「六月って雨が多くね?」
閉まっている教室のカーテンを少し開き、今尚降り続けていることを確認する。
「梅雨の時期だからね、仕方ないよ」
銀の前の席で座っていた松井さんが答えてくれる。彼女とは一緒によく外で遊ぶことが多いが、松井さんとは銀が一緒にいる時以外に話したことって無かった気がする。
「そういえば梅雨入りしてたっけな」
結構な量が降っているため、明日はグラウンドがぐちゃくちゃになって使えなさそうだな。
「高嶋君は雨が嫌いなの?」
気落ちしてため息を吐いていると松井さんから質問をされた。別に嫌いという訳ではない。雨は自然の恵みって言われてるし、前に銀が発見した虹だって雨が降ってくれたおかげで見ることができたのだから。
「うーん普通、かな?」
「そっか……」
適当に二人で話しを進める。どうでもいいような話しでもつまらない時にすると楽しくなったりするよな。話しが中断しないように適当な話題をふってみる。
「六月といえばコレ、ってもの梅雨以外で何があったっけ?」
「そうだねぇ……父の日とか夏至とかが有名なところだね」
「なるほど……」
……夏至って何だろう?
すると眼鏡をクイっと上に調整する松井さん。おぉーなんかそれっぽい感じがするし頭良さそうにも見える。
「夏至っていうのは簡単に言うと、一年のうち最も太陽が出てる時間が長い日のこと。ちなみに21日だよ」
「ほうほう」
一つ賢くなった気がする。
……いやちょっと待って? 何で聞いてもないのに俺がそのことを知らないって分かったんだ?
「高嶋君って顔に出やすいって言われない?」
「言われる」
前に銀にも同じようなこと言われたけど、自分の顔を見る機会って鏡くらいしかないから分からない。まじまじ見るものでもないしな。
「でも、表裏がないってことだから別にいいのかもね……今のところは、人を騙したりするような性格の悪い人には見えないし……」
「ん、つまりどゆこと?」
何かしなければいけないのだろうかと思ったのだが、今まで通りの俺でいればいいと松井さんから言われる。
すると松井さんは突然何かに気づいたように椅子から立ち上がる。どうしたんだろう、トイレかな?
「肝心なものを忘れてた、ジューンブライドもそうだ」
「じーん……何て?」
「ジューンブライド!」
お、おぉ……?
ブライド……何か強そう(小並感)
多分英語だよな? どういう意味なんだろ。
「何それ、面白いの?」
「男の子はやっぱり知らないかぁ……」
やれやれと言った反応をされるのだが。勿体ぶらずに教えてほしい。
「女の子なら全員知ってるとかなの?」
「全員かは分からないけど、耳にしたりはすると思うよ」
高嶋君も知っておいて損はしないと思うから教えてあげると、どこか得意げそうにしており断っても後で面倒くさそうだったから素直に教えてもらうことにする。
「ジューンは6月……って言うのは分かるかな?」
「…おう」
大丈夫、今理解しました。
「まあいいか…続けるね。ブライドは日本語で花嫁って意味を差してるの。……花嫁って分かるよね?」
「いや、馬鹿にしすぎだからね!?」
結婚する女の人のことだろ。そのくらいは知ってるわ! 俺じゃなかったら怒るなり泣くなりしてるぞこら!
「あはは! ごめんごめん。それでねここからが重要。6月に結婚した女性は幸せになるって言われてるの」
「幸せに?」
「うん。他の月と比べると入籍をする人達が多いらしいよ」
へぇ〜、そんな行事? があるんだ。知らなかったなぁ〜。
「……なんか素敵な話しだな」
少し感心していた。でも思ったんだけど、それじゃあ6月は式場がいっぱいになっちゃったりしないのかな? テレビとかで見たことあるけど式場は友達とかがお祝いに来るから沢山の人で埋まっちゃうから……あれか、予約とかすればいいのか。
「…以外」
「何が?」
松井さんが驚いたような顔をしていた。
「男の子ってこういう話しには興味がないと思ってたから…特に高嶋君はそう見えるといいますか…」
感心するかのように俺を見てくるのだが……松井さんには俺がどう見えてるんだろう。
まあ、なんとなく馬鹿にしてるのだけは俺にも分かったから聞くのをやめておくことにした。
「おはよ、二人共」
ハンカチで制服を拭きながらクラスに入ってきた銀。その様子から学校に来る道中で少し濡れてしまったことが分かった。
「大丈夫? 拭くの手伝うよ」
松井さんが自分のタオルを取り出して銀に駆け寄っていくが自分で拭くからわざわざ大丈夫だと断っていた。
「平気平気、どっちかっていうとランドセルの方がびしょ濡れなんだよね」
机の上にランドセルを置き付いた水滴を拭きながら、急に雨が強くなってきたため大変だったと愚痴を零す銀。松井さんと話してたついさっきまでは小雨だったのに、俺が登校してきた時と比べると雨の量も強さも確実に増えていた。
「朝から不幸だったね」
「いや、案外制服は濡れなかったし大丈夫そう」
時間が経てば乾くしな、みたいなことを思っていそうである。中身の教科書も無事だったらしい。不幸中の幸いってやつか。
「二人はいつも登校するのが早いよな」
「「いや、銀(ちゃん)が遅いだけだよ?」」
