自分がツインテールの可愛い女の子だと妄想して日々の出来事を日記に書いていたら、転生して本当にツインテールの可愛い女の子になってしまった件 作:とんこつラーメン
けど、意味合いは大きく異なります。
土煙の中から飛び出してきた緒理香が、凄まじい速度で接近し、そのまま雪片の刃を振り下ろそうとした瞬間、アリーナ全体が大きく振動し、それと同時に『ナニか』がアリーナのシールドバリアーを突き破ってステージへと落下してきた。
「「!!?」」
余りにも突然の事で、鈴も緒理香も驚きながら落下物が落ちてきた場所に視線を向ける。
鈴は何が起きたのか分らずに混乱し、一方の緒理香は言葉に出来ない不可思議な感覚がして、咄嗟に振り下ろしかけた刃の向きを変えて、そのまま鈴を追い抜いてから彼女を庇うように背にしながら、二人目掛けて飛んできた紅蓮の光線らしきものを切り裂いた。
「お…緒理香っ!?」
「なに…これは……」
それは、謎の存在に対して言ったものではなく、自分が感じた感覚に対して放たれた言葉だった。
だがしかし、そんな彼女の心境なんて知る由もない周りは、謎の乱入者に対して言ったのだと勘違いをする。
「なんなのよ一体……って、緒理香?」
「鈴……ちょっとだけ下がってて……」
「う…うん」
普段は見せない緒理香の迫力に圧され、鈴は素直に従った。
それを確認してから緒理香は、いきなり大きく叫んだ。
「……来い!!」
その叫びに呼応するかのように、さっき鈴にガードされて弾かれて地面に転がっていた鞘が飛来して、そのまま真っ直ぐに雪片の刀身に収まった。
「え…え? その鞘って、ビット兵器的な物なの?」
「うんにゃ。なんか試しに呼んでみたら勝手に飛んできた」
「なによそれ……」
『なんか』で、あんな芸当が出来てたまるか。
本当はそう叫びたかったが、状況が状況なので、ここは流石に黙っておいた。
「けど……いきなり何なのかしら……」
「さぁね……それは、相手さんに聞いてみれば分かるんじゃないか…な!!」
力任せに雪片を横に振ると、一気に周囲を覆っていた土煙が消え去った。
その中から出現した者。それは……。
「な…なに…あれ……」
「……………」
異形。
そうとしか表現できない物体が、其処に立っていた。
パッと見はISのようだが、大半の物が知っているISとは色々な部分が大きく違った。
異常なまでに伸びた巨大な腕。それだけで、人型とは言い難い。
頭部にはカメラアイとして真紅の複眼がある。それはまるで昆虫のように。
辛うじて人型を保ってはいるが、あくまで『人型』であり、これを『ヒト』と定義する者は何処にもいないだろう。これは『人型』というよりは、『ヒトを取り込んだナニか』と表現した方が正しいかもしれない。
その姿、その威容だけで他者を畏怖させ、戦意を削ぐ。
「黒い…悪魔……」
思わず鈴が呟いた言葉こそが、この場における皆の心境の全てを代弁していた。
「ねぇ……ちょっと待ってよ」
「どうしたの?」
「あれってIS…なのよね……?」
「多分…ね」
「だとしたら……なんで……」
冷や汗を流しながら、鈴は震える唇を必死に動かして言葉を出す。
「なんで……アイツから
「反応が…ない…?」
鈴に指摘され、緒理香も白式のハイパーセンサーを初めとした各種センサーで確認してみる。
すると、驚愕の事実が表示されていた。
「なん…だと…!?」
コア反応…無し。
生体反応…無し。
各種反応、一切検知出来ず。
「これは……どういう事なのさ……!?」
あろうことか、ISのセンサーの全てが眼前にある謎の物体の存在を全否定していた。
目の前には何もない。ここにある物体は『白式』と『甲龍』だけだ。
そう語っていたのだ。
「目には見えているのに…確かに地面を踏みしめているのに…
本当は、もっと色々と考察をして確認したい。
けれど、意志持たぬ鋼鉄の塊は、そんな暇も隙も与えてはくれなかった。
「背部ブースターを吹かし始めたっ!? 鈴! 急いでここから離脱を……」
「緒理香! 前!!」
「え……?」
その異形は、恐るべき速度を持って一瞬で間合いを詰め、一直線に緒理香に向かって突撃してきた。
紅の複眼に反射して映った自分の顔を見た時、緒理香は生まれて初めて生理的嫌悪というものを味わった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
突如として上空から落下してきた謎の物体。
緒理香の剣の一振りにて、それがISらしき者であることが判明した頃。
