少年は勇者の味方である   作:ft.優士

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今回はオリキャラのみの回になります。


小学四年生 11話

"夏休み"それは学生に与えられた大きな希望である。ジリジリとこちらを照らしてくる日差しに外を支配する熱気の中重いランドセルを背負い登校することも、朝から強制的に勉学に励まされることもないという正に最高の日々、それが約三十日間も続くのだから気分が上がるというものだろう。俺もその一人で夏休みが始まるまでの毎日をウキウキ気分で過ごしていたというのに。

 

「…に、じゅう、さんっ……!」

 

「ペース落ちてきてるぞ」

 

「ふ、ぐぅぅ……」

 

(どうしてこうなった……)

 

俺は今、現在進行形で家にある裏庭の空いているスペースを使って腕立て伏せをしている。もちろんただの個人的な筋トレや身体作りのためにやっている訳ではなく、"御役目"に向けての訓練の一環である。

 

訓練と聞き何かすごい特訓をするのだろうかと思った。

例えると、超高速で四方八方から飛んでくるボールを避けるとか、トラックサイズのタイヤを木にぶら下げて受け止めるとか、連続でバク転をした後に続けてバク宙をできるようにするとか。

 

しかし俺の想像していたようなことは行わなかった。まずは基盤を作ることを中心に始めていくとのこと。悲しい事に、ただ元気があるというだけでは体力があることにはならないらしい。こちらに来て一月が経過した時くらいから家でもできるような軽いトレーニングは続けてきていたのだが、夏休みの期間は鍛えるのに絶好の機会らしく技術を色々詰め込みたいとのことだ。

 

昨日は大赦が勇者を鍛えるために用意をしてくれたという訓練場へと連れてかれた。武術に関わっている専門家の人が来てわざわざ俺の相手をしてくれたのだ。投げられたり飛ばされたりしたせいで、身体のどこもかしこも痛い……まあそれは訓練の前に事前に教えてもらっていた受け身を上手く実践することができなかった俺が全部悪いのだが、やはり物事の飲み込みが悪いとこういう時辛いなと改めて思う。俺は言われたことをすぐに実行できる天才タイプではないのだ。その後も何回も見本のやり方を見せてもらいながら繰り返し練習し、キュウダイテン?というものを貰いギリギリ合格とのことだった。

 

俺自身そんなに運動ができている訳でもないが、同年代の男子たちと比べて走る速さにだけは自信があった。毎日走り込みをしていた時期もあったためそれも相まって俺って実は結構走るの速い方なんじゃね?と思っていた時期が高嶋君にもありました。しかし、それはこの前銀とかけっこで勝負した時に抜かれてしまった時にその自信は見事砕け散ったという訳だ。だが、次に銀と勝負する時には勝てるようになりたい。女の子に負けるというのはやはりちょっと情けない気がする。

 

「ご、じゅう──ッ!」

 

指定の回数を終えると糸が切れた人形のようにその場でうつ伏せになって倒れ込む。これで軽めのメニューとか……本格的な訓練が始まった時にはどうなってしまうのだろうか。

…とりあえずボロ雑巾みたいに地べたに横になっている自分が容易に想像できてしまう。

 

…みんなは今頃友達と遊んでたり、エアコンの効いた部屋でくつろぎながらゲームしたりしてるのかな。そう思うと少し羨ましく思う気持ちが込み上げて来るが、まあそこは仕方がないことだと我慢する。

 

神樹館で過ごす日々が充実し過ぎてて思わず忘れそうになるが、俺がこの高嶋家に来た本来の理由は勇者としての御役目を担ったからなのであり、断じて新しい生活を楽しむための理由ではないのだ。だからやるべきことはしっかりとやらなければいけない。

 

「すうー……はあ〜」

 

そんなことを考えながら、ごろっとそのまま身体を横に動かして空を見上げる。目に入るは雲一つない快晴の晴れやかな景色に思わず頬が緩む。何度目かの深呼吸を終えると先程まで上がっていた息も落ち着いてきた。

 

「おつかれさま。今日もよく頑張ったな」

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

ペットボトルのお茶とタオルを差し出されたのでそれを受け取る。

 

また、返事を敬語で返してしまった……正直、まだ高嶋家の人達とは一緒にいるとなんとなく気恥ずかしくなってしまい、上手く話せないことがしばしばあるのだ。千紘さんとは訓練や普段の生活の中などで接してる機会が多くて結構話せるようになって来たんだけど、義母(かあ)さんと義父(とう)さん相手だとまだちょっと遠慮しちゃうこともあってまだ少しだけ気まずい。

 

