園子と友達になった翌日。また学校で会おうと約束したのだが。
園子が何組にいるのか分からず困っている。
銀なら知ってそうだと思って聞こうとしたのだが、まだ登校してきていない。銀ってたまに遅刻したりするけど、朝起きれなかったりするのだろうか。
そんな訳で銀に頼ることはできないため、近くで話していた男子二人に聞いてみることにする。話しを聞くだけなら銀じゃなければいけないということはないしな。
「なー、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
クラスのほとんどの男子とは休み時間などで一緒に遊んだり話したりしたことがあるため気軽に話しかけれるのだ。ふはは、俺の交流関係は結構進んでいるのだ!
「お、高嶋か」
「おはよう」
「おはよう、突然で悪いんだけどさ、同級生で乃木さんって何組にいるか知ってる?」
軽く挨拶を済ませて質問をすると驚いたような顔をされた。別におかしなことは聞いてないよな?
二人は顔を数秒見合わせると、ちょっとこっちに近づいてきてと手招きをされたのでそれに従い教室の端っこに移動する。なんか内緒の作戦会議みたいでちょっとわくわくする。
「高嶋は乃木のこと知らないのか?」
声を潜めながら怪訝そうな顔で聞かれる。
ん〜どうなんだろ。全く知らないって言ったら嘘になるけど、知っているかと聞かれると分からない。昨日友達になったばかり、というより会ったのも昨日が初めてなので当たり前なのだろう。
「"まだ知らない"、かな」
多分この答えが正しい。
だからこそ、これから会いに行こうとしているのだ。俺は園子のことをもっと知りたいのだ。友達になったんだから仲良くしたいよな。そのことを二人に言おうとしたのだが、それよりも先にクラスメイトの口が動いた。
「なら教えといてやる。乃木とは関わらない方がいいぜ」
俺の思いとは裏腹に、冷たい言葉を告げられた。
「……え、な、なんで?」
思わずクラスメートに対して疑問の声が出てしまう。関わらない方がいい? なんでそんなことを言うのだろう……何か訳があるのかと思い理由を聞いてみる。なにか勘違いが発生しているとかそんな感じか?
「乃木さんって何考えてるか分からないんだよ。三年生で同じクラスになったことがあったけど、いつも一人で寝てるかボーッとしている印象が強いね」
「一言で表すなら
「確かに
そんなこと? 俺だって授業中ボーっとしたりすることあるけどなあ。
……あれ? 俺も変なやつってことになるのか?
でも園子は────
(あ……)
二人の言うことに心当たりを感じる。それもそのはずだろう。
俺は園子が昨日言っていたことをすっかり忘れてしまっていた。
頭の中から抜けてしまっていた記憶が今になって呼び戻されていく。
『私ってね他の子と違って変な子らしいんだぁ〜』
どこか寂しそうな顔で言っていた。
……今になってあの言葉に込められた重みを少し理解することができたような気がした。
「だから高嶋も不用意に近づかない方がいいぜ、もしも機嫌を損ねたりしたら何されるか分からないぜ。乃木には先生ですら強く出れないって言われてるから」
「偉い家だけあってほんとにありそうだから怖いよな」
会話の最後に「乃木さんは三組にいるはずだから、用があるなら気をつけて」と言われた。
二人と分かれた後、俺は自分の席へと戻った。
きっと二人は俺のことを心配して言ってくれたのだろう。それに関してはきちんとお礼を伝えた。こんな内容じゃなかったら今頃嬉しい気分になってはしゃいでいたに違いない。
しかし今の内心は後悔でいっぱいだった。もちろん園子と友達になったことに対してじゃない。二人の話しがどこまで本当なのかは分からないし、もしかしたら誰かがでっち上げた嘘の可能性だって十分にあり得る。というより普通に信じられない。だって、俺は園子が面白い子だということを知っているし……自分に友達ができたことを喜ぶ子がそんなひどいことをする訳が無い。
だけど……
園子はどうだったのかな……?
