少年は勇者の味方である   作:ft.優士

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久しぶりのにちじょう編です。


小学四年生 10話

午後の6時間目の学活の時間、珍しくクラスの中はざわついていた。うちのクラスだけではなく、他のクラスからも生徒の私語が飛び交う様子が教室越しに伝わってくる。授業中だというのにそんな生徒たちを担任の先生は特に注意をする素振りは無く、この時間は席から立ち上がってもいいし友達と喋ってもいいとのことだった。

 

何故それが許されるのかというと、その理由として先程先生から配られたとある用紙が原因だった。

 

「夏休みの計画表か、何しようかな?」

 

「私やりたいこといっぱいある!」

 

「花火しようぜ!」

 

「プール行こう!」

 

「夏祭りっていつだっけ?」

 

「おい、カブトムシ取りに行こうぜ!」

 

などなど、様々な意見が飛び交う中俺はいつもと違うクラスのみんなの様子に少し押されてしまっていた。普段はものすごく静かに授業に取り組む姿勢とは真逆であり、嬉しそうに次々と夏休みの予定を決めている姿に、前の学校の生徒達と変わらない子供らしさを感じた。

 

いや、実際本当に子供なんだけど…なんていうんだろ神樹館の子達って基本モラル?が高いというか大人びてる子がほとんどだったから、俺だけ他所者感が強かったと言いますか…いや転校生だから他所者っちゃ他所者か。いやでもほら、鷲尾さんも転校生なのになんかもう神樹館の空気に馴染んでるというか他の子達と比べても違和感が無いといいますか……

 

「高嶋君もプール一緒に行かない?」

 

「夏祭りも行こうよー!」

 

「こっちに転校してきたばかりでまだ土地勘そんなに掴めて無いでしょ? 良かったら案内するよ 」

 

「大量にカブトムシが取れるところがあるから行こうぜ!」

 

みんなの推しが強い……というか転校生効果ってすごいんだな、もう三ヶ月以上経ったのにまだこんなに続くものなんだな。いや、普通に気の良い人がこのクラスに多いだけなのかな? 前の学校では友奈や指で数えられる程度の特定の子とばっか遊んでたからすごい新鮮でありこちらのテンションも上がってくる。

 

「行きたい! てか絶対行く!」

 

「おっし、決まりだね!」

 

次々と夏休みの予定が埋まっていくのはとても心地が良く、これから始まる夏休みがよりワクワクとしたものに変わっていく。

 

「よっ! 大人気ですなー」

 

「この調子で行けば直ぐに予定埋まっちゃうかもね」

 

誘いに来てくれた子たちが去っていった後に他の友達と予定を合わせに行っていた銀が席に戻ってきた。ついでに松井さんもついてきていた。

 

「そうなんだよ! いやー、転校生効果って凄いんだな! 今日が一番転校してきて良かったぁーって思ったよ!」

 

「あはは、そりゃ良かった。夏休みの思い出もいっぱい作れそうだな」

 

「うん! あー、楽しみだなぁ…早く夏休みに入らないかなぁー」

 

その後、銀と松井さんとも一緒に夏休みの予定について話し合った。そこで銀が前に言ってたとっておきの場所に連れていってくれるとのこと。プールや夏祭りにも一緒に行くらしく俄然楽しみになってきた。

 

「じゃあ俺、他の子とも予定決めてくるね!」

 

「おう。いってらっしゃい」

 

「じゃ、高嶋君の席借りてるねー」

 

仲良くなった子の中には席を動かずに予定を決めている子も数名いたため、銀達と別れてその子の元まで向かうことにした。

 

 

──────

 

 

「うぬぬ、何で俺だけ予定表書き直しなんだよう……」

 

授業中に無事予定を書き終え提出した俺はるんるんとその場でスキップでもしそうなくらい絶好調な気分で帰ろうとしたのだが、帰りの会が終わった直後担任の先生から呼びだされたのだ。

