなかった。しかし、今はカースドプリズンの方から接触している。密着状態での電撃は、いかなイレギュラーとて防げはしない。
「体内から焼き切れろ、【
雷、それは古来より神の御業と畏れられた超速フレームの上に喰らえば即死というリアルチート技。直接接触であればD・リッパーを持つMs.プレイ・ディスプレイでさえ防げなかった。さらに今度は気絶させるつもりの電撃ではない。完全に殺すつもりの最大威力。
だというのに、電撃が発生しない。
「残念、それも対策済みだ」
「なっ」
ならばとギャラクセウスは転移で逃れようとして、しかしカースドプリズンの
「ぐっ……」
「やっぱな。電波遮断物質を取り込んだ鎧で接触されると、テメエ能力を封じられるんだな?」
思えば、未明の戦いはおかしかった。重力で潰され、
「テメエが創った『この宇宙』ってのは、宇宙そのものじゃなくって、人類生存圏っつーか、認識宇宙なんじゃねえか?いわば『この宇宙』ってゲームのスクリプトを書いたのがテメエで、その物理エンジンの中でだけお前は全能ってことなんだろ?」
人類の認識では、『この宇宙』は、現在四つの基本相互作用から成り立つと考えられている。
即ち、電磁気力・重力・
ギャラクセウスは、自らが創りだした人類が「できる」と認識したことならば何でも出来る全能の存在。逆に言ってしまえば、ギャラクシーパワーという膨大なリソースを抱えていても、現実に出力するには人類が観測・承認するそれら四つの力を経由しなければ何も出来ない。
「その中で一番使い勝手のいい電磁気力を、電波遮断物質を取り込んだ俺様の鎧はすべて防いでしまう。だから夜中の戦いで俺様が
ギャラクセウスは逡巡した。重力ならばいまだに使えるが、押し潰せば自分ごと潰れるだけだし、逆に重力をカットしたところで鉄杭により地面に縫いとめられていては動きが取れない。
(何故このような、何故……)
不測の事態が立て続けに起きて、まるで人のように苛立っている。全人類の創造主、神たる己が。
ギャラクセウスは気づかない、対人戦の経験が無いが故に。ここまでの一連の流れ自体が全てカースドプリズンの手の内。対人戦の基本は初見殺しと選択肢の飽和だ。ワザと相手を苛立たせるような煽りを入れつつ、妖精郷の粉、紅玉の義眼、
次々と初見の事態をぶつけていって対応を飽和させ、相手に流れを作らせない。
「まあアレだ、テメエはもっと自分が創った人間と、面と向かって関わるべきだったな」
もしギャラクセウスがもっと対人戦の経験が豊富だったら、結果も違っていただろう。
ギャラクセウスの顔面を掴むカースドプリズンの左手、その鎧の指が
「
ラテン語の
「
弾丸が撃ち込まれた場所から光が溢れ、十字架の形となって屹立する。光が消えた後には、光となって崩れ行くギャラクセウスの残骸が僅かに残るのみ。その時、上空でMs.プレイ・ディスプレイを拘束していた鎖が落ち、同時にカースドプリズンの鎧がボロボロと崩れていく。神の力が、呪いが消え去ったということ、すなわち
「ハッハァー!
兜が崩れ、喜色満面の紅に輝く素顔が覗く。が、喜びも束の間、拘束の外れたMs.プレイ・ディスプレイが落下して来たのですぐさま二段ジャンプで迎えにいくと、横抱きに抱きとめる。
「言ったろ、安心して待ってろって」
「
「あん?」
「
「だが、それをどうにか出来るモンは用意してくれてんだろ?」
「……
「俺様のために、作ってくれたんだろ?D・リッパー」
「
Ms.プレイ・ディスプレイが、自分の命を犠牲にしてでも、過去の自分を発狂させてでもD・リッパーを完成させようとした本当の理由、最初の動機。それこそは、愛したカースドプリズンを救いたいという想いだった。
一番最初のMs.プレイ・ディスプレイが、どのような経緯でカースドプリズンを愛するに至ったかは、もはや彼女自身にすらわからない。ただ未来の自分から伝えられ続けるのは、D・リッパーの制作知識と、未来で死んでしまうカースドプリズンを救わなければならないという呪いめいた恋慕のみ。確かに、D・リッパーをイレギュラーたるカースドプリズンが使用すれば、ギャラクセウスが失われようともカースドプリズンの力だけで世界を保つことも、次元自体を再構築する事すら理論上では可能となる。しかしながら、ソレをやってしまえばカースドプリズンはより高次の存在へと移行
一次元が、より上位の次元を「点と線の集合」としか認識できないように。
二次元が、より上位の次元を「平面の集合」としか認識できないように。
およそ7~8次元より上の存在となってしまうカースドプリズンは、この三次元の認識宇宙に自分を再現しようとしても、その総体が収めきれなくなってしまう。それはもうこの世界の内側から居なくなるということだ。
「
愛されたいとすら願わない。ただ自分の愛したこの人に生きていて欲しい。神に願っても無駄ならば、自分が救うしかない。ただそれだけの想いで、人類史が終わるよりも長い、永い時を何度も何度もやり直し続けて来たのだ。嗚呼、体が生身で無くて良かった。もし今生身だったなら、自分の顔は涙でぐちゃぐちゃになっているだろうから。
Ms.プレイ・ディスプレイはもはや言葉を続けられず、涙も流さない異形の頭を俯かせるだけ。だと言うのにカースドプリズンは、その顎にあたる部分を優しく持ち上げると、ブラウン管の表面を、まるで涙が流れているかのようにそっと優しく掬って、言う。
「俺様なら何とでもなるさ、なにせ俺様だからな」
「……
「いいから信じろ……何よりもう、時間が無え」
そう言って持ち上げるカースドプリズンの手は、鎧の崩壊がどんどんと進んでいる。ギャラクセウスの呪いが完全に解けてしまえば、D・リッパーを吸収する能力自体が使えなくなる。そうすれば、この袋小路の世界はそもそも終わりだ。
「……
愛する者を犠牲にしなければ救えない世界なんて要らない。だから何度でもやり直す。何万回でも、何億回でも、何兆回でも。カースドプリズンを救えるまで、何度も、何度でも!