先ほどの二人の会話を思い出す。みんなと違うから、家が偉いからという理由で学校のみんなからは少なからず疎まれているとしたら……
それはどれだけ辛いことなのだろうか。
人事のようだと言われれば、きっとその通りなのだろう。
俺には前の学校でも普通に友達がいたし、先生だって普通に接してくれていた。神樹館に来た今だってそう。だから、ずっと一人きりだった園子の気持ちが分かるなんて無責任なことは言えない。
『乃木園子さん、俺と友達になってくれませんか?』
あの時の俺はそんな園子の気持ちを少しでも考えていたのだろうか?
ただ友達になりたいから、仲良くしたいからという自分のことばかりでその後のことは……何も考えていなかったのではないか?
さっきだって二人の話しを聞くまで忘れていたのだから……それが確たる証拠なのだろう。
マイナスにマイナスなことが重なりおかしなことまで考えてしまう自分がいた。
もし、
そうなっていたらどうだっただろう。俺は二人の言うことを真に受けていたかもしれない。園子に対して自分も同じで、ありもしないようなひどいことを考えていたのではないだろうか?
(……そんな俺が、園子の友達になる資格があるのかな?)
「セーフ! 間に合ったぁー!」
そんな風に思い耽っているといつの間にか銀が学校に登校してきたらしい。
「三ノ輪、今日は遅刻しなかったんだな」
「アタシがいつも遅刻してるみたいに言うんじゃなーい!」
銀の反論を聞きみんなが笑い出す。
きっと銀みたいな子は人から好かれるタイプなのだろう。
明るくて元気があって、誰とでも仲良くできるような子だから。
「おはよう優士……って何かあった? 」
元気が無くないか、と銀に指摘されてしまった。
「いや別に……ちょっと、ね」
図星をつかれたためかはっきりしない応答をしてしまい、銀にも少し気になる様子を見せてしまった。
「何かいつもの優士らしくないぞ?」
「いつもの俺?」
うんうんと頷かれるのだが……俺らしさってなんだろ?
よく分からないので銀に尋ねてみる。
「そうだなぁ……馬鹿で元気が良くて、よく先生に怒られて────」
……その言い方だと俺が先生に叱られてばかりみたいじゃないか。
「今月に入ってからはまだ3回しか注意されてないからセーフだ」
「十分アウトだろ!」
銀から呆れた顔をされる。まだ6月の二週目だから少ない方だと思うんだけどな……
銀は咳払いをし、先程の話しを続ける。
「まあ、なんていうんだろ。それでも前向きでどんな失敗も恐れず先に進む……っていうのがアタシが今知ってる優士についてのことかな」
ははっと少し照れ臭そうに笑う銀を見て、俺も背中の辺りがむず痒くなる。面と向かってそういうこと言われると……何か照れるな。
「って……何か言えよ。アタシだけこんなこと言って、なんか恥ずかしいだろ!」
照れ隠しなのか背中をバンバンと叩かれる。いや、自分で言ったんですよね? てか地味に痛い。
「……ありがとね、銀」
まだ銀と会って数ヶ月くらいしか経ってないけど、そんな風にちゃんと自分のことを見てくれてる友達がいてくれるんだなと思うとすごく嬉しい。
「……んー、やっぱり今日の優士はいつもと何か違うな?」
銀が不思議そうに俺を見てきた。素直に感謝しただけなんだけどな。
顔が緩みきって気持ち悪いとか?
