自分がツインテールの可愛い女の子だと妄想して日々の出来事を日記に書いていたら、転生して本当にツインテールの可愛い女の子になってしまった件 作:とんこつラーメン
緒理香の出番は殆どありません。
緒理香の専用機の試運転が終わった後。
保健室で少し休憩をしたのちに、自室に帰ってからベッドにてスヤスヤと熟睡していた。
そんな緒理香の傍で寝顔を見ているのは、彼女の幼馴染にしてルームメイトでもある箒。
実は箒が千冬に頼まれて、緒理香を部屋まで運んできたのだ。
「すー…すー…」
穏やかな寝息を立てている緒理香の頭をそっと撫でながら、箒はさっきアリーナで見た光景を思い出していた。
(まさか、緒理香にあんな才能が隠れていたとは思わなかったな……。昔から、私や一夏と一緒に道場には来ていたが、ずっと端の方で見学ばかりをしていたからな。いや、それもある意味では見稽古にはなっていたのか? まぁ、それはそれとして……)
緒理香が寝返りを打ったことで掛け布団が少しだけずれてしまったので、彼女を起こさないようにしながら、静かに掛け直した。
(緒理香がステージで剣舞を披露していた時から、ずっと気になっていた。どこかで見たことがあるような体捌きや剣筋。ずっとその動きが何だったのか思い出せず、まるで魚の骨が喉に刺さったかのようなもどかしさを感じていたが、今になってやっと思い出した)
ふと、箒は自分のカバンからはみ出している自分の竹刀に目を向けた。
(あの緒理香の動き、あれは……
再び、寝ている緒理香の方を向く。
ついさっきまで、あれ程の鬼気迫る剣技を披露していたとは思えないほどに、可愛らしい寝顔を見せている。
(自己流のアレンジが入ってはいたが、所々に篠ノ之流の技術が見え隠れしていた。確かに、緒理香は千冬さんの剣を間近で見たこともあるし、篠ノ之流の事もそれなりには知っている。だが、それでもあれ程の腕前になるものなのか?)
色々と考えているうちに、箒はある可能性に辿り着く。
(いや…待てよ? 緒理香は姉さんと一緒に暮らしていたんじゃないか。だとしたら、姉さんから篠ノ之流剣術を習っていた可能性は高い。インドア派に見えて、姉さんの剣の腕は千冬さんに匹敵するからな)
自分の中で疑問が氷解すると、途端に難しい顔が消え、掛け布団からはみ出している緒理香の手をそっと握った。
(きっと、姉さんに剣を習うことで一気に緒理香の才能が開花したに違いない。緒理香なら十分に有り得る話だ。だが、あの試運転が終わった直後のアリーナはすごい盛り上がりだったな……。歓声が凄すぎて、まるで何かの祭りのクライマックスのようだったぞ……)
どうやら、見た目の可愛さとISに乗った時の凛々しさのギャップが年頃の女子高生たちの心にダイレクトヒットしたようで、一気にそのファン数を増やした。
本人は全くその自覚は無いが。
「だが、心配は無いぞ。例え、誰が何を言おうとも、私だけは何があっても緒理香の味方であり、ずっと傍に居続けてやる。緒理香は私と姉さんを本当の意味で繋げてくれただけでなく、家族とも再び一緒にしてくれたからな……」
決意と慈しみを秘めた箒の目には、もう何の曇りもない。
ただ、己がやるべきだと決めた事をやるだけだ。
この後、箒は誰も見ていないのをいい事に、しれっと緒理香のベッドに潜り込んで添い寝をした。
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部屋に戻ったセシリアは、すぐに服を脱いでからシャワー室へと入っていった。
別に汗を掻いた訳でもなく、かといって体が汚れたわけでもない。
緒理香の戦いを見て、昂ってしまった自分の中の『炎』を少しでも落ち着かせるためだった。
セシリアが代表候補生に上り詰めたと同時に彼女の中に生まれた、一人の『戦士』としての『闘志』。
緒理香の戦いっぷりが『淑女』としてのセシリアを奥に引っ込ませて、『戦士』としてのセシリアを引きずり出してしまった。
(なんて……なんて雄々しくて……美しかったのでしょう……。あの剣捌きは正しく疾風。風の剣と言っても過言じゃなかった……。あぁ……あぁっ! なんということかしら! あんなにも可愛らしい、あんなにも慈しみたいと思っている緒理香さんと、私は心から戦いたいと思っている! 全身全霊をかけて、心行くまでお互いの力と力をぶつけ合いたいと願ってしまっている!)
別に、闘争本能自体は否定される事も卑下される事もない。
人間も生物である以上は、闘争心ぐらいは誰もが当たり前のように持っているものだ。
だが、世の中にはその『闘争心』が人並み以上に高い人間も存在している。
普段から『お嬢様』として振る舞っているセシリアも、実はそんな人間たちの一人だった。
幼い頃に事故で両親を亡くして以降、彼女はずっと親との思い出が詰まった家を守るために必死に頑張ってきた。
その過程で様々なトラブルにも見舞われたが、それらを全て自分の頭脳と知り合い達の助力で乗り切ってきた。
自分自身の力をつけるという意味で、セシリアはフェンシングを初めとする『相手と競う競技』にのめり込んでいった。
そんな時に現れた『IS』という存在。
勿論、彼女はすぐにISの適性検査を受け、それにより非常に高い値を出し、そのままISの世界へと入っていった。
過酷な訓練を乗り越えていく内に、セシリアの中にある『炎』は少しずつ大きくなっていき、彼女が代表候補生となって専用機を受領した時に最大となる。
そして知った。自分もまた一人の『戦士』だったのだと。
誰かと戦うことを至上の喜びとする人種なのだと。
(どうしましょう……私の心の中が緒理香さんで埋め尽くされてしまいましたわ……。入学式の時に緒理香さんを初めて見た時に感じたトキメキは間違いじゃなかった……! 緒理香さんこそが、私がずっと探し求めてきた理想の人物……♡)
いつまで経っても体の火照りが消えない。
それどころか、緒理香の事を考えれば考える程に、自分の体が燃え上がっていくようだ。
「緒理香さん……私は……貴女の事が……♡」
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試運転が終了した後、生徒会メンバーは生徒会室へと戻ってきていた。
だが、彼女たちの間にはいつもような楽しげな会話は一切なく、静かで重苦しい空気だけが流れている。
あの明るい本音でさえ、今は沈んだ表情で沈黙を貫いていた。
「あれが緒理香ちゃんの本性……なのかしらね……」
「そんなことない!」
「本音……?」
いつもの本音では絶対に出さない叫び声。
その痛々しい声を聞いて、流石の楯無も冗談を言う気は無かった。
「確かにおりりんは少しツンツンしてる所もあるけど…でも…でも……本当はとっても優しくて、可愛い女の子なんだもん! それはかいちょーもお姉ちゃんも知ってるでしょっ!?」
本音の必死の訴えに、上級生二人は目を伏せた。
「そうね……あんなにも美味しそうに紅茶を飲んで、ケーキを食べていた子を疑うなんて、どうかしてるわね……」
「……今のは完全に私の失言だったわ……ごめんなさい」
まだ少しだけの付き合いだが、それでも彼女たちは知っている。
莱鞭緒理香という少女は、自分の背の事や胸の事なんかを人並みに気にして、甘い物には目がない、どこにでもいる普通の少女であることを。
「図らずも、今回の事を多くの生徒達が目撃したせいで、確実に生徒達の中で彼女に対する態度の変化が出るでしょうね」
「そればかりは致し方がないかと。あれ程の光景を自分の目で見てしまえば、誰もが何かを思うでしょうし」
「そうね。けど、私達だけはいつもと変わらない感じで接しましょう。同じ生徒会の仲間として」
「そうですね」
「うん!」
流された形で生徒会へと入った緒理香ではあったが、その選択は間違いではなかったようだ。
少なくとも、ここで彼女は大切な理解者を得たのだから。
(もう緒理香ちゃんの事を疑うのは止めにしよう。これからは、あの子の事を守るために、あの子の事を調べるんだ……!)
密かに楯無が決意を固める中、本音もまた別の事を考えていた。
(あの時のおりりん…なんだか、ISを動かしてるってよりも、
普通なら一笑に付すような考えだが、ISに限ってはそうではない。
近年の研究により、ISのコアには何らかの『意志』のようなものがあるとされている。
だから、本音の考えた事は一概に間違いとは言い切れないのだ。
(どうか…今だけはいい夢を……緒理香さん)
そう願わずにはいられない虚であった。
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その日の夜。
千冬は自分の部屋で電話をしていた。
「あれはどういう事なんだ……!」
『あれって?』
「とぼけるな! 見ていなかったとは言わせんぞ! 束!!」
通話相手は束だった。
だが、その会話内容はお世辞にも親友同士の穏やかなものではない。
「あの動きも十分に驚いたが、それは今はどうでもいい。けどな、アレだけは誤魔化しようがない!」
いつもの冷静な千冬ではなくなり、感情的に激昂していた。
普段の彼女を知っている者が見れば、驚きの余りに立ち尽くすかもしれない。
「他の連中は見逃していたが、私だけは見ていた。緒理香は…
『っぽいね。私もずっと『切っ掛け』を探していたけど、まさか『兵器を触る』ことがスイッチになってるとは思わなかったな~』
「切っ掛け…? スイッチ…? お前は何を言っているっ!?」
『でも、お蔭で安心したかな』
「なに……?」
『あの時、おーちゃんは白式を纏ってもゾーンには入らなかった。でも、雪片を握りしめた瞬間、突如としてゾーンへと入った。それってつまり、おーちゃんが身を挺して証明してくれたってことだよね?
「お前は……」
電話の向こうの束は、とても穏やかで晴れ晴れとした口調だった。
まるで、今まで解けなかった問題が解けた学生のように。
「お前は何を知っている! 何を言っているんだ!」
『ねぇ……ちーちゃん』
「……なんだ」
『ちーちゃんはさ、おーちゃんの事をどんな風に思ってる?』
「決まっている。緒理香は私にとって掛け替えのない存在だ」
『それじゃあ……ダメだね。全然ダメダメ。
「なん…だと……?」
『私はね、おーちゃんの為なら全世界を敵に回しても、全人類を敵に回しても構わない。私にとって、おーちゃんはそれだけの価値があるし、それだけの決意と覚悟が私にはある。ちーちゃんはどう? それだけの覚悟がある? おーちゃんの為なら全てを敵に回す覚悟があるの?』
「それは……」
『この際だからハッキリと言うけど、
「……なんで…お前はそこまで……」
『おーちゃんにはそれだけの価値があり、この世の誰よりも幸せになる資格がある。だって……あの子は……』
「あの子は……?」
『ううん。なんでもない。
そこまで言われて、初めて千冬は沈黙した。
だが、すぐに顔を上げて虚空を睨み付ける。
「お前の思惑は分らないが、これだけは言っておく」
『なにかな?』
「私はこれからも、今までと同様に緒理香の傍に居続ける。例え、何があろうとも緒理香から離れるつもりはない! 自分でも詳しく説明出来ないが、私の中の『何か』が叫んでいるんだ。緒理香が大切な存在だと。緒理香の事を守りたいと!」
『……そう。なら、私に見せてよ。ちーちゃんなりの『覚悟』ってやつをさ』
「あぁ……存分に見ればいいさ。そして、いつの日か必ず聞かせて貰うぞ。お前が知っている緒理香の『全て』をな」
『いいよ。
「変化……」
『んじゃ、おやすみ。おーちゃんと箒ちゃんの事、よろしくね』
通話が切れ、電子音だけが耳に響く。
携帯をベッドの上に投げて、テーブルの上にある缶ビールを自分のおでこにくっつける。
「覚悟ってなんなんだ……。お前の過去には何があるっていうんだ……緒理香…」
そう呟きながら携帯の壁紙を見る。
そこには、楽しそうに笑っている中学時代の制服を着た緒理香がいた。
今回はシリアス一直線でした。
次回からはまたシリアルに戻るかも?