「お前と結城さんって付き合ってるの?」
昼休みに一緒に遊んでいた男友達から急にそんな質問をされた。
「急にどうしたの?」
「しらばっくれるなよ、今日だって一緒に手をつなぎながら仲良く登校してきたじゃないか」
ニヤニヤしながら言ってくるのだが、仲の良い友達や幼馴染み同士なら一緒に登校することなんて普通だと思うのだが。
「やっぱり結城さんのこと好きなのか?」
「んーそりゃ幼馴染みだし好きだよ」
幼馴染みであり、俺と"初めて友達になってくれた子"だからな。そもそも、嫌いな人だったら一緒にいたいと思わないだろう。
「いや、俺が聞きたいのはそういう意味の好きじゃなくてだな……」
正直に答えたのだが、どうやら納得がいかないようだった。
「結城さんは男子からも人気があるから、好きなら早く伝えといた方がいいと思ったんだが……あくまで友達と言い張るんなら別に構わないんだけどさ。」
伝えるとは何のことだろうか? いつもありがとうという感謝の気持ちなら欠かさず伝えているつもりなのだが……ってか。
「友奈って男子からそんなに人気あったの?」
「ああ、多分同学年の女子の中で一番人気があるといっても過言ではない」
全然知らなかった……まあ、確かに保育園の時も沢山の子に囲まれていたりするところをよく目撃したことはあったし、友奈の人となりを考えてみれば当然のことかもしれない。
「女子といえば何かと男子に対して色々と集団で言ってきたりするうるさい奴ばっかりだけど、結城さんは俺たち男子相手にも優しく接してくれるし、笑いかけてくれた時なんて本当にやばい! マジで天使の生まれ変わりなのではないかと思う! とかね」
「お、おぉ……そりゃよかった、でいいのかな?」
何故か当人ではないというのにその人たちになりきるように熱弁して伝えてくる……俺はなんて答えたらいいのか分からず適当に返事をする。
でも、嫌な気分じゃない。昔から友奈が褒められてるのを聞くと自分のことみたいに嬉しくなるのだ。彼の友達の子が言う通り、確かに友奈は明るくて笑顔が似合うし誰か困っている人のために動ける優しい女の子だと思う。
それに────友奈と一緒にいると、"自然と元気が湧いてくる"ような気がするのだ。
暗い気持ちも吹っ飛ばすような明るい性格と笑顔には何度も助けられてきた。それは俺以外の他の人にも当てはまるしきっとそんなところにみんなは惹かれていくのだろう。
友奈は俺にも昔から親しく接してくれていたし、小さい頃から人と仲良くなるのが上手かった気がする。
「それにいつも先生の手伝いとか率先してやってるし偉いよな」
「そうだね……」
相槌を打つ。だけど俺はみんなが知らない友奈を知っているのだ。笑顔を向ける裏で友奈がどれだけ"相手に気を使って行動している"のか。
自分のことよりも誰かを助けることを第一に考えてしまう。別にそれが間違っているとは思わない。しかし友奈の場合はその思いが強すぎる、それは見ている方が心配になるほど。きっと友奈は友達や家族、大切な人のためなら『自分なんかどうなったっていい』と自分を切り捨てて考えてしまうことがこの先あるかもしれない。
それを知らない周りはそんな友奈を必要以上に求めてしまうし、友奈は人から頼られてしまったら絶対に断らない……例え自分が辛い思いをすることになったとしても。
笑いながら、友奈は昔からまるで自分に言い聞かせるように言っていた。
その姿は幼い頃の俺にはとても眩しく見えた。だけどそれと同時に、その姿にどこか危うさを感じていた。
友奈がしていることならきっと正しいのだろうと思いつつも心配になり、一度だけ友奈に聞いてみたことがあった。だけど友奈は大丈夫の一点張りだったため勢いに押されたこともあったが、それからは特に口を挟むことはなかった。
きっとこの先も変わらずそんな彼女の姿は輝いて見えるのだろうと。