当たり前だけど『学校の友達と仲良くなる』とはまた違う訳で、クラスメート達とは好きなゲームとか漫画とかその日あった授業の話などで盛り上がったり話題を作れるのだが大人の人が相手だとそんな話題で楽しめるのだろうかと思うところもあり、千紘さんも真面目だからそれも相まって無理そうである。

 

義父(とう)さんは無口というか雰囲気からして厳しそうでちょっと怖い。そういう人のことを確かゲンカクっていうんだっけ。

いつも考え事でもしているのか難しそうな顔をしてるし、その時の目つきがちょっと怖いけど同時にかっこよくも感じる。

 

義母(かあ)さんはすごい優しく接してくれている気がする。学校のこととか良く聞いてくるし、こちらに来てから生活に不満はないかとか良く気にかけてくれている。この家を訪れて初対面で挨拶をした日も確か言われたっけ。

 

『悩み事や困った事があったら遠慮なく相談しなさい』

 

って最後に言ってくれた。しかし特に家でも学校でもこれといって困ったことは今のところないし、義母(かあ)さんたちは自分たちの仕事で忙しいだろうからその邪魔をする訳には行かない。流石の俺でもそのくらいの気は回せるのだ。

 

(…ま、こんなもんでしょ)

 

別に家族間の仲が悪い訳ではないし、現状に不満がある訳でもない。俺はあくまで養子であり他所の子なのだ。むしろここまで良くしてもらってることに感謝しなければいけないくらいだろう。

 

でも────

 

折角家族になったのだがら、義母さんや義父さん、千紘さん達とも"仲良くなりたい"、っていうのはやっぱりちょっと我儘……だよね。

 

そんなことを考えながらもタオルで一通り汗を拭き終わった後首にかけ、ペットボトルの蓋を開けて中身を勢いよく飲んだあと恒例のセリフを口にした。

 

「……ぷはぁー、生き返る〜!この一杯のために生きてるぅ〜!」

 

「いや、おっさんかって」

 

うぐっ、今の言葉は心に突き刺さった。俺まだ小学生なのに……

 

「でもでも、運動した後に飲む水とかお茶ってすごい美味しくない?」

 

まさか千紘さんからツッコミが入って来るとは思わなかったため、つい癖でいつも友達にしているような返答をする。

 

「まぁ、分からなくはないが…」

 

「でしょ〜!」

 

炭酸ジュースとかよりも美味しく感じるから不思議だよなぁ。疲れた身体に染み渡るあの感じ…すごい良いよね。

 

「だけど、さっきの言い方は間違いなく勤労疲れのおっさんとかが一杯飲んだ時の反応だったぞ」

 

「えー、ひどいなあ……」

 

俺の一連の動きを見て小馬鹿にしたような感じで笑う千紘さん。

 

「とりあえず今日はお疲れさま。今日の分のメニューはこれで終了だから、友達と遊ぶなり好きなことするなりして自分の為に時間を使いなさい。"折角の夏休み"なんだしね」

 

「は————ッ」

 

はいっと丁寧に答えそうになるもそれをぐっと飲み込む。

 

──もっと砕けた感じで言っても大丈夫、かな?

 

「うん! ありがとう千紘さん。よし、とりあえず汗を沢山かいたのでシャワーでも浴びてこようと思います!」

 

「そうだな、それがいい。あ、遊ぶのも良いけど宿題も忘れずにちゃんと進めておくんだぞ?」

 

「……はーい、わかってますよ〜」

 

宿題かあ…そういえば沢山出てたっけ。とりあえず簡単な計算問題のプリントから進めていこう、うん。最終日まで宿題を貯めに貯めて地獄を見るというワンパターンは今年から脱却するように頑張らなければ!

 

 

「…ま、精一杯頑張りたまえ少年よ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あら、優士じゃない」

 

「あ、こんにちは……です」

 

汗をお風呂場で一通り落としサッパリした後自室に向かおうとしていたところ途中で声を掛けられた。ぎこちない返答が面白かったのか、義母さんはクスリと可笑しそうに笑った。

 

「まだ、堅いわね。そんな気を使うことないのよ? いつも学校で友達と接している時みたいに元気良く、フランクな感じで」

 

「いや、それはちょっと……ん? 」

 

学校での俺のことなんて話したことなかったよな?