 

『高嶋君、君の計画表は少しふざけ過ぎです』

 

とのことで、職員室でちょっとしたお説教というか注意をされていました。何か書き方が悪かったらしい。後ついでに普段の生活態度についても怒られたぜ、解せぬ。夏休みの計画表は明日提出でいいから家で書き直してきなさいと言われた。

 

クラスに自分のランドセルを取りに戻るのと同時に誰か残っていないかを確認するが俺以外の席の横にランドセルがかかっていないことからとっくに下校したことが分かった。もちろん銀達も帰ってしまっていた。

 

「うわぁ…雨も降ってきたよ」

 

不運にも今日は傘は持ってきていなかった。事務室に行って傘を借りて帰るという手もあるが正直面倒くさいし、返却するのを忘れそうなのでそのまま走って帰るかと思い教室を出て下駄箱へ向かおうとした時だった。

 

「あれれ、ゆーさん?」

 

「ん?」

 

聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。こののほほーんとしたような声の知り合いは一人しかいなかった。

 

「やっぱり、ゆーさんだ〜」

 

「おー、園子じゃんまだ帰ってなかったのか」

 

立ち止まって振り返るとそこに立っていたのは予想通りの人物だった。わーいと言いながら右手を軽く振りながら近づいてくる園子。その仕草が小動物みたいに見えてかわいいなと思った。

 

「お昼寝してたらこんな時間になっちゃっててびっくりしたよ〜」

 

「そっか、通りで……え、あの賑やかな学活の最中に寝てたの?」

 

学活などの特別な授業は大抵学年毎にやる時間帯が決まっているため、多分園子のクラスも結構わちゃわちゃとしてたと思うのだが、その中で寝てたってすごいな。

 

「えへへー、それほどでもぉ〜」

 

「いや、褒めてはないんだよなー…」

 

「ゆーさんは何で残ってたの?」

 

「俺? 俺は何か、『夏休みの計画表がふざけ過ぎです』って先生に怒られちゃってさー」

 

先ほどの先生の真似をできる限り再現して園子に伝えてみると、似てなかったのかおかしかったのか、ふふふっと笑う園子。

 

「なんか今簡単に凹んでるゆーさんの顔が目に浮かんだな〜」

 

楽しそうに笑う園子。なんだか少しご機嫌みたいだけど、嬉しいことでもあったのかな?それとも帰ったら楽しみが待ってたりするのだろうか。

 

あ、そういえば俺夏休みの予定について園子に聞いてなかったから今聞いちゃおっかな。鷲尾さんには…明日聞けばいっか。

 

「そういえばさ、園子は夏休み何か予定あったりするの? 空いている日があったら一緒に遊ぼうぜ!」

 

そう誘ってみたのだが、少しして園子の表情が先ほどとは打って変わり、笑ってはいるがどこか困ったような陰が入ったような表情に変わる。何か変なことを言ってしまったのかと思い動揺していると、園子がえへへと笑い話し始める。

 

「私の家ってちょっと特殊でね…滅多なことじゃ外出できなくてさ〜…多分私のことを思ってのことなんだろうけど…過保護すぎるのもちょっと困っちゃうかな〜…なんてね」

 

大赦の中でも絶大な権力と財力を持つ乃木家。そんな家に生まれた子供が大切にされるのは当たり前なのだろう。親にとって子供は宝というくらいだ。前にあった園子のお父さんも優しそうな人だったし全ては園子のことを思っての行動なのだろう。

 

「誘ってくれたのにごめんね」

 

「ッ────」

 

そう謝ると園子は「バイバイ」っと手を振り歩み始める。その後ろ姿は何処か儚げで、寂しそうに感じとれた。このまま行かせたら駄目、それだけは確信できていた。

 

「待って!」

 

両手で園子の左手を掴んだ。手を掴まれた園子は驚いた顔をしているが今は無視して俺の提案を聞いてもらうことにする。

 