だけどあの日、"
────彼女が悲しむ顔を見たくないと。
勝手なことかもしれない。余計なお世話だと思われるかもしれないけれど。だけど俺は思わずにはいられなかった。
──誰かのためを想って動いた人が、誰かを助けるために頑張った人が報われない、幸せになれないなんてそんなのはおかしいだろうと。
例え、友奈自身が傷つくことを受け入れたとしても俺は絶対にそんな結果を認めない。
だから、俺だけは──────
────キーンコーンカーンコーン。
時計を見ると、昼休みの終わりのチャイムが鳴る時刻になっていた。
「やっべ、休み時間終わっちまった!戻ろうぜ士朗!」
「……あ、うん。そうだね」
◇◇◇
先程の男友達は次の時間が体育の時間のため途中で別れた後、教室に向かっていると反対側から歩いている友奈の姿が見えた。友奈もこちらに気づいたらしく手を振りながら近づいてきた。
「おーい!士朗くーん!何してるの?」
「おお、天使様か」
「ふぇぇ!?」
「いや、女神様だったっけ?」
「──めッ!?」
思ってもみないような言葉をかけられたからか、顔を赤らめ変な声を出しながらあわあわする友奈の様子を見て、つい笑ってしまう。
(……やっぱり、友奈と一緒にいる時が一番楽しいな)
友奈と一緒にいると、例えどんなに辛い時でも頑張ろうという気持ちになれるのだ。
「…士朗君のバカ!」
「え、ひどくない?」
からかわれたことが分かると、頬を膨らませながら怒る友奈。
急に幼馴染みから悪口を言われ少し凹みそうになる。
正直馬鹿というのは結構人から言われるためそれ自体は気にしたりはしないのだが……その理由が毎回よく分からなかった。
俺が勉強苦手だからかな?
自分で考えても分からないため友奈に聞こうとしたのだが、プイッと無視をされてしまい結局分からずじまいだった。
◆◆◆
私は昔から空気を読むのが得意だった。
あの子が悲しんでる。喧嘩が起こりそうになってる。空気が重い。私自身そういう雰囲気が昔から苦手だったから、学校ではみんなの仲裁役のような役割を進んで行っていた。
それはきっと私が『誰かが傷つく事や辛い思いをする』ことが嫌だったからだろう。
暗い雰囲気よりも明るい雰囲気、涙よりも笑顔。
────その方が私は好きだったから。
そう考えるようになったのはいつからだったかは覚えていないけど……理由ははっきりと覚えていた。
ーーーーーーーーーーーー
ある日、お母さんとお父さんが喧嘩をしてしまった。
内容は分からなかった。二人の怒っている声が聞こえないように耳を塞いでいたのもあったけど、ただ単純に二人の怖い声を聞いていたくなかった。
最初はもちろん止めに入ろうと思った、けど二人の喧嘩はいつものような軽い口喧嘩のようなものではなく本気で怒っている様子だった。それでも勇気を出して二人に「やめて」と言うことができればきっと……そんな淡い期待を胸に二人がいるであろうリビングに向かった。
近づけばもちろん耳に入ってくる声は大きくなっていく。不安が増していくなかリビングに行くと目に入ったのはいつもの優しい二人の顔ではなく、怒りによりゆがんだ顔だった。
思わず泣きそうになってしまいそうだったけど、意を決して二人を止めようと口を開く。けれど、ここぞという時に声が出なかった、いや出すことが出来なかった。そのまま茫然と突っ立っていた私に気づいたお母さんは一旦お父さんとの話しを中断すると自分の部屋に戻ってなさいと言われ私は言う通りにゆっくり足を部屋へと進める。その途中で再び二人の喧嘩が始まってしまう。
互いに交差する言葉の数々が、自分に言われてもいないのにズキズキと心に突き刺さるような感じがした。
胸が痛い、辛い、苦しい。
そして何より……お母さん達を止められない自分が情けなかった。
(………────ッッ!!)