だとしたら何故義母さんは俺の学校での態度を知っているんだろう。千紘さんから聞いたのだろうかと思ったけど、学校で俺がどう過ごしているかなんて聞かれたことはなかったし、わざわざ言うことでもないかなと思い話したことはなかった。

 

「優士が学校でどう過ごしているのか気になってたから私が個人的に電話して教えてもらったのよ」

 

「え、そうなの?」

 

それテストの点数とか授業の様子とかも筒抜けだったりするのだろうか。そもそも何でわざわざ学校に連絡とってまで俺のことを調べてるのだろう。

高嶋家は大赦の偉い地位に当たる家名で発言権も乃木、上里の両家には劣るが組織の中では強い方だと教えてもらった。その分求められる対価も大きく多忙の身の筈だ。実際忙しくしている様子はよく目にしていた。

 

「義母さんいつも忙しそうなのにそんな暇あったの?」

 

「貴方が思っている程仕事は溜め込んでいないわよ。それに仕事で忙しかったとしても親が真っ先に優先するのは"自分の子供"のことなのよ」

 

「……養子なのに?」

 

「養子とかは関係ないわよ。"高嶋優士"、貴方はもう私達の()()なんだから」

 

頭にそっと義母さんが優しく手を置くと、そのまま髪の毛をくしゃりと触ってきた。

 

(……家族、か)

 

そう言われたことに対して嬉しい気持ちとちょっぴり恥ずかしい気持ちが胸の内で生まれる。

すると何かが気に障ったのか義母さんの顔がムッとしたものになった。

 

「優士、貴方の髪の毛全然乾いてないじゃない。ドライヤーとか使わないの?」

 

「え? 自然にしてればそのうち乾くから別に──」

 

別にいいと言おうとしたのだが、それは義母さんの声で遮られてしまった。

 

「駄目です。すぐ乾かさないと風邪を引いたり、髪の毛が痛んじゃう可能性だってあるんだから」

 

「いや今夏だし、それに俺男だからそこまで髪の毛に気を使わなくても」 

 

「いけません! 身だしなみは髪の毛からとも言うのよ」

 

「わ、分かりました……」

 

こういうことにはやはり女性はうるさいらしく、勢いに負け思わず返事をしてしまった。そんな気にしなくてもいいと思うけどなあ〜……

 

 

 

◇◇◇

 

 

現在、俺は初めて義母さんの部屋を訪れていた。洗面所でも良かったのでは聞くとこっちの方が都合が良くていいとのことだった。髪が乾くまで椅子に座らせられること十分弱くらいだろうか。ようやく義母さんが持っていたドライヤーの電源を切った。

 

「よし、終了」

 

「おぉ……なんか髪の毛ふわふわしてる?」

 

机に置かれた手鏡を見ながら自分の髪の毛をぺたぺたと触ってみる。乾かし方もすごい丁寧だったな。ドライヤーなんて自分から進んで使おうとしたことはほとんどなくて、お父さんが小さい頃に乾かしてくれたのと、友奈と一緒に乾かしっこしようと言われて使ったことがあったくらいだった。

 

「その……ありがとう義母さん」

 

「どういたしまして、ふふっ」

 

「どうしたの?」

 

「千紘も小学生の頃は今の優士みたいに素直だったなーって……思い出しちゃってね」

 

「今の千紘さんは違うの?」

 

「そうね…ちょっとだけ卑屈に……ううん、自分を表に出せなくなっちゃったのかな」

 

少し寂しそうに微笑むと義母さんは続けて俺の頭を櫛でとかしながら話しを続ける。

 

「大人になるにつれてね、人は段々と自分の本心を隠すようになってしまうの。これはきっと多かれ少なかれ誰にでも当てはまることだと思う」

 

「家族や友達にも?」

 

「ええ、悲しいことだけどね。あの子は昔からしっかりしてたから心配は無いと思うけど……あの子の親としては嬉しさ半分、悲しさ半分ってところかな」

 

「やっぱり親としては頼って欲しいもの?」

 

「もちろん。自分の子供に頼られて嬉しくない親なんていない……って私は思いたいんだけどね」

 

「……そっか」

 

そういえばお父さんも昔同じこと言ってたっけ。

何かあったら必ず親を頼れ、"子供を守るのが親の仕事"なんだって。

 

「だからね、優士」

 

「ん…?」

 

義母さんは櫛をテーブルに置くと、俺の座っている椅子の向きを真正面に対面するように動かした。その顔は今まで見たことがないくらい、普段の優しい義母からは想像もつかないくらい真剣な表情だった。

 

「貴方は"今のままでいなさい"。素直で真っ直ぐに、自分の本音を相手にぶつけていきなさい。時に相手を傷つけてしまうこともあるかもしれない。 それでも………後悔を残さないために……」

 

その言葉にはどこか重みがあるように感じた。俺を見つめてくるその目はどこか辛そうに何かを訴えたがってるようにも見えた。

 

「……あのかあさ───」

 

「……ふふっ、なーんてね。私が言わなくても優士は既にそんなこと分かってるわよね」

 

「あの……」

 