「あくまで、制限があるのは"外に出てはいけない"ってことなんだよね?」

 

だがその前にこれだけは確認しておかなければならない。

 

「う、うん。そうだけど?」

 

何でそんなことを聞くのか分かってない様子の園子だが、俺は反対に流れが向いてきていることに喜びを感じていた。

 

「よっし! じゃあさ、俺が園子の家に行って遊べばいいんだよ! それで全部解決だ!」

 

「え、えっ、でもそれじゃあゆーさんが他の友達と遊ぶ予定が無くなっちゃうし私のせいでその子との仲が悪くなっちゃうかもしれないよ?」

 

「大丈夫大丈夫! そんなことで怒る子なんてきっといないし、一回遊べなくなった程度で仲が拗れちゃうんだったら元からその子とは合ってなかったってだけの話」

 

「で、でも────」

 

「だぁー! 細かいこと気にすんなって、俺が園子ともっと仲良くなりたいから一緒に遊ぶ! それだけ。もちろん迷惑と思うなら断ってくれてもいいからさ」

 

 

折角の夏休みなんだから、娘が友達との思い出を少し作ることくらい親なら承諾してくれるだろ。てか本当に園子のことを思ってるのならそんぐらい多めにみてほしい。

…承諾しなかったらどうするかって? そん時はカチコミ、直談判ってやつよ。

 

 

なんで……」

 

「ん?」

 

「なんで、ゆーさんはそこまで私に真摯に向き合ってくれるの?」

 

「なんでって、そりゃあ友達だし…」 

 

 

折角友達になったから? もっと仲良くなりたいから?園子と一緒にいるのが面白いから? それも理由としては全部当てはまる。

 

でもきっと一番の理由は────

 

「目の前で"園子"が寂しそうな顔をしてたからかな?」

 

お父さんが言ってた、男の子は女の子が悲しい顔や辛い顔をしてたら助けてあげないといけないんだよって。それが友達だったら尚更助けないとだよね。

 

「そんなことで?」

 

「そんなことじゃないよ、大切なことだよ!」

 

園子はアレだな自己評価が低い子みたいだな。それに加えて他人を優先しちゃうタイプなのだろう。うん、このままじゃいけない気がする。

 

「園子はさ、もっと自分の気持ちを表に出してみればいいと思うんだ」

 

「私の、気持ち?」

 

「これがしたい! とか、ああいうことがやりたい!とか色々あるでしょ? 今回の外出の件だってそうさ」

 

トントンと自分の胸を叩きながら園子に続けて伝える。

 

「前も同じようなこといったかもしれないけどさ、少しずつでいいから俺以外にも園子の"胸の中"にあるものを正直に伝えてみなよ。きっと悪い結果にはならないと思うから」

 

「…できるかな私に?」

 

「大丈夫だって! いざとなれば俺も一緒にお願いしてあげるよ。園子と一緒に遊ばせてくださーいってね。それでも駄目だったら……そうだな最終手段としては俺がとびきりの駄々でもこねてみるわ」

 

まあ、最後のは流石に冗談だけど。しししっと悪い顔を浮かべて笑う俺を見て、少しだけ表情が明るくなる園子。

 

「ふふ、じゃあゆーさんにやってもらおうかな、私の家の大広間でみんなが見ている中で」

 

「お、おう。どんとこーい……」

 

え、まじでやるんですか…やべぇぞ、そうなったら高嶋家の看板が地に落ちるぜ。その時は果たしてごめんなさいで済むのだろうか? いや無理だろう。よくて勘当ものだろうが、そうなったらどうしよう…まだ御役目の御の字も始まってないんだが。

 

「なーんてね〜、流石にそこまでしてもらわなくても大丈夫だから安心して」

 

「おう、そうかそれは良かった…」

 

してやったり〜っと俺をからかえて楽しそうな園子さん。前から思ってたけど結構悪戯好きなところがあるよねこの子。まあ、元気出たみたいだし良かったかな。

 