悲壮な決意と諦観を胸に、Ms.プレイ・ディスプレイはD・リッパーを起動する。今まで何度もやってきたように、自分の命と引き換えにして、再び過去の自分へと先進波を送るために。
「なら好きにしな。それまでこうして、抱き締めていてやるから」
「
「俺様はな、オマエのそういう誰に何を言われようとも馬鹿にされようとも、絶対に自分が
「―――ッ、
「ああ、知ってる」
それきり、二人は口を開かず、カースドプリズンは既に兜が崩れて露わになった唇で、Ms.プレイ・ディスプレイのブラウン管の
実際には感じることの無いその温もりを噛み締めながら、Ms.プレイ・ディスプレイはD・リッパーで己の命と精神の全てを先進波として変換し過去へと送ると、そのまま息を引き取った。
そして、温もりと命の消えた彼女の体を抱えたまま、カースドプリズンは
そして
◆
遥か未来、人類が死滅した後の地球。
空は真っ赤に染まっており、大地には草一本生えていない。
人だけでなく全ての生命が払底した世界にただ一人、佇む白皙のおぼろな人影。
ガラスのごとき透き通った白き瞳は、何処か遠く、時間の彼方を見るようで。
「みぃーつけた、テメエが本体だな
余人が存在しないハズの世界で、最後に残ったギャラクセウスへと声をかける、緋色に輝く長身痩躯の男。D・リッパーによって高次の存在となった、かつてカースドプリズンとも、プリズンブレイカーとも呼ばれた男。彼自身は今はカースド・プリズン・ブレイカーを名乗っている。
それに驚くこともなく、ギャラクセウスは微笑すら浮かべて見せた。
「ようやく来たか。遅かったな……いや、むしろ早かったな
「俺様が
「いいや、それが事実だ。君の存在が宇宙を救う」
「こんな世界で、過去の人類操って神様気取りの奴が何言ってやがる」
「もっと大きな話だ。深淵にて微睡む混沌、盲目にして白痴のアレが目覚めれば、その瞬間この宇宙は終わりだ。その時までに私は力を蓄えなければならない」
ギャラクセウスは他者から「できる」と観測されたことならば膨大なギャラクシーパワーで何でもできる。だからこそ人類を生み出し、それが最大限繁栄するよう介入した。この最も長く生きた、最後のギャラクセウスが過去へと先進波で干渉することによって。それでもここが終点、ここにいるギャラクセウスは、この瞬間のみ全ての平行世界を通じて最も力を増したギャラクセウス。人類史に決して観測されることのない
「人類はここが限界だ。だから私はその中から君のような存在が生まれ出でるのを待っていたのだ。強烈な自我で、ただ一人の観測だけで全てを決定づけられるイレギュラーな存在を。だからこそ過去に君を殺さず封印し、試練を与えた。この私にまでたどり着ける存在となれるように。そうして君はたどり着いてくれた。君が観測し、私が世界を創る。これで私と君は永遠の存在となるのだ」
そう言って、ギャラクセウスはカースド・プリズン・ブレイカーへと手を差し出す。
しかし、カースド・プリズン・ブレイカーは冷ややかに見るだけでその手を取らず、呆れたように肩をすくめる。
「で、今度こそ俺様を生かさず殺さずで封印して、テメエを観測し続ける装置にしようってんだろ?俺様には未来の可能性の分岐も観測出来てんだ。教えといてやるが、ここでテメエに協力しても、最後は『混沌』に飲まれるだけだぜ」
「……ならば仕方ない。貴様の言う通り、力づくで封印させてもらおう」
ギャラクセウスが笑顔を消すと同時、生きとし生けるモノ全てが死に絶えた世界に、ゆらゆらとした人影が現れはじめる。
「今の私は消滅までの間だけ、観測者の拘束なしに力を振るえる。私と貴様が共通に観測できた者ならば、すべて再現できる……この数と私を相手にしては、貴様とてどうにもならんぞ」
荒れ果てた大地へと現れるヒーロー、ヴィラン、聖人、魔女、天使、悪魔憑き、鬼、ドラゴン、吸血鬼、ゴーレム、獣人、地球外生命、拳法家、暗殺者、海賊、詩人、探偵、武将、ニンジャ。かつて
「かつての私は貴様の経験に敗れたが、此度は貴様の経験が貴様の敗因だ」
既に勝利を確信したギャラクセウスに対し、カースド・プリズン・ブレイカーは「はぁあ~~」と大げさな溜息をつく。
「テメエ本当に分かってねえんだな。ボスラッシュならぬ雑魚ラッシュで俺様がどうこう出来るわけねえだろうが」
「強がりを」
「ま、最後だし俺様もテメエの敗因を教えておいてやる」
そう言ってカースド・プリズン・ブレイカーは全身を撓ませる。彼はギャラクセウスを殺すために来たのだ、この時の果てまで。
何故?
人間を弄ぶ神だから?
否。
「テメェが俺様の女を泣かせたからだァ!」
そして、人の死に絶えた世界で、緋色の閃光と、神威の白光とがせめぎ合い――――
そして
カースド・プリズン・ブレイカーvsギャラクセウス・
決まり手はカースド・プリズン・ブレイカーの