その光景を見ていた観客席もまた混乱し、まるで嵐の前の静けさのように静まり返っていた。
「おい…セシリア……」
「なんですの……?」
「あれは…IS…なのか…?」
「見た目的にはそう見えますけど……」
緊急事態という事で、セシリアはティアーズの頭部センサーだけを部分展開して、ステージに降りてきた存在を調べていた。
だが、その顔色はお世辞にも優れているとは言えない。
「あれからはISコアの反応は愚か、熱反応や生体反応すら検知してませんわ……」
「それって…あれには人間が乗ってないって事なの……セッシー…?」
「それどころじゃありませんわ…本音さん。全てのセンサーが『
「「!!?」」
言っている自分でも信じられないセシリア。
だが、それでも事実なのだ。
物質的には確かに存在はしているし、こうして見る事も出来る。
けれど、そこには誰もいない。
「今はまだ、状況把握が上手く出来ていないせいで、これといった混乱は起きていないようですけど……」
「それも時間の問題だろうな。この状況は云わば、破裂寸前の風船だ。何が切っ掛けとなって決壊するか分らないぞ……」
思わず立ち上がり、ステージにいる緒理香と鈴の二人に注目する箒とセシリアとい本音。
他の生徒達も、何事かと思って立ち上がって状況を見守っていた。
「にしても、なんて不気味な姿なんだ……。あれではまるで、ISというよりは物の怪の類じゃないか……」
「箒さんの仰る通りですわね。私も、あれはISというよりはモンスターと言われた方がしっくりと来ますわ……」
「……っ!? 二人とも! アレが動くよ!」
いきなり腰を低くしたかと思うと、背部にあるブースターに火を入れた。
その無機質な視線は何処を向いているのか。
「と…飛ぶ気ですわ!」
「奴の狙いはまさか……!」
箒の危惧通り、黒い鋼の物の怪は一直線に緒理香へと突貫していった。
その速度は通常のISは愚か、並の専用機のスピードすら軽く凌駕していた。
「緒理香!! 避けろ!!」
「緒理香さん!!」
「おりりん!!」
三人の必死の叫びも虚しく、緒理香はその巨大な両腕に組み付かれ、その場にいた鈴を置き去りにする形で無理矢理押され、アリーナの壁に激しく激突した。
それが切っ掛けとなり、遂に生徒達の緊張が破裂した。
「「「「「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」」」」」
生徒達は我先にとアリーナの入り口に殺到し、一気に場が混乱の渦に包まれた。
こうなる事を予想していた箒達は、巻き込まれないように端の方に移動していた。
「案の定か……!」
「クッ…! 箒さん! 本音さん! 私達も早く避難しますわよ!」
セシリアが箒の腕を引っ張って移動させようとするが、彼女の体はビクともしなかった。
「悪いがセシリア……私は避難しない」
「いきなり何を言って……」
「あそこを見ろ」
箒が視線を向けた先には、黒い機体の怪力に必死に抗おうと、全力で相手の体を押し出そうとしている緒理香の姿があった。
思い切り歯を食い縛り、彼女がどれだけの力を込めているのかが一発で分かる。
「緒理香は逃げようとしていない。あんなにも小さな体で、あいつは皆が逃げ出すような相手に立ち向かっているんだ! それなのに、あいつの事を好いている私が逃げるわけにはいかないだろう!」
「でも! 緒理香さんは貴女が危険に晒される事を望んでは!」
「分かっている! これは完全に私の我儘だ! だが! なんと言われようとも! 目だけは逸らしたくないんだ!」
そう叫ぶ箒の顔は今にも泣きそうで、彼女もまた必死には歯を食い縛っているのが分った。
「本当は私だって、怖くて怖くて仕方ないさ……。ほら、見てくれ……さっきから手が震えて、脚もブルブルが止まらないんだ……」
「箒さん……」
「だが、あそこで戦っている緒理香は、私達以上に怖い思いをしている筈だ! ここで我が身可愛さに逃げたりしたら、私は必ず後悔する!」
恐怖に負けるのはいい。泣くもの良いだろう。
だが、自分にだけは何があっても負けるわけにはいかない。
「……分りましたわ」
「セシリア……?」
盛大な溜息を吐きながらセシリアは徐にISを展開し、箒の傍に近寄った。
「箒さんの事は私が必ず守ってみせます。だから、好きなだけここにいるといいですわ」
「…ありがとう」
「礼には及びません。私も緒理香さんをお慕いしている身。想い人が戦場に赴いているのに、一人だけ逃げたとあっては英国貴族の名折れ。ノブレス・オブリージュを体現する身として、最後まで引くわけにはいきません!」