「ゆーさん、私頑張ってみるね」

 

「おう! 応援してるぜ…あ、そうだ! 園子、両手を合わせて前に出してくれる?」

 

「こう?」

 

俺の急な提案に何をするのだろうと首を傾げる園子。

 

「ふっふっふ、高嶋君がとっておきのおまじないしてあげる!」

 

「おまじない?」

 

「あぁ、俺の幼馴染がね自信がなかったり落ち込んでる時にいつもやってくれたんだけど、これが結構効果あってね」

 

説明をしつつ、そのおまじないの方法を実践する。といっても実際にやることは凄く簡単なんだけどね。

 

「ゆ、ゆーさん?」

 

「頑張れー、頑張れー、頑張れー!」

 

相手の両手を自分の両手で包んで頭の近くに持っていき、頑張れと3回唱える。念?というか自分の思いを相手に分けてあげる方法だって友奈は言ってたっけ。相手に元気と勇気を与えるおまじないらしい。

 

「…よっし、終わり!俺の元気と勇気を園子に送っといたよ!これできっと園子は大丈夫!」

 

「あ、ありがとう…」

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうぜ。流石にこれ以上雨が沢山降って来られたら傘借りて帰らなくちゃいけなくなっちゃうし。」

 

「傘忘れてきちゃったの?」

 

「おう! ばっちりな」

 

自信持って言う事じゃないよ〜とゆるくツッコんで来る園子。

すると、「あ、そうだ」と何かを思いついたらしい。

 

「私の家の人がお迎えに来てくれてるみたいだから、ゆーさんも一緒にどうかな?」

 

「マジで? 本当にいいの!?」

 

「うん、もちろんだよ〜」

 

「やったー! 園子大好きー!」

 

「…あはは、どういたしまして」

 

うおー、傘も借りなくて済むし一人寂しく家まで歩いて帰らなくて済むとか最高だな。マジでありがたいわ…ありがとう園子さま。

 

その後は園子のお迎えに来た人に事情を話して、すっごい長くて高そうな車に乗せてもらった。確かああ言う車のことをリムジンって言うんだっけ? 中も広くてすごかったなー車の中でパーティーできそうだなとか思った。お嬢様、ハンパねぇ!

 

そういえば俺はこんな感じで車の中を一望したり、いつもの歩きとは違う外の景色を見てたりするのに夢中だったけど、園子はずっと同じ姿勢のまま少し俯いて自分の両手をずっと見つめていたっけ。手相でも気になったのかな?

家の前まで送ってもらうとドライバーさんが傘を差して玄関まで送ってくれたので丁寧にお辞儀をしてお礼を伝えた。園子には車から降りる直前に"頑張れ"ともう一度伝えて別れの挨拶をした。

 

家に帰った後すぐさま高嶋家のお手伝いさんが出迎えてくれた。俺が傘を持って行かなかったのを知っていたため、一滴も雨に濡れていないのを不思議そうに見ていた。その後千紘さんが来て誰かに送ってもらったのかと聞かれたので、園子の家の人に送ってもらったことを伝えると一瞬すごい顔をされたのだが…そんなに驚くことなのだろうか? これ今度園子の家に遊びに行くかもしれないって伝えたらどうなるのだろうかと一瞬考えたが、今はそれどころではなさそうなのでやめておいた。

 

そういや、園子の車のドライバーさん…召使いさん?に最初運転よろしくお願いしますって言った後に自分の名前を伝えようとしたんだけど、何故か「高嶋 優士様ですね。存じております」って言われたんだけど……あれ?俺って園子の家のドライバーさんとは初めて会ったはずなんだけど。

 

何でだろうと一つの疑問が残ったのだが、次の日にはすっかり忘れていた。

 

 

 

 




基本にちじょう編では主人公目線が大半ですが、不定期に銀、園子、須美からの視点を描いた回を入れる予定です。
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