でも、銀に教えてもらえたおかげで再確認できた。
やはり俺には考えるのが向いてなくて、馬鹿で真っ直ぐという性格らしい。
俺はもう
「ん!」
両手で頬を思いっきり叩く。ぱちーんという大きな音が周囲に響き渡る。俺の近くにいた銀は急なことに驚いたのか一瞬ビクッとしていた。
別に自分を傷つける趣味はない。これは気持ちを切り替えるためと、くだらないことを考えてた自分に対する罰である。もちろん園子に関する大切なことを忘れていたことは反省すべきことだから、もうそんなことがないように気をつけるようにする。
(……傷つけてから気づいたじゃ、遅いもんな。)
よし! 園子に会いに行こう! まずはそれからだな。椅子から立ち上がり三組に移動しようとしたのだが、少し遅かったらしい。
学活の時間を知らせるチャイムが鳴り始め、各々が席に着きはじめる。
俺もそのまま席に座るのだが……なんか閉まらない気がした。
ーーーーーーーーーー
休み時間になり、俺は園子のいる三組に足を運んでいた。他クラスの子が入ってくるのは珍しいのかみんなの目線が飛んでくる。といっても外に遊びに行ったりしてる人もいるので、少しだけ気が楽だ。全員だったら流石に緊張してたかも。
3組の教室を見渡してみるとどこにいるかすぐにわかった。
理由は簡単。机に伏せて寝てる女の子に極めつけはサンチョ、君が全てだ!
窓際の後ろの席でちょうど俺の座っている位置と同じくらいの場所だった。
「そーのっこさん!」
俺が園子に話しかけると一瞬で教室が静かになる。しかし気にせず園子の近くの空いている席を借りて座る。
「園子さーん、起きてくださいな」
反応なし、なかなか起きてくれない園子さん。学校で寝てるということは……ははぁーん、もしかして夜更かしでもしたんですかね?
でも分かるよその気持ち、俺もついRPGとかでダンジョンに入っては途中でセーブポイントがなくてやめられないため、結局ボスまで倒しちゃって寝る時間が遅くなるなんてざらにあったからな。
まあ、苦手な授業はそんなこと関係なく睡魔が襲ってくるんだけど……なんでだろうね?
「ん……あれ、お母さん?」
残念お母さんじゃないですが、高嶋君が来ました。
「おはよ、園子」
園子は俺を見てぽけーっとしている。まだ完全には目覚めていないらしい。
「ゆーさん?」
「いえす。俺だよ」
「……ほんとに来てくれたんだ」
そりゃ、また学校でねって約束したからな。しかし園子の表情は喜びではなく、驚いているように見えるのだが。
俺来ない方がよかった? 気持ち良く寝てたのに起こされて最悪、みたいな感じになってたりする?
「何か悪いことしちゃったかな?」
放課後とかにしとけば良かったかな?
そう考えてると園子が首を強く横に振った。
「全然そんなことない、嬉しいよ。ゆーさん」
昨日と同じように園子は笑っていた。それならばよかったと思えるし、この笑顔を見れただけで勇気を出して来た甲斐はあっただろう。
「そっか、なら良かった。それでね、園子さんやここに貴方の友達が一人いますが、何かしたいこととかある? 遊ぶことについてなら得意だからお任せを」
「じゃあ私、ゆーさんのこと知りたいなあ」
「俺のこと? 別にいいけど……」
そんなことでいいのかと思わず聞き返してしまったが、どうやら間違えて聞こえた訳ではないらしい。好きなものとかの話をすればいいのかな?
「じゃあ、俺も園子のこと知りたい! あとサンチョのことも!」
園子のことを知れたら、ついででいいのでサンチョのことも興味があるので詳しく知りたい。そもそもあれは猫なのかな?
「もちろんいいよ! サンチョもいいよね?」
園子はサンチョの尻尾を握ると「スィ、ムーチョ」という声が……ちょっと待って。
「今の何!? めっちゃ渋い男の人の声が聞こえたんだったけど!?」
なんか耳に残る声だったな。てか喋るんだサンチョって……駄目だ見た目と声のギャップがすごすぎて受け入れるのに時間がかかりそう。
しかし、くすくすと笑う園子を見ていると別に何でもいいかと割り切ってしまう自分がいたのだった。
前半は少しシリアス展開で主人公が悩む回でした。
にちじょう編では主人公の成長も書いていけたらいいなと思っています。