「ハモって言われた!?」
松井さんと声が重なったが仕方ないと思う。だって君かなり遅刻しそうになることが多いじゃないですか。たまに遅刻して怒られてる時もあるけど。
「何か事情でもあるの? 俺で良ければ力になるけど」
「ううん、大丈夫。ありがとね優士」
笑いながら素直にお礼を言われる。
なんか照れるぜ……
「はいはい、イチャつくのは二人の時だけにしてくださーい」
「ち、違うゾ!?」
松井さんが変にからかってきたのか銀が慌てて否定する。冗談に決まっているのに本気でツッコミしたら駄目でしょ。その反応を見て松井さんは楽しんでいるのだから。
「今回はこのくらいにしといてあげますかね」
「もうしなくていいから!」
ふっふっふと悪そうな笑みを浮かべる松井さんにやめてくれとお願いする銀。わぁ…松井さん悪い魔女みたいな顔してるよ。
「そ、それで! 二人は何してたんだ!」
銀は焦りながらも話題をすり変えようと必死だった。
「まあ、大した話しはしてないよ。強いて言えば6月の行事、イベントについてかな」
「今月の?」
「うん」
興味深そうにしている人を見ると進んで話したくなるよな。
「銀ちゃんは知ってるでしょ? ジューンブライド」
「6月に結婚する
二人で先程の話題を引っ張り出してくる。松井さんから聞いたことなのにあたかも知ってましたみたいに言っちゃったけど……まあ平気だよね。
「そう言えばそんな季節だっけ……」
いつもとどこか違う様子でしみじみと呟く銀。
「やっぱ銀も知ってんだな! 流石は女の子」
「馬鹿にしてる?」
「いや、全然」
そういうのはあまり興味無さそうに見えるというか。そう思っているのが伝わったのだろう。松井さんがそのことを言及しようとしたが──
「銀ちゃんが知ってるのは当たり前だよ。だって銀ちゃんの将来の夢は────」
「わああぁぁー!!」
大声を出しながら松井さんの口を自分の両手で隠した銀。松井さんがもごもごと何かを言ってるのは分かったがなんて喋ってるのかは分からなかった。……あ、なんか松井さん頭下げてすごい謝ってる。
顔を真っ赤にさせながらこちらを振り向く銀。いつもの元気な銀からは想像もつかないくらい萎縮しており驚いてしまう。
「……えっと、大丈夫か?」
「………」
「よく分からんが……松井さんが何を言ってのたかは聞き取れなかったし心配しなくても平気だぞ?」
ほんとに分からんかったし。むしろ銀が叫んで松井さんを止めたせいで途中まで言ってたことも忘れちゃったし。
「……ほんとか?」
「ほんとほんと。俺、友達には嘘つかないから」
しーんとした空気がなんか重いので切り替えよう。
「まあとりあえずさっきの話題に戻ろうぜ。松井さんもオッケー?」
「オッケー……ん?」
確かジューンブライドだろ? さっきは松井さんのせいで聞けなかったことを銀に質問する。
「でさ、銀もやっぱ将来6月に結婚するのか?」
「────え?」
「だって銀もいつかは結婚してお嫁さんになる訳でしょ?」
なら6月にやるべきだと思うんだよね。だって幸せになれるんだろ?
俺、銀には幸せになってほしいなって思うし。他の月に結婚してる人達は知らなかったりするのだろうか?
…てかちょっと待てよ? そもそも銀に結婚する気があるかどうかもわからなくね、生涯結婚しない人だっている訳だし。
でもなー、それだとなんかもったいないよな。カッコよくて、優しくて家族思いな銀にはピッタリだと思う。
「銀は家族思いで優しいから絶対良い
「……え、あ……その、ありがと……?」
「ん、どしたの?」
顔を先程より更に真っ赤にして先程から何かを言ってるのだが……全然わからない。
もしかして────
俺は銀に近づき、前髪の下から右手を持っていきおでこに触れてみる。
「やっぱり……銀、熱あるんじゃないの!?」
大変だ!そういやさっきから顔赤かったもんな!
人肌の温度より少し熱い気がする。雨に濡れたことが原因か? それとも何か別の病気が!?
「だ、大丈夫だから!」
「そうか? でも一応保健室行っとこうぜ。今日の銀はどこか変だぞ」
連れて行こうとするのだが抵抗される…痩せ我慢はいけないと思う。とりあえず俺一人ではどうにかできそうにないので松井さんに手伝ってもらうことにしよう。
「松井さん、お願い!」
素直に行こうとしない銀の手を逃げないように強く握るが病人? にあまりそういうことはしたくないため早くしてほしいのだが。
「天然のジゴロとか初めて見た……」
何かを呟きながら笑っているのだが……どうしたんだろうか。いや、今はそんなことどうでもいい。
「ちょっと松井さーん! 笑ってないで手貸してよー!」
この後松井さんに任せて銀を連れて行ってもらった。すぐに帰ってきたから良かったんだけど、何故か今日は一日学校で目を合わせてくれなかった。
連続投稿できたことに驚きを隠せない作者です。
主人公は素直な性格なのでカッコいい、すごいなど相手に対して思ったことをすぐに伝えようとします。
四年生の時の銀ちゃんは自分の夢に自信を持てていません。そのため髪もショートカットだったりします。
やっとラブコメが始まる……?