「はい! ということで今日の親子の時間は終了〜! ふふ、ちょっとは母親らしいことできたかしら?」

 

先程とは一転していつもの優しい雰囲気に戻った義母さん。俺はまた勢いに押されてしまい言葉を口にできなかった。俺の中では先程の話しが気になっていたけれど話を戻す気にはなれなかった。

 

「まあ、何を言いたいかまとめると。一つ、私達家族に遠慮はしなくていい、敬語も無し。困った時は大人を頼りなさい。二つ、自分の意見は大切にしなさい。とりあえずこの二つだけ覚えておきなさい」

 

「いいわね?」と釘を刺されたためそこに拒否権はなく半ば強制的である。

 

「わかった。困った時が来たらなるべく頼るようにする……それでいい?」

 

それでいい、というように義母さんは微笑みながら首を縦に振った。

 

「あ、それともう一ついいかしら。これは私の個人的なお願いなんだけど」

 

「ん?」

 

「偶にでいいから優士の学校での様子や普段友達と遊んでいることとかを教えてくれる? 親としては子供がどうしてるかやっぱり気になるし、こういうのは他人より本人の口から聞くのが一番だと思うから……」

 

駄目かしら、と少しばつが悪そうに義母さんは聞いてきた。

正直俺は心の中でちょっと安心していた。もっと難しいお願いかと思ったけど、案外簡単なことだったため考えることなく気軽に了承してしまった。

 

「そんなことでいいなら……何なら今休み入って暇だし今日はもう何もないからすぐに話そうか? このあと義母さんの時間が空いてればだけど」

 

俺がそう返事をすると義母さんは嬉しそうな表情を浮かべた。義母さんも今日は特に忙しい用事もないとのことらしく、今までもどうやら俺から話しを聞きたかったとのこと。

 

親子らしい会話や相談は今まで全然してこなかったからその分も含めて時間を忘れてたっぷり話し込んだ。途中で千紘さんが仕事の用件か何かで部屋に来たのを義母さんが強制参加させたりなんてこともあった。勿論千紘さんは最初抵抗していたのだが、義母さんが何かを耳元で囁くと顔を歪めた後、「分かったよ。今日の分の大きな仕事は一応終わったし……付き合います」と諦めたように言っていた。やっぱ母親って強えや。

 

 

「──だからね、この夏休みすっごい楽しみでさ!それから──」

 

 

俺がこっちに来てからできた友達のことや学校で過ごしてきたこと、最近は夏休みにクラスのみんなに遊びに行こうと誘われて嬉しかったことなんかを話した。話しを聞いていた義母さんは微笑ましそうに、千紘さんもいつもより口角が上がっていて優しい目線をこちらに送ってきていたことを話しに夢中になっている際は気づけなく、気づいた時には少し恥ずかしくなって椅子に座り直した。

 

合間に義母さんと千紘さんも自分達のことを教えてくれた。高嶋家の三人で過ごしてきた大切な思い出の一部も語ってくれた。今大赦の方で仕事をしていていない義父さんのことも教えてくれた。好きなこととか、得意なこととかも俺から質問したらちゃんと答えてくれた。

 

「今日は義母さんと千紘と沢山お話しできたなあ〜……」

 

自分の部屋のベッドに横になりながら今日のことを思い出す。

時間はあっという間に過ぎてしまい、終わりの時間が来るのは案外早かった。けれどまだまだ話し足りないような気がしてしまった。今度は義父さんとも機会があったら話したいなと思った。

 

「少しは仲良くなれたかな……?」

 

今日は高嶋家のみんなのことを知ることができて良かったな。といってもまだまだ知らないことの方が多いのだろうけど。自分の中ではちょっとだけ仲が縮まったような気がして嬉しかったな。

 

「……ってて、これ明日筋肉痛になってそうだな……」

 

明日は確か……銀がとっておきの場所に連れて行ってくれるんだったっけ。

 

夏休みは始まったばかり、今年はいつも以上に色々充実したものになるといいな……いや、なるようにしたいな。

 

友達も家族も特訓も……ついでに勉強も頑張りたいと思う。

 

よし! 今日の夏休みの日記はこんな感じにまとめよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




高嶋家の人達に関しましては完全なオリキャラとなりますのでご注意。
俺が知る限り高嶋家関連の話って全然掘り下げがなかった記憶があります。もしも原作の方で明確な描写があった場面などを知っていたら感想などで教えてくれると嬉しいです。今後の話しの参考になるので。

次回は今回の話しの最後に仄めかしていた通り銀メインの回にしたいと思っていますのでお楽しみに。話しも大体は出来上がってるので直ぐにあげられると思います。
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