私の中で何かが爆発したような気がした。気づいたら私は玄関に向かい家を飛び出していた。
多分二人の喧嘩だけが原因ではなかった。学校での色々な辛いことなどもが重なってしまった結果だろう。
暗い夜の中をとにかく走って、走って、走って────どこに向かうかも決めないでただただ前へと走っていた。
いつもなら家の中で過ごしている時間帯のため暗闇に包まれた外の世界はまるでいつも進み慣れた道とは違うように感じた。
現在は12月の中旬。
防寒着を何も着けていないため、手がかじかみ始める。走る際に頰に当たる風がぴりぴりと痛かった。だが、そんなことが気にならないくらい今は何よりも胸の奥がとても苦しかった。
雪が降っていなかったのが不幸中の幸いだったのだろう。でなければ冗談抜きで凍死してたかもしれない。
「はあ……はあ……ぁ……」
走り疲れて辺りを確認すると公園の中にある照明の光が目についた。その場所には見覚えがあった。小さい頃に士朗と探検しようと言いながら遠くの場所まで行こうとしてたどり着いたのがこの場所だった。
確か帰り方が分からなくて二人で泣きそうになっていたところ偶然通りかかった親切な人が助けてくれた。家までの帰り道を教えてもらうと……ほんとは大して遠い場所ではなかったというオチだった。
走り疲れてしまい、近くにあったブランコに座る。別に遊びたいとかそんな気分ではなく……ただ座るためだけに。
そして誰もいないということ理解すると────もう"
今まで我慢していた分も流れるくらい────
「ひう……ぐ……うえぇ……っ」
泣くことしかできない、そんな自分が情けなかった。
◆◆◆
みんなを助けるのが自分の役目。いつからかそう考えるようになった。
みんなが笑顔になるのならそれが一番良いことだと思うから。
『ありがとう友奈ちゃん!』
『友奈のおかげで友達と仲直りできたよ』
友達のみんなは嬉しそうにそう言ってきた。
『偉いわ。結城さん』
先生も褒めてくれた。私でも誰かの役に立てているということが嬉しかった。
『
また、か……うん、でも、それでみんなが笑顔でいられるのなら私はそれで良かった。
……しないよ。だって、それで"
「うん。任せて!」
私が頑張る、私がなんとかするんだ。
『友奈は本当に友達思いね』
お母さんもお父さんもそんな自分を褒めてくれる。ほら、私は間違ってなんかいないんだ。
だけど────
『友奈……なんか無理してない?』
一人だけ、みんなと違う子がいた。心配そうな顔を浮かべて私を心配するように聞いてきた。
今思えば、既にその時から士朗君は私の変化に気づいていたのかもしれない。
だけど────私は誤魔化してしまった。心配されるのは私がしっかりしてないからだと。今よりも頑張って頼りになるところを見せれば、彼が心配することもなくなるだろうと思った。
私が
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友奈が手伝えば手伝うほどみんな彼女を頼るようになっていってしまい、ひどい時は最初から丸投げされることもあった。しかし、頼まれてしまっては断れないという彼女の親切は仇となってしまい、それは段々とエスカレートしていってしまう。
原因は相手が小学生同士だったということもあったのだろう。やりたくないことは嫌だとはっきり言える年頃であり、まだ我慢するということが自分からなかなかすることができない。そこにお願いすれば引き受けてくれる存在が現れればどうなるだろう。
答えは……聞かずともわかることだった。
ーーーーーーーーーーーー
『友奈ちゃんなら助けてくれるよ』
「オッケー! 任せて!」
『結城、頼むよ!』
「うん! 分かったよ!」
『結城さんに任せておけば大丈夫だね』
「う、うん。私に任せて! 」
(ああ、そっか)
────あぁ、そっかみんなが求めているのは自分達にとって
『あ、今日も頼んでいいかな?』
『ごめんね〜、ありがと!』
『じゃ、後は頼むわ』
"
その事実に気づいた時、とても辛かったし自分の胸を深く抉られるような痛みを感じた気がした。
誰も本当の私を見てくれないのは寂しいなと感じてしまう……
でも、それでもきっと構わない。
だって、私が助けた人達は
みんな幸せなら、それが一番良いこと……だよね?