「ふっ……お前もそんな顔が出来たんだな」
普段の優雅さは何処へやら。
今のセシリアは誰が見ても立派な『戦士』の顔をしていた。
「そんな訳ですから、本音さんだけでも先にお逃げになって……」
「ううん。私も一緒にいるよ」
「…いいのか?」
「うん。今の自分に出来る事なんてこれぐらいしかないし、それに……」
二人の方を向き、いつもののんびりとした表情から一変、真剣な顔でハッキリと言った。
「私も、おりりんの事が大好きだから」
「本音……」
「本音さん……」
強力なライバルがまた一人誕生した。
けれど、それは決して不愉快ではない。
寧ろ、歓迎すべきライバルだった。
「ならば、このセシリア・オルコットが、代表候補生の名に懸けて、必ずやお二人の事を守り抜いて見せますわ!」
「頼りにしてるぞ」
「えぇ!」
恋する少女達の精一杯の勇気。
その行動が逃げ惑う生徒達の動きを止め、途端に彼女達の心を冷静にした。
避難誘導している教師も、その事に驚きを隠せなかった。
「そう…だよね……」
「緒理香ちゃんが頑張ってるのに、私達だけ逃げて……」
「私達…めっちゃカッコ悪いなぁ……」
「だったら……!」
「うん!」
いきなり生徒達が元の場所まで戻ったかと思ったら、いきなり全員揃って叫びだした。
「「「「「緒理香ちゃん!! 頑張れ―――――――――!!!」」」」」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一方、管制室にいる千冬と真耶の方も謎の乱入者の出現に戸惑いを隠せないでいた。
「緒理香!! クソっ…なんなんだ奴はっ!? 山田先生!」
「どれだけ分析しても、なんの反応も出ません! 全てのセンサーが『何もいない』と言っているんです!」
「そんな馬鹿な事があるか! 現に今、私達の目の前にある画面に映って緒理香たちに襲い掛かっているじゃないか!」
「分かってます! 分かってますけど、どれだけやっても答えは同じなんです!」
「おのれ……!」
緒理香と鈴の試合に突如として介入してきた謎の存在。
しかも、なんでか奴は緒理香だけを目の敵にして掛かってきた。
「莱鞭さん!! 凰さん!! 聞こえますかっ!? 返事をしてください!」
真耶も必死に通信越しに二人に呼び掛けるが、それだけやっても帰ってくるのはノイズ音だけ。
何も出来ない事に歯痒さを感じていると、それ以上に自体が襲い掛かってきた。
「こうなったら、私がISで出る!!」
「残念ながら…それは出来そうにありません……」
「なんだって?」
「恐らくは、あのISの仕業と思われますが…次々とアリーナ内の隔壁が閉じていってるんです!」
「ハッキングかっ!?」
「だと思います! けれど、少し不可解なことが……」
「不可解な事?」
「はい。こちらからステージに行く道や、格納庫に続く道は全て封鎖しているのに、なんでか避難経路だけは一切封鎖せずに、そのまま開けているんです」
「逃げ道だけは作って、介入することは許さないと…そう言うつもりか…?」
相手の企みが全く予想できない。
分かっているのは、今の自分達は悲しい程に無力で、あの場にいる緒理香と鈴に全てを託すしかないという事だ。
「あ…れ? 逃げようとしていた生徒達が……」
「今度はどうした?」
「い…いえ。生徒達の混乱が急に止んで、皆で一斉に緒理香さんの事を応援し始めてるんです」
「応援…だと…!?」
真耶の言う通り、モニターを見てみると、そこには必死に声を出して緒理香を鼓舞する声が轟いていた。
「あの機体はなんでか観客席には一切危害を加えていないから、今はまだ大丈夫だけど……」
「いつ、奴が周りに牙を剥くか分らないというのに…あいつらは……」
教師としては怒るべき場面なのだろうが、千冬と真耶の顔は不思議と笑っていた。
「全員揃って、後で反省文だな」
「あはは……」
ご愁傷様と心の中で憐れむが、すぐに気持ちを切り替えてモニターに視線を向けて真耶は両手を合わせて祈るように緒理香に聞こえない応援を送る。
「頑張ってください……緒理香ちゃん……!」
目の前で謎の脅威と必死に戦う想い人の少女に、千冬もまたエールを送る。
(これだけ多くの人々がお前の事を応援しているんだ…! お前は決して一人じゃない。だから……)
「負けるなよ……緒理香……!」
次回、決着。
無人機だけど無人機じゃない。
そこにはいるけど、そこにはいない。
これ、な~んだ?