だけど、この時思ってしまった。
私は何を……"誰を助けたい"のだろうと。
◆◆◆◆
誰を助けたいか……そんなの決まってる。
……"みんな"だよ。
誰かが嫌な思いをするくらいなら私が代わりにそれを受け止める。
だって、
だけど────
今になって浮かんできた言葉があった。たった四文字の言葉。それを口に出すことが今までできなかった。
「誰か……ひぐっ……
ひとりぼっちは嫌だ……誰でもいいから本当のわたしに気づいて欲しい。
呟くような小さい声で涙と共にやっと出た本音。だけどその言葉は誰にも聞かれることはないと諦める。
……いや、
諦める、筈だった。
「探したよ、友奈」
「──え……?」
聞き覚えのある声が聞こえた。俯いていた顔をゆっくり上げる。
それはいつも一緒にいる男の子の声だった。
「し、ろうくん?」
「うん。俺だよ」
彼の様子を見るに、きっとずっと走りながら探してくれていたのだろう。
息を切らしているためか呼吸が少し荒かった。
この時助けに来てくれた彼の顔を今でも覚えてる。見つけられて良かったと安心して笑い、心の底から喜んでいる彼の姿があった。
「無事でよかった。全く……心配したんだぞ、急に家を飛び───」
友奈は最後まで士朗の言葉を聞かずに、士朗の身体に抱きつき顔をそのまま胸にうずめる。
嬉しかった。探しにきてくれたことが、見つけてくれたことが、何より助けにきてくれたことが。
それが今、何よりも求めていたものだったから。
「ありがとう……ありがと……」
急に抱きついてしまわれたため最初こそ驚いて戸惑っていたものの友奈の気持ちを察したのか、左手で優しく頭を撫でて、割れ物を扱うようにそっと抱きしめる。
「本当に友奈はすごいね……」
───でも今は俺しかいないから、無理して頑張らなくてもいいんだよ。
そう言ってくれた彼の声はとても穏やかで優しくて、私はその後もしばらく彼の言葉に甘え、胸を借りて泣いてしまった。
◆◆◆◆
ひとしきり泣いて落ち着くことができたのだが、改めて先程までしてしまったことを少し気まずさを感じてしまっていた。
士朗君の方を見てみると、自分の上着やマフラーを外し始めた。
「ごめん、急いでたから友奈の防寒着とか持ってくるの忘れてた」
だから俺ので我慢してと士朗君がしていた防寒着を渡される。
「だめだよ! それじゃ士朗君が風邪引いちゃ──」
最後まで言う前におでこにデコピンをされた。
痛いよぉ……
「俺は走ってきたから寒くないの、むしろめっちゃ暑い! てか、風邪引きそうなのは絶対友奈の方でしょ!」
ビシッと人差し指を勢いよく指され友奈が押し黙っていた隙に手早く士朗君はマフラーを巻いて上着を渡す。受け取らないとまたデコピンをくらわされそうなため渋々着ることにする。
上着にはまだ彼の温もりが残っており温かい。
「よし、オッケー! じゃあ後は手袋」
手袋を取って差し出されるも、流石にこれ以上は自分にも意地があるため、受け取らないようにする。このままでは逆に士朗君が風邪をひいてしまいそうである。むむむぅ……と言って不満そうだが、もう十分暖かくなったことを伝える。不満そうにしているが友奈の意地っ張りに妥協する士朗。
士朗君の着ている服の裾を掴み、後ろについていく。こうしてれば見失うことはないし……どこか、安心できるような気持ちになれた。
「あ!」
急に声を上げて士朗君が立ち止まった。やはり寒くなってきてしまったのだろうか?
「どう、したの?」
「いいこと思いついた!」
急にそんなことを言い出すと、左手の手袋を外して私に渡してくる。
私は頭を横に振り否定したのだが、いいからいいからと言うようにグイグイと渡してくる。
「大丈夫、二人ともあったかくなれる方法だから」
いつも士朗君が何かを思いついた時にする表情をしていたため、彼の言葉を信じて、右手に手袋をつける。
「オッケー! で、こうすれば────」
私の手袋をしていない方の右手を士朗君は手袋を外した左手でつないで自分の服のポケットに入れる。
「ほら、どっちもあったかいでしょ?」
俺って頭いいでしょ〜と自慢気に笑うとそのまま私の手をつないだまま横に並んで歩き出す。
その後も士朗は友奈が暗い夜道の中不安にならないようにずっと話しかけて話題が尽きぬようにしていたのだが、友奈は上手く話を繋げることができず曖昧な返事を返してしまっていた。
◆◆◆◆
家に帰った後お父さんとお母さんにはこっぴどく怒られてしまった。だけどその後すぐにお母さんは泣きながら私を抱きしめ、ごめんなさい、すまなかったと二人から謝られた。
いつもの優しい二人が帰ってきたと感じて嬉しくなり、私も泣きながらお母さんを抱きしめ返していた。
その日の夜は四人で遅くまで起きて沢山お話しをした。特に大きな面白い話はなかったけどみんなで過ごす時間はとても楽しくて、暖かくて……こういう時間をきっと幸福というのだろう。この時間がずっと続いて欲しい、これからもこんな日々であって欲しいと思った。
後で聞いた話だけど、お父さんとお母さんを仲直りさせるきっかけをくれたのはやはり士朗君だった。
私がいなくなった後、お母さんは初めて士朗君に怒られたと苦笑気味にその時のことを話してくれた。
『二人の喧嘩の原因は俺には分からない。きっと大人だから悩みとか、自分の中の吐き出したい気持ちとかもあるのかもしれない。子供の自分達よりも大変な事だって沢山あると思う。けどさ……親だったら自分の子供に、友奈に心配かけさせるなよ!!』
強く言い残して家を飛び出したらしい。
喧嘩の原因を聞いてみたけど、お母さんにノーコメントと言われはぐらかされた。
むぅ、気になるなぁ。明日士朗君に聞いてみようかな?
そう考えながら彼を思い浮かべる。そういえば、士朗君とは軽い口喧嘩などはしたことがあったが、本気で怒ったところを私は一度も見たことがなかった。学校なんかでも一度たりともだ。
だから士朗君が怒ったと言われても「友奈、そんなことしちゃだめでしょ?」とむすっとしているようなイメージしかわかなかった。そんな姿を想像してしまいすこし頰が緩んでしまう。
そんな士朗君が本気で怒ってくれたということは、私達のことを大切に思ってくれているってことなのかな?そうであってくれたなら嬉しいのだが、少し寂しい気持ちになる。
……士朗君のことは幼馴染みである私が
だけど昨日の出来事を思い出す。手を彼の方から握ってもらった時、いつもは当たり前のことで気づかなかったのだが以外に大きいんだなと感じた。
そして抱きついた時の士朗君の身体は温かくて、その背中はとても安心できて……
──ドクンと心臓が大きく鼓動する。
(あれ、なんだろう? なんか変な感じだな……)
ドクンドクンと強く鳴ってるのが、手を近づけなくても分かった。顔や体が段々熱くなっていく。どうしちゃったんだろ私……やっぱり風邪でも引いちゃったのかな?
今まで起きたことのなかった感覚に戸惑いを隠せなかった。
◆◆◆◆◆
「おはよう友奈」
「おはよう士朗君!」
士朗が家から出てきたのを確認するといつものように挨拶を交わす。
「士朗君、この前はありがとう」
「どういたしまして。でももう家出するのはやめてくれよ? 本当に心配したんだからな」
「…うん、ごめんなさいもうあんな事しないって約束する」
沢山迷惑をかけてしまったんだから、反省しなくちゃいけないと私自身強くそう思っていた。
しかし、士朗君の顔はまだ何かを言いたげだった。
「そうだね……それもあるけど。俺にはもう一つ約束してほしいことがある」
「え?」
他に何か心配にさせるようなことがあっただろうか?
その場ではすぐに思い付けず、答えを聞こうと士朗の顔を見る。
「もう、一人で抱え込んで無理をするのは今日でおしまいにしよう」
「ッ!? む、無理なんかして……ないよ」
強く否定したかったが、士朗君の言っていることは全て合っていたためできなかった。言葉が口ごもり上手く出て来てくれない。
「人のために動くことが悪いことだとは思わないし、誰かを助けたいと思う気持ちは俺にも分かる。けどさ……それで友奈が悲しい思いをすることになっちゃうのなら……俺は嫌だな……」
士朗君はとても心配そうな顔を浮かべていた。
『誰かが辛い思いをするのが嫌なんだ』
……そっか、彼の場合はその誰かに私も入ってるんだね。
だけど、やっぱり私はこの考えを変えることが出来ない……
「でもきっと友奈はやめないよね?」
……うん、多分きっとこれから先もそうだと思う。
(ごめんね士朗君、これだけは譲れないんだ。)
それを否定したら私はきっと、私じゃなくなっちゃうから。苦しい思いをするのは苦手だ。けどそれ以上に、私の目の前で誰かが辛い思いをするのが私はきっと嫌なんだ!
困っている人が、苦しんでいる人がいるのなら手を差し伸べて力になってあげたい。
「うん。やめない!」
"みんなが仲良く笑顔で幸せになってほしい"。
そう思うことはきっと間違いじゃないと思うから。
「そっかぁ……うん、じゃあ俺も決めた!」
そう言った士朗の顔は先程と違い、何かを決意したような顔付きになる。
「何を?」
つい聞き返してしまった。
「俺が"友奈の
───本当に辛い時は一人で頑張らなくていいのだから。
そして、この後に言ってくれた士朗君の言葉を今でも鮮明に覚えている。
「友奈がみんなのことをずっと助けて笑顔にするなら、俺は"
いつかと同じように手を差し伸べられる。
「だから俺のことも頼ってよ。幼馴染み、でしょ?」
士朗君の話を聞いた後、私は自分でも訳がわからないまま涙を流していた。
……おかしいなぁ。どうしてだろう。
どうして────
どの友達といる時とも違っていた。
何なんだろ、これ……
「あれ? 何でまた泣いてるの!? 俺何か変なこと言った!?」
あたふたして動揺する彼の姿を見て、つい口元が緩んでしまう。
ドクンドクンと心臓の音がまた強く聞こえる。また体も少し暑くなったように感じる。
これがなんなのか、何を意味しているのかは今の私にはよくわからないが少なくとも嫌な感じはしなかった。
「ありがとう、士朗君!」
──君が幼馴染みでいてくれて、側にいてくれて良かった。この時心の底からそう思った。
──君が一緒にいてくれるのならきっと私はどんなことだって乗り越えられる、そんな気がしたんだ。
「うん……やっぱり友奈は笑顔が一番似合ってるね」
そう言って微笑む士朗君。釣られて私も笑顔になる。
冬が終われば春が来る。
彼女はまだ、その思いを理解していない。
だが、その思いの蕾はいつか──
「ほら、士朗君早く学校に行くよ!!」
「わかったから、そんなに強く引っ張らないでくれぇ!」
そう遠くない未来に
二人は顔を合わせいつものように笑い合う。その笑顔をこれからもずっと見ていたいなと思った。
ーーーーーーーーーーー
いつだって俺は友奈に助けられていた。
──友奈の声を聞いていると元気が湧いた。
──友奈が側にいると、心がポカポカと暖かくなる感じがした。
──友奈と一緒なら、前に進むことができる気がした。
俺が苦しい時や辛い時、いつも側にいて助けてくれた。
俺はいつだって救われていたんだ、友奈が浮かべるあの笑顔に。
だから今度は俺が友奈を助ける番だって思ったんだ。
何でそうしようと思ったのかなんて、考えるまでもない。
──だって俺にとって友奈は、かけがえのない大切な幼馴染みだから。
友奈は誰かを助けようと動く優しい女の子。
だけどそれが裏目に出てしまいみんなから頼られすぎてしまい、小さい頃の友奈が否定することができなかったら?という完全に作者の思いつきで書いてしまった話でした。
別に主人公は特別頭が良いとかそういう設定はありません。小さい頃から一緒にいたため、友奈が隠している心情に気づくことができました。
作中でもあるようにむしろ普段、学校や友達といる時は思ったことを感じたまま表に出したり馬鹿やってたりします。
友奈や家族などの前では無意識に気を使って頼りになるところを見せようとしたり、大人の対応をしようと頑張っていたりします。
子供が親の前ではかっこよくみせたいというあれです。
そういったところは後々の話で明かしていきたいと